創造力を育てる化学教育*
一一 ハ科目としての学習指導
杉 「一
工;
1. ま え が き
自然科学の研究は日進月歩であり,それを基盤とする科 学技術は予想を許さないほどの発展を示し,生産界ば急速 な高度化をみせている。このような現実社会に適応した化 学教育は,いかにあるべきかを検討してみる必要がある。
化学教育は、学習内容を通して現代社会に適応し,さら に科学的により豊かな社会を積極的に創造してゆくことの できる卸.・世代を育成してゆくことを目的としなければな らない。このためには,学習内容の検討は勿論であるが,
忘れてならないのはその指導法ではなかろうか。現在,小
・中・高校の学習内容についてはいろいろな機会に検討が 加えられ,改善の方向も見出されているのは喜ばしいこと である。こうして検討改善された内容も,その適切な指導 によって始めて目的が達成されるのである。特に現代の社 会状勢を考えるとき,学習内容の指導方法がいかなる方向 に進展するかが非常に重大性をもってくるものと思われ る。ここに,化学の指導においては,基礎的知識の理解と 把握は勿論のことであるが,さらに知識を応用できる能力 を修得させ,進んで新しいものをつくりだす創造力の養成 がなされなければならない。
昭和43年3月に,新しく示された高等専門学校教育課 程の標準1)では,化学の目標の中に,「(3)化学の実験・
観察によって,基礎的な化学を修得させ,同時に創造とく ふうの能力を養う。」ことを述べ,さらに留意事項には次 のように記載されている。
(1) 指導にあたっては,関連ある他科目の学習との関 係を配慮した適切な教授方法をくふうする。
(2) 物質の構造と変化に必要な諸要素などを,実験,
観察を通じて正しく認識させ,基礎的事項をじ1・)う ぶんに理解させる。
(3)原子,分子,電子の概念を早期に導入して,高度 の化学的知識のなかでそれぞれを発展させ,使いこ なせるようにする。
(4)化学の歴史は,必要に応じて取り扱うものとす る。
また,既に改訂案の発表された小学校指導要領案2)や中
学校教育課程の改善についての答申3)などにも,理科教育 に創造力の育成が強調されている。これらのことは,今迄 に余りにみられなかった重要な改正点ではなかろうか。
さらに,米銀英国及びソ連などにおいても,既に数年 前より学習内容を再編弔し,近代化学の基礎となっている 内容を精選し,.近代自然科学の考え方を中心に指導が展開 されている。
このような学習内容の検討と改善にともなって,創造力 を育成する一助にもなればと考え,平素の学習指導の一…端 を述べ、御批判をいただければ幸である,,
2,化学教育の動向
産業界の高度化につれて,必要な基礎的知識が年々増力口 してくる。ここに化学教育の現代化が主張され,科学的思 考力に止まらず.創造力の養成が強調されるのである。こ のために,各国においても学習内容の検討・改善に努力が はらわれている。表/は,小・中・高校にて実施されてい る墨継・英国の新しい理科教科課程の例である。
ESSりにおいては,観察・実験・記録・結果の処理など の自然科学研究の方法を訓練することを目標とし,自然現 象の具体物にぶっつけて考えさせ,問題をつかませ,行動 させ,しゃべらせるといった発見学習の学習理論を強調し ている。そして,教科書や指導は科学用語の使用をさけ,
子供ことばによって記述・説明されているのが特徴であ る。また,IPS5)では,物質の構造探究を主題とし,主題 にあまり関係のないものは学習内容より削除している。例 えば,アルキメデスの原理や浮力などは教科書中に見当た らない。そして,探究の精神と科学的方法を強調し,用語 は操作的な定義(Operational definition)で記述・説明 されている。「沸点とは液体を熱して,その加熱曲線をつ くると平らな部分ができる。この平な部分の温度である。」
や「化合物とは,分解して得られた2つ以上の物質を混ぜ 合わせて,もとの物質が得られないとき,この物質を化合 物という。」などはその例である。さらに,学習指導には *第/6回日本理科教育学会中国支部大会(島根大学)
にてこの一部を発表した
津山高専紀要(第2巻第1号)
表 1 米・英の新しい教科課程
国名
米
国
英
国
教科課程の名称(略称) 備 考
Elementary Science Study (ESS)
Introductory Physical Science (IPS) . Physical Science Study Committee (pssc)
Chemical Bond Approach Project (CBA)
Chemical Education Material Study (CHEMS)
Biological Science Curriculum Study (BSCS)
School Mathematics Study Group (S)IX[SG)
Nuflield Foundation Science Teaching Project
Chemistry
f Physics
/
Biology Mathematics
Educational Service Incorporated(ESI)委員会により樹立,幼稚園よ り中学2年を対象とする。
ESI委員会により樹立,中学3年を対象とする。週5時間の学習が課され
ている。
おもに高校3年を対象とし,理工科系の生徒や優秀なものに課されてい
/る・週5〜塒酌学習が課されている・
(注)すべてNational Science Foundation(NSF)から研究資金を 支給されている。
おもにグラマースクール,テクニカルスクーールの1ユ〜16歳の優秀な生徒 を対象とするOrdinary leve1と,さらに16〜18歳の生徒に対するAd−
vance levelがあり, Ordinary leve1は既に樹立されている。
Ordinary leve!は1〜2年は週2時間,3〜5年は週3時間でそれぞれ 家庭学習1時間が課されている。
物理,化学,生物を併行して学習する。
(tll) Organizaticn for Economics Cooperation and Development,
Paris(OECD)の理科教育改革の勧告による。
モデルを利用しており,このモデル(mode1)は類推を助 けるもので,事実にもとずいてつくられ,新しい事実を 予見できるものであると考えられていろ。黒い箱(Black Box)やとじ金と輪を使った化合物のモデルなどは有名で ある。また,実験結果はグラフなどに整理し,結果の分布 曲線をつくり,どの結果がより適切であるかを生徒に判断 させている。決まった実験結果が得られなければならない という考え方を否定し,実験に対する生徒の意欲をさらに 盛り土がらせるように工夫されている。図1,図2は,ナ フタリンの凝固点を測定し.た結果と,凝固点測定の分布曲 、 線を示したものである。
し1 また渓験・一・の鯉
℃1. については・特に指導}こ 85・ 留意されているのも特徴
サJタiJ ,,
である。一
0 8
75 7 Or蛮旧中の水
ヒ し
5 10 15 日寿闇1分1
図1 ナフタリンの凝固
75 80 85 qO 温度〔℃}
図2 凝固点の分布曲線
10
OQ 6 4 2
実験グ几ープ数
0
CBA6)は,化学結合を中心に物質の構造について詳述・
説明し,電荷雲モデル(charge cloud mode1)を上手に教 材に利用している。CHEMS7)は,分子運動論,化学熱力 学を中心に物質の構成及び化学反応を説明し,多くの類 推(arlalogy)を使って記述を進めていろ。 CBAはBlack
Boxを, CHEMSはローソクの燃焼を.学習のはじめに利 用したこともこれらの特徴であろう。
一方,英国においては,ナフィールド財団(Nuffield Foundation)による理科課程8)がっくられている。これ は,「20世紀後半の市民全部に対する科学教育」との名題 のもとに,米国及びソ連のものに再検討を加えてつくられ たもので,創造的・発見的能力の養成や事実にもとずいた 思考を指導するように考慮されている。静水学,アルキメ デスの原理,比熱などを省略し,使い道の広い関連のある 内容を取り入れ,各論を少なくしたことは,この教科課程 の特徴である。しかも,化学9)では,生徒用の教科書はな く,生徒は実験書(Laboratory Investigations),理科表
(Book of Data)及び副読本(Background Books)などに よって学習を進めてゆく仕組になっている。図3はこの関 1係を示したものである。
さらに,ソ連における化学教育については,多くのこと を知る資料が手許にないが,既に有名になったヴェルホフ スキー(B.H, BepoxoBcK雌)は,化学実験教授法10)に おいて,洞察力を強調し,さらに観察した事実をもとにし て,目に見えないところや外面に表われない内面の現象ま
一84一
杉山 魏 創造力を育てる化学教育
琶3ackgro脇脆自 ほ さ\
what he reads and the quesUons that arise
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Ch
phys?csE = de The PupHpteiorogy
l褻3 NufRe工d FoundatiG皿Scie1ユce Teaching Prolectによる化学の学習系統図
で洞察・推論するような指導を主張している。なお,化学 史的な考え方,学習方法,指導方法などを検討するよう にも述べている。また,最近では,物質(material SLIbs−
tance)の種類を少なくするように学習内容の再編成がな されているようである。
3. 創造力を育てる化学教育
3.1 倉11 造 力n)
米国のGemeral Electric社で創造工学プPグラムを担 当しているバン・ファンジェ氏(E.G. von Fange)は,
著書「創造性の開発12)(Professional Creativity)」の中 で,「創造者とは,既存の要素から,彼にとっては新しい 組合せを達成する人であり,創造することは,この新しい 組合せである。創造とは,既存の要素を新しく組合せるこ とに過ぎない。」といっている。これを心理学者は,「創造 するとは,既存の要素を用いて,ある既存の質的規定の枠 を越えるような飛躍がみられ,しかもそれが特定の目的を 常に満足せしめるような普遍性・恒常性・安定性を特つ再 統一体もしくは再統一場を構成することである。」といっ ている。また,米国のJ.W. Haefeleは,「社会的価値の 新しい組合せをつくる能力である。」ともいっている。こ のような創造力(創造性)を,心理学者のギルフォード 氏(」・P・Guilford)は,表2のような因子分析を行なって いる。また,彼は幼児については,「知能と創造力の相関は 低いが,連想検査は知能とかなり高い関係にあり,読.解力 や言語技能などの特別の分野では創造力が強く関係してい
る。」と述べている。
中学生について,創造力と知能や性格などとの関係を考 えてみると知能との関係は高くないが,相関がないと1おt・
えない。知能が普通以下では,創造力が期待できない。ま た,性格との関係は,高創造性群は機敏・機知・融通性・
社交的で陽気であるが,低創造性心は思慮にとみ・着実・
おとなしく理論的で人に動かされない性格をもっている。
また,中学2年生は,第2反抗期に出会い,1年や3年よ i,創造力に乏しいといわれている。W. E, Eastonは,「還 境によって:支配され,創造力は訓練によって開発でぎる。」
と述べている。ここに指導の必要性を改めて感じる。さら に,「創造力を伸ばすためには,きわだったことをやって のける野心やどんな困難も克服する気力を養ない,研究・
実験・観察などによって知識をふやす自己訓練,熱狂性や いちずな情熱が必要である。」と主張している。ここにも 科学教育と創造力との関係がみとめられる。
創 造 性一 Creativity
表2 創造性関係因子一覧表
一1 問題に対する敏感さ
Sensitivity to problem(問題点の発見テスト)
一2
一3
一4.
56一皿
一a 流 暢性一『b Fluency iT C −d
猛若一Fl
鑑。臨i慧一[1
鍵
連想の流暢性Associative fluency 言語の流暢性Word fluenりy 表現の流暢性Expressive fiuency 観念の流暢性Ideational fluency
非凡性Uncommonness(用途テスト)
遠隔連合Remoteness(結果テスト,ことばの環テスト)
た くみさCreverness(標題つくりテスト)
自発的柔軟性Spontaneous flexibility(レンガの利用法)
適応の柔軟性Adaptive flexibility(マッチ棒テスト)
性Elaboration(計画テスト)
義Redefinition(一般的な物をちがう目的に用いるテスh)
津山高専紀要(第2巻 第/号)
さらに,心理学では,創造力の開発方法としては,創造 的思考を延ばすブレイソストー一一一ミング(Brain storming)
法が強調されている。これは,S Aの意見に文句をいわな い,恥かしがらずに何でもいう,できるだけ沢山いう,友 達の意見と自分の意見とを組合せる 。といった条件のも とに,1コ口題目について生徒の意見を発表させる:方法で ある。これに,カウンセリングなどの人格形成法を併用す れば,創造力を養することができるといわれている。
一方,創造開発を阻害する条件として,恩田彰氏は,し つけの重視と自発性の軽視,生徒への期待過剰,成功への 強制,集団への同調性,質問と探究に対する批判,勉強と 遊びの分離などを列挙している。また,科学的創造力の開 発方法としては,学習過程の構成を重要視し,発見学習の 原理を強調している。ここにも,創造力を養成する理科教 育が考えられる。
このように,創造力開発の研究は,おもに幼児より中学 生を対称に行なわれているが,表3のように,有名な発見
・発明・文芸作品などは,おもに35歳前後につくられてい る。心理学老によれば,創造力は,19歳前後に発達の頂点 に達し.てい 表3 科学・発明・文学その他の分野の
最上の作品が最も多く製作された るというこ 年齢 とと,15年
分野i作醐憾劃融の年齢
暦学明詩学学学詩理 権 文 学 化物発文数回天 82
244 90 402 220 160 101 63
794 993 141 554 ユ396 456 224 33
26−30 28−32 30−34 31−34 31−37 34−38 38−42 43−47
余りの差が ある。ここ にも,創造 性の教育と その成果と の関係を考 慮するため の重要な問 題がある。
3.2 創造力を育てる化学の指導
化学の学習において,創造力を養成するには,基礎的知 識の理解と把握が必要なことは勿論であり,このために は,学習内容を系統的に指導することが効果的である。ま た,学習に興味をもたせ,化学の面白さを知らせることも 忘れてはならない。したがって,学習内容を容易に理解さ せる工夫や実験・観察の徹底,実験装置の改良・工夫,実 験計画及び結果の処理などの指導がなされなければならな い。これらの指導によって,科学的思考力が高められ,創 造力が養成されてゆくものと思う。ここでは,特に基礎的 知識の理解と把握,科学的思考力による創造力の養成,化 学史的指導による創造力の養成の立場より,化学教材の指 導について私見を述べてみたい。
3.2、1基礎的知識の理解と把握
化学の学習は,物質の性質とその化学変化について理解 を深めることを目的としているのであるから,物質の性質 や構造の違いを,分子や原子の立場より考察させ,化学変 化をエネルギー変化や分子運動論の立場で把握させること が必要である。数多くの物質やその変化を知ることは不可 能であり,学習に多くの時間を費やすこともできない。ま た,このようなことは単なる暗記に終り,発展性をもった 基礎的知識の理解や把握にはならない。基礎的知識の理解 と把握は,単なる数式や定義による知識としての理解でな く,それを活用できるものにする必要がある。このために は,モデルや類推などによる方法が必要である。前述の CBAやCHEMSなどの化学の学習では,量子論的な化 学結合,分子運動論の概念,熱力学の概念などの説明に は,特にこれらの点を工夫・検討していて,われわれの学 ぶべき点が多い。
しかし,モデルや類推は,学習内容に適切なものでなく ては、返って思考の発展を阻害するが,実験不可能のとき や高程度の内容を理解しやすくするには,極めて効果的で ある。2次反応を玉の衝突に考えたり,気体の圧力を玉の 運動による器壁への衝突と考えたり,化学反応の活性化エ ネルギーを峠の高さと考えたりする例は,理解を大いに助 け,理解を早めるものである。このように,共休的なもの を考えることが、内容の理解を容易にし,こうした理解が 科学的思考力を高め創造力をつくり出すものではなかろう
か。
また,諸現象の帰納推理により規則性を見出し,さらに 理論・法則を発見する学習方法論の過程を説明するため に,CHEMSは「暖を求めるまい子の物語」の例を出し て理解をさせたり,エントロピーの概念を導入するために は,自動車に積んだゴルフボールの散乱する例を引用して いることなどは興味あるものであろう。原子核中の陽子と 中性子の結合については,キャッチボールを考えさせ,武 闘子をボールに,陽子・中性子をキャッチーにたとえて,
互に結合していることを想起させるなども,創造力の養成 につながるものである。
3.2.2科学的思考力による創造力の養成
洞察力・推理力・応用力などの科学的思考力を養成する ことにより,進んで創造力も養成され,新しいものへの発 明発見に進展してゆくと思う。Soxhletの装置を使って抽 出する実験を行ない,その長所を知らせると同時に,水洗 式便所で水が間激的に流れ出す機構を類推させたり,Kipp の装置の長所を理解させ,さらに新しい便利な気体発生装 置を考えさせたりする実験装置の改良と研究は,創造力の 養成につながっている。CBAのように, Black BQXの内 容物を検討させたり,自動式ドアーの機構を書物などによ
らず各自の頭で考察させたり,ポリエチレン膜を引張り,
一86一
杉由 娩 創造力を育てる化学教育
方向による伸び方の比較より,分子の配列を 予想させたりすることは,合理的な思考や洞 察力の養成にもなる。水の電気分解で,水酸 化ナトリウム溶液の電解機構を理解させたな らば,希硫酸の電解機構を考察させるように 指導し,化学平衡や反応速度の学習より,
Haber法によるアンモニア合成工程におけ る温度・圧力・触媒の必要性と生成した気休 のアンモニアを液体アンモニアにする理由の 考察は,創造力の養成である。さらに,ケイ 酸塩工業で,製品の成分は酸性酸
化物と塩基性酸化物よりなること を理解させ,さらに他のガラス・
セメン1・ ・陶磁器を考察させる二 とも必要である。
このような実験装置にたいする 指導,類似した反応は単/こ教える のではなく考察させる指導,化学 工業などは基礎的知識の応用とし て取り上げて指導:することが,創 造力の養成に大切なことである。
3. 2. 3
表4 ケイ酸塩工業(窯業)
翫.S、。2.。茄→陶難騰礁1翻二器)
一→ポルトランドセメント (cao・Al,o,・sio,)
石く、、窓。、)石〒一生石灰一月砿
ケ イ (Si 02)
ソ 一 ダ .(Na, cO,)
表5
1 (C40) (ca(oH),)
砂」 1一・ルシ耀fバイドー耗色遊,
i
灰」→サδ同論.s、。、)
金属の製錬と電気化学系列との関係
ボソ街隊一一
製錬の難易
.金
→小 困難
属駈、C蟹INa;・蕊耐舘N SnH・ }
旨酸化物を 酸化物を炭素で還i硫化物を「単体として 金属アル 馴する。(たいて1熱しただ1も産出。(回
帰蓬三脚鷲惣即知調印解確め羅霧1
iる・漏する・) 陽伽9
→容易 Ag Pt Au
_欝
L化学史的指導による創造力の養成
学習は,思考過程の進展のしかたにともなって進められ ることが多い。このような立場から考えると,化学の発達の 歴史は,思考の進展の歴史とも考えられる。いろいろな学 習内容の理解を容易にするにも,化学史は大いに役立つも のである。また,改良工夫された製品やその製造方法など は,どんなにして考案されたかを知ることもでき,創造力 を伸ばすには適切な指導材料と思われる。
例えば,金属の製錬は,原理的には鉱石より金属の酸化 物をつくり,これを還元している。この還元の方法にはい ろいろあり,金属の標準電極電位(イオン化傾向)の電気 化学系列によって還元方法が変えられなければならない。
おもな金属について考察すると,表5の如くである。この場 合も,いろいろと個々の金属について製錬法を教えること なく,電気化学系列との関連において指導する必要がある。
また,製鋼法における,銑鉄中の不純物の除去などは,
簡単な基礎知識だけで,Bessemer法とThomas法に
ついて 表6 銑鉄と鋼の組成(鉄以外の成分%)
の理解
はでき『
る。こ のため
には,
表6の
如きも
成 分 銑 鉄. 鋼
炭 素C ケイ素Si マンガンMn
リ ソP イ オウS
2. 5−3. 8 1. Orv2. 5 0. rD tv 1. o
O. 3一一〇. 8
O. 04r一 1. 7
0.3 以下 0.8 以下 Q.06以下
・.・e2一・.・・8i・…以下
表7 化 学 電 池
名
電 言
池池池国恥池三池池
遜瀦∴
ノ日日ンク クボグダブ重鉛ル乾空 発明者悸代 陰極
Volta Grove Daniell Bunsen Bunsen Plante Leclanche Gasner Fery
1799 ll
1833 i 1836 [ 184/ i 1842 1 1ssg 1 1865 1 1
1fes (
1917
nnnnnbnnnZZZZZPZZZ 電解液 H,SO,
H,SO,
znsO,
H,SO,
H,SO,
H,SO,
NH,Cl NH,Cl I NH,Cl
減極剤
HNO,
CuSO,
HNTO,
K,Cr,O,
(PbO,)
MnO,
MnO.
0、(空気中)
陽極陣電詔
Cu
I)t
Cu C C
PbO.
C C C
約1
1.8 r 一1. 95
1. 07rvl. 11 1.8 t−1. 95
2 約2
1. 5 一一1. 7
1.5 t−L7 1. 4
内部抵抗 (S2)
O.6 NO.3
0. 1 tvO. 2
約5
0.1 r−O.2
0. 3 一一〇. 5
約10−3
0.4 一2 0.1 n−4
0. 05一一〇. 1
津山高専紀要(第2巻第1号)
のを示し,製鋼法を考察させることが必要である。学生 は,ケイ酸塩工業との関連において,炉の内張りに添加す べき材料を考案することも容易であり,これが学習効果を あげ,さらに創造力を育成すると思われる。
さらに,化学電池の発明とその改良・発達はこの例に最 も適した指導が行なえる。表7は,歴史的に有名で実用化 された電池であるが,電極の改良は,電気化学系列の考え 方より考察できるし,化学変化より減極剤の必要性と改良 も考察でき,このほかの化学電池をつくらせることもでき る。しかし,ここに実用的な電池をつくるためセこは,経済 的で運搬に容易でなくてはならない。ここに生まれたのが 乾電池であろう。また,小型で多量の電流を得るために は,極板の工夫と二次電池であることが必要である。ここ に,鉛蓄電池がつくられたのである。このように,考察を 細かく進めることにより,新しいものへの意欲ができてく
るのではなかろうか。
さらに,いろいろと列挙すれば数限りないが,忘れてな らない教材としては,合成繊維,合成樹脂,合成ゴム,合 成洗剤などの合成物質の製造方法とその発明の過程であ
る。この過程は,必ず創造力養成の大きな力となると確信 している。
4 お わ り に
以上,創造力を養成する方法について,化学教材を例に とり愚見を述べたが,創造する力や創造する:方法などは,
化学の学習だけに止まらず,他の教科にも転移は可能では なかろうか。特に,新しいものをつくり出そうとする方 法,考え方,見方などは何れの科目にも共通する場をもっ ている。心理学者もいっているよに, 望ましい学界にお かれるならぽ,共通の要素をもち,技術や方法を.感動する 学習環境におかれたとぎは,転移は十分に可能である 。 幸にも,最近にいたって,学習内容が検討され,教科書 やその指導法も,創造力の育成の方向に向って努力されつ つある。したがって,今後は心理学の研究との関連におい て,さらにこの問題を究めてゆきたいと考えている。今後 の望ましい化学教育の進展を期待して止まない。
文 献
1)文部省大学学術局技術教育課:高等専門学校教育 課程の標準(昭和43年3月).
2)文部広報:小学校学習指導要領案(昭和43年6 月3日発行,第464号).
3)文部広報;中学校教育課程の改善について(昭和 43年6月13日発行,第465号).
4)栗田一良:科学の実験,Vol・16, No・11,共立出 版KK.
s)IPS Group: lntroductory Physical Science (Text book, Teacher s Guide) ; Prentice−Hall,
Englewood Cliffs.
北沢・栗田・その他。理科の教育,1966/10〜
67/4:東洋館出版KK.
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Hill, New York.
玉虫文一監訳;CBA化学;岩波書店.
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奥野・白井・塩見・大木共訳;ケムス化学;共立 出版K:K.
8)井出・尾科・山藤;理科の教育,1967/8その他;
東洋館出版KK.
g) Nutheld Foundation: Chemistry; Longmans,
London.(lntroduction and Guide, The Sample Scheme Stages 1, II, IIL Handbook of Tea−
chers, Collected Experiments, Laboraty Ex−
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10)杉山 魏:津山工業高等専門学校紀要,Vo1.1,
No・2,「理科教育の動向」.
11)恩田三編:講座創造性の教育1,創造性の基礎 理論;明治図書.
恩田彰編:講座創造性の教育2,創造性の開発 と評価;明治図書.
恩田彰編:講座創造性の教育3,創造性の計画 と実践;明治図書.
12)E.G・von Fange(加藤・岡村訳):創造性の開 発;岩波書店.
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