特集● ECT の適応についての展望と rTMS の現況
総 説
Overview
精神疾患に対する rTMS の現況と国内導入の現状
中村 元昭
*1-4Clinical application of rTMS to psychiatry and its introduction to Japan
Motoaki Nakamura*1-4
*1 Kanagawa Psychiatric Center, 2-5-1 Serigaya, Konan-ku, Yokohama-shi, Kanagawa 233-0006, Japan *2 Medical Institute of Developmental Disabilities Research, Showa University
*3 Department of Psychiatry, Yokohama City University Graduate School of Medicine
*4 Brain Information Communication Research Laboratory Group, Advanced Telecommunications Research Institute
International
Abstract:Previous clinical trials of repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS) applied to
major depression have shown that the grand mean of reported effect sizes was medium and less than that of electroconvulsive therapy (ECT), although rTMS exhibited much higher safety and tolerability than ECT. Recently, the utility of rTMS has been demonstrated in terms of durability of antidepressant effects and relapse prevention, in addition to antidepressant effects during the acute phase. However, the response rate of rTMS was reported to be 30 to 40% of medication-resistant patients with major depression, which was not satisfactory. It is crucial for clinical introduction of rTMS to define a tar-geted clinical population and a suitable position of rTMS within a comprehensive treatment algorithm of major depression. Hypothetical antidepressant mechanisms of rTMS were addressed at the levels of neurotransmitter, neuroplasticity, and macroanatomical neuronal networks. Additionally, rTMS applica-tions to other psychiatric disorders were briefly introduced. Finally, clinical introduction of rTMS was discussed in terms of existing situations and challenges in Japan.
Key words: Repetitive transcranial magnetic stimulation, Major depression, Neuroplasticity,
Dorsolateral prefrontal cortex, Neuromodulation
はじめに
「脳は電気化学的な臓器である」ことを現代の 精神科医はもう一度思い返そう,というのが精神
科 rTMS(repetitive transcranial magnetic stim-ulation)の父 Mark George からのメッセージで ある。1930 年代に開発され脚光を浴びたロボト ミーと初期の電気けいれん療法(ECT)は,そ の後急速に臨床応用された。結果として,医療倫 理を大きく逸脱するという負の歴史を精神医学は 背負っている。 1950 年代に開発されたクロルプロマジンやイ ミプラミンは,当時の精神科治療の汚名を挽回す るものとなり,精神科薬物療法の黄金時代の幕開 けとなった。向精神薬は,脳内の化学シナプスに *1 神奈川県立精神医療センター(〒 233-0006 横浜市港 南区芹が谷 2-5-1) *2 昭和大学発達障害医療研究所 *3 横浜市立大学大学院医学研究科精神医学部門 *4 国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所
作用してその伝達効率を変調させる化合物であ り,化学的な neuromodulation である。ただ向精 神薬は抗菌剤のように根治的なものではなく,対 症療法的なものといわざるを得ない。現代のうつ 病治療の主役は抗うつ薬による薬物療法である が,抗うつ薬の登場以降,うつ病患者は激減する どころか増え続けてきたという苦い歴史にわれわ れ精神科医は直面している。うつ病患者の約 3 割 は薬物治療抵抗性であるという臨床的事実は,世 界中からの臨床研究が支持している1)。 精神疾患の主な病座である脳という臓器は,心 臓と同様に電気化学的な仕組みで制御されている わけだから,化学的なアプローチのみに偏重する のではなく,電気的なアプローチも組み合わせる のがベターという考えも成り立つかもしれない。 電気的 neuromodulation といっても,AED(自 動体外式除細動器)や ECT のように,非生理的 なほどに強い電気刺激を使うばかりでなく,より 生理的な範囲内の刺激で活動電位を誘導して特定 の神経回路を活性化するというアプローチもあ る。 臨床現場では,従来の薬物療法や精神療法を補 完する治療オプションが求められており,neuro-modulation 2)の臨床応用が注目されている。その 代表が反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)といえ る。このような精神科治療学の新しい流れは,わ が国の精神科医療のなかでも客観的,多角的に検 討される必要性が高いであろう。本稿では,うつ 病を中心として,精神科領域における rTMS の 有用性,可能性を解説し,国内導入の現状の概略 を報告したい。
反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)の
抗うつ効果について
1995 年に George らが薬物治療抵抗性のうつ病 患者 6 名を対象として,rTMS の抗うつ効果を初 めて報告した3)。George らが採用した刺激プロ トコールとしては,左半球の背外側前頭前野(dor-solateral prefrontal cortex:DLPFC)に対する高 頻度 rTMS(促通性効果を誘導)であった。これ は,脳梗塞後のうつ病では左前頭前野の病巣が右 前頭前野よりも多いという知見4)や,左前頭前野 の機能低下がうつ病に関連しているという知見5) に基づくと推定されている。さらに,George ら は 1997 年に無作為化対照試験(randomized con-trolled trial:RCT)において,プラセボ効果を 凌駕する rTMS の抗うつ効果を報告した6)。 1999 年には Klein らが,右前頭前野に対する 低頻度 rTMS(1 Hz,抑制性効果を誘導)が抗う つ 効 果 を も つ こ と を 報 告 し た7)。2006 年 に は Fitzgerald ら が 左 DLPFC へ 高 頻 度 rTMS を 行 い,直後に右 DLPFC へ低頻度 rTMS を実施す るという両側 rTMS の RCT を報告し,その抗う つ効果を示した8)。2009 年には Levkovitz らが, 深部刺激可能な H コイルを使用した deep TMS による RCT を報告し,その有効性と安全性を報 告した9)。上記のように,うつ病 rTMS は PET(positron emission tomography)や MRI(mag-netic resonance imaging)などの脳画像研究にヒ ントを得て開始され,その治療仮説が現在まで踏 襲されている。 うつ病に対する rTMS の大規模治験は以下に 紹介する 2 つであり,いずれも米国でうつ病 rTMS 専 用 に 開 発 さ れ た Neuronetics 社 製 の NeuroStar と い う 装 置 が 使 用 さ れ た。2007 年, アメリカ,カナダ,オーストラリアの 3 国共同の 最大規模の多施設(計 23 施設)RCT(企業主導 治験)の結果が報告された10)。301 名の薬物治療 抵抗性のうつ病患者が無投薬の状態で,rTMS 群 (n=155)とシャム刺激群(n=146)に割り振ら れた。rTMS プロトコールは左 DLPFC に対する 高頻度 rTMS(10Hz)で,刺激強度は 120% RMT (安静時運動閾値:一次運動野を刺激した際に 50%以上の確率で有意な筋収縮を来す最小の TMS 強度)に設定された。セッションごとのパ ルス数は 3,000 で,セッション回数は 20 〜 30 回 で,刺激総量も先行研究を超える最大量が設定さ れた。有効性に関しては,4 週間後の抗うつ効果 を rTMS 群とシャム刺激群とで比較した場合, Hamilton Depression Rating Scale(HAMD)の 17 項目では P=0.006(rTMS 群:17.4±6.5 点,シャ ム刺激群:19.4±6.5 点)と十分な有意差をもって rTMS の抗うつ効果が示された。しかし,主要評
価尺度であった Montgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS)では p=0.057 とトレン ドレベルにとどまり結果の解釈に物議を醸した。 米国 FDA は一時承認を見送ったものの,2008 年 10 月に FDA は薬物治療抵抗性のうつ病に対し て rTMS の治療的使用を承認した(510k。FDA 医療機器分類は Class Ⅱ)。2010 年には George らによる米国内の多施設 RCT(n=190,医師主 導治験)が報告され,左 DLPFC に対する高頻度 rTMS 群(n=92)とシャム刺激群(n=98)の間 で主要評価項目である寛解率に有意差(p=0.02) を認め,そのオッズ比は 4.2(95%信頼区間:1.32 −13.24,p<0.05)であった11)。これら 2 つの臨床 試験が,“第一世代”うつ病 rTMS のエビデンス の根幹となっているといえるだろう。 高頻度 rTMS の抗うつ効果に関する Schutter らによるメタ分析研究12)では,30 の RCT を対象 として計 1,164 名のうつ病患者(平均年齢 49.1 歳) を検討している(606 名が rTMS 群,558 名がシャ ム刺激群)。高頻度 rTMS 群の抗うつ効果の ef-fect size はシャム群と比較して 0.39(95%信頼区 間:0.25−0.54)であった。決して高い effect size ではないが,抗うつ剤全般の effect size が 0.31 13) であると考えると,薬物療法に劣らない結果であ ることが示唆される。異なる刺激プロトコールを 含めて解析したより網羅的なメタ分析論文14)に おいては,3 種の rTMS の対プラセボの抗うつ効 果のみならず,対 ECT の抗うつ効果も解析して いる。高頻度と低頻度の rTMS を合わせて計 34 の RCT を対象として,計 1,383 名のうつ病患者 を解析している(751 名が rTMS 群,632 名がシャ ム刺激群)。rTMS 群の抗うつ効果の effect size は,シャム群と比較して 0.55 と中等度の effect size が認められた。刺激プロトコール別の effect size としては,左 DLPFC(高頻度 rTMS)が 0.53, 右 DLPFC(低頻度 rTMS)が 0.82,両側 DLPFC が 0.47 であり,プロトコール別の有意差はなかっ たが,右 DLPFC に対する低頻度 rTMS の有効性 が支持されているのは興味深い。rTMS と ECT を直接比較した 6 研究では,計 215 名のうつ病患 者が解析された(rTMS 群が 113 名,ECT 群が 102 名)。メタ分析の結果,rTMS 群の ECT 群に 対する effect size は−0.47(p=0.004)で,有意に ECT の抗うつ効果のほうが rTMS に比べて大き いことが統計学的に示された。 これまで紹介した RCT やメタ分析の論文は, うつ病の急性期治療としての rTMS の有効性を 精査するものであるが,今後は再発予防効果や維 持治療としての可能性についての臨床試験の集積 が必要とされている。rTMS によって寛解状態に 至った患者をフォローアップした際に,3 カ月時 点で 58%が寛解を維持したという報告もある15)。 また,新規治療技法の宿命として,既存の治療 (薬物療法)で効果がない場合にも有効性を示し 得るのかどうかが問われるため,うつ病 rTMS の RCT の大部分は薬物治療抵抗性うつ病を研究 対象としてきた経緯がある。しかしだからといっ て,うつ病 rTMS の至適対象集団が薬物治療抵 抗性の患者集団であるということにはならない。 より現実的な至適対象集団は RCT からではな く,今後のうつ病 rTMS の幅広い臨床経験や臨 床研究から設定されるべきであろう。 実際の臨床現場での rTMS の感触はどのよう なものであろうか。筆者の所属する神奈川県立精 神医療センターでは,2008 年以降これまでに 120 名以上の気分障害患者の協力の下,臨床研究とし て rTMS の効果と安全性を検証してきた。また, アクティブ・シャムコイルを使用した単盲検の RCT を実施中である。このような経験のなかで, rTMS による抗うつ効果(effect size:0.4 程度) は,ECT による劇的な治療効果(effect size:0.9 程度)16)とは質的に異なるという実感がある。薬 物治療抵抗性のうつ病患者集団における治療反応 者の割合についてみても,rTMS では 3 〜 4 割と 報告されている15)が,ECT では 7 〜 8 割と報告 されている。これも臨床現場では大きな違いであ る。ただ,安全性や忍容性の観点からは,rTMS は大変優れているという実感をもっている。当セ ンターのオープン試験(神奈川県立精神医療セン ター倫理審査委員会承認日:平成 20 年 2 月 20 日, 臨床試験登録 ID:UMIN000001185)においては, てんかん,頭部外傷,脳動脈瘤・動静脈奇形,変性 疾患(多系統萎縮症,パーキンソン病など),線維 筋痛症などの身体合併症を有する症例にも,他科
併診やインフォームド・コンセントを前提として rTMS を実施したが,きわめて安全な介入であっ た。 うつ病 rTMS の臨床導入によって,薬物治療 抵抗性患者への長期にわたる多剤併用療法が緩和 される可能性が期待される。また,抗うつ薬によ る副作用が顕著で十分量の内服の継続が困難な患 者(薬物低耐性)や,妊婦や小児などの脆弱な集 団への,貴重な治療オプションとなることも期待 される。そして,ECT を選択する前に rTMS と いう格段に侵襲性の低い治療オプションが存在す ることによって患者の心理的負担が軽減され,さ らには ECT の適正使用が促進される側面も期待 されるだろう。このように考えると,薬物療法と ECT の合間を補完する治療オプションとして, うつ病 rTMS の有用性が見えてくるかもしれな い。ただし注意すべき点として,精神病性の特徴 を有したり,焦燥や希死念慮が切迫した症例は, 最初から ECT を選択するべきであろう。しかし ECT を適用するほど重症ではないものの,認知 行動療法や復職支援プログラムを導入するには思 考制止や意欲低下が強いという不全寛解の症例が 臨床現場では少なくない。このように,十分な薬 物療法を実施しても不全寛解のまま長期間遷延し ているようなうつ病症例には,rTMS の可能性を 試す意義があると考えられる。
反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)の
抗うつ効果発現機序について
なぜ rTMS が気分障害患者に対して抗うつ効 果を示し得るのかということは未だ明らかにされ ていないが,前頭前野への rTMS がもたらす生物 学的効果に関する知見は集積されつつある。健常 者を対象とした PET 研究17, 18)では,単回 rTMS セッションにより線条体内外において,神経回路 特異的にドパミン放出を促進するというデータが 得られている。4 週間から 8 週間にわたって繰り 返される rTMS の蓄積効果の発現機序の背景に は,ニューロンやグリアの構造変化を伴う神経可 塑性が関与している可能性が想定される。また, rTMS を繰り返し受けた気分障害患者の終夜睡眠 記録を縦断的に解析すると,刺激部位を中心とし て睡眠徐波の局所的増強が認められ,神経可塑性 が誘導された傍証となっている19)。 rTMS の刺激は局所にとどまらず,神経線維束 を介して伝わっていくため,神経伝達物質や ニューロンのレベルの変化だけでなく,よりマク ロな神経回路レベルの変化も検証する必要性があ る。 気 分 障 害 に 対 す る rTMS は, 慣 習 的 に 左 DLPFC の高頻度刺激か右 DLPFC の低頻度刺激 の 2 種類が主に用いられてきたが,左 DLPFC の 高頻度 rTMS は脳梁を介した半球間抑制によっ て右 DLPFC を抑制する一方で,右 DLPFC の低 頻度 rTMS は脳梁を介して左 DLPFC を脱抑制 (興奮)させるという交連線維に基づく仮説モデ ルが提唱されている。また半球内連合線維の観点 から考えると,PET 研究においては DLPFC と帯 状回梁下野(Brodmann 25 野)における局所脳 血流が相反関係にあることが示唆されている20)。 抑うつ状態では,DLPFC の血流が低下し梁下野 の血流が上昇している一方で,抑うつ状態からの 回復時には両者の関係が逆転するという。このこ とは高頻度 rTMS を用いてうつ病患者の DLPFC を賦活することで,梁下野の活動を抑制すること が抗うつ効果と関連しているという治療仮説の可 能性を示している。 最近では,安静状態の BOLD 信号や脳波・脳 磁図のデータに対して,機能結合(functional con-nectivity)という数学的概念が応用されている。 機能結合は,脳内の異なる部位間で信号(脳の自 発活動由来)が時間的にどの程度相関しているか という数学的指標であり,該当する部位間で線維 連絡があるかどうかは不問である。うつ病で認め られる病的機能結合としては,Brodmann 46/9 野 (DLPFC の一部)と 25 野(梁下野)が負の機能 結合を示したり,辺縁系やデフォルトモードのマ クロ的ネットワーク内において機能結合が病的に 亢進していたりすることが知られており,ECT や rTMS によって,その病的機能結合が解消さ れ健常化するという報告がなされている21, 22)。 rTMS の抗うつ効果発現メカニズムは未だ仮説 の域を出ていないが,rTMS の臨床応用において は,患者や家族へどのような治療であるのかをしっかりと説明できるように,知見を集積するこ とが重要であると思われる。また,機能結合のよ うなバイオマーカーとセットにして臨床導入する ことが理想と考えられる。
うつ病以外の精神疾患への臨床応用に
ついて
うつ病以外の精神疾患に対する rTMS の有用 性として,双極性障害(躁うつ病)のうつ病相(双 極性うつ)に対する抗うつ効果が検討されてきた。 現時点では症例検討からオープン試験レベルの報 告はあるものの,本格的な RCT は未だ報告され ていない。ただ,自験例も含め,精神科領域の rTMS 研究者の実感として,双極性うつ病相に対 する rTMS の効果は十分に期待できると思われ る。単極性うつ病よりも自殺のリスクが高く治療 も難しい双極性うつ病相に対する rTMS の臨床 試験の必要性は高い。rTMS による躁転リスクの データも集積しつつ,有効性と安全性を検証する RCT の立案が必要とされている対象集団であろ う。 サンプル数は少ないものの,うつ病以外の疾患 に対するメタ分析14)も報告されている。統合失 調症の幻聴を治療対象とした rTMS では,左半 球の頭頂側頭領域(T3P3)を低頻度刺激する刺 激プロトコールを採用した計 7 の RCT が解析さ れた(rTMS 群が計 105 名,シャム刺激群が計 84 名)。幻聴 rTMS の effect size は,0.54 と中等 度の効果を示すことが報告されており,幻聴は今 後 rTMS の適応拡大の候補として位置付けられ ている。統合失調症の陰性症状に対する rTMS の RCT では,刺激プロトコールにばらつきが認 められるものの,主に左 DLPFC を刺激部位とし て高頻度または低頻度の刺激プロトコールが採用 されている。計 7 つの RCT(rTMS 群が計 74 名, シャム刺激群が計 74 名)が解析され,effect size は 0.39 と中等度下限付近であった。統合失調症 の陰性症状は多くの患者の社会復帰の妨げとな り,有効な薬物療法もほとんどないため,今後も 電気生理学的治療法の発展が望まれている。 その他の精神疾患で臨床研究が少数報告されて いるのが,躁病,パニック障害,強迫性障害, PTSD,過食症,ニコチン依存,コカイン依存, 認知症,自閉症スペクラム障害,注意欠如多動性 障害などである。うつ病 rTMS の国内導入の概況
現在,うつ病 rTMS の国内導入を目指して, 日本精神神経学会,厚生労働省,医薬品医療機器 総合機構(PMDA)を中心として話し合いが継 続されている。そして企業による努力も着実に進 展しており,現時点で薬事審査中となっている rTMS 装置もある。こうした流れのなかで,2013 年には日本精神神経学会において ECT・rTMS 等検討委員会が新たに設置され,rTMS の臨床応 用のあり方が検討されている。具体的には,早期 導入制度(医療ニーズの高い医療機器等の早期導 入に関する検討会)に基づくうつ病 rTMS の薬 事申請や先進医療 B 申請への検討が進んでいる。 また,厚生労働省からの要請を受けて,うつ病に 対する rTMS の適正使用ガイドライン作成の議 論が開始されている。 2015 年には,全国の専門医研修施設を対象と して,うつ病 rTMS に関する意識調査を実施し た。うつ病 rTMS の国内導入を目指すのがよい という意見が 6 割であり,適正使用ガイドライン が必要とする意見が 9 割であった。rTMS の適性 使 用 に は ど の よ う な 基 準 が 必 要 と な る の か, rTMS の至適対象集団はどのような臨床特徴を有 しており,rTMS の有用性をうつ病治療アルゴリ ズムのどこに配置すべきなのか,精神科医療にお ける脳刺激治療導入の神経倫理的枠組み,保険収 載時の診療報酬点数の最適化(普及し得る保険収 載)など重要課題が山積している。 そして,総合病院精神医学の領域においては, 身体合併症や妊産婦の気分障害患者への rTMS 適用や,ECT と rTMS の組み合わせ方法などに 関して実践的議論が展開されることが期待され る。また,神経内科領域ではパーキンソン病に対 する rTMS の医師主導治験が,脳外科領域では 慢性疼痛に対する rTMS の医師主導治験が実施 中であることも注視していく必要性がある。リハビリテーション科における脳梗塞後遺症に対する rTMS 研究も併せて考えると,精神科だけの技術 としてではなく,中枢神経に関わるすべての診療 科との連携体制のなかで,この技術を発展させる 必要性がある。 文 献
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【要約】 これまでのうつ病 rTMS(repetitive transcranial magnetic stimulation)の臨床試験からわ かることは,有効性の効果サイズが中等度であり,電気けいれん療法には有効性で劣るものの,安全 性や忍容性において勝っているという点であろう。また,再発予防効果や維持療法としての有効性も 徐々に検証されつつある。ただ,薬物治療に反応不十分な患者集団において,rTMS に反応する割合 は 3 〜 4 割といわれており,決して満足できる割合ではない。うつ病 rTMS の対象集団を見極めて, 治療アルゴリズムに配置することが重要である。rTMS の治療効果発現メカニズムについては仮説の 域を出ないが,神経伝達物質,神経可塑性,マクロ的神経回路のレベルで概説した。また,うつ病以 外の精神疾患に対しても rTMS の可能性が検証されつつあるため,それを紹介した。最後にうつ病 rTMS の国内導入の概況と課題を解説した。 キーワード: 反復性経頭蓋磁気刺激法,うつ病,神経可塑性,背外側前頭前野,ニューロモデュレー ション
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