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コーラ- 『会計学辞典』の意義 と変遷

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コーラ‑ 『 会計学辞典』の意義 と変遷

渡 辺 和 夫

1 3つの分析視点

コーラ‑ (ErieL.Kohler)といえば多 くの人 は 『会計学辞典』を思 い浮 かべ るにちがいない。それ ほど彼の 『会計学辞典』 はよ く知 られている。それ は彼の主要業績のひとっであ り,彼の会計思想を理解す るうえで きわめて重要 な著作 といえよう その意義 と変遷を検討す ることが本稿の目的である。

コーラ‑の 『会計学辞典』 は1952年 に初版,1957年 に第 2版,1963年 に第

3,1970年 に第 4版,1975年 に第 5版,そ して1983年 に第 6版が刊行 され た. これ らの各版の うちコーラ‑自身が直接改訂 に携わ ったのは第 5版までで ある。 また,第 4版 につ いては染谷恭次郎教授 による全訳が昭和48 (1973

年)に出版 されている1)。 本稿で研究の対象 とす るのはこれ らの文献 になる。

会計学辞典』の意義 と変遷を考察す るにあた り,まず最初 に辞書の分類に ふれておきたい と思 う。それは辞書の性格を判断す るうえで必要 だか らであ る。世の中にはさまざまな辞書が存在 し,それ らはいろいろな観点か ら分類 さ れている。 ここで言及 しておきたいと考え るのは,つ ぎの3つの視点か らの分 類である2)。

1)染谷恭次郎訳 『コーラ‑会計学辞典』丸善,昭和48年。この訳書は,原書第4版が 公刊される以前に,その校正刷りにもとづいてはじめられ,3年間の歳月を要 した

といわれている (同書,訳者序文,註ページ)0

2)R.R.K.Hartman,ed.,Lexicography .・PrinciplesandPractice,Aca‑

demicPress,1983.木原研三,加藤知己翻訳監修 『辞書学 :その原理と実際』

三省堂,1984年参照。

69〕

(2)

70 45巻 3号

1の 視 点 は一 言 語 辞 書 (monolingualdictionary)と二 言 語 辞 書 (bilingualdictionary)の区別 であ る。前者 は語嚢 を その語嚢 の属す る言 語で解説す るのに対 し,後者 はある言語 の語嚢を他の言語で解説す るものであ

る。国語辞典 は前者 の例であ り,英和辞典 は後者 の例になる。

2の視点 はことば典的情報 (lexicalinformation)を提供 す る辞書 と事 典 的情報 (encyclopaedicinformation)を提供 す る辞書の区別で あ る。前 者 はことばの意味を説明す るだけであるのに対 し,後者 は事物 に関す る実際的

な知識を提供す る。

3の視点 は記述的な辞書 と規範的な辞書の区別であ る。一般用辞書 におい て 「方言」や 「俗語」を極力排除す るの は,規範的な機能が作用 しているか ら で あ る。正 しい発音や綴 りを示す努力 もこの機能 が発揮 された結果 といえよ

う。他方,実地調査を尊重す る考 えは記述的な側面を強調す ることにつなが る といえよ う

これ らの分類視点 を考慮 に入れなが ら,以下で コーラ‑の 『会計学辞典』を 分析 してみ ることに しよ う

2 会計学辞典』の意義

会計学辞典』の意義 とい う場合,われわれ 日本人 には原書 の意義 と訳書の 意義の2つが考え られ る。すなわち,それは一言語辞書 としての原書の意義 と 二言語辞書 としての訳書の意義 とい うことである。二言語辞書 においては,両 言語の意味が適切 に対応 しているか どうか とい うことがたえず問題 にな る。言 語 によって ことばの意味が微妙 に異なることがある。 しか し,その ことは二言 語辞書の存在を否定す るもので はない。原書の利用が最良であろ うが,それは 専門の研究者 に限 られ る。訳書 によって は じめて広範な読者を獲得す ることが 可能 になる もっとも,訳書の意義 は原書 によって大部分決定 され るといって

もいいす ぎで はない。

染谷教授 は『会計学辞典』の一般的意義 について,つ ぎのよ うに述べている

(3)

コー ラ‑ 『会計 学 辞 典 』 の意 義 と変 遷 71

外国語で書かれた文献を読むとき,そこに出て くるい くつかの専門用語の 意味が正 しく理解できないで困ることがある.専門用語 ともなれば,一般の辞 典では役 にたたない。またその国語を話す人たちに質問 してみて も,専門を同 じくす る人でないかぎり,まず満足す る解答 は得 られない。 こうしたことは, どの分野にもあると思われるが,会計学の領域で も, しば しば遭遇す る。 こう

した場合 に,エ リック・L・コーラ‑著 「会計学用語事典」は私たちの疑問に 明解に答えて くれる3)。」

外国文献を読むには専門用語の正 しい理解が不可欠である。会計学を専門 と する者にとって, こうした辞書が重宝であることはだれ もが認めるところであ

る。 とくにそれが権威ある定義を掲げているとなれば,なおさらであろう

会計学辞典』はコーラ‑がほとんど独力で完成 させた辞書である。辞書を ひとりで作成す るということは並大抵の苦労ではない。それを成 し遂げた点 に 2の意義が求め られよう。

もちろん,広範な用語の解説を文字通 りひとりで行 うことは不可能である。

解説 にあた って多 くの専門家の協力を仰 いだ ことはい うまで もない。初版の

序文」によれば, 「著者は原稿のさまざまな部分に関 して,多数の専門家達 による時間 とアイデアの提供 によ って援助 された4)ことを記 してお り, と

くに20名の会計専門家な らびに10名の隣接領域の専門家の名前を掲げている。

それ らのなかには,グ レイディ‑ (PaulGrady), リ トル トン (A.C.Lit tleton),ムーニ ッツ (MauriceMoonitz)といった著名な人びとが含まれて いる。さらに,重要な貢献を した人物 として,クーパー (William W.Cooper) の名前が挙げ られてお り, 「彼 は原稿の大部分を読み,疲れを知 らぬ熱心さで 根気よ く批判 して くれた。彼の示唆は本書の範囲と性格について重大な影響を 与えた5)。」 と述べている。

3)染谷恭次郎稿 「エ リック・L・コーラ‑著 会計学 用語辞典」 学鐙』第67 1 号,昭和45 1月,74ページ。

4)E.L.Xohler,A Dictionary for Accountants,firstedition,Pren‑

ticeHall,1952,preface,p.vi. 5)Ibid.,preface,p.V.

(4)

72 45 3

コーラ‑が 『会計学辞典』を独力で仕上げた点は,大槻文彦が 『言海』を編 纂 したさいの苦心に匹敵 しうるものがあると思われる。 『言海』はわが国で最 初の近代的な国語辞書 として知 られている。『言葉の海へ』 とい う書物のなか で文彦の生涯を描いた高田宏氏は,つぎのように述べている。

大槻文彦の 『言海』は,ひとりの人間が十七年,自分を顕すまい,物を顕 そうとっとめなが ら,古今雅俗の語 と格闘 し,自国語の統一をめざしてつ くり 上げたものである6)。」

文彦が 『言海』を起稿 したのは明治8 (1875年)であり,明治24 (1891

年) に出版 された。他方, コーラ‑は1931年か ら会計用語 に対す る関心を もちは じめ,1952年 に 『会計学辞典』の初版 を出版 した。 その間,22年の 歳月を要 している コーラ‑はその事情 を初版の 「序文」でつ ぎのよ うに 説明 している。

本書に対する著者の関心は,アメリカ会計士協会の用語委員会メンバーと な り,同協会が729の定義を含む126ページの 『会計用語』を1931年 に出版 し た ときに始 まる。1936年 に同委員会の委員長 とな った著者 は,委員会 メ ン バーだったWalterMucklow,AlexanderBeard,NormanLenhartおよ GabrielPreinreichの援助を得て,991語のまった く新 しい定義を含む複 写版による第二次報告書を作成 した。‑・‑アメ リカ会計士協会は公式的な関心 をまった く示 さなか ったので,当面の作業 としては1936年版の定義を全面的 に見直 し,大幅に拡大することとした7)。」

大槻文彦が 「物を顕そうとつ とめ」たことについて,高田氏はつぎのように 解説する。

物をあ らわすには自分を排除 しな くてはならない。大槻文彦は頑固な くら いに,それに徹 した。 しか し,『言海』の紙背にはいっで も大槻文彦がいる。

見出語の選択にも,語原の説明にも,語義の解釈にも,その文体にも,文彦が 自分を抑えるほどに,大槻文彦が浮んで くる。『言海』には大槻文彦の全生涯

6)高田宏著 『言葉の海へ』新潮社,昭和53年,11ページ。

7)E.L.Kohler,A DiclionaTyforAccountants,firstedition,preface,p.V.

(5)

コーラー 『会計学辞典』の意義と変遷 73 が凝 っている8)。」

同 じことはコーラ一にもあてはまりそ うである。 コーラ一にあって は物 を表

現す るのではな く,会計概念を客観的に定義 しようと試みた。『会 計 学 辞 典 』

にはコーラ‑の全生涯が凝集 しているのである文彦が国語の統一 を 目指 した

のに対 し, コ‑ラ‑は会計概念の統一を目指 したともいえよう。 このように,

会計学辞典』意義は,コーラ‑という人物を抜きにして語れないのである。

3 収録語数の変遷

会計学辞典』の第 5版 まで と第 6版 とでは内容に著 しい相違が見 られる。

その理 由は,第 5版 まではコーラ‑自身が改訂 したのに対 し,第 6版 はクー パー ・井尻両教授が編者 となり,内容を一新 させたか らである。その ことは書 名に最 もはっきり表れている.5版 まではA DictionaryforAccountants

と称 していたのに対 し,第6版ではKohler'sDictionaryforAccou7uantS

となっている。 したが って第 6版 は,『コーラ‑会計学辞典』の初版 ともいえ るのである9)0

原題が 『会計人のための辞典』 となっていることで も明 らかなように,それ は会計人が使用す る用語 についての辞典であって,会計用語に限定 された辞典 ではない。 フイネー (H.A.Finney)はつぎのように述べている。

辞書の範囲に関 して,コーラー氏がそれを 『会計人のための辞典』 と名づ けてお り, も会計用語辞典も と称 していない点に注 目すべ きである。後者の名 称 は,おそ らく不幸に して会計人が一般 にあまりよ く知 らない も源泉分野thか ら導出された用語の定義を幅広 く扱 ってい る辞書 には不適当である た とえ ば,abscissa(横座標),backwardation (逆 日歩),chartofattributes

(品質管理図),doublesampling(二重サ ンプ リング),extrapolation (外挿

8)高 田宏著 『前掲書』11ページ。

9)W.W.CooperandY.Ijiri,ed.,Kohler'sDictionaryforAccountants, sixthedition,PrenticeHall,1983,preface,p.Ⅴ立.

(6)

74 45 3

紘),regressivetax(累退税),seculartrend(長期趨勢),upsetprice( 始価格)およびzonesystem orpricing(価格決定 の地帯 システム)のよ う な用語が使用語嚢 に含 まれ るとすれば,選択 された名称が会計人 に とって有益 であるとい う意味で適切である10)。」

収録語嚢が広範囲にわた っているため, コーラ‑は収録分野 の詳細を第 4 まで示 している。それ らを含めた収録語数の変遷を示 したのが第 1表である。

1 収録語数 の変遷

2 3 4 5 6

2,275 畠,534 2,643 2,804 3,000以上 4,538 (うち,単語数)

/

(699) (732) (758) 以上(800)

(単語数の割合)

/

(27.6%) (27.7%) (27.0%) (26.7%)

訳 :

一般英語 132 157 178 192 基本会計用語 328 344 391 402 特殊会計用語 835 903 912 976 政府会計用語 84 105 107 111 法律用語 242 269 273 282

財務用語 206 221 ̲227. 240

保険用語 57 59 59 63

税務用語 46 70 72 94

価格用語 56 58 58 58

商業用語 86 109 115 123 統計用語 80 90 9¢ ‑ 96 統計的品質管理用語 31 38 38 40 数学用語 58 70 78 78

経済用語 34 41 ̲45 49

収録語数 は改訂のたびに増加 している。複合語の数 と比較 して単語の数が きわ めて少ない。単語数の割合 は全体 の約27%を しめているにす ぎない。複合語の ほとん どは名詞 と名詞な らびに形容詞 と名詞の組み合わせ にな っている。

5版 の書評を書 いたバ ー ンズ (T.∫.Burns)は,つ ぎのよ うな用語が収 10) H.A.Finney,"BookReview :E.L Kohler,A DictionaryforAccoun‑

tants,"TheAccountmgReview,July1953,p.458.

(7)

コーラ‑ 『会計学辞典』の意義 と変遷 75

録 されていないことに不満を述べている11)0

goal congruence,transfer prlCe,efficiantmarkets hypothesis, Peer review,inflation accounting,motivation,information eco‑

nomies,Markovchains,legalliabilityofanaccountant,behavioral accounting,humanresourceaccounting

これ らの用語 はそのほとん どが第 6版 に収録 された。第 6版の内容が一新 さ れた ことはこの ことによって も明 らかであろう 6版 に収録 された4,538 の うち,第 5版か ら引 き継がれたのは2,660語であ り,1,878語が新 しく定義 された。およそ60%が旧用語であるのに対 し,40%が新用語 になっている12)0

第 2版か ら第 5版までの 「序文」のなかで, コーラ‑は会計用語 に関す るひ とつの主張を している。それは会計文献で多用されている無意味な形容詞の問 題である。それ らは特別な意味を もたないに もかかわ らず,権威づけのために 使用 されている 相互 に代替可能な場合がほとんどである。 したが って,それ らの使用をで きるだけ避 けることが望 ま しい とい うのである。第 2版ではつ ぎ 15語が掲げ られている13)0

acceptable,adequate,appropriate,desirable,material,meaning‑

ful,permissible,practicable,preferable,proper,rational,reason‑

able,slgnificant,sound,useful

3版で はadvantageous,realisticおよびsystematic 3語が追加 さ れて18語 とな り,第 5版ではrealisticが再 び削除 されて17語 とな っている0 会計用語 に対す るこうした鋭い感覚 は, コーラ‑の見識を示す もの として高 く 評価で きよう と同時に, こうした主張は記述的辞書 よりも規範的辞書を 目指

していることを物語 っている。会計人がたとえ多用 している用語であって も,

ll)T.J.Burns,"BookReview :E.L.Kohler,A DictionaryforAccoun‑

tants,fifthedition,"TheAccountingReuiew,October1976,p.950.

12)W.W.CooperandY.Ijiri,ed.,Kohler'sDictionaryforAccountants, sixthedition,preface,p.ix.

13)E.L.Kohler,A DictionaryforAccountants,secondedition,Pren‑

ticeHall,1957,preface,p.vB.

(8)

76 商 学 討 究 第45巻 第3

その意味が不明確 な場合, コーラ‑はその使用をで きるだけ避 けることが望 ま しいと述べている

4 収録 内容の変遷

収録 された用語の語釈が どの程度踏み込んでなされているかについて,各版 の比較を通 して検討す ることが本節の課題である。それによって, コーラ‑が ことば典的情報 と事典的情報の どち らに重点をおいたのか,また規範的な辞書 の側面が どのよ うな形で表れているのかが明 らかになろう

収録 内容の各版比較をす るにあた って,2つの用語を取 り上 げたい と考 え る.ひとつ はもaccounting(会計)もであ り,もうひとつ は thearnedsurplus( 益剰余金)tTである 前者 は最 も基本的な用語 として選択 した ものであ り,後 者 はコーラ‑が強い関心を もっていた ことによる。

(1) accounting

1952年 に初版が刊行 されてか ら, 2 accountingの解説行数 コーラ一によ る最終 改訂版 で あ る

5版が刊行 され る1975年 まで に, 23年 の歳月が経過 して い る。 さ ら に第 6版 と もなれ ば,1983年 の 出 版 で あ るか ら,30年 を超 え る こと にな る。 1950年代 か ら80年代 にか けての時期 は,会計 の発展 が著 し か った時代である。accountingと い うきわめて基本 的 な用語 の解説 に関 して も, その ことは反 映 され ている。

2表 は accountingの解説 行 数 を各版 につ いて調 べ た もので あ

項目ごとの内訳 合 計 初 版 21 5162 68 串 2 1 56

23 129 77行.

3 1 92行 ‑ 113 23 129

4 1234 1112381 134

5 1234 101.2828 130

(9)

コーラ‑ 『会計学辞典』 の意義 と変遷 77

る。組版が若干異なるので単純な比較 はで きないに して も,およその分量を知 る目安 にはなる。第 4版 までは次第に増加 し,第 5版で少 し減 り,第 6版にな ると大幅に減少 している。また,項 目数については,初版が2項 目,第 2版 と 第 3版が 3項 目,第 4版以降は 4項 目になっている 項 目ごとの分量比較 も見 逃せないところである

このように各版の記述量に変動があるところか ら,改訂にあたって常に見直 しが行われた ことは明 らかである。accountingの解説を4項 目に区別す る考 えは第 4版か ら定着 した。項 目1では会計の基本的な定義,項 目2では広範か つ多様な会計活動領域 に関す る説明,項 目3では責任者による取引報告書,そ して項 目4では特定期間の取引を包括するあ らゆる報告書,についてそれぞれ 記述されている。なお,第4版の項 目1と項 目2は第 3版までの項 目1が分割 された ものである。焦点 となるのは項 目1と項 目2といえよう 分量的には項 2が大部分を しめている。

会計の基本的な定義を述べた項 目 1では, 「取引を記録 し報告す ること」 と 説明されてお り,きわめて明解である。会計の定義 に 「引」という文言を入 れている点が特徴 といえる。取得原価主義会計を主張するコーラ‑としては,

この文言をぜひとも入れておきたいところであろう

項 目2では10個の会計活動領域が説明されている。すなわち,(a)取引発生時 におけるタイ ミング,数量化,分類,(b)取引処理におけるシステム設計,内部 牽制,(C)記録 ・分類 としての簿記,(d)内部報告,(e)内部監査,(f)財務諸表 にお ける要約,(g)公共会計士による財務諸表の監査,(h)投資家,政府機関および一 般大衆 に対す る定期的報告,(i)取引の計画 としての予算統制およびその他の未 来会計活動,および(j)マネージメン ト・サー ビスである。 これ らの会計活動の うち, (a)(b)(C)(f)が伝統的な活動であ り,(g)(h)20世紀の少 し前,(d)(e)1930 年代中頃,(i)は第二次世界大戦後にそれぞれ認識 された活動であり,(j)は現在 問題になっている活動であるといわれている。

その他,項 目2ではつ ぎの3つの指摘が加え られている。ただ し,それ らは すべて第6版で削除されている。

(10)

7g 45 3

1,accountingaccountancyの違いに関す る説明があげ られる。

両語は しば しば同意語 とされるけれども,文献上あまり見掛けない後者は理論 と実務の全体的な体系をさすのに対 し,前者は通常,包括的な用語であると指 摘 されている。

2に,アメ リカ会計士協会 (当時)の用語委員会が1941年 に示 した会計 の定義について論評 している。同委員会 は,会計を,「意義のある方法で,か つ貨幣額によって,少な くとも部分的には財務的性格を もっ取引と事象を記録

・分類 ・要約 し,またはその結果を解釈す る技術」と定義 した。それに対 して, コーラ‑はつ ぎのように述べている。(9会計が技術なのか科学なのか,あるい は両方の側面を もっのかは,定義によって解決できないことである。② 「意義 のある方法で」 となっているけれども,その意図が説明されていない。③ 「 幣額によって」,「事象」および 「財務的性格」 という表現の意味が与え られて お らず,不必要である。④ 「解釈」 というのは経営者 または外部者の職能であ

り,会計人 は情報を開示す ることに限定 される。

そ して第3に,ムーニ ッツの 『基本的会計公準論』(1961年刊)における会 計の定義 に対 して,論評がなされている。その論評 は1963年 に出版 された第

3版か ら登場す る。

ムーニ ッツは会計の職能についてつ ぎのように規定 した。

会計の職能 は,(1)特定の実体 によって保有 されている資源を測定す ること,

(2)これ らの特定実体に対する請求権および持分権を反映させ ること,(3に れ ら の資源,請求権および持分権の変動を測定すること,(4)特定の期間にその変動 を割 り当てること,(5)上記の諸事項を,公分母 としての貨幣数値で表現す るこ

とである14)。」

こうしたムーニ ッツによる5つの会計職能論 に対 して,コーラ‑はそれでは 狭す ぎると考えた。会計には財務諸表の構成要素を提供す る以外に各種の職能

14)M.Moonitz,TheBasicPostulatesofAccounting,AICPA,ARSNo.1, 1961,p.231.佐藤孝一 ・新井清光訳 『会計公準 と会計原則』中央経済社,昭和37 ,58ページ。

(11)

コーラ‑ 『会計学辞典』の意義と変遷 79 が ある。た とえば,近代 的な経営管理理念の展開に対す る貢献があげ られ る。

トップ レベルの経営管理者 によるよ り良 い経営方針の設定および管理 の改善, よ り明確 な経営管理権限の委譲, あ らゆ る経営管理段階での実行可能 な予算, などがそれ に該当す る。会計が提供す る技術な しには近代企業の管理面 におけ る成長 と成功 は不可能であ った と指摘す る。

コーラ一によ るaccountingの解説 には, アメ リカ会計士協会やムーニ ッ ツの定義 に対す る批判が加 え られている。 この ことは規範的な側面が強 く意識 されている証拠 とい ってよい。 また,用語 の意味を記述す るだけでな く,事典 的な情報をかな り盛 り込んでいることが明 らかである。第6版でそれ らが大幅 に削除 された ことは,それだけことば典的辞書 に近づ け られた ことを物語 って いる。

(2) earnedsurplus

各版 にお け るearned surplusの解説 行 数 は第 3表 の とお りで あ る。 この表 か ら明 らか な ことは,初版,第 3版,第 6版 と解 説 行数 が次第 に減少 して い る点 で あ る。 こ

の こ と は, この 用 語 が 次 第 に使 わ れ な く な って きた ことを示 している。

初版ではつ ぎのよ うに説 明されていた。

# 3& earnedsurplus の解説行数

14 2 14行 ‑ 3 ‑6 4 5 5 5 6 1

累積純利益か ら株主への分配額および資本金勘定‑の振替額を差 し引いた 部分。処分す ることもで きるが,処分 したに して も利益剰余金の一部に とどま り,資本化 (すなわち,株式配当または資本変更 による資本金勘定への加算) されないか ぎり,最終的には減少せずに戻 され ることになる。貸借対照表上, 利益剰余金 は しば しば,留保利益 または未分配利益 とい う説明的な名称で表 さ れ る15)。」

3版 になると,つ ぎのよ うに簡略化 され る。

15)E.L Kohler,A DictionaryforAccountants,firstedition,p.164.

(12)

80 45巻 3

‑留保利益retainedearnings.いまなお会計士によって盛んに用い られ てお り,また本書 な らびにAICPAの刊行物に もよ くでて くるが,公表貸借 対照表にはあまり見 られない用語16)。」

さらに第6版では 「‑留保利益 retainedearnings.17)」 と記述 されるだけ であ り,retainedearningsearned surplusに取 って代わ った ことを示 している.コーラ‑は規範的な側面をかな り重視 したといって も,実務界で廃 語に近い状態になった用語にまで未練を残 しているわけではない。 ここでは記 述的な側面が尊重 されている。

5 む す ぴ

コーラ‑は亡、くなる前年の1975年 に 『会計学辞典』の第 5版を出版 した。

それはコーラ一にとって生涯をかけた仕事 になったO今 日,会計学の辞典を個 人で作 ることは無理な話である。 もやは個人ではカバーしきれないほど,会計 学の裾野 は広が っている。『会計学辞典』はコーラーの時代 にあってどうにか 可能であったといえよう

辞典 としての利用価値 とい う点か らいえば,最新の第6版のほうがた しかに 高い。 ことば典的な内容に焦点を合わせてお り,人名や団体名の解説 も加え ら れている。‑しか し, コーラ‑の会計思想 は第6版の紙背か らは消えかか ってい

る。それは辞典の もつ宿命なのか もしれない。他人によっては捕えない何かが 5版 までの 『会計学辞典』には含まれている。

コーラ‑は第5版のペーーバ ック版を熱望 していたよ うである18)。ペ‑

16)E.IJ.Kohler,A Dictionary for Accountants,third edition,Pren‑

tice‑Hall,1963,p.195.

17)W.W.CooperandY Ijiri,ed.,Kohler'sDictionaryforAccountants, sixthedition,p.187.

18)N.K.A.Humma,AnExaminationoftheRoleofEricLoutsKohler in theDeuelopTnentOf theAccounting Profession,a dissertation of DoctorofPhilosophy,GeorgiaStateUniversity (1983),UniversityMi crofilmsInternationalandYushodoC0.,1988,pp.99 100.

(13)

コーラ‑ 『会計学辞典』の意義 と変遷 βJ

パーバ ックの長所は,価格が安 く,持ち運びが便利であり,より多 くの人びと に利用可能だという点にある。自分の辞典が広 く普及することを煩 っていたの である。 しか し,その希望は実現 しなかった。

(本稿は日本会計研究学会第45回北海道部会における報告に加筆 したものであ る。)

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