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旅行で訪れた北 海道で海鳥エトピリカに魅せられ、北海道に移住

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■ 参加者

片岡義廣および夫人:

NPO法人エトピリカ基金代表理事・民宿えとぴりか村経営。京都府出身の東京育ち。旅行で訪れた北 海道で海鳥エトピリカに魅せられ、北海道に移住。札幌、釧路と転々した後、エトピリカに最も近い場 所に住みたいとの思いから霧多布で民宿を営むことに。以来30年、粘り強い交渉を続け、浜中漁協と 浜中町教育委員会の協力をとりつけ、海鳥繁殖期間中の刺し網禁止区域を設置。日本初の海上保護区を 町レベルで設立した立役者である。

千嶋淳:

NPO法人日本野鳥の会十勝支部副支部長・漂着アザラシの会副代表。群馬県出身。海鳥の一大繁殖地 であるユルリ・モユルリ島や大黒島に行きたいとの思いから帯広畜産大学に進学。ゼニガタアザラシ研 究会(通称「ゼニ研」)に入り、モユルリ島でのアザラシ研究に従事する。現在は十勝地方を拠点に、

アザラシと海鳥の環境調査やガイド業を営む傍ら、十勝沖の海上調査や漂着物調査など、海洋環境の調 査に取り組んでいる。北海道の海鳥図鑑を執筆したほか、10月に「北海道の動物たち」を上梓。

關野伸之:聞き手。

はじめに

 北海道東部に生息する海鳥エトピリカ(絶滅危惧IA指定)は、漁網等への混獲により、その生息数が激 減したと考えられている。世界的な生息数は250万羽と推定され決して少ない鳥ではないが、日本は生息域 の最西端となっており、国内では非常に数の少ない海鳥である。繁殖地も北海道東部の厚岸町大黒島、浜中 町霧多布、根室市ユルリ島、モユルリ島のみであり、霧多布では現在繁殖をしていない。環境省は2001年に「エ トピリカ保護増殖事業計画」を策定したが、減少傾向を止めるにはいたらず、現在は30-40羽が飛来する程 度である。

 片岡義廣氏は民宿を経営する傍ら、任意団体エトピリカ保護基金を設立し、浜中町役場、浜中漁業協同組 合、環境省および北海道庁などと協力しながら30年間、エトピリカの保護活動に取り組んできた。1995 よりエトピリカを呼び寄せる目的でデコイの設置を開始した。

 町や漁協との粘り強い交渉の結果、2009年からは海鳥類の繁殖期間について、デコイ設置区域周辺での 漁網の設置が自粛されることとなった。さらには漁協の協力のもと、定期的なパトロールを行う海上保護区 が設立された。これは日本で初めての海洋保護区の取り組みとして特筆すべきものである。こうした活動に より、80年代に霧多布での繁殖個体が絶滅した海鳥ケイマフリ(絶滅危惧Ⅱ類)の生息数が回復し、海上 保護区内にて繁殖に成功した。2010年にはNPO法人化し、学生などのボランティアによる沖合海鳥調査、

地元小学校での環境教育、海鳥図鑑の制作など次の世代の育成にも力を入れている。

 TD座談会では、理事長の片岡氏、海鳥調査や図鑑制作など研究・保護活動をサポートし自身も動物保護 団体の役員として北海道の野生動物保護に携わる千嶋氏をお招きし、北海道の野生動物保護の現状と課題に ついて議論した。

 聞き手は会員として、また公益信託経団連自然保護基金「北海道の里海における海の鳥獣の生態と保全研 究および普及活動」の専門家として、同法人の保護活動をサポートしている。

エトピリカの海を取り戻すために 關野伸之

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■ 対話の記録

実施日:20141226日(金)

場所:民宿えとぴりか村(北海道厚岸郡浜中町湯沸157)

北海道とのかかわり

關野:本日は北海道霧多布で民宿「えとぴりか村」を経営されてらっしゃいます片岡さんと日本野鳥の会の 十勝支部の副支部長および漂着アザラシの会副代表千嶋さんに来ていただいてお話を伺います。お 二人はもともと北海道出身の方ではなくて、別の地域から来られ野生動物保護にかかわれるように なったということですね。

片岡:京都生まれ東京育ちです。中学3年ぐらいのときから鳥を見るのを始めました。高校生のときから北 海道に何回か来て、40年前に移住しました。最初は釧路に行って、そして札幌に行って、自営業や サラリーマンをしていました。それから霧多布で宿をはじめました。

關野:エトピリカに魅せられて霧多布に定住されるようになったとのことですが、高校生のときの最初の旅 行のときに魅せられたのですか。

片岡:北海道に来るときに何を見たいか、まずリストアップをしました。もともと水鳥が好きで、海鳥のな かで何を見たいかなって考えていたとき、やっぱりなにか変わった鳥のエトピリカが見たいなって 思って。エトピリカを見ることを第一目標にしました。それで、汽車に乗って最初に着いた場所が 落石岬でした。

關野:落石岬というと、(現在は絶滅している)チシマウガラスがまだ繁殖していたころですね。

片岡:チシマウガラスがいるっていう話は聞いていました。ただ、当時は厚岸町の大黒島とユルリ・モユ ルリ島ぐらいしかエトピリカはいないってことになっていました。実際は霧多布にもいたのですが、

当時はそういう情報がまったくありませんでした。大黒島かユルリ・モユルリ島は(調査許可がな いと)行けないので、どこか一番近いとこから島が見えるとこはないかと落石岬を選びました。ユ ルリ・モユルリ島が見えますからね。もしかしたらエトピリカが見られるかもっていう期待です。1 年目は1kmほど先の沖合に浮かんでいるのを、何とか見ることができました。それで味をしめて翌 年もまた来ました。ずっとエトピリカを探していたら、自分がいる崖のすぐそばの岩のてっぺんに エトピリカがいました。距離が20mくらいでしょうか。そこで繁殖していました。餌を持っている エトピリカが出たり入ったりしていました。岩のてっぺんの石の崩れたあたりの穴というか、自分 で掘ったとは思えないような穴から出入りしていました。ものすごく間近で見られて、ものすごく 感動して。そのときの記憶が残っていて、なんとなくエトピリカがまた見られるかなという感じで、

北海道に長く住み着くようになりました。それで、最終的にまた鳥が見られるとこに住みたいとい う思いがあって、選んだ場所がエトピリカのいる霧多布でした。そのときには霧多布にはエトピリ カがいるということがわかっていましたから。

關野:千嶋さんは帯広畜産大学のゼニガタアザラシ研究会(通称「ゼニ研」)のご出身ということですが、

もともとは鳥が好きで北海道に来られたのですか。

千嶋:北海道の鳥が見たくて。もともとゼニ研に入ったのも、ユルリ・モユルリ島とか大黒島に行けるから。

許可がないと入れない無人島に行けるという理由です。もともとアザラシが好きだったわけじゃな くて。モユルリ島はもう何十回入ったかな。随分通いましたね。

關野:当時は、水鳥は結構多かったのでしょうか。

千嶋:最初に入ったのが20年前です。エトピリカとかケイマフリはすでに随分少なくなっていましたね。

ただウミウとかオオセグロカモメは今の比じゃないぐらいいましたね。オオセグロカモメも成鳥は いますが、雛はもうモユルリ島の本島ではほとんど出ていません。今は離れ岩で少し雛が確認でき

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る程度です。昔ウミウのコロニーがあった離れ岩のてっぺんにはもうウがいなくて草が生えてきて います。昔はウの糞で裸地だった場所です。そのぐらいウがたくさんいました。ネズミやワシの影 響でしょうね。

増える野生動物と減る野生動物

關野:最近、道東ではオジロワシが増えていると聞きますが、当時は少なかったのでしょうか。

千嶋:少なかったですね。1週間調査に入って1回見かけたら、ああワシだと騒ぐくらいでしたね。

關野:昔の探鳥紀行を読んでいると珍しいオジロワシを見たいから北海道に来るという話が多かったですよ ね。

千嶋:10年くらい前からですかね、急に増えてきたのは。道東で特に増えている印象です。十勝地方でも 繁殖する個体数は増えてはいるけど、道東ほどの勢いはないですね。十勝地方では越夏している若 鳥の群れとかを見ないですから。やはり、この釧路・根室が中心でしょうか、どこでも増えている という印象はありますが。

片岡:道東でしょうね。ワシは繁殖期に食べる餌として海鳥を選んでいます。海鳥の繁殖地は天売島を除け ば、おおよそ道東に固まっていますからね。道東のオジロワシが増えたことは間違いないでしょう。

千嶋:天売島ではオジロワシが繁殖を始めたらしいですよ。

關野:(天売島を一大繁殖地にしている)ウトウにも影響が出てくる可能性はあるでしょうか。

千嶋:今のところは、それほど問題にはなっていないようです。むしろ野良猫のほうが問題になっていま す。

關野:オジロワシが増えているとうことですが、他にもアザラシが増えているという話を聞きますね。増え るというか、夏に繁殖地に帰らず居ついてしまっているというか。

千嶋:あれは種類が別で、ゴマフアザラシです。流氷の上で繁殖するアザラシで、稚内とか日本海側ですご 写真 1 座談会風景(向かって右から)片岡氏、筆者、千嶋氏(写真提供:千嶋淳)

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く増えていますね。一方、ゼニガタアザラシは襟裳岬で局所的に少し増えています。一番少ない時 代に150頭ぐらいといわれていましたが、漁師さんの話では今は600頭ぐらいのようです。シャケの 定置網の被害は3,000万にものぼるという話ですよね。

關野:数が増えてきた原因はまだよくわかってないのでしょうか。

千嶋:よくわかっていません。原因のひとつとして、撃つ人がいなくなったというのも大きいと思います ね。昔だったら毛皮に使っていましたし、アザラシの油を定置網に吊るしておくとアザラシが網に 入らないとも言われていました。叩いて捕る人もいましたが、今はそういう利用もほとんどなくな りましたから。

關野:食べる人もいたのでしょうか。

千嶋:昔はよく食べたようですね。60代ぐらいの世代までは結構トッカリ鍋とかが身近な食事だったって いいますよね。襟裳地方でも岬の文化です。中心部の人はあんまり食べた人はいないようです。岬 に昔から住んでいる人は、50年ほど前は、結構叩きに行って捕ったりしていたみたいですよ。」

片岡:(羅臼地方出身の夫人に)トッカリ鍋は食べたの。

夫人:いや、食べたことがない。捕ってはいたけども。皮をなめし革にしてね。木切るときになんかよくお 尻にひいた覚えがありますよ。一部は売っていたような気もするけどね。

千嶋:油はわりと使いますよね。船の下に塗って、滑りが良くなるみたいで。上げたり下ろしたりするとき に、トッカリの油を塗ると良く滑るっていいます。

夫人:身の方は確かにおいしくないっていう人がいるから、食べたことがある人はいたでしょうね。だけど そんなにうまいものじゃないので、あまり活用はしていなかったみたいですね。

關野:トド肉はよく缶詰を売っていますよね。

千嶋:トドも似たような感じです。赤黒い、クジラみたいな肉です。肉がおいしくないせいか、大和煮とか 味噌煮とか、味のよくわからないものにしてしまいますね。カレー味とかにもするのですが、どん な味付けにしても同じような感じです。

片岡:野性味を残すためにわざと臭みを残しているということも。本当はもう少し臭みを消せるという話も ありますね。

千嶋:北海道のなかで一番食べられるアザラシはゼニガタアザラシです。一番おいしくなかったのはクラカ ケアザラシです。彼らは深く潜るので肉がすごく赤黒い。たぶんヘモグロビンかなにかが多いので しょう。それですごく血生臭い。

關野:生息環境で若干味が違うのでしょうか。

千嶋:クラカケアザラシは本当に深く200m以上まで潜るので、餌も違うのでしょう。ハダカイワシとか深 海魚です。ゼニガタアザラシは藻場でタコとかカジカ、アブラコやコマイを食べていますから。10

20mの潜水が主だと思います。

夫人:ある意味、人間と共存しているわけね。だから嫌がられるのね(笑)。

千嶋:アザラシは泳いでいるサケは捕まえられないけれど、シャケ定置網のなかに入ると、空間が限られて いますからアザラシもサケを捕まえられます。たぶん回遊しているシャケはほとんどアザラシ食べ ていないと思います。

夫人:なんでサケの頭だけ食べるのかしら。

關野:アザラシはサケの頭だけを食べている?

片岡:市場では頭だけ食べられたサケを売っていますよ。安く。

千嶋:大きい魚食べるときに、くわえて振り回すので、もしかしたらそういうときに頭が取れちゃうのかも しれませんね。だから逆もあります。定置網を上げていると頭だけのサケもあるし、身だけのサケ もあって、まあ頭だけのサケは売れないから出回らないでしょうけど(笑)。

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關野:なるほど(笑)アザラシ全般が増えているわけでもないということですね。

千嶋:ゴマフアザラシと襟裳岬のゼニガタアザラシが増えています。アザラシは観光にも使えるのですが、

襟裳自体に宿泊施設が少ないですし、おいしいものを食べる場所が少なくて、通過型の観光の人が 多い傾向があります。町自体もそれほど観光に力を入れているわけではないし、アザラシだけを見 に来る人はあまりいないかもしれません。もちろんコアなファンもいて、シーカヤックでアザラシ を見に行くツアーを企画している旅館もありますから、アザラシを見に何回も通ってくる人もいま す。しかし、一般の観光客でアザラシを見にわざわざ襟裳岬という人は、あまり今はいないですね。

片岡:遠いからね。襟裳岬は霧多布よりも空港から遠いので観光客は来ないでしょう。

野生動物と観光

關野:そういう意味では(稚内近くの)抜海港は結局アザラシを見に人は集まってくるけど、通過してしま う。泊まらないし、お金も落とさない。

千嶋:泊まらないですよね。みんな稚内に行って、下手をしたら旭川に戻ってしまう。トイレだけ使って 帰ってしまう。

關野:お金は落ちないですね。野生動物観察を観光資源にしようとあちこちでやろうとはしていますけど、

一時的には人が来ても定着はしない。

千嶋:厚岸でもアザラシを見に行くツアーを運営しています。しかし、催行率が非常に悪い。大黒島のアザ ラシがいる場所は外海に面しているので、少しでも波があると船では行けなくなってしまう。催行 率が3回に1回程度でしょうか。夏には霧があって、それ以外の時期は波があるので、なかなか安 定したプログラムにならない。そういう意味では、内海の尾岱沼の観光船はもっと売り出せば、ア ザラシ好きな人にはいいと思うのですが。

片岡:昔からアザラシが多いと書いてあるけども、アザラシ観光はやっていない。アザラシはあまり人気が ないのかも。

千嶋:羅臼のシャチのようには、食いつかないですね。

關野:羅臼のシャチはやっぱりすごい人気ですか。

千嶋:羅臼は今、シャチの人気が上がっています。羅臼はちょうどいい具合に春から初夏にかけてシャチが いて、シャチがいなくなると今度はマッコウクジラが来ます。1年を通してホエールウォッチングを 楽しめますし、冬は流氷とワシを見に来る観光客が多いので、北海道の中ではクルーズが一番盛ん です。

写真 3 遊泳中のゴマフアザラシ(写真提供:千嶋淳)

写真 2 ゼニガタアザラシの群れ(写真提供:千嶋淳)

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片岡:羅臼は霧もあまり出ない環境だからね。おまけに野生動物の行動範囲が狭いから見つけやすい。

千嶋:場所によってはもう陸から数キロで深さ2,000mとかありますから。陸から深海性のマッコウクジラ を見られる場所って世界でもあんまりないですよね。船で行けばもう目の前でこうダイブする。

片岡:日本人の観光客にはクジラが人気ありますね。ホエールウォッチングは世界各地でやっていますか ら、クジラだけではなかなか外国人観光客は来ないでしょうね。

千嶋:外国人観光客にとっては冬のワシでしょうね。やっぱりオオワシとタンチョウは人気高いです。それ にシマフクロウの3点セット。北海道以外でその3種類を見ようとするとかなり大変でしょうからね。

僻地に行ったりしなくちゃいけないですし。

關野:シマフクロウは餌付けをしている宿に行くのでしょうか。

千嶋:去年、シマフクロウを見せる宿に泊まりましたが出ませんでした。夕方少しアンテナの上に止まって いましたが、餌場には来ませんでした。

關野:やっぱり動物を観光の対象にすると確実に見られるわけではないところが難しいですね。それでも満 足してくれる人はいいのですが。

夫人:声だけでも聞けたから良かったとかね、そうやって言ってくれるといいけれども。ツアー客の90 95%ぐらいは不満でしょう。

千嶋:そういう意味では大手観光にはしづらい分野です。個人で好きで来る人はいいけれど、ツアーで20 人も30人もというのにはあまり向かない分野かもしれない。

片岡:それでも、売るからにはやっぱりかなりの確率で見られないとね。

夫人:その点では、羅臼のシャチとかクジラはかなり確率が高いよね。高いから、安定して人がいっぱい来 る。

片岡:まずいれば見つけられる。太平洋は広いから、どこにいるかわからない。

關野:観光船ではヒグマも見られますか。

片岡:羅臼というよりウトロです。ウトロ側の船に乗ってくとヒグマが海岸線に出る。かなり近くで見られ る。海岸線にヒグマがバラバラいる。だからホエールウオッチングに興味がない人から見れば、ウ トロ側の方がおもしろい。

変わる野鳥観察

關野:宿を始めたころのお客さんは家族連れが多かったですか。

片岡:バイクか電車で来る若者が多かったですね。あとは歩きの人とか。ほとんど20代、30代が主でし た。30年前だから、ちょうどその人たちが定年組になって、主流になってきています。

夫人:昔旅行した人がうちにまた寄っていってくれますよ。ガタガタ道歩いてとか、昔話をしていますね。

關野:ここを始められたころには、ほかに宿はありましたか。

片岡:うちが一番遅いぐらいでした。秘境ブームっていうのが当時あってね。霧多布はもうめちゃくちゃ人 気があった。交通の便も悪かったし。知名度がなくて、一般のガイドブックには載ってないぐらい だから。今や不人気な霧が当時はすごく神秘的に感じて。バスの終点が当時、霧多布の町だったから、

そこから岬に向かってトボトボ歩いていくとき、霧が出て、周りに花がチラチラ見えて、それでそ のうち霧笛がボーボー鳴り始めて。岬に行ったら潮騒が下のほうでなんかザワザワしているという、

そういうのがすごくなんていうか神秘的に感じたのでしょう。歩いている時代だから余計なんじゃ ないですかね。昔は旅行じゃなく旅だから。当時、浜中にあったユースホステルは年間1万泊近かった。

關野:そんなにもニーズがあったのですか。

片岡:うちが来た30年前ちょっとピークを過ぎた段階だったらしいけれど、それでも多かった。今も北海 道のあちこちにユースホステルは残っているけれど、道東は壊滅状態ですね。宿をはじめた当時は

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鳥を見る人も全国から学生のサークルの人たちが北海道に合宿で来ていました。もうそういう人た ちがもう年々減っていき、今はもうほとんど北海道に来る学生がいない状態になっています。潰れ たサークルも相当あるようで、現実に残っているサークルも、もう鳥を純粋に見るっていうよりも、

お遊び的な意味で見ているというか。熱心な人がいなくなってしまった。

千嶋:逆に今情報がいろいろあるから、熱心な子は自分で情報を集めたりして個人で見ている人が結構多い のではないでしょうか。

片岡:ただ全体にするとやっぱり鳥を見る人の数は少ないですよね。今は情報がありすぎて、逆に、自分の 新発見があるわけではないから。

關野:ないですね。何か珍しい鳥を見つけたというくらいですね。

片岡:それを聞いて確認に行くだけで、自分で見つけるわけでもないし。

千嶋:海上調査を始めた数年はそういう面白さがありますね。新しい発見があって。

關野:鳥を見る人自体は数的には増えてはいるけれど、写真を撮る人が圧倒的に多い気がしますね。

片岡:本当に写真ばっかりなっちゃって。うちは鳥の情報を極力流さないからね。

關野:情報を出す宿は、やっぱり、写真を撮りたい人がたくさん集まりますよね。片岡さんの宿のHPを見 ると情報は抑えているなとよくわかります。

片岡:どうせ来たら見つかっちゃうような鳥の情報は出しますけども、ちょっとこれは見つからないなって いうのは、出さないようにしています。

關野:そういう意味では非常に、不親切な宿屋です(笑)。

夫人:ホスピタリティーがない宿(笑)。

野生動物「保護」の抱える問題

關野:こちらの宿のエサ台には本州では高山地帯に行かないとなかなか見られないようなハギマシコが冬の 間やってきます。今年はその餌代が大変ということですが。

片岡:粟とヒマワリの種を使っていましたが、円安と消費税の増税で昔の倍以上です。

關野:タンチョウに餌付けをしている施設がありますが、どこも飼料価格の値上げで大変なのでしょうか。

千嶋:十勝の場合、家畜飼料用のトウモロコシ、デントコーンを使っています。えさ台みたいな場所を作っ て、越冬地を分散させようという試みです。

關野:越冬地を分散させようというのは鳥インフルエンザなどの問題からでしょうか。

千嶋:越冬地が、今、3ヵ所、大きな場所しかないので、それ以外の越冬地を作ろうという取り組みが行わ れています。今、十勝だけで50つがい以上繁殖しています。タンチョウも北海道全体で1,500羽以 上はいるでしょう。

夫人:もうすぐ本州に渡る個体も出てくるのでは。

千嶋:今のところ、北海道の個体が本州に渡った記録はないですね。秋田に渡ってきたタンチョウは、遺伝 子を調べたら、どうも大陸のものらしいという話でした。

夫人:タンチョウは餌付けですごく増えている印象がありますね。

片岡:冬の死亡率が減ったからね。

夫人:タンチョウとワシ、特にオジロワシが増えている。

關野:オオワシはそれほど増えていない印象がありますが。

片岡:オオワシはもうエサ次第です。たとえば、エゾシカの死体が結構あるとか、魚を捨てている人がいる と、わっと集まって、いきなり増えますから。

千嶋:確かにオオワシの方が集中する傾向がありますね。オジロワシはわりと分散していて、オオワシは餌 のあるところにわっと集まってくる。

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片岡:たとえば、霧多布湿原なんかは、上から眺めたときに、オオワシは、せいぜいいても10羽くらいです。

けれども、1カ所だけ30何羽と集まっている日がある。彼らの高さにまで行くと、霧多布湿原から でも風蓮湖がすぐ目の前にあるから、エサがありそうだと思ったら、あっという間に、風蓮湖ぐら いから集まってくるのでしょう。

千嶋:ワシは目がいいから、見えているでしょうね。

關野:シマフクロウの現状はどうでしょうか。

千嶋:ときどき報道されていますね。十勝のどこなのか知らないけど。

夫人:営林署と一緒に保護活動している団体があるみたいだね。カワカジカをシマフクロウは一番食べてと か。それで、川底を広げているとか。

千嶋:そこにシマフクロウのケージを置いて、徐々に周りに慣らして、最終的に放鳥をするというのをニュー スで見ましたよ。

片岡:シマフクロウは、まだまだ他の地域にも出ているほうだね。

夫人:シマフクロウはずっと140羽といわれているよね。繁殖成功率がよくないけれど、日高から西側はほ とんど成功している。まあ、4つぐらいしか産んでないけれど、毎年ひなが生まれているし。知床、帯広、

十勝と日高の4ヵ所で実施していて、10羽、毎年生まれている。2年で20羽巣立っている。それなのに、

永遠に140羽というシマフクロウの数が出てきています。

片岡:交通事故で死ぬといわれているけれど、なんだかよくわからない。

夫人:昔、タンチョウがそういう話でしたよね。増えると仕事がなくなるから。

千嶋:しばらく、500羽未満とかいわれていましたね。まだ20年ぐらい前でもね。急に生息数が跳ねあがっ てしまって。

片岡:あれはタンチョウ保護研究グループが真面目に調査して、いきなり数が増えたみたいですね。

關野:保護されている動物が増えると仕事が減ってしまう人もいますから。シマフクロウもおそらくは。

夫人:シマフクロウも、それは同じ。もう20年ぐらい前から140羽と言っているわりには十勝地方にもいる。

千嶋:確か、130羽とかいっていたような気がする。あるとき、それが10羽増えました。

關野:タンチョウやシマフクロウに比べるとエトピリカなんて、本当にいないですよね。

片岡:いないですね。

千嶋:国内繁殖つがいはもう10羽を切っているかもしれないですね。

夫人:根室にいる個体の状況がよくわかっていませんし、そのくらいじゃないかということだけです。

片岡:今の日本の絶滅危惧種が国内のものに限定しているのが問題だと思います。海外を含んでいない。海 外にはたくさんいる種だからどうでもよいという印象を受けますね。環境省が何を考えて野生動物 を保護しようとしているのかがわからない。

夫人:オオワシなんて、こっちで繁殖していない種を、指定しているじゃない。そんなのどうにもならない という気がしますね。

關野:繁殖地で何か起これば、国内でいくら保護しても生息数の回復は望めませんね。

片岡:世界にはまだいるからいいという理屈であれば、世界にたくさんいる種は、国内でも増やすことがで きるのではという疑問があります。世界的にきわめて少ないという種は、ものすごく難しいけれども、

他の地域にいるのであれば、工夫次第でなんとかなるのではないかっていう気がします。なんでや らないのかなと思います。

千嶋:天売島では、ウミガラスの繁殖を阻害している要因を除去したら、ここ数年、増えてきていますし ね。

夫人:野良猫の里親探しやいろんなことをして、それでようやくうまくいっているみたい。

片岡:あれだけうまくいっているということは、要するにウミガラスが天売島周辺の海に来ているというこ

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とでもあるから。でも、エトピリカの場合はどう見ても阻害要因がないのに来ていない。

關野:そもそも来ていない。そこが他の野鳥と違うところですね。

片岡:ウミガラスだって、天売島は南限ですから、条件的には来づらいところなのに、なぜ来ているのか な。ある程度、繁殖をし始めているっていうことは、それなりの数の個体が来ているということで すからね。それに対し、エトピリカは同じ南限にしても本当に来てないから。僕はいつも環境省に言っ ているのだけれど、環境省にやる気がなくて。長年やってきて、正直いって、今のやり方で、もう 限界が見えているのはわかっている。30年間、保護活動をやってきた結果として、本当に復活させ るつもりだったら、もう人的導入しかないだろうなと思っているけれど。環境省は、全然、やろう ともしないけれども。どうにかなると思っているのかどうかよくわからない。一番かかわっている 私がどうにもならないと言っているのに。

夫人:日本では、何か新しいことをするというのはすごく難しいですよね。

關野:行政の世界だと、どうしても前例がないことをやるのは、難しいですし、今までやってきたことを誰 かの一存で止めるというのは、非常に難しいですよね。

千嶋:だから、トキとかコウノトリみたいに、1回絶滅しないと、なかなか再導入という話にならないです よね。

關野:ならいないですね。絶滅すれば、いくらでも再導入する。

夫人:保護を考えるのであれば、逆に絶滅してしまったほうが早いという話にもなってしまう。コウノトリ だって、資金をもらってなかったら、やっぱりあそこまでうまくいかなかったように思う。個人団 体がやろうとすれば反対が起きただろうけども、トキのような鳥だったら文句を言う人は少ないだ ろうし。トキは増えれば増えたで、また問題が起きるのかも。今はまだ少しだから、よかった、よかっ たって言っていても、だんだん、水田に出てくるようになるとね。

片岡:うじゃうじゃいるようになるから。

關野:野鳥愛好家の人からすると、再導入された種っていうのは、やっぱりあまり興味ないですよね。

片岡:そこで繁殖とかを始めたら、そうでもないかもしれないですね。

夫人:最近、結構トキの写真も撮っているでしょう。年賀状とかもいただきますよ。

写真 4 冬羽のウミガラス(写真提供:千嶋淳)

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千嶋:バードウオッチングツアーの広告でも、ちらほら見かけますね。

夫人:ゲージで飼っている個体じゃなくて、自然だから。そこで飛んだりすると被写体になりやすいよね。

でも、減った鳥を増やすのは難しいよね。シマフクロウもタンチョウも陸の鳥は餌づけしたり、巣 箱をかけたりとかすれば、ある程度エサを食べて増えていく。でも、海の鳥は、ずっと海を回って いるから。

片岡:エサ取りに行くだけでも、どこ行っているかわからない。もちろん、決まった場所、魚がいるところ を選んでいるでしょうけど。だからといって、どこか特定の場所を守ればいいという話でもない。

關野:水鳥の繁殖地自体も、まだよくわかってないですよね。北海道でも。

片岡:いや、繁殖地はだいたいこの辺りというのはわかっています。けれど、細かい繁殖地はわからないで すよ。たとえば、うちが今年やっているような、オオセグロカモメやウミウは、どこでもいそうな 普通種だけれど、実は、調べたら、ポツポツとしかいない。細かい調査というのは行われてないから、

大きな島の繁殖地ぐらいしかわかってないですよね。たとえば、オオセグロカモメは、1つがいでも 繁殖しているわけだから、それがどういうふうになっているかというのは、実際に調査してみない とわからないと思う。オオセグロカモメは浜中町全体にいるわけじゃなくて、この霧多布島の周辺 以外だと、本当に、対岸の1ヵ所しかいなくて、繁殖場所は決まっているとか、そういった細かな 調査をしないとわからない。

關野:確かにオオセグロカモメもウミウも意外にいそうでいないと。オオセグロカモメはこれから減ってく 可能性がありますよね。

片岡:昔に比べたら、すごく減っています。うちが来たころには、小島に少なくても1,000羽はいたから。

それは、もちろん、多過ぎるくらいですけど。今は、50羽ぐらいしかいない。50羽全部が繁殖して いるわけではないので、いても20つがい程度。おそらく、ひなは1羽も出てない。ひなが1羽いた けれども、途中でいなくなったので、たぶん、ワシに襲われました。

關野:カラスは襲わないのでしょうか。

片岡:いや、カラスは卵の時に襲いますね。

千嶋:ワシが来ると、カラスが飛び立ったりしますしね。

片岡:カラスが、オオセグロカモメが巣に座っているところにちょっかいを出す。座っている個体は頑張っ て卵を抱いて座っています。すると、1羽が翼をつかんで巣から出しちゃう。崖だから、カラスとカ モメが一緒に落ちる感じ。その間にもう1羽来て卵をもっていってしまう。

千嶋:カラスはそういう知能犯的なことをしますよね。

片岡:そう。意外とハシボソガラスがやりますね。あんなに小さな体なのに。

千嶋:ハシボソガラスの方が器用な気がしますね。

片岡:ひなが小さい頃は、ワシはあまり襲わない。けれど、ワシは親鳥を襲いに来ます。親鳥を食べようと 襲って、そのときにひなが崖から落ってしまうことがある。それでひなが死んじゃうのではないかと。

ひなは最初ものすごく小さいから、ワシは狙ってないでしょうね。ひなはかなり大きくなってから です。

千嶋:ウミネコだったら、違う個体のテリトリーに入ったひなはつつき殺されますよね。

片岡:オオセグロカモメもそれはありますね。

千嶋:ワシが来たときに、ひなが走って他の親鳥に殺されているというのも、結構あるかもしれないです ね。

片岡:たくさんいたころも島に登ると、結構、ひなの死骸があります。

關野:もともと繁殖の成功率はそれほど高くないのでしょうか。

片岡:いや、昔はたくさんいましたよ。当時は水産加工場があって、そこに餌づいていました。イルカだと

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かの死体もあって、そこにうじゃうじゃとカモメがいて、エサに困らなかった。当時は水産加工場 の処理があまりよくなくて、カモメたちもエサに困らなかった。だから、今は平常に戻ってきたと いえるのかもしれない。どこが平常かよくわからないけれども。ただ、明らかに今はオジロワシが 増えて、小島でも最高15羽もオジロワシが下に降りていますから。だから、ウミウもオジロワシに 相当食べられている。

千嶋:それなのに、オジロワシの保護増殖事業にまだたくさんのお金がついている。

片岡:お金が無尽蔵にあるならいいのでしょうけれど、お金も人手も限られたなかで、そこまでオジロワシ に投入していいものなのか。

千嶋:本当はもう増やすことよりも、現状をモニタリングするほうが大事でしょう。オジロワシはどんなも のを食べて、どこで行動しているのかといった。

關野:確かに。オジロワシを保護しすぎて、別の鳥が減ってしまっては本末転倒。カモメの増減は、水産加 工場に左右されるのでしょうか。

片岡:水産加工場との関係は強いですね。エサが豊富ならたくさんいるけども、エサがなくなると、自然に 減っていきます。特にオオセグロカモメは、ウミネコみたいに集団で繁殖はしなかったと思いますね。

ウミネコは、逆に単独で繁殖しているところは見ない。よほど条件のいい繁殖地には集まったのか もしれないけども、オオセグロカモメは別に単独でも暮らせる鳥でウミネコほど集団性はない。

減り続ける保護されない海鳥

關野:海鳥保護に力を入れている団体は日本ではまだ少ないですよね。

片岡:少ないです。研究者のグループでカンムリウミスズメに取り組んでいるところがあります。カンムリ ウミスズメは人気があるから、日本野鳥の会でもやっている。

千嶋:カンムリウミスズメは日本近海しかいませんし。

片岡:世界的に見たら固有種ですから。だからケイマフリも人気。

關野:ケイマフリはあまり観光対象とするのは厳しそうですね。歯舞漁協のクルーズでも案内役の方が外国 人の野鳥愛好家はすごく喜んでくれると言っていましたが、なかなか一般の観光客に人気のある鳥

写真 5 夏羽のケイマフリ(写真提供:千嶋淳)

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ではないですね。

片岡:しぶい鳥です(笑)。一般の人にはウケない。海鳥で一般の観光客にうけるのはエトピリカぐらいで しょうね。

千嶋:ウトロのクルーズだとケイマフリも売りの1つになっていますね。

片岡:ただ一般の観光客にはそんなにウケないでしょ。

關野:大きさも小さいし、肉眼で見て、おって思うような鳥ではないですし。

片岡:野鳥愛好家から見ると、結構、魅力的な鳥ですよ。あれだけ海鳥で鳴くのは珍しい。何度か実験しま したけれども、すぐに声に反応してきます。だから、デコイよりも、声のほうがずうっと効果がある。

据え付けのものでなく、携帯のもので声を流したら、それでも集まってきました。鳴き声はかなり 重要な要素になってくるでしょうね。

千嶋:よく通る声ですよね。島なんかでも、霧で何も見えないときも、遠くのほうからピッピッピッピッ ピッピッキピッピッと声だけよく聞こえてきました。

片岡:確かに、ケイマフリ、一般の人から見れば、地味でしょうね(笑)。

千嶋:名前の由来とか話すとね、ちょっと興味を持つ人もいますよ。エトピリカとケイマフリぐらいですよ ね、アイヌ語が標準和名になっている鳥は。

關野:でも、人気が長続きすることはないでしょうね(笑)。

片岡:やっぱり、きれいとか派手な鳥に惹かれますよね。エトピリカはね、やっぱり、海鳥のスターです よ。だから、護るシンボルにはなるはずです。エトピリカをシンボルにして、私は浜中町の海鳥全 体を守っていくっていう方向にしたい。ただ、そうするためには、役場とか漁協とかを含んだ町全 体が協力しないとできないじゃないですか。そのためには、やっぱり何か一般ウケするようなもの をシンボルにしてやらないと、ダメですね。たとえば、ケイマフリを護りましょう、カモメを護り ましょうと言っても重きをもたない。

關野:あまり思い入れもわかないですし。そこは難しいところですね。

片岡:幸い、ここは、繁殖はしなくなったけどもエトピリカがもともと町の鳥で、そういう場所だから、他 の水鳥も含めてなんとか持っていきやすい場所です。おそらく、浜中町ほど協力してくれる場所は ないでしょうけど。

千嶋:エトピリカが町の鳥になった経緯は何かありますか。

片岡:よくわからない。こちらに来る前から町の鳥になっていたし。派手な鳥だし、浜中の場合は里海と言 われるくらい近い海だったから。身近な鳥だったと思いますよ。

關野:それくらいたくさんエトピリカがいたと。

片岡:正確にはわかんないけども、少なくとも100羽単位ではいたでしょう。目立って、人の住んでいる 場所のすぐ近くにいるわけだから。ここはその辺の昆布漁師やっている人たちが見ている。だから、

町の鳥なったのでしょう。

千嶋:霧多布のエトピリカはいつごろからバードウォッチャーに知られたのでしょう。最初のころは霧多布 の情報はなかったですね。

片岡:私も全然知らなかった。(日本野鳥の会の発行する)野鳥誌の中で探鳥地案内という連載があって、

それに出てきました。それで僕はそのときに初めて知りました。70年代かな、シマセンニュウの調 査をしていた方が夏の間、霧多布に滞在されて、それでエトピリカのことを書かれました。当時は 10数つがいいたそうです。私が霧多布に初めて来たときは、霧多布岬の近くにある岩礁の上面にエ トピリカの巣穴がありました。そのころにはもう4つがいに減っていましたけれど、それでも使っ ていない古巣の穴がたくさん見えていました。崖の頂上は土で穴がいくつも見えていました。だから、

急激にいなくなったと思います。

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關野:そう考えると、減ってしまった原因は単純に漁師の網にひっかかる混獲だけでもないという感じです ね。

片岡:とにかく若い個体が全然来ていませんでした。それらしい個体を1度見ただけで、いかにもここで繁 殖していない個体が来たのを見たことがない。絶滅するまで見たことがありません。それまで小島 の方はあまり見ていなくて、その後、重点的に観察することになったのですが、それでも若い個体 はやっぱりいなかった。何年も見られなくて、ある年、初めて見られました。それからです、本格 的に保護活動に携わりだしたのは。今はかろうじて2羽とか3羽が来ているけれど、もう少なすぎて。

再繁殖を一度したときは、89羽来ていましたから。今はまた、少なくなっている時期になってい るので、このまま続けばもう絶滅です。かろうじてまだ来ていますが、若い個体がいないとどうに もならない。いくら繁殖のための保護施設の整備をしようと思っても。」

千嶋:若い個体は、沖合にはいっぱいいます。1回の調査航海で20羽とか30羽出ることもあります。ただ、

それが繁殖年齢になったときに来てくれなくて、おそらくロシアに帰ってしまう。それが、霧多布 に繁殖しに来てくれれば、復活するかもしれないけれど。今の状態では、何か嫌なものがあるのか もしれません。

關野:ロシア側が安全という意識があるのでしょうか。

片岡:僕はたぶん、一番の原因は、ここ霧多布が繁殖地としては端っこということだと思います。端っこに はもともと来ないから。だから、若い個体で来ているのは、繁殖に関係なしにただ来ているだけだ から、繁殖期になったらロシアに戻る。

千嶋:海鳥はもともと生まれた場所に帰る習性が強いですからね。

片岡:この辺りで繁殖している個体が少ない。それから、全体的に減ってきていると思う。海外にたくさん いると言われているけれど、ロシアでいまだに毎年、海鳥が何十万羽って網にかかっていると言わ れているのだから、当然いなくなるでしょう。カモだってこれだけいなくなりましたから。ウミス ズメだって、いつまでもいると思わないですよ。いまだに250万羽いるとか言っているけれど、ど う見ても冬のウミスズメだって減っていますから、エトピリカだって減っているはずです。だから、

外国にたくさんいるからいいという理屈は成り立たないように思います。かえって日本の方が最近 はロシアに比べて流し網をしなくなってきますから。50年前はこの辺りの総水揚げの9割が沖合の

写真 6 エトピリカの放鳥(写真提供:片岡義廣)

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流し網漁で、定置網が1割だった。ところが、この辺りの沖合での漁はロシアに協力金を支払わな いといけない。ロシアの海上じゃないのに払わないといけないということで、今は定置網が9割で 流し網が1割。相当減っています。

關野:確かに海ガモ類はすごく減っていますね。たとえば、ビロードキンクロなんかは、北海道に来るまで 全然見られなかった。子供のころの調査記録を見るとビロードキンクロが数万羽で記録されている けれど、一体どこにいるのだろうって。

片岡:30年前に宿をはじめたときも、この辺りに万単位でいたのが、今は本当にパラパラとしかいない。

千嶋:20年だけ見てもすごく減りました。クロガモとコオリガモも最近、レッドリストに入りました。コ オリガモはかなり上位のほうに入っていました。ヨーロッパでも、減り方がすごいということで、

かなり上位のほうに急に入れられたようです。

片岡:海ガモがそんなに減っているわけですから、当然、ウミスズメ類も減っていますよね。移動ルートが 変わった可能性もあるけれど、こちらから観察している分にはものすごく減っていますよ。繁殖地 でも減っているわけだから。いつまでも多いからいいという話でもない。

千嶋:釧路航路があったころは、それこそ雲のようにウミスズメが群れていました。今も同じ海域に調査船 を出していますけど、パラパラしかいない。いても数百とかいう単位で万単位はない。

片岡:十勝から霧多布の辺りまで、コウミスズメが3月の渡りの時期になると盛んに渡っていたのが全然い なくなりました。真冬はそんなに漁をやっているわけでもないから、繁殖地で減っていると思います。

千嶋:ほとんどの水鳥が減っていますよね。増えているのは、タンチョウとオジロワシ、ハクガンとシジュ カラガンでしょうか。シジュウカラガンは人為的導入で増えた種ですが。

關野:海鳥は全体的に減少している傾向にあると。増えている海鳥は聞かないですね。

千嶋:アホウドリくらいでしょう。それでも、昔600万羽いたのが、やっと3,500羽というレベルですから。

研究者に望むこと

片岡:私がいつも思うのは、職業研究者の人たちが調査はするけれども、それ以上野生動物を増やそうとい う努力をほとんどしてないというのはいかがなものかと思って。僕は素人だから、理論武装とかな かなかできない。ただ、自分の思いだけでやっているようなものですから。理論武装できる人たちが、

きちんとした研究者で名前が通っている人たちが、いかに増やす努力をしているかにかかっている ような気がします。海外だと現地に行って、研究者と言われている人たちが現実に増やす努力をし ているじゃないですか。ああいうことを国内でいいからやってほしいと思います。それでは論文が 書けないという事情はわかるけれども。

關野:研究者も増やさないと、とにかく絶滅させてしまっては自分たちも研究できなくなりますから。た だ、保護活動まで真剣に取り組んでいる研究者は少ない。でも、誰かがかかわっていかないといけ ない問題であるわけで。

片岡:欧米がいいというわけではないけれど、すごいなと思いますよ。一応、博士と言われる人たちが現地 に住み込んでやっているわけだから。結構、いい年になってもまだやっているわけじゃない。

千嶋:資金の獲得が難しいですよね。研究者も資金獲得のためにはひたすら論文を書いてというふうになっ てしまいますし、職を探さないといけないし。

關野:本来的には野生動物の研究をやっている人たちは野生動物が好きでやっていたはず。それが、職業と して選んだ時に変わっていくというのはあるでしょうね。地元の保護活動家の方と協力して研究で きるのが理想なのですが。

片岡:熱心にやってくれる研究者がいたら、私なんて逆に応援団でいいと思っています。そういう人がいな いから(笑)。こんなにやりやすい場所はないと思いますけどね。

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關野:そういう意味でアザラシはどのような状況でしょうか。比較的、実践的に研究をされている方がい らっしゃるように思えますが。

千嶋:漁師さんはよく言いますよ。学生やら先生やらが来てデータを取って論文書いたけれど、被害は減ら ねぇって。漁師さんにもアザラシを殺したいわけじゃねぇっていう思いがあります。研究に協力す れば被害が減るかと思ったから協力していたけれど。何人来ても、変わらねぇと。被害は増える一 方だっていう。

片岡:保護は難しいです。どこにも野生動物がいて、そこで暮らしている人がいる。必ず被害者が出てくる から。どこまで我慢できるっていう問題かな。どこで折り合いをつけるかというね。

千嶋:落としどころが難しい。

片岡:浜中町は最近、栽培漁業が非常にうまくいっていて、特にウニがうまくいっています。最近、かなり 裕福になってきている感じがします。当初、よく環境省が言っていたけれども、海が豊かになれば、

魚もいっぱい獲れてね。昔みたいに豊かな海が戻れば、鳥と共存できますよっていうけれど、僕は 逆だと思っているわけ。豊かになればなるほど網をたくさんやっている。だから私は正直、獲れな くなったほういいと思っているわけ。栽培事業でできるものが発展すれば、そっちがお金になるわ けですよ。自分たちが養殖するものだから、比較的、鳥獣の被害を防ぎやすいかたちでできるわけ。

栽培事業が発展してくれたほうのが、野生の鳥獣にとっては非常にいいのかなと。たとえばウニだっ て、野生のウニであれば、ラッコがいっぱい食べちゃっているわけ。ところが、養殖しているウニ はかごでやっているからラッコには取れない。浜中の養殖のウニは野生のウニよりも品質がいいそ うです。栽培事業が進めば、もうラッコが何頭いようが関係ないわけです。その方が共存できるよ うに思います。だから、豊かな海が戻るよりも、豊かな海が戻らなくてもいいから養殖で。漁師さ んたちの数は減っていく一方だから、残った漁師さんたちがちゃんと生活できるような、裕福に生 活できるような方策にどんどん切り替えていったほうがいいと思う。たとえば、私たちがこちらに 来たころは、いろんな水産加工場がありました。ここは昆布が主なので、昆布の加工場が多かった。

でも、みんなどんどん潰れていきました。今、ウニの養殖がうまくなって、初めて浜中町でウニが ブランド化されたのです。高級すし屋に浜中のウニが使われるようになりました。その影響で、ウ ニの水産加工場をどんどんできて。養殖にどんどんシフトしてくれれば、他の野生鳥獣とそんなに 競合しないわけだから、非常にいい方向にいくと思います。ここもね、魚を獲るのに網をかけて、

当然、海鳥が網にかかるから、かからないようにいろんな調査を環境省がやってきました。けれども、

環境省の役人の考えでやっているだけで、たとえば、同じ研究者でも、漁業の研究者が入っている わけでもなくて。自分たちの勝手な思いでやっているだけなので、まったく効果が出ないって私は 言ってきたけれども。全部中途半端ですよ。

關野:政府のセクト主義の問題もありますね。まだまだ議論はつきませんが、本日はこれで終了いたしま す。ありがとうございました。

■ 考察

 お呼びした野生動物保護NGOの方はお二人とも、北海道出身ではない。いわゆる「よそもの」であり、

野生動物保護を通じて、地域とのかかわりをもたれるようになった方たちである。獣害や自然開発といった 論点を多く抱える野生動物保護の問題に、よそものである研究者がいかにかかわっていくべきなのか、実践 家の方からヒントをいただくことが今回の座談会の目的であった。

 北海道の野鳥に惹かれ定住されることになったお二人であるが、片岡氏はエトピリカ保護のために生活基 盤としては民宿を経営され、千嶋氏は海鳥を見たいという思いからアザラシの研究にかかわることになる。

 自然が豊かと思われる北海道であるが、現在、野鳥の数は減少傾向にある。その中でオジロワシやタンチョ

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ウといった保護対象となっている野鳥は順調に数を増やしている。野鳥以外にもアザラシのように増えた、

あるいは人間の近くによく顔を出すことになったことで軋轢が生じているようなケースもある。

 野生動物を観光対象としたエコツーリズムで野生動物との軋轢を解消しようとする試みも行われている が、長期的に安定した収入を得るのは困難である。野生動物との遭遇率は運まかせであり、必ずしも見られ るわけではない。多くの観光客は野生動物が見られるという行為に対価を支払っているのであり、見られな ければ満足度はきわめて低くなる。多くの情報があふれており、旅行者の形態も変わってきている。情報を もとに、野生動物の出現場所を知り観察するあるいは撮影するといったように、リスクをなるべくおかした くないという傾向が強いように思われる。

 道東地域ではタンチョウ、シマフクロウおよびオオワシが3点セットといわれるほど人気の野生動物であ る。これらの野生動物を同時に観察できる場所は世界的にも少なく、外国人観光客に人気である。同時にこ れらは稀少性の高い野鳥でもあった。現在は保護活動が実り、生息数は回復傾向にあるものの、推定個体数 はほとんど変わっていない。これらの野生動物保護は保護事業を生み出す野生動物でもあり、いわゆる利権 にもつながる。生息数の正確な把握が必要と考えられる。こうした野鳥に対し、水鳥、とりわけ海鳥につい ては正確な状況が把握されていないうえに保護されていない現状がある。オオセグロカモメのように北海道 においては普通種で数も多いと考えられている野鳥もその繁殖地は正確にはわかっていないうえに、オジロ ワシの増加によって減少が懸念されている。

 海鳥の多くは黒と白といったような地味な羽色であり、一般ウケはしない野生動物である。しかしながら、

エトピリカは派手な赤い嘴と愛嬌のある顔で古くから浜中町では町の鳥として親しまれてきた。海鳥保護の シンボルマークとして有効な鳥ではあるが、近年、ロシアなどでの混獲の影響なのか、数が急激に減少して いる。これは海ガモ類やウミスズメ類も同様である。

 こうした現状を鑑み、野生動物保護の実践家として、研究者に望みたいのは、地域に根を張って地道に野 生動物の数を増やしていく努力をしていく姿勢である。多くの研究者は論文執筆に追われ、データだけを取っ て終わってしまい、保護活動にまで手を出す余裕がない状況である。しかしながら、アザラシ問題のように、

アザラシを減らしてくれると思っているから協力したのに、まったく何の報告もないと漁業者からの不満が あるように、地域で生活する人たちの感情を害し軋轢を生むことになりかねない。野生動物保護の実践家の 多くは個人ベースで活動しており、後継者がいないのが現状である。野生動物保護は長期的視点に立って取 り組むべき課題であり、政府の関与は欠かせない。まじめに保護に取り組む研究者がいれば、実践家はいつ でも協力する準備ができている。いかなる問題においても得をする人、損をする人は生じる。いかに折り合 いをつけるか、地域の人びとともに頭を悩ませる研究者を育成していく必要性を感じた対談であった。

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