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モンゴル国ドンゴイン・シレー遺跡の三次元記録

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Academic year: 2022

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(1)

著者 山口 欧志

著者別表示 YAMAGUCHI Hiroshi

雑誌名 金大考古

巻 79

ページ 43‑51

発行年 2021‑03‑31

URL http://doi.org/10.24517/00061895

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止

(2)

モンゴル国ドンゴイン・シレー遺跡 の三次元記録

山口欧志 ( 奈良文化財研究所 )

Ⅰ . はじめに

 拙稿は、日本とモンゴル国が国際共同発掘調査を 実施したドンゴイン・シレー遺跡を対象とするも のである。ドンゴイン・シレー遺跡の発掘調査は、

2015 年から 2017 年にかけて、科学研究費助成事 業基盤研究 (A)( 海外学術調査 )「モンゴル東部新発 見の突厥碑文調査と遺跡保護に関する考古学・歴史 学的研究」( 代表:大澤孝・大阪大学教授 ) の一環 として実施した。筆者はこのプロジェクトを推進す る分担者として、主に文化財のデジタル記録と活用 の部門を担当させていただいた。

 今回の発掘調査における記録は、従来のように拓 本や写真などを用いた碑文の記録のほか、発掘調査 の成果から過去の遺跡の姿を復元するため、短い調 査期間のうちに遺構と出土した複数の碑文を立体的 に記録する必要があった。そのため、デジタル技術 を用いた三次元計測を導入した。

 この方法は、三次元レーザースキャナーなどの高 価な機器を必要とせず、大・小さまざまな大きさの 文化財に適用でき、さらに屋内外で計測可能な方法 である。そのためこの方法は、文化財の三次元記録 をいち早く進めてきた欧米だけでなく、日本やモン ゴル国、そして他の多くの国々で急速に普及が進ん でいる [ 山口 2018]。

 そこで、遺跡や碑文の内容の詳細は大澤らの綿密 な考察に譲り、拙稿ではドンゴイン・シレー遺跡の 調査で実施した遺構と碑文の三次元記録の方法とそ の成果を提示し、今後の文化財の調査研究・活用に 寄与したい。

Ⅱ . ドンゴイン・シレー遺跡の概要

 ドンゴイン・シレー遺跡 ( 図 1) は、モンゴル国 東部に位置するスフバートル県テブシンシレー郡に 所在する(1。モンゴル国の首都ウランバートルから 東南東、直線距離にしておよそ 400㎞、車で 1 日

程度の距離にある。遺跡は最も近い集落からおよそ 40㎞程度の距離にあり人里離れている。遺跡の詳 細な位置は、ハンドヘルド型GNSS端末 ( 地球上の 現在位置を半径 5m ~ 15m 程度の精度で計測する 簡易機器 ) で記録している。しかし、再盗掘の防止 などといった文化財保護のため、遺跡の位置の詳細 を記すことを避け、緯度 46 度 34 分、経度 111 度 49 分とまで記す。

 図 2 は、USGS(2から取得したLANDSAT8(3のデー

タを元にQGIS ( オープンソースプログラムの GIS)

で解析して標高を表す図を作成したものに遺跡の位 置をプロットした地図である。遺跡は、東南に伸び る台地上の最高地点に築かれ、周囲に広がる平地を 広く見渡す立地に築かれたことが分かる。この地点 は、白石 [2017] の研究により東部モンゴルの交通 路の結節点であることが指摘されている。本遺跡は、

交通の要衝を広く望む、また同時に往来する人々が 道中の重要なシンボルとして認識していた可能性を 指摘できる。

 さて、ドンゴイン・シレー遺跡の発掘調査により、

方形のマウンドとこれを囲む一辺約 12 mの周溝、

花崗岩から作られた計 14 本の碑文 ( このうち 2 本 は原位置不明 )、そして土中に埋もれたままの碑文 の基礎部分を検出し、土器や動物骨などが出土した

[Osawa 2017]。このうちマウンドの中央に位置する

碑文の根元から出土した炭化物は、放射性炭素年代 測定法により 8 世紀代のものであることが分かっ

図 1 遺跡の位置

図 2 遺跡の立地

(3)

た [Erdene-Ochir N. et al.2017]。また大澤による碑文 解読の成果 [ 大澤 2017] と合わせると、遺跡は突 厥第二可汗国期に築造されたことが分かった。

Ⅲ . 遺跡・遺構、碑文の三次元記録

1. 概要

 遺跡の発掘調査は不可逆的な破壊行為である。一 度発掘した遺跡は、二度と元の状態に戻すことはで きない。くわえて、現場で収集する記録は、遺跡の 調査研究だけでなく、保存や活用の点からも求めら れている。したがって、発掘で明らかになる遺跡の 情報は可能な限り豊かに後世へ伝える必要がある。

 この遺跡の特徴は、遺跡立地、その周辺微地形、

遺構の立体的な構造、14本もの碑文である(写真1)。

遺跡の立地は、図 2 のように無料で入手した人工 衛星のデータとオープンソースプログラムなどを用 いて可視化できる。遺跡の立地状況は、現地での調 査開始前に情報収集することが既にこのように容易 になっている。

 遺跡・遺構・遺物の三次元記録は、先述したように、

三次元レーザースキャナーによる記録とは異なる方 法を用いた。それは近年普及している SfM-MVS で ある。

 SfM-MVS (SfM/MVS) は、Structure from Motion and Multi-view Stereoの略称である。SfM-MVSを簡 潔に説明すると、対象を撮影した複数の画像から、

対象の三次元モデルを構築する技術である。主に コンピューター上で動作するプログラムに実装さ れ利用されている(4。SfM-MVSは、画像から特徴 点を抽出して複数の画像の位置を算出する SfM と、

SfM で算出した画像の位置と疎な点群を元に密な点 群、メッシュの構築、テクスチャーマッピングをお こなう MVS の組み合わせである。コンピューター

ビジョンやロボットビジョンといった分野から考え 出された [ 織田 2016]。一見すると新しい技術のよ うだが、1992 年にすでにその基礎研究 [Tomasi &

Kaneda 1992] があり、コンピュータービジョンの分

野では一定程度の水準にまで洗練された枯れた技術 である。近年のコンピューターの性能の向上やデジ タルカメラの普及によって、急速に一般化した。

 土木や農林水産業、防災など様々な分野でSfM- MVSは普及している。文化財の分野も同様である。

たとえば独立行政法人国立文化財機構奈良文化財 研究所では、SfM-MVSを利用した文化財の記録と GIS を利用した管理・活用をテーマとした全国の文 化財担当者向けの研修を実施するなどして、文化財 記録と管理・活用の質の向上を図っている [ 奈良文 化財研究所 2019]。

2. 記録対象とその記録方法の概要

 ドンゴイン・シレー遺跡の発掘調査の三次元記録 に利用した方法・機器の概要は次の通りである。な お三次元記録は、2015 年 9 月と 2016 年 9 月に実 施した。

 対象と方法の概要は次の通りである。

(1) 遺跡周辺の微地形

 UAV を用いた空中写真撮影→撮影画像を元に

SfM-MVSを用いて三次元モデルを構築→ GIS によ

る地図化

(2) 遺構全体の詳細な三次元記録

 デジタルカメラを載せたポールを 5 m程度伸ば し、撮影→撮影した画像を元にSfM-MVSを用い て三次元モデルを構築

(3) 碑文の詳細な三次元記録

 デジタルカメラで出土した碑文の撮影→撮影し た画像を元にSfM-MVSを用いて三次元モデルを 構築

 

 なお、文化財は対象の色味も重要な情報であるた め、➀~③のいずれの方法も撮影時の最初にグレー カードを写した写真を撮影し、Adobe社Lightroom での現像時に画像のホワイトバランスの調整を行っ ている。SfM-MVSの解析に用いる際に推奨される 画像形式が Tff であること、より詳細な三次元モデ ルの構築を実現するため、現像時に出力するファイ ル形式は、Tff を採用した。

 また、以下のような機器を使用した。

写真 1 発掘調査の様子

(4)

・UAV(DJI 社製 Inspire1 Pro)

・トータルステーション (Leica TCR805s)

・ハンドヘルド型 GNSS 端末 (Garmin GPSMAP 64s)

・SfM-MVS 実 行 プ ロ グ ラ ム (Agisoft社 Metashape Professional)

・Panopole( 約 1 ~ 6 mまで伸縮調節可能なカーボ ン製一脚 )

・デジタルカメラ (Sony社製 α7R、24mm 単焦点 レンズ使用 )

・デジタルカメラ (Olympus社製 OM-D E-M1 Mark II、24mm 単焦点レンズ (35mm 換算を使用 ))

・グレーカード

Ⅳ . 三次元記録の方法と結果

1. 遺跡周辺の微地形

 この調査は、遺跡周辺の微地形を可視化し、現時 点での遺跡の全体像を把握するため、各年の三次元 記録の中で最初に行った。実施日は 2015 年 9 月 12 日と 2016 年 9 月 15 日である。手順は以下の とおりである。

 まず、調査区の地球上の位置を記録するため、簡 易ハンドヘルド型 GNSS 端末およびトータルステー

ションを用いて、調査区付近に基準点を同経度と なるよう南北 100 mの距離に 2 点を設置した。こ の方法は、原点 (O) の絶対位置の座標精度が半径 5

~ 15m 程度になり、正確な方位は担保できないが、

トータルステーションで距離を測ることにより基準 点 2 点間の距離の正確性を担保し、この 2 点を器 械点および後視点として、他の必要な計測点を計測 するものである。

 本来は、簡易ハンドヘルド型 GNSS 端末ではな く、より高精度に計測可能な GNSS 測量器によるス タティック測量等を実施しなければならないが、高

写真 2 UAV を用いた写真撮影

図 3 調査区周辺の微地形図

(5)

額機器の持ち込みやインターネット回線を必須とす る調査条件の制約もあり実現できなかったため、上 記のような方法を導入した。

 次に、調査区の外側を囲むようマーカー 12 点 を 配 置 し ト ー タ ル ス テ ー シ ョ ン を 用 い てUTM (Universal Transverse Mercator)座標で計測した。

 そして、調査区上空に UAV を飛行させ、2015 年の調査時は、上空約 20 mから 254 枚の写真を 撮影した ( 写真 2)。撮影時間は約 8 分を要した。

2016 年の調査時は、より広範囲を対象として記 録し、上空約 15 mから 692 枚の写真を撮影した。

撮影時間は約 29 分を要した。

 撮影後は撮影した画像から三次元モデルを構築 できるか否か確認するため、直ちにラップトップ 型 PC を用いて仮解析を行い確認用の三次元モデル を構築した。そして現地での調査終了後にワーク ステーションを用いて解析した。図 3 は、2016 年 9 月時点の三次元モデルからDEM (Digital Elevation

Model)を構築して、調査区付近の標高値を含むデー

タを作成し、標高 10cm 毎に等高線を描画および 色別に示したものである。この図から、遺跡が立地 する台地の中でも最高地点に遺跡が築かれたことが 分かる。また、遺構が周辺より高くなっており、か つてはマウンド上を呈していたことを看取できる。

 図 4 は 2015 年 9 月時点の三次元モデルをオル

ソ画像化 ( 正射投影画像化 ) して、QGIS(GIS プログ ラムの 1 つ ) に読み込み、地図化したものである。

図は線画ではなく、フルカラーの図なので、現地の 植生や土の質感まで記録することができ、調査区の 状況が良く分かる。

2. 遺構全体の詳細な三次元記録

 遺構全体を詳細に三次元記録するため、約 5m 伸 ばしたカーボン製の一脚にデジタルカメラを搭載 し、タブレット PC を用いてリモート撮影した ( 写 真 3)。撮影した画像は 317 枚である。この作業は モンゴル国の研究者への方法の説明を並行して実施 し、約 80 分を要した。

 撮影した画像から SfM-MVS を用いて三次元モデ ルを構築、GIS 上で図化したものが図 5 である。方 図 4 調査区周辺の状況

写真 3 ポールを用いた写真撮影

(6)

形状のマウンドを囲う溝を有し、そのマウンド上に は地中に埋設された碑文の根元が遺存している様 子、マウンドの表面には白色の化粧土が施されてい たことなどが分かる。また図化に先立ち三次元モデ ルを構築しているので、任意の角度や大きさに回転・

拡大縮小して詳細を観察できる。

3. 碑文の詳細な三次元記録

 ドンゴイン・シレー遺跡の発掘調査により確認し た碑文をデジタル形式で記録し、保存や活用に資す ることを目的として、SfM-MVS による三次元記録 を実施した。これらの碑文は大澤らが拓本による記 録も行った。

 三次元記録の対象とした碑文は、調査期間と発掘 調査を含め調査計画の手順の都合上、遺存状態の良 い資料 9 本であった。碑文は質量が大きく、造営 時のように立てて据え付けることは到底できないの で、横に寝かせた状態で写真撮影した。撮影は、便 宜的に表面と裏面を設定し、まず表面を撮影した。

その後、発掘調査に従事していたモンゴルの調査者 ら 8 名程度と共に碑文を転がして裏面にし、裏面 に相当する部分を撮影した。この時、大きさの情報 を与えるためにスタッフを配した。撮影は図 6 の

ように碑文を囲むよう、そして画像が十分に重複す るように進めた ( 図 6)。また遺構に突き立てられた 状態で遺存していた碑文の基底部 13 点については、

その詳細な三次元形状を SfM-MVS を用いて記録し た。

 SfM-MVS を用いた碑文の三次元モデル構築は以 下のような手順で行った。

1. 表面の三次元モデルを構築する。

2. 裏面の三次元モデルを構築する。

3. スタッフの目盛を参照して三次元モデルにス ケールを与える。

4. 表面と裏面の三次元モデルの不要部分を削除す る。

5. 表面と裏面の三次元モデルの共通部分を利用し て三次元モデルを融合させ、表裏一体の三次元 モデルを構築する。

 以上のような解析を進め、図 7 および図 8 のよ うな碑文の三次元モデルを構築した。この作業を現 地で計測した碑文 9 本に対して実施し、コンピュー ター上で碑文を回転拡大縮小表示して観察できるよ うにした。またコンピューター上で光源の位置を任 意に変更したり、三次元モデルの凹凸を強調したり 図 5 遺構の詳細

(7)

することにより、碑文の文字やタムガ の解読の補助ができるようになった。

 さらに、CloudCompare(5というオー プンソースプログラムを用いて、折れ たり割れたりした状態で出土したバラ バラになっていた碑文をコンピュー ター上で 1 つに接合した ( 図 9)。

 この接合方法の長所は、コンピュー ター上で接合のシミュレーションを 行うため、より少ない労力で、しかも 実物を傷つけることなく接合の妥当性 を検討することでき、実物の接合作業 をより確からしいものにできる点にあ る。

4.場の仮想復元

 ドンゴイン・シレー遺跡は、14 本 もの碑文が確認された特異な遺跡であ

図 6 碑文撮影のイメージ 図 7 碑文の表裏一体

図 8 碑文の三次元モデル

(8)

る。盗掘を受け、碑文は全て倒 れ、なかば埋没していたが、幸 い多くの碑文は遺存状態が良好 であり、碑文の基底部も多くが 遺構として大地に遺っていた。

 そこで、遺構として確認でき た碑文の基底部を基準として、

遺構と出土した碑文を接合すれ ば、造営時から現在に至るまで に様々な変化はあっただろう が、往時の場に近づくことはで きるのはないかと考えた。

 そのために行った作業の最終 的な結果が図 10 である。この 図は、ドローンで撮影した画像 から構築した遺跡周辺の微地形 モデル、一脚を利用して高所撮 影した画像から構築した調査区 全体の三次元モデル、碑文基底 部の詳細な三次元モデル、そし て出土した碑文をコンピュー ター上で接合して作成した。

 図 11 はドンゴイン・シレー での祭祀の風景を想像したも の で あ る [Erdene-Ochir N. et al.2017]。この想像図と比較す ると、図 10 ではマウンドは明 確には残存しておらず、現存す る遺構から復元した碑文は大き

図 9 碑文の仮想接合

図 10 遺跡の場の復元

図 11 ドンゴインシレー遺跡復元想像図

(9)

図 12 遺跡の風景

く傾いている。

 マウンドの有無は、前掲の調査区周辺の微地形図 から直径約 25 mのマウンドの痕跡を看取できるの で、その高さや規模の詳細は不明だが存在を指摘で きる。また碑文の傾きは、碑文基底部の埋設状況の 詳細が不明なため、図 10 と図 11 のどちらがより 往時の姿に近いか確定できない。ただし、他の碑文 の事例では直立しているものが多いことから、造営 後の経年劣化や盗掘による遺跡破壊などによって、

碑文が傾いた可能性もふまえる必要があるだろう。

 本手法は、遺跡発掘調査の過程で収集したデータ をコンピューター上で総合し仮想的に復元するもの である。従来の方法 ( イメージの提示者が頭の中で 遺跡の情報を総合する ) と共に提示することで、遺 跡の往時の姿をより他者に具体的に伝える助けにな ると考える。

 また本手法は碑文の基底部の三次元モデルを基準 としてバラバラな状態で出土したコンピューター上 で碑文を接合する。この作業によって、それぞれの 碑文の向きを確定することができる。個々の碑文の 内容は大澤によって解読されているので、それら碑 文がどのように組み合わせられ、マウンド上に配置 され、特別な場が作られていたのか、実資料に根ざ した詳細な検討が可能になる。今後の課題としたい。

 さらに、このような成果と作業過程は、往時の遺 跡の姿を復元するにはどのような調査を実施しなけ ればならないか、という今後の調査方法を検討する ための材料として利用することができる。

 たとえば、遺跡の現状の風景を捉えるならば、位 置情報付き 360 度高解像度パノラマ画像の作成と いう方法も有効である ( 図 12)。この図は 2015 年 9 月 13 日午前 7 時にドンゴイン・シレー遺跡の発 掘調査区中央に立った時の風景である。通常の写真 や調査区全体の三次元モデル、衛星画像などでは得 られない質の情報が記録されており、こうした情報

も遺跡の風景を伝える上で基礎的な資料となるだろ う。

Ⅴ . おわりに

 以上、モンゴル国ドンゴイン・シレー遺跡の三次 元記録とその活用について検討した。本研究の主な 特徴は、遺跡・遺構・遺物をデジタル技術を用いて 三次元記録し、それらのデータをコンピューター上 で復元して、衛星画像などのデータも利用しながら 遺跡の場を復元しようとした点にある。

 今回用いた方法は、特段高度な知識や技術は不要 であり、欧米では大学生・大学院生が大学の講義で 習得する内容である。つまり誰でも試行可能な方法 である。

 かつて、濱田耕作は「所詮三「ダイメンション」

を有する品物は、矢張り三「ダイメンション」のも のを以てしなければ、其の眞の性質を傳へることは 困難である」[ 濱田 1930] と指摘し三次元記録と可 視化の必要性を説き、「調査の方法及び性質の如何 は、考古學者と弄古家との區別を生ずる所以にして、

吾人は一切の科學的方法を以て、可及的に精細なる 調査を行ひ、其の記録を製するに努めざる可からず」

[ 濱田 1922] と述べた。

 発掘調査をともなう遺跡の調査研究は、不可逆的 な破壊行為なので、真摯な調査を蓄積しながら、こ れからも継続的にその方法を深化・洗練させなけれ ばならない。発掘調査の記録と活用の方法もその 1 つである。遺跡を未来に継承するため、今後もより 良い方法を検討していきたい(6

謝辞:

 本研究は、JSPS 科研費 JP26257008 の研究成果 の一部である。本研究の膨大なデータ解析には独立

(10)

行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所埋蔵文 化財センター遺跡・調査技術研究室の高速計算機を 利用させていただいた。また、碑文の三次元モデル の構築および復元作業は、同研究室の中村亜希子 客員研究員ならびに李賢惠氏に御協力いただいた。

記して感謝の意を表します。

註:

1) 図 1 は、

"Global Map of Mongolia ©ISCGM/ State Administration of Geodesy and Cartography Mongolia"

の データを元に

QGIS

を利用して作成した。

2)

USGS

United States Geological Survey

( アメリカ地質 調査所 ) の略称である。

3)

LANDSAT8

( ランドサット 8) は、

USGS

が運用する 地球観測衛星である。地形や土地被覆の把握、気候 変化などの分野で利用されている。無料で広く利用 できる環境が整えられている。

4)SfM-MVSを実行するプログラムは、以下のようなも のがある。有償のプログラムは、

Agisoft

Metashap (

旧 名

Photoscan)、 Bentley

ContextCapture、 Capturing Reality

RealityCapture

な ど が あ る。 ま た オ ー プ ン ソ ー ス プ ロ グ ラ ム で は、

VisualSFM

COLMAP

Meshroom

などがある。

5)

CloudCompare

 

https://www.danielgm.net/cc/

( 参照

2020

11

3

日 ) は三次元モデルを閲覧・解析をするた めのオープンソースプログラムの 1 つ。

6) たとえば碑文の文面をより簡便・迅速に記録する有 効な方法として、上椙(本号掲載)のひかり拓本な どが挙げられる。

参考文献:

Osawa Takashi, 2017, The position and significance of the inscription and site of Dongoin Shiree of the Eastern Mongolia in the Archaeological and Historical research of the Ancient Turkic period, Archaeological Research and Preservation in Eastern Mongolia:40-51.

山口欧志 2018「文化財のデジタル文化資源化:見たま まの姿を伝え、 深層を探る」『デジタル技術で魅せる 文化財:奈文研と ICT』クバプロ:135-158.

白石典之 2017「東部モンゴルの交通路から見たドンゴ イン・シレー遺跡の立地背景」国際シンポジウム『モ ンゴル考古学のいま』

Erdene-Ochir N., Bolorbat Ts., lkhundev G., 2017, New results of archaeological excavation at the Dongoin Shiree

site, Archaeological Research and Preservation in Eastern Mongolia: 249-256.

大澤孝 2017「ドンゴイン・シレー碑文の配置構造から 見た被葬者と遺跡建造の歴史的背景について」国際 シンポジウム『モンゴル考古学のいま』

織田和夫 2016「解説:Structure from Motion (SfM) 第 一回 

SfM

の概要とバンドル調整」『写真とリモート センシング』55 巻 3 号:206-209.

Tomasi Carlo, Kaneda Takeo, 1992, Shape and Motion from Image Streams under Orthography: A Factorization Method, International Journal of Computer Vision, 9:

137-154.

奈良文化財研究所 2019『デジタル技術による文化財情 報の記録と利活用』奈良文化財研究所研究報告第 21 冊 .

濱田耕作 1930「序」『考古學関係資料模型目録』上野 製作所 .

濱田耕作 1922『通論考古学』大鐙閣 .

『金大考古』バックナンバー

 『金大考古』は金沢大学図書館の学術情報リ ポジトリ KURA において公開しています。また、

掲載論文の一覧は研究室ホームページに掲載し ています。

金沢大学学術情報リポジトリ KURA:

https://kanazawa-u.repo.n.ac.jp/ndex.

php?acton=pages_vew_man&actve_acton

=repostory_vew_man_tem_snppet&ndex _d=718&pn=1&count=20&order=17&lang=

japanese&page_d=13&block_d=21

金沢大学考古学研究室 HP:

http://archaeology.w3.kanazawa-u.ac.jp/

cg-bn/wk.cg?page=FrontPage

参照

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