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硫酸溶液中における銅の陽極挙動 長 船 忠 夫*

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(1)

硫酸溶液中における銅の陽極挙動

長  船 忠 夫* 吉  田 慎*

(昭和46年9月30日受理)

Anodic Behaviour of Copper in Sulfuric Acid Solution

Tadao OsAFuNE and Makoto YosmDA

(Received September 30. 1971)

 The anodic behaviour of copper in sulfuric acid solution has been studied by means of poten土ial sweep皿ethQd。

 Effect of acid concentration and temperature on Flade potential and anodic current has been investigated,

analyzing the steady−state anodic polarization curves.

 The results are summarized as follows :

1) Sulfation range, as can be seen in ferrous anode, is not observed in copper anode.

2) Flade potential is about equal regardless of sulfuric acid concentration 3) ln the passive, range, the formation of an anodic film occurs.

4) The current in the passive range is decreased with increasing acid concentration but it is increased by  raising temperature of electrolyte.

1 緒 言

 Sch6nbein )により初めて命名された金属の不働態とい う現象について,現在まで約200年間,多くの研究者によ り多数の研究が行なわれてきたが,2)その本質は解明され

たとはいえない。

 当初はこれを熱力学的観点から取り上げていたが,

HisingerとBelzeliusおよびWetzlar, Glasstoneなどが,

この現象は本質的に電気化学的なものであると述べてい る。Evans, MUller, Hedgesなどは不働態化現象を可視ま たは不可視の酸化膜あるいは腐食生成物である塩類の被膜 が生成するという立場から説明した。一方,Russel, Swi−

nne, Uhlig, Wulffなどにより,いわゆる電子配置説が唱

えられた。

 この二つの説は共に一方を否定しがたいが,後者に対す る実験的根拠は少なく,被膜説をより一般的とみるのが妥 当であろう。3)最近の研究においては,被膜説は進展をと げ特に不働態を活性態と区別する本質的な特性量として,

いわゆるFlade電位と不働態酸化物の溶解速度の意味が明

らかにされた。研究例としては,鉄,コバルト,ニッケル などいわゆる遷移金属については多くの研究者より報告が あり,特に鉄の硫酸溶液中での現象として,活性態と不活 性態との中間過程としての,Sulfation段階の現象につい

ても発表されている。4)

 本実験では銅の精製電解のさい,液中硫酸濃度の上昇に ともなって,陽極電位が貴の方向へ異常に大きくなる現 象5)から発展させて,硫酸溶液中において,アノード分極

させた銅がどのような電気化学的挙動を示すかについて,

酸濃度および液温との関係を検討したものである。

2 三吟態化の電気化学的機構6)・ )

*金属工学科

 前述のように,不働態化現象の説明としては,酸化被膜 説がより一般的であるので,これにしたがってその理論を

考察してみる。    ,

 鉄やニッケルをアノードとして徐徐に陽極電位を増し,

それに対応する陽極電流を,たとえばPotentiostatで求め

る。電位を増加していくと,電流も増加していくが,ある

電位値に達すると電流が急激に減少し,金属の溶解が停止

する。すなわち不働態化する。さらに電位を上げると残余

一167一

(2)

電流が流れて,一定電流となり,ついには酸素を発生して 電流は再び上昇する。この関係をFig.1に示す。鉄の1規 定硫酸中での定常分極曲線を示すとFig・2の通りである。

M

9﹂﹂30090鵡︽

        Anode potential E

Fig.1 Polarization curve in passivation process(前田3))

q5

P

π£

f← 1争 ﹇8 III

1

ノ紹 ︐

1 w

II

o

1

200 刻Xm

2

ヒ1

1⇔ρ07mA cm2

一〇3 O Qs EF +1.O +1.5 +20 Volt

         Po含en廿ial  Eh

Fig.2 Steady−state polarization curve of Fe in    1 N H2SO4 (Franckii))

 この急激に減少する電流値に対応する電位をFlade電 位と称し,活性態と不働態の境界電位である。合ある種の 酸化還元系を含む溶液中の金属電極について,溶解反応,

酸化物の生成反応および酸化還元反応に対応する電流と電 位との関係について考えてみる。

Zo

婁50十

1

﹁圭

しE

  

@ f

11 III

 ノ

llo

UO

O

u伽1

@ ム ψIUp占

hc

UR

Pofenfiol

11

ZR

 Fig.3において, Z。は金属の溶解反応,

生成反応,たとえば

Me十2nOH一一Me20.十nH20十2ne

または,

Me十nH20一一一一,FMe20.十2nH+十2ne

Zpは酸化物の

に対応する分極曲線,ZRは酸化還元反応の分極曲線であ る。iをもって各反応の部分電流を示すと

i融・=iR

でこの金属Meの混成電位,

回路で測定される電流1は

1= ia−iR

Umを示す。したがって外部

である。1と電位との関係は,図の太い実線で示される。

酸化物生成反応の平衡電位Upに対応するi・を不働態化電 流と呼び,特にi・で示す。したがって

  ia>ip

であればこの電位で酸化膜が形成される。すなわち金属の 溶解が停止し,電流は減少してZp上に移行する。この酸 化物生成反応は溶液中の酸化還元反応との間に混成電位.

U・・を決定し,外部回路電流は点線にそって変化する。不 働態被膜が安定であるためには,u・・以上でなければなら ない。U,・以上の電位に対応する電流1・は,不働態を保持 するために最:小限必要で,これを不顎態保持電流とよぶ。

 定常分極曲線として測定するのは,図中太い実線と点線 とを組合わせたもので,Fig.4のようになる。

ノ/ノ

  

@ 

@ m

./  ノ

        一

       / @

^ 一

  

@ 

@ @

       /一

  

@ 

@ 

@ 

@ナ

Fig.3 Mechanism of passivg state(前田3))

Potential

Fig.4 Steady−state polarization curve

 本実験において求めた各曲線もこの定常分極曲線であり 年中,u,・とikに注目した。ここにikとは不働態被膜の 溶解速度に当量な電流であると考えられる。

3 実験装置と方法 3・1実験装置

陽極および陰極には,99.9%以上の銅板を用い,電解有

(3)

効面積を5×10×1mmとした。電極表面はよく脱脂した 後,純水でじゅうぶん洗浄して実験に供した。

 測定回路図をFig.5に示す。 Potentiostat(島津製作所

A

A;Cell P;Potentiostat  C;Cathode Re;Recorder

W;Amode L;Linear sweep electric

R;Reference electrode source

Fig.5 Circuit diagram of potential sweep method

製)PS−2形と同じく島津製自動加電圧装置APA−1形とを 接続し,さらにPotentiostatの出力側に東亜電波工業製 EPR−2TC形記録計を取りつけた。なお, Potentiostatの 出力抵抗選択端子を接続することにより,電解を流れる電 流値が記録計に電圧として表示される。電位測定はすべて 飽和甘こう電極基準である。

 電解ソウは10x14x6cmの透明塩化ビニールの容器で,

これを恒温ソウ(大洋科学製サーモミンダー)中に浸し た。電解液は市販一級硫酸を純水で調製した。

 3.2 方   法

 各種硫酸濃度の水溶液中での銅陽極に対して,電位走査 法によりアノード分極させて,定常分極曲線を得た。硫酸 濃度は50,100,200,300,400,500g/1の6種で陽極電 位は0から+3Vの印加を行なった。電位走査速度は250 mv/min.である。このときの電解液温は50QC一定で行な

った。

 次に電解液温への依存性を調べるために,同じく電位走 査法により,定常分極曲線を求めた。この時の条件は,硫 酸濃度50,100,300および5009/1のそれぞれに,液温を 25。Cからはじめて5。Cごとに上昇させて50。Cまで分

極曲線を求めた。

 この曲線で活性態域と町田態域との各電位について,温 度一電流のArrhenius piotをとり,各濃度での見かけの

活性化エネルギーを求めた。

4 結果と考察

 4.1 定常分極曲線の硫酸濃度依存性

 硫酸濃度を50g/1から順次増した各酸性液を電解液と して(液温50。C),電位走査法により銅アノードの定常分 極曲線を求めた。その結果をFig.6に示す。

O,75

:. o,se

中器ヒ8

O,25

o O.125

pmode potenfigl CV}

  H,SOi (g/1)

1; 50 2; 100 3; 200

O,250 Q575

  vs,SCE   H2SO4 (g/1)

4; 300 5; 400 6: 500

Fig.6 Steady−state polarization curve of copper

anode

 アノード電位を250mv/min.の速度で貴方向へ移行させ ていくと,約0.1Vで電流が急増する。0・2V位でピーク の電流値に達し,その後0.25Vぐらいまでの範囲で急減 する。電流値の上昇している範囲は,銅アノードの金属溶 解反応が活発に進行していることを示している。ピーク電 流に達すると,酸化生成反応が進行して,銅アノードに酸 化被膜の形成が進み,Cu一→Cu2++2eなる反応が急激に 遅くなる。最低電流値に達すると,電流値は電位には無関 係にほぼ一定の値をとる。この電流値は前述のように酸化 被膜の溶解速度に当量な電流である。ここでピーク電流ま での範囲を活性態とし,それ以上の電位領域を不活性態と した。なお,急激に電流値の変化する点,すなわち,活性 態と不活性態との境界電位をFlade電位とする。

 以上の傾向は各硫酸濃度ともほぼ同一であるが,各各の 値については,酸濃度との間に相関関係がみられた。

 ピーク電流値(不働態化電流)については,図にみられ

るように,低濃度ほど高くなっている。ただし,400g/1と

5009/1とではその値が逆である。

(4)

 鉄陽極についての定常分極曲線にみられるような,いわ ゆるSulphation領域4)は見られない。また不働態保持電 流値も高硫酸濃度(500g/1)以外はかなり高いことから,

電位を上げても,不働態化がいちぢるしく進むとはいえな いが,約0.18V以上からは電流値が急減するので,明らか に銅の溶解速度は小さくなっている。その意味で本実験に おいては,不働態なる語句に対して,不活性態なる語句を

使用した。

 Flade電位の酸濃度依存性は,鉄の場合,酸の増加にと もなってFlade電位は貴方向へ移行するという報告があ るが,4)酸濃度に対する顕著な傾向は本実験ではみられな かった。定常分極曲線で電流がピークになる点から急激に 減少する範囲において,最:高点,最低点,中間点の三つの 電流値に対応する電位をプロットしたものをFig.7に示し

た。

O.5

0.

2

0

国Oの.望︵≧ 一〇一↑器ぢ巳

汐ミ;

O 50 100 200 300 400 500

      H2so4  cOncen歪rq奮iOn    9/け    1; potential of lmin.

   2; potential of lmid.

   3; potential of lmax.

Fig.7 H2SO4 concentration dependence of Flade    potentiai

次に定常分極曲線において,電流値が電位に対して,ほ ぼ一定値を保つ領域について,その電流値Ik(不活性態保

持電流という)と酸濃度との関係をFig.8に示した。

 硫酸濃度が400g/1ぐらいまでは,酸濃度の増加につれ て不活性態保持電流は減少し,400g/1以上では,その減 少度が減りほぼ一定となった。不活性態を保持する電流は 前述のように,不活性態被膜の溶解電流であるから定常状 態ではこの速度で溶解した量に当量だけ被膜中のイオン電 流によって被膜が生長する。したがってこの電流値の酸濃 度に対する増減は,被膜の溶解の難易に関係する。

 鉄の場合,VetterS)によ、り提出された理論では,被膜は Fe3+の形で溶出すると仮定して,酸化物からその液側の 層である拡散層を通って電解液へ去るので,この拡散層で はFe3+とFe203との間に平衡が成立しない。一方酸素に

ついては,

︵≦

02一(oxide)十2亙+(aq,)ごH20(aq.)

O.6

O.5

O.4

O.5

O.2

O.1

 O 50 100 200 500 400 500

    H2SO4 concentration {glE)

Fig.8 H2SO  concentration dependence of k

なる平衡が成立するので,酸化物と拡散層との間に電位差 が生じる。したがってこの境界面をFe3+が移行する段階 が,被膜溶解の律速段階であるとしている。

 銅の場合についてもこの理論を当てはめれば,被膜表面 の緻密度が被膜溶解に影響するので,酸の濃度が上るにと もなって,被膜表面が緻密になるため,溶解速度が減少す るのではないかと考えられる。なお被膜の緻密度について は前田による,9)PbSO4被膜の電気電導度のpHによる変 化を測定した結果によれば,酸濃度の増加にともなって順 次電導度は減少している。しかしFig.8に示すように,酸 濃度が400g/1を越すと電流値はほぼ一定になるため,被 膜の緻密度も一定となるのではないかと考えられる。

 本実験における銅の被膜の外観は,3009/1ぐらいまで は,黒色の酸化銅であるが,さらに高濃度では青白色の緻 密な結晶膜が付着していた。Vetterの理論は二つの仮定す なわち,被膜が液中にとけだすということおよび被膜は Fe3+の形で溶けだすということに基づいているが, Scho・

ttyは酸化被膜の構成単位としてのFeO+が溶出するとい う理論を提出している。いずれにしても,被膜溶解が不活 性態保持電流に関係するとみることは,妥当であると考え

られる。

 4.2不活性態電流の温度による影響

 被膜の溶解電流値の液温による影響を調べるために,硫 酸濃度300g/1および500g/1について,液温を250Cから 5。Cごとに50。Cまで変化させて,各々について定常分極 曲線を求め,その不活性保持電流と液温との関係を求め た。その結果をFig.9とFig.10に示した。

 両濃度とも,液温の増加にともなって電流値は上昇した

この結果は一般に温度が高くなると不興態化がおこりにく

くなるということと定性的に一致する。高温になると被膜

が疎になり,粒界を通ってイオンの拡散が容易になったと

(5)

O.20

0

5

0 0

0

7

0

︵≦芒︒﹂﹂=o o;沁9も︒弱

H2SO4 conc.t 300 g/t O

   o

..o/

  e

e/

o

LL一.一一L.L一.

    O 25 30 se 40 45 50

      Temperature of electrolyte {ec)

Fig.9 Relation between electrolytic current and    terriperature of electrolyte at H2SO4, 300 g/Z

考えられる。前田10)は定電流条件下において,鉛の不働態 の初期被膜の構造におよぼす液温の影響を調べ,被膜の電 気伝導度測定の結果,40。C付近を境として活性エネルギ ーが変化するとしている。

 本実験においても,各硫酸濃度について,アノード電位 が200mVおよび500 mVでの見かけの活性化エネルギー を求めた。Fig.11とFig.12は各電位での温度と,電解電 流との関係を示す。電流値は対数目盛で示した。Fig.11と Fig.12から得られた見かけの活性化エネルギーの値は

Table 1に示した。

︵≦

O.10

0

5

0

笠︒ヒ己 o;訪︒﹂℃o田

      J

H2SO4 conc,t500 g/1 /

         e          ノ

      o

   o/

_oノ

︵≦

雀O﹂﹂昌O

1

o.t

QO1

50 45 40 35 30 25 OC

ミ、\ )×

      ,X

         .

    O 25 50 55 40・ 45 50

     Temperature of electrelyte {ec)

F;g.10 Relation between electrolytic current and    temperature of electrolyte at H2SO4, 500 g/l

   3.t 32 as 5,4

         十Xto5      1; H2SO4 50 g/1      2; ,, 100 ti      3; ,, 300 ti      4; !, 500 xt

Fig.12 Arrhenius plot of current at 500 mv

∩≦

↑冨ピコO

Table 1 Activation energy

O.1

O,O1

50 45 40 55 30 25 ec

O

 O  ●

ト\

al

   砿

    十…s

1; H2SO4 50 g/1 2; tl 100 t,

3; tl 300 tt

こ3

\野en畿 SCE

H2SO4

 concentration

50 g/l 100 t,

300 t,

500 

200 mv

6 kcal/mo1 6 tt

8

tt

500 mv

8 kcal/mo1 8

tt

15 tt

19 ,i

a4

Fig.11 Arrhenius plot of current at 200 mv

 見かけの活性化エネルギーの値は硫酸濃度の上昇ととも に大きくなる。これは金属の溶出過電圧が大きくなること

を意味する。

5 ま

銅陽極および陰極の電解において,硫酸水溶液申での銅

アノードの挙動を検討するため,電位走査法により定常分

(6)

極曲線を求めた。

 この分極曲線の主要な特性値であるFlade電位と不活性 態保持電流の値が液中の硫酸濃度と液温にいかに依存する かを検討して次の結果を得た。

 (1)銅アノードでは鉄アノードにみられるようなSul−

phation領域はみられなかった。

 (2)Flade電位は鉄の場合,酸濃度の増加にともなって 貴方向へ移行する傾向があるが,銅の場合酸濃度に無関係 にほぼ一定の電位を示し,約0.18Vから0.2Vの範囲で

あった。

 (3)不活性保持電流は酸濃度の増加にともなって減少し た。また電解液温の上昇にともなって上昇した。

1)前田正雄,電極の化学215(1961)技報堂 2)石川達雄,電気化学34・一8(1966)582 3)前田正雄,電極の化学216(1951)技報堂

4) Shiro HARuyAMA. and others, DENKI KAGAKU

  38−2 (1970) 86

5)長船忠夫,電気化学協会第38回講演大会予稿集(197ユ)

  27

6)前田正雄,電極の化学218(1961)技報堂 7)沖猛雄,金属電気化学105(1969)共立出版

8) Vetter, Z EIectrochem., 59 (1955) 67

9)前田正雄,電気化学協会第25回講演大会予稿集(1958)

10) 同上  Acta Meta.,6(1958)66 11) Franck Z. Naturforschung. 4a 378 (1949)

@172 一

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