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不正競争防止法 による営業秘密の刑事法的保護

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(1)

亜 貴 子

は じめ に一 不正 競争 防止 法改 正 の背 景 営 業秘 密侵 害罪 の概 観

営業 秘密 」 の定義 保 護法 益

その他 の諸 問題

は じめ に 一 不 正競 争 防止 法 改 正 の 背 景

平 成17年6月,第162回 通 常 国 会 に お い て 「不 正 競 争 防 止 法 等 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 」1)が成 立 し,11月1日 よ り施 行 さ れ て い る。 こ の 法 律 に よ る不 正 競 争 防 止 法 改 正 の 主 な 目的 の ひ とつ に,営 業 秘 密2)の 保 護 強 化 が あ る3)。 不 正 競 争 防 止 法 は,平 成15年 の 改 正 に お い て,営 業 秘 密 を侵 害 す る 行 為 に対 す る 刑 事 罰 を導 入 して い る。 今 回 の 改 正 は,こ れ らの 規 定 を改 正 し,ま た 新 た な構 成 要 件 を 設 け る こ と に よ り,営 業 秘 密 侵 害 行 為 に対 す る 刑 事 法 的 保 護 を さ らに 強 化 す る もの で あ る。

1)平 成17年 法 律 第75号 。 同 年6月29日 に公 布 さ れ た 。

2)ノ ウ ハ ウ(know‑how),ト レ ー ド ・シ ー ク レ ッ ト(tradesecret)或 い は 企 業 秘 密 と呼 ば れ る こ と もあ る が,本 稿 で は 不 正 競 争 防 止 法 で 用 い られ て い る 「営 業 秘 密 」

に統 一 す る 。 な お,そ れ ぞ れ の 意 味 に つ い て は,全 理 其 『営 業 秘 密 の 刑 事 法 的 保 護 』 (平 成16年)4頁 以 下 を 参 照 。

3)も う ひ と つ の重 要 な 改 正 点 は,模 倣 品 ・海 賊 版 対 策 規 定 の 導 入 で あ る。

〔279〕

(2)

周 知 の とお り,従 来,企 業 が 保 有 す る 営 業 秘 密 を侵 害 す る 行 為 に対 して は, 刑 法 の 財 産犯 の諸 規 定 を広 く解 釈 す る こ と に よっ て,一 定 の 範 囲 で 処 罰 が な さ

れ て き た 。 営 業 秘 密 が 化 体 した 「物 」 自体 へ の侵 害 が 存 在 す る場 合 に は,窃 盗 罪4),業 務 上 横 領 罪5)及 び こ れ らの 共 犯,さ ら に盗 品 等 関与 罪 の成 立 が 認 め ら

れ て い る 。 例 え ば,「 建 設 調 査 会 事 件 」 は,建 設 調 査 会 の 社 員 が 同社 の 企 業 秘 密 で あ る購 読 会 員 名 簿 を持 ち 出 して 複 写 し,名 簿 自体 は元 に戻 して お い た と い う事 案 で あ る が,裁 判 所 は,こ の よ う な コ ピー 目的 に よ る 一 時 的 な持 ち 出 しの 場 合 に も,「 コ ピー を作 成 して これ を第 三 者 に譲 り渡 す こ とに よ り名 簿 を利 用 す る意 思 」 を 以 て,不 法 領 得 の 意 思 が 肯 定 で き る と した 。 さ ら に,「 新 薬 産 業 スパ イ(第 三 製 薬)事 件 」 や 「新 潟 鉄 工 事 件 」 に お い て も,資 料 を コ ピー し, こ れ に 化 体 され た 情 報 を取 得 す る 意 思 だ け で 不 法 領 得 の 意 思 が 肯 定 で き る と さ れ て い る。 しか し,こ の よ う な 内 容 の意 思 を以 て 「権 利 者 を排 除 し,自 己 の 所 有 物 と同 様 に そ の 経 済 的 用 法 に従 い 利 用 す る意 思 」とす る こ と に は 問 題 が あ る, との 批 判 が あ る6)。 ま た,有 体 物 で あ る財 物 を客 体 とす る刑 法 上 の 財 産 犯 規 定 で は,無 体 物 で あ る 営 業 秘 密 とい う情 報 を不 正 に 取 得 ・使 用 ・開 示 す る行 為 を 処 罰 す る こ とに は 限 界 が あ る7)。 他 方 で,営 業 秘 密 が 化 体 した 媒 体 自体 へ の 侵

4)主 な 判 例 に,「 大 日本 印 刷 事 件 」(東 京 地 判 昭 和40年6月26日 判 時419号14頁),「 設 調 査 会 事 件 」(東 京 地 判 昭 和55年2月14日 判 時957号118頁)及 び 「新 薬 産 業 ス パ イ(第 三 製 薬)事 件 」(東 京 地 判 昭 和59年6月28日 刑 月16巻5=6号459頁)が あ る 。 5)「 鐘 淵 化 学 事 件 」(大 阪 地 判 昭 和42年5月31日 判 時494号74頁),「 東 洋 レー ヨ ン事 件 」

(神 戸 地 判 昭 和56年3月27日 判 時1012号35頁)及 び 「新 潟 鉄 工 事 件 」(東 京 地 判 昭 和60年2月13日 刑 月17巻1=2号22頁)等

6)内 田 文 昭 「秘 密 資 料 の 無 断 持 ち 出 し と窃 盗 罪 」 判 例 タ イ ム ズ538号(昭 和59年)47 頁,吉 岡 一 男 企 業 秘 密 と情 報 財 一刑 事 学 各 論 の 試 み の た め に 一口 ・完 」 法 学 論 叢 117巻4号(昭 和60年)15頁 以 下,加 藤 左 千 夫 企 業 秘 密 の 刑 法 的 保 護 一 日本 ・西 ドイ ツ の 状 況 と そ の 立 法 論 的 展 開 一(一)」法 政 論 集116号(昭 和62年)217頁 。 判 例 の 立 場 に肯 定 的 な の は,斉 藤 誠 二 「コ ピ ー 目的 に よ る 秘 密 資 料 の持 出 し と窃 盗 罪 」ジ ュ リ ス ト昭 和59年 度 重 要 判 例 解 説(昭 和60年)183頁 等 。

7)村 井 敏 邦 「機 密 資 料 を持 ち 出 して コ ピ ー させ た 行 為 と窃 盗 罪 の 成 否 」 ジ ュ リス ト 743号(昭 和56年)187頁,山 口 厚 「企 業 秘 密 の 保 護 」 ジ ュ リス ト852号(昭 和61年) 47頁,加 藤 ・前 掲 論 文 注(6)214頁 以 下,林 陽 一 「財 産 的 情 報 の 刑 法 的 保 護 一解 釈 論 の 見 地 か ら 一」 刑 法 雑 誌30巻1号(平 成 元 年)9頁 以 下 。

(3)

害 が な い 場 合 に は,従 業 員 に よ る漏 示 ・不 正 使 用 につ い て 背 任 罪 の 成 否 を問 い 得 る場 合 も あ る が8),背 任 罪 が 成 立 す る に は,行 為 者 が 「他 人 の た め に そ の 事 務 を処 理 す る者 」 で な け れ ば な らず,成 立 範 囲 は 自ず と限 定 され る9)10)。

そ こ で,昭 和49年 の改 正 刑 法 草 案318条11)は,「 企 業 秘 密 漏 示 罪 」を新 設 し た。

しか し,本 罪 の保 護 客 体 は技 術 上 の秘 密 に 限 られ て い る た め,営 業 上 の 秘 密 が 保 護 さ れ て い な い とい う 問題 が あ り,ま た,労 働 者 の退 職 ・転 職 の 自由 を束 縛 す る,「 秘 密 」 の 概 念 が 不 明 確 で あ る,と い っ た 様 々 な批 判12)が 加 え られ た 。 学 説 の側 か ら も,こ れ らの 問 題 を解 決 し,営 業 秘 密 を適 正 に 保 護 す る た め の, い くつ か の 立 法 的提 言 が な され て きた13)。

そ の一 方 で,社 会 の 情 報 化 と,他 の ア ジ ア諸 国 が 競 争 力 を伸 ば して い くの に 伴 う我 が 国 の 産 業 の 競 争 力 低 下 が 懸 念 さ れ る 中,「 優iれた 発 明 等 の 知 的財 産 を 戦 略 的 に創 造,保 護,活 用 し,付 加 価 値 の 高 い経 済 ・社 会 シ ス テ ム を構 築 して

8)背 任 罪 の 成 立 が 認 め られ た 事 案 と して,「 綜 合 コ ン ピ ュ ー タ事 件 」(東 京 地 判 昭 和 60年3月6日 判 例 時 報1147号162頁)が あ る 。

9)山 口 ・前 掲 論 文 注(7)47頁,加 藤 ・前 掲 論 文 注(6)220頁

10)な お,営 業 秘 密 侵 害 に 関 す る 一 連 の 判 例 の 動 き を 検 討 す る も の と して,板 倉 宏 「 業 秘 密 を め ぐ る 犯 罪 」 『現 代 刑 罰 法 大 系 第2巻 経 済 活 動 と刑 罰 』(昭 和58年)所 収280頁 以 下,佐 久 間 修 『刑 法 に お け る 無 形 的 財 産 の 保 護 一企 業 秘 密,コ ン ピ ュ ー タ ・ デ ー タ を 中 心 と し て 一』(平 成3年)7頁 以 下 が あ る。

11)改 正 刑 法 草 案318条(企 業 秘 密 の 漏 示)「 企 業 の 役 員 又 は従 業 者 が,正 当 な 理 由 が な い の に,そ の企 業 の 生 産 方 法 そ の 他 の 技 術 に 関 す る秘 密 を第 三 者 に 漏 ら した と き は,3年 以 下 の懲 役 又 は50万 円 以 下 の 罰 金 に処 す る 。 これ らの 地 位 に あ つ た 者 が, そ の 企 業 の 生 産 方 法 そ の 他 の 技 術 に 関 す る秘 密 を 守 る べ き法 律 上 の 義 務 に 違 反 し て,こ れ を 第 三 者 に 漏 ら し た と き も,同 じで あ る 。」

12)改 正 作 業 と こ れ を め ぐ る 議 論 の 状 況 に つ い て は,吉 岡 ・前 掲 論 文 注(6)2頁 下 が 詳 し い 。 改 正 刑 法 草 案 に 対 す る批 判 に つ い て は,加 藤 左 千 夫 「企 業 秘 密 の 刑 法 的 保 護 一 日 本 ・西 ドイ ツ の 状 況 とそ の 立 法 論 的 展 開 一口 完 」法 政 論 集117号(昭 和62 年)290頁 以 下 も参 照 。

13)板 倉 ・前 掲 論 文 注(10),吉 岡 ・前 掲 論 文 注(6),加 藤 ・前 掲 論 文 注(6)及 び(12), 山 口 厚 「財 産 的 情 報 の 刑 法 的 保 護 一立 法 論 の 見 地 か ら 一」 刑 法 雑 誌30巻1号(平 元 年)27頁 以 下,加 藤 左 千 夫 「企 業 秘 密 の 刑 法 的 保 護 ・再 論 一財 産 犯 的 構 成 の 批 判 的 検 討 を通 して 一」 法 政 論 集127号(平 成 元 年)107頁 以 下,佐 久 間 ・前 掲 書 注(10) 159頁 以 下 。

(4)

い く」 必 要 性 が 唱 え られ る よ う に な っ た14)。 平 成14年 に は 内 閣 総 理 大 臣主 催 の 「知 的 財 産 戦 略 会 議 」 に よ る 「知 的 財 産 戦 略 大 綱 」 が 策 定 さ れ,こ の 中 で, 不 正 競 争 防止 法 に 関連 す る課 題 と して,営 業 秘 密 の刑 事 的 保 護 が掲 げ られ た 。 ま た,平 成13年 に実 施 され た 経 済 産 業 省 に よ る 日本 知 的 財 産 協 会 及 び経 営 法 友 会 所 属 企 業 へ の ア ンケ ー トで は,回 答 企 業 の 約2割 が 自社 の 営 業 秘 密 に 関 して 何 らか の トラ ブ ル を経 験 して お り,条 件 付 き も含 め て 約8割 の企 業 が 営 業 秘 密 の刑 事 的 保 護 に 賛 成 して い る,と い う結 果 が 得 られ る 等15),産 業 界 か ら の 刑 事 罰 導 入 に対 す る要 望 も高 ま っ て い た 。 さ ら に は,諸 外 国 に お い て,相 次 い で 営 業 秘 密 の 不 正 取 得 に 関 す る刑 事 罰 の 導 入 ・強 化 が 行 わ れ た16)と い う事 情 も あ る。 以 上 の よ う な背 景 の 下 で,平 成2年 の不 正 競 争 防 止 法 改 正 時 に導 入 され た 民 事 救 済 規 定 に続 い て,平 成15年 の 改 正 に よ っ て,営 業 秘 密 に刑 法 的 保 護 が 与 え られ る こ と と な っ た の で あ る 。

と こ ろ で,営 業 秘 密 に 関 す る諸 規 定 の 解 説17)及 び不 正 競 争 防 止 法 の 観 点 か らの検 討 は散 見 され る もの の,そ の 内 容 を刑 法 学 の 立場 か ら検 討 した 論 考 は 殆 ど見 当 た らな い 。そ こ で,本 稿 で は,ま ず 営 業 秘 密 侵 害 罪 を概 観 した 上 で,「 営 業 秘 密 」 の定 義 及 び保 護 法 益 に つ い て 解 釈 論 的 問 題 を 中 心 に論 じ,こ れ らの 規 定 の 問 題 点 を 明 らか に した い 。

14)産 業 構 造 審 議 会 知 的 財 産 政 策 部 会 不 正 競 争 防 止 小 委 員 会 「不 正 競 争 防 止 法 の見 直 し の 方 向性 に つ い て 」(平 成15年)。

15)経 済 産 業 省 知 的 財 産 政 策 室 ・編 著 逐 条 解 説 不 正 競 争 防 止 法 〔平 成15年 改 正 版 〕』

(平 成15年)(以 下,「 逐 条 解 説 」 と略 記 す る)181頁

16)例 え ば,ド イ ツ(昭 和61年),フ ラ ンス(平 成4年),ア メ リ カ(平 成8年),中 国(平 成9年),韓 国(平 成10年)。

17)平 成15年 改 正 の 解 説 と して,例 え ば,山 下 隆 也 ・紋 谷 崇 俊 ・郷 家 康 徳 ・浅 野 大 介

「不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を改 正 す る 法 律 の 概 要 」NBL762号(平 成15年)6頁,山 下 隆 也 ・紋 谷 崇 俊 不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 の概 要 第1回 ・第2回 法 律 の ひ ろ ば2003年8月 号(平 成15年)55頁 ・2003年9月 号(平 成15年)63頁,飯 田 聡 「不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を改 正 す る法 律 」 ジ ュ リ ス ト1251号(平 成15年)23頁, 林 い つ み 「不 正 競 争 防 止 法 の 改 正 につ い て 」 自 由 と正 義54巻9号(平 成15年)14頁, 奈 須 野 太 営 業 秘 密 の 保 護 強 化 」 時 の 法 令1702号(平 成15年)42頁,樫 原 哲 哉 「不 正 競 争 防 止 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 」 法 令 解 説 資 料 総 覧271号(平 成16年)42頁

(5)

一 営業秘密侵害罪の概観

営 業 秘 密 に 関 す る犯 罪 行 為 を規 定 す る の は,不 正 競 争 防 止 法21条1項4号 ら9号 ま で で あ る。 以 下,各 号 に 規 定 さ れ た 行 為 類 型 を見 て い く こ とに す る。

1不 正 取 得 後 使 用 ・開 示(21条1項4号)

詐 欺 等 行 為 又 は管 理 侵 害 行 為 に よ り不 正 に取 得 した 営 業 秘 密 を,不 正 の 競 争 の 目的 で 使 用 又 は 開 示 す る行 為 で あ り,営 業 秘 密 の不 正 利 用 に 関 す る諸 行 為 類 型 の う ち,最 も違 法 性 が 高 い と され て い る。 詐 欺 等 行 為 は,「 人 を欺 き,人 暴 行 を加 え,又 は 人 を脅 迫 す る行 為 」 で あ る と規 定 され て お り,こ れ らは 刑 法 上 の 詐 欺 罪,強 盗 罪 及 び 恐 喝 罪 に相 当 す る と説 明 さ れ て い る18)。 他 方,管 侵 害 行 為 と は,無 体 物 で あ る 営 業 秘 密 の 管 理 を外 部 か ら侵 害 す る行 為 を意 味 し, 有 体 物 にお け る 占有 侵 害 に対 応 す る も の で あ る。 具 体 的 に は,営 業 秘 密 記 録 媒 体 等 の 窃 取,管 理 施 設 へ の 侵 入,不 正 ア ク セ ス 行 為,及 び そ の他 の 保 有 者 の 管 理 を 害 す る行 為 で あ る19)。

問題 と な る の は,「 そ の他 の 保 有 者 の 管 理 を害 す る行 為 」 の解 釈 で あ る 。 こ の 曖 昧 な 要 件 は,起 草 者 に よれ ば,「 他 人 の 営 業 秘 密 を不 正 取 得 す る た め に 保 有 者 の 営 業 秘 密 の 管 理 を外 部 か ら害 す る行 為 の う ち,既 に条 文 上 列 挙 さ れ て い る 『窃 取 』 『住 居 侵 入 』 『不 正 ア ク セ ス 行 為 』 を除 い た もの を指 」 す と い う。 例 え ば,営 業 秘 密 保 有 者 の会 話 や 会 議 等 を盗 聴 した り,或 い は電 波 傍 受 等 に よ り 営 業 秘 密 を取 得 し た りす る 行 為 が 想 定 さ れ て い る 。 さ ら に は,記 憶(窃 視), 電 気 通 信 回線 に接 続 さ れ て い な い ス タ ン ド ・ア ロ ー ンの コ ン ピュ ー タ の不 正 利 用,媒 体 の ダ ビ ン グ も こ れ に 当 た る とい う。 起 草 者 は,「 今 後 の 情 報 通 信 技 術 等 の進 歩 に伴 っ て ハ イ テ ク犯 罪 の 手 ロ が 急 速 に進 化 す る 可 能 性 に も適 切 に対 応 で きる よ う,限 定 列 挙 で は な い形 で 定 め た もの で あ る 」20)と説 明 して い る。

18)逐 条 解 説148頁 。 19)逐 条 解 説148頁 。 20)逐 条 解 説149頁 。

(6)

な お,全 て の構 成 要 件 に 共 通 す る 「不 正 の 競 争 の 目 的」に つ い て は後 述 す る。

2不 正 取 得 後 使 用 ・開 示 準 備(21条1項5号)

不 正 の 競 争 の 目的 で使 用 又 は 開示 す る た め に営 業 秘 密 を不 正 に取 得 す る行 為 の うち,営 業 秘 密 が 記 録 され たα)営業 秘 密 記 録 媒 体 等 を取 得 す る行 為 又 は(ロ)そ の 複 製 を作 成 す る行 為 で あ る。 不 正 取 得 段 階 で は未 だ使 用 又 は 開示 と い う終 局 的 な法 益 侵 害 行 為 が 行 わ れ て い な い た め,特 に法 益 侵 害 の 危 険 性 が 高 い,媒 体 を通 じた 営 業 秘 密 の 不 正 取 得 行 為 に 限 定 さ れ て い る21)。

営 業 秘 密 記 録 媒 体 等 の 取 得 」 とは,媒 体 自体(原 本)を 取 得 す る こ とで あ る。 「営 業 秘 密 記 録 媒 体 等 の 記 載 ま た は 記 録 の 複 製 の 作 成 」 は,同 じ種 類 の 媒 体 へ の複 製 の み な らず,異 な っ た 媒 体 間 で の 営 業 秘 密 の 移 し替 え を も含 む た め, 例 え ば,コ ン ピ ュ ー タ に保 管 さ れ た デ ー タ を紙 に プ リ ン トア ウ トす る こ と も「 製 の 作 成 」 に あ た る。

本 罪 の予 備 罪 的性 格 か ら,4号 の 罪 が 成 立 す る場 合 に は 評 価 上 一 罪 と な り, 重 な っ て 成 立 しな い 。

3不 正 領 得 後 使 用 ・開 示(21条1項6号)

営 業 秘 密 を そ の保 有 者 か ら示 さ れ た 者 が,不 正 の 競 争 の 目的 で,詐 欺 等 行 為 若 し くは 管 理 侵 害 行 為 に よ り,又 は横 領 そ の他 の 営 業 秘 密 記 録 媒 体 等 の 管 理 に 係 る任 務 に背 く行 為 に よ り,α)営 業 秘 密 が 記 録 され た媒 体 等 の 原 本 を領 得 し, 又 は(ロ)その 複 製 を作 成 して,使 用 又 は 開 示 す る行 為 で あ る 。 営 業 秘 密 を正 当 に 示 され た者 が,そ の 媒 体 等 に つ い て新 た に不 正 な 領 得 を して 使 用 又 は 開 示 す る 行 為 で あ り,不 正 取 得 類 型 と正 当取 得 類 型 の交 錯 領 域 に位 置 す る犯 罪 類 型 で あ

る と説 明 され て い る 。

こ こ で い う 「保 有 者 」 と は,「 営 業 秘 密 を保 有 す る 事 業 者 」 で あ り(2条1 項7号),営 業 秘 密 を正 当 な権 原 に 基 づ い て取 得 し保 持 して い る者 を指 す 。 「

21)逐 条 解 説150頁 。

(7)

さ れ た 」 とい う文 言 は,「 取 得 」 と 同義 で あ る と解 され て い る 。 す な わ ち,「 営 業 秘 密 を,そ れ が 書 類 等 の 有 体 物 に化 体 さ れ て い れ ば,自 己 又 は 第 三 者 の 支 配 下 に 置 き(=媒 体 の 占 有),そ れ が 情 報 と して の 無 体 物 で あ れ ば 自 己又 は 第 三 者 の 知 識 とす る こ と(=情 報 の 知 得)で あ る」22)。した が っ て,行 為 者 は 情 報 を知 っ て い る か,又 は情 報 が 記 録 され た 媒 体 を 占 有 して い れ ば よ い 。

営 業 秘 密 の管 理 に係 る任 務 」 とは,事 業 者 か らそ の営 業 秘 密 を 正 当 に示 さ れ た者 が,事 業 者 との 委 任 契 約 又 は雇 用 契 約 に お い て 一 般 的 に課 せ られ た 秘 密 を保 持 す べ き任 務,或 い は 秘 密 保 持 契 約 等 に よっ て 個 別 的 に課 せ られ た 秘 密 を 保 持 す べ き任 務 を い う,と され て い る23)。

営 業 秘 密 を示 され た 者 が,そ の 媒 体 を 占有 して い な い場 合 は,ω 詐 欺 等 行 為 」 又 は 「管 理 侵 害 行 為 」 に よ り,そ の 媒 体 を 領 得 し,又 は(ロ)「詐 欺 等 行 為 」 又 は 「管 理 侵 害 行 為 」 に よ り,そ の媒 体 を複 製 す る こ とが 要 件 と な る 。 これ に 対 して,営 業 秘 密 を示 さ れ た者 が,そ の 媒 体 を 占 有 して い る場 合 に は,α)横 領 に よ り,そ の 媒 体 を領 得 し,又 は(ロ)営業 秘 密 記 録 媒 体 等 の管 理 に係 る任 務 に背 い て,そ の 媒 体 の複 製 を作 成 す る こ とに よ る。

4役 員 ・従 業 者 不 正使 用 ・開 示(21条1項7号)

営 業 秘 密 を保 有 者 か ら示 さ れ た そ の役 員 又 は従 業 者 が,不 正 の競 争 の 目的 で, そ の 営 業 秘 密 の 管 理 の任 務 に背 い て 使 用 又 は 開示 す る行 為 で あ り,前 号 と 同様, 営 業 秘 密 を 正 当 に取 得 し た者 に 関 す る規 定 で あ る 。 前 号 が 刑 法 上 の横 領 罪 の 類 型 で あ る の に 対 して,本 罪 は背 任 罪 に相 当 す る。

本 罪 の 主 体 は,「 保 有 者 の役 員 又 は従 業 者 」 で あ り,退 職 者 を含 まな い 。 「 員 」 と は,「 理 事,取 締 役,執 行 役,業 務 を執 行 す る無 限 責 任 社 員,監 事 若 し くは 監 査 役 又 は こ れ ら に準 じる 者 」 と規 定 され て お り,「 こ れ らに準 じる 者 」 とは,当 該 企 業 の 顧 問 や 相 談 役 とい っ た,企 業 の業 務 執 行 権 限 を持 つ 者 に対 し

22)逐 条 解 説152頁 。 23)逐 条 解 説153,156頁 。

(8)

て 影 響 を も た ら し得 る者 で あ る と説 明 され て い る24)。

従 業 者 」 に は,使 用 者 と労 働 契 約 関 係 に あ る 労 働 者 の他,派 遣 労働 者 も含 まれ る とい う。 そ の 理 由 と して は,① 派 遣 先 に物 理 的 に派 遣 さ れ て 日常 的 に指 揮 命 令 を 受 け て お り,営 業 秘 密 に正 当 に,且 つ比 較 的 容 易 に ア ク セ ス で き る立 場 に あ る こ と,及 び② 労 働 者 派 遣 事 業 法24条 の4に お い て 派 遣 先 の営 業 秘 密 に つ い て 法 律 上 の 守 秘 義 務 を負 っ て い る こ と,が 挙 げ られ て い る25)。 こ れ に対 して,請 負 労 働 者 は,法 律 上 の 義 務 を負 う わ け で も な く,派 遣 先 か ら指 揮 命 令 を受 け て お らず,い わ ば企 業 の 内 部 者 と し て働 い て い る わ け で も な い と して, 本 号 に い う 「従 業 者 」 か ら除外 され る26)。

なお,「 前 号 に掲 げ る 者 を 除 く」 た め,6号 の 罪 と7号 の 罪 の 両 方 に該 当 す る よ う に見 え る場 合 に は,6号 が 優 先 的 に適 用 され る。 また,従 業 者 で あ っ て も,営 業 秘 密 に ア ク セ ス す る権 限 が な い 者 が 不 正 に 営 業 秘 密 を取 得 す る 場 合 に は,本 号 で は な く4号 の 罪 が 成 立 す る。

5退 職 者 不 正 使 用 ・開 示(21条1項8号)

本 号 の主 体 は,営 業 秘 密 を保 有 者 か ら示 さ れ た そ の 役 員 又 は 従 業 者 で あ っ た 者,即 ち 退 職 者 で あ る。退 職 者 を処 罰 す る こ とは,労 働 者 の 転 職 の 自 由 を妨 げ,

労 働 移 動 に対 す る一 種 の 抑 止 効 果 を もた らす お そ れ が あ る 」27)ため,平 成15 年 改 正 で は 導 入 が 見 送 られ た とい う経 緯 が あ る。 に もか か わ らず,僅 か2年 後 に 本 号 が 導 入 され た理 由 は,退 職 者 が 関与 す る営 業 秘 密 に 関 す る トラ ブ ル の 増 加 で あ る とい う28)。

本 号 も前 号 と 同 じ く,不 正 の 競 争 の 目的 で,そ の 営 業 秘 密 の 管 理 に係 る任 務

24)逐 条 解 説155頁 。 25)逐 条 解 説155頁 。 26)逐 条 解 説156頁 。 27)逐 条 解 説147頁 。

28)樫 原 哲 哉 ・波 田 野 晴 朗 「不 正 競 争 防 止 法 等 の 一 部 を改 正 す る法 律 」 ジ ュ リス ト1298 号(平 成17年)91頁,経 済 産 業 省 知 的 財 産 政 策 室 「〔資 料 〕 平 成17年 改 正 不 正 競 争 防止 法 」(http://www.meti.go.jp/policy/competition/downloadiles/fUseikyousou.pdf)21頁

(9)

に背 い て,営 業 秘 密 を使 用 又 は 開示 す る行 為 を 処 罰 対 象 とす るが,在 職 時 に使 用 又 は 開 示 に 関 す る請 託 又 は 申 し込 み の あ っ た こ とが 要 件 と な っ て い る。 起 草 者 は,在 職 時 に 漏 洩 の 請 託 或 い は 申 し 出が あ る 場 合 に 限 定 され て い る の で あ る か ら,転 職 の 自 由 の 妨 げ に は な ら な い と説 明 す る29)。 しか し なが ら,本 号 は 媒 体 等 の 不 正 領 得 や 複 製 の作 成 を 問 わ な い た め30),記 憶 に よ る取 得 も処 罰 の 対 象 と な る。 した が っ て,通 常 の転 職 で あ っ て も,在 職 中 に就 職 活 動 を行 う よ う な場 合 に は,本 号 に該 当 す る可 能 性 は否 定 し得 ない の で は ない か 。特 にヘ ッ ドハ ンテ ィ ング に よ る転 職 の 場 合,転 職 者 が そ れ ま で に 身 につ け た技 術 や ノ ウ ハ ウ も含 め た 能 力 が 評 価 され て 引 き抜 か れ る の で あ り,転 職 先 に お い て も こ れ を活 用 す る こ とが 求 め られ るの が 通 常 で あ ろ う。 この よ うな 場 合 に,例 え ば転 職 先 企 業 か ら漏 洩 の 請 託 を受 け た と看 倣 さ れ る 余 地 が あ る の で は な い か,と う 問 題 が あ る。

6二 次 的 取 得 者 不 正 使 用 ・開 示(21条1項9号)

本 号 の 行 為 類 型 は,不 正 の 競 争 の 目的 で,4号 又 は6号 か ら8号 の 罪 に 当 た る 開 示 に よ っ て 取 得 され た 営 業 秘 密 を使 用 又 は 開 示 す る こ とで あ る 。 「罪 に 当 た る 開 示 」 は,犯 罪 の構 成 要 件 に該 当 し,違 法 性 が 阻却 され な い こ とが 必 要 で あ る が,実 際 に処 罰 さ れ る 必 要 は な い 。

平 成17年 改 正 以 前 は,例 え ば,A社 の 従 業 員Xが 単 独 で 同 社 の営 業 秘 密 で あ る顧 客 名 簿 を持 ち 出 し,A社 と競 業 関 係 に あ るB社 の役 員Yに 当該 顧 客 名 簿 の 買 い取 りを求 め る交 渉 を 行 っ た,と い う場 合 に は,Yが 不 正 に持 ち 出 され た 当 該 顧 客 名 簿 で あ る こ とを 知 りなが ら これ を取 得 し使 用 した と して も,実 行 行 為 時 に 関 与 して い な いYを 営 業 秘 密 侵 害 罪 で 処 罰 す る こ とは で き な か っ た 。 しか し,本 改 正 後 は,Xの 開示 行 為 が4号 若 し くは6号 に該 当 す る た め,こ れ に よ

29)参 議 院 経済 産業 委員 会 にお ける北 畑隆 生 ・経済 産業省 経 済産 業政 策局 長 の発 言(平 成17年6月16日 参 議 院経済 産業 委員 会議 事録)。

30)退 職者 で あ って も,媒 体 等 の持 ち出 し,又 は複 製 の作成 を伴 う場 合 に は,6号 該 当す る可 能性が あ る。

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り営 業 秘 密 を取 得 し使 用 したYの 処 罰 が 可 能 と な っ た 。

本 改 正 以 前 に も,取 得 時 に 悪 意 の 二 次 的 取 得 者 に つ い て,共 同 正 犯 又 は狭 義 の 共 犯 とな る可 能 性 は あ っ た 。 例 え ば,ブ ロー カ ーZがA社 の従 業 員Xに 依 頼

して,同 社 の 営 業 秘 密 で あ る顧 客 名 簿 を持 ち 出 させ た場 合,行 為 者Xが21条1 項4号 若 し くは6号 の 正 犯 で あ り,Zは 教 唆 犯(若 し くは共 謀 共 同 正 犯)と

り得 た の で あ る。 しか し,Zが そ の 顧 客 名 簿 を さ らにA社 と競 業 関 係 に あ るB 社 の 役 員Yに 売 り渡 した 場 合 に,Yが,当 該 顧 客 名 簿 がA社 か ら不 正 に持 ち 出

され た もの で あ る こ と を知 りな が ら買 い受 け た と して も,営 業 秘 密 侵 害 罪 に は 何 ら該 当 し な か っ た31)。 そ こ で,本 改 正 で は,悪 意 の 二 次 的 取 得 者 を 正 犯 と す る こ とで,さ らに これ に加 功 した 者 を共 犯 と して処 罰 す る こ とが 可 能 と され た 。 つ ま り,Xに 罪 を犯 させ て 営 業 秘 密 を取 得 した ブ ロー カ ーZが21条1項9 号 の 正 犯 とな り,Zか ら さ らに 営 業 秘 密 を 開 示 さ れ たYを そ の共 犯 と して処 罰

し得 る こ とに な っ た の で あ る。

7「 不 正 の 競 争 の 目的 」

営 業 秘 密 侵 害 罪 は 全 て,「 不 正 の 競 争 の 目的 」 を 主 観 的 要 件 と して い る。 こ の 要 件 に よ り,内 部 告 発32)33)や 取 材 報 道34)等 を 目的 とす る 行 為,さ ら に は 恐 喝 目 的35)や 愉 快犯36)と い っ た 個 人 的 な 犯 罪 行 為 が 営 業 秘 密 侵 害 罪 か ら除 外 さ 31)但 し,そ もそ もYがZにA社 の顧 客名 簿 を入 手す る よ う依頼 してい た場合 には,

少 な くとも間接教 唆 に 当た り,可 罰 的で ある。

32)但 し,内 部 告発 目的 は,既 に営 業秘密 の 三要件 のひ とつ であ る有用性 を欠い てい る。 営業 秘密 の 定義 につ い ては,後 述 二 を参 照 。

33)不 正競 争 防止 法 は,公 益 通報 者保 護法(平 成18年4月1日 施 行予 定)に い う 「 報対 象事 実」(2条3項)の 対 象 とな って いる。

34)例 えば,フ リー ジ ャー ナ リス トAが,蔓 延 して い る新伝 染病 に効 く新 薬 の 開発 の 遅 れ を暴 露 す る 目的 で,関 係者 以外 の 立 ち入 りが制 限 され てい る製薬会 社 の研 究施 設 に許可 な く侵入 し,新 薬 開発 ス ケ ジュー ルが 記載 され た文書 をデ ジ タル カ メ ラで 撮影 した場合(経 済 産業省 知 的財 産政 策室 ・監修 「改正不 正競 争 防止法 参 考事例 集

(営業秘 密 の侵 害 に対 す る刑事 罰 の導入 につい て)」 事例1の ①)。

35)例 え ば,あ る企 業 の顧 客名 簿 を入 手 した者 が,「 金 を払 わ な い と,個 人情 報漏 洩 を公 表 す るぞ」 と脅 して,当 該 名 簿の買 い取 りを要 求す る場合 。

36)例 えば,行 為 者が 自 らのハ ッキ ング技 術 を誇示 す る ため に,あ る企業 の サーバ を

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れ る 。 起 草 者 に よれ ば,不 正 の 競 争 の 目的 は,「 自 己 を含 む 特 定 の 競 業 者 を競 争 上 優 位 に 立 たせ る よ う な 目的 」 を意 味 す る37)。例 え ば,「他 社 の 営 業 秘 密 を, 直 接 的又 は 潜 在 的 な 競 業 関係 に な る 自 らの 事 業 に 用 い る こ と に よ り,自 ら を競 争 上 優 位 な 立 場 に す る 目的」,「他 社 の 営 業 秘 密 を,特 定 の競 業 者 が 使 用 す る で あ ろ う こ と を認 識 し なが ら,直 接 的 に又 は第 三 者 を通 じて そ の 競 業 者 に 開 示 す る こ と に よ り,特 定 の 競 業 者 を 競 争 上優 位 な立 場 にす る 目 的」,或 い は 「他 社 の 営 業 秘 密 を,そ の 競 業 者 と共 謀 した 上 で 不 特 定 多 数 人 に公 開 し,特 定 の 競 業 者 を競 争 上 優 位 な立 場 にす る 目的 」,等 で あ る38)。

営 業 秘 密 の 不 正 利 用 に 関 して 想 定 され る典 型 的 な 事 例 の多 くは,行 為 者 が 図 利 目的 を有 し て い る場 合 で あ る と思 わ れ る。 例 え ば,a)食 品 の 卸 売 を行 うA 社 の 従 業 員 で あ っ たXが,同 じ く食 品 の卸 売 業 を 始 め,退 職 時 に持 ち 出 したA 社 の 取 引 先 名 簿 を利 用 して 同社 の 取 引 先 で あ っ た 企 業 と取 引 を行 う場 合 。ま た,

b)借 金 を 抱 え て い るB社 の従 業 員Yが,自 社 製 品 の 製 造 ノ ウハ ウが 記 され た 書 類 を 同社 の 競 業 者 で あ るC社 に渡 し,対 価 と して 金 銭 を取 得 し た,と い う例 も考 え られ よ う。bの 場 合,Yは 金 銭 を得 る こ との み を 目的 と し て行 為 して い る とす れ ば,Y自 身 に は直 接 的 な 不 正 の競 争 の 目的 が 存 在 して い な い よ う に も 見 え るが,営 業 秘 密 を開 示 した 相 手 方 で あ るC社 がB社 と競 業 関 係 に あ り,当 該 営 業 秘 密 を 利 用 してC社 が 利 益 を上 げ得 る こ との 認 識 が あ れ ば,「 不 正 の 競 争 の 目 的」 が 認 め られ る。

行 為 者 が加 害 目的 を有 して い る場 合 と して は,例 え ば,上 司 と折 り合 い が 悪 くD社 退 職 を余 儀 な くさ れ たZが,同 社 に対 して恨 み を抱 き,c)在 職 中 に入 手 し たD社 の 営 業 秘 密 で あ る新 製 品 開 発 の 資 料 を 退 職 時 に コ ピー して 持 ち 帰 り,D社 と競 業 関係 に あ るE社 に売 り渡 した 場 合,d)個 人 情 報 漏 洩 を 公 表 し てD社 の社 会 的 信 頼 を損 な わ せ よ う と,在 職 中 に入 手 したD社 の 顧 客 名 簿 を, 週 刊 誌 を発 行 す るF社 に売 り渡 した 場 合 に お い て,ど ち らの ケ ー ス で もZは 加

攻 撃 し,営 業 秘 密 に ア ク セ ス す る場 合 。 37)逐 条 解 説149頁 。

38)逐 条 解 説149,150頁

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害 目的 を有 し て い る が,cで は 開 示 の相 手 方 で あ るE社 がD社 と競 業 関係 にあ る の に対 して,dで は 競 業 関係 に 関 わ らな い 損 害 を与 え る こ とが 意 図 さ れ て い る の で,dの 例 で は不 正 の 競 争 の 目的 が 認 め られ な い こ と に な る と考 え られ る 。

実 際 に は,特 に 第 三 者 に営 業 秘 密 を利 用 させ る場 合 に お い て,そ の 第 三 者 が 当 該 営 業 秘 密 を利 用 して 競 業 上優 位 な 立場 に立 つ こ と を認 識 して い る必 要 は な く,営 業 秘 密 の 不 正 利 用 行 為 が 同 業 他 社 との 競 業 関 係 に 関 わ る こ と の認 識 が あ れ ば,本 要 件 を充 足 す る こ と に な ろ う。

営 業 秘 密 」 の 定 義

営 業 秘 密 」 とい う用 語 に つ い て は2条4項 に お い て そ の 定 義 付 け が な され て お り,こ れ に よれ ば,① 秘 密 と して 管 理 され て い る(秘 密 管 理 性),② 事 業 活 動 に 有 用 な 技 術 上 又 は 営 業 上 の 情 報 で あ っ て(有 用 性),③ 公 然 と知 られ て い な い(非 公 知 性)も の を い う。 こ の規 定 は平 成2年 の不 正 競 争 防 止 法 改 正 に よ り民 事 的救 済 措 置 が 導 入 され た 際 に 置 か れ た もの で あ る が,各 要 件 の 解 釈 は 罰 則 規 定 に も適 用 され る。

1秘 密 管 理 性

秘 密 と して 管 理 され て い る と は,「 当該 営 業 秘 密 に 関 して,そ の 保 有 者 が 主 観 的 に秘 密 に して お く意 思 を有 して い る こ と で は な く,従 業員,外 部 者 か ら客 観 的 に秘 密 と して管 理 さ れて い る と認 め られ る状 態 に あ る こ とが 必要 で あ る」39)。

有 体 物 で あ れ ば,例 え ば,施 錠 さ れ て い な い家 の 中 に無 造作 に置 か れ て い る 物 で あ っ て も,窃 盗 罪 の 保 護 客 体 とな り得 る。 また,営 業 秘 密 侵 害 罪 以 外 に も

秘 密 」 を保 護 す る 規 定 は存 在 す る が,こ れ らは い ず れ も,当 該 秘 密 が 管 理 さ れ て い る こ と を保 護 の 要 件 と し な い40)。 こ れ に対 し て,営 業 秘 密 は,秘 密 と

39)逐 条 解 説29頁 。

40)例 え ば,医 師 等 に よ る 秘 密 漏 示(刑 法134条),国 家 公 務 員 に よ る秘 密 漏 示(国

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し て 管 理 され て い な け れ ば法 的 保 護 を受 け る こ とが で き な い 。 つ ま り,「 営 業 秘 密 は,窮 極 的 に は 自己 管 理 が 大 原 則 で あ り,適 切 な 自 己管 理 を行 っ て い る に もか か わ らず 不 正 な 侵 害 を受 け た場 合 に 初 め て 救 済 さ れ る」 の で あ る41)。 こ の こ と は,不 正 競 争 防 止 法 が 単 な る財 産 保 護 法 で は な く,競 争秩 序 維 持 法 で あ る こ とか ら導 か れ る42)。 秘 密 と し て 管 理 され て い な い 情 報 ま で を も法 的 保 護 の 対 象 とす る と,例 え ば,情 報 を知 っ て い る従 業 員 が 転 職 後 に当 該 情 報 を利 用 し よ う とす る際,こ れ が 法 的 に禁 止 され て い る の か ど うか が わ か らな い,と い っ た 事 態 が 生 じて し まい,妥 当 で な い 。 また,そ もそ も,管 理 され て い な い 情 報 を他 者 が 利 用 す る こ とが 「不 正 」 利 用 に 当 た る の か,と い う問 題 も あ る 。

情 報 の 保 有 者 に要 求 さ れ る管 理 の 程 度 に つ い て は,「 当 該 状 況 下 で 客 観 的 に 秘 密 で あ る こ とが 認 識 で き る程 度 で あ れ ば足 りる」43)。 具 体 的 に は,施 錠 し た 保 管 庫 に入 れ て あ る こ と,パ ス ワー ドに よ る ア ク セ ス 権 の管 理 を して あ る こ と,「 マ ル 秘 」,「機 密 情 報 」,「取 り扱 い 注 意 」,「複 製 不 可 」 等 の 表 示 の あ る こ とが 必 要 で あ る と さ れ て い る。 民 事 裁 判 例 で は,会 計 事 務 所 の保 有 す る情 報 に つ い て,無 施 錠 の 書 棚 に入 れ られ て お り,い つ で も必 要 が あ れ ば 従 業 員 の 誰 も が 閲 覧 可 能 で あ っ た 「顧 問 先 名 簿 」,保 管 を任 せ られ た事 務 員 が 一 般 の 経 理 関 係 書 類 と同 様 に 経 理 課 の書 庫 に 入 れ て 施 錠 して い た 「顧 問 料 金 表 」,及 び 各 顧 客 担 当 従 業 員 に机 の 上 の 無 施 錠 の保 管 箱 に 入 れ て保 管 させ て い た 「各 得 意 先 の 会 計,経 営 の情 報 が 記 載 され た 電 子 フ ロ ッ ピー 」 は,そ れ ぞ れ 「従 業 員 との 関 係 で客 観 的 に 認 識 で きる程 度 に,対 外 的 に漏 出 しな い よ う に管 理 し て い た と は 認 め ら れ な い」 と し た も の が あ る44)。 こ れ に 対 し て,食 料 品 等 の 輸 出 入 及 び

公 務 員 法100条1項 及 び109条12号)等

41)中 山 信 弘D晴 報 の 不 正 入 手 と刑 事 罰 」 自 由 と 正 義35巻10号(昭 和59年)15頁,田 村 善 之 『不 正 競 争 法 概 説 〔第2版 〕』(平 成15年)328頁

42)中 山 ・前 掲 論 文 注(41)17頁 注7。

43)逐 条 解 説30頁,田 村 ・前 掲 書 注(41)330頁

44)大 阪 地 判 平 成11年9月14日 判 例 不 正 競 業 法1250‑186‑22頁 。 本 判 決 は,尚 書 きで,

「法 律 上 守 秘 義 務 が 課 せ られ る 情 報 で あ っ た と して も,保 有 者 が 現 実 に 秘 密 と し て 管 理 し て い な け れ ば,当 該 情 報 は,秘 密 管 理 性 が な く,不 正 競 争 防 止 法 上 の 営 業 秘 密 と も認 め られ な い 」 と も述 べ て い る 。

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販 売 業 者 が 保 有 す る,「 秘 」 の 印 が 押 印 さ れ た 上 で,代 表 者 の み が 鍵 を 保 有 す る施 錠 可 能 な書 庫 に保 管 さ れ て い る書 面,及 び代 表 者 用 の コ ン ピ ュ ー タ に代 表 者 が 管 理 す るパ ス ワー ドを 入 力 しな け れ ば ア ク セ ス で きな い デ ー タ フ ァ イ ル に つ い て は,従 業 員 に営 業 秘 密 を 目的外 に使 用 しな い こ と を記 載 した 誓 約 書 を提 出 させ た り,社 外 へ の 持 ち 出 し,目 的外 使 用 或 い は 漏 洩 を 禁 止 す る こ と等 を 内 容 とす る 就 業 規 則 を作 成 して い た こ と も斜 酌 して,秘 密 管 理 性 が 認 め られ て い

る45)。

ま た,秘 密 管 理 性 要 件 に つ い て は,そ の 「相 対 性 」が 指 摘 され て い る 。即 ち, 情 報 を持 ち 出 す 者 が 従 業 員 で あ る の か 或 い は外 部 の 第 三 者 で あ る の か,情 報 保 有 者 の 大 小(企 業 の 規 模),さ らに は情 報 の 種 類 及 び 性 質 等 に よ っ て,問 わ れ

る管 理 の程 度 が 異 な る と い う46)。

なお,実 際 に企 業 に求 め られ る管 理 の 規 準 と して は,経 済 産 業 省 が 公 表 して い る 「営 業 秘 密 管 理 指 針 」47)が手 掛 か りに な ろ う。 こ れ は,企 業 が 営 業 秘 密 の 管 理 強 化 を行 う上 で 参 考 に な る よ う,「 ミニ マ ム の 水 準 」 及 び 「望 ま しい 水 準 」 を提 示 し,ま た,自 らの 営 業 秘 密 の 管 理 強 化 だ け で な く,他 者 か ら提 示 され た 営 業 秘 密 の 取 扱 い に つ い て も留 意 点 を明 らか にす る もの で あ る 。 「ミ ニ マ ム の 水 準 」は,営 業 秘 密 の 秘 密 管 理 性 が 問題 と な っ た判 例 の分 析 を基 礎 と した,「 営 業 秘 密 の管 理 に 関 し法律 上 の保 護 を受 け るた め に 必 要 」 な最 低 限 の管 理 水 準 を 示 す 。 これ に 対 して,「 望 ま しい 水 準 」 は,紛 争 を未 然 に 防 止 す る た め,国 際 的 な 秘 密 管 理 の 動 向 を も踏 ま え た もの と な っ て い る 。実 際 の 手 続 き にお い て は, 具 体 的 事 案 に お け る秘 密 の 性 質 に 応 じて個 別 に判 断 され るべ き こ と は勿 論 で あ る が,一 般 的 に は,「 ミニ マ ム の 水 準 」 を 充 た して い れ ば秘 密 管 理 性 が 認 め ら れ る と解 し得 る と思 わ れ る。

45)東 京 地 判 平 成17年6月27日

46)苗 村 博 子 ・重 富 貴 光 「営 業 秘 密 に つ い て(特 集 ・不 正 競 争 防 止 法)」 パ テ ン ト55 巻1号(平 成14年)14頁,田 村 ・前 掲 書 注(41)329頁 以 下 。

47)逐 条 解 説205頁 以 下 。 不 正 競 争 防 止 法 改 正 に 合 わ せ,本 指 針 も改 訂 さ れ た 。 改 訂 版 につ い て は,経 済 産 業 省 の ウ ェ ブ サ イ トか ら ダ ウ ン ロー ド可(http://www.meti.go.jp/

policy/competition/downloadfiles/ip/051012guideline.pdf)。

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2有 用 性

有 用 性 とは,「 当該 情 報 自身 が事 業 活 動 に使 用 ・利 用 され て い た り,又 は, 使 用 ・利 用 さ れ る こ とに よ って 費 用 の 節 約,経 営 効 率 の 改 善 等 に役 立 つ こ とを 意 味 し」48),現 実 に利 用 され て い な く と も よ い 。 技 術 上 の 情 報 に は,例 え ば, 機 械 の 設 計 図,プ ロ グ ラ ム,製 法 や 製 造 ノ ウハ ウ等 の 商 品 の 製 造 方 法 に 関す る 情 報 が あ る。 営 業 上 の 情 報 と して は,顧 客 名 簿,仕 入 先 リス トや 販 売 マ ニ ュ ア ル 等 が 挙 げ られ る 。

こ れ に対 して,脱 税 や 贈 賄 を行 っ て い る,或 い は有 害 物 質 を垂 れ流 して い る とい っ た 情 報 は,有 用 性 が 否 定 さ れ る 。 こ れ らは 法 が 保 護 す べ き正 当 な事 業 活 動 とは 言 え な い か らで あ る49)。 民 事 事 件 で あ る が,判 例 に は,地 方 公 共 団 体 が 作 成 した 公 共 土 木 工 事 に 関 す る非 公 開 の 公 共 工 事 設 計 単 価 表 に つ い て,「 公 共 土 木 工 事 に入 札 し よ う とす る業 者 が 事 前 に知 る こ とが で きれ ば,そ の 業 者 に と って は県 や 市 町村 等 が 設 定 した 予 定価 格 に近 い 落 札 可 能 な 範 囲 に お け る最 も 有 利 な価 格 で 落 札 す る こ とが で き,そ の 点 にお い て 情 報 と して の 有 用 性 を有 す る 」 との 主 張 に対 し て,「 公 正 な入 札 手 続 を通 じて 適 正 な受 注 価 格 が 形 成 さ れ る こ とを 妨 げ る もの で あ り,企 業 間 の 公 正 な競 争 と地 方 財 政 の 適 正 な 運 用 とい う公 共 の利 益 に反 す る性 質 を 有 す る もの で あ」 っ て,法 的保 護 に値 しな い と し た もの が あ る50)。

この 有 用 性 と い う要 件 につ い て は,あ ま り厳 格 に情 報 の価 値 の 程 度 を問 わず に,保 有 者 に よ っ て 秘 密 に され て い る情 報 を保 護 す る こ とが 望 ま しい とす る見 解 が あ る 。論 者 は,情 報 の価 値 の 有 無 は 人 に よ っ て 判 断 が 分 か れ る の で あ っ て, これ を吟 味 して か ら保 護 を与 え る とい う制 度 は思 考 経 済 に 反 し,実 際 の 運 用 に

48)逐 条 解 説30頁 。

49)自 動 車 メ ー カ ー に よ る 部 品 の 欠 陥 隠 し等 は,「 そ れ を保 護 す る こ とが か え っ て 公 共 の 利 益 を 害 す る よ う な 性 質 の もの で す らあ る 」(藤木 英 雄 「産 業 ス パ イ と刑 事 責 任 」

ジ 、ユ リ ス ト428号(昭 和44年)36頁 。 但 し,藤 木 は,企 業 秘 密 の 刑 事 的 保 護 の 必 要 性 を否 定 して い る)。

50)東 京 地 判 平 成14年2月14日 判 例 不 正 競 業 法1250‑200‑20‑3頁

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お い て も 困 難 が あ る とす る51)。 確 か に,企 業 は 当 該 情 報 に 財 産 的 価 値 を認 め る か ら こそ 秘 密 管 理 す る の で あ り,こ れ を得 よ う とす る者 は そ の 秘 密 に価 値 が あ る と信 じる が た め に 秘 密 管 理 体 制 を突 破 し よ う とす る52),と 言 う こ と が で きる 。 も し,営 業 秘 密 に 関 す る規 定 の 本 旨 が そ の 財 産 的価 値 自体 の 保 護 に あ る とす れ ば,事 業 活 動 に とっ て 有 用 で ない 情 報 に は財 産 的価 値 が 認 め られ な い た め,こ れ を法 的 に保 護 す る 必 要 は な い こ とに な る。 しか し,後 述 す る よ うに, 営 業 秘 密 侵 害 罪 は公 正 な競 争 秩 序 の 維 持 を 一 次 的 な 目的 とす る た め,秘 密 と し

て管 理 され て い る情 報 を,敢 え て そ の 管 理 体 制 を突 破 して ま で不 正 利 用 し よ う とす る 行 為 自体 に否 定 的 評 価 が な され るべ きで あ る。 した が っ て,事 業 活 動 に 役 立 た な い こ とが 明 白 な情 報 以 外 に つ い て は,容 易 に有 用 性 を否 定 す べ きで は

な い と思 わ れ る 。

3非 公 知 性

非 公 知 性 は,「 保 有 者 の 管 理 下 以 外 で は一 般 的 に入 手 す る こ とが で き な い状 態 に あ る こ と」 と説 明 さ れ て い る 。 ま た,保 有 者 以 外 の 者 が 当該 情 報 を知 っ て い た と して も,こ れ らの者 に 守 秘 義 務 が 課 さ れ て いれ ば,保 有 者 の 管 理 下 に あ る こ とか ら,「 公 然 と知 られ て い な い」 状 態 に あ る と言 え る53)。 た とえ 企 業 が 情 報 を秘 密 管 理 して い た と して も,こ れ が 公 然 と知 られ て い る場 合 に は,当 該 情 報 を秘 密 と して独 占 的 に 管 理 ・利 用 す る こ とか ら得 られ る利 益 は 認 め られ な い 。 また,一 般 に 知 られ て い る 情 報 に秘 密 と して の保 護 を与 え る こ と は,「 情 報 の 自由 な利 用 を妨 げ る こ と に な り妥 当 で は な い 」54)。

公 報 等 に よ り公 開 さ れ て い る情 報,或 い は 当 業 者 で あ れ ば 容 易 に 入 手 し得 る よ う な雑 誌 記 事 に掲 載 さ れ た 情 報 等 は,非 公 知 と は言 え な い 。 例 え ば,無 洗 米 の 製 法 の 営 業 秘 密 性 が 争 わ れ た 民 事 裁 判 に お い て,大 阪 高 裁 は,当 該 情 報 は 「

51)田 村 ・前 掲 書 注(41)335頁 以 下 。 52)田 村 ・前 掲 書 注(41)336頁 53)逐 条 解 説31頁 。

54)田 村 ・前 掲 書 注(41)332頁

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開特 許 公 報 や 実 用 新 案 公 報 等 を 見 た 当業 者 に と っ て 容 易 に理 解,実 施 し得 る内 容 で あ る」 と して,非 公 知 性 を否 定 して い る55)。 ま た,既 に 公 知 とな っ て い る情 報 が 組 み 合 わ さ れ て い る場 合 に は,販 売 費 用 を 節 約 し,営 業 の 効 率 化 を図 る た め に情 報 を集 積 した も の で あ り,そ の 組 み 合 わ せ が 知 られ て い な け れ ば, 公 知 性 の 要 件 を満 たす とい う56)。

三 保 護 法 益

営 業 秘 密 に 関 す る諸 規 定 の保 護 法 益 は,起 草 者 に よれ ば,事 業 者 の営 業 上 の 利 益(私 益)及 び 公 正 な競 争 秩 序 の 維 持(公 益)で あ る57)。 保 護 法 益 を検 討 す る 際 に留 意 す べ き点 は,こ れ らの 規 定 が 不 正 競 争 防 止 法 上 に 置 か れ て い る こ

と,及 び営 業 秘 密 が 財 産 的 価 値 を 有 す る情 報 で あ る こ と,で あ る。

営 業 秘 密 の保 護 規 定 が 不 正 競 争 防 止 法 の 中 に置 か れ て い る 以 上,公 正 な 競 争 秩 序 の 維 持 が保 護 法 益 で あ る こ と に異 論 を挟 む 余 地 は ない 。 で は,公 正 な 競 争 秩 序 と は何 か 。 この 問 題 は不 正 競 争 防 止 法 そ れ 自体 の 意 義 に 関 わ る もの で あ る が58),こ れ に つ い て は 本 稿 の 課 題 とす る と こ ろ で は な い た め,こ こ で は営 業 秘 密 保 護 と い う点 に 関 して の み述 べ る こ と にす る。営 業 秘 密 の 不 正 利 用 行 為 は, 他 人 が 成 果 を得 る た め に投 下 した 資 本 に フ リー ・ラ イ ド し,そ の 成 果 を 冒 用 す る行 為 の ひ とつ で あ る59)。 成 果 冒 用 行 為 が 禁 止 さ れ る の は,フ リー ・ラ イ ド 行 為 を許 容 す れ ば,そ の 成 果 を得 る た め に 資 本 を投 下 す る者 が 減 少 す る 可 能 性 が あ り,そ の 結 果,供 給 され る 商 品 及 び サ ー ビス の 質 が 向 上 せ ず,競 争 秩 序 の

55)大 阪 高 判 平 成13年7月31日(公 刊 物 未 登 載 ・最 高 裁 ホ ー ム ペ ー ジ よ り入 手 可)。

56)田 村 ・前 掲 書 注(41)333頁 57)逐 条 解 説144頁 。

58)田 村 ・前 掲 書 注(41)9頁 以 下,井 上 達 夫 「公 正 競 争 と は何 か 一法 哲 学 的 試 論 一」

金 子 晃 他 ・監 修 『企 業 と フ ェ ア ネ ス 公 正 と競 争 の 原 理 』(平 成12年)3頁 以 下 所 収, 及 び こ れ ら に 所 掲 の 文 献 を 参 照 。

59)田 村 ・前 掲 書 注(41)17頁 以 下 に よ れ ば,禁 止 さ れ る べ き不 正 競 争 行 為 は,① 争 減 殺 行 為,② 不 当 需 要 喚 起 行 為,③ 成 果 冒 用 行 為 及 び④ 外 部 不 経 済 惹 起 行 為 に分 類 さ れ る 。

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発 展 が 害 さ れ る恐 れ が あ る 場 合 で あ る と い う60)。 しか しそ の 反 面,模 倣 行 為 を全 て 禁 止 して しま え ば,技 術 の発 展 を妨 げ る こ とに な り,ひ い て は競 争 秩 序 の停 滞 を も招 きか ね な い 。 「した が っ て,成 果 開発 の イ ンセ ン テ ィ ヴ形 成 に 必 要 な 限 度 で保 護 を与 え るべ き で あ る とい う こ と に な る」61)。

他 方,私 益 保 護 と い う側 面 か ら見 る と,不 正 競 争 防止 法 は,企 業 が 有 す る 一 定 の情 報 に財 産 的 価 値 を 認 め,こ れ に法 的保 護 を与 え て い る と言 え る。 既 に 指 摘 され て い る よ う に62),情 報 は,侵 害 行 為 者 が そ れ を不 正 に取 得 した場 合 に も, 通 常 は 所 有 者 が そ の 所 持 を失 わず,そ の 利 用 が 妨 げ られ る こ とが な い と い う点 で,物 や 利 益 とは 異 な る特 殊 性 を 備 え て い る 。 即 ち,「 そ の 利 用 可 能 性 が 奪 わ れ る の で は な く,単 に そ の 財 産 的価 値 が 侵 害 され る に過 ぎ」 ず,利 得 と損 害 と の 間 に 同 一 性 が 認 め られ な い の で あ る63)。

先 に 見 た よ う に,企 業 の 有 す る秘 密 情 報 が 「営 業 秘 密 」 と して本 法 の 保 護 を 受 け る に は三 つ の 要 件 を 充足 して い な け れ ば な らず,あ ら ゆ る秘 密 が 無 条 件 に 法 的保 護 の 対 象 と な る わ け で は な い 。 こ の こ とか ら,秘 密 情 報 そ れ 自体 とい う よ りは,寧 ろ,当 該 情 報 を秘 密 と して 独 占 的 に管 理 ・利 用 す る こ とか ら得 られ る利 益 を保 護 す る趣 旨 で あ る と考 え られ る。 営 業 秘 密 の価 値 が,そ の 保 有 者 が 当 該 情 報 を秘 密 と して独 占 的 に管 理 ・利 用 す る こ とに よ り経 済 的利 得 を得 る こ とが で き る こ と にあ る とす る場 合 に は,当 該 情 報 の価 値 の 減 少 ・喪 失 と い う具 体 的 な 法 益 侵 害 結 果 は,そ の 保 持 者 以 外 の者 に利 用 さ れ る こ とに よ っ て初 め て 生 ず る と考 え られ る。 不 正 使 用 行 為 の 前 段 階 で あ る 開示 及 び不 正 取 得 は,不 正 使 用 に よ っ て生 じ る法 益 侵 害 の危 険 を惹 起 す る危 険 犯 と して の性 格 しか 持 ち得 な い の で あ っ て64),法 益 侵 害 は,秘 密 保 有 者 以 外 の 者 が,そ の 情 報 の もつ 経

60)田 村 ・前 掲 書 注(41)18頁 61)田 村 ・前 掲 書 注(41)19頁

62)山 口 ・前 掲 論 文 注(13)29頁,ジ ュ リス ト962号(平 成2年)47頁

63)論 者 は,従 来 の 裁 判 実 務 が,こ の よ う な非 移 転 性 とい う性 質 を持 つ 情 報 で あ る 営 業 秘 密 に 対 す る侵 害 を 移 転 罪 の 規 定 で 捉 え よ う とす る 点 に 問 題 が あ る,と す る(山 口 ・前 掲 論 文 注(13)29頁,前 掲 論 文 注(62)47頁)。

64)山 口 ・前 掲 論 文 注(13)30頁

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済 的 利 得 の 可 能 性 を 実 現 す る こ と な どに よ っ て最 終 的 ・決 定 的 に生 じる こ と に な る65)。 と こ ろ が,営 業 秘 密 不 正 使 用 罪 は,当 該 情 報 の価 値 の 減 少 ・喪 失 と い う実 害 発 生 を そ の 成 立 要 件 と し て い な い 。 ま た,先 に見 た よ う に,営 業 秘 密 の 不 正 使 用 と 開示 とは 常 に ひ とつ の構 成 要 件 の 中 で 同 列 に扱 わ れ て い る 。 確 か に,営 業 秘 密 侵 害 罪 は 情 報 の財 産 的 価 値 を保 護 す る もの で は あ るが,そ の 第 一 次 的 な性 格 は あ くま で も 「不 正 競 争 行 為 」 だ か らで あ る。 不 正 競 争 防止 法 にお け る 営 業 秘 密 の 法 的保 護 は,営 業 秘 密 の 財 産 的 価 値 そ の もの を保 護 す る こ と で は な く,「 有 用 な情 報 が 努 力 の 結 果 と し て秘 密 に保 た れ て い る と い う平 穏 な 事 実 状 態 を破 壊 し て,当 該 情 報 を 自己 又 は 第 三 者 の営 業 活 動 の た め に利 用 な い し 利 用 し よ う とす る 営 業 上 の 不 正 行 為 を禁 じる,と い う こ とに 本 旨が あ る」66)の で あ る 。

な お,営 業 秘 密 侵 害 罪 は 親 告 罪 と さ れ て い る(21条3項)。 刑 事 手 続 過 程 に お い て さ らな る営 業 秘 密 漏 洩 の 危 険 が あ る こ とか ら,訴 追 を被 害 者 で あ る営 業 秘 密 の 主 体 の 意 思 に か か ら し め る趣 旨 で あ る と解 され て い る が67),こ の 点 で は,公 益 保 護 よ り も事 業 者 の利 益 保 護 が優 先 さ れ て い る と も考 え られ る68)。

と こ ろ で,平 成17年 改 正 に よ り,営 業 秘 密 の 不 正 使 用 及 び 開 示 罪 に つ き,国 外 犯 処 罰 規 定 が 導 入 さ れ た(21条4項)。 日本 国 内 で 管 理 さ れ て い る 営 業 秘 密 を 国外 で 侵 害 し た者 を 処 罰 す る,と い う もの で あ る 。 参 議 院 経 済 産 業 委 員 会 に 政 府 参 考 人 と して 出席 した 北 畑 隆 生 ・経 済 産 業 省 経 済 産 業 政 策 局 長 は,本 規 定 の導 入 の 理 由 と し て,東 ア ジ ア諸 国 で の急 速 な経 済 発 展 に伴 い,日 本 企 業 が 持 つ 営 業 秘 密 が 漏 洩 した とい う事 案 が 増 加 して い る こ と を挙 げ,こ の よ うな 事 態 は 「日本 の 国 益 も損 な っ て い る」 面 が あ る と述 べ て い る69)。 ま た,起 草 者 は, 65)山 ロ ・前 掲 論 文 注(7)53頁,前 掲 論 文 注(62)49頁

66)松 本 重 敏 「実 務 か ら み た 営 業 秘 密 保 護 立 法 の 意 義 と問 題 点(特 集 ・営 業 秘 密 の 保 護)」 ジ ュ リス ト962号(平 成2年)58頁

67)例 え ば,山 下 他 ・前 掲 論 文 注(17)11頁

68)な お,ド イ ツ 不 正 競 争 防 止 法(UWG)17条5項 に よ れ ば,検 察 官 が 訴 追 に 特 別 な 公 共 の 利 益 が あ り,職 権 に よ る 介 入 が 必 要 で あ る と 認 め る 場 合 に は,告 訴 を待 た ず に起 訴 す る こ と が で き る 。

69)平 成17年6月16日 参 議 院 経 済 産 業 委 員 会 議 事 録 。

参照

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