渡 辺 和 夫
1.はじめに
1920
年代か ら
60年代 にかけての時期,アメ リカ会計学 の発展 に寄与 した人 物 と して, コーラ‑
(E.L.Kohler), リ トル トン
(A.C.Littleton),メイ
(G.0.May)およびペイ トン
(W.A.P臥ton)の
4人を忘れ ることはできな い
1) 。リ トル トンとペイ トンは教 師であ り, コーラ‑ とメイは実務家 に属す るといえようが,それぞれ意見を異 に している。取得原価主義会計を強 く主張 したのはコーラーとリ トル トンである。一方 は実務家の立場か ら,他方 は教師 の立場か ら, この会計方法の利点を強調 し続 けた。アメ リカの経済環境 はこの 間著 しく変化 した。それにもかかわ らず,両者は取得原価主義会計か らけっし て離れようとしなか った。
コーラ‑, リ トル トンおよびペイ トンの
3人 は,アメ リカ会計学会
(Ame‑rican Accounting Association)
の "ビッグ・ ス リー' 'とも呼ばれてい る
2)。1)
エ ドワーズとサルモ ンソンはこれ ら
4人の著作を年代順 に編集 した
1冊の ダイ ジェ ス トを公刊 している。
J.D.EdwardsandR.F.Salmonson,ContributionsofFouT・Accounting Pioneers:Kohler,Liuleton
,
May
,Paton,
MichiganStateUniversity,
1961.
2)W.W.Cooperand Y.Ijiri
,
"EricLouisKohler‑Accounting'sMan of Principles, "
(inW.W.Cooper and Y.Ijiri,ed.,ErieLoutsKohler‑Accounting'sManofPrinciples
‑
,RestonPublishingCompany,1979,
p.18.)〔167〕
いずれ もアメ リカ会計学会を舞台に活躍 したためである。 コーラ‑は実務家で あ りなが らアメ リカ会計士協会
(AmericanlnstituteofAccountants;1957
年以 降, アメ リカ公認会計士協会
AmericanInstituteorCertified PublicAccountants)よりもアメ リカ会計学会 と親密な関係 にあった。会計 実務 に対す る鋭い批判 はこのような立場か ら生まれた もの と思われる。
4人の うちではコーラ‑の研究が最 も遅れているようである。他の 3人 と比 較 して魅力的な著書が存在 しないためであろ うか。よ く知 られた著書 としては
『 会計学辞典
3)』 があるけれ ども,辞典 とい う性格か らい って,それを通読 しようとする者はきわめて少ないと思われる。また,そ こか らコーラ‑自身の 考えを読み取 ることはむずか しい。その他の著書 はわが国であま り知 られてい ない。 研究が遅れている原因はこのよ うな ところにあると思われ る。 本稿で は, 取得原価主義に関す る見解 に限定 して, コーラ‑の考えを歴史的に辿 ってみた
いと考え る。
2.1936
年 までの見解
1936
年 とい うのはアメ リカ会計学会が会計原則試案 を公表 した年である。
その試案 は会計の本質が評価にあるのではな く歴史的原価および収益の配分 に あ ることを明言 した
4)。すなわち,それは取得原価主義会計 を もって会計 の 本質 と規定 したわけである。この年,コーラ‑は同学会の会長 に就任 してお り,
この文書 と深 く係わ っていた といわれている。 コーラ‑の取得原価主義会計 は この文書 と密接 な関係 にある。だが,それに言及す る前 に, もう少 し時代 を 遡 った時期の見解をまず見ておきたいと思 う
。3)E.L.Kohler,A DictionaryforAccountants,Prentice‑Ha
l
l,1952.第
4版が邦訳 されている。染谷 恭次郎訳 『コー ラ‑会計学辞典』丸善,昭和
48年 ( 復刻版,平成元年)0
4)AmericanAccountingAssociation
,
Accounting and Reporting Stan‑daT・dsforCorporateFinancialStateTnentSandPreceding StateTnentS andSuppleTnenis,AAA,p.61.
中島省吾訳編 『 増訂
A.A.A.会計原則』中央経済社,昭和
31年
,27ペー ジ。
1920
年代の会計実務 には統一的な会計原則および統一的な貸借対照表が存 在 しなか ったため,貸借対照表を分析す る者 にとってはきわめて不満足な状況 にあった。そ こで コーラ‑は,そのよ うな不満を解消す るための貸借対照表の 改善方法をい くつか提案 した。そのひとっに,資産の評価方法を明記すべ きだ とい う提案が ある
5)。当時,棚卸資産の評価方法 は多様で あ った。 また,一 時的な投資資産の評価については原価法,低価法,時価法 とい う
3つの異なる 方法があった し,固定資産については原価,帳簿価値
す評価価値 といった
3つ の評価方法が利用 されていた。そのため,どのような評価方法を用いたかがわ か らなければ,貸借対照表 に関す る判断 は不完全 にな らざるをえない。 コー
ラ‑が資産の評価方法を明記すべ きだと主張 したのはそのためである。
同様の見解 は
1931年 の論文 に も見 られ る。そ こでは一般 目的貸借対照表
(all‑purposebalancesheet)
に関す る
6つの基準のひ とつ と して,つ ぎのよ うな内容が示 された。
「 第
4に,すべての資産の評価 は貸借対照表の表面か ら確定で きなければな らない。現金や前払保険料のような一部の項 目については評価を示す必要がな い。棚卸資産や固定資産 は,それ らの価額を計算 した基礎についての知識がな ければ,まった く解釈不可能である。資産の評価が別に規定 されていない場合 には原価であると推定 され る, というルールがあるべ きである。不幸 に してそ のようなルールがな く,平均的な貸借対照表の読者がそのような推定をすると すれば,かれはかな り惑わされることになる
6)。」前述の見解 と異なる点 は,各種の評価方法を単 に明記す るだけでな く,明記 していない場合には原価で評価す るというルールを確立すべ きだ としているこ
5)E.L.Kohler
,
"TendenciesinBalanceSheetCon岳truction,"
TheAccount‑ ingReview,December1926,pp.5‑ 6.6)E.L.Kohler
,
"Balance‑SheetStandards"The Certified Public Accoun ‑ tant,
December 1931,
(in W.W.Cooper and Y.Ijiri,
ed.,Erie LoLLis Kohler:A Collection ofHisWritings(1919‑1975),
The Academy of AccountingHistorians,1980,p.112.)とである。 この ことは原価法を資産評価の一般原則 とすべ きだ とい う主張にか な り近づいた ことを意味す る。
1933
年 には見積貸借対照表
(pro‑formabalancesheets)の作成廃止を 呼びか けている。資金調達を予定す る企業が見積貸借対照表の作成を要求 さ れ,それについて会計士が証明をす るという実務が存在 していた。見積貸借対 照表 は調達資金を利用 したあとの状態を予想 して作成 され る。 このような実務
は望ま しくないとす る論拠がっ ぎのように指摘 されている。
「 伝統的に会計人 は過去の結果だけに関与 してきた。一般の企業人,銀行家 および投資家は,会計人の公表計算書を,過去に起 ったこと,つまり一定 日に 物事が実際にどうなったか (もちろん,慣習的な言語を用いで慣習的な価額で 表現 される)についての報告 と常に結びっけて きた。 この伝統を破棄す る実質 的な必要性 はあるのだろうか7 ) 。」
会計 はもっぱ ら過去の出来事を扱 うべ きであ り,将来の予想 に係わ る内容を 排除すべ きだ としている。 ここにも取得原価主義を重視す る見方の一端が示 さ れている。
1935
年
12月に開かれたアメ リカ大学会計教師協会
(AmericanAssociation ofUniversityInstructorsinAccounting)の年次総会 は記念すべ き大会 であった。活動領域の拡大を目指 して,それはアメ リカ会計学会 と改称 される ことになったか らである。会計原則の制定 とい う作業がその活動の一環 として 行 なわれた
。1936年度の会長兼機関誌編集者 に指名 された コーラ‑は, この 新生学会の リーダーとなったのである
。かれには会計上の " 基本命題' 'に関す る第一次草案の作成が依頼 された。それは翌
36年
1月の会合後 まもな く出来上 が り,
4月に行なわれた
2回の会合で議論 されたのち, コーラ‑ とグ リーア
(H.C.Greer)によって正式草案 にまとめ られた。 さ らに,その草案 は運営
7)E.L.Kohler
,
"Editorials, "
TheAccouTuing Review,
September1933,
p.244.8)S.A.Zeff
,
TheAmericanAccouTuingAssociation:ItsFirst50Years,
AAA,1966,pp.42‑45.委員会で検討 され,最終案が
TheAccozLntingBet)iew誌上で公表 されたの は
1936年
6月である。その文書はわずか
4ページ半にす ぎないけれ ども,
4ヵ月間にわた る集 中的な審議の成果であ った
8)。これが本節の は じめに述べた 会計原則試案である。
そ こで はつ ぎの
3つの命題が提起 されていた
9)。すなわち,( 1 )" 価値" よ りも ̀ ̀ 原価"で取引が記録 され るべ きこと ,( 2) 包括主義の損益計算書が用い ら れ るべ きこと,そ して ( 3) 払込資本 と累積利益の明確 な区別がなされ るべ きこ と,である。第
1の命題が取得原価主義によるべきことを明言 したものである
1秒 。
この文書 はアメ リカ会計学会運営委員会の名で公表 された ものであ り, コーラ‑自身の見解 とはいえない。しか し,その作成過程 に深 く関与 した経緯 か ら考えて,かれの考えが強 く反映されていることは明 らかであろう
。事実, その後の見解 に見 られ るように,かれは試案の基本思考を修正す ることに対 し て強 く反対 している。
3.
円卓討論と誌上 シンポジューム
第二次世界大戦後のイ ンフレーションは取得原価主義会計の妥当性に関 して 疑問をなげかけた。一部の企業 は通常の減価償却費を超え る補足額を収益に賦 課 し,減価償却準備金を増加 させようとした。たとえば,
U.S.スティール社 は
,1947年度第
2四半期報告書で追加的な減価償却費 を計上 し,同年度 の報 告書で減価償却準備金を約
30パーセ ン ト増加 させた といわれている。その理 由
9)Ibid.,p.45.
10)
グ リーアは第
1の命題 についてつ ぎのように述べている。
「 現金 または現金等価額を支出 して取得 した資産 は, 原価か ら, 発生 した減耗償却, 減価償却,陳腐化,またはその他の有用価値あるいは回復可能価値の損失を反映す るすべての必要な引当額を差 し引いて,勘定 に計上すべ きである。現金の収入を表 わす負債および資本債務は,正味手取額 に,満期 日に支払われる発生利息を反映す るすべての必要 な引当額 を加 えて,勘定 に計上すべ きで あ る。
」 (H.C.Greer,
"What are Accepted Principles of Accounting?,''TheAccouTuing Reuiew,March1938,p.30.)
は,通常 の減価償却だけでは資産の取替 に不十分だ とい うことであ った
11)0取得原価主義会計 は再検討を迫 られていたわけである。
この時期, コーラ‑は円卓討論 と誌上 シンポジュームによって取得原価主義 会計擁護論を試みている。円卓討論 は
1946年
9月 7日にシカゴで開催 された アメ リカ会計学会年次総会で行なわれた。そ こでの発表者 は,プラウ
(C.G.Blough)
,ペイ トン, コーラ‑, グ リーア, ウィル コックス
(E.B.Wilcox)およびクラック
(E.A.Kracke)の
6人である
。また誌上 シンポジュームは,
1948年
4月号の
TheAccounting Review誌上で行なわれた ものであ り, こ の ときには ド‑ア
(∫.LDohr),ペイ トン,ペルーベ
(M.E.Peloubet), ベル
(W.H.Bell),グ リーアおよびコーラーの
6人が参加 している。
円卓討論は 「 貸借対照表における固定資産価値の回復」をテーマ とす るもの であ り, コーラ‑は
3つの主要な理 由か ら否定論を展開 した。第
1の理由は,
「 良識 とその ときの適切な判断にもとづいて得 られた決定 は,のちに取 り消 さ れ るべ きでない
12)」とい う点 にある。取得原価主義会計 は原価の配分 を本質 とする。 したが って,たとえば設備の減価償却 は,あ らか じめ綿密 に検討 され た計画に したが って行なわれ る。のちにそれを別の基礎 にもとづいて変更す る ことは,過去の原価配分の修正を意味す る。そのような修正 は財務諸表 に対す る信頼性を失な うもとになる。財務諸表の内容をいったん確定 したな らば,そ れはすべての期間にわたって存続すべ きだというわけである。
第
2の理由は ̀ ̀ 対応"過程 と関係す る。対応 というのは消費サー ビスを損益 計算書の両側 に反映 させ ることである。すなわち,仕入商品原価 はそれを処分 して収益が兄い出されるまで資産 として計上 される。対応は測定条件の もとで すでに起 った ことであ り, さ らに考慮 す る必要 の ない完 了取 引であ る
13).ll)A.C.LittletonandV.K.Zimmerman,Accounting Theory:Continuity and Change,Prentice‑Ha
l l
,1962,pp.189‑190.上田雅通訳 『 会計理論
一連続と変化‑』税務経理協会,昭和
51年
,268ページ。
12)E.L.Kohler
,
"Restoration of Fixed Asset Values to the Balance Sheet:FirstNegative, "
TheAccountingReview,April1947,p.202. 13)Ibid.,p.202それを修正す ることは対応の主旨に反す ることになる
。第
3の理 由は測定尺度の客観性を問題 に した ものである。再配分を認めるこ とは経営者 に財務的な操作の余地を与えることになる
。それは経営者が無責任 になる誘因を与えることで もある。そのような経営者 は少ないか もしれないけ れ ども,それは会計人の不信をまね くのに十分である。 「 評価方法 はもっと客 観的でなければな らない。すなわち,財務諸表の読者 に合理的な結論を示せ る だけ十分客観的であり,将 来の運営期間について明確な計画を推進 しうるほど 十分客観的でなければな らない1 4 ) 。 」
もう一方の誌上 シンポジュームではつ ぎの命題に対する賛否両論が問われ, コ‑ラーは否定論の立場か ら論 じた。
歴史的原価主義か ら離れて固定資産減価償却の記録をす ることは,一般 に 認め られる会計原則の範囲内にあると認識 され る, と結論づけ られる
15)0問題の中心 は各種の減価償却方法が どの範囲 まで妥当 と認 め られ るかにあ る。減価償却費を増加 させよ うとす る諸提案 は,従来の減価償却概念を修正す るものである。そこでまず コーラ‑は,従来の標準的な会計実務 において,減 価償却 に関す る用語が どのよ うに定義 されてきたかを考察す る。それはいかに も 『 会計学辞典』の著者 らしい発想 といえよう。基本定義 として規定 されたの は, 「 減 価 償 却」, 「 減 価 償 却 基 礎 額
(depreciation base)」, 「 減価 償 却 率」,「 減価償却費」および 「 減価償却準備金
(depreciation reserve)」の
5
つである
。減価償却方法の問題 としては,( 1 ) 現行の標準的な実務
,(2)資産原価の直接費 用化 ,( 3) 減価償却率の拡大 ,( 4) 発生減価償却額 ( ‑減価償却準備金)の戻 し入 れ,および ( 5) 資産価額の引上 げ,が取 り上げ られた。イ ンフレーションに対応 してさまざまに工夫 された減価償却方法の是非が検討 されたわけである
。コ‑
14)Zbid.,p.203.
15) "Depreciation andthePriceLevel
,
A Symposium, "
TheAccounting Reuiew,Apri11948,p.115.ラーの議論 はつ ぎのように要約 されよう
。一般大衆の一部には減価償却および減価償却準備金の意味な らびに目的につ いて,誤解があるようである。混乱の一端はつ ぎのような事実に帰せ られる0 すなわち,当期の減価償却準備金が取替な らびに設備の拡大に対す る当期支出 額を超える場合,運転資本の増加 に注 目されがちだ ということである。運転資 本の増加 は新 しい設備の購入に利用できる。 したが って,減価償却準備金が増 加すれば,よ り多 くの運転資本がその 目的に利用で きることになろ う。しか し, 減価償却準備金の増加であろうと純利益の留保であろうと,運転資本 は留保 さ れた総収益か ら生 じる。一方の増加 は他方の減少 とな り,その合計額 は不変で ある。
「 要す るに,減価償却費 は過去の原価を配分 した結果にす ぎず,減価償却準 備金の増加 によって運転資本が直接増加するわけではない。会計人は,現在の 高い利益がイ ンフレーションの最終結果 にす ぎないこと, したが っていかなる 意味で も設備取替原価の増加 によるものではないことを,現在よ りももっと強 調すべ きである1 6 ) . 」
一部の会計人が報告企業利益の " 非現実性"を主張 していることも不思議で ある
。「 すべての企業関係者 は, とくに取替 または資産拡張計画のための運転 資本がすでに十分ある場合,将来の固定資産取替原価の見積 りと時価 とが無関 係であることを少な くとも知 るべ きである1 ℃。 」
さらに,損益計算書 は収益力を反映すべきであるとか,あるいは ̀ ̀ 当期の業 績
(currentoperating perform 庄nce)''に限定すべ きであ るとい った誤解
16)E.L.Kohler
,
"DepreciationandthePriceLevel,A Symposium :Third Negative,
けTheAccoLLntmgReuiew,April1948,p.135.なお,本論文は前年 に公表 されたっ ぎの論文を改訂 した ものである。
E.L.Kohler
,
"Ho滋 Much Depreciation?, "
The IlliTWis Socieわ′of CPAsBulletin,December1947,
(inW.W.Cooperand Y.Ijiri,ed.,Eric LouisKohleT・:A CollectionofHisWritings(1919‑1975),pp.365‑370.) 17)E.L.Kohler,
"DepreciationandthePriceLevel,A Symposium :ThirdNegative
, I
▼op.cit.,p.135.がある。減価償却費を増減 させ ることによって,より正確な収益力または当期 の業績が正味の結果 に反映されるといわれる。収益力または当期の業績 という のはあいまいな概念である。「もちろん,損益計算書が収益力 と関連を もっ こ とをだれ も否定す るわけではないが,そ こか ら導びかれ るなん らかの結論に対
して,勘定にはおそ らく反映できない,また計算書の作成時点ではだれに もわ か らない,多 くの事実 と条件が加減 されなければな らない。だが,減価償却準 備金を増額修正す ることは,読者の収益力概念に対 して有益な効果をまった く
もちえない
18)。」以上のよ うな議論か らつ ぎの
5つの結論が導びかれる
19㌔( 1 ) 原始原価 は,協会の委員会 ( アメ リカ会計士協会の会計手続委員会 一引用 者)が示唆 しているよ うに, ̀ ̀ 企業全体が同時に安定価格水準への変更を実行 す る' 'まで,減価償却基礎額 として保持 され るべ きである。
(2)
減価償却率 は定額法の率によるべ きであり,必要な場合 には耐用年数の定 期的な再評価 によって将来の率を変更すべ きである。
( 3) 秩序 ある決定 によ り,減価償却 または償却
(amortization)あるいは資 産価額の引下げがいったん費用に反映されたな らば,単に見通 しよりも正確で あると考え られるだけで,後 日,修正 され るべ きではない。む しろ,財務諸表 に付随す る説明事項に依存 して,現在の減価償却準備金 は現実 と異なる情況の もとで不足す ることを,説明す る価値があるもの として読者 に知 らせるべ きで ある。
( 4) イ ンフレ物価の もとで購入 した資産原価の一部を直接引下げることは,辛 情により正当化 され る。引下げの根拠および金額は公表財務諸表において明瞭
に示 されるべ きである。
( 5) 記録原価を上回る取替原価超過額の見積 りを反映させ るため,準備金を利
18)Zbid.,p.136.
19)Zbid.,p.136.
なお,( 5) の しか し以降の文章 は,前年の論文 には存在 していない
ので補足された部分といえよう。
益剰余金か ら生み出 し,利益剰余金の一部 として貸借対照表 に示す こともあ る。大抵の場合, これは損益計算書で取替超過額を償却す ることによって行な われる修正の適切な代替法であると見 られよう
。しか し,勇気ある経営者 は利 益剰余金 による準備金のような工夫をまった く必要 としない。単純 に, これ ら の時期に更新すべ きことを示 し,利益剰余金 と運転資本が企業内に留保 されて いれば,将来の固定資産の追加および取替 は貨幣を借 り入れずに取得できるこ とを,株主に知 らせ ることができる。
コーラ‑はイ ンフレーションに対応 してさまざまに工夫 された減価償却方法 を批判 した。減価償却 は原始原価を基礎 とし,定額法による償却が基本 とされ ている。特別な事情のない限 り,それを変更す ることは認め られない。イ ンフ レーション下の情況を説明す るには財務諸表に付随す る説明事項,すなわち注 記で十分だとされている。
4.
会計原則の発展 と取得原価主義
1953
年, コーラ‑は会計専門
3団体の築 いて きた会計原則 の発展過程 を要 約 ・論評 した論文を公表 した2
m) .この論文 は,その後,
1955年 と
1966年 に一 部修正 されてい る2
1) 。会計専門
3団体 とい うのは,アメ リカ会計学会, アメ リカ会計士協会 ( アメ リカ公認会計士協会)および英国勅許会計士協会である。
本節ではこの論文に見 られ る取得原価主義思考を検討 したいと考える。
20)A.L.Kohler
,
"RecentDevelopmentsintheFormulationofAccounting Principles, "
TheAccounting Research,January1953,
(in W.W.Cooper andY.Ijiri,ed.,ErieLozLisKohler:A CollectionofHisWritings(1919‑1975),pp.448‑473.)
2
1
)E.L.Kohler,
"TheDevelopmentofAccountingPrinciplesbyAccounting Societies, ' '
(in M.Backer,ed.,Handbook ofModern Accounting Theory,
Prentice‑Hal
l,1955.)染谷恭次郎訳「 会計諸団体 による会計原則の展開」( 同訳
『 近代会計
3』中央経済社,昭和
33年,
1‑62ページ所収) 0
E.L.Kohler
,
̀̀Accounting Principlesand ProfessionalSocieties,"
(in M.Backer,ed.,ModernAccounting Theory,
Prentice‑Hal l
,1966,pp.48‑67.)
アメ リカ会計学会 の会計原則 は
,1936年,41 年および48 年 にそれぞれ公表 された。 これ ら3 つの会計原則には共通の基盤が存在する。 コーラ‑はそれ ら を
20項 目に整理 してお り,その うち取得原価主義に関す る内容 はつ ぎのように 要約 されている。
「 資産 と費用を評価す る根本的な基準 は価格,すなわち独立の当事者間で交 換 され るさいに支払われた貨幣額ない し客観的に確定 された貨幣価値である。
取引価格が価値の唯一の客観的基準である。それは実際の取引の結果であるか ら,経営者,投資者,および消費者にとって納得ので きるものであ り,彼 らの 関心をみたす ものである。さらにそれは,広範囲な内部的および外部的管理を 行 う場合や,また経営者の任務
(accountability)を解除す るさいにあた っ て達成 した責任の度合を示す場合 に,有効な手段 となる2
2)。」アメ リカ会計士協会における会計原則の内容 は
,1953年の論文では
42項 目,
1955年の論文で は1
5項 目,そ して1
966年の論文で は1
5項 目と補足
3項 目, に それぞれ整理 されている
。1955年の論文で項 目数が著 しく減少 したのは
,195 3年に会計研究公報第43 号が公刊 され,既刊の31 公報をひとつにまとめたため である
。1955年の論文 は会計研究公報第4
3号を もとに要約 されているO
会計研究公報は個 々の問題が発生す るつ ど,その解釈指針を示すために発行 された ものである。最初か ら全体的な体系を考慮 していたわけではない。取得 原価主義会計が支配 していることは明 らかであるに して も,その ことは棚卸資 産の評価や減価償却基準などの説明中に断片的に読み取れ るにす ぎない。
同様の ことは英国勅許会計士協会 について もいえる。同協会 に関 しては1
94 2年か ら開始 された会計原則勧告書を もとに
15項 目の要約が掲 げ られている。
ただ し,1
966年の論文では対象をアメ リカに限定 したため省略 されている
。ここで も個別的な問題解決の方法が採 られているため,取得原価主義 について
22)E.L.Kohler,''RecentDevelopmentsintheFormulationofAccounting Principles
,
"(in W.W.Cooper and Y.Ijiri,ed.,EricLoutsKohler:A CollectionofHisWritings(1919‑1975),p.449.)染谷恭次郎訳 「 会計諸団体 による会計原則 の展開」( 『 前掲訳書
』7ページ)。
直接表現 した文章は見出 しに くい。一例 として, 「 歴史的原価 は会計 日的およ び報告 目的に用いるため残 され るべ きである
2D」とい った勧告があげ られて いる。
これ ら会計専門諸団体による会計原則の表明はどのような意義を もつのであ ろうか. コーラ‑はつ ぎのように論評 している。
「アメ リカ会計学会の見解で は, 会計 は, 取引について,監督,記録,分類, 報告す る統一的な企業規律である。外部の もの との公正な取引に反映され,会 計士が 「 原価」 とか 「 収益」 とかよぶ価格は,用い られるべ き基本的評価基準 である。短期的価格 も長期的価格 も報告 される期間およびそれ以前の期間に広 範囲に散在 しているにもかかわ らず,支払 った価格または財や用役 と引換 に受 取 った価格を反映 し,実際に起 った ことの会計的記録 として残 される原価およ
び収益 は,財務諸表で用い られ る評価の基準を形成 している2 4 )。 」
会計 は取引に関す る企業規律であ り,外部者 との間に成立 した取引価格が基 本的な評価基準 になっている。各種の価格の うちで も支払 った価格 と受取 った 価格が実際に生起 した会計記録 として意味を もつのであり,それ らが財務諸表 で用い られる評価の基準になる。 これは明 らかに取得原価主義を表現 した もの である。会計専門諸団体の公表 した文書 にはこのような考えが基礎 にある, と
コーラ‑は理解す る。
しか し,取得原価主義会計に対す る批判がないわけではない。損益計算書 に おいて原価よ りも高い価値を表示す ることが近年あ らゆる方面か ら要求 されて いる。た とえば, 「 棚卸利益
(inventoryprofit)」を修正 しなければ企業の利益 は誤 って報告 され るとい う主張がある。棚卸利益 とい うのは,物価上昇期 に,先入先出法または平均原価法に もとづ く期末棚卸資産原価が,後入先出法 による原価を超える額をい う
。それは売上高 と売上原価を同一の基盤にお くも のだとされている。 しか し,その主張は 「 利益」の会計的概念を十分 に理解 し
23)Ibid.,p.468.
『 同訳書』48 ページ.
24)Ibid.,p.469.
『 同訳書』50 ページ。
ているかどうか疑問である。 「さらに,その修正が売上高 と売上原価 とを同一 の基盤 にお くという仮定は,事業家の利益概念‑ できるか ぎりの手段で売上 高 と売上原価 との幅を最大にすること‑ とは一致 しない。安 く買 って物価の 上昇 にそなえて持 っていることは,た しかにそのような手段の一つである5 5 ) .」
コーラ‑は事業家が現実に想定 している利益概念を採用すべ きものとしてい る。それは取得原価主義にもとづ く利益概念 とい うことになる。
「アメ リカでは,棚卸資産評価の後入先出法 は しっか りした足場に立 ってい るが, これは経済学者の議論に説得 されたか らではな く,物価が上昇を続 ける うちは後入先 出法が税金を軽減す るのに役だっためである。・ ・ ・ ‑「 先入先 出法」
ない し平均原価法 は今後 とも経営者の責任 とアカウンタ ビリティとを測定す る 一つの基準であるように思われ るZ D。 」
棚卸資産の評価方法 は原則 として先入先出法または平均原価法によるもの と されてお り,後入先出法 については税金対策の色彩が強 いことを批判 してい る。 コーラ‑のつぎのような指摘 はもっともと思われる.
「 評価 とい う会計的概念が将来 どんな ものになるとして も,会計士 は, 自分 が主張す るどのような新 しい主義 も,その依頼人ばか りでな く一般公共 に対す る責任 とい う基本的構造 に したが った ものであ り,また単 に税金を逃れようと いう意図か ら生 じた ものでないということを明 らかにするだけの勇気 と良心 と を もっていることがのぞまれるZ n。 」
一般公共に対す る責任 とい う視点 はとか く忘れがちになる
。それは評価の問 題 に限 ったことではない。 コーラ‑は会計士 に対 して広い視野を もつ ことを求
めたのである。
25)Ibid.,p.470.
『 同訳書
』53ページ。
1955
年の論文で一部追加された部分がある
26)Ibid.,p.470.『 同訳書
』53‑54ページ0
27)Ibid.,p.471.『 同訳書
』55ページ。
5.
会計研究叢書 『第
1号 』 ・『 第
3号 』批 判
1960
年代 になると取得原価主義会計 に対す る批判 はます ます増大す る。 こ の時期 に提唱された新 しい会計原則について,新井教授 はつ ぎのような
2つの 大 きな特徴をあげている。
「 すなわち,その一つ は,利益の認識を,伝統的な実現主義か ら脱皮 して, 発生主義 にもとづいて行な うことを積極的に提唱す る発生主義会計の強調であ り,他 は,資産および負債の評価を,伝統的な取得原価主義 に固執せずに,時 価主義 に もとづ いて行 な うことを強 く主張す る時価主義会計 の台頭で あ る
25)。」
発生主義会計 と時価主義会計 とい う特徴 を もつ会計原則 の代表例 は
,1962年 に公表 された会計研究叢書第
3号 『 企業会計原則試案2 ) )』であるO これ は 前年 に公表 された同叢書第 1号 『 基本的会計公準論 3 3 )』の内容を具体的な会 計原則 として展開 した ものである。 コーラ‑は取得原価主義会計を擁護す る立 場か ら, これ らの会計研究叢書を批判 した。それが
1963年 に発表 された 「な ぜ歴史的原価を保持 しないのか」 と題す る論文である
。そ こでは歴史的原価 に 固有の利点がつ ぎの
7つにまとめ られている
31)0( 1 ) 実際取引を反映す ることにより,歴史的原価 は経営者がその責任を果たす 方法を説明す る背景 となる。それは経営者 と株主および一般大衆 とのコ ミュニ
ケーションのかけがえのない要素 となっている。
(2)
多 くの場合,歴史的原価 と時価 との差異 は,多様な価格指数方式のいずれ
28)
新井清光著 『 会計公準論 ( 増補版) 』中央経済社,昭和
53年
,259ページ。
29)R.T.Sprouse and M.Moonitz,A TentativeSetof Broad Accounting PrinciplesforBLLSinessEnterprises,ARSNo.3
,
AICPA,1962.佐藤孝 一 ・新井清光訳 『 会計公準と会計原則』中央経済社,昭和3
7年。
30)M.Moonitz,TheBasicPostulatesof Accounting,ARS No.1,AICPA
,
1961.佐藤孝一 ・新井清光 『 前掲訳書』0
3
1
) E.L.Kohler,"why Not Retain Historical Cost?,"The JozLrnal of Accountancy,October1963,pp.39‑40.かにもとづいて調整す ることにより修正できない部分である。 これ らの提案は 常 に大規模 なサ ンプルおよびそれか ら導びかれ るグループ平均 に依存 してお り,ある一企業の資産 と偶然に しか関連を もちえないところか ら,そのような 調整結果 は資産価値の実質的な誤謬表示になると思われる。他方,個 々の生産 者のい くつかの資産種類 に適 した一連の特別仕立ての価格指数 は,経腎者,秩 主およびアナ リス トを混乱 させ るだけの雑多 な評価額になる。そのような評価 額 は必然的にきわめて主観的 とな り,多様な操作実務の可能性を広げることに なる。
( 3) 第二次世界大戦後,生産設備および方法が急速に変化 したため,平均的な 製造業の固定資産の大部分 は近年取得 されたことにな り,実際原価 は取替原価 とほとんど変わ らない。棚卸資産の場合,取替原価は実際原価 と実質的にほと んど異な らない。
( 4) 時価の導入 によ り経営者 と株主に便益が与え られ ると常 に言われ るけれど も, 詳細 に説明された ことはない。 実験の行なわれた若干のケースにおいて も, 組織体が ̀ ̀ 近代化 され' 'たこと,あるいは予想料金の増加 もしくは所得税の削 減の基礎が与え られた ことを除 き,実際に実現 した便益の主張を兄い出す こと は無理なようである。株主持分 は,現在資産価値 によって修正 して もしな くて
も,普通株の市場価格 と無関係である。 しか し,代替価値が分配可能な将来の 利益を減少 させ,競争市場 における販売価格の調整能力を小 さくすると投資家 が判断すれば,資産の再評価は市場価格を引下げることになる。
( 5) 脚注 は,原価 と異なる価値に関す る情報を提供す る有効な, しば しば唯一 の実行可能な手段である。価値 は多 くの形態で存在す る。それ らの目的が変化 し,金額を実質的に変えるとすれば,価値 は期間によって実質的に変動す るこ とになる。ひ とっの評価基準を採用 し他のすべてを排除す ることは,明 らかに, 利害関係者 にとって同意 しがたいきわめて主観的な行為である。原価に固執す
ることは,アナ リス トおよびその他の人びとが, 価値変動のすべてまたは一部,
あるいはだれ も記録 していないその他のさまざまな調整によって,かれ らの好
きなように修正す る目的で簿価を利用す ることを可能 にす る。
(6)1920
年代 に現在価値を記録 したのは,単 な るイ ンフ レーシ ョンの徴候 に よるものではな く,当時の悪性的な商品価格を原因 とするもの とみなされてい る。イ ンフレ物価を表現す ることは,公益が前の水準 まで引下げることを要求 す るとき,それ らを安定させ る効果をたやす くもちうる。会計 は無意識 にイ ン
フレーションを促進 させ る手段 となってはな らない。
( 7) 再評価論者が典型的な資産種類を構成す る単位のそれぞれに対 して共通の 価格水準を主張す るのは,同一勘定における単位価格の混同は不特定論理原則 に反す る, という前提に しば しば もとづいている。 しか し,会計人 は長い間平 均原価を使用 してお り,統一的な評価 とい う主張 は内容を もたない と思われ
る。
以上の要約 は歴史的原価会計すなわち取得原価主義会計を是 とす る論拠を示 した ものである。 これまでの主張がそこに集約 されている。その うえ, この論 文には新 しい観点が取 り入れ られていることも見逃せない。それは歴史的原価 会計 と対比 され る ̀ ̀ 未来会計
(forwardaccounting)''の領域 を明確 に認識
している点である。
「 別個の会計概念および手続カテゴリーを構成す る未来会計 の一般的な認識 は,歴史的原価を現在価値 と代替 させようとす る主張を取 り巻 くあいまいな観 念を一掃するのに大変役立つ と思われる
。このカテゴ リーには,標準原価,予 算手続,損益分岐図表,現金需要の見積 りと現金状態,製品および方法変更案
に必要な内部統制の修正などが含まれ る勤。 」
未来会計 と歴史会計 は役割を異に している。それだけに両者をはっきり区別 す ることが必要である
。歴史会計 はさまざまな意思決定の基礎を提供す るもの である。未来会計 との混同をまねかないためにも,すでに確立 された歴史会計 を純粋に維持す ることが大切だ とされている。そ こでは未来会計の補足的な役 割を積極的に認めることによって,歴史会計の重要性が強調 されているのであ
る。
32)Ibid.,p̲40.
6.
おわ リに
これ まで1
920年代か ら
60年代 にか けての コーラ‑の取得原価主義会計論を 順次検討 して きた
。1920年代 は会計実務の混乱 していた時期で もあ り, コー ラ‑の主張 は控 え 目であ った。それが強い信念 とな ったのは,
1930年代 に多 くの人 びとの支持を得てか らである
。1940年代か ら
50年代にかけての時期 は, 会計 とイ ンフレーシ ョンの関係が大 きな問題 になった。一部の人び とは取得原 価主義会計か ら離れ,イ ンフレーションに対応 したさまざまな便宜的会計処理 法を主張す るよ うになった。 しか し, コーラ‑は従来か らの信念に もとづ き, それ らを批判す る立場を堅持 した。その見解を
7つに集約 したのが
1963年 の 論文である。 コーラ‑は終始一貫 して取得原価主義の長所を強調 してきたので ある。
コーラ一による分析の特徴 は,会計実務を常 に念頭においている点にある。
会計実務の多様化が進行 してい くなかにあって,統一的な会計原則の必要性が 強調 されている。棚卸資産評価における先入先出法や平均原価法の重視,減価 償却 における定額法の採用などは,その ことをよく表わ している。 これ らの方 法 は会計実務 において最 も多 く利用されていた。 コーラ‑は会計実務を出発点
とするにもかかわ らず,それを批判的に検討す る立場を貫ぬいたのである。
取得原価主義会計 は現行実務 に深 く根をおろ している。にもかかわ らず,そ の意義を積極的に主張す る者 は少ない。その欠陥を指摘す る意見の方がはるか に多いよ うに思われ る。そのよ うな情況のなかで,井尻教授の理論は,現在, 多 くの人びとか ら注 目を集めている。同教授 はクーパー
(W.W.Cooper)教授を介 して コーラ‑の影響を受 けているといわれている
卸 .歴史的原価を記 録す る重要性 について,同教授 はつ ぎのように述べている。
「・ ・ ‑・ 財務諸表が歴史的原価 によって作成 されるな らば,すべての資源の運 動 は複式簿記 システムによって跡づけ られるとい う暗黙の保証が与え られる
。歴史的原価 と複式記入を用いな くて も,われわれは現金 または棚卸資産の増減
を単式記入によってごく簡単に記録できる。現金出納係 は現金の収入 ・支出を
跡づけ られるし,倉庫の記帳係 は商品の受入 ・払出を跡づけ られ る。だが,複 式記入によって,商品の増加だけまたは現金の減少だけを会計人 は記録で きな い。複式記入 システムは会計人にその変動の理由を調べ ることを しいるのであ る3 4 ) 。 」
ここで井尻教授 は取得原価主義会計の意義を複式簿記 との関連において説 い ている.それはコーラ‑の見方 とはまた違 った展開の仕方を示唆 しているよ う である。 コーラ‑の信念 は井尻教授によって受 け継がれ,新 しい方向を見出 し たようである。
33)
井尻教授 は
,「 先生の ヒス トリカル ・コス ト・プ リンシプルの考え方 に影響を与え たアメ リカの書物なり研究者 というのはとくにありますか」 という質問に対 して, つ ぎのように答えている。
「 やっぱ りクーパー先生の影響ですね。それはクーパー先生の先生だった人が コー ラ‑なのです。 コーラ‑先生 はl =くなる前 まで学会で もお 目にかか った し, コー ラ‑の論文集を出版 したりしていろいろあの方の書いたものを読んだ りしました。
コーラ‑先生は絶対的なヒス トリカル ・コス トで した。その影響を受 けてクーパー 先生 もそ うであるとい うことを絶えずいってお られま した
。」( 田中章義編 『イ ン
タビュー ・日本における会計学研究の発展』同文舘,平成
2年
,57ページ。 )
34)Y.Ijiri