論 説
第一、はじめに
わが国においても、営業秘密の重要性がいわれて久しい。営業秘密に関する事件や裁判について話題とされること
も多くなった。また、営業秘密に関する法的な問題等についてもしばしば議論・検討されているところである。
営業秘密については、わが国不正競争防止法において民事・刑事の両面でこれを保護する法制が採られている。こ
こでは保護の対象として営業秘密という概念が定義されており、同法二条六項において、秘密管理性・有用性・非公
知性の三要件が規定されているのは周知のところである。
この営業秘密の三要件のうち、特に秘密管理性については、その考え方が多く議論され、この要件の水準の高低に
ついてもしばしば論じられているところである。また、実務上もしばしば問題となるところである。
本稿でも、この秘密管理性の問題について検討を加えてみることとしたい。 不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について
帖 佐 隆
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
第二、秘密管理性についての解釈論
秘密管理性の解釈については、しばしば次のような基準 1により判断することがいわれている。すなわち、対象とな
る情報について、
①当該情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
②当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにされていること(客観的認識可
能性)
の二つの基準で判断すべきであるというのである(順と①②の番号づけは筆者で採用した)。
また、裁判例 2も、その説示にややばらつきはあるものの、上記基準を踏襲し、上記基準を説示するものが多い。
したがって、秘密管理性について上記二つの基準で判断するというのは、概ね通説的見解であるといえよう。
とはいえ、この①②の基準の詳細な意味、それに、秘密管理性の要件についての細かい解釈論については、論者に
よって、ばらつきがあるようにも思われる。
まずは、各論者の秘密管理性についての見解を確認しておきたい。
1.立案者ら(立法者)の見解
まず、営業秘密の三要件を立案し、上記①②の基準を提示した立案者らの見解を確認しよう。
立案官庁関係者は、その立案者解説において、秘密管理性について、上記①のアクセス制限要件と、上記②の客観
論 説
的認識可能性要件の両方(二つの要素)を提示したうえで、秘密管理性の趣旨について、「それがどの保有者の営業
秘密であるのかがわかるようになっていることを要件と」 3する旨をいう。また、同関係者は、「情報にアクセスする 者にとって、当該情報が営業秘密であることを認識できるような状態にあることが必要であ」 4る旨もまたいう。つま
り、ここでの立案官庁関係者解説では、秘密保持意思が表明されていることが必要であり、これが公示にかわるもの
であり、自由利用できる情報とそうでない情報とを識別できる機能をもたせることが秘密管理性の趣旨であるように
書かれている。
そのように考えると、この立案官庁関係者の説明は、上記②の客観的認識可能性要件を秘密管理性の趣旨のように
述べていることになる。つまり、秘密管理性とは、秘密保持意思の表明機能である旨を述べているようにみえる。ま
たこれは言いかえれば、当該秘密情報に触れる者に対する秘密部分の提示機能を担うものだと捉えていると解され
る。
しかしながら、立案官庁関係者解説書の発行及び法改正の審議・成立に先んじて開催された審議会 5の報告書 6は、上
記の秘密部分の提示機能についても述べているが、それ以外にも次のことを述べている。すなわち、同報告書は、「財
産的情報の保有者自身がそれを維持する合理的な努力を行い、不正な手段によらなければ不特定の者には知り得ない
ように秘密として管理を行っている必要がある」というのである。また、「この『秘密として管理』という要件は…
当該財産的情報の秘密保持のために合理的な努力が行われているということを意味して」 7いる、ともいうのである。
つまり、この審議会報告書は、秘密保持への努力が秘密管理性充足のためには必要である旨を述べているのである。
まさにこれこそが上記①のアクセス制限要件であろう。
このように立案者ら(ひいては立法者)としては、トータルすると、秘密管理性の意義は、「秘密保持意思の表明」
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
(秘密部分の提示機能)(②の客観的認識可能性要件)と「秘密保持への努力」(①のアクセス制限要件)の両方であり、
秘密管理性要件充足のためにはこれら両方が必要である旨を述べているといえるであろう。
2.田村説
次に、田村善之教授の見解 8であるが、同教授は、秘密管理性の機能について、「保護されるべき情報を明示させる 機能」と「保護が必要な場合を見極める機能」とを挙げておられる 9。前者の「保護されるべき情報を明示させる機能」
とは、「保護されるべき情報を他の情報と区別して法的保護を欲していることを明示させるために要求されたと考え
ることができる」とする。これをみると、ここでは、上記の秘密保持意思の表明(秘密部分の提示機能)を秘密管理
性の第一の趣旨と考えているように思われる。つまり、ここでいう「機能」とは自由利用できる情報とそうでない情
報を識別する機能をいうのであろう。
一方、後者の「保護が必要な場合を見極める機能」では、「秘密として管理されていない情報は,遅かれ早かれ他
に知られることになり,保護したところで企業の優位性は失われる」とし、「秘密管理されていないものは,要する
に漏洩しても構わないと思われているわけであるから…あえて法が保護する必要がないといえそうである」とする。
このような記述からすれば、同教授も、秘密管理性の第二の趣旨として、秘密を保持する努力が必要である旨を説い
ているといえよう。
さらに、同教授は、秘密管理性の趣旨として、「成果開発のインセンティヴを保障するために,営業活動上の情報
を秘密にすることで他の競業者に対し優位に立とうとする企業の行動を法的に支援するというところにある」
とす 10
る。そうであるならば、ここからも「秘密にする」という努力が必要だということになる。
論 説
そして、同教授は、「情報に関して,何らかの法的保護を受けたいのであれば,保護を受けるべき情報と保護を受
けない情報とを截然と区別させることが必要となる」
としたうえで、「法は,法的保護を欲する者に秘密として管理 11
する相応の自助努力を促すとともに…保護されるべき情報を他のそうでない情報と区別して法的保護を欲しているこ
とを明示させるために…保護の要件として秘密管理性を要求した」
とする。これは、上記立案者が提示した二要件に 12
対応しており、秘密保持への努力と秘密保持意思の表明との両方が必要である旨を述べていることになろう。
加えて、同教授は、「秘密管理体制を突破して入手した情報を利用するからこそ,情報の利用行為を不正と評価す
ることができるのである」
ともいう。これは、突破しなければならない秘密管理体制をまず敷くことが必要だという 13
ことになるから、この考え方からも、秘密保持への努力が必要となってくることになるのではないだろうか。
よって、以上のように考えると、田村説によっても、秘密管理性としては、上記の秘密保持意思の表明(②の客観
的認識可能性要件)と秘密保持への努力(①のアクセス制限要件)が両方とも必要であるとの結論に至ると解される
ところである。
3.小野=松村説など 続いて、小野昌延弁護士=松村和夫弁護士は、「秘密管理の内容」について論ずる中で、「法律的意義における秘
密が成立するためには,単に秘密の対象が,『公開されていないこと』のみでは十分ではない…第三者に知らしめな
いという秘密保有者の『秘密保持の意思』…が必要である…しかし,本法での保護価値のある営業秘密としては,さ
らに,保有者の管理努力までもが必要とされているのである…規定として妥当であろう」
とするのである。 14
このように、小野=松村説においても、秘密保持意思の表明(②の客観的認識可能性要件)のみならず、秘密保
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
持への努力(①のアクセス制限要件)が必要であるとの考えが読み取れるところである
。 15
4.髙部見解
髙部眞規子判事は、これまでの裁判例を検討したうえで、「秘密管理の意義」について、「従前の裁判例が考慮して
きた、①アクセス権者の制限及び②アクセスした者が秘密であると認識できることについては、もともと条文にある
わけではない。前記のとおり、立法時の所轄官庁の解説書等において判断基準とされていたため、その後の裁判例や
文献に引用されてきたものである。上記①②の関係も必ずしも明確ではないものの、『秘密として管理されている』
というために諸事情を総合考慮する中で、重要なファクターと位置付けてきたもの、ということはできるように思わ
れる」
とする。 16
つまり、髙部見解では、秘密管理性判断のためには、上記①②はそれぞれ基準として存在し、これらの観点から諸々
の管理状況を総合的に考慮したうえで秘密管理性の充足を決定する、という見解であろう。これは、過去の裁判例の
傾向に対する見解といえるものであろうが、同判事が裁判官であるという立場を考慮するに髙部判事の自説といって
よいのかもしれない。よって髙部判事の見解からすれば、どちらか片方が非充足であっても、片方が強く充足されれ
ば、秘密管理性を充足するとされる場合はあるということになるのであろう。とはいえ、両者は単純にOR条件では
なく、かといって単純にAND条件でもなく、いずれにしても、上記①②を総合考慮して判断する見解であると解さ
れる。
また、髙部判事は、これとは別に「裁判例は、様々な事情を総合的に考慮して、個別の具体的事案において、妥当
な解決を導いているのであって、個々の要素を単独で取り出して批判することについては、その当否が問われるであ
論 説
ろうし、裁判例に、時代による傾向といったものがあるわけではない」
ともいう。このことからすれば同判事は、秘 17
密管理性判断には事例の総合考慮があることを認めていると思われる。
5.山本説
山本庸幸氏は、情報の「保有関係を明確に」し、これにより「財産的情報の取引の安全を害すること」を防止する
ことが秘密管理性の趣旨である旨をいう
。 18
そして、これまで出てきた秘密保持への努力(①のアクセス制限要件)は、 19
同氏の立場では、秘密管理性の趣旨には入らないようである。つまり、同氏は、実質的には、秘密管理性は②の客観
的認識可能性の一要件からなると考えているようである。この点で、アクセス制限が基準となることを説示している
実際の多くの裁判例とは一線を画す説であるといえよう。もっとも、山本説では、この客観的認識可能性要件のほう
で、保有者の主観を反証する余地を残し、保有者の秘密保持の意思という主観がないような場合に秘密管理性を否定
できる旨を述べている。とはいえ、山本説は、裁判例及び立法者や立案者らとは明らかに異なる独自の説であるとい
えよう。
6.その他の見解
その他の見解について、富岡英次弁護士
は、アクセス制限要件と客観的認識可能性要件をしっかり分けて両方採り 20
上げ、両方の要件について検討を行っている。同弁護士は両方とも重要な要素であり、二要件説と考えていると思わ
れる。加えて同弁護士は、「『秘密管理』とは、『秘密として管理されていること』であるが、この要件が、営業秘密
の要件中、最も重要なものであることは、その保護の趣旨に照らせば当然」であるとする。なぜ秘密管理性が重要な
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
のかは不明なのであるが、両要件を並立に採り上げたうえで秘密管理性要件が重要であるというのであれば、アクセ
ス制限要件も重要ということになると思われる。
苗村博子弁護士=重冨貴光弁護士は、上記二基準は引用せずに、「情報を持ち出す者または情報を用いようとする
者が,当該情報が保有者によって秘密に管理されている情報であること,すなわち『当該情報を持ち出すことは禁じ
られており,これを犯すことが良くないことである』という規範意識を呼び起こさせるような管理の存在が秘密管理
性の要件を充足することになる」
とし、客観的認識可能性要件のみの一要件的な考え方をとる。そして、「情報の種 21
類性質それ自体からして,これを持ち出そうとする者が一見して保有者の重要な秘密であることを容易に認識しうる
場合には,当該情報を持ち出すことは良くないことであるとの規範意識を喚起しやすいという意味において,秘密管
理性の存在を一応推定しうる」
とする。この点については疑問がある。管理者による措置に起因しない「一見して… 22
認識しうる」という判断手法は、対象者の不測の不利益を防止するという客観的認識可能性ひいては秘密管理性の考
え方に反するからである。なお、両弁護士は、秘密管理性について、アクセス制限の基準については言及がなく、秘
密管理性の要件としてはこれを考えずに、一要件説をとるということであろうか。
一方で、結城哲彦氏
は、「二基準説が妥当だと考える」とする。ただし、同氏が提示している二基準説の内容は、 23
本稿で述べる二つの基準の考え方とは異にするのかもしれない。また客観的要件と主観的要件という言い方もみられ
るので前掲の山本氏の説のことを二基準説と述べているのかもしれない。よって、この点、上記の山本説を支持して
いるとも受け取れるところである。
論 説
7.新経済産業省説
そのような中、経済産業省は審議会での審議を経て『営業秘密管理指針』を改訂する
形で、同省としての解釈を変 24
更することを打ち出した。ただし、むろんこれは法的拘束力を有するものではなく、一解釈論にすぎないのだが、あ
えて前面に出してきている。
経済産業省による新しい秘密管理性の解釈(本稿では「新経済産業省説」という。)であるが、ここでは、秘密管
理性の趣旨として、「企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されること
によって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにある」
とする。つまり、立案者ら 25
が示したアクセス制限と客観的認識可能性の二基準のうち、アクセス制限要件を無視し、後者のみが充足されれば秘
密管理性があるという立場であろう。この点、前述の山本説に近いと考えられる。新経済産業省説は、これまでのア
クセス制限と客観的認識可能性の議論を意識しつつも山本説に近づけてきたように思われる。一方で、この新経済産
業省説は、前掲の田村説とは一線を画するものである旨もまた述べられている
。 26
さらに、アクセス制限要件と客観的認識可能性要件の関係として、「両者は秘密管理性の有無を判断する重要なファ
クターであるが、それぞれ別個独立した要件ではなく、『アクセス制限』は、『認識可能性』を担保する一つの手段で
あると考えられる。したがって、情報にアクセスした者が秘密であると認識できる(『認識可能性』を満たす)場合
に、十分なアクセス制限がないことを根拠に秘密管理性が否定されることはない」
との立場にたつ。つまりアクセス 27
制限は独立した要件ではないとし、客観的認識可能性要件を満たすための手段であるとの立場を打ち出している。
とはいえ、同指針は、「もっとも、従業員がある情報について秘密情報であると現実に認識していれば、営業秘密
保有企業による秘密管理措置が全く必要ではないということではない。法の条文上『秘密として管理されている』と
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
規定されていることを踏まえれば(法第2条第6項)、何らの秘密管理措置がなされていない場合には秘密管理性要
件は満たさないと考えられる」
としている。だが、この部分には矛盾があると思われる。結局、このことは「秘密管 28
理措置」、すなわち、アクセス制限を必須の要件として見ていることになるからである。
もうひとつ、同説では、秘密管理性の趣旨からいわゆるアクセス制限の基準を排除できる理由が述べられていな
い。上記の立法時の審議会報告書には必要性が書かれていたはずである。また、上記の立案者解説書や上記注2に掲
げるなどした多くの裁判例には基準として(その趣旨は書かれていなくても)挙げられていたはずである。それがな
ぜ、突然、排除できるのかは、所轄官庁として解釈論の改説をする以上、示されなければならないのではないか。そ
して、公表されている内容だけでは理由として不十分なのではなかろうか。
にもかかわらず、この説は、経済産業省から広められているところである
。 29
1 通商産業省知的財産政策室監修『営業秘密―逐条解説改正不正競争防止法』(一九九〇年、有斐閣)五五頁(中村稔執筆部分)。
経済産業省知的財産政策室編著『逐条解説不正競争防止法』(二〇一二年、平成
23・ 24年改正版、有斐閣)四一頁同旨。
2 例えば、東京地判平一二・九・二八判時一七六四号一〇四頁、名古屋地判平二〇・三・一三判時二〇三〇号一〇七頁、東京
地判平一八・七・二五裁判所ウェブサイト(平成一六年(ワ)第二五六七二号)、東京地判平一五・五・一五裁判所ウェブサイ
ト(平成一三年(ワ)第二六三〇一号)、大阪地判平二五・四・一一判時二二一〇号九四頁、など。その他裁判例の相当数が同
旨。また刑事事件でもヤマザキマザック事件地裁判決~名古屋地判平二六・八・二〇TKC法律情報データベース(判例DB)
(LEX/DB25504719)(平成二四年(わ)第八四三号)、及び、「ベネッセ事件」地裁判決~東京地立川支判平二八・三・二九判タ
一四三三号二三一頁、同旨。
一方で、知財高判平二六・八・六裁判所ウェブサイト(平成二六年(ネ)第一〇〇二八号)も前掲二基準に影響を受けている
と思われるが、その内容は改変されている。
論 説
3 通商産業省知的財産政策室監修・前掲注1 五四頁。
4 通商産業省知的財産政策室監修・前掲注1 五五頁。
5 産業構造審議会財産的情報部会(部会長=加藤一郎・成城学園長)
6 産業構造審議会 財産的情報部会(報告書)「財産的情報に関する不正競争行為についての救済制度のあり方について」(平成
二年三月一六日)通商産業省知的財産政策室監修『営業秘密―逐条解説改正不正競争防止法』(一九九〇年,有斐閣)(前掲注1
文献)資料
1査収一五七頁〔一七七頁〕。 7 産業構造審議会 財産的情報部会・前掲注6 一七七頁。
8 田村善之「営業秘密の秘密管理性要件に関する裁判例の変遷とその当否(その2)(完) 主観的認識
vs.『客観的』管 理 」知財管理 Vol.64 No.6(二〇一四年)七八七頁〔七八八頁
-七八九頁〕。 9 なお、同文献で田村教授は三つめに紛争予防機能も挙げておられるが、文脈としては同教授自身がこれには否定的なように思 われる(田村・前掲注8 七八九頁
-七九〇頁)。 10 田村善之『不正競争法概説』(二〇〇三年、第二版、有斐閣)三二八頁。
11 田村・前掲注
10 三二八頁。
12 田村・前掲注
10 三二八頁
-三二九頁。
13 田村・前掲注
10 三二九頁。
14 =小野昌延松村信夫『新・不正競争防止法概説』(二〇一五年、第二版、青林書院)三二四頁
-三二六頁〔三二五頁〕。 15 小野昌延編『新・注解不正競争防止法』(下巻)(二〇一二年、第三版、青林書院)八三〇頁
=大瀬戸豪志苗村博子執筆部分〕。 -=八三四頁も同旨〔小野昌延 16 Vol.47髙部眞規子「営業秘密の保護」知的財産法政策学研究(二〇一五年)五九頁〔六六頁〕。 17 髙部・前掲注
16 六五頁。
18 山本庸幸『要説不正競争防止法』(二〇〇六年、第四版、発明協会)一三七頁
-一三八頁。
19 小泉直樹「営業秘密の管理と不正使用」(大阪地判平二五・七・一六裁判所ウェブサイト(平成二三年(ワ)第八二二一号)及 び判時二二六四号九四頁(企業業務システム化用ソフトウェア事件=後掲)判批)ジュリストNo.1464(二〇一四年)六頁〔七頁〕
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
は、この山本説を支持している。
20 富岡英次「
31 ・=営業秘密の保護」牧野利秋飯村敏明『新裁判実務大系知的財産関係訴訟法』(二〇〇一年、青林書院)
四七二頁〔四七五頁
-四七八頁〕。 21 Vol.55No.1=苗村博子重冨貴光「営業秘密について」パテント(二〇〇二年)一三頁〔一三頁〕。 22 =苗村重冨・前掲注
21 一四頁。
23 結城哲彦『営業秘密の管理と保護』(二〇一五年、成文堂)一三頁
-一八頁。
24 経済産業省『営業秘密管理指針』(二〇一五年、平成27年1月28日全部改訂版)
(http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20150128hontai.pdf) 産業構造審議会知的財産分科会営業秘密の保護・活用に関する小委員会の第1回、第2回、第4回で審議されている(平成
26年
9月~平成
27年1月)。 25 経済産業省・前掲注
24 三頁。
26 経済産業省・前掲注
24 四頁中注釈3。
27 経済産業省・前掲注
24 五頁中注釈5。
28 経済産業省・前掲注
24 五頁中注釈5。
29 インターネットでも『営業秘密管理指針』が拡布されていることは前掲注
24のとおりだが、経済産業省知的財産政策室『逐条
解説不正競争防止法』(二〇一六年、商事法務)四〇頁
-四二頁にもこの考え方は掲載されている。
なお、青木大也准教授は、営業秘密管理指針について、営業秘密裁判例の近時の状況を反映したものである旨をいい、また、
近時の秘密管理性の解釈が「客観的認識可能性を中心に判断」「アクセス制限はその一要素」とされている旨をいう(愛知靖之=前田健=金子敏哉=青木大也『知的財産法』(二〇一八年、有斐閣)四三七頁〔青木大也執筆部分〕)。しかし、それらは認識と
して疑問である。まず、上記営業秘密管理指針は、裁判例の傾向にばらつきがあり、経済産業省として好ましいと考える解釈論
を定めて世論をリードしようとしたのだと解されるし(参考~営業秘密の保護・活用に関する小委員会第1回資料6「『営業秘密
管理指針の改訂』について(案)」(平成
26年9月
30日))、近時の裁判例については必ずしもアクセス制限を独立して考えていな
いものばかりではないと考えられるのである。
論 説
第三、裁判例
秘密管理性について、最高裁判例は存在しないが、下級審裁判例は多数存在する。それではこれまでの裁判例につ
いて見てゆくこととしよう。
1.アコマ医科工業事件
裁判例において、アクセス制限要件と客観的認識可能性要件をはっきり打ち出したのはアコマ医科工業事件
であ 30
る。同事件の判決では、「…認識できるようにしていることや ・、…アクセスできる者が制限されていることが必要で
あるところ」(傍点筆者)としている。同判決によれば、アクセス制限要件と客観的認識可能性要件はAND条件の
関係にあり、これらは秘密管理性の二要件であるとしていると解される。
同事件においては、顧客名簿Bについては、「マル秘」の表示があったことや、所長の指示のもとで、フロッピー
ディスク内の磁気情報として管理していたこと、プリントアウトするには所長の許可が必要であったことといった事
実を認定して秘密管理性の充足を説示した。同判決の説示によれば、アクセス制限(要件)と客観的認識可能性(要
件)の両方の充足性を審査したといえるし、その結果、両方の充足を認めたといえよう。
これに対し、顧客名簿Aについては、紙媒体がカタログと同様に扱われていたこと、顧客名簿Cについては紙媒体
にマル秘表示がなかったことをそれぞれ説示して、秘密管理性が充足されないことを示している。さらに、プロスタ
カスの輸入申請書の書式等の収められたフロッピーディスクは扱う社員を限定するなどの特段の措置が採られていな
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
かったことが説示されている。同判決は、アクセス制限要件と客観的認識可能性要件をAND条件で見ており、二要
件説をとっているから、これらの認定によれば、どちらかを充足しなければ秘密管理性は充足しないと判断したと解
されるのである
。 31
2.訪問介護サービス事業利用者名簿事件
また、訪問介護サービス事業利用者名簿事件
では、「秘密として管理されている」の意義を、「当該情報にアクセス 32
した者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び ・・,当該情報にアクセスできる者が制
限されていることを要する」(傍点筆者)としている。上記説示には「及び」とあり、本判決においてもアクセス制
限要件と客観的認識可能性要件は二つの要件であり、AND条件であると説示していると解される。そして結論とし
ては棄却判決となっている。同判決は、「『部外秘』等の秘密であることを示す表示が何ら付されていない」、「パソコ
ンを起動する際の簡易なパスワードが設定されているにとどまり,そのパスワードも広く社員に知られている」など
を説示し、客観的認識可能性要件もアクセス制限要件も両方充足しないとして秘密管理性なしと判断したといえよ
う。判旨は妥当であるように思われる。
3.人工歯事件
次に、人工歯事件
であるが、ここでは、秘密管理性の趣旨として、上述した二要件の規範の定立は行われていない。 33
その一方で、客観的認識可能性にいう予見可能性のみを秘密管理性の趣旨として述べており、本判決では一要件説を
とるのだと解される。そのうえで、その要件によるあてはめにおいては、「担当者がポリ袋にいれるなどして,適宜,
論 説
研究室に保管していたこと,担当者は,人工歯の試作品を持ち出して,外部の専門家に場合によっては数日間預け,
その排列等の評価をしてもらっていたこと,その際,秘密保持契約は締結されていなかったこと」を事実認定し、「少
なくとも,内部の従業員に対する関係では,客観的に認識できる程度の秘密管理はされていなかった」として秘密管
理性を非充足としている。
なお、同判決を秘密管理性の水準について厳格な判決だと論ずる評価
も 34
あるが、筆者はそのようには考えない。む 35
しろ、「内部の従業員に対する関係では」と相対的な認識で足りる旨を説示しており、厳しくはない。にもかかわら
ず、同事件の認定事実によれば不備が認められるため、秘密情報であることの識別はできないと考えられるのであ
る。また規範の説示はないが、ポリ袋保管などを考えれば、アクセス制限要件についても足りないように思われる。
よって、同事件の状況においては秘密管理性はないということで、特に問題はないのではないか。
4.ダイカスト用バリ取りロボットシステム事件
一方、ダイカスト用バリ取りロボットシステム事件
においては、秘密管理性の基準を説示するに、「『秘密として管 36
理されている』とは,当該営業秘密について,従業員及び外部者から認識可能な程度に客観的に秘密としての管理状
態を維持していることをいい,具体的には,当該情報にアクセスできる者が制限されていること,当該情報にアクセ
スした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できるようにしていることなどが必要と解され」るとし、
これまで述べた二要件判断をしている。しかしながら、秘密管理性の趣旨はここでも「当該情報が営業秘密として客
観的に認識できるように管理されているのでなければ,当該情報の取得,使用又は開示行為が不正競争行為に当たる
か否かが明らかでなくなり,経済活動の安定性が阻害されることを理由とするものと解される」といい、またして
不正競争防止法における営業秘密の秘密管理性概念について(帖佐)
も、審議会報告書(立案趣旨)で述べられていた、秘密にするための合理的な努力についての趣旨が欠落している。
これに対して、「要求される情報管理の程度や態様は,秘密として管理される情報の性質,保有形態,企業の規模
等に応じて決せられるものというべきである」とし、情報の性質、保有形態、企業の規模等によって要求される管理
の程度等がかわることを宣明しているところが注目される。すなわち、保有者と対象者の関係という相対性だけでな
く、情報の性質や保有企業の保有形態や規模等といったものとの間にも相対性があるという。この点特徴がある。
そのうえで、プライスリストについては、「従業員にとってそれが営業秘密であることを客観的に認識することが
できた」として客観的認識可能性のみで営業秘密性を認定した。これに対し、設計図等については、「ロボットシス
テムの設計図及び設計データ等にアクセスできる者が特定の従業員に制限されており,また,上記設計図等にアク
セスした従業員においては当該情報が営業秘密であることを客観的に認識できたものと認めるのが相当である。」と
し、こちらにはアクセス制限要件が明記されている。
こちらの判決は、結局、客観的認識可能性の趣旨しか述べていないが、技術情報にはアクセス制限充足の判断まで
行っている。これに対し、顧客情報は客観的認識可能性充足のみを判断している。よって、同じ判決の中でも、こう
いったあたりで判断するにあたって不統一があるように思われる。それはやはり、二つの基準を記載しながら、一つ
の基準に対応する趣旨しか書いていない立案者解説書の影響があるように思われる。
また、本判決は、企業規模等によって秘密管理性充足の基準が変わるという点においても特徴がある。こちらにつ
いては、後述するが、アクセス制限要件を判断するうえでは妥当であると思われる。管理のコストとメリットは、企
業規模等によって変わるであろうから、これによる基準の相対性は認めてしかるべきであるとおもうところである。