教員養成における学習開発学の創造
著者 宇都宮 裕章, 色川 卓男, 益川 弘如, 池田 恵子
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 24
ページ 1‑14
発行年 2015‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00008912
静 岡大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要 No24 p■
〜 14(2015)
〈論文〉
教員養成 における学習開発学の創造
宇都宮裕章*・ 色川卓男**・ 益川弘如
***・
池田恵子沐***
Creation ofLearning Dcvelopment Studies on Teachcr Education
Hiroakl Uts]]nonuya,Takuo lrOkawa,Hiroぅ
潤轟 Masukawa,Kciko lkcdaAbstract
The purpose of this paper is to is tO provide new ideas of ̀̀Learning Development Studies LDS)"
and to give us a theoretica1/practical background for launching a new educational departllent based on LDS LDS can be tentatively defined as the study field where urgent contemporary issues such as
environment, consumption, human rights, Inultilingual and multicultural ulatters are integrated by the interdisciplinary perspective of Learning sciences, which refers tO a growing new trend in educ ation―
oriented research Given the definition, we are going to discuss the following topics:Consuller Education, 21st Century Skills, Education fOr Sustainable Development and their collcerning issues towards educational practices
キー ワー ド
:現代的課 題
学 習 開発
ESD新たな学 び
教科横断
教員養成
1
は じめに平成 23年度の国立大学協会中間まとめでは、 「教 養 と国際的素養の涵養 を重視
J「
教育等の専門分野で 活躍す る高 い倫理観 と使命感 をもった人材の育成」「地域振興の中核拠点としての貢献」 「積極的な国際 交流 と国際貢献活動の推進」が取 り上げられ、グロー バルな視点 とローカルな視座 を包括できる人材の輩出 が これか らの国立大学の使命であるとされている。ま た、平成
24年
度及び 25年 度の中央教育審議会の答申 でも、 「社会 を生き抜 く力J「
未来への飛躍 を実現す る人材」 「絆づ く りと活 力のあるコミュニテ ィー形 成」 「新たな学びを展開できる実践的指導力」が新 し い時代の教育に必要 と言Eわ れ、既存の枠 を越える価値 を創造す る学習、活力ある地域形成に向けた学習、思 考力・判断力・ 表現力等の基本的な力を育成す るため の活動型・課題探究型・知識構成型の学習、等の開発 が危急 の課 題 として言及 されて いる。 さ らに、平成 26年度 の中央教育審議会初等 中等教育分科会教員養 成部会 において も、 「児童生徒が主体的・ 協働的に学 ぶ授業 を展開できる力や教科横断的な視野で指導でき る力な ど新 しい指導力が必要」 と指摘 され、児童生徒十
静 岡大学 教育学部国語教育講座
**
静 岡大学 教育学部家政教育講座
***
静 岡大学 大学 院教育学研究科 ネ
***静 岡大学 教育学部社会科教育講座
の主体的・協働的・教科横断的な学びをデザインでき る資質が教員に求め られてきた。
こうした提言の背景となる我が国の教育的・社会的 潮流を踏まえて、本学部では平成 25年度にミッショ ンの再定義 を確定 した。特 に、 「地域密着型 を日指 す」 「GlobaHv Nationally&Locallyの観点か ら教 員養成の高度化 を行 う」 「教科及び教職に関する科 日 を有機的に結びつけた体系的な教育課程を編成する」
といった日標項 目の具現化が急務 とな り、科学技術の 発展、情報化、国際化、少子高齢化、環境問題、消費 者問題、人権問題、多言語・多文化共生社会の構築、
男女共同参画社会の形成、防災や減災への取 り組み、
家庭や地域の変化等 といった、単独の領域内では議論 し尽せない 「現代的課題」 に対峙 しつつ、持続可能な 社会を構築できる担い手を育成する教育課程の設立が
日指された。
現在、本学部 においては上の課題群への対応 と、地 域社会
(と
りわけ静岡県下)へ
のこれまで以上の貢献 を行 うべ く、平成 28年度 を皮切 りとする組織改革が 議論きれている。中でも「学習開発学専攻」と称する新 専攻 の設置は改革の中心軸 に位置づいてお り、既存 の教員養成体系が抱 える諸問題 を解決す る組織 として の在 り方が期待 されている。
この新専攻の前身 とな る構想案は、近年の改革の議
論 が熟す る以前か ら、非公式ではあるが数年 に渡 って
取 り上 げ られて きた議題で もある。古 くは 「国立の教
字都官裕章
色川卓男
益川弘如
池田恵子
員養成 系大学・ 学部の在 り方 に関す る懇 談会」 とい っ た場で も指摘 されてきた、いわゆる ビー ク制が もつ問 題点 の解 消 に端 を発 して いる。現代 的課 題 と言われ る 複雑で相 互 に高 い関連性 を有す る事象群 に対 応で きる 教員 を、 どのよ うに養成 してい くべ きか、果た してそ れ は可能なのか。 こうした疑問点 に応えるべ く模索 さ れ た議論であった。
平 成
26年度 現在 、 前述 の議 論 の蓄 積 によ って 、
「現代的課題 を内容 とし教科横断的な方法 を積極的に 活 か した教員養成組織」 とい う明確 な改 革 ヴ ィジ ョン が学部内に形成 されつつある。 しか も、 この内容 と方 法 こそが 教員資質 の根 幹で ある ことの理解 が徐 々に浸 透 して きて いる。後段 で考察す る ことに もな るが、今 後 は このよ うな捉え方 の実 証 と理論構 築が主 な研究課 題 とな って くるであろ う。
ところで、新専攻設置の理念 として掲 げよ うとして い る新時代 に適合 した教員 の資質は、総合的な知の創 造 と学 び の開発その もの の手法 を学 ばな けれ ば実現 し な い と日されている。そのため、新専攻が行 う人材育 成 は、教育 活動 の諸問題 に適 切 に対 応 で き る 「
21世紀 型スキル」 を備 え もつ教員 の養成 、 同時 に既存教科 の枠組み を越えた学際的な視野 と多角的かつ柔軟な捉 え方 に基づ く新たな学び を実現す る授業 を展 開できる 教員の養成 とな る。 このよ うな養成の場で高め られる 力 とは、端 的 に 「児童生徒 の主体 的・ 協働 的・教科横 断的な学 び をデザ イ ンで きる力」 と言 うことがで きる だ ろ う。
そ う した 力量 の具体 的な養成方法 につ いて は、現在 カ リキ ュ ラム面か らおお よそ次 のよ うな制度 が検 討 さ れ て いる。
現代的課 題及びそ の考 え方 に関す る上述 の資質群 を 新 時代 の養成制度
=現代 型 ピー ク制 に位 置 づ け、 ここ を核 とした拡張 と展開をカ リキュラム化す る。その試 みの一つ と して、専門科 目をい くつか の 「教育 の現代 的課 題」科 日群 にパ ッケー ジ化 し、学部 の認定制度 の 下で運 用す る。認定制度 の活 用 によ り、各教科 を専攻 している学生 も、 自身の専門性 に直結す る教科横断的 な 内容 を効 率的 に履修 す る ことが で き、教員 としての 強みや厚 み を付加できる。 また 、学 習 開発学 専攻所属 の学生が他専攻開設の科 目を柔軟的 に履修できるよ う にす る一方 で、 3年 次か らの他 専攻編 入学 生 を受 け入 れ る体制 を整備 していく。編入元の教科専門教員 との コ ラボ レー ションによる卒業研究指導体制がその端緒 とな ろ う。 さらに、各教科の専門知 を現代的課題群の 中で再組織化 させ る と同時 に、 当該課 題 を各教科 内容 の髄液 として浸透させ る ことを企図 した科 目を専攻必 修 および選択科 日に設置 す る。 この専 門知 と諸課題 を 連結す る手法 と して学習科 学 を位 置づ け る。
以上の よ うな制度 は、繰 り返 しにな るが 、新 しい学 びのデザイ ンカを現代的課題 とい う教科横断的領域の
中で実現 していく資質の養成 を行 う新専攻の基幹的機 能に他な らない。 こうして学習開発学専攻は、新時代 の教員養成制度における核および主導者 としての役割 を担 う人材育成組織 となっていくのである。
各科 目における実際の授業運営にも従来型の手法か らの脱却が求め られている。特筆 しておきたいのは、
これまでの 「講義・ 演習・実習」の枠組みを越えた授 業形態を積極的に採用することである。後段の第
3節
で言及するアクテ ィプラーニング等の新たな学びの手 法は、学生のそれぞれの専門性 に合わせた主体的な学 習方法の創造 に寄与すると同時に、持続可能な社会を 構築する力強い人材の輩出に結びつ くものである。新 しい形態の導入における利点は以上に留まらない。
当該授業運営 自体が学校・地域・国際社会 との協働を 必然的に伴 うため、専攻所属の学生は、海外各地での 実習体験、県内ユネスコスクール加盟校でのアクショ ンリサーチ、ポランティア・NGO等地域社会 との開か れたつなが りづ くりという、貴重で豊潤な経験を蓄積 することができる。加えて、国際化が進む教育界 (学 校現場・教育行政)・ 産業界 (グローバル IT企業・
教育産業・放送メディア
)等
が抱えている課題を、共 に考え解決する活動等に能動的に参加することにもな る。 こうした手法を経験的・実践的に学ぶ ことを通 し て、新任教員の段階か ら新たな学びを積極的に実践す ることのできる、即戦力としての力量形成を目指すの が学習開発学専攻なのである。本稿では 「学習開発学
Jを
下記のように規定する。その上で、規定の妥当性 を含めた議論を通 して学習開 発学専攻の意義 を考察 していく。
【学習開発学】
Learning Development Studies
既存 10教科内では専門外 となる問題 「=現代的 課題」 を取 り扱 う各領域 を 「新たな学び=学習の 開発」の観点か ら学際的に統合 し、既存教科 との 結びつき と教育的営為への貢献法 を研究する実践 的学問分野。なお、以下新専攻の運営を直接担 う学部教員を「コ ア教員」 と呼ぶ。本節に続 く各節の論考はコア教員に よるものである。 コア教員は、現段階において も連携 団体・連携 自治体・連携企業・ 海外協定大学 との共同 研究や、教科の枠組みを越える教育研究 を遂行 してい る。 これ ら社会的貢献性の高い研究成果は、直接的か つ即時的に学生教育へ と活かされるだろう。大学が も つ知の財産を社会に還元するという観点か らも、理論 に根ざした実践型の教員養成を可能にするエキスパー トに支えられた学習開発学専攻の設置は極めて重要な 意義を有 している。
(宇都宮
裕章)
教員養成 における学習開発学の創造
2
消費者教育の推進 と学習開発学21
消費者教育の体系と課題今 日、消費者教育 とは、2012年に制定 された消費 者教育推進法第
2条
に述べ られているように、 「消費 者の自立 を支援するために行われ る消費生活 に関する 教育 (消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画 することの重要性について理解及び関心 を深めるため の教育を含む。)及
び これに準ずる啓発活動Jを
指す。そ して この消費者教育の対象は、消費者教育の体系イ メージマ ップ0肖費者庁
. 2010で
示されているとお り、「消費者市民社会の構築」、 「商品の安全
J、
「生活 の管理 と制約」、 「情報 とメディアJと
いう広が りを 持 っている。つまり消費者教育 とは、悪質商法 とクー リング・ オフを対象にしているのではな く、生活設計 等 も含 む合理的な意思決定や消費者市民社会 をキー ワー ドに した主体的な社会参画 も対象にしている。 こ のよ うな消費者市民社会の考え方は、ESD(本
稿4節参 照)に
近似 している。さ らにいえば、今置かれている 状況の中で最善を尽 くそ うとす る生活適用型の視点 と 今置かれている状況そのものを変革 しようとする生活 醸成型の視点も含 まれていることになる。このような消費者教育の歴史は
1960年
代に遡るこ とができるが、その際には消費者教育 を指導する教員 の知識、技量や興味 。関心等 を問題 にす るいわゆる「教員問題」が取 り上げられたが、その後、なかなか 推進できなかった。
1980年
代末 に学習指導要領が改 訂 された時に、家庭科では単元 に位置づけられたのだ が、今 日か ら見るとそれだけで終わった。つまり位置 づけが相対的に高 くなっただけであ り、 とりたてて消 費者教育の推進にめざま しい成果があったわけではな かった(色
川,2004)。 2008年
及び 2009年 に改訂 さ れた小・ 中・高等学校の学習指導要領において、社会 科及び公民科、家庭科、技術・家庭科などを中心に消 費者教育に関する教育内容を充実 した といわれている。しか し、色川他
(2012)に
よるA市教員の調査結果か らみると、 「教員問題」は,日
で もみ られるのである。例 え ば、
2012年の東京都 「消費者教育 に関す る実 施 状況調査」 では、 中学 校、高等 学校 とも消費者教育 に費やす授業 時間は 2時 間が最 も多 い。 また浜松市 (2014)で は 「契約は印鑑 を押す ことで成 り立つ」の 正答者は 4割 弱、 「通信販売や イ ンターネ ッ トで買い 物 した 商品 は、 クー リング・オ フの対 象で あ る Jの 正
答者 は 2割 弱、 「消費生活セ ンター
(消費生活相 談窓
日)に
相談 した内容は、国のデータベースに集約 され、事業者指導や法改正に役立て られ る
Jの
正答者は3割
、 わか らない者が6割
であった。 このよ うに学校におけ る消費者教育は、教員問題の影響 もあって、生徒たち も消費生活に基本的な知識を身につけ られていないこ とが推察できるのである。他方 、
2014年に実施 された消費者庁 の 「消費者意 識基本
F・5査」 によ る と、消費者教育・啓発の受講経験 が ある者は、全世代で も
1割程度 で、そ の うち
6割弱 が小・ 中・ 高等学校の授業で と答えて いる。つま り現 状 で消費者教育 を受講 させ る機会 として、最 も大 きな 位置 づ けにあるのは、学校教育である。
前述 した よ うに、学校での消費者教育は、教員 問題 も含めて多 くの課題 を抱 えてお り、 とて も実施 して い る とは言 い切れな い現状なのに対 して、それで も学校 における消費者教育は、消費者教育推進 にとって本丸 ともいえ る位置づ けにあることになる。
22
学校 にお ける消費者教育の新たな戦略か らみた 学習開発学への期待
さて前節で述べたよ うに、学校 にお ける消費者教育 は、消費者教育 に とって本丸であるが、 「教員問題」
もあってなかなか推進で きていないのが現状である。
しか し最近 は新たな動 き も見 られ る。 2012年 に消費 者教育推進法が制定 されて、地方 の消費者行政部局 に は これ までの取 り組みだけでな く、地域協議会の設置 や消費生活セ ンター を 「消費者教育の拠点化」 として 整備す る ことと ともに、消費者教育 コーデ ィネーター の設置 も期待 されている。 また文科省は平成
22年度 か ら各地で消費者教育 フェスタを開催 し、多様な主体 が連携す る消費者教育の実践的な取 り組み を示そ うと
して いる。
この よ うな状 況 の 中でみ られ る新 たな戦略 とは、
「串刺 し J教 育 で あ る。 つ ま り家庭科や社会・公民内 とい う教科内での消費者教育の充実 を図るだけでな く、
色 々な教科 を跨 いだ 「串刺 し Jの よ うな消費者教育の 方法 を推進 しよ うとして いる。 ここには各内容の位置 づ け等、新たな課題 も生 じるが、消費者教育の推進 に とって、教員養成課程では教科内の充実 とともに、課 程全体 の学生たちに対す る教育の充実 も求め られてい るので ある。
そ の意味で教員養成課程ではあるが教科の外 にある とい う学習開発学専攻の位置づ けの中で、消費者教育 系の科 目が並ぶ ことは、 まさに文科省が考 える学校 に お ける消費者教育の充実 の方 向性 と合致 しているとい え るだ ろ う。
さて 、 どんなに体 制が整備 されて も、実際の学校現 場で消費 者教育 が推進 されなけれ ば意味がない。消費 者教育が抱 え る課 題である 「教員問題」等 を抜本的 に 解決す るには、生徒が関心 を持つ、身につ く指導方法 の開発 こそが最 も重要な課題 として現れ る。
この本質的な問題 を解決す る手がか りの一つが学習 開発学 にある と考 えて い る。
学習 開発学の最 も顕著な特徴は、従来の 「講義・演
習・ 実習 」 の枠 組 み を越 えて、知識構成 型協働学習
(知 識 構 成 型 ジ グ ソ ー 法 等 )、 問 題 解 決 型 学 習
宇都宮裕章
色川卓男
益川弘如
池田恵子
(PBL)、
現場 に直接 出向 くフィール ドワー ク等 の「アクテイプラーニング」と呼ばれる新しい学びの手 法を積極的に導入 していくことにある(本稿
3節
参照)。消費者教育で も、
1980年
代 にロール ブレイ ングな ど 当時のアメ リカのアクテ ィブな学びを導入 しようとし ていた。確かに一部ではそれ らに基づ く成果 もみ られ たが、それが中途半端 にとどまった。今、改めて消費 者教育に 「新たな学び」の手法を積極的に導入 してい くことで、生徒に 「身につ く教育」 となる消費者教育 の新たな教授法の開発 をしていくことが求め られてい る。昨年度、文科省の「連携・協働 による消費者教育推 進事業」 における消費者教育推進のための実証的共同 研究 を受託 し、地元の関係団体 と共に大学生向けの体 系的な消費者教育教材の開発 を行 った。 ここでのコン セプ トは、できるだけ講師が しやべ らず、学生たちに アクテ ィプラーニングをさせることにあった。昨年度 に試行的授業 も実施 し、その中で得 られた知見 も踏ま えて教材 と副教材 を開発 したのだが、本年度、実際に 授業で利用 してみると、 うまく行 くところもあれば、
そ うでないところもあ り、改訂 しなければな らない点 も多 く見つけることになった。 このよ うに新たな学び を利用 した消費者教育の実践はまだ途上である。 しか しこのよ うな試行錯誤を繰 り返 し、消費者教育を題材 にして新たな学びの手法を実践 していくことで生ずる 課題等 を解決 していくプロセス自体が学習開発学の発 展に寄与するであろうし、消費者教育の本質的な問題 の解決 につながるのではないか。つまり消費者教育等 の具体的な学習領域 と学習開発学 との相互作用によっ て、 ともに新 しい学びを深めることになるだろう。
(色川
卓男)
3
確かな学力とこれか らの資質・能力21世紀の知識基盤社会 において義務教育で育成す べき 「確かな学力」 と「これか らの資質・能力」 とは、
「他者と共に新たな知識を生み出す力」である。この 背景 と21世紀型の新たな授業の姿について、学習科 学の研究領域の知見や国際的社会的動向か らまとめ、
これか らの教員養成 に必要 となる授業の姿を考察する。
31
知識基盤社会で求め られるカ知識基盤社会では、すべての人が対話 しなが ら新た な知識 を生み出していくことが大事だ とされている。
現在、
ICTの
進展によ り様々な情報で世の中は溢れ ている。 これ ら情報を賢 く取捨選択 し活用 していくた めには、情報を比較・俯欧・統合 して 自分にとって活 用可能な知識に加工 してい くよ うな 「情報を統合 して 必要な知識を生み出すJこ
とが一人ひとりに求め られ ている。 これは、専門家がまとめた情報 を知って利用 すればそれほど間違いがなかった時代 とは異な り、知識を得るスキルよ りも知識を生み出すスキルが重要 と なることを示 している。
また、現代社会 は様々な問題 を抱 えて いる。知の ギャップ問題 (Ingenuity Gap)と 言われて いるが、
多文化共生、テロリズム、資源問題、地球温暖化、治 療薬のない病気な ど、専門家でさえ解の見えない問題 に対 して、我々人類が知恵を出し合い、少 しずつでも 解決 していくような、一人ひとりが知識 を生み出し貢 献 していく社会が期待されている。
2009年
に発足 した国際団体ATC21S佗 1世
紀型スキ ル の 評 価 と教 育 プ ロジ ェ ク ト)が
提 出 した 自書 (Griffin他, 201)で
は、各国の教育政策やカ リキュ ラムを検討 して、4領
域か らなる10個
のスキルを21 世紀型スキル として示 している。それは 「思考の方法(創造性 とイ ノベーション、批判的思考 ほか、学び方 の学習)」 「働 く方法 (コミュニケー シ ョン、コラボ レーション)」 「働 くためのツール(情報 リテラシー、
ICTリ テ ラシー)」 「世界の中で生きる(シチズンシッ プ、 人生 とキ ャ リア発達、個人 の責任 と社 会的費 任)」 である。総体 として整理す ると、 「ある目標 を 解決するために、他者と共に様々なテクノロジも活用 しなが ら知識を生み出し、またそのプロセスを通 じて 新たな目標 を発見するような知識 を生み出し続けるス キル」 と言えるだろう。
32
次期学習指導要領に向けての動向このよ うな世界の教育の流れに呼応する形で、 日本 国内で も大きな動きとなっている。現在の学校教育法 では 「確かな学力」について、『生涯 にわた り学習す る基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能 を習得 させるとともに、これ らを活用 して課題 を解決す るた めに必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をは ぐくみ、主体的に学習に取 り組む態度 を養 うことに、
特 に意 を用いな ければな らない。』
(学
校教育法第30条
第2項)と している。 これ にOECDの
キー・ コン ビテ ンシーや 21世紀型スキルな ど「資質・能力」に フォーカス した世界の教育改革の流れが加わ り、 これ までベーパーテス トで測定可能な 「知識技能」にとど まらず 「資質・ 能力Jも育成や評価の対象 としていく 方向にシフ トしてきている。例えば、2013年 3月の 国立教育政策研究所の『社会の変化に対応する資質や 能力を育成する教育課程編成の基本原理』の報告書で は、 「未来 を創 る (実践力)J「
深 く考 える (思考 力)」
「道具や身体を使う (基礎力)」
の三層か らな る 「21世
紀型能力」 として整理、提案 している。2014年
11月 の中教審への諮間では、次期学習指導 要領に向けて育成すべき資質・能力をふまえた教育課 程の構造化を求めている。そ こでは、新 しい時代に必 要 となる資質・能力として 「自立 した人間 として、他 者と協働 しなが ら倉1造
的に生きていくために必要な資教員養成における学習開発学の創造
質・ 能 力 J「 我 が国の子 供たちに とって今後重要 と考 え られ る、何事 にも主体的に取 り組 もうとする意欲や、
多 様 性 を尊 重す る態度 、他 者 と協働 す るため の リー ダー シ ップやチーム ワー ク、コミュニケー ションの能 力、豊かな感性や優 しさ、思 いや り等」 と記 している。
また 、育成 すべ き資質・ 能 力 を育む ため の課 題 の発 見・ 解決 に向けた主体的・ 協働的な学びへ の転換が諮 問 され てお り、 これ まで高等 教育の文脈で用い られて いた 「アクテ ィブラーニ ング」がキー ワー ドとな って い る。
33
どの よ うに学 ばせ るか
学 習科 学 の研究領域 で は、 「知識 は社会的に構成 さ れ る もの」 という考 え方 を基盤 として 「世の中の学び をよ りよい ものへ と変容 させ る」 ことに研究の焦点 を 当て て い る (自 水他 ,2014)。
学習科 学が確 かな学 力や資質 ・能 力 を育成す る授業 で強調す るのは 「知識倉
1造モデル」である。そ こでは 子 どもた ち 自身か ら問 いが生 まれ るよ う学習環境や教 材 をデザ イ ン し、他 者 との協 調的 問題解決活動 を通 し て知識創造 させてい く。資質能力を発揮 させなが ら存 分 に知 識創造活動 を行 わせ るた め、世 の中 にあ る多様 な道具や文脈で支援 して いく。 いわ ぱ社会 に出た先、
学校 外 で の知 識創造活 動 と同様の活動 を経験 させ る こ とに もな る。 これ は現在 主流の、学習 目標 を教師が 固 定 的 に規定 し、そ の枠 内で基礎基本 をまず学 ばせ 、そ の後応 用問題 を流暢 に解 けるよ うにさせ る、知識や学 び方 を空の容れ物 に入れてい く 「知識習得モデル」 と は異なる。
授 業 で資質・ 能 力 を引き出 し高 めて い くには、 問い に対す る解 を対話 しなが ら生み出す と同時に、問いが 生 まれ学 習 を深め続 け る知識倉
1造活 動が重 要 とな る。
Scardanaliaら 201)は
自書の中で、学習 目標 に対 し 子 ど もた ちの今 ここを出発 点 に支援 して い く授業設計 を 「前向 きアプ ローチ Jと 呼 んで い る。 これ は現在主 流 の学習 目標 を定義 して発達段 階 とい う名 の基 に学年 ごとに下位 日標 を定め、一律なステ ップを踏ませて 日 標 に達 した ら学 習 が 完 了 と見 な す 「後 戻 リア プ ロー チ」 とは根本的に異なる。 また前向きアプ ローチでの 評価 は、スキル と知識 を一体 的 に扱 い、子 どもた ちの 知識創 造場 面そ の もの を提 え、深 い理解や新たな問い の生成 をみて いく 「学習 と同時 に行 う状況 に埋め込 ま れ た変容的な評価 Jを 提案 して いる。 これ に対 し、 知 識 と切 り離 して批判 的思考 力・ コ ミュニ ケー シ ョンカ とい うスキル だ け をテ ス トで評価 しよ うとす ると下位 スキル の訓練 とい う後戻 リアプローチ を助長す る。
表 1は 、教育課程の軸 と教育方法 の軸で分類 した 4 つ の知識観
(A〜D)を示 して い る。 知識創造 モデル・
前 向 きア プ ローチ で重視 して いるの は、子 どもた ちが 資質能 力 をあ らか じめ持 って いて 、それ を生か し高め
なが ら深い内容理解 を目指す 「D」 である。 しか し現 在の学校現場では、教科内容は知識 を詰め込み、発表 練習な どのスキルの訓練 を行 う「AJと「CJの組み合 わせで教師中心の授業を実践 していた り、学習者中心 の授業方法が重要だ と認識 していて も、最初に 「CJ
の資質能力育成でコミュニケーション方法や表現方法 といったスキルの訓練 を行 ってか ら「B」 の課題解決 型授業を行 うような、スキル と内容理解 を分けて行 う 授業実践 も多 いだろ う。 このよ うな観点か ら「アク ティプラーニング」の姿を検討すると、資質・能力を 引き出す学習活動が深い知識の創造 と同時に起きてい る、スキル と知識が一体 として扱われた 「ディープ 。 アクテイプラーニング」 という考え方が重要 となるだ ろう。
現在、毎年実施 されている 「全国学力・学習状況調 査
Jで
は、確かな学力を測定するために表2で
示すよ うな対応関係で調査 を実施 している。例えば、調査結 果を元に課題点をひ とつずつ検討 して ピンポイン トで 短期に改善 しようとすると、表 1で 示 した教師中心型 授業の「A」 型や 「c」 型に陥 りやすい。そ うではな く、「D」 型の授業 を少 しずつ増や して いくよ うな長期な 視点で改善を検討 していくことで、確かな学力の向上、
そ して資質・能力の育成が見込めると考え られる。
34 D型授業の実践事例
「D」 型授業 を実現す る一つの 「型」 として、知識 構成型ジグソー法が挙げられる (三宅他
,2014)。
知 識構成 型 ジグ ソー 法 は、授 業検 討 の際 に、 「なぜ か?Jの理由を問 うような課題を考え、その答えを創 造するために必要な資料を3種
類前後準備する。授業 では最初に教師が挑戦課題を示 し、各 自知っているこ とをワークシー トに書き留めてお く。 まず各班いずれ か 1種 類の資料を担当し内容を確認す る (エキスパー 表1
教育課程 と教育方法の軸で整理 した知識観学習者 中心型授業
B:深
い内容理解
D:スキル を引き出 し深い内容理解 C:ス
キル の
表
2学
力の3要
素 と全国学力・学習状況調査「学力の 3要 素」 「全国学力
学習状況調査」
基礎的な知識及び技能
主 と して知識 に関す る問題A 思考 力・ 判断力・表現 力
その他の能力
主 と して活用 に関する問題
B
主体 的 に学習 に取 り組 む 態度
児童生徒質問紙調査
宇都宮裕章
色川卓男
益川弘如
池田恵子
卜活動)。 次 に席替えをして、別資料を担当した人 と 一緒 に新たな班
(3種
類の資料であれば3人班)を
編 成 し課題解決 に挑戦する。各内容を比較 した り俯敵統 合 した りしつつ、悩み対話 し知識を創造 していく (ジ グソー活動)。
そ して全体で公表 し合って互いに検討 し合い (クロス トーク活動)、
最後に各 自納得 した こ とをワークシー トに書き留め、最初の書き込みか らの 変容 を振 り返 る。静岡大学 と共同実践研究 を行っている伊東市立東小 学校 では、授業 中盤での班活動 を活性化 させ るため
「人間関係の配慮」 「事前の話型指導」 「司会役を設 けて活性化」な ど実施 してきたが、すべての子 どもた ちに知識創造を引き起 こす ことが難 しかった。そ こで 2011年度
6年
生算数 「組み合わせ」での各班の発話 を分析 した結果 (遠藤他,20H)、
疑間を出 しつつ理 由を話 し合 う「悩みなが ら対話班」 と、答えの数値 を 言い合 う「考えた こと紹介班」に分かれた。前者は各 自が対話 に持ち寄 る考え方 に多様性があ り(場
面設 定・図・計算方法)、
考え方の行き来の中で問いや疑 間が生まれていたが、後者は多様性が見 られず図での や りとりに終始 していた。1か月後に後者の班は学習 内容 を説明できなか った。2012、 2013年度 は対話の 多様性 を保証するために3種
類の考え方 をエキスパー ト資料 としたジグソー授業にした結果、多 くの班が悩 みなが ら対話するようになった。授業lヶ
月後以降に 組み合わせの解き方について書かせた ところ、説明で きた子 どもの割合が20■ 年度61%だ
ったのが 2012年 度88%、 2013年 度95%に
上昇 した。35
教員養成で必要 となる授業の姿21世紀 にふ さわ しい資質・能力を育成す ることが できる教員 を育てるためには、教員 自身 「
DJ型
の授 業の良さを経験的に理解 している必要があるだろう。教員養成大学授業において も「ディープ・ アクテ ィブ ラーニ ング」を埋め込んだ授業 を実施 し、学生 らは他 者 と共 に新たな知識を生み出す良さの経験 を積み重ね つつ、他者 と共に新たな知識を生み出す授業 を実践で きるよ う、能動的な学習活動の手法や、現代的課題を 学習課題とした教科等の設計、教科横断的・合科的な 視点か らの授業づ くりを学ぶ必要があるだろう。
(益川
弘如)
4 ESDの
展開と教員養成本学部がそ の倉
1造
を目指す学習 開発学 では、ESD
(持続可能な開発のための教育)と
学習科学の 2つ を 車の両輪として重視 している。最先端の学習手法に特 化 した学習科学 と、学習手法 と内容の双方 を融合 した ものである ESDの 両方があって学習開発学は成 り立つ と筆者 らは考える。本節では、ESDとは何か を確認 し、その意義 と重要性について述べる。
41 ESDの
展開と動向ESD(持続可能な開発のための教育
)は
、 「アジェ ンダ 21」(国
連環境開発会議、1992年
)において初 めてその重要性が指摘された。社会が持続可能でな く なるという状況 は、海外や遠 い未来の話ではない。2011年
3月に発生 した東 日本大震災 と福島第一原子 力発電所の事故は、豊かな暮 らしがエネルギーの使い 方次第でいとも簡単に崩れ去 るのだということを、私 たちに思い知 らせた。 日本社会では、貧困の増加 と格 差の拡大が年を追 うごとに強 く指摘されている。少子 高齢化が進む中、存続 自体が危ぶまれる地域も現れて きた。異なる文化や価値観への社会的な寛容さ、貧困 問題の解決、環境の保全、公正 さと平和の追及、 これ らの価値に基づいて社会のあ り方 を再編成 していくこ とこそが、 「持続可能な開発」である。持続可能な社会は、私たち一人ひ とりが、毎 日の生 活や経済活動の場で意識 し、正 しい情報に基づいて意 思決定 し、行動 を変革 しなければ実現 しない。 この変 革を実現する重要な役割 を担 うのが
ESDで
ある。2002年
に国連総会で採択 され た 「
ESDの 10年」
(200514年
)決 議 によ り、各 国が ESDに 取 り組む国 際的合意がな された。 2013年 11月 の第 37回 ユ ネス コ総会 では、
ESDの 10年の 後継 プ ログ ラム と して
「
ESDに関す るグ ローパ ル・ ア ク シ ョン・ プ ログ ラ ム Jが 採択 され 、
ESDはます ます強力に推進 されつつ ある とい うのが 国際的な潮流である。
42
教員養成 における
ESDの位置 づ け
日本では、 2008年 の 「教育振興基本計画」
(文部科 学省
,2015Jで、 「持続可能な社会の構築」が教育の 重要な理念 と位置づけ られた。 さらに 2013年 の 「第
2期教育振興基本計画」 (文 部 科 学 省
,2015りで は 、
ESDは今後 の教育の中核的な役割 を担 う役割 を与え ら れて いる。すなわち、教育の全体像 を構成する
4方針 の うち 「 (D社 会 を生 き抜 く力 の養成 〜 多様で変化 の激 しい社会 で の個 人の 自立 と協働〜」 にお いて 、
「持続 可能 な社会 の構 築 とい う見地か らは ,『 関 わ り』『つなが り』を尊重できる個人 を育成する『持続 可能な開発のための教育 (ESD)』 の推進が求め られ てお り、 これは『キー・ コン ピテ ンシー 』の養成 にも つながる」 と明示 された。また、 「今後
5年間に実施 すべ き教育上の方 策」 の 「基本施策 11:現 代的 。社 会的な課題 に対応 した学習等 の推進」 にお いて 「現代 的、社会的な課題に対 して地球 的な視野で考え、 自ら の問題 として捉え、身近な ところか ら取 り組み、持続 可能な社会づ くりの担 い手 とな るよ う一人一人を育成 す る教育
(持続 可能 な 開発 のための教育
:ESD)を推 進す る」 と強調 されている。
2011年 か ら施行 されて いる現行 の学習指導要領で
も、持続可能な社会 の構 築 の観 点 は、小学校・ 中学
教員養成 における学習開発学 の倉
U造
校・高校の総則 (道徳教育
)に
盛 り込 まれている。総 合的な学習の時間の内容 として例示 されてきた国際理 解、情報、環境、福祉な どの領域は「持続可能な社会 の実現 にかかわる課題」 と明記され、中学・高校の地 理歴史、公民、理科、高校の保健体育、家庭で「持続 可能な社会」 という言葉が使用された。加えて、小学 校の社会、理科、生活、家庭、中学校の音楽、美術、保健体育、技術・家庭、外国語、高校の国語、芸術、
外国語 において も
ESD関
連の具体的な記述がみ られる。ESDは、すでに日本の教育の中核 を担 う概念 となって いる。
しか しなが ら、教員養成の現場においては、ESDは 必ず しも強調されてきたわけではない。20H年 6月、
「我が国における『国連持続可能な開発のための教育 の 10年』実施計画」 (以下、ESD実施計画
)が
改訂 され、その中で、大学の教職課程でESDに
関する内容 を積極的に取 り上げ、実践的な指導方法 を教授するこ とが初めて推奨された。ESDで「育みたい力」や 「教 え方」 も、提示されたばか りである。 「育みたい力」の中で特徴的なのは、 1)問題や現象の背景の理解、
多面的かつ総合的な ものの見方を重視 した体系的な思 考力、 2)批判力を重視 した代替案の思考力、3)人
間の尊重、多様性の尊重、非排他性、機会均等、環境 の尊重 といった持続可能な開発に関する価値観を培 う ことである。
「教え方」に関 しては、知識の伝達にとどまらず、
「関心の喚起→理解の深化→参加する態度や問題解決 能力の育成
Jを
通 じて 「具体的な行動」 を促す参加型 アプローチが大切だ とされる。まさに学習科学の知見 が必要とされる点である。 さらに、異なる主体間をつ な ぐコーディネー ト能力、多様な主体の特徴 と地域の 資 源 や 状況 を踏 まえて活 動 や組 織 を構 築す るプ ロ デュース能力を持つ人材や組織が必要だ と強調されて いる。学校教育 においては、 「教員がコーディネー ト 能力や ファシリテーション技能 を持つようになること も必要だとされ、 これ らの能力向上の研修が、教育研 修機関や教員養成機関な どのカ リキュラムに組み込ま れることが期待 される」 と述べ られている。 しか し、これ らの資質の育成に関 しては、具体的な指針な どは 見当た らず、今後仕組みが作 られてい く必要がある。
43
教員養成 におけるESDの
可能性 と課題ESDには、環境、人権、平和、国際理解、多文化共 生、開発、防災等のテーマ・ 内容が含 まれるが、 これ ら自体は決 して新 しいものではない。 しか し、ESDと いう新 しい視点か ら捉え直す ことによ り、個別分野の 取組 に持続可能な社会の構築という共通の 日的が与え られ、具体的な活動 に明確な方向付 けがなされる。各 教科 同士 を結び、 ローカル か らグ ローバル にいた る 様々なスケールで地域 と学校をつな ぐことができる。
したが って、
ESDを既存 の教育実践への付 け足 しと 考 えるべ きではな い。専門的な知識 と技能の体系 に裏 打 ち され た教員の養成は欠かせない。また、
ESDの教 育効果 につ いて 、客観的な評価指標や、
ESDが今 後求 め られ る資質・能力の向上に どのよ うに貢献す るか を 理論的 に明 らかにす る必要 もある。
これ まで の ESD実 践 は、現職の心 ある教員が手探 り で実施 して きた と言 って も過言ではないだ ろう。今後 は、
ESD実践 を教員養成の課程に、また現職教員 の研 修 に体 系だ って位置づけ、同時に調査研究 も進 めて い
くことが望 まれている。
(池
田
恵子
)5
地域社会への参加を通 した学習
ESDに
代表 され る現代的・社会的課題 を扱 う学習で は、知識 の伝達 にとどま らず、課題 を自分 自身の問題 ととらえ、そ の解決 に参加す る態度や問題解決能 力の 育成 を通 じて 「具体 的な行動」 を促す ことが重視 され る。そ のため、学習者が主体 的に学ぶ問題解決型授業 や 、地域組織や企業 との連携 を通 して実社会 にお ける 課 題解決 に関与す る体験型の学習が多用され る。
ESDの
視 点 を持 って実社会 に意味ある学びの場 を求 め るな らば、 「我が国における『国連持続可能な開発 のため の教育 の
10年』実施計画」 (2011年 改 訂 、
ESD実施計画 )で 指 摘 され て いる通 り、学習指導者が 、
①異なる主体間をつな ぐコーディネー ト能力、②多様 な主体の特徴 と地域の資源や状況を踏まえて活動や組 織を構築するプロデュース能力、そ して③多様な意見 を引きだ し合意 形成や相互理解 を促進す るフ ァシ リ テーション能力を備えることが必要不可欠であろう。
本節では、筆者が これまで関わってきた住民参加型の 地域開発支援活動の経験か ら、実社会における課題解 決に関与す る体験型の学習において必要 とされるこれ らの能力とは具体的にどんなものか、考えてみたい。
51
南 アジアと静岡における住民参加型地域防災の 経験か ら筆者は、1990年代前半以来、バ ングラデシュやネ パールな どの南アジアにおいて、森林保全や地域防災 な どを中心 とした災害 リスク削減のための地域開発に 住民参加 を促進する事業に関わ り、その成果や課題に 関する調査研究 を行 ってきた。住民参加型の地域防災 事業では、地域の災害 リスクを軽減す ることで災害に 強い地域社会 をつくることを日的として、地域住民が 地方行政や市民社会組織な どと協働 して、地域の災害 脆弱性 とレジリエ ンス
)特
定 し、 これ らを改善または 強化す る多様な活動が行われる(池田,2011)。
住民参加型の地域防災に関しては、 日本よ リバ ング ラデシュやネパールが進んでいる。 とりわけ女性、貧 困層、被差別カース トな どの社会で不利な立場にある
宇都官裕章
色川卓男・益川弘如・池田恵子
地域に暮らす多様な人々の視点を活かして地域の防災力を高めよう
・各地で自主防災会単位で 活動の計画を実施
・ 掛
:市、長泉町、焼津市 から各
1自主紡災会
・ 自主紡災会の役員・構
・ 活動案の紹介
・事業の予定と報告会
1%Ⅷ
各市町
男女共同参画担当 。 Webサ イト、報告書、
報告会を通じ、県内 他地域、他県の防災 行政などへの成果 発信と情報提供
・県内の各種防災研 修で活用できる資料
図 「 自主防災活動に男女共同参画・多様性配慮の視点を導入するための研修者養成サポート事業」の概要
出奥
:『平成
23・24年 度地域連携応援プロジェクト成果報告書』、静岡大学イノベーション社会連携推進機構、2010年 より
人々―これ らの人々こそ、被害がよ り深刻で復興は遅 れがちだ―の参加を促進する点に関 しては、大きな成 果が上がっている(池田
,20141。
これ らの国々の経験に学び、20H年 3月の東 日本 大震災以降は、静岡県や市町 と協働 し、地域の 自主防 災組織が男女共同参画・ 多様性配慮の観点に基づいた 有効な対策を実施できるよ うになるための研修や活動 を支援 してきた。
大地震や津波が想定 されている静岡県 にとって、地 域の防災力の強化は、優先度が高い。一方、地域にお いて防災の中心を担つている自主防災組織は、その母 体 となっている自治会な ど地域社会組織が高齢化 し、
また地域離れも進んで活動が硬直化す るという課題に 直面 している。 自主防災活動の主力は退職 した世代の 高齢男性であり、若い世代や女性たちの参画は非常に 限 られている
(Ikeda.20141。
災害時には、性別、年 齢、障害の有無 と種類、国籍な どによって、違 った形 で多様な困難(避
難生活の環境、物資、介護 。子育て、就労、復興への参画など
)に
直面する。地域に暮 らす 多様な人々が地域活動に参加 し、多様な住民の存在に 配慮 した防災体制を備えることで被害を軽減できるこ とは、東 日本大震災の経験か らも明 らかである。国が 示す 「防災基本計画」にも、男女共同参画や多様性ヘ の配慮の具体的対策が盛 り込まれるよ うになってきた。筆者は、
2012年
度 に「自主防災活動 に男女共同参 画・ 多様性配慮の視点を導入するための研修者養成サ ポー ト事業」 (静岡大学地域連携応援 プロジェク ト、図参照
)を
開始 し、現在 もフォローアップを継統中である。 この事業には本学教育学部生も参加 した。 この 事業を振 り返 り、体験型の学習支援に必要な能力につ いて考えてみたい。
52
体験型の学習支援 に必要な能力①異なる主体間をつな ぐコーディネー ト能力
実社会 を有意義な学びの場とするのにまず必要な こ とは、地域の人々や組織 とつながることである。地域 社会で課題の発生 と解決にかかわる人や組織を特定 し、
それ らとつなが らなければ、具体的な状況に沿つて課 題を把握 し解決を考えることは難 しい。
とはいえ、学習支援者がつながろうとする個 々の地 域主体同士がすでに連携 しているか というと、異分野 間はいうまで もな く、同分野内でも案外かかわ りが薄 い。従来か ら行政の危機管理担当部署 と地域の自主防 災組織はつなが りがあるが、社会福祉協議会のボラン ティアコーディネーター、民間の災害ボランテイア団 体、災害時に避難所に指定されている学校、特定の立 場の人々の視点か ら防災の活動 している地域 の
NP0
(例
えば障害者団体や子 ども団体)な
どの間の連携は、多 くの地域において、盛んでない。筆者が関心 を持つ 男女共同参画に関 しては、災害対応に熱心な女性たち のグループが、自主防災組織や行政の危機管理担当部 署 となかなか連携できないという問題が見 られた。地 域の主体間に連携がないということ自体が、問題の一
端となっている。問題や現象の背景を体系的・多面的
に理解して体験型の学習をするには、地域の多様な主
体とつながることが重要である。
教員養成における学習開発学の創造
②多様な主体の特徴 と地域の資源や状況 を踏まえて活 動や組織を構築するプロデュース能力
地域の課題は複雑であ り、その背景 には地域な らで はの様々な事情がある。地域連携応援プロジェク トで 協働作業を行った
3市
町の自主防災組織では、備蓄物 資 の見 直 し、避難所 運営 マニ ュアル の策定 ワー ク ショップの実施、防災訓練への女性や高校生の参画促 進な どそれぞれに異なる課題が取 り上げ られた。地域 の課題は、各地域の立地や歴史な ど地域の文脈によっ て異なる。また、災害の リスク以外の地域課題の存在 も重要である。災害に備えるという課題 をよ り大きな 持続可能な社会づ くりの視点か ら捉える必要がある。一方で、解決 を考 える際には、地域 に存 在す る資源
(人
、施設、モノ、環境、資金、技術な ど)を
把握す ることが有効である。地域の文脈 を踏 まえて問題を特 定 して探究 し、地域の資源を用いて解決 していくプロ セス こそが ESDの骨子 といえる。 さらにそれ をESD
が重視する価値観 ―多様性の尊重、非排他性、機会均 等、環境の尊重な ど―でとらえ直す ことが重要である。地域の文脈を尊重するあまり、従来の方法だけを視野 に入れたのでは、打 開策が見えな い可能性が ある。
ジェンダー平等 というあらたな視点 を導入 して防災体 制を活性化 しようという手法は、そのよ うな典型例 と 言える。
③合意形成や相互理解を促進するファシリテーション
能 力
言 うまで もな いが、実社 会で体 験学習 を行 うことは、
自動 的 に社会参加 の姿 勢 を育む ことにはな らな い。学 習者 の 自発 的な行 動 を引き出 し、課 題 を 自分事 と して 捉 え る機会 を与 え、課 題 の解決 に参加 す る態度 を育み 、 参 加す る機会 の提供 に努 め る必 要が あ る。 そ のため に は、学習指導者が、発言や参加 を促 した り、議論 を整 理 した りして、合意 形成や相互理解 を促進 す る技能 を 身 に着 けて いる ことが必 要 にな る。
53
教 員養成 への示 唆
実社 会 にお け る体 験 型 の学習 は、学 習 者が課 題 を 自 分 自身 の問題 とと らえ、そ の解決 に参 加 す る態度や 間 題解 決能 力の育成 を通 じて 「具体 的な行 動」 を促 す と い う点で、教室 の中だ けの学びや、架空の設定 による シミュ レー シ ョンな どの参加型学習では達成で きない 効果 が期待 で き る。 しか し、そ のた め には 、学習指導 者が本 節で指摘 した よ うな技能 を備 えて い る ことが条 件 とな る。そ のた め に教員養成 の課 程 にお いて 、専 門 的な教育 を受 け る ことが不 可欠で あ る。
(池
田
恵子
)6
「現代社会の課題 と
ESD」開講 に寄せて
新専攻設置 に先駆けて、平成
26年度か ら 「現 代社 会 の課題 と
ESD(持続可能 な 開発のた めの教育
)」と い う科 目を開設 している。通年 4単 位 、学部
1年次 生 を対象 にした学部共通の選択科 日である。後述す るよ うに現代的課題に関す る各領域か らの研究者 を担 当講 師 と し、それぞれ の専 門性 を現代社会 という広領域 に 結 びつ けて議論 を行 う。平成
28年度か らは、学 習開 発学専攻の必修科 日としての開講 を予定 している。本 節で は、 この科 日の概要 を取 り上げる と同時に、実際 の授業の様相 に触れなが ら受講生の 「新たな学び Jの
意義 につ いて考察す る。
61
科 目概要
本科 目の趣 旨は以下の通 りである。
(ア
)ESDへの関心 と理解 の促進
(イ)PBLに
基づ く学 生主導型学習法の展 開 (ウ )パ イ ロ ッ ト科 目としての施行
それぞれ 、内容面・方法面・ 制度面か らのね らいで ある。
(ア )は 本科 目の開講 意 義 で ある。前節で言及 した
ESD概
念 の理解 が 中心 的な柱 で あるが、科 目の受講生 が深 い省察 を可能 にす る水準 まで到達す るには、現代 社会 が抱 える様 々な課 題 を 自 らの問題 と して捉 え、解 決 に向けての行動 につな げ、持続可能な社会 の創造 に まで 目を向け られ るよ うにな らなけれ ばな らな い
(日本ユ ネス コ国内委員会
, 2014)。換言 して、現代的課 題 を単純な知識の集成体 として把握す るのではな く、
当該課題の意味を熟考す る主観 的な落 とし込み と、当 該課 題の社会 における在 り方 を分析す る客観的な議論 を同時 に可能 にす る必要が ある。
こうした行為 に準拠す る理解 を促す には、
(イ)に
掲 げ る 「
PBL=問題解決 型学習」が有効 と考 え られて い る。 類 似 す る学 習方 法 は 、 投 錨 法 lBransford et al, 199111、 協 働 学 習 側 avin, 19831、 体 験 学 習
(lohonen et al,2001)な どと様々に呼び交わ されて きたが、概 して学習者の 「活動」 「文脈」 「自律性
Jに焦 点が 当て られ た方 法 と言 え るだ ろ う
(van Lier,2004,p159。