• 検索結果がありません。

遺伝情報のダイナミズムとその分子機構

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "遺伝情報のダイナミズムとその分子機構"

Copied!
158
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

遺伝情報のダイナミズムとその分子機構

著者

東北大学遺伝生態研究センター

雑誌名

IGEシリーズ

29

ページ

1-149

発行年

2001-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/49114

(2)

Ⅲ6匿シリーズ望督*

遺伝情報のダイナミズムとその分子機構

東北大学遺伝生態研究センター

(3)

lGEシリーズの発刊にあたって

地球上の環境は,今,かつてない大きな問題に当

面しております。世界各地で進行している生態系の

急速な変化のなかには,人間生活に深刻な影響をも

たらす可能性のあるものが,多数含まれています。一

方,人間の活動が宇宙空間へと拡がるにつれ,地球

外生態系の構築が,新しい課題として登場しつつあ

ります。生態系の崩壊を防ぎ,より豊かな環境を創

造するための科学的努力が,今日ほど強く求められ

ている時はありません。

本研究センターは, DNA分子技術を中心に遺伝

子的段階にまで到達した生物研究の諸成果を生か

し,生態系における生物の生活を一層深く解明し,新

たな人間環境の創造に貢献することを目指しており

ます。いうまでもなく,この課題はきわめて学際的

であり,多分野の研究者との相互交流と強力によっ

て,はじめて達成されるものであります。本研究セ

ンターでは,ワークショップによる研究者間の討論

と意見交換を重視するとともに,その成果をより多

くの方々にご利用いただく出版活動にとり組んでお

り ます。ここに発刊しますIGE (Institute of GeneticEcologyの略)シリーズも,こうした努力の

(4)

一環で\あります。

本シリーズの内容は,多岐にわたる可能性をもっ

ておりますが, 3つのタイプに大きく類別されるだ ろうと考えております。すなわち, (i)特定のテー マ,又はトピックについての解明に関するもの(*印 を付します), (ii)特定のテーマ又はトピックに関

する最新の文献,実験法の紹介に重点をおくもの

(**印), (iii)新しい可能性を求める学際的交流, 対話を試みるもの(***印)であります。

このIGEシリーズが,多方面の方々のお役に少し

でも立つことを願って,発刊の辞とします。 2001年2月

東北大学遺伝生態研究センター

(5)

⑳目   次⑳ はじめに 津田 雅孝 残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態 永田 裕二 PCB分解細菌におけるPCB分解遺伝子の多様性 と線状プラスミド 福田 雅夫 難分解性芳香族炭水化物分解遺伝子群を担うトラン スポゾン 津田 雅孝・源河 浩之-・-・-・-・-・--- 25 ビフェニル/サリチル酸代謝遺伝子群をコードする 自己可動化因子bph-salエレメント 西  哲人・古川 謙介・-・・---・----・・・・-・ 微生物を用いた環境浄化一遺伝子配列より何が解 かるか? 渡辺 一哉・二又 裕之-・・---・---・ 病原性大腸菌ゲノムの多様性 一病原性大腸菌0157のゲノム解析から-林 哲也 腸球菌プラスミドの接合伝達: mating signalと受 容菌の役割 谷本 弘一 ブドウ球菌の二成分性白血球崩壊毒素のファージ変 換と遺伝子の獲得機構 金子 淳・神尾 好是・・・---・---・ 39 51 85 植物病原細菌による植物への信号伝達機構 露無 慎二・金森 裕之・Alfredo AImeida Gryciuku・石原 博通・内凹 しの---・- 95 植物防御遺伝子の発現調節機構と細菌病耐性植物の 分子育種の試み 井村 善之 イネ培養細胞におけるエリシター応答の分子機構 南 栄一 ウイルスに対する植物の応答反応の分子機構 江原 淑夫

(6)

イネ科植物におけるミトコンドリア型アルデヒド脱 水酵素(ALDH2)の役割

(7)

はじめに

津田雅孝

平成12年9月2ト22日の2日間, 「遺伝情報のダイナミズムとその分子 機構」というタイトルで平成12年度東北大学遺伝生態研究センターのワー クショップを開催いたしました。その時の先生方の御講演をまとめたもの が本冊子です。 この10年ほどの間に,様々な生物種の遺伝学的及び分子生物学的解析, そしてゲノム解析が格段に進み,その速度が今後飛躍的に加速することは 確実です。現在までに得られた研究成果はすでに膨大なものになっていま すが,細胞や個体をシステムとして捉えて,遺伝子のレベルから様々な生 物現象を包括的に追求することが可能になってきました。その結果として, 各生物が持つ遺伝情報は細胞内での構造的な可悪性と細胞間での水平伝播 を従来想定されていたよりも頻繁におこしていることが推定されていま す。また,環境変動やある生物単位が出すシグナルに対して他の生物が遺 伝子の包括的な発現制御を通じて応答・適応する遺伝情報の機能的ダイナ ミズムも明らかになりつつあります。 このような状況を鑑み,本ワークショップでは,遺伝情報の構造的ダイ ナミズムと機能的ダイナミズムの双方に関しての話題提供を企画しまし た。前者に関しては,広範な環境細菌種が持つ難分解性化合物分解遺伝子 の動態,特に再編成現象や多様化,水平伝播,そして当該遺伝子の拡散・ 流布や進化の機構と自然生態系での挙動を取り上げました。また,病原細 菌を対象にして,病原性関連形質をコードしているファージやプラスミド などの細胞間を渡り歩くことのできる可動遺伝因子や病原大腸菌のゲノム 構造を取り上げました。一方,遺伝情報の機能的ダイナミズムについては,

(8)

2 主として植物に焦点を当てました。ウイルスや植物病原細菌の植物への感 染は,双方にとっての劇的な環境変動であると捉えることができます。そ こで,このような「環境変動」時に,植物と病原体のそれぞれが示す包括 的な応答と,このような応答を司るシグナル伝達の分子機構に関する遺伝 子レベルからの研究を主に取り上げました。以上の内容を通じて,様々な 生物種の環境適応や進化に対する遺伝情報のダイナミズムの役割を理解 し,さらに,自然生態系での遺伝情報のダイナ/ミズム把握の糸口を見出そ うと意図しました。 生命科学諸分野での遺伝子レベルからの研究では,研究者自身の対象と している生物現象のみではなく,一見関連性のない他の生物現象の研究を も熟知しておくことが,自身の研究進展のブレークスルーに繋がることが 多くなりつつあります0本センターは「遺伝生態」という学際的な研究領 域の確立と進展を目指していることもあり,本ワークショップでは,環境 微生物学,.医学細菌学,微生物生態学,植物病理学,植物生理学,植物育 種学等の多方面での研究を取り上げました。 ご多忙中にもかかわらず,ワークショップの意図をご理解いただき,御 講演と本冊子の原稿執筆を御快諾していただきました先生方,ならびに ワークショップでの司会を引き受けていただきました本センターの塩月明 先生の御厚情に,この場を持ちまして御礼申し上げます。

(9)

残留性農薬の分解系酵素

遺伝子群とその動態

永田裕二

1.は じ め に 人類は様々な化合物を生み出し利用してきたが,一般に非天然化合物(ゼ ノバイオテイクス)の多くは,既存の環境中の物質循環には組み込まれに くく,環境中に放出されると,長期間分解されずに残留する。中でも有機 塩素化合物の多くは,変異原性に加えて内分泌かく乱作用を持つことが明 らかになっており,その環境汚染は早急な解決が要請されている現代社会 の深刻な問題のひとつである。一方,環境中に棲息する細菌・カビなどの 微生物の中には,環境全体からみれば微弱ながらも非天然化合物に対して も分解活性を示し,これらを炭素源・エネルギー源として利用できるもの も存在する。このような微生物の能力の本質を明らかにすることは,環境 浄化への利用という応用的な側面のみならず,微生物が如何にして新規化 合物に対する分解能力を獲得するのかという基礎学問的な側面からも重要 である。以上のような背景を踏まえて,著者らは環境中に長期間残留し,環 境汚染を引き起こしている人為起源の有機塩素化合物としてγ-hexach-lorocyclohexane (γ-HCH,別名γ-BHC, lindane)に注目し,その分解 菌が有する分解関与酵素群およびその遺伝子群の構造を分子生物学的・生 化学的なアプローチから明らかにするとともに,細菌の新規物質に対する 分解能力獲得機構についての考察を行った。詳細については他の総説1)ち 参照されたい。 東北大学・遺伝生態研究センター

(10)

4

2.残留性農薬γ-HCHおよびγ-HCH分解菌

γ-HCHは,第二次世界大戦前にアメリカで開発された, 1, 1,

1-trichlor-0-2, 2-bis (カーchloro-phenyl) ethane (DDT)と並ぶ代表的な人工の有機 塩素系殺虫剤である。その作用機構は, GABA (γ-aminobutyric acid)

receptorのブロックによって引き起こされるシナプス前膜からのアセチ ルコリンの異常放出であることが明らかになっヱいる。γ-HCHは,殺虫ス ペクトルの広さ;効力の高さに加え,安価であることから一般家庭から農 業まで広い範囲で使用されてきたが,その後,人体への蓄積性と有害性(変 異原性とガン原性の可能性)や環境中での残留性が指摘され, 1971年以降, 我が国では全面的に使用が禁止されている。他の先進諸国でも現在では使 用が禁止されているものの,イギリス・オランダなど過去に大量に使用し た地域では,依然残留汚染に悩まされている。また,インド・中国・旧ソ 連などの地域では主に経済的理由から現在でもその使用が続けられている ことに加えて,低緯度の熱帯地域で使用されたHCHのほとんどは上昇気 流に乗って大気中に拡散し,高緯度地域に降り注いでいることも明らかに なった。このように,現在でもHCHによる環境汚染は地球的規模で拡がっ ており,早急に解決しなければならない問題を提起している。 HCHには理論上8つの立体異性体が存在するが,工業原体に含まれる 割合が多いのはα-,β-, γ-, ♂一体である。このうち,実際に殺虫効果を持 つのはγ一体だけで, γ-体を99%以上の純度に精製した製品は特にリンデ ン(lindane)と呼ばれている。経済的に苦しい発展途上地域ではγ一体を精 製して利用するケースは希であり,化学合成した混合物をそのまま使用す ることが多い.そのため,環境中にもγ一体以外にα-,針,6一体が放出され, 環境汚染を引き起こしている。特にβ-体は塩素原子が全てユタアトリアル の位置に存在するために化学的に最も安定であり,環境中での残留性も高 い。すなわち,実際の環境浄化を考える場合にはこれらの異性体について も考慮する必要がある。環境中に放出されたγ-HCHは,嫌気的条件下で は,主にClostridium属細菌などの嫌気微生物の作用により比較的速やか に分解されるが,好気的な畑土壌では残留性が高いことが知られている。

(11)

残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態  5 以上のような背景のもと,東京大学農学部農芸化学科の旧土壌学研究室 において,農学部構内の試験圃場を利用し,毎年1回γ-HCHを散布して, 土壌での変動を追跡する実験が1974年より開始された。最初の2年間は γ-HCHの分解は観察されなかったが, 3年目より急激な分解が観察され, 12年目の土壌より集積培養,単コロニー分離によってγ-HCHを好気的条 件下で唯一の炭素源として生育するSphingomonas paucimobilis SS86が 分離された2)。本菌は比較的短期間でγ-HCH分解能を獲得した可能性が 考えられ,その分解代謝経路,および遺伝子構造に興味が持たれた。そこ で,著者らは本菌に遺伝子マーカーとしてナリジキシン酸耐性能を付与し た変異株UT263)を材料として,この菌の好気的条件下におけるγ-HCH 分解代謝経路についての解析を行った。

3. Sphingomonas paucimobilis UT26のγ-HCH分解代謝

経路

UT26によるγ-HCHの初期分解過程は電子捕獲型検出器(ECD)を備 えたガスクロで検出可能である3)。これまでに我々が明らかにしたUT26 のγ-HCHの分解代謝経路を図1に示す。本経路は, 3種類の脱塩素反応 (脱塩化水素反応,加水分解的脱塩素反応,還元的脱塩素反応)を伴ってシ クロヘキサン環から芳香環を形成し,ハイドロキノン型の物質が直接の環 開裂基質となって分解されていくという,ユニークなものであったo環開 裂に伴って脱塩素が起こる酸素添加反応も,広義の脱塩素反応であるとみ なすことができるため,これを加えると実に4種類のタイプの異なる脱塩 素反応がγ-HCHの分解代謝に関与していることになる。有機塩素化合物 の微生物分解の鍵反応となるのが脱塩素反応であることを考えると, UT26は,有機塩素化合物分解に関して多彩な能力を有しているといえよ う。 一万,本分解過程において, UT26中でそれ以上分解されないdead-end 産物(図1中4,6の物質)が生じることから,本分解経路は物質の効率的 利用という点では不完全な代謝経路であることも示唆された。実際, γ-IiCHを唯一の炭素源とした場合のUT26の生育は非常に悪く,代謝経路

(12)

:薮Acc.,o蓋Ee::]...碁C惨:: 友ヌ 7D「vV ヲ F'v FVBラ &DヲB て●C2一鉢'和一 :lcc.73:].T.7,-...31...-...-.-C'◎: u■一5- tbD c皿HQ"LAb'JADM' 啖4ィレΕ ノ+ カD3メ ク T

軍C.-

DowtLStreiLmPathway 佶ク謦メ 粐 Tゥ4)e牝ノH2 ュ(シ モ ヌR

・.山◎didC==

図1 Sphl'gomonas Paucimobilis UT26のγ-HCH推定分解経路

カッコ内の物質は不安定であり,直接の検出はできていない。物質名: 1,

_.γ-hexachlorocyclohexane (γ-HCH, γ-BHC, lindane) ; 2,

γ-penta-chlorocyclohexene ; 3, 1, 3, 4, 6-tetrachlor0-1, 4-cyclohexadiene ; 4,

1, 2, 4-trichlorobenzene ; 5, 2, 4, 5-trichlor0-2, 5-cyclohexadiene-ト

ol ; 6, 2, 5-dichlorophenol ; 7, 2, 5-dichlor0-2, 5-cyclohexadiene-1, 4-diol ; 8, 2, 5-dichlorohydroquinone ; 9, chlorohydroquinone ; 10・

hydroquinone ; ll, acylchloride ; 12, γ-hydroxymuconic semialde・ hyde (γ-HMSA) ; 13, maleylacetate ; 14, β-ketoadipate・

だけを取り上げても, UT26はγ-HCH分解に対して進化の途上であると 考えることもできる。

4. Sphingotnonas paucitnobilis UT26のrHCH分解代謝

関与遺伝子群

土壌細菌の遺伝子スクリーニングを行う際にしばしば宿主として用いら れるPseudomonas ♪utida PpYIOl中に作製したUT26のコスミドライブ ラリーより,目的の活性を示すクローンを高感度な電子捕獲型検出器を備

えたガスタロで選択するという方法4)を基本的に用いて, γ-HCHの分解

代謝に直接関与する5つの酵素遺伝子(linA, linB, linC, linD, linE)と,

(13)

残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態  7

表1. Sphingomonas pauL・imobilis UT26由来のγ-HCH分解関与遺伝子群

Nu%C,0,tlde RAF:J:Te "濫Iu蕎t Funcbon ELXnPE;160n

Ref--56 兆 50 46 割 0 -1   2   (ノー  つJ tJ   つJ 棚 8-8 7-0.0-8 附 卿 <  β  C a g  月

∵∵

防 0ノ  5  tJ 0 l  つJ 53 成 糾 引 00 6 CollStLtutl Ye       4 ConstltlJtJ Ye       5 Conshtutl Ve       6 InducLbLe       7 llducLbLc       8 り    UnpubllShed Data

pathway)に位置する遺伝子群(linA, linB, linC)はUT26のゲノムにお

いて,互いに離れた場所に存在し,オペロン構造をなさず,構成的に発現 していた4・5・6)。細菌の一連の代謝反応に関与する遺伝子群はオペロンを形 成し,共通の発現制御を受けているケースが多いことを考えると,UT26の γ-HCH分解の上流代謝系遺伝子群は,比較的特殊性が高い遺伝子構成で あるといえる。特に初発分解反応に関与する脱塩化水素酵素遺伝子(linA) は,既知の遺伝子と有意な相同性を示さず,起源が不明であることに加え て, G+C含量も他のIin遺伝子群,及びS. paucimobilisの標準株(650/o) と比べて顕著に低く(表1),極めて特殊性の高いものであると考えられる。 これに対して,下流代謝系(downstream pathway)の遺伝子群(linD, linE)は,共通の転写制御因子(LinR)の支配下にあるオペロンの一部と して存在し(図2),発現制御系を有するまでに確立された遺伝子であるこ とが示された7・8)0 以上の代謝に直接関与すーる遺伝子群の情報から, UT26のγ-HCH分解 能獲得機構として,次の仮説を考えている(図3)。まず,最初のγ-HCH という極めて特殊性が高いと思われる物質に対しては,外来の遺伝子を利 用し変換を行う。次に,最初の変換により比較的特殊性が低くなった物質 に対しては,この菌が元々有していた遺伝子をそのまま,あるいは,ある 程度改変することによって対応する。最終的には,上記の過程により,自 らが代謝能力を有する物質にまで変換し,元々有している遺伝子群をその

(14)

1kb

転車や軒

h :患£濫盟「訂憲t Funcbn・h-kqy・ 剛馴附馴…附則即悶朋 馴馴耶獅LQn別馴一郎… 紬卸鵬謝誹れ脚耶淋帥 個鰯珊瑚州閉脚㈹粥糾

仰雌紺地S仙雌雌!S 2.5JIchlort}hydrqtlhol1● rdLKdYo dddqen榊● (chh)ro) bydroquLrlOrU 1.21dhlXyOOm少 Lyd・type hn虻rlptblld rqtJbbr

urLknm (I-kddlpde肌OHKtOrbB hylhb80) urlboyTl (Cadbryl伽I

uTtkmvn tSChbrcr1 A4・TTIB dkbTorh叫 LJnkrpwrl (yAnlHh derrdylpe rdLICt∬0 8uhTIKJ unboyTl (Arc / XylS bnlLy hn軒rlptlortd rquldor) Llnknoyrl tVAIIIllde derTdhyl●沖OXyPMHBe 8ubtJrLrq

LlrLbown tpedcln recePor)

図2 linD, linE遺伝子を含むオペロンの遺伝子構成

。rf6は,塩基配列を決定した領域で終了していないため,決定した範囲で の相同性を示した。

図3 Sphigomonas Paucimobilis UT26のγ-HCH分解能獲得機構の仮説

まま利用して代謝を行う。以上のような代謝系は,いわば進化の途上であ

ると考えることもでき, γ-HCHの分解代謝という点において適応が進め

ば,より確立された遺伝子構成に変化していく可能性もあるo

(15)

残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態  9 に,他の芳香族化合物を分解するのに必要な複数のオペロンを構成する遺 伝子産物を巧みに組み合わせて利用する場合があるという点を無視するわ けにはいかない。すなわち, Sphingomonas属細菌は,元々,遺伝子構成, 発現制御に関して,確立の程度が低い代わりに柔軟性を持っており,その ことが酸化能力に長けたPseudomonas属細菌などに比べてち,より多様 な化合物に対する代謝能を有している理由のひとつであると考えることも できる。

5. Sphingomonas paucimobilis UT26のγ-HCH分解代謝

関与酵素群

(1) γ-HCH dehydrochlorinase (LinA)

大腸菌中で大量発現し,精製したLinAは, γ一HCHおよびその関連化合 物に対してのみ活性を示し, LinAの基質特異性がかなり狭いことが示さ れた9)。同時に, β一体に対しては活性を示さず,基質とする物質が全て塩素

と水素のtrans anddiaxial (TD) pairを有することから, LinAがこの立

体構造を認識していることが予想された10)。その後,我々は代謝産物の詳細 な解析により,確かにLinAは基質のTDpairに対して脱塩化水素反応を 行っていることを確認した11)0 脱塩化水素酵素は,基質分子からHClを取り除き,炭素二重結合を導入 する反応を触媒する酵素であるが,報告例がLinAを含めて3例しかなく, 極めて特殊性の高い酵素である。イエバエ(Musca domestica)由来のDDT

dehydrochlorinaseと, P. puiida由来の31ChloroID-alanine dehydroch-lorinaseは,それぞれ, glutathione (GSH), pyridoxa1 5′-phospahte (PLP)を反応に必要とす8/が, LinAはこのような補因子を必要とせず,タ イプの異なる酵素であると考えられる9)0

最近,コンピューター解析により, LinAが,一次配列上は保存されてい ないが立体構造が類似しているファミリー12)の一員であることが明らか になった。このファミリーには既に実験的に立体構造が解かれている

scytalone dehydratrase, steroid A-isomerase, nuclear transport factor 2, naphthalene 1, 2-dioxygenaseのβ-subunitが含まれるが,これらは,そ

(16)

10 れぞれ異なる機能を持つ。ホモロジーモデリングにより予測したLinAの 立体構造モデルに基づき,部位指定変異導入実験を行ったところ,モデル の正当性が確認されると共に, LinAの活性にはAsp25とHis73のペアに よるプロトンの引き抜きが必須であることが明らかになった。このAsp-Hisのペアによるプロトンの引き抜きはscytalone dehydrataseの活性に も必須であり, LinAが脱水酵素(H-OHを引き抜く)から脱塩化水素酵素 (IIIClを引き抜く)に進化したものである可台副生が強く示唆された。この 例のように, -'次配列上の有意な相同性が維持されておらず,いわゆる系 統樹を描くことはできないタンパク質同士でも,比較的複雑な立体構造上 の相同性が維持されている場合には,何らかの進化的関係が存在するもの とみなすことができる。現在,多くのタンパク質の立体構造が実験的に決 定されていることに加えて,いわゆるコンピューターモデリングの技術も 盛んに用いられるようになってきており,今後,立体構造を考慮した進化 的考察は,・益々重要性を増してくるものと考えられる。 一万,我々が単離したIinAの情報を元に,linAのホモログがフランスと インドで単離されている。フランスでPCRにより新規のγ-HCH分解菌 より単離されたIinAホモログはIinAと全く同一のものであった13)。他の 難分解性物質分解遺伝子にもみられる現象であるが,こうした比較的特殊 性が高いと思われる遺伝子が,かなりの地理的距離を隔てて全く同じ遺伝 子として存在していることは,その起源を考える上でも興味深い。一方,イ ンドで/inAをプローブとして単離されたものは,全く同一ではなく,アミ ノ酸レベルで90.4%の相同性を示した(R.Lal私信)。この遺伝子はβ一体 をも分解できる菌株から単離されたものであり,その蛋白質産物が我々の LinAと異なりβ一体をも変換できる可能性が示唆されている。 (2) 1, 4-TCDN halidohydrolase (LinB)

LinBは既知のα/P-hydrolase fold enzymesと呼ばれる一群の加水分

解酵素と有意な相同性を示し,中でも加水分解的ハロアルカン脱ハロゲン 酵素と比較的高い相同性(29.3%)を示す5)。実際,精製したLinBは様々 なハロアルカン類を基質とし, LinBが基質特異性の広いハロアルカン脱 ハロゲン酵素の一員であることが明らかになった14)。現在, LinBを含めて

(17)

残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態 11

基質特異性の異なる3種類のハロアルカン脱ハロゲン酵素の解析が進めら れているo LinBが比較的長鎖の基質を好むのに対して, Xanthobacter

autotrophicus GJIO由来のDhlAは,短鎖の基質を好む。 Rhodococcus由来

のDhaAは, LinB同様,長鎖の基質を好むが,特異性が微妙に異なる。こ れらのハロアルカン脱ハロゲン酵素は,酵素の構造・機能相関の研究に適 した材料であると考えられ,著者らのグループはLinBについての蛋白質 工学的研究を行っている. α/針hydrolaseファミリーに属する酵素は, nu-cleophile-histidine-acidからなるcatalytic triadが活性に必要であるた め,まず,ホモロジーモデリングと部位指定変異導入実験により, D108, H272, E132がLinBのcatalytic triadであることを明らかにした15)。更 に,結晶化および立体構造の解明に成功し, LinBが立体構造が決定してい る既知のハロアルカンデハロゲナ-ゼ, DhlA, DhaAと比較して,特徴的 な活性中心ポケット,及び酵素の表層からそこへ至る通路の構造をしてい ることを明らかにした16)。これら3種類のハロアルカン脱ハロゲン酵素

DhlA, DhaA, LinBの基質特異性の違いは,立体構造からも説明が付き17),

今後の理論に基づいた基質特異性の改変・新規能力の付与にも期待が持た

れる。

(3) 2, 5-DDOL dehydrogenase, (Lin°)

LinCはアミノ酸配列上, shorトchain alcohol dehydrogenaseと呼ばれ

る脱水素酵素の一員であり,反応に重要なアミノ酸残基も保存されている ことから,他の構成員同様NAD+依存的な脱水反応を触媒すると考えられ る6)。このタイプの脱水酵素は互いに30%前後の相同性を示し,細菌から 高等真核生物まで広く生物間で保存されている。本酵素活性は,生物が元々 ポテンシャルとして有しており,様々な代謝系において基質特異性を変え ることによって,つなぎの役割を果たしているようである。 一方, linC遺伝子以外に,大腸菌中で発現させるとLinC活性を示す遺 伝子(linX)が, linAの上流に存在することが明らかになった(図4)6)。更 におもしろいことに, linXとIinAの間に存在する領域もORFとしては 不完全であるが, DNAレベルでIinXと高い相同性(69%)を示す。 UT26 中では, γ-HCHの代謝の際にIinXは発現していないが, LinC活性のポ

(18)

12

-a5-- -I-:,:ttl=t -=Lp:i-_:A-,:I-1享: :-_ :Lキ-:LL.I a 蒜.■ - 蒜P-IT oLbp) 2.0       3.0       4.0       5.0 0        1.0 50.1 G+C colltent (%)

^^偏れ山肌./ 剌辮蜷

rTTTIY 决VIY

-■■■■ll■- 血∬0肌▼ - 血一一 (5IJ≠)(`lJI%) 53JI%)(一●5%) 1     111    1321   19B1    2∼1    3301 fbp) 図4 linA周辺領域の制限酵素地図(a)およびG+C含量(b)

(a) P。RFUP: ORFUPの推定プロモーター領域, PL,nA: linAの推定プロ モーター領域, T: linAの推定ターミネーター。 (b) G+C含量の分布

図は, GENETYX-Mac version 8.0を用いて, Average span 50で描

画した。 IinAのコーディング領域のみが周辺領域に比べてG+C含量が 低いのがわかる。 テンシャ)I,を持つ遺伝子が, linAの近傍に存在することは興味深い。 γ-HCH代謝に関する適応が進めば,やがてこのような遺伝子がIinAと共に オペロンとして共通の発現制御を受けて, γ-HCH代謝に関与するように なる可能性もあるのではないかと考えている。

(4) 2, 51DCHQ reductive dechlorinase (LinD)

LinDは還元的脱塩素酵素であり,細菌由来のクラスthetaのGSH S-transferase (GST)と低い相同性を示す7)0 GSTは4つのクラス(alpha, beta,pi,theta)に分類されており,細菌由来の既知のGSでは全てクラス thetaに分類される。実際, LinDを高発現させた大腸菌の粗酵素抽出液に GSHを添加すると活性が上昇することから, LinDもGSTの一員である と考えられる7)。

最近, LinDは, pentachlorophenol (PCP)分解に関与するS.

chloy10-Phenolica由来のPcpCなどと共に,生物界に広く存在するチロシンの分解

(19)

残留性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態 13 能性が指摘された18)0 (5) CHQ 1, 2-dioxygenase (LinE) LinEは,既知のメタ開裂酵素群と極めて低いレベルの相同性を示す8)0 ただし,それらが芳香環のオルト位の水酸基を認識し,反応を行うのに対 して, LinEはパラ位の水酸基を認識し環開裂を行う。 LinEを高発現させ た大腸菌の粗酵素抽出液を用いて, LinEの基質特異性を検討したところ, 代表的なメタ開裂酵素であるXylEが,カテコール系の基質に対してのみ 活性を示すのに対して,LinEはハイドロキノン系の基質に対してのみ活性 を示した8)。このことは, LinEが新規の環開裂酵素であることを示してい る。 ハイドロキノン型の化合物を直接の基質とする環開裂酵素の遺伝子レベ

ルでの報告例はLinEが最初であるが, LinEと相同性を示すS.

chloro-phenolica由来のpentachlorophenol (PCP)分解に関与する酵素PcpAも LinEと同様の環開裂活性を持つことを我々と他のグループが明らかにし ており19),ハイドロキノン型物質を直接の環開裂基質とする微生物につい ての報告例と併せて,自然界ではハイドロキノン経路も,研究例の多いカ テコール経路と共に芳香族化合物の主要代謝経路のひとつであると思われ る。 IinE遺伝子の発現制御機構が存在することも,この経路が自然界で主 要経路であることを支持する証拠であると考えている。 また, LinEとPcpAは, P.putidaGJ31由来のCbzEと共に,水酸基と 塩素基の間での環開裂反応を効率よく行う報告例の少ない酵素でもあ る20)。 3-タロロカテコールをcatecho1 2,31dioxygenaseと反応させた場 合,通常の酵素では,反応性の高い反応産物のacylchlori.de (図1の物質 ll)が酵素を不活化させて1,まい,それ以上反応が進まないが, CbzEは, これに対する耐性能を有しており,反応を効率的に進めることができる。耐 性機構の詳細は不明であるが,これらの酵素が他の酵素と異なり, acylch-lorideの加水分解を積極的に行う機構を活性中心に有している可能性も指 摘されている20)0 (6) LimR LinRは, LysR-typeの転写活性化因子(LTTR)21)と有意な相同性を示

(20)

14 す。 LTTRは,カテコール,ナフタレン,クロロカテコールなどの芳香族 化合物の代謝にも関与しており,細菌の主要制御因子ファミリーのひとつ である。 LTTRの認識配列のコンセンサスであるTNllA回文配列は, linE遺伝子上流にも存在する。レポーターにIacZ遺伝子を用いた大腸菌 の実験系により, LinRは, 2,5-DCHQ,CHQを認識し, linE遺伝子上流 のTNllA回文配列を含む領域のプロモーター活性を上昇させることが明 らかになった。

6.遺伝子動態の観点から興味が持たれる点と今後の展望

以上,著者らのグループが現在までに明らかにしたUT26のγ-HCH代 謝経路,および代謝に関与する酵素・遺伝子の特徴について述べてきたが, 遺伝子動態の観点から興味が持たれる点がいくつか挙げられる。 前述のように, γ-HCHの初発分解反応を触媒する酵素LinAは, FAST やBLAST.などの通常の一次配列情報を元にしたデータベース検索では, 有意な相同性を示すアミノ酸配列が検出されないが,立体構造に基づいた 情報より, LinAがある種の脱水酵素から進化したものである可能性が示 唆された。しかし,直接の起源となる酵素(遺伝子)は,未だ明らかでな い。また, linA遺伝子はG+C含量やコドン使用頻度から,比較的最近, UT26のゲノムに導入された遺伝子であると考えられている。 IinA同様 に,難分解性物質分解遺伝子が宿主ゲノムと異なるG+C含量を示す例は いくつか報告されているが,いずれも,近接した領域も当該遺伝子と同程 度のG+C含量を示し,プラスミド,トランスポゾンなどを介して,比較的 広い領域で移動した痕跡が見られる。これに対してIinAは,近接領域はS. paucimobilisのゲノムとして平均的な値(約600/.)を示すため(図4b),プ ラスミドやトランスポゾンなどで周辺領域と共に導入された遺伝子ではな く,何らかの別の機構で単独でUT26のゲノムに飛び込んだものであると 推測される。以上のようなIinA遺伝子の特殊性を考えると, linAの直接の 起源,およびUT26への導入機構を明らかにすることは,環境中の遺伝子 動態に関して新たな知見を加えるものと期待できる。

(21)

残酔性農薬の分解系酵素遺伝子群とその動態 15 をなしておらず, UT26ゲノム上の互いに離れた位置に存在し,それぞれ構 成的に発現している。栄養源に富む培地とγ-HCHのみを炭素源とした培 地との間で継代培養を繰り返した際に,上流代謝系遺伝子の構成,相対的 位置関係がどのように変化するかを追跡することは興味深いo linAの近傍 には既にLinC活性のポテンシャルを有する遺伝子が存在しており,培養 を繰り返すことによって,こうした遺伝子が機能し始め,更に発現制御系 を備えたオペロンに進化する可能性も考えられる。すなわち,オペロンの 形成過程をモニターするための良い材料となる可能性もある。 以上, UT26のγ-HCH分解代謝系は,既に多くの研究の蓄積のある人 為起源の難分解性物質分解遺伝子群の中でもとりわけ特殊な構成をしてお り,本系を利用して,遺伝生態的な観点から,細胞内・細胞間の遺伝子動 態の研究系を確立することは,きわめて有意義であろう。 参考文献

1) Nagata, Y., Miyauchi, K., andTakagi, M. (1999) J. IndustialMicrobio1-ogy & BiotechnolIndustialMicrobio1-ogy 23 : 380-390

2) Senoo, K, and Wada, H. (1989) Soil S°i. Plant Nutr. 35: 79=87

3) Imai, R., Nagata, Y., Senoo, K., Wada, fI., Fukuda, M., Takagi, M., and

Yano, K. (1989) Agric Biol. Chem. 53: 2015-2017

4) Imai, R., Nagata, Y= Fukuda, M, Takagi, M,, alld Yano, K. (1991) J.

Bacteriol. 173 681ト6H19

5) Nagata, Y, Nariya, T, OhtonlO, R., Fukuda, M , Yano, K., and Takagi, M. (1993) J. Bacteriol. 175: 6403-6410

6) Nagata, Y., Ohtomo, R., Miyauchi, K., Fukuda, M., Yan°, K., and Takagi,

M. (1994) J. Bacteri()1. 176: 3117-3125

7) Miyauchi, K., Sub, S.-K., Nagata, Y., and Takagi, M (1998) ∫.

Bacter-i()I. 18() : 1354-1359

8) Miyauchi, K., Adachi, Y., Nagata, Y., and Takagi, M. (1999) I.

Iiacter-iol. 181 : 6712-6719

9) Nagata, Y., Hatta, T, Imai, R., Kimbara, K., Fukuda, M,, Yan°, K., and

Takagi, M. (1993) Biosci. Biotech. Biochem. 57: 1582-1583

10) Nagasawa, S., Kikuchi, R., Nagata, Y., Takagi, M., and Matsuo, M. (1993) Chemosphere 26: 1187-1201

ll) Trantirek, L, Iiynkova, K, Nagata, Y., Murzill, AG., Ansorgova, A., Sklenar, V., and Damborsky, J. (2001) I. Biol. Chem. in press

(22)

16

12) Murzin, A.G. (1998) Current Opinion in Structural I3iology 8: 380-387

13) Thomas, J.一CH Berger, F., Jacquier, M., Bernillon, D= Baud-Grasset, F=

Truffaut, N., Normand, P., Vogel, T. M., and Simonet, P. (1996) J. Bacteriol. 178 : 6049-6055

14) Nagata, YリMiyauchi, K., Damborsky, J., Manova, K., Ansorgova, A., and Takagi, M. (1997) Appl. Environ. Micobiol. 63二3707-3710

15) ⅠIynkova, K., Nagata, Y., Takagi, M., andDamborsky,∫. (1999) FEBS

letters 446 : 177-181

16) Marek, J., Vevodova, J., Smatanova, I.K., Nagata, Y., Svensson, LA"

Newman, JリTakagi, M., and Damborsky, J. (2000) Biochemistry 39: 14082-14086

17) Damborsky, J., and Koca, J. (1999) Protein Eng. 12: 989-998

18) Copley, S.D. (2000) Trends Biochem. S°i. 25: 261-265

19) Ohtsubo, Y., Miyauchi, K., Kanda, K., Hatta, T,, Kiyohara, H., Senda, T., Nagata, Y., Mitsui, Y., andTakagi, M. (1999) FEBS Lett. 459: 395-398

20) van Hylckama Vlieg, ∫ E., Poelarends, GJ., Mars, A.E., and Janssen, D.

(2000) Curr. Opin. Micrnbiol. 3: 257-262

(23)

PCB分解細菌におけるPCB分解

遺伝子の多様性と線状プラスミド

福田雅夫

1. PCB分解遺伝子の多様性 Rhodococcus sp. RHAl株はポリ塩化ビフェニル(PCB)を効率的に分 解できるグラム陽性細菌で,細胞表層にミコール酸を含む放線菌群に属す る。好気性細菌におけるPCBの分解は,ビフェニル分解酵素系による共代 謝(C0-metabolism)によりおこなわれ,ビフェニルによって分解能が誘導

される(図1)0 PCBはbiphenyl dioxygenase (BphA)による水酸化と, dehydrogenase (BphB)の作用の結果ジオール体となり, 2, 3-dihydrox-ybiphenyl dioxygenase (BphC)による芳香環開裂とhydrolase (BphD)

による側鎖切断を経て,安息香酸と脂肪酸を生じる。これらの産物はさら に代謝されてTCA回路に組み込まれていく。

我々はBphAの4つのサブユニットをコードするbphAIA2A3A4なら びにbphB, bphC, bphDの各酵素遺伝子をRHAlからクローニングし,そ の遺伝子構造と機能を明らかにしてきたl・2)。その過程でbphAlには3種

類(bphAl, etbAl, edbAl), bphBには2種類(bphB, bphB2), bphCには 7種類(bphC, etbC, bphC2, bphC3, bphC4, bphC5, bphC6), bphDには4 種類(bphD, bphD2, etbDl, etbD2)の互いに相同性を持つ類縁酵素(ア イソザイム)遺伝子が存在することを兄い出した(図1)。これらのアイソ ザイム遺伝子の転写誘導性を調べたところ, bphA, bphB, bphDの関連酵 素遺伝子ではすべてのアイソザイム遺伝子の転写がビフェニルで誘導され 長岡技術科学大学・工学部

(24)

18

匪雛紛威信-C"H・=Hfc}C 。.

b-    即諾粁y一 〝悪評● 2甥謡..I.7T

桝鉦三滴臣巨歩,

@  pRHLl (1,100 kb)

篭朝野二三,

直参, 。 -皿暫 砂 chrom。80m。 図1 RHAl株のPCB分解辞素系遺伝子の多様性と線状プラスミドの分布 上段の色分けされた各ステップに対応する関連分解酵素遺伝子を同色に て,分布する線状プラスミドの枠中に示したo分解酵素遺伝子: bPhAlと

妙A2, biphenyl dioxygenaseの大小末端dioxygenaseサブユニット遺

伝子; bPhA3とbphA4, biphenyl dioxygenaseのferredoxin及びfer・

redoxin reductaseサブユニット遺伝子; etbAlとetbA2, bPhAlと

bphA2の相同遺伝子; ebdAl∼ebdA3, bPhAl∼bphA3の相同遺伝子; bbhBと砂hB2 : dihydrodiol dehydrogenase遺伝子及びその相同遺伝

子; bPhC, 2, 3-dihydroxybihenyl dioxygenase遺伝子; etbCとbphC2

-bphC6, bZ)hCの相同遺伝子; bphDとbphD2,メタ開裂物質 hydrolase遺伝子及びその相同遺伝子; etbDlとetbD2, bZ)hDの相同遺 伝子。 た3)。またbphCの関連酵素遺伝子ではbphC, etbC, bphC5の転写がビフェ ニルで誘導された。したがって,RHAlがPCBを分解する際には各ステッ プについて2-4種類の特性の異なるアイソザイムが誘導されていると考 えられ,複数のアイソザイムがはたらくことが,RHAlのPCB分解能を高 めている可能性が想像される4)。

2.線状プラスミド

RHAlの菌体をアガロース中に封じたまま溶菌させ,パルスフィールド ゲル電気泳動(PFGE)にかけたところ3本の線状プラスミドが兄い出され た2)。Sbcchwomyces酵母染色体DNAをマーカーとしてサイズを調べた結

(25)

pcB分解細菌におけるPCB分解遺伝子の多様性と線状プラスミド 19

果,それぞれ1,100kb (pRHLl), 450kb (pRHL2), 330kb (pRHL3)と

推定された。前述の各アイソザイム遺伝子をプローブとしてPFGEで分離 したプラスミドDNAに対してサザ-ンハイプリグイゼ-ションをおこな い,各遺伝子のプラスミドへの分布を調べたところ, bphA, bphB, bphCと

etbDlはpRHLlに, etbA, edbA, etbC,砂hB2, bphC2, bt,hC4と砂hD,

etbD2はpRHL2に分布していることが明らかとなった(図1). bphC3, bphC5, bphC6とetbDlは泳動の起点付近にとどまっており,染色体DNA 上に分布していると結論された。グラム陰性細菌ではカンファー,オクタ ン,トルエン,ナフタレンなどの分解酵素系について分解酵素遺伝子が接 合伝達能を持つ環状プラスミドにコードされていることが,知られている。 これらは分解系プラスミドと呼ばれており,分解酵素系の伝播と進化に関 わりがあると考えられている。そこでRHAlの線状プラスミドpRHL2に ついて接合伝達能を検討した。 bphACB遺伝子領域が欠失したpRHLlの 変異体pRHL1-1を持つRCAl株とpRHL2が欠失したカナマイシン耐 Bph+  RI払1 Conjuga nt 図2 RCAlからRD05へのpRHL2の接合伝達(イメージ図) 各細胞を灰色の枠で示し,染色休は示していない。 Bph十はビフェニルで の生育能を, KmRはカナマイシン耐性を示す。

(26)

20 性変異株RDO5株をメンブレンフィルター上で接合させたところ,カナマ イシンを含む無機培地でビフェニルを炭素源として生育する接合伝達体が 得られた(図2)。RCAlとRD05はいずれもビフェニルで生育しないこと, カナマイシン耐性はRDO5株の形質であることから,RCAlからRD05に pRHL2が接合伝達したと結論された。実際に接合伝達体はすべてpRHL2 を獲得しており,野生型のpRHLlも有していた。接合伝達頻度は受容菌

(RDO5)あたり8.0×10-5であった. RhodococJuS eYythropolis TA421や

R. e7ythropolis 'BD2においても分解酵素遺伝子が線状プラスミドにコー

ドされていることが報告されており5・6),線状プラスミドが分解遺伝子の伝 播や進化に関わっていることが想像される。

3. pRHL2プラスミドの構造

これまでさまざまな細菌で線状DNA分子が報告されている。それらの

大半は末端配列に逆方向反復配列(Inverted repeat, IR)を含み平滑末端 を持つ,インバートロンと呼ばれる分子である7・8)。一方, Bor71eliaでは末

端の5'末と3'末が結合したヘアーピン型末端を持つ線状DNA分子が報 告されている9)。そこでRHAlの線状プラスミドの中で最も多くの分解遺 伝子をコードするpRHL2について,分子構造を調べた。まず末端DNA領 域を把握するため全体の制限酵素地図を作成した。 PFGEで分離した pRHL2をAPII, AseI, HpaIでそれぞれ切断した断片について,各断片同 士でサザ-ンハイプリダイゼ-ションをおこない,断片の配置を決定した。 この方法で配置が決まらない領域は,その領域をクローニングして解析し, 配置を決定した。例えばAseIの5番目の断片(A5)がAjlIIの2番目(F2) と3番目(F3)の断片にハイプリグイズするのでF2とF3が並んでいるこ とが,A2がFlとF2にハイプリグイズするのでFlとF2が並んでいるこ とが推定された。同様にH5,Hl,H2,H7,H4をプローブとした結果から, A5-A1-A2-A3-A4-A6/A7の順に並んでいることが示唆された。サブク ローンpHP55-9の制限酵素解析からA4-A6-A7の順序が決定された。ま たH3, H12, Hll/H6, H13/HIOはそれぞれAl, A2,A3,A4としかハイブ リダイズせず,後者の各断片に含まれていることが示唆された。このこと

(27)

pcB分解細菌におけるPCB分解遺伝子の多様性と線状プラスミド 21 から, H5-H3-Hl, Hl-H12lH2, H2-Hll/H6-H7, H7-H13/HIOIH4の順 番が推定された。この結果とAseIの断片の順番を組み合わせて考えた結 果, H8/H9-H5-H3-H12-班ll/H6-H7-H13/H10-H4の順番を推定した。 H8/H9, Hll/H6, H13/HIOの順番はサブクローンpAS35-16, pHP80-3, pHP55-16などの制限酵素解析により決定され,図3に示した制限酵素地 図が完成した。得られた制限酵素地図から,両末端断片が判明した。また 分解酵素遺伝子の多くが限られた領域にかたまって存在していることも明 らかになった。 放線菌の線状プラスミドは平滑末端を持つことが知られている。そこで pRHL2も平滑末端を持つと想定して末端配列のクローニングを試みた。 pRHL2をPstIで切断し, PstIと平滑末端を生じるSmaIで切断したベク ターDNAに連結して形質転換体を選択した。得られた形質転換体の挿入 断片をプローブとしてpRHL2のAseIおよびHpaI断片に対してサザ-ンハイプリグイゼ-ションをおこない,末端DNA断片を含むpTPS3と pTPS4を取得した。 pTPS3はA7, H4断片に, pTPS4はA5, H8断片に ハイプリグイズし,それぞれ制限酵素地図の右端と左端を含むことが判明 した。この結果からpRHL2の末端が平滑末端であることが示唆された。 pTPS3とpTPS4のDNAシーケンスを決定したところ(図4),左右の末 端はRhodococcus opacus MR11の線状プラスミドpHG201の左右末端と Ieftend o    50   100  150   200   250   300 right etLd 350   仙   4SO Lb .JITM tn2Jh 岩 HuF21-I

毎. -ト一・・・.・.」 pm 図3 pRHL2の制限酵素地図 分解酵素遺伝子の配置を中段に示した。下段の横線は各サブクローンに 含まれる領域を示す。

(28)

22 pHGZln Lh-ptJtu Lad paw rtEbl ed pFlG201 rbPI -3・叫terndnd

irrverted repeat ned repepe!

====コ  ⊂ = bTVertOd repcJt bTVerted reFN!Zt ニ   ー= ・一一・・・・・・1■  ●一一一一一 bweTted rpt 図4 pRHL2の末端配列 相同性の高いpHG201の末端配列と並べて示しており,左側が末端で ある。 それぞれ96%, 84%と高い相同性を持つことが明らかになった10)。また pHG201と同様にGCTXCGCの中央配列を持つ逆方向反復配列(IR)が両 末端で認められた。これまでに解析された放線菌の線状DNA分子の両末 端には100bpを越える配列の重複が認められている。しかしpRHL2の末 端配列の重複はpHG201と同じく3bpのみで,末端配列の長い重複は線 状DNAの維持に必須ではない可能性が示唆された。 放線菌の線状DNAでは末端への蛋白の結合が報告されている7)0 PFGE において蛋白の結合した巨大DNAはゲル中に侵入することができず,泳 動の原点にとどまる。そこでプロテアーゼ(proteinase-K)を使用しない で調製したRHAlのDNAをPFGEにかけたところ,予想通り移動せず に泳動の原点にとどまった(図5A)。放線菌の線状プラスミドではSDS存 在下で蛋白の結合したDNAが電気泳動で移動することが報告されてい る11)。そこでプロテアーゼを使用せずに調製したRHAlのDNAを0.2% SDS存在下でPFGEにかけた。各プラスミドはプロテアーゼ処理して調 製したDNAと同様に移動した。次に蛋白の結合している部位を確かめる ため,プロテアーゼを使用せずに調製したRHAlのDNAをAseIや HpaIで切断した後, PFGEにかけた(図5B)。 pRHL2の末端を含むA5, A7, H4, H8の断片をプローブとしてサザ-ンハイブリダイゼ-ションを おこなったところ,末端DNAプローブはいずれも泳動の原点にハイプリ グイズし,末端DNA領域が泳動の原点にとどまっていることが示唆され た(図5C/D)。一方,プロテアーゼを用いて調製したDNAでは,末端DNA プローブは予想される泳動位置にハイプリダイズした。以上の結果から

(29)

pRHL2の末端に蛋白が結合していることが強く示唆された。プロテア-pcB分解細菌におけるPCB分解遺伝子の多様性と線状プラスミド 23

(A)        tB)      (C)     (D)

Rc8tdctJor. fraBmentB Ftc6trfctZon f'qmenb Prob=right end probpleft end

(N: You cl1 rOmO80mOI Asol FIpal ASd Npal Asel Hpal

LAl:九lJdder +川hdllI.小RHL2 bDmOnt,1 pRHLl13 frqmen叫

図5 プロテアーゼを使用しないで調製した線状プラスミド(A)および制限 酵素断片(B)のPFGEとサザ-ンハイプリグイゼ-ション(C,D) プロテアーゼの使用の有無を上段に+,-で示した。Mは分子量マーカー。 (C)は右端, (D)は左端をプローブとしたハイプリダイゼ-ションの結果 で, pRHL2由来のシグナ/レを黒三角で, pRHL2以外の由来のシグナル を自三角で示した。 ゼを用いて調製したDNAのハイプリグイゼ-ションでは,右末端のプ ローブ(A7,H4)についてマイナーなバンドが認められており,・-これらは pRHL2の右末端がpRHLlやpRHL3の末端と相同性を持つことを示唆 する結果と考えられる。 ま と め 以上に述べたように, RHAlの巨大線状プラスミドは多くの分解酵素遺 伝子をコードし,接合伝達能を持つことから,菌株間の分解酵素遺伝子の やり取りを仲介して新たな分解酵素系の進化に関与してきたものと想像さ れる。また,pRHL2で示唆されたように, (1)平滑末端を持ち, (2)末端 配列に逆方向反復配列(IR)を含み, (3)末端に蛋白が結合していること から,いわゆるインバートロン型の線状DNA分子と推定される。 参考文献

(30)

24

Yano K., 1995, Appl Enivron. Micr。bi。1., 61 : 2079-2085.

2) Masai E, Sugiyama N., Iwashita N= Shimizu S., Healy J,M., Hatta T.,

Kimbara K., Yano K., Fukuda M., 1997, Gene, 187 : 141149.

3) Yamada A., Kishi H., Sugiyama N= Hatta T., Nakamura K., Masai E., Fukuda M,, 1998, Appl. Enivron. Microbio1., 64 : 2006-2012.

4)福田雅夫,千田俊哉,政井英司,三井幸雄, 2000,蛋白質核酸酵素, 45.

1339-1349.

5) Dabrock B., Kesseler M. AverhoffB , Gottschalk G., 1994, AppI Enivron. Microbio1., 60 : 853-860.

6) Kosono S,, Maeda M" Fuji F" Arai H" Kudo T., 1997, Appl. Enivr。n. Microbio1., 63 : 3282-3285.

7) Sakaguchi K., 1990, Microbiol. Rev., 54 : 66174.

8) Hirochika H., Sakaguchi K., 1993, Mol. Microbio1., 10: 917-922.

9) Hinnebush I., Bergstrom S., Barbour A.G., 1990, Mol. Microbiolリ4 :

811-820.

10) Kalkus J., Menne R., Reh M" Schlegel H.G, 1998, Microbiology, 144:

1271-1279.

(31)

難分解性芳香族炭水化物分解遺伝子

群を担うトランスポゾン

津田雅孝・源河浩之

1.は じ め に 様々な難分解性化合物を炭素源やエネルギー源にする生物種が自然界に は広範に棲息する。これら化合物の中でも難分解性芳香族炭水化物の微生 物分解は,生化学的にも分子遺伝学的にも詳細な研究が進められてきた。遺 伝子群の構造や塩基配列が極めて高い相同性を示し,明らかに進化的祖先 を共通にする分解遺伝子群が,進化系統的には類縁性が低い様々の細菌種 の染色体や巨大プラスミド上に存在する。また,これらの分解系遺伝子群 は多様な再編成現象を示す特徴も備えている。とりわけ,当該遺伝子群が 巨大プラスミド上に存在するときには,分解遺伝子群を含むDNA領域の 欠矢や重複,逆位,他のレプリコンとの融合,他のレプリコンへの挿入な どの大規模な再編成現象を容易に検出できる。このような現象は,特に分 解遺伝子群を持つ細菌に負荷を与え,分解能が質的または量的に拡大した 誘導体株を取得したときに高頻度で認められることから,分解菌がもつ分 解能の迅速な環境適応や進化には,当該遺伝子群の再編成現象が大きく貢 献すると想定されている1-3)。共通の進化的祖先を持つ分解遺伝子群の広範 な細菌種でのこのような流布や動的挙動は,病原細菌での耐性遺伝子や病 原性関連遺伝子のそれらと酷似している4,5)。病原細菌が持つこれら遺伝子 は,トランスポゾンやインテグロン,病原性アイランド等の自己複製能を 持たない「寄生性」の可動遺伝因子に担われることが多い6 8)0 東北大学・遺伝生態研究センター

(32)

26 細菌の難分解性化合物分解遺伝子群も可動遺伝因子上に存在する報告が 増えてきており9),その代表的な可動遺伝子因子を表1にまとめた。これら の因子は様々な分解遺伝子群を担っているが,転移関連遺伝子の構造や転 移機構の観点からすると, 3つのグループに大別できる。第1のグループは 分解遺伝子群が2コピーの同種の挿入配列(IS)で挟まれた構造を持つI型 トランスポゾンである10)。これらはIS複合型トランスポゾンとも呼ばれる が,これは個々のISの転移のほか,2コピーのISと介在する分解遺伝子群 が1つのユニツ'トとして転移可能なことに由来する。末端の2コピーのIS の方向性が同一の場合には, IS間での相同組換えにより,分解遺伝子群は 1コピーのISとともに高頻度で欠失する。I型分解系トランスポゾンでは, ある基質をTCA回路産物まで分解するために必要な分解遺伝子群の一部 のみを担い,残りの遺伝子群はトランスポゾン近傍に位置しているのが一 般的である。これに対し, ⅠⅠ型分解系トランスポゾンや接合型可動分解系 遺伝因子はⅠ型トランスポゾンに比べるとはるかに大型であるとともに, 基質の完全分解に必要な遺伝子群全部を含んでいる9'。接合型可動分解系 遺伝因子は,染色体から切り出されて環状化し,自身が持つ接合伝達能に ょり他の細菌細胞に伝播した後,受容菌染色体に組込まれる。染色体から の切り出しと組込みは潜原ファージのそれらと類似した分子機構で起こ る11)が,これらの詳細は本冊子の西・古川の頁を参照されたい。 本稿では,我々が進めてきたⅠⅠ型分解系トランスポゾンの研究について 述べる。アンピシリン耐性遺伝子を担うTn3に代表されるⅠⅠ型トランス

ポゾンは,両末端に40bp前後の逆向き繰返し配列(Inverted Repeat, IR)

を持ち,通常,転移に必要な2種の酵素,転位酵素(TnpA)と部位特異的 組換え能がある解離酵素(TnpR)をコードする。 ⅠⅠ型トランスポゾンは2 段階の過程を経て転移する(図1)12)。前半段階は,供与及び標的レプリコ ンが2コピーのトランスポゾンを介して連結された融合体の形成であり, TnpAが触媒する融合体形成には両末端IRの存在が必要である。後半段 階は,供与レプリコンとトランスポゾンの挿入を受けた標的レプリコンへ の融合体の解離であり,倍加しているトランスポゾン内のreJ (resolution site)内の特定塩基配列での相互的組換えを,隣接領域にコードされる

(33)

難分解性芳香族炭水化物分解遺伝子群を担うトランスポゾン 27

∴●

図1 II雅トランスポゾンの転移機構と部位特異的組換え A II型トランスポゾンの転移。四角はトランスポゾンでその方向性を 矢印で示したo ●はrfJJSo B レゾルベース群とインテグレース群が示す部位特異的組換え。三角 は特異的組換え部位。レゾルベース群は部位特異的解離反応のみを触媒 するがインテグレース群はこの反応及び逆反応の部位特異的組込みも触 媒する。 TnpRが触媒することで起こる。各種のⅠⅠ型トランスポゾン群は, TnpA やTnpRの機能的互換性ヰこ基づき亜群やその下の分科に細分化できる12)0 TnpA機能やTnpR機能で互換性があるトランスポゾン間では,各酵素の アミノ酸配列や基質となる末端IRやre∫の塩基配列の相同性が高く,こ のような機能的互換性はトランスポゾンの進化系統関係を反映する。 11型 トランスポゾンがコードする解離酵素のほとんどは, 2群に大別される部 位特異的組換え酵素のうちでも融合体解離反応のみを行うリゾルベース群 に属し,逆位反応や融合体形成反応に関与することはない(図1)。これに

(34)

28 対し,ファージDNAが染色体に挿入される際に働くインテグラ-ゼに代 表されるインテグラ-ゼ群は,融合体の解離と形成の両方向の反応を触媒 できる6・12・13)。 2. TOLプラスミドpWWO上のトランスポゾン 現在までにキシレン/トルエン分解能をコードする数多くのプラスミド が見つかり,これらプラスミド群はTOLと総称される(図2)14)。その中で も最も詳細に研究されてきたのがPseudomonas putida mt-2株が保有す る117kbの伝達性プラスミドpWWOである。広宿主域性を示すIncP-9 不和合性群のpWWO上にあるキシレン/トルエン分解(xyl)遺伝子群は, キシレンをトルイル酸までに変換するための上流オペロンとトルイル酸を カテコール経由でTCA回路産物にまで変換するための下流オペロン,そ して両オペロン発現に必要な2つの正の制御遺伝子の4つの転写単位から 構成される。我々は,pWWO上の全xyl遺伝子群を含むDNA領域は56 kb のトランスポゾンTn4651上に存在し,さらにTn4651は70kbの Tn4653内に存在することを見出した(図3)15 17)。両者ともII型トランス ポゾンであったが, Tn4651は通常のII型トランスポゾンと異なる次のよ

TOL plasmids

PWWO pWW53 pDXl 二brMr }ゝtlA

NAT plasmids

M7

tbdP_? pww60122 伽rこ こ加r 且 bPL少 図2 TOLプラスミド群とNAHプラスミド群上での分解遺伝子群の構造

Upper:上流オペロン, Lower:下流オペロン, SとE:分解オペロン転

写の正の制御遺伝子。矢印はオペロンや遺伝子の転写方向を示す。トラン スポゾンとして挙動する遺伝子群は四角で囲った。右側にプラスミドの 不和合性群を示した。

(35)

難分解性芳香族炭水化物分解迫伝子群を担うトランスポゾン 29 Th5041 Th4651 DWWq 憾OiWWD)

Th48SS Pq

・-芯=重責一己至ピン

二 憲章Th.722

図3 ⅠⅠ型分解系トランスポゾンとその類縁トランスポゾンの構造の模式図

A: tnPA,R: in♪R,S: lnPS,T: tnPT,●: yes,黒三角: IR,自三角:

IS1246,秒l:キシレン/トルエン分解遺伝群, nah:ナフタリン分解遺伝 子群, U:上流オペロン, L:下流オペロン, Hg:水銀耐性遺伝子群。遺 伝子の上下に記した矢印は転写方向。OrnとOrfQは各々TnpSとTnpT に機能的に対応すると想定されているが,その実験的根拠はない。 うな特徴を持っていた15・17)o (1) 46bpの末端IRの塩基配列は他のものと はかなり異なる, (2)融合体形成とその解離に関与する遺伝子産物は既知 のものとは機能的互換性を示さない, (3) tnpAの転写はトランスポゾン の内側に向かっている, (4)融合体解離系はtnPAから48kbも離れた領 域に支配され,またtnpSとinPTの両産物が解離に必要である。融合体解 離系を支配する約2.4 kb領域の解析から,本領域内の中央部分の約160bp 内に実際の特異的解離部位と逆向きの転写方向を持つtnPSとtnPTの転 写開始部位が存在することを見出した。 TnpSはインテグラ-ゼ群が共通 にもつモチーフ13)を有していた。実際,TnpSは異なる2つのDNA分子上 に存在するres間での部位特異的組込み活性を持ち,この活性は共通モ チーフに変異を導入すると消失した。 TnpTは部位特異的組込みには不要 であったが,融合体の部位特異的解離には必須であった。ただ,既知の蛋 白質と顕著な相同性を示さないTnpTを大腸菌で大量発現させると菌が 致死になるため, TnpTの解離反応に関与する分子機構は不明であるが, TnpSとTnpTは1ファージDNAの染色体組込みと染色体からの切り

(36)

30 出しに関与するIntとXisにそれぞれ対応する6,13)と推定している(図2)0 Tn4651内で全xyl遺伝子を含む39kbのDNA領域は2コピーの順向き 繰返し配列IS1246により挟まれる形で存在し,この配列間での組換えに より,介在する領域が特異的に欠失する14)0 IS1246単独の転移能や2コ ピーのIS1246とxyl遺伝子群領域がひとつのユニットとなった形での転 移能は,末だ検出されていない9)。Tn4651は,その同定から10年間はII型 トランスポゾンの「異端児」であったが, 3年前にロシアで見つかった約15 kbの水銀耐性トランスポゾンTn5041とは末端IRとtnPAが塩基配列レ ベルで90%以上の相同性を示すことがわかった(図3)18)。 Tn5041でも tnpAから約1Okb離れて融合体解離系を支配すると想定される領域が存 在し,蛋白質をコードする可能性のある2つの遺伝子(orjIと07プQ)がres を挟むかたちで存在するが,この領域はTn4651の当該領域とはサザン法 での相同性は認められていない。以上の知見からTn4651とTn5041は基 本的には共通の祖先型トランスポゾンから派生したと考えられるが,両ト ランスポゾンの内部構造の多様性が出現した機構は未知である。 Tn4653のtnPAは, Tn4651のtnPAとは機能的互換性はないが, Tn17:22分科に属するTn1722のtnPAと機能的互換性を示す(図 3)12,16.17)。実際, Tn4653とTn1722の38bpの末端IRの塩基配列は高い 相同性を示す。 Tn4653のtnPAのすぐ上流には, Tn1722のTnpRと同 一アミノ酸配列をコードするtnPRが存在し,転写・翻訳される(図3)。し かし, Tn1722のyleSにおいて融合体の部位特異的解離に不可欠な組換え 部位がTn4653のtnPR上流では欠落している。 Tn4653は自身のre∫内 にこのような欠損を持つため,融合体解離には内在するTn4651の解離系 遺伝子群(tnpS-res-tnpT)に依存せざるをえない状況が生じている。いず れにせよ, Tn4653はTn1722と進化的起源を同一にすることは疑う余也 がない。 3. TOLプラスミドpWW53上のトランスポゾン TOLプラスミド群では, pWWOが持つ4つの転写単位と極めて相同性 が高いxyl遺伝子群を少なくとも1セット持つ点で共通しているが,いず

(37)

難分解性芳香族炭水化物分解遺伝子群を担うトランスポゾン 31 れかの単位のコピー数や,相対的配置,転写方向,そして,プラスミドの 複製などの基本的性質を規定する不和合性群がpWWOと違うTOLプラ スミドも多いlり9)。このような点でpWWOとは異なるpWW53やpDKl (図2)上のxyl遺伝子群が薬剤耐性プラスミドに挿入されるという報告が ある14)ことから, P.putida MT53株が保有し, pWWOとは不和合性が異 なる非伝達性プラスミドpWW53を対象にして, xyl遺伝子群の転移能を 検討した。 110kbのpWW53 (図4)上には1コピーの上流経路オペロン T雌(5.7叫)

IR3一三re等竺皿

図4 PWW53上のⅠⅠ型トランスポゾンを支配する領域

IRl : Tn4656とTn4657が共有するIR, IR2: Tn4656とTn4658が 共有するIR, lR3: Tn4657とTn4658が共有するIR。内側の円には BamHI部位を,外側の円にはHindIII部位を示した。詳細は本文を参照 のこと。

(38)

32 (U)と2コピーの下流経路オペロン(LlとL2)がLl-U-L2の順序で存在 するが,我々はLトUを含む39kbの領域とLトU-L2を含む80kbの領 域が同居プラスミドに挿入されることを見出し,各々, Tn4656と Tn4657と命名した(図3)9)。 Tn4656は,融合体の形成と解離にTn1722と機能的互換性を持つⅠⅠ 型トランスポゾンであった(図3)9)o Tn4656とpWW53の構造を比較し てみると, Tn4656のresより右側に存在してtnPR-tnpA-IR (IR2)を含 む4kbの領域は, pWW53上の予想されるU-L2間には存在せず, pww53上のL1-Uを含む35kb領域から約24kb離れた位置に存在して いた(図4)。また, pWW53上の35kb領域と4kb領域の末端には各々res と想定される塩基配列(reslとres2)が存在し, 2つの"71eS"の配向性は 逆方向であった。同一DNA分子上で2つの"res"を同方向に配置すると TnpRに依存した部位特異的解離が起きたが,逆方向の場合には解離は認 められなかった。このことから,pWW53上で逆方向の配向性を持っていた 2つの"res"間での部位特異的逆位が詳細の不明な紐換えによりおき, Tn4656が形成されたと推測された。ただ, pWW53は構造的に安定で, Tn4656を持つpWW53誘導体の検出は成功していないo Tn4656とひと つのIR (IRl)を共有するTn4657は,その中に5.7kbのトランスポゾン (Tn4658)を含んでいた(図3)0 Tn4657のIRlとは反対側の末端に Tn4658が存在し, Tn4658とTn4657はIR (IR3)をやはり共有してい た(図4)。また, Tn4658のyleS-tnPRJnPA-IR (IR2)は上記のTn4656 の当該領域と同一であった。以上の結果から,pWW53上には転移関連遺伝 子tnf'A及びtnpRが1組, 3つのIRおよび2つのresが存在しているこ とが判明し, TnpAが3つのIRのうちの2つを末端として転移した結果, 異なる3つのトランスポゾンが生じると推定された。大腸菌での実験では, TI14656やTn4657に比べると, Tn4658の転移頻度が圧倒的に高かっ た。これは, IRl-IR2間やIRトIR3間では塩基配列の相同性がIR21R3間 のそれに比べてかなり低く, IRlがTnpAの基質になりにくいことに起因 すると考えられる。

(39)

難分解性芳香族炭水化物分解遺伝子群を担うトランスポゾン 33 4. NAH7プラスミド上のトランスポゾン キシレン/トルエン分解に関与する一群のプラスミドがTOLと総称さ れるように,ナフタレン分解に関わるプラスミド群はNAHと総称される (図2)20)0 NAHが支配する分解経路では,ナフタレンがサリチル酸にまで 変換され,さらにカテコールになった後,カテコールはTOLが支配する分 解経路と同一経路で完全分解される。 NAH上のナフタレン分解(nah)遺 伝子群は,ナフタレンからサルチル酸への変換に関わる上流オペロン,サ リチル酸の完全分解に関与する下流オペロン,そして両オペロンの発現に 必要な正の制御遺伝子より構成される(図2)。ただ, TOLとNAHはカテ コール以降の分解遺伝子群の構成や塩基配列に極めて高い保存性を持 つ2)。ナフタレン分解能はないがサリチル酸をNAHの支配する経路で分 解するプラスミド群が知られているが,そのうちのプラスミドSALは,P. putida由来のNAHプラスミドNAH7の上流オペロン内に小さな挿入突 然変異がある誘導体とされている2・9)0 83kbのNAH7はpWWOと同様, IncfL9群の伝達性プラスミドであ る。 nah遺伝子群を含むDNA領域は37.5kbのトランスポゾンTn4655 上に存在する(図3)21)0 Tn4655は転移の後半過程である誘導体解離系は コードしているものの,前半過程である融合体の形成をできず, Tn4653 や類縁のTn1722のTnpA供給時にのみ転移可能な欠損型トランスポゾ ンである。 Tn4655は, Tn4653やTn1722のIRと極めて類似した末端 IR構造を持っているが, Tn4653やTn1722のres-tnPR-tnpA領域と相 同性を示す領域は保持していない。このことは, Tn4655の融合体形成能 の欠損がtnpAの完全欠失忙起因することを意味する。既知のII型トラン スポゾンの解離系と互換性を示さなかったTn4655の解離系を支配する 領域の塩基配列の解析から,融合体解離に働くTnpRはインテグラ-ゼ群 に属する部位特異的組換え酵素であることが判明した。実際,この酵素は 融合体解離及び形成の両方向の反応を触媒した9)。以上のことから, Tn46'55はTn1722と祖先を共通にしつつも,進化成立の過程で, (1) Tn1722タイプのres-tnPR-tnPA領域の欠失, (2)インテグラ-ゼ群型

(40)

34 の部位特異的組換え系の挿入,そして(3)分解遺伝子群の挿入現象を経験 したと推定される。

5.分解系トランスポゾンの進化と流布

ⅠⅠ型トランスポゾンに分解遺伝子群が挿入されるにあたり,特別の組換 え機構が関与していたかは不明である。 Tn1722分科とは融合体解離に機 能的互換性を有するTn21分科のトランスポゾン上にはインテグロンが しばしば兄いだされ,インテグロン内には,インテグラ-ゼ型の部位特異 的組換え系と様々な薬剤耐性遺伝子が存在する7・12)。各種のインテグロンが Tn21分科のトランスポゾン内に部位特異的に挿入された結果, Tn21分 科の構成員が多様な薬剤耐性遺伝子を持つに至ったと考えられている22)0 Tn4651やTn4655の解離系がインテグラ-ゼ型の部位特異的組換え酵 素をコードしていることを考慮すると,両トランスポゾンの分解遺伝子群 全体或いはその一部がインテグロンとして働くかどうかは興味深い。各種 のTOLやNAHが持つ分解遺伝子群の転写単位のコピー数や配向性,そ してプラスミドの不和合性等が異なること(図2)から,各転写単位がモ ジュールとなり,これらが未知の機構で一つのレプリコン上に集合するこ とで,トルエンやナフタレンを完全分解できる現在の遺伝子群構成が完成 したと推定されている1,2,14)。このようなモジュールの集合化が予め別の場 所で起こり,ブロックとしてトランスポゾン内に挿入されて現在のⅠⅠ型分 解系トランスポゾンが形成されたのか,或いは,トランスポゾン内にモ ジュールが逐次的に挿入されてきたかは不明である。 ISIO71は広範な細菌種において,多様な分解遺伝子群を担うI型トラン スポゾンの形成に関与していることが多い(表1)23)。我々は,上記ⅠⅠ型分 解系トランスポゾンの転移関連遺伝子が広範な環境細菌種に存在するかを 検討した。世界各地の土壌や海洋から分解され,トルエンやフェノール,サ リチル酸,ナフタレン,フェナントレン,プロピルベンゼン,ビフェニル などの芳香族炭水化物,或いはテトラデカンやプリスタン,デカノールな どのアルカン系炭水化物のいずれかを分解できる株を含む63菌株から調 製した全ゲノムDNAについて, ⅠⅠ型分解系トランスポゾンの転移関連領

参照

関連したドキュメント

Effects of  Ketamine and Pr opofol on the Ratio of  Inter leukin-6 to Inter leukin-10

[Publications] Yamagishi, S., Yonekura.H., Yamamoto, Y., Katsuno, K., Sato, F., Mita, I., Ooka, H., Satozawa, N., Kawakami, T., Nomura, M.and Yamamoto, H.: &#34;Advanced

Found in the diatomite of Tochibori Nigata, Ureshino Saga, Hirazawa Miyagi, Kanou and Ooike Nagano, and in the mudstone of NakamuraIrizawa Yamanashi, Kawabe Nagano.. cal with

[Publications] Taniguchi, K., Yonemura, Y., Nojima, N., Hirono, Y., Fushida, S., Fujimura, T., Miwa, K., Endo, Y., Yamamoto, H., Watanabe, H.: &#34;The relation between the

In the literature it is usually studied in one of several different contexts, for example in the game of Wythoff Nim, in connection with Beatty sequences and with so-called

Proof: The observations at the beginning of this section show for n ≥ 5 that a Moishezon twistor space, not fulfilling the conditions of Theorem 3.7, contains a real fundamental

のようにすべきだと考えていますか。 やっと開通します。長野、太田地区方面  

Q is contained in the graph of a