生活科における「基礎・基本」とは何か
木 村 吉 彦 事
(平成
14年
2月
6日受理)
要
0日:=.小論は,これまでの「基礎・基本」論を整理・分析し,それをもとに,教科としての特性をふ まえた生活科の「基礎・基本j を明らかにしようとするものである。
生活科の「基礎・基本」には次のような特徴があることが明らかとなった。
①「学び方を学ぶj ことが「基礎・基本jに含まれる。
「具体的な活動や体験を通す
Jことが学習の中核にある生活科にあっては,学習の方法や学習 のプロセスも「基礎・基本」に含まれる。生活科は,
i結果重視」ではなく,あくまで「過程重 視」の教科なのである。
②「生きる力」を育むための「基礎・基本」である。
生活科では,子どもの「課題発見
Jの段階から子どもが学習に関わることができる。これは,
f
生きる力」の内容として考えられる「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判 断」するための力の獲得をめざしたものと言える。
③生活者として必要と思われる気付きや体得してほしい内容である。
生活科における学習内容の「基礎・基本」は,
i生活者として必要と思われる気付きや体得して ほしい内容
Jである。生活科の『指導要領』にある指導内容は,到達目標を内に含みながらも,
学習の方向を示す「方向目標
Jと捉えることが肝要でトある。教師は,子どもがその方向に向かつ て「学んで、いるかj i 育っているかjをみとり,子どもに学びの方向性を示しながら「学習環境 の整備」ゃ「支援」を行うことがその役割となる。
以上から,過程重視の「学習観j ,
i生きる力」を前面にすえた「学力観j ,子どもを生活者と捉 える「子ども観j,これら
3つの特徴をもっ生活科の教科としての性格が鮮明になった。
KEY
羽
TORDSLife Environment Studies
生活科
Fundamental Contents of Study基礎・基本
Zest for Li
ving生きる力 D i
rectional Aim方向目標
1.は じ め に
生 活 科 が 新 設 さ れ て 約
10年の年月が流れた。生活科がもたらした成果として,
I子 ど も 理 解 の 重要'性への再認識
JI小 学 校 教 育 へ の 『 体 験
Jr 遊 びJの 導 入
JI地 域 へ の 着 目
JI子 ど も と 共 に 創 る 授 業 」 等 い く つ か が 挙 げ ら れ よ う 。 こ れ ら の 成 果 は ,
I学 校 教 育 に 空 い た 風 穴
Jと し て , 平 成
14年 度 か ら 本 格 実 施 さ れ る 「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 j 導 入 に 向 け て の 「 呼 び 水
J的 な 役 割 を 果
幼児教育講座
652
木 村 吉 彦
たしている。
一方, r 総合的な(性格をもっ)教科
Jという特質の捉えにくさから,生活科と従来教科との 違いについて,現場教師たちの中には未だに戸惑いが見られる。また,確実に身に付けたい力 はあるにもかかわらず, r 総合的な性格jという暖昧さや「教え込み」への危倶からか,生活科' についての「基礎・基本」についてはこれまでほとんど語られていない九
一方,学力低下論が我が国の教育界を揺るがす中で,あらためて「学力とは何か
Jとりわけ
「基礎学力とはなにか
J,それは「生きる力」とどうかかわるのか, といった「基礎・基本」論 の吟味が必然的なものとなっている。
小論は,①これまでの「基礎・基本」論を整理・分析することを通じて,②「基礎・基本」
の一般論を明らかにし,それをもとに,③教科としての特性をふまえた生活科の「基礎・基本」
を明らかにしようとするものである。さらに小論は,④生活科の「基礎・基本」がもっ教育学 的な意味について考えることをも目的としている。
「基礎・基本」について語るという,ある意味で大それた試みを行うことは,
10年間の生活 科教育の総点検(文献も実践も)を行ったうえで初めて実現できるものかもしれない。しかし
このような「総点検」はもとより現在の筆者の力量を超えている。限られた文献の検討を通し て , r 生活科実践への指針」となりうるものとしての「基礎・基本」を提案することに,小論の 問題意識はとどまるものであることをあらかじめ断っておきたい。
2.
r 基礎・基本J論の整理
1 ) r 基 礎j と「基本j
まず, r 基礎・基本」がどういうものとして論じられているのかについての確認からはじめよ
70( 1 ) r 基礎
Jと「基本
Jを分けて論じる考え方
安彦忠彦によれば, r r 基礎』とは小学校
3年ぐらいまでの技能と感覚のことであり, r 基本』
とは高校以上にも適用される中学校までの概念と方法」のことである。このうち, r 基礎」とさ れる「技能」の中の「知的技能」たる
3R'sを「基礎学力」と見て,それをすべての人に必要な ものとして強調しているへまた,安彦は「これまでの『基礎・基本
J論は『立場の表明』であっ て; r 時代を越えて妥当な.1 r 基礎・基本]論ではなかった」と強調する。
谷川彰英は, r 基礎・基本」の一般論として, r 基礎とは,学習のベースになるもの。それが ないと,その上に積み重ねられるべき学習が
7まく成立しないもの」であり, r 基本とは,ある
一定の学習内容の中で中核的な位置にある内容」であるとしている。谷川は,この一般論をも とに生活科における「基礎・基本」を論じようとしているへその内容については,後に検討す る 。
( 2 ) r 基礎・基本」を連ねて論じる考え方
天野正輝は, r 便宜的には区別されるものの,実際の指導内容は結びついたものであるから,
基礎・基本と連ねて使用することの意味が見いだせる」と言う九また,柴田義松は「基礎的に 対立する語は『発展的』であり,基本的に対立するのは『派生的jだとみなされるが,それぞ れの教科において基本的な内容を精選すれば,前に学んだ基本的内容が後の学習の基礎となる。
同ーの内容が,観点の相違によって,基本と呼ばれたり基礎と呼ばれたりするにすぎない
Jと
述べている九
このように, r 基礎・基本
Jを論じるとき, r 基礎」と「基本j を分けて論じる立場と連ねて 論じる立場のあることが分かる。
2) r 基礎・基本」の内容
次の私たちの課題は「基礎・基本jの内容についての論を整理し,小論てや準拠する「基礎・
基本
Jの一般論を確定することである。「基礎・基本」の内容を特定できるものとして考察する 立場から,その内容についての論は次の
3つに分けられるべ
( 1 ) 知識・技能のこと
「基礎・基本」の内容を「すべての学習の基礎となる読・書・算 (3R ' s )
Jあるいは「国民 として社会生活を営む上で必要最低限の知識・技能(ミニマムエッセンシャルズ ) J などとする 考え方がある九これは,
1950年前後の「基礎学力」論争の時から言われている。
( 2 ) 学習指導要領に盛られている内容のすべて
教育課程レベルの「基礎・基本jとは, r 学習指導要領に盛られている内容のすべて」である,
という見解がある。この見解は,各教科の「基礎・基本j について特集した『初等教育資料』
平成
12年
7・8 . 9月号に文部省(当時)の見解として明確に示されている。従って,生活科を 例に取れば, r 生活科の基礎・基本は,学習指導要領・生活に示された目標及び内容であり。そ の中核は 具体的な活動や体験"である
Jということになるへ
(3)
r 問題解決能力Jr 思考力・判断力・表現力Jr 関心・意欲Jr 学ぷ力Jなどの資質や能力 ここでいう「資質や能力
Jは , r 自ら学び自ら考える力 jを育成する教育観への転換を図るた めに,これからの「基礎・基本」にぜひ含めなくてはならないものであると思われる。これは,
r 関心・意欲Jr 学ぷ力Jなどの資質や能力 ここでいう「資質や能力
Jは , r 自ら学び自ら考える力 jを育成する教育観への転換を図るた めに,これからの「基礎・基本」にぜひ含めなくてはならないものであると思われる。これは,
などの資質や能力 ここでいう「資質や能力
Jは , r 自ら学び自ら考える力 jを育成する教育観への転換を図るた めに,これからの「基礎・基本」にぜひ含めなくてはならないものであると思われる。これは,
「生きる力」育成のための「基礎・基本」ということができる。同時に,生活科の「基礎・基 本j を考える上できわめて重要な視点、である, と私は考える。
天野は,基礎学力論争が「学力とは何か,国民の要求する学力とは何か,国民教育の目指す 最低必要量の学力とは何か,それを可能にする内容と方法と評価,組織や体制はどうあるべき か,情意領域は学力概念に含めるべきか否かという,すぐれて教育の本質にかかわる問題に発 展する契機であった j と指摘する(下線は引用者)へ
また,中野重人は, r 今次改訂で厳選された基礎・基本は,従前の基礎・基本の延長線上にあ
るが,ただ,その考え方にあっては,新しい視点が強調されているといってよい。それは,端
的にいって『生きるカ』をはぐくむための基礎・基本は何かということである。…この新しい
学カ観は,伝統的な学力観の否定ではなしむしろ,これまで軽視されていた学力の観点をク
ローズアップしたものであるといってよい。それは,端的にいって, r 関心・意欲・態度.1, r 思
考・判断j, r 表現』などを,学力の観点として重視することにあったのである j と述べる(下
線は引用者)
10)。新しい学力観の延長線上に「生きるカ」があることは,多くが認めるところで
あろうし,私も同意する。その「生きる力
Jとは何かを考えることが,これからの教育の「基
礎・基本」をとらえることになるのである。このように「基礎・基本j論争の流れを見てくる
と,高田喜久司も言うように,
rw基礎・基本』概念は,教育内容や指導事項の基礎・基本から
人間形成の基礎・基本を問う方向へ台その中身がより広範となり,かつ拡大されている」こと
が分かる
11)。
654
木 村 吉 彦
(4)
r 基礎・基本」とは
以上のような「基礎・基本」論を考えるとき,まず私には「基礎
Jと「基本
Jを分けて論じ る現実的な意味が見いだせない。また,時代状況をも考慮するとき,小論では「基礎・基本j の内容を「全人的な人間形成にとって必要不可欠のもの
Jとしたい。具体的には, ( 3 ) で紹介し たような「課題発見や課題解決の力・学ぶ力・思考力・判断力・表現力・関心・意欲等」の資 質や能力のことである。これらの資質や能力は,後にも述べるが, r 到達目標を内に含んだ方向
目標」として設定され,その実現が目指されるべき内容である。
この前提のもと,次に私たちは生活科の「基礎・基本jについて, r 人間形成のための基礎・
基本」をも視野に入れながら考察していこう。
3.
生活科における「基礎・基本j
1
)生活科の「総合的な
J性 格
私は,生活科という教科において最も中核になる部分で,かつ,それを明らかにすることで
「生活科実践への指針
Jが与えられるものを,生活科の「基礎・基本」と呼びたい。その意味 では, r 基礎・基本j を明らかにしようとすることは,むしろ, 自覚的に「立場の表明」であ る。また,生活科の「基礎・基本
Jを論じることは,単なる『学習指導要領』の範囲だけの問 題ではない, とも考えている。つまり,きわめて教育学的な課題である「生きる力とは何か
Jが間われているからである。生活科は, r ねらいと内容の明示された
J従来教科の性格と,今求 められている「生きる力」を育む教科としての性格をあわせもつ教科であると私は捉えている。
つまり,これが生活科の「総合的な性格」の内実である。このことは,生活科の新設が,臨教 審答申から始まり「総合的な学習の時間」導入に向かつて進んできた我が国の教育改革の流れ の中間地点にあったことを示している。
谷川も言うように, r 生活科で重要なことは,他の教科にならって基礎・基本を説くことでは な」い。しかし,谷川│は,生活科の「基礎・基本j は「子どもたち一人ひとりが自分なりの内 容を創り上げていくことができる力である」と言う。谷川は,生活科の場合「教授内容(=教 師がお膳立てして教えるべき内容) Jは明確にされてはいない, とも言うが,生活科で取り上げ るべき内容は
8つ明示されている
(W小学校学習指導要領解説 生活編j<以下『解説』と略記〉
pp.25‑41.
)。その内容を「教師が教えるべき」内容と考えるから,このようなことになってしま うのではないか。そうではなく, r 子どもに学んでほしい j内容と捉えてはどうか。従来教科と 同じ枠組みの中で(谷川が一般論として「基礎」と「基本」を分けたように),生活科の「基礎・
基本」を論じることには無理があると考えるべきであろう。
ここで私は,生活科の「ねらいや内容」を(従来教科のような) r 到達目標」ではなし「方 向目標
Jとして捉えることを提案したい。教師は,それらを「教え導き,画一的にその達成を めざす内容
Jとしてではなく, r 子どもが学んでほしい内容jと捉えることが重要で〉ある。教師 は子どもがその方向に向って育っているかどうかを確かめ,子どもたちがその方向へ向かって いけるような学習環境の整備をする役割を担うのだ, と捉えればよいのではないだろうか。
2
)生活科の「基礎・基本」
これまで述べてきたことを前提として,生活科の基礎・基本について詳しく見ていこう。
生活科においては,
I活動や体験」を通した学習の展開が前提となるため,学習者にとっては,
「学習の方法
Jについての学びと「学習の内容jについての学びというこ側面の学びが期待で きる。従来教科にあっては, どうしても「ある知識を覚えたか,ある技能を身に付けたかj と いう結果が強調されがちであった。それに対して生活科では,
Iどのようにして発見したか,気 付いたか」というような,知識獲得の過程にも目を向け,その子なりの「学ぴ方」を認め,教 師はそれをていねいにみとる必要がある。
( 1 ) r 方法j面からの「基礎・基本
Jこれは,学習の方法つまり学習の仕方に関する内容である。
①具体的な活動や体験を通して学ひ"方を学ぶ
生活科においては,
I学び方を学ぶ」ことが「基礎・基本」の第一に挙げられる
1九これは,
「生きる力」の内容として考えられる「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判 断
Jするための前提となる「学び方の学び」である。そこでの学びには,体験に基づく実感を 伴った知(知識・技能もあれば知恵と呼ぶにふさわしいものもあるであろう
)Jの獲得が期待できる。さらに言えば,
I活動や体験を通して学び方を学ぶ」ことは,
I総合的な学習の時間
Jは もちろんのこと,生活科以外の各教科においても,これからの学習指導の重要な要素になって くるであろう。
②「学び方を学ぶ」とは
「学び方を学ぶ」とは,具体的には次のような学び方を経験することである
1ヘ
a.
対象と直接かかわることによって学ぶ
自分から直接対象に働きかけることによってこそ,対象からの反応が得られ,何かを学べる のだという実感を子どもにもたせたいものである。そして,その対象を選ぶことは極力子ども の興味・関心に任せたい。実体験の希薄な現代の子どもたちに必要な学びであろう。
b.
感性や情緒(喜怒哀楽)に訴える体験を積み重ねる
これも,実体験の希薄な子どもの実態と関わる。子どもが自分のもつ諸感覚をフルに使い感 性を磨き,また,喜怒哀楽に訴える情緒的な経験の機会を十分に確保したい。こうした「学び 方
Jを多く経験することが,将来の「主体的判断力(個性的な感じ方・ものの見方・考え方)
Jの基礎を創ることになり,子どもの「らしさ」づくりにつながる。もちろん,究極的には「自 立への基礎
Jを養うことへと結びついていく。
私は,体験も知識も本来個別的で個性的なものであるという「知識観
Jが必要な時代になっ ていると考えている。これまでの学校教育では,
I自分以外の誰かが必要だと考えた知識」の習 得・復元にあまりに多くのエネルギーが費やされ過ぎたのではないだろうか。そうではなく,
感性や情緒を揺さぶる「個性的な」学びが必要なのである。
c
学びの場を地域に求める
小学校低学年児童の実態からして,子どもたちにとって身近な存在へ着目し,そこを学びの 場として設定することは自然な展開である。また,それが重要な学習方法である。なぜなら,
地域は,社会的な諸課題の宝庫であるからである。子どもの興味・関心と教育課題の接点を提 供してくれる場としての地域を,子どもに実感させることが必要である。この発想、は,総合的
な学習へと連続していく。
( 2 ) r 内容」面からの「基礎・基本
Jこれから述べる内容は,
w解説』の「基本的な視点
J(p.20.)をヒントとしながら,私が実際
656
木 村 吉 彦
に教室に足を運んでみとることができた,低学年児童の具体的な学びの姿をもとに列挙したも のである。これらは,子どもたちに生活者として必要であると思われる気付きや体得してほし い内容である。これらは,単なる(実感を伴わない)知識や(必要に裏打ちされない)技能と してではなく,具体的な体験や活動を通して身に付けることが期待されている。そのため,あ えて「知識・技能」とはしなかった。
例示の会話文はすべて子どもが語ったものである。
①自分と人や社会とのかかわり
(具体的には)ア学校・通学路・地域にある施設や人の存在への気付き 例)
Iがっこうには がある。 がいる。」
イ施設(含学校)における人の仕事や働きへの気付き 例)
Iがっこうの
00せんせいは,‑してる。」
ウ施設の使い方の体得
例)
I公園では しちゃいけない。」
エ人とのかかわり方の体得 例)
Iルールを決めて遊ぼう。」
オ家庭における家族や自分の役割への気付き
例)
I家のお
00さんは,会会ではたらいてるよ。
J②自分と自然とのかかわり
(具体的には)ア学校・通学路・地域にある自然物への気付き 例)
I学校には口口の木があるよ。」
イ自然現象への気付き
例)
I春にはこの辺に
00が咲くけど,夏になると…。」
ウ自然物や自然現象とのかかわり方の体得 例)
I口口のはっぱで をつくったよ。」
エ対象物の'性質への気付き
例)
I輪ゴムってよく飛ぶなあ。
JIウサギは抱くとあったかいよ j
③自分自身への気付き
(具体的には)ア学校・地域で自分が生活していることへの気付き 例)
I僕のかよってる学校は食食小学校だよ。
Jイ他者との比較による自分の「らしさ
JIよさ」への気付き
例
Hぼくは・わたしは,‑がとくいだよ。 がだいすきだ。 ができるよ。
J14)ウ家族のなかでの自分の成長への気付き
例)
Iぽくは・わたしは,こんなに小きかったんだ。」
エ生活習慣の存在への気付きとその体得 例)
I朝起きたら,顔を洗うんだよ。
J( 3 )
i内容j面の「基礎・基本jに関する考え方
「はじめに j で述べたように,生活科では,はじめから「教え込み
Jがあってはならない。
「はじめに気付くべき内容あり」ではないからである。そのため,ここでは,特に「内容
J面 に関する「基礎・基本」をどのように捉えたらいいのかについて検討する。
①長期的視野に立つ
これらの「気付き
Jや「体得j等は,
2年聞かけてゆっくり獲得すればよいと考えたい。
1年生・
2年生という発達段階や個々の子どもの発達の実態をよく見てから,一人一人に見合っ た形の獲得がなされればそれで、よい, と考えて欲しい。
②子どもの「充実感jの重視
生活科では,子どもの「自己充実感=満足感」が大前提である。とりわけ, 1年生にあって は満足感が大事で、ある。「あー,楽しかった。
Jr あ一,おもしろかった。」というつぶやきが聞 こえてくればそれでよい。それが自己満足で あっても,である。低学年児童の発達特性とも関 わるが, 1年生児童は幼児期のなごりをかなり色濃く残している。生活科設立の趣旨として,
①子どもの発達の実態に即すこと(=幼小の連続の重視),②子どもの学校への適応の円滑化(=
遊び中心の幼児教育から学習中心の学校教育への橋渡し), の
2点が大きな意味をもっていると 思われるが,この二つのねらいを実現するためにも,生活科では子どもの「充実感」を最優先
し,そのあとに「気付き jや「体得」を位置づけるのが妥当であろう。
③『幼稚園教育要領』の考え方の援用
私は,生活科の内容面の「基礎・基本」として述べた諸項目に対して,
w幼稚園教育要領』の
「領域jの考え方を援用したい。それは具体的には,諸項目を次のように捉えたい, というこ とである。
a.
子どもの「育ち」あるいは「学びj を捉える視点
『幼稚園幼児指導要録j (平成
12年版)では各「領域jにおける「ねらい」のことを, r ね らい二発達を捉える視点」としている。それを援用すれば,これらの諸項目は,子どもが活動 や体験を通して何を学び,どういう点で育ちが見られるかを教師が分析する視点である。到達 目標として設定し,教師が一方的にその獲得を目指して「やらせ」るための目安ではない。学 びの方向を示す「方向目標」と捉えたい。
ここで大事なことは,方向目標と到達目標を対立的に捉えないことである。子どもを総体と して捉えて「育ち」や「学び」の方向性を確認しながら子どもをみとることが基本である。し かしながら,実際の学習場面ではそれだけではないはずである。つまり,個々の子ども一人一 人を見たとき, r この子にはぜひこういう力を付けてもらいたい」という教師の願いがあるであ ろうし,個々の授業場面において「この授業(単元)では,クラス全員にこういうことができ るようになって欲しい
Jというねらいもあるであろう。子どもを大きく包み込むものとしての
「方向目標」と, 日々の教育実践の中で子どもをみとる視点としての「到達目標」という二本 立ての発想で学習活動を組み,子どもを支援していくことが重要で、あると思われる。 bにも述べ るように,単元構成や支援の視点としてこれら諸項目を捉えたいのである。
ここで,小論に残された課題が見えてくる。
「方向目標」と「到達目標」との関係については,幼児教育と小学校教育との連続・非連続 という,我が国の教育課程上の問題とかかわってくる。また,指導案レベルでは二つの目標を どう書き分ければいいのか,実践レベルでは教師の「支援」がどう変わってくるのか,評価に おいては「二重評価」になるのか等々,実践レベルでの問題も見えてくる。これらは,幼小連 携を進める上で幼児教育教員と小学校教員との「教育観jの根幹に関わる問題であろう。この 大きな課題については,今回は指摘のみにとどめ,次の論考にその考察の場を譲りたい。
b.
教師の活動構想や学習環境設定に際しての「指標」
これら諸項目は,教師の活動構想や学習環境設定に際しての「指標
Jでもある。具体的には,
658
木 村 吉 彦
「前の単元(活動)では,主として「①人や社会とのかかわり jの項目が多かったので,次は,
できるだけ「②自然とのかかわり」に関する項目が出そうな活動を考えようという方向性を持 つ,ということである。これら諸項目は,子どもの「育ち jや「学び」をみとる視点であると 同時に,教師の活動設定への視点ともなるのである。
C. I
気付き
jI体得」は複合的に現れる
これは,みとり方の問題である。これらの「気付き
jI体得」は,実際の活動においては,ま ず間違いなく複合的(つまりは総合的)な現れ方をする。従って,分析の視点としては用いて も,一つ一つの項目を孤立化させて考えるべきではない。教師としては.
Iみとり」の幅を広く とって複眼的に子どもを見ることを心がけなければならない。
4.
おわりに一生活科の「基礎・基本」がもっ教育学的意味
これまで,私たちは.
I総合的な性格」をもっとされる生活科について,その「基礎・基本」
とは何かを追究してきた。これまでに明らかになった,生活科の「基礎・基本」には次のよう な特徴があると考えられる。
①「学び方を学ぶ」ことが「基礎・基本」に含まれる。
「具体的な活動や体験を通す」ことが学習の中核にある生活科にあっては,学習の方法や学 習のプロセスも「基礎・基本」に含まれる。「どれだけの知識を獲得したか」といった「結果重 視j ではなしあくまで「過程重視j なのである。
②「生きる力
Jを育むための「基礎・基本」である。
①とも関わって,生活科では,子どもの「課題発見jの段階から子どもが学習に関わること ができる。これは.
I生きる力」の内容として考えられる「自ら課題を見付け,自ら学び¥自ら 考え,主体的に判断」するための力の獲得をめざしたものと貰える。生活科の「基礎・基本」
は.
I生きる力」を育むための「基礎・基本jなのである。
③生活者として必要と思われる気付きや体得してほしい内容である。
生活科における学習内容の「基礎・基本」は.
I生活者として必要と思われる気付きや体得し てほしい内容jである。これらを「教師が教えるべき内容」と考えるのではなく.
I子どもが学 ぶことが望まれる内容・これができればほめてあげたい姿
Jと考えることが重要で
bある。従来 教科では. r 指導要領』にある指導内容は,子どもが獲得・到達すべき「到達目標j と捉えられ るのが一般的であったと思われる。生活科では,そうではなし到達目標を内に含みながらも,
指導内容を学習の方向を示す「方向目標」と捉えることが肝要である。教師は,子どもがその 方向に向って「学んでいるか
jI育っているか」をみとりつつ,子どもに学ぴの方向性を示しな がら「学習環境の整備」や「支援」を行うことがその役割となる。
過程重視の「学習観j .
I生きる力」を前面にすえた「学力観j . 子どもを生活者と捉える「子 ども観
j.これら
3つの特徴をもっ生活科の教科としての性格が鮮明になった。「基礎・基本」
にこれらすべてを合わせもつ生活科は,まさしく「総合的j である。生活科新設から
10年がす
ぎたが,その「基礎・基本」を問い直すことによって,新しい学校教育の方向が見えてくるの
ではないだろうか。
︑ 王
1)
I 生活科の基礎・基本」を真正面から取り上げたものとしては,管見する限り,次の
2点で ある。
①谷川彰英「各教科等における基礎・基本と内容の厳選/現状の診断と対策 生活j ,高田喜 久司編集 I 基礎・基本の徹底1,教育開発研究所,
2000年 ,
76‑79頁 。
②嶋野道弘・木村吉彦・宮異由美「特集 基礎・基本を確実に身に付ける学習指導の工夫/
生活j , r 初等教育資料平成1
2年
8月号j ,2
000年 ,
18‑33頁 。
2
)安彦忠彦「各教科における教育内容厳選の視点(中) j ,高田前掲書,
26‑31頁 。
3) 谷 川 前 掲 稿
76頁 。
4
)天野正輝
If知る』こと『生きる』ことの総合をめざす j , r 現代教育科学
No.505J,明治図 書 ,
1998年 ,
8‑10頁 。
5
)柴田義松『学ぴ方の基礎・基本と総合的学習.J,明治図書,
1998年 ,
110真 。
6)
I 基礎・基本jは相対的で多様な概念であるから,その内容を客観的に特定できないという 見解がある。マクロな観点からは,時代や社会の変化によって決まるし, ミクロな観点か らすれば各授業レベルにおける一人一人の子どもに対応した個別の「基礎・基本jがある,
とするものである(高目前掲書,
9頁)。確かに, I 不易と流行jという言葉が示すように,
「基礎・基本」と言えども相対的で多様なものかも知れない。しかし,私たちが人として 生きる上で必要不可欠な力はいつの時代にもあると私は考える。そしてその力を「基礎・
基本」として特定する努力に,私は意義を見いだしている。従って,相対的で、特定できな いものとしての「基礎・基本」は小論て"は考慮に入れないことにする。
7
)池野正晴「新しい学力観の必要性j , r 現代教育科学
No.518.1,明治図書,
1999年 ,
24‑25頁 。 田中耕治「あらためて『基礎』を問う j , r 現代教育科学
No.518.1,明治図書,
1999年 ,
28頁 。
8)嶋野道弘「生活科における基礎・基本と学習指導j , r 初等教育資料平成1
2年
8月 号 . 1 ,
2000年 ,
19頁 。
9
)天野正輝「新たな基礎学力・学力論争を j, r 現代教育科学
No.518.l,明治図書,
1999年 ,
35頁 。
10)
中野重人「生きる力こそ基礎・基本j , r 現代教育科学号
No.505, 1 . 明治図書,
1998年 ,
16頁 。
11)
高田喜久司「基礎・基本の確実な定着と新学力の育成j,高田前掲書,
11頁 。
12)
嶋野道弘「生活科の学習指導の改善の視点j , r 初 等 教 育 資 料 平 成1
1年
9月 号 . 1 ,
1999年 ,
53‑55頁参照。
13)
嶋野道弘「生活科の改善とその内容j, r 初等教育資料平成
11年
2月号J ,1
999年 ,
27‑29頁 参照。
14)
生活科においては, I 自分自身についての気付き」が最も重視されなければならない。低学
年児童にとっての「自立への基礎j とは, I ぽくは・わたしは,がとくいだよ。 ができ
るようになったよ」というように,自分の「らしさ」を人前で言明できることであると私
は考えている。
660 Bull. Joetsu Univ. Educ., Vol. 21, No. 2, Mar. 2002
What is Fundamental Contents of Study' in Life Environment Studies ?
Yoshihiko KIMURA *
ABSTRACT
The special featur巴sof Fundamental Contents of Study' in Life Environment Studies are as follows.
1. In L
i
fe Environment Studies,
we must think method of learning as important . In Life Environment Studies,
children learn through the concrete activities or personal expenence.So we must consider the process of their learning as important. 2. In Life Environment Studies
,
we must cultivate Z巴stfor !i
ving'.In L
i
fe Environment Studies,
children can take part from the stage of the discovery of own problems in learning .This means that in Li
fe Environment Studies,
we can aim the acquisition of conpetence of self‑discovering problems and self‑solving capaeity to getzest for !
i
ving'.3. The contents include getting sense and mastering skills from experience required as !
i
fe comsumerIn Life Environment Studies
,
we must understand the aims of course of study" as the directional aim (concluding arrival aims ). So teachers must consider how children grow up to the ideal direction,
and teachers must pr巴parelearning environment and support learning of children in accordance with the ideal direction.notes:zest for !