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日本におけるコクガンの個体数と分布(2014-2017 年)
藤井 薫 道東コクガンネットワーク.〒 086-1109 北海道標津郡中標津町西 9 条南 8 丁目 3 番地1 摘要 日本国内に渡来するコクガンBranta bernicla の個体数と分布を明らかにす るために,道東コクガンネットワークが中心となって2014-2017年までの3年間, 秋期,冬期,春期全国一斉調査を実施した.全国32か所の調査地の中で,コク ガンが記録されたのは27か所であった.その中でアジア太平洋地区のコクガン の重要渡来地となる1%基準値の65羽を超えていた地域は,国後島,野付湾, 風連湖,浜中・琵琶瀬,厚岸湾,浦河,伊達周辺,渡島半島東部,函館湾周辺, 青森県下北半島周辺,青森県陸奥湾周辺,青森県太平洋側,岩手県,宮城県南三 陸①,宮城県南三陸②,宮城県蒲生海岸の16か所であった.本調査で記録され た最高羽数は2015/2016秋期の8,602羽で,野付湾ではその84%にあたる7,233 羽が記録された.日本全国のコクガンの渡来数は,秋期は8,600羽,冬期は2,500 羽,春期は3,100羽と推定された.秋期と春期には国内の80-90%のコクガンが 野付湾と国後島南部に集中し,春期は国後島南部の比率が高くなった.秋期に 北海道東部で8,600羽以上のコクガンが記録されるのに対して,国内の越冬数が 2,500羽,春期の北海道東部の記録羽数が3,100羽と異なっており,60%以上の 個体がどこで越冬し,どこを通過しているのかは不明だった. キーワード:コクガン,野付湾,国後島,日ロ共同調査,一斉カウント調査,ア ジア太平洋地域,渡り (2017年10月7日受理) コクガンBranta bernicla
は,北極圏のツンドラで繁殖し,日本では冬鳥として主に浅い海の湾内や海岸や漁港に渡来し越冬する(Lane & Miyabayashi 1997).その越冬数は,全
国で1,000羽以下と比較的数の少ないガン類と考えられてきた(日本野鳥の会研究センター 1992).しかし,北海道東部の野付湾に6,300羽以上のコクガンが秋期に通過していることが 明らかになった(野付半島ネイチャーセンター2009).個体数の少ない鳥として,国の天然 記念物に指定されているほか,日米渡り鳥等保護条例,日ロ渡り鳥等保護条例,日中渡り鳥 保護協定の対象種であり,環境省レッドリスト2015では絶滅危惧Ⅱ類(VU)に北海道レッ ドリスト改訂版(2017)では留意(N)に選定されている.さらに世界のコクガンの総個体 数が50万羽と推定されている中で,日本およびアジア太平洋地域の個体群は10,000羽と希 少な個体群であることが指摘されている(Syroechkovskiy 2006). これまでのコクガンの生息状況の調査としては,国内の主な越冬地である宮城県南三陸で 最大403羽(嶋田ほか 2013),渡島半島東部・津軽海峡・陸奥湾で合計1,060羽(平田ほか 2015)が越冬していることが報告されている.秋期の調査としては,前述したように野付湾 を中心に合わせて6,300羽以上のコクガンが確認(野付半島ネイチャーセンター 2009)され, 冬期よりも秋期により多くのコクガンが渡来していることがわかっている.
の主なコクガンの渡来地15か所で,1989/1990から1994/1995までの6シーズンの調査を まとめ,秋期に北海道東部へ3,076-4,000羽が渡来すること,冬期は北海道南部と本州北部 でその13%にあたる316-512羽が記録されることを明らかにした.また,野付湾と対岸の 国後島との関連性や韓国,中国での越冬について示唆している.しかし,その後国後島での 調査を含む全国規模でのコクガンの調査は行なわれていない. そこで道東コクガンネットワークは,希少な日本およびアジア太平洋地域のコクガン個体 群の秋期,冬期,春期を通とおした季節的な個体数と分布の推移を明らかにし,コクガンの 保全のため日本国内の重要生息地を抽出することを目的に,2014-2017年までの3シーズン のコクガンの一斉カウント調査を実施した。この結果には渡来状況がよく知られていない北 方四島の状況も含まれており,未解明な要素の多い日本およびアジア太平洋地域のコクガン の渡りを考えるうえでも重要な情報であるので,ここに報告する.
調 査 地 および 調 査 方 法
調査は2014/2015から2016/2017までの3シーズンにわたって行なわれ,3年間で調査 された調査地は11道県32か所である.(図1).これらの調査地で日本国内の主なコクガン の渡来地は,ほぼ網羅できたと考えている. 各年度の調査地は,2014/2015シーズンの秋期は5か所,冬期は13か所,春期は10か 所であった.2015/2016シーズンの秋期は8か所,冬期は28か所,春期は24か所であった. 2016/2017シーズンの秋期は19か所,冬期は29か所,春期は26か所であった.実施年度,季節毎に調査地数に差異があるのは,Lane & Miyabayashi (1997) により, 秋期と春期は北海道東部にほとんどのコクガンが集中し,ほかの調査地ではコクガンの渡来 が記録されないことと,逆に冬期は日本各地に分散してコクガンの渡来が記録されることが 明らかになっているため,季節により調査しない場所があったためである.また,多人数が 参加するボランティア中心の調査であったため,32か所全ての調査地で毎年の調査実施はで きなかった. 調査は,道東コクガンネットワークの呼びかけで国内31か所はボランティア調査員が, 北方領土の国後島は,ロシア国家自然保護区機関が管轄する「国後島自然保護区クリリス キー」事務所の職員が実施した. コクガンの季節毎の渡来数と全国的な分布状況を把握するために,2014/2015から秋期 (11月上旬実施),冬期(1月中旬実施),春期(3月下旬実施)の1シーズンに3回の調査 を2016/2017までの3年間で合計9回実施した.見通しのよい高台や砂浜,漁港などから, 8倍以上の双眼鏡,15倍以上の望遠鏡をもちいてコクガンの個体数をかぞえた.群れが大き い場合はカウンターを使用し,観察地点名,個体数,利用環境,観察時刻,天候,群れの行動, 標識鳥の有無,幼鳥比,群れのいた環境を記録し,合わせて可能であれば5万分の1地形図 へコクガンの観察位置を記録した.コクガンは干潮時に採食のために海岸に飛来し,個体数 を調査しやすいことが多いが,その状況は調査地によって異なるため,調査時刻は調査員の 判断に委ねた.その他,出来る限り各調査地の調査方法と他のガン類調査との共通化を図る ために,ガン類調査マニュアルver.1(日本雁を保護する会 1994)を参考にした. 調査は,全国一斉に同一日,同一時間の調査の実施が望ましいが,調査地の天候や調査員 が多人数のため,同一日の実施が困難だった.そこで,秋期,冬期,春期のそれぞれの特定
の1週間を指定し,その期間に調査を実施した.衛星送信機を装着したコクガンの冬期の 行動範囲は2kmから6km程度(Shimada et al. 2016)だったので,1週間の調査期間内 に別の調査地に移動する可能性は小さいと考えられ,記録個体数に対する影響は少ないもの と考えた.各年度の調査期間は,2014/2015秋期:2014年11月28日から12月7日,冬 期:2015年1月30日から2月8日,春期:2015年4月11日から4月20日,2015/2016 秋期:2015年11月6日から11月15日,冬期:2016年1月22日から1月31日,春期: 2016年4月8日から4月17日,2016/2017秋期:2016年11月18日から11月27日,冬 期:2017年1月27日から2月5日,春期:2017年3月31日から4月9日であった. 全てのデータを調査期間毎に集計した.同一調査地で調査期間内に複数回の調査が実施 された場合は,その最大値を利用した.複数回の調査を含めた全データおよび調査期間外 のデータは,Web資料1に示した. 4 3 2 地形図出典 http://www.freemap.jp/item/japan/japan1.html 1 5 6 7 8 9 10 11 12 13 15 1614 17 18 19 20 21 22 25 23 24 26 27 28 29 30 31 32 図 1. 調査地. 数字は以下の各調査地点を示す. 1: 紋別周辺 , 2: 網走周辺 , 3: 羅臼 , 4: 国後島 , 5: 野付湾 , 6: 風連湖 , 7: 根室半島 , 8: 浜中・琵琶瀬 , 9: 厚岸湾 , 10: 釧路周辺 , 11: 十勝川河口 , 12: 浦河 , 13: 静内周辺 , 14: 室蘭周辺 , 15: 伊達周辺 , 16: 渡島半島東部 , 17: 函館湾周辺 , 18: 青森 県下北半島周辺 , 19: 青森県陸奥湾周辺 , 20: 青森県日本海側 , 21: 青 森県太平洋側 , 22: 岩手県 , 23: 宮城県南三陸① , 24: 宮城県南三陸② , 25: 宮城県蒲生海岸 , 26: 秋田県 , 27: 山形県 , 28: 茨城県 , 29: 千葉県 , 30: 富山県 , 31: 鳥取県中海 , 32: 沖縄県
Fig. 1. Study site. The numbers indicate each study site. 1: Monbetsu, 2: Abashiri, 3: Rausu, 4: Kunashiri, 5: Notsuke bay, 6: Lake Furen, 7: Nemuro, 8: Hamanaka, 9: Akkeshi bay, 10: Kushiro, 11: Tokachi, 12: Urakawa, 13: Shizunai, 14: Muroran, 15: Date, 16: Oshima, 17: Hakodate, 18: Shimokita, 19: Mutsu bay, 20: Aomori Nihon Sea, 21: Aomori Pacific, 22: Iwate, 23: Minamisanriku 1, 24: Minamisanriku 2, 25:G amou, 26: Akita, 27: Yamagata, 28: Ibaraki, 29: Chiba, 30: Toyama, 31: Tottori, 32: Okinawa.
結 果
1. コクガンの記録数 3年間に記録されたコクガンの季節毎の合計個体数は,秋期は2014/2015に4,317羽, 2015/2016に8,602羽,2016/2017に5,936羽が記録された.この2015/2016秋期の8,602 羽は3年間の調査の最大記録数である.冬期は2014/2015に2,164羽,2015/2016に887羽, 2016/2017に2,485羽が記録された.春期は2014/2015に2,859羽,2015/2016に2,705羽, 2016/2017に3,129羽であった(図2).また,3年間の調査で,1羽以上のコクガンが記録 されたのは全国32か所の調査地の中の27か所であった(表1).この中で特に注目される のが,2016/2017シーズンの春期に沖縄で初めてコクガンが記録されたことである. 秋期は各年度共に北海道東部の国後島,野付湾,風連湖,厚岸湾に集中していた(表1). 冬期は,渡島半島東部,函館湾などの北海道南部と陸奥湾周辺,宮城県南三陸などの本 州北部に比較的広く渡来し,その数は1つの調査地でみると600羽以下と秋期に比べると少 表 1 各調査地でのコクガンの確認状況.空欄は調査をしていないことを示す.Table 1. Number of observed Brent Geese each study site. ● indicates an importan site by Ramsar Convention standard
秋 Fall 冬 Winter 春 Spring
Wpe 調 査 地 2014/15 2015/16 2016/17 2014/15 2015/16 2016/17 2014/15 2015/16 2016/17 1%基準 Study site 11/28-12/7 11/6-15 11/18-27 1/30-2/8 1/22-31 1/27-2/5 4/11-20 4/8-17 3/31-4/9 1 紋別周辺/Monbetsu 0 0 0 0 0 2 網走周辺/Abashiri 0 0 2 0 0 3 羅臼/Rausu 30 4 国後島/Kunashiri 241 799 630 3 0 32 594 987 897 ● 5 野付湾/Notsuke Bay 3,351 7,233 4,345 317 152 0 1,930 1,506 1,516 ● 6 風連湖/Lake Furen 475 411 382 4 0 0 113 0 0 ● 7 根室半島/Nemuro 1 2 0 1 0 0 0 8 浜中・琵琶瀬/Hamanaka 4 30 147 392 7 204 ● 9 厚岸湾/Akkeshi Bay 246 130 250 154 1 0 2 0 5 ● 10釧路周辺/Kushiro 0 0 0 55 0 11十勝川河口/Tokachi 0 0 0 0 0 12浦河/Urakawa 31 0 0 0 200 ● 13静内周辺/Shizunai 2 0 0 0 0 14室蘭周辺/Muroran 6 31 0 11 15伊達周辺/Date 7 149 147 ● 16渡島半島東部/Oshima 392 467 145 23 ● 17函館湾周辺/Hakodate 28 184 40 289 0 26 ● 18青森県下北半島周辺/Shimokita 110 37 2 ● 19青森県陸奥湾周辺/Mutsu Bay 559 380 45 91 ●
20青森県日本海側/Aomori Nippon Sea 1 0 15 12 3 8
21青森県太平洋側/Aomori Pacific 70 88 3 0 ● 22岩手県/iwate 23 84 0 ● 23宮城県南三陸①/Minamisanriku 1 242 329 275 433 28 53 ● 24宮城県南三陸②/Minamisanriku 2 19 57 131 62 ● 25宮城県蒲生海岸/Gamou 0 2 42 32 68 0 0 0 ● 26秋田県/Akita 5 9 0 27山形県/Yamagata 0 0 0 0 28茨城県/Ibaraki 0 0 0 29千葉県/Chiba 0 0 3 0 2 30富山県/Toyama 0 1 0 0 0 31鳥取県中海/Tottori 0 0 0 0 0 0 32沖縄県/Okinawa 1 合計 total 4,317 8,602 5,936 2,164 887 2,485 2,859 2,705 3,129 33,084 * Wetlands Internationalの(http://wpe.wetlands.org/)アジア太平洋地域のコクガンの推定個体数は5,000-8,700羽であり, 1%基準値は65羽なので,それ以上の場所を●で示した. *
なかった.また,秋期に集中していた北海道東部の国後島,野付湾,厚岸湾,浜中・琵琶瀬 などでも合わせて300-500羽の群れが越冬していた.冬期の個体数は最大でも2016/2017 の2,465羽で,秋期の最大数の28.7%だった. 春期は秋期と同様に,北海道東部の国後島,野付湾を中心に合わせて3,100羽以上が集 中的に渡来したが,主な越冬地である北海道南部と本州北部にも,春期の調査時の3月下 旬から4月上旬の時点で200-700羽が残留していた.春期の確認数の最大は2016/2017の 3,129羽で,秋期の最大数の36.4%だった. 2. 国後島と野付湾に渡来するコクガンの生息状況 国後島におけるコクガンについてはAntipin (2014) が1987-2014年の記録をまとめて おり,国後島南部のケラムイ崎とケラムイ湖で最大522羽,歯舞群島の志発島で30羽の 記録があるが,今回の記録も野付湾の北東16km対岸に位置する国後島南部のケラムイ湖 とケラムイ崎に集中しており,それ以外の地域では記録されなかった.個体数は,秋期は 2015/2016の799羽,冬期は2016/2017の32羽,春期は2015/2016の987羽が最大であっ た(表1). 国後島南部と野付湾に渡 来するコクガンの全国に占 める割合は秋期と春期に高 くなり,特に2015/2016秋 期 は93.4%,2015/2016春 期 は92.2%と 国 後 島 南 部 と野付湾に集中的に渡来し た(図3).秋期は野付湾の 割合が73.2-84.1%と高く, 国後島南部は5.6-10.6%で あった.春期は野付湾の割 合は48.4-67.5%,国後島南 部の割合は20.8-36.5%で, 図 2. コクガンの全国の個 体数.
Fig. 2. Count survey result of Brent Geese (2014-2017). The result of national total of all monitored sites. 4,317 2,164 2,859 8,602 887 2,705 5,936 2,485 3,129 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000 2014/2015 2015/2016 2016/2017
秋期 Fall 冬期 Winter 春期 Spring
記録羽数 Number of individuals 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 2014/15 2015/16 2016/17 2014/15 2015/16 2016/17 2014/15 2015/16 2016/17
秋期 Fall 冬期 Winter 春期 Spring
各調査地の個体数割合 % individuals
4 国後島 / Kunashiri 5 野付湾 / Notsuke Bay その他 / others
図 3. 国後島と野付湾に渡来するコクガンの全国に占める割合. Fig. 3. The percentage of the Brent Geese recorded in Kunashiri
秋期とくらべ国後島南部の割合が高くなった.
考 察
本調査で得られたデータは実施年度ごとに調査地数が異なっていた.しかし,コクガン が秋期と春期に集中する北海道東部の国後島,野付湾,風連湖,浜中・琵琶瀬,厚岸湾,主 要な越冬地である渡島半島東部,函館湾周辺,青森県下北半島周辺,青森県陸奥湾周辺,青 森県太平洋側,宮城県南三陸①,宮城県南三陸②,宮城県蒲生海岸については3年間を通し て調査が実施されており,これら13か所の合計羽数は総数の97.5%(N=33,084)を占めて いることから,3年ともコクガンの生息状況を十分に把握できていると判断した. コクガンの個体数の年および季節変化 本調査で記録できたコクガンの個体数は年により大きく異なっていた.コクガンは海上 や沿岸に広く分散して分布していることが多く,調査日の天候や潮の干満などの条件によっ ては生息していても記録できない個体がおり,記録できる個体数の変動が大きくなると考え られる.したがって各調査地への渡来数は3年間で記録できた平均値ではなく,最大数が実 際の値に近いと考えられる.つまり,日本国内のコクガンの渡来数は,秋期は8,600羽,冬 期は2,500羽,春期は3,100羽ほどと推定される. アジア太平洋地区のコクガンの推定個体数は,日本で2,500-3,000羽,中国で2,500-5,700 羽,あわせて5,000-8,700羽とされている(Wetlands International http://wpe.wetlands. org/).コクガンは秋期には北海道東部を中心に8,600羽以上が渡来していたが,冬期は2,500羽が記録されただけで,残りの6,000羽程の越冬地が不明である.これはWetlands
Internationalによる個体数推定で示されている中国の越冬個体数2,500-5,700と近い値で
ある.また,韓国・中国のアマモ
Zostera marina
の藻場で5,000羽程が越冬するという推定 値(Ganter 2000)にも近い.したがって,Lane & Miyabayashi (1997) が示唆したように, 今回の結果からも,秋期に北海道東部を通過したコクガンは一部が北海道南部や本州北部で 越冬し,多くは韓国や中国大陸まで渡って越冬していると考えられる. 春期に北海道東部を通過するコクガンは3,100羽であったことから,日本国内で越冬し たコクガンは,春期に北海道東部を経由して繁殖地に向かうと考えられる.これは,宮城県 南三陸の越冬地で衛星送信機を装着されたコクガン4羽が春期に北海道東部の野付湾,国 後島,風連湖,根室半島を経由して渡った(Shimada et al. 2016)ことからも支持される. また韓国や中国に渡って越冬していると考えられる6,000羽については,春期は北海道東部 を経由することなく,直接中国大陸を北上し繁殖地まで渡る可能性がある.ただし,春期に 北海道東部を通過する個体群は中継地での滞在期間が短く,調査結果よりも多くのコクガン が通過している可能性もある. コクガンの分布の季節変化に影響する要因 日本に渡来しているコクガンの分布の季節変化を,3年間の全国一斉カウント調査をもと に概略すると,秋期の初認となる10月中旬以降から徐々に渡来数が増加し,11月に入ると 北海道東部のアマモの藻場がある各湾内を中心に,8,600羽以上が渡来した.特に野付湾と 国後島南部には83.2-93.4%が集中していた.これは,世界のコクガンでも多くの中継地や越冬地がアマモの大きな藻場が発達する地域に集中する傾向が強い(Ganter 2000)ことと 一致している.実際に,北海道東部に渡来する秋期のコクガンの糞の分析から,食物のほと んどがアマモであり(野付半島ネイチャーセンター 2009),北海道東部の浅い湾内に発達し たアマモの藻場がある海域は安定的で容易にコクガンが食物を摂取できる環境であるため, 集中的な渡来をしていると考えられる.国後島南部と野付湾は距離的には16kmほどしか 離れておらず,大きなアマモの藻場のある浅い波静かな湾内という類似した環境でもあり, 渡来した個体の行き来も考えられるが,Shimada et al.(2016)の4羽の衛星送信機装着個 体は国後島南部に留まって,野付は利用しておらず,野付湾と国後島南部の個体の行き来 はないのかもしれない. 12月以降,北海道東部の各湾内の凍結が始まり,アマモを採食することができなくなる と,一部の越冬群を除き,徐々に北海道南部や本州北部などの越冬地への南下・移動が本 格化する(野付半島ネイチャーセンター 2009). 冬期の主な日本国内の越冬地では,これまでに北海道渡島半島東部,津軽海峡,青森県 陸奥湾で75群,1,060羽(平田ほか 2015),岩手県陸前高田市の広田湾から宮城県石巻市 北上川河口の南三陸では,291-403羽が記録されている(嶋田ほか 2013).本調査の結果で も北海道南部の渡島半島東部や函館湾,本州北部の青森県陸奥湾,宮城県南三陸などで600 羽以下の群れでいずれも分散的に越冬していた. コクガンの主要な越冬地の渡島半島東部,函館湾,陸奥湾,宮城県南三陸などの越冬地は, 日本の現存藻場のアマモ場分布図(環境庁自然保護局 1994)で5,000ha以上の大規模な現 存藻場面積を有する地域とコクガンの主要な越冬地は一致していた.しかしコクガンの冬期 の主な食物は,北海道渡島半島東部,津軽海峡,青森県陸奥湾では,スガモ属
Phyllospadix
spp.
やアオサ属Ulva spp.
や流れ藻と考えられており(平田ほか 2015),南三陸では,アオノリ類
Enteromorpha spp.
やヒトエグサMonostroma nitidum
などの海藻類(嶋田ほか2013)であった.アマモ類の利用も確認されているが(嶋田ほか 2013),アマモの生えて いる水深が深い等の影響からか野付半島のようには主要な食物として利用されていないよ うである.さらに,越冬地になっている地域のアオサ・アオノリの現存量もそれほど多い 場所とはなっていないため(環境庁自然保護局 1994),1か所で多くのコクガンをやしなう ことは難しく,分散して越冬しているのだと考えられる. コクガンの保全のための重要生息地の抽出 ア ジ ア 太 平 洋 地 区 の コ ク ガ ン の 重 要 渡 来 地 の 基 準 値 と し て, 最 新 のWetlands Internationalの水鳥の推定個体数(http://wpe.wetlands.org/)を参考にすると,アジア 太平洋地区のコクガン B. b. nigricans の個体数は,日本で2,500-3,000,中国で2,500-5,700 合わせて,5,000-8,700羽とされ,その1%基準値は65羽となる.調査の結果から,2014 年から2017年の3年間の調査の中,国後島,野付湾,風連湖,浜中・琵琶瀬,厚岸湾,浦 河,伊達周辺,渡島半島東部,函館湾周辺,青森県下北半島周辺,青森県陸奥湾周辺,青 森県太平洋側,岩手県,宮城県南三陸①,宮城県南三陸②,宮城県蒲生海岸の16か所の調 査地点でこの1%基準値を超えており,アジア太平洋地区のコクガンの個体群にとってこの 16か所が重要渡来地であることが示された(表1).
謝 辞
本調査は,国後島と北海道東部のコクガンの渡来状況を日ロ共同で調査することを目的にスタートし, さらに国内の正確な越冬数を把握する為に,次第に全国規模へと調査地が拡大していった.その結果, この3年間で全国各地の以下の121名の方(敬称略,詳細な各調査地のデータや所属は,Web資料1) にご協力いただいた.青木幸則,相沢成信,秋山恵美子,阿部拓三,有田茂生,井上大介,石下亜衣紗, 石渡一人,池内敏雄,岩坂菜奈,今堀英明,漆原 悟,大町愛香,大野眞澄,大森貴史,折野和樹,長 船裕紀,神谷要,上村左知子,神林潤,川崎里実,川崎康弘,川人聡,川端隆,柏木敦士,鎌田裕治, 加藤義則,神谷 要,金澤晋一,木村耕,菊地弘保,草薙亜紀子,工藤茜,熊谷桂二,黒沢信道,呉 地正行,古南幸弘,近藤忠男,今兼四郎,桜井憲二,佐々木未悠,佐々木紀嘉,佐藤賢二,佐藤瑞奈, 貞國利夫,佐場野裕,澤祐介,椎名佳の美,澁谷辰生,嶋田哲郎,下斗米真梨,下本みどり,篠原盛 雄,杉山好子,鈴木卓也,鈴木崇文,鈴木敏祥,鈴木康,善浪めぐみ,高橋和弘,高橋智美,高橋佑亮, 武内順子,武内秀仁,武田忠義,谷岡隆,竹浪了,田村智恵子,田村憲夫,塚田哲也,徳元茂,外山 雅大,手嶋洋子,東川翔太,中岡利泰,中嶋順一,中塚智子,鳴海真澄,新谷耕司,西沢文吾,原星 一,原中洸樹,枷場ゆかり,平田和彦,平泉秀樹,日高哲二,古瀬亜希子,藤井薫,深津恵太,船橋功, 本多里奈,橋本幸三,松木鴻諮,松田隆明,松本 護,松原一男,箕輪義隆,武藤岳人,武藤満雄,森 竹祐,山岸洋樹,山崎浩子,矢萩樹,四ツ家孝司,吉岡俊朗,吉田茂夫,和田祥司,渡辺義昭,渡辺恵,Anatoliy Milichkin,Borodavkina M,Igor Bobyr,Kozlovsky,Linnik Elena,Maxim Antipin,
A Yakovlev,H Imai,Hitoshi Sekishita,K Shinohara,T Maruya, Yotty.多くの方々は,私個人 はもとより道東コクガンネットワークのメンバーとも何の面識もない上に,交通費等の一切の金銭的な 補助や支援のない事を承知の上で,コクガンの生態解明の趣旨をご理解し賛同して協力して頂いた.心 よりこの場を借りて皆様のご尽力に感謝申し上げたい.また,本調査をまとめるにあたり貴重なご意見 を頂いた神山和夫,植田睦之,嶋田哲郎の各氏,ロシア人研究者との連絡に尽力して頂いた福田知子氏, アマモの藻場について情報を提供して頂いた河内直子氏,英文要約を引き受けて頂いた黒澤優子氏,す べての方々に礼申し上げる.
引 用 文 献
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Population size and distribution of Brent Geese in Japan (2014 to 2017)
Kaoru Fujii
Eastern Hokkaido Brent Goose Research Network, 8-3-1 Minami, Nishi 9-jo, Nakashibetsu Town, Shibetsu, Hokkaido 086-1109, Japan
To estimate the population size and distribution of migrant Brent Geese Branta bernicla in Japan, the Eastern Hokkaido Brent Goose Research Network organized simultaneous counts during autumn, winter and spring for 3 years between 2014 and 2017. Out of the 32 survey sites in Japan, 27 sites recorded one or more individuals. Among these sites, 16 sites recorded more than 65 individuals, which is a threshold number representing 1% of the estimated regional population (Ramsar Criterion 6). Those sites are considered to be important for migration, and include Kunashir Island, Notsuke Bay, Lake Furen, Hamanaka/Biwase, Akkeshi Bay, Urakawa, the vicinity of Date, the eastern part of Oshima Peninsula, the vicinity of Hakodate Bay, the vicinity of Shimokita Peninsula (Aomori Prefecture), the vicinity of Mutsu Bay (Aomori Pref.), the Pacific Ocean coast in Aomori Pref., Iwate Pref., Minamisanriku 1 (Miyagi Pref.), Minamisanriku 2 (Miyagi Pref.), and the coast of Gamou (Miyagi Pref.). The maximum total population recorded in these counts was 8,602, which was recorded in the autumn of 2015 and more than 84% of the total (7,233), was recorded in Notsuke Bay. The population size for Brent Geese that visit Japan was estimated to be approximately 8,600 in autumn, 2,500 in winter and 3,100 in spring. Eighty to ninety percent of Brent Geese in Japan during autumn and spring migrations concentrated in an area including Notsuke Bay and southern Kunashir Island, and the ratio of birds that visited southern Kunashir Island was higher in spring. When evaluating the number of birds observed overwintering in Japan (2,500), and the number of spring passage birds observed in eastern Hokkaido (3,100), the wintering sites and spring migration routes of up to 60% of the observed fall passage migrants (8,600) are unknown.
Key words: Brent Goose, Notsuke Bay, Kunashir Island, Japan/Russia Joint survey, simultaneous count survey, Asia-Pacific region, migration
Web資料 Electronic Appendix http://www.bird-research.jp/appendix/br13/13a06.pdf
Web資料1. コクガン一斉調査の詳細データ.