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Covid-19の危機管理に関する国際比較 日本・台湾の比較を中心に

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1.はじめに

 2020年2月にWHOによって命名されたCOVID-19(Coronavirus disease 2019、 新型コロナウイルス,本稿ではこの用語を用いる)は世界で猛威を振るっている。 2020年12月17日現在、世界の累計感染者総数は約7495万人、死者数166万人であ る(ジョンズ・ホプキンス大の集計)。  本稿の第1の目的は世界的に深刻な状況になっているコロナ禍の状況で、 COVID-19による死亡者を最小にとどめている台湾(7人)に注目し、なぜ、台 湾において人口あたりの死者数が少なく、このウイルスリスクの危機管理に成功 したのか、そして日本の人口あたりの死者数はアジアでなぜワースト1と多いの かについて、2020年11月~ 12月時点の段階で分析・検討することである。  第2の目的は、日本、台湾などの危機管理面での国際比較を通して、日本のコ ロナウイルスに対する危機管理上の問題点を指摘し、今後の実効性のある危機管 理策を模索することである。  以下、次の諸点について検討する。 ① COVID-19の現時点でのアジアでの感染者数他 ② 感染・死亡に影響を与える諸要因 ③ 台湾との国際比較を通じた日本への教訓と有効なRM策の指摘。

― 日本・台湾の比較を中心に ―

上 田 和 勇

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2.COVID-19の2020年11月~ 12月時点での世界とアジアでの感染者数他

<世界の動向>  図表1は世界全体の累計感染者数の1月からの状況を示したものである。世界 全体の累計感染者数は2020年12月23日時点で7800万人を超えた。地域別では欧州 が最多で、12月20日に2200万人を上回った。北米も12月20日に1800万人を超えて いる1)  図表2は2020年1月からのCOVID-19による世界の累計死者数の推移である。 2020年1月9日に中国で初の死者が報告されてから、世界各地で増え続け国別で は米国、ブラジル、インドの順に多い。10月頃までには世界で1日5,000人前後 増えていたが、11月頃には1日1万人を超えるペースになっている2)。12月23日 には累計171万人が犠牲となっている。 1)地域別の数字については下記資料参照。日本経済新聞「チャートで見る世界の感染状況、新型コロ ナウイルス」(https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-chart-list/) 2)朝日新聞、2020年12月20日付け記事。 出典:地図とグラフでみる新型コロナウイルスの感染者数(reuters.com) 注:2020年12月24日時点でのデータ。 図表1 2020年1月∼ 12月24日までの世界の累計感染者数

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<日本の動向>  日本での感染者数は増加傾向にあり、パンデミック(世界的大流行)開始以降、 日本では12月22日現在、累計感染者20万3,638人、死者3,013人が報告されている3) その増大傾向は図表3~図表4のとおりであり、日本では現在、第3波の感染状 況である。 図表2 2020年1月∼ 2020年12月22日までの世界の累計死者数 出典:ニュース提供元:ウィキペディア、新型コロナウイルス−Google ニュース参照。 図表3 日本の累計感染者数 3)注1の出典参照。

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<台湾と日本の動向>  一方、台湾では12月21日時点で1日平均4人の新規感染者が報告されている。 ピークだった3月26日の21%になる。パンデミック(世界的大流行)開始以降、 同国では感染者770人、死者7人が報告されている。図表5の日本、中国、台湾、 豪州との比較では、台湾が感染を完全に抑え込んでおり、しかもその状況が今も 続いている点、日本の8月以降の感染者数が急増している点、中国は2月以降、 感染を抑え込んでいる状況などが分かる。  日台比較では日本の顕著な増加傾向に比べ、台湾の感染者数の少なさ、特に死 者数のそれは極めて少なく、台湾の新型コロナウイルスの危機管理は非常に効果 的であり、犠牲者を最少化させた国である。図表5がこの状況を示している。 図表4−⑴ 日本の累計死亡者数(その1) 出典: 新型コロナウイルス感染者数の推移:朝日新聞デジタル(asahi.com) 注:感染者数、死者数は都道府県発表を日ごとに朝日新聞が集計したもの。 図表4−⑵ 日本の累計死亡者数(その2) 出典:朝日新聞、2020年12月23日付け記事。

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<アジア5か国の人口100万人当たりの死者数比較>  図表6と図表7はアジア5か国のCOVID-19による死者数および人口100万人 当たり死者数を表とグラフにしたものであるが、ベトナムと台湾における約11か 月間におけるCOVID-19による人口100万に当たりに対する日本の死者数は台湾 の約49倍、ベトナムの37倍である。台湾やベトナムの犠牲者はなぜ、こんなに少 なく、なぜ日本のそれはこんなに多いのだろうか。本稿ではこの点について特に 台湾との比較分析に論点を絞りたい。 図表5 COVID-19の累積感染者数の推移 出典:朝日新聞、2020年12月20日付け記事、米ジョンズ・ホプキンス大の集計から。

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3.現代的リスクマネジメント・プロセス視点から見た日台のCOVID-19

に関する危機管理比較

 本稿の目的はすでに指摘したように、COVID-19の危機管理に関して、2020年 12月時点での台湾の成功要因の指摘と日本の問題点を明確にして今後に備えるこ とである。ただ、日本でのCOVID-19の感染者数は増加傾向にあり第3波の様相 を呈している現在、この面における結論的な指摘は難しいが、対応時の問題点を 指摘しそれを是正する必要性は依然とし喫緊の課題である。2020年7月時点での 日本RM学会での報告とその後の分析で分かった事柄を中心に検討する。  COVID-19という感染症リスクは国家的そして世界的リスクであり、また言う 図表6 累積死者数と人口100万人当たりの死者数 国 死者数 人口100万人当たりの死者数 日本 韓国 中国 ベトナム 台湾 1867 488 4634 35 7 22.0 13.6 3.3 0.4 0.3 出典:厚生労働省資料から作成(12月20日現在) 出典:厚生労働省資料から作成(12月20日現在) 図表7 人口100万人当たりの死者数の棒グラフ 22 13.6 3.3 0.4 0.3 0 5 10 15 20 25 日本 韓国 中国 ベトナム 台湾

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4)ジャレド・ダイアモンド(2019)、小川・川上訳『危機と人類(上)』日本経済新聞社、p.16。 までもなくソーシャル・リスクでもある。感染症リスクは細菌とウイルスによる 人、動物への感染であり、これまで細菌によるそれはペスト、コレラ、結核な どがあり、ウイルスによるそれには天然痘、インフルエンザ、エイズ、SARS、 MARS、鳥インフルエンザ、そしてCOVID-19などがある。このように人類はこ の感染症リスクに何度となく襲われてきた。  危機管理を含む現代的な危機管理プロセスでは、危機管理にあたり、伝統的な 危機管理によくみられるリスクや危機の発見を出発点とはしない。まずリスクや 危機に直面する主体(地域、国、企業、組織など)が置かれている状況分析から 始まる(図表8参照)。  この考え方は世界最初の国際的RM規格であるオーストラリアとニュージーラ ンドのRM国際規格(AS/NZS、1995、1999、2004)に端的に表れている。2004 年のオーストラリアとニュージーランドのRM国際規格ではRMを次のように定 義付けている。「リスクマネジメントとはリスクのマイナスの影響の管理だけで はなく、潜在的な好機を現実のものにするための文化、プロセス、構造をいう」。 リスクをマイナスの純粋リスクのみに限定せず、投機的リスクをも含むという点、 そしてそれを次のように4つのプロセスの視点から捉えている点は優れており、 過去のリスク概念とは異なる新たな視点を提供したものである。  COVID-19はいうまでもなくマイナスのみの影響を与えるCrisis(危機)であ るが、この危機ですら語源的にはギリシア語の名詞「krisis」や動詞の「krino」 からきており、「分ける」「決める」「区別をする」「転換点」といった意味があ 図表8 現代的リスクマネジメント(クライシスマネジメント)・プロセス

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る4)。この「転換点」という意味は危機を通して新たな好機をつかむということ も意味しており、AS/NZSのRM定義とのつながりがこのCrisisの語源にはあり、 AS/NZSのリスク及びRM定義の現実性と有益さを感じる。  AS/NZSに代表される現代的RMプロセスは下記のとおりであり、このプロセ スは危機管理(クライシスマネジメント)プロセスにもそのまま適応できる。 ⑴ 第1段階「状況の分析」  第1段階は「状況の分析」であり、危機やリスクに直面する主体(国、企業、地域、 家庭、個人など)の理念、使命、ビジョン、資源、過去の経験などの確認である。 COVID-19という国家危機のマネジメント・プロセスの第一段階である「状況の 分析」に関して、ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)は次のような有益 な分析をしている。  ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)は、危機療法の専門家たちが本 や論文で発表した個人的危機および国家的危機の解決の成功可能性を上げる12 の要因を次のように指摘している。また野嶋もジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)の12の要因を取り上げ、それを台湾の状況に適応して、台湾の COVID-19封じ込めの成功を分析している5)  ① 自国が危機にあるという世論の合意  ② 行動を起こすことへの国家としての責任の受容  ③ 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること  ④ 他の国々からの物質的支援と経済的支援  ⑤ 他の国々を問題解決の手本とすること  ⑥ ナショナル・アイデンティティ  ⑦ 公正な自国評価  ⑧ 国家的危機を経験した歴史  ⑨ 国家的失敗への対処  ⑩ 状況に応じた国としての柔軟性  ⑪ 国家の基本的価値観  ⑫ 地政学的制約がないこと  以下、ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)が過去の成功例をもとに示 5)ジャレド・ダイアモンド(2019)、小川・川上訳『危機と人類(上)』日本経済新聞社、pp.68-74。野 嶋 剛(2020)『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』扶桑社新書、第10章。

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した12の要因の主なものについて、台湾については主に野嶋他の分析を中心に示 し、日本の対応については筆者の分析他を以下、検討していきたい。  ①「自国が危機にあるという世論の合意」、⑤他の国々を問題解決の手本とす ること、⑧の国家的危機を経験した歴史について  ①と⑧は危機意識に関する問題である。「自国が危機にあるという世論の合意」 は国のリーダーや専門機関により醸成されるものである。換言すれば、危機意識 はリーダーや専門機関と国民や関係者との情報の共有を通じた共通のリスク意識 から生まれる。この点を野嶋は「台湾社会が一体となって新型コロナウイルスに 取り組んだことは疑いようがない」と表現している。この点、台湾が政府と国民 が最も危機意識を高めたのは17年前のSARSによる多数の死者(死者84人)の発 生がその一つであったといえる。この問題は日本から見ればジャレド・ダイアモ ンド(Jared Diamond)がいう⑤の他の国々を問題解決の手本とすることであり、 台湾から見れば⑧の国家的危機を経験した歴史に関するものである。  ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)が示した12の要因のうち、上記以 外の要因について、野嶋は台湾の対応を次のように評価している。③に関して、「課 題を定めるための枠組みつくり」と捉え、マスク確保の目標を立て、その自主生 産スキームを短期間で作り上げて世界2位の生産国になったこと。⑩の「状況に 応じた国としての柔軟性」については、欧州からの第2波の時に警戒態勢を強化 し、マスクの使用推奨の方法を途中で変更するなどして感染拡大を抑え込んだこ と。⑥の「ナショナル・アイデンティティ」と⑪の「国家の基本的価値観」につ いては、「防疫共同体」として、台湾の未来を守ろうと努力した点がある6)  一方、今回のCOVID-19に関する日本における危機意識はどうだったか。人々 の意識は感染者数の変化により影響を受けると思われるが、例えば流行曲線が3 月中旬から4月上旬は増大傾向にあり、いつ緊急事態宣言(7都道府県には4 月8日に発出、全国には4月16日発出)が出されてもおかしくない4月4日に、 ニューヨークの大学病院の医師は日本の危機意識について次のように述べてい る。「今の日本の首都は2,3週間前のニューヨークのようだ(中略)。日本の人々 は事態を深刻に捉えていない(中略)。日本でも誰から感染したか不明な人が出 てきている(中略)。ニューヨークはアメリカの中でも公共交通機関の発達した 数少ない都市の一つで、人々が集うバーやレストランがたくさんある、ウイルス は都市で容易に広がり、実際そうなった。東京の状況もニューヨークと非常に似 6)野嶋、前掲書、p.223。

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ている。日本が事態を甘く見れば、東京でウイルスが爆発的に広がるだろう7)」。 この医師の予測通り、11月から12月にかけて、日本では第3波による感染拡大が 爆発している。  日本の省庁の危機意識のなさは各省庁が7月下旬、9月下旬そして10月頃から 実施している観光支援を重視するGo toキャンペーン策にも表れている。11月か ら12月にかけての第3波による感染拡大の状況下、日本医師会会長の中川氏は感 染拡大とトラベル事業との関連性を問われ、「『Go Toトラベル』自体から感染者 が急増したというエビデンス(根拠)はなかなかはっきりしないが、きっかけに なったことは間違いないと私は思っている。感染者が増えたタイミングを考える と関与は十分しているだろう」と話している。分科会もこの種のキャンペーンに ついて、政府に対策を取るよう提言しているが、その見直しは国と各都道府県の 足並みがそろわない状況を呈している(結局、12月15日の段階で、このキャンペー ンの全国一斉停止を公表)。国による危機意識の希薄さがこうした施策を生み、 国民の個人の自粛や努力だけに頼るアプローチを生んでいる。 ⑵ 第2段階「リスクの発見、評価」  第2段段階はCOVID-19リスクの発見、侵入防止、その評価である。どの地域で、 どういう人々が(感染者層の属性)、どの程度の症状で、どこに隔離されている かなどの分析となる。  COVID-19リスクに対する初期対応の早さについては、台湾は統率の取れた指 揮系統の指示により、あらゆる方面での対策が早急に打ち出された。SARSの教 訓を生かし、今回の危機を官民一体となってしっかりと乗り越えている。初期対 応の日程のみで日台を比較すると下記の通りである。  台湾では2019年11月末に中国で「原因不明の肺炎」が発生、台湾政府は警戒を 高める。12月31日、武漢からの直行便に対して検疫を開始。武漢からの全便の機 内に検疫官が入り、乗客乗員の健康状態を確認。その後、この人々を対象に渡航 歴(Travel history)、職業(Occupation)、接触歴(Contact history)、人ごみに行っ たかどうか(Cluster)の告知(TOCCの告知義務)を行っている。台湾ではこのデー タを後述のCDCのデータにリンクさせている8)。1月3日政府は緊急事態会議を、 1月5日には専門家会議を開催、1月20日、台湾CDC(中央流行疫情指揮セン 7)アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020年10月25日)『新型コロナ対応民間臨時調査会調査・ 検証報告書』p.32。 8)野嶋、前掲書、pp.24-25。

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ター、以下、指揮センターとする)設置、2月6日に中国全土からの入国を禁止、 3月19日からはすべての外国人の入国を禁止)。こうした初期対応とともにCDC を中心に検疫と隔離の徹底が行われ続けた。  一方、日本では、1月28日COVID-19を指定感染症に指定、1月30日新型コロ ナウイルス感染症対策本部設置、専門家会議の設置は2月14日、2月1日に中国 湖北省からの入国を禁止、イタリアの全域、ドイツ、フランス等欧州の大部分の 入国を禁止したのは3月27日、米国や英国、中国全域等からの入国禁止は4月3 日。特に欧州からの流入防止の水際対策における対応の遅さが目立つ。 ⑶ 第3段階「危機管理手段の実行」  第3段階は危機管理手段の実行である。危機管理手段には図表9にあるよう に、リスク・コントロールとリスク・ファイナンスがある。危機管理及びリス ク管理は結局、このリスク・コントロールとリスク・ファイナンスの2つの手段 を効果的にミックスさせて実行することに尽きる。その実施者のリーダーシッ プ、実施主体の価値観や文化、リスクへの危機意識と知識、過去の経験、両方法 へのウエイトの置き方、実施のタイミング、予算などがRM効果を左右させるが、 COVID-19リスクに対する体系的に主なRM手段を示したものが図表9である。  図表9のポイントは感染リスクの制御には検査、マスク、様々な医的対応など のハードな手段と国や都道府県のリーダーシップ、過去からの学習力、情報の共 有力、危機意識、生活習慣などのソフトな要因、そして他の機関や国からの人的、 図表9 Covid-19リスクに対するRM手段の体系 RM手段 リスク・ コントロ ール ハード・ コントロ ール ソフト・ コントロ ール リスク・ ファイナ ンス 経済的支 援 ・個人・組織での3 密対策、マスク ・早期発見(検査) ・規制(入国、外出、店舗閉鎖) ・医的対応(病床、設備、薬、ワクチン) ・行動履歴確認他 ・トップの危機意識、リーダーシップ ・人々の危機意識 ・中央指揮センターの存在 ・過去からの学習力 ・リスク・コミュニケーション ・生活習慣、文化他

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経済的、情報的支援などのソーシャル・ファイナンスそしてリスク・ファイナン スがあるという点を示している。重要なのはそれらを効果のある手段から総合的 に迅速に適応することであるが、両国の対応はどうだったのか。  ハード・コントロール要因のうち、有効な手段としてマスクがあるが、この面 での台湾の対応は優れたものであった。1月31日には指揮センターはマスクを中 央政府の管理下とし、自主生産体制に踏み切った。台湾企業26社によるマスク チームが作られ、生産量のすべてを台湾政府が買い上げ、2月15日の段階では日 産400万枚、3月中には日産1300万枚に達し、世界第2のマスク大国になる。マ スクの購入は実名購入制にしてあり、国民のIDを示して皆がマスクを買えるよ うにシステム化させ、またマスクの在庫や込み具合を「見える化」させた。この 実現には政務委員となった天才IT大臣と呼ばれるオードリー・タンによるもの であった9)  一方、日本は2月から5月にかけマスク不足が社会問題となり、安倍内閣は各 世帯へのマスクの配布を実行したが、その生産は企業任せ、品質上の問題による 一部回収、配布の遅滞など、多くの不評を買った結果に終わっている。  ハード・コントロール要因のうちの医的対応については10)、台湾では平時から 感染症流行を想定した医療計画が整備されている。以下の4つのパラグラフの記 述は注10の資料を参考にしている。「この計画では、全国を大きく6つの医療圏 に分け、各医療圏に指揮官/副指揮官を配置し、隔離病院、応変病院、後方支援 病院の3種類の病院を指定している。各医療圏の指揮官たちは、平時から台湾 CDCと連携しており、非常時には政府の感染症対策本部である指揮センターと 密接に状況と方針を共有する。  応変とは、「急な変化に対応する」という意味である。その名のとおり、応 変病院は、非常時に指揮官の命に従い、優先的に患者を受け入れる。今回の COVID-19対策では、初期は平時の地域医療の枠組み内で各病院が感染者を受け 入れていたが、途中から応変病院に患者を集中させるようになった。応変病院に は、陰圧病床が一定数備わっており、日本の感染症指定病院に近い。ただ、日本 との大きな違いは、感染流行時には病棟丸ごとまたは病院丸ごと感染症専用病床 に切り替わる点だ。陰圧病床の数には限りがあるが、病院全体の機能として感染 9)野嶋、前掲書、第2章参照。 10)台湾の医的対応面については、以下の資料を参照にしている日本医師会 COVID-19有識者会議、台 湾におけるCOVID-19対応︱日本医師会 COVID-19有識者会議(covid19-jma-medical-expert-meeting. jp)参照。

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対策専用になるのだ。  応変病院の病床計画は4段構えになっている。第一段階として、病棟をひとつ 丸ごと空け、患者を待ち構える。この病棟が半分埋まれば、第二段階では次の病 棟を空ける。次の病棟も半分埋まれば、更に階層ごとに病床を空け、最終的には 病院丸ごと空ける。そ用意していた病床が埋まってから悩む、という事態を避け るためには、「半分埋まれば、次を空ける」という指標はとても実践的だ。  後方支援病院は、医療圏ごとに1施設指定され、医療センターと呼ばれる高次 機能の病院がこれを引き受ける。応変病院に対し、人員や物資、医学情報などを 供給する。後方支援病院は、感染患者を受け入れない。院内感染で高次の医療機 能が停止しないようにするためだ。患者が重症化し、医療センターでの治療が必 要だと判断された場合にはこの限りではない」。  日本の2020年度前半の医療体制については、PCR検査、個人防護具や消毒液が 不足し、院内感染や高齢者施設でのクラスター発生を防ぐことができなかった。 感染を恐れながらの診断や治療を余儀なくされ、医療現場には高いストレスがか かった。さらに感染拡大に伴い患者の受診控え、通常の手術の制限などにより医 療機関の収入は急減した11)。第3波の11月から12月には感染者数の増加が顕著で あり、病床の確保、人材の確保などの面で医療の逼迫が差し迫っている。  COVID-19に対するソフト・コントロール要因とは図表9にあるように、トッ プの危機意識、リーダーシップ、人々の危機意識、中央指揮センターの存在、過 去からの学習力、リスク・コミュニケーション他をさす。これらが一体となって ハード要因の実行はもとより、危機管理プロセスのすべての段階での実行にあた り、根幹的でバックボーン的な役割を果たす。例えば危機管理プロセスの第1段 階「状況の分析」にある要因のうち危機意識、リーダーシップ、中央指揮センター の存在、過去からの学習力などはすべてソフト要因といってもよい。ソフト・コ ントロールの重要性はこの点からも分かる。 ⑷ 第4段階「リスク情報の関係者間での共有(リスク・コミュニケーション)」  第4段階はリスク情報の関係者間での共有(リスク・コミュニケーション、以 下、RC)であり、情報の送り手と受け手間の信頼、意思疎通に基づいた情報共 有がRMプロセスのすべての段階において重要となる。感染リスク情報の送り手 を、国、専門家、専門機関とし、受け手を国民、感染者とした場合の感染リスク 11)アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020年10月25日)前掲書、p.308。

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のリスク・コミュニケーションは下記図表10のような関係主体が考えられる。  RCにおいてはコミュニケーションの送り手(専門家、政府、自治体)に対す る受け手(感染者、国民)の信頼が最も重要である。そのためには特に専門家の 専門知識、メッセージの分かり易さと正確性、そしてメッセージの根拠の提示、 迅速な公表、繰り返し関係者がほぼ同じメッセージ(一貫性)を頻繁に伝達する こと、コミュニケーション・プロセスの透明性などが重要である。  台湾では上記のRCにおける肝心なポイントをかなりクリアした対応がとられ た。それはすでに述べたSARSによる教訓で組織化されたCDCの存在が大きい。 CDCで陣頭指揮を執る陳建仁・副総統は米国のジョンズ・ホプキンス大学公衆 衛生大学院で博士号を取得している、またCDCの指揮官を務める陳時中・衛生 福利部長(厚労相)の本職は歯科医師。マスク輸出禁止や増産体制などを整えた 沈栄津・経済部長(経産相)は電気工学やオートメーション化技術を学んだ元官 僚。IT担当の唐鳳政務委員(無任所大臣)は既述したように「天才プログラマー」 と言われ、マスクの在庫一覧システムを作るための情報を民間企業に公開し、政 府情報を市民らに効率よく伝えた人物である。唐鳳氏はITやデジタル全般で、 オープンガバメントのシステムを立ち上げて政府や議会の仕事を「見える化」し 注:    はリスク情報の共有を示す。 図表10 COVID-19のリスク・コミュニケーションの関係主体

感染者

専門家(医者、 科学者他)

政府

自治体

中央監視機関、リスク・コミュニケーター

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たほか、市民と政府との対話のプラットフォームを立ち上げた12)。このように台 湾では政策決定の透明性、情報公開、IT活用などを通して、分かり易さ、専門性、 迅速性が担保される体制が構築されていった。  台湾ではCOVID-19に関する感染情報は指揮センターから流されるSNS用のイ ラストにより正確な情報がいち早く国民に知らされた。その詳細は割愛するがそ れらの情報が国民の不安解消に役立ったといわれている。情報を信頼できるソー ス(指揮センター)から国民に送り届けるプッシュ型の工夫がされており、その 中心には指揮センターがある。指揮官による記者会見はほぼ毎日午後2時に始ま り、5月末までの時点で150日以上、ほぼ休みなく続いたといわれている13)  一方日本でのCOVID-19に関するRCについては、台湾のような指揮センターの ような組織もなく、厚労省や自治体がそれぞれ情報を発信するけれども、どの情 報を信頼していいのか、国と例えば東京はどういう基準で対応するのかなどにつ いて足並みがそろっておらず、不安・不信が募った状況であった。専門家会議ら の情報発信と政府見解の発信において、役割と責任分担が不明確な面も見受けら れた。関連情報を信頼できる筋から、関係主体がほぼ同じメッセージを、いかに「見 える化」して、分かり易く、繰り返し、伝えるコミュニケーション面の弱さが露 呈した。政府のCOVID-19への対応に関する国民のNHK世論調査では、6月時点 で「大いに評価」と「ある程度評価」の合計が51%に対し、「あまり評価しない」、「全 く評価しない」の合計47%であり、国民の評価は2分されており高い評価ではな い結果となっている14)

4.国際比較を通じたCOVID19の危機管理に関する日本への教訓と有効

なRM策

 これまでの検討からCOVID-19の危機管理に関する日本への教訓と有効なRM 策について、最後に検討したい。  下記図表11はそのポイントを示したものである。 12)野嶋、前掲書、第2章参照。 13)野嶋、前掲書、第3章参照。 14)アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020年10月25日)前掲書、p.345。

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①  は国のトップの危機意識の問題であり、これが最重要である。トップの危機 意識が自治体や国民、企業などに共有されて初めて国民全体における予防、感 染率低下の源になる。またリーダーにはビジョンの共有、現実把握(直視)、 柔軟思考の実施によるリスク・コミュニケーション力が必要である。リスク・ コミュニケーションは危機管理プロセスの要であり、本文で指摘したように専 門家の専門知識、メッセージの分かり易さと正確性、そしてメッセージの根拠 の提示、迅速な公表、繰り返し関係者がほぼ同じメッセージ(一貫性)を頻繁 に伝達すること、コミュニケーション・プロセスの透明性などが重要であり、 これらの諸点において日本の対応は貧弱である。 ②  横断的な中央指揮・監視センターの設置が必要であり、そこに法的根拠、権 限の付与を与えることは勿論のこと、そこからの専門性に富んだ信頼できる 図表11 COVID-19に対する効果的な危機管理策

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メッセージの一元的発信が重要である。医学、リスクマネジメント、コミュニ ケーション、心理他の専門家による組織化が必要である。台湾の中央感染症指 揮センターはプロ集団であり、危機意識は極めて高く、政府との情報共有も良 好でありかつ拘束力を有している。そこで的確な判断を迅速に下し、即座に行 動できる体制ができている。   ただ中央指揮・監視センターが存在しても、米国のように国のトップに危機 意識が希薄だと、また政府と専門家間の信頼がないと危機管理の効果は期待で きない。 ③  感染率の高い特定地域と特定業種・企業の検査実施も有効である。人は移動 するので全国一様の対応は難しい側面があるが、まずは感染率の高い特定地域 と特定業種・企業の検査を実施することによりリスク発見を行い、そこからの リスク連鎖を遮断することが必要である。検査においては簡便な検査方法との 組み合わせも用いるというような柔軟思考も重要である。 ④  3密対策他の順守状況の適合マーク(できれば第三者評価による適合性の評 価が望ましい)の明示・公表と経済的保障の実施 ⑤  感染対策違反者への罰則、地域の医療を補完する人材、ボランティアによる 協力が必要。 ⑥  店舗などの利用者を実名申告制にする。その目的は感染者の追跡を早くし、 リスク遮断を早期に行うためである。使用目的の明確化などにより個人保護を 優先する手段も併せて行う。 ⑦ ,⑧ 感染者データのフォーマットの統一を行う。そのことで感染者の移動ルー トの把握が容易になる。そのためのIT活用も必要である。 ⑨  病院の病床と医療器具、医療関連物資、場所他の確保と医療関係者への経済 的保障の実施  リスクは繰り返すという点を考慮し、平時から病院の医療関連物資に関するサ プライチエーンのマネジメ、病院と自治体、関係隔離組織ほかとの連携について 継続的な協議を行っておくことが重要である。台湾のCDCには民間の不動産や 医療関連物資を徴用できる権限がある15)

5.おわりに

 本稿では現代的な危機管理プロセスに沿って、台湾のCOVID-19リスクの危機 15)朝日新聞、2020年12月20日朝刊。

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管理について、日本との比較も試みながら検討してきた。本稿執筆時点でも日本 のそして欧米のCOVID-19の感染者数は急増加し、東京では医療提供体制の警戒 レベルも最高度レベルに達した。台湾のCOVID-19リスク対応の最大の成功要因 は初期段階でのウイルスの遮断であったことは間違いがない。また専門家による 一貫した対応と信頼できるリスク・コミュニケーション、民間との協力などの施 策で成功している。その背景には「感染抑止最優先、経済対策はその後」という 国家目標にブレがない点があった。これらが台湾流COVID-19の封じ込めのポイ ントである。  一方、日本のそれは国民への自粛要請の一方で、それと矛盾する「Go to campaign」の実施、いいかえれば経済優先であり、国としての行動対応の指針 が「ちぐはぐ」であり脆弱な危機管理を露呈している。こうした国の行動が国民 への信頼感を弱め、ますます感染症爆発時の市民とのout breakコミュニケーショ ン効果を減殺させてしまう。  COVID-19は人の、地域の、そして国のレジリエンス力が試されている危機で あり、転換点である。国や地域そして組織のリーダーにはレジリエンスの要であ る「ビジョンの共有」、「現実把握(直視)」、「柔軟思考」の実施によるリスク・コミュ ニケーション(RC)が求められており、今こそ実効性と一貫性のある危機管理 策が求められている。

主要参考文献

・アジア・パシフィック・イニシアティブ(2020)『新型コロナ対応民間臨時調 査会調査・検証報告書』。 ・岩田健太郎(2014)『感染症パニックを防げ! リスク・コミュニケーション入 門』光文社新書。 ・上田和勇(2016)『ビジネス・レジリエンス思考法-リスクマネジメントによ る危機克服と成長-』同文舘。 ・ジャレド・ダイアモンド(2019)、小川・川上訳『危機と人類(上)』日本経済 新聞社。 ・野嶋 剛(2020)『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』扶桑社新書。 ・日本経済新聞、チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス:日本経 済新聞(nikkei.com) ・朝日新聞、新型コロナウイルス感染者数の推移:朝日新聞デジタル(asahi.com) ・厚生労働省資料(2020年)

(19)

・日本医師会 COVID-19有識者会議「台湾におけるCOVID-19対応、covid19-jma-medical-expert-meeting.jp」

・日本環境感染学会 リスク・コミュニケーション委員会(2005)「WHOアウト ブレイク・コミュニケーション・ガイドライン(日本語版)」(原本はWorld Health Organization(2005)WHO Outbreak communication guidelines)。

(本稿は2020年7月11日に行われた日本リスクマネジメント学会関東部会での報 告を加筆修正したものである。)

参照

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