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加 藤 幸三郎 専修大学経済学部教授

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(1)

明治後期秋田県下の土地抵当貸付の動向

一地主制の展開と関連させて一

加 藤  幸三郎

専修大学経済学部教授

q)はじめに一問題の限定      し始めており、前者の仙北郡における小作地率を すでに、われわれは「産業資本確立期」におけ  みると大正9〜10年が戦前期で最高の66.3%を示 る地主制の特質を探るべく、秋田県南地方の稲作   すのに対し、後者の平鹿郡の場合には、昭和5〜

地帯にあり、かつ果樹作農村たる平鹿郡醍醐村を   6年に71.1%という秋田市を除けば、県下で最高 素材に若干の検討を試みたことがあるω。そこで  の小作地率を示しているのである②。

は、一方で、同じく県南地方に属するとはいえ、    したがって、この小論では、かかる視角から「秋 互に隣接する仙北郡と平鹿郡との間に商品作物生   田県庁文書」の検討を通じて、土地抵当貸付ない 産の内容や動向に差異があることが確認できたと  しは土地集中の実態の解明に迫りたいと考える。

考える。たとえば、明治20年頃の「繭」の生産比

率が、前者で1.6%なのに対し、後者の平鹿郡で  ②大蔵省側の政策的企図と資料の性格

は、4.3%を示していたのである。だが、かかる県   恐らくは、明治十年代以降松方正義らを中心と 南地方における蚕糸業の展開は、一つは勿論幕末   した日本勧業・興業両銀行設立の構想乃至は策定 期以降の佐竹藩(南家)の殖産興業政策に起因す   準備のなかで(3)、「土地抵当銀行制度」調査のた

るのであるが、他方で日清・日露両戦争を経て、   め、明治28年5月に松方大蔵大臣より各道府県知 明治40年代に推移するなかで、この蚕糸業は漸次  事に対して示達されたと考えられる、次のような 衰退していったのも事実なのである。農家副業と  資料が「秋田県庁文書」の中に存在する。優れた して残存はするとはいえ、県南地方、特に平鹿・  先行研究たる拝司静夫氏の論稿の中で指摘されて 仙北両郡では、むしろ水稲単作農業に収敏してゆ   いるように、この調査者は当時の大蔵省官房第三 くなかで、明治20〜30年代の蚕糸業の動向は下向・  課(明治30年からは監督局銀行課)であり、大蔵 衰退していったといえる。加えて留意すべきこと  省官員自身が銀行検査の途次に、自ら調査もし、

は、大蔵省による秋田県下の「土地抵当貸付金の   あるいは地方官庁に命じ、または所在の銀行に命 景況調査」の結果の示すところでは、仙北郡に比   じて調査報告を提出させる方法をとったものとい べ平鹿郡が、優iれて低金利かつ長期にわたる有利  われるがω、秋田県庁所蔵のこの資料を検討した

な融資条件を示し、土地集中に好ましい態様を暗   限りでは、上記のような各銀行検査官の現地調査 示していたのである。いってみれば、地主制展開  と並んで、本省からの道府県知事宛てへの示達に の条件の一つたる「土地集中の挺子」として金融   よる報告という、いわば二本立の調査報告の構成 機関を中心とした土地抵当貸付の機能・実態の存   をとったのではないかと考えられよう(5)。

在を予想させるのである。例えば、明治20年の仙 北郡の小作地率は50.9%であるが、同年平鹿郡は

58.8%であり、日清戦後の明治32年には、55.7%   「官房 秘二四六号

と64.9%といったように、両郡の差異は拡大を示

(2)

26       茨城大学政経学会雑誌 第62号

其管下土地抵当貸付金ノ景況二関シ調査ヲ要ス   (ii)「    調 査 項 目

ル儀有之候条別紙調査項目二準シ至急取調来ル六       本店又ハ支店名称 月三十日迄二送付スベシ       明治二十七年十二月三十一日現況

明治二十八年五月二十日       一 貸付金    幾 口   金 何 円 大蔵大臣 伯爵 松方正義(印)     期限過貸付金 幾 口   金 何 円 秋田県知事平 山 靖 彦 殿  」(6)     内

滞貸金    幾 口   金 何 円

「官房 秘二四七号      右貸付金ヲ類別スレハ左ノ如シ

期限ノ長短ニョリテノ区別 今般大臣ヨリ命令相成候土地抵当銀行制度調査   一 金 何 円    幾 ロ   ー箇月未満 上参考トシテ必要有之候儀ニシテ至急煩労二渉リ     内土地抵当金何円 幾 口    同 居候故勿論精細ナルモノヲ得プレ候ハハ此上モナ  ー 金何 円   幾 口   家   屋

ク候得共御管下二於ケル大体ノ景況ヲ視ルニ足ル   ー 金 何 円    幾 口   信   用 モノニテモ差支無之ト存候間本官ヨリモ御依頼労    抵当品二依リ利息歩合ヲ異ニスレハ其最高最低 此段御含ミマテ申進候也       歩合ヲ記スヘシ

明治二十八年五月二十日       借主ノ職業ニョリテ区別スレハ左ノ如シ 大蔵次官 法学博士田尻稲次郎(印)  一 何 円      幾 口     農 秋田県知事平 山 靖 彦 殿 」    一 何 円     幾 口    工

一 何 円      幾 口     商

(i)「     調 査 項 目      一 何 円      幾 口   雑   業 一 何 円      幾 口   会   社 一 専業ト兼業トヲ問ハス銀行以外ノモノニシテ    右ハ調査ノ標準ヲ示スニ過サレハ可成貸付金ノ

土地ヲ抵当トシテ金銭ヲ貸付スル会社又パー   性質原因償還ノ方法其他土地抵当貸付二関スル契 個人ノ営業二係ルモノノ員数、其資本額及貸   約書及地方ノ慣例等ヲ付記スヘシ      」 付金一ロノ平均高

二 土地抵当借入金ノ利率、期限、抵当地価格ノ    以上のように、少なくとも中央の大蔵省からは、

何割マテヲ借入ルルヤ       ニつの示達が秋田県にあてて出されていると考え 三 土地抵当借入及農産物質入二関スル契約ノ例   られる。(i)については、おそくとも五月二十四 及之二関スル地方慣例並二農家負債現況ノ大   日までに、県下各郡市長宛てに知事内訓が出され 要       」   ていると推察されるが、秋田県庁桧垣書記官ない しは同内務部第五課前田属より、「(前略)尤モ日

「八七三号       限切迫ナル義ニモ有之二付精細ノ調査ヲ為スノ暇

北海道庁      ナキ事項ハ郡(市)内二於ケル本体ノ景況ニテモ

府  県      止ムヲ得サル義二候得共実況ヲ誤ルコト無之様御

今般調査ヲ要スル義有之候条其管下各私立銀行   入念相成度」と指示されている。ただ、さきの拝

貸金ノ景況別紙調査項目二準シ至急調査セシメ来   司論文に列記されているように、日本勧業銀行所

ル六月十日迄二取纏メ送附スヘシ         蔵の『銀行土地抵当貸付調』における「土地抵当

明治二八年六月廿日      ノ現況調査項目」では、そのうち、「第一 銀行

大蔵大臣 伯爵 松 方 正 義 」   ノ土地抵当貸付ノ実況」の項目は、21項目と詳細

を極めている。(ii)についても、「第二 銀行以

(3)

外二於ケル土地抵当貸付ノ実況」は、同様に11項   産物質入」をみてみよう。これに関連する「地方

目にわたっているが、秋田県下では、おそらく調   慣例並びに農家負債現況」の大要については、以      ,

査対象銀行と県庁側との間で往復が繰返されたと  下のように記されている。

みてよい。ただ、後者の対象たる「私立銀行」の   ①「土地抵当借入二係ル契約ノ例及之二関スル 場合は、上記の日本勧業銀所蔵資料と比べると、  地方慣例」

当然に第四十入国立銀行、第一国立銀行秋田支店   「万一期限ヲ過キ返済セサルトキハ抵当地ヲ債主 が含まれていない点にも留意しておきたい(7)。    二引渡ス…ノミナラス期限経過後二在テハ債主二

於テ随意二抵当地ヲ売却スル……売却代金ニシテ

⑧県下における土地抵当貸付の実態        元利二不足ヲ告クルトキハ証人二於テ返済スル旨 a)上記調査項目の「一、二」に関係しては、  等ヲ契約書二明記スル……通例トナスト錐トモ実 末尾の第1表の示すように、先づ県南の仙平雄三   際ハ期限二至リ返済セサルモノアルモ債主二於テ 郡が活発な土地抵当貸付を行なっていることが判  契約ヲ励行スルノ類希有ニシテ多クハ利子ヲ払ワ 明する。特に、平鹿郡は、営業者数では仙北郡に  シメ契約書ヲ書換ル事ヲナサスシテ延期ヲ承諾シ、

及ばないものの、資本金額・貸付金一口の平均金   負債者ニシテ特二信用ヲ欠クノ失ナキニ於テハニ 額は仙北郡をはるかに上回り、県下で最高である。  三年間ハ此例二依リ延期ヲ為シ負債者ノ都合ヲ斜

①しかも、利率の割合について「然トモ是レ証  酌スルヲ以テ殆ト慣例トナスモノトス」と。

書表面ノ利率ニシテ実際ハ貸借ノ際二在テ手数料    ②「利子ハ元金返済ノ期限二於テ支払フヲ以テ 又ハロ銭等ノ名ヲ以テ貸金高ノー分乃至五分多ク  慣例トス。而テ再三返済延期ヲ承諾シタル末、返 ハ其以上ヲ債主及仲立人ニテ負債主ヨリ受取ルヲ  済方法見込ナキニ至リタルカ又ハ土地ノ下落等二 以通例」と記されている。②又、貸付金の返済期  依リ其価額元利金充タサルノ恐レアルニ至リタル 限について「区々一定ナラスト錐モ農家普通ノ融   等ノ場合二於テハ、債主ノ請求若シクハ負債者ノ 通二依ル借入金ノ返済期限ハ六ケ月又ハ五ケ月ヲ   請願二依リ抵当地ハ之ヲ他二売却セスシテ債主二 以通例ト為スカ如シ。又一ケ月乃至三ケ月、一年   引渡シ、負債者ハ該地ノ小作人トナリ、債主之力 乃至六年ヲ以テ期限トシ貸借ヲ為スモノナキニア  地主トナルヲ以テ通例トス。而テ此場合二在テハ ラス。而テ其短期限ハ多ク商業上ノ資金其他必要   債主ハ多少勘弁ヲ与工実価以上ニテ抵当地ヲ引取 ノ用(多クハ不生産的)二供シ長期限ハ多ク家政   リ又ハ涙金ト称シ若干金ヲ負債者二与フル事之ア 改革ノ結果若クハ其他必要ノ用(稀二生産的)ニ   ルモノトス。然トモ高利貸ヲ以テ目セラルルモノ 供スルニアリテ短期限ハ稀二日割ヲ以テ利子ヲ計   管内各地往々之アリ、此等ノ債主二在テハ負債者 算スルモノアリ」という。③さらに、地価額に対   ノ弱気二乗シ種々ノ手段ヲ用ヒ或イハ契約ヲ励行 する貸付金の割合についても「区々一定ナラスト  シ、或イハ増抵当ヲ出サシメ、其他正当以外ノ事 錐モ概シテ地価額ヲ下ルモノ稀ナリトス、其旱…   ヲ以テ利ヲ貧リ負債者ヲシテ堪エサルニ陥ラシメ 害ヲ被ムルコト少ナキ田地其他良田ト称スル地位  ルモノナキニアラストス」と。

ノ田地二在テハ地価額ノニ倍若クハ其以上ヲ貸付   ③「農産物質入二関スル契約ノ例及之二関スル クルノミナラス利息低ク期限長ク其他借主ノ便利   地方慣例」

ヲ容レ富商豪農共二貸付ヲ競フノ勢アリ。但、其    「農産物ヲ質入レ金融ヲ為スニハ現物ヲ債主(多 他ノ土地二至リテハ田地ノ如ク人気ヲ引クコト強   クハ市街地二於ケル商人)二預ケ当座ノ金融トシ カラス……惟リ山林二至リテハ地価額ノ数倍ヲ貸   テ借入ルルヲ通例トス。然レトモ此金融バー般農 付クルコトー般ナリトス」と。      家ニツイテハ、至ッテナキモノトス。/大農者二

シテ市街ノ豪農二就キ自己ノ売出米ヲ抵当トシ冬

b)つぎに、調査項目「三、土地抵当借入及農   期又ハ春期二在テ大金ヲ融通スルノ例オコナワル

(4)

28      茨城大学政経学会雑誌 第62号

ルナリ。然トモ之レハ河口及海ロノ如キ輸出ノ便   ナキモノ少キニ至ルヲ以テ、必要アルニ際シ借入 ナル土地二限リ行ナワレル所ニシテ、現今ヨリハ  ヲ為ントセハ其事頗ル容易ナルモ、下等農家即チ 昔時二在ッテ盛ンナリシ所ノ融通法ナリ。其貸借   小作人等二至リテハ僅少ノ所有地ヲ挙テ之ヲ抵当 契約ハ大農者ハ其売出米ヲ運搬シ来タリ、之ヲ豪   トシ融通ヲ為シテ生計其他ノ費用ヲ補弁シタルモ 商ノ倉庫二運ビ入レテ輸出期ヲ計リテ返済期限ヲ  今ヤ充ツヘキノ抵当ヲ有セサルニ至リタルモノ多 定メ、以テ融通ヲ為スモノナリト錐モ若シ抵当物   久金銭ノ借入二就テハ甚タ難渋スルヲ免レサル ノ価額ニシテ下落シ元利二充テサルノ恐レアルニ   ノ実況タルヲ以テ農業ノ外他ノ労役等ヲ求メ、其 至リタルトキノ\債主ハ返済期限前ト錐モ更二追   雇銭ヲ以テ眼前ノ急ヲ弁シ、又ハ地主二懇願シテ 抵当ヲ出サシムルカ、又ハ借金高ノ内幾分ヲ返金   米穀ヲ借入以テ生計ヲ保持スルモノ漸ク増加二向 セシムルヲ以テ例トスルナリ。而シテ負債者ニシ   フノ状況」であった。

テ、若シ此二者ノ内一モ肯諾セサルトキハ、抵当

物ハ債主二於テ売却シ、不足金アルトキハ負債者    このようにみてくると、中央からの「土地抵当 ヲシテ弁償セシムルヲ以テ普通ト為スモノトス」  貸付金の景況調査」の結果は、少なくとも秋田県 と。      下に於いて、富有者ないしは中等の農民について

④「農家負債ノ現況」      は、貸借関係をおいて安定的であることを示して

「明治二十年以前ノ状況二比スレバ、土地ノ価   いるといってよいであろう。これに反し、下等農 額上昇シタルト宿債ノ整理落着シ、奢修ノ風ヲ戒   民は、地価の高騰の中で益々没落を強いられてゆ ムルノ念ヲ起シタルト無抵当ニテハ融通ヲ為スノ  かざるをえない。或いは、農業外の、つまり都市 便殆ト絶ヘタルカ為、分限不相応二借債ヲ為スモ  ないしは近在の農村工業などに収入を求めなけれ ノ少キニ至レルトニ依リ中等以上ノ農家二在テハ   ばならなかったのである。いってみれば、地主制 一般二信用ノ度ヲ高メタルト共二負債ノ状況大二  の展開が着々と進行していることを反面で物語っ 改善二向フタルノ実況アリトス」と。       ているといえよう。

「/土地ノ価額逐年上昇シ、富有者争ウテ之力

買収ヲ務ムルカ為メ、其結果小作人ノ数二入ルノ   c)次に、秋田県下の県南地方も含め三郡の事 農家逐年増加スルノ実況アリ、而テ中等以上ノ農  例について、検討してみよう。

家ノ状況大二改善二向ヒタルノ実況二反シ、之等   1)南秋田郡:「便宜上、全管内ヲ三方面二区分 小作人ノ状況ハ地主又ハ其他二於テ漸ク負債ヲ増   シ平均スレハ左表〔下表〕ノ如シ」

加スルノ傾キアリトス。要スルニ中等以上ノ農家    ①「土地抵当借入」については、「借入二関ス 在テハ、負債ヲ有スルモ之力返済ノ途二於テ目的   ル契約ハ負債者ノ信不信若クハ抵当土地ノ良否二

地  名 員 数 資本金額 一口平均貸付金 利 率(月) 期 限 割 合

a) 0.9〜1歩

土崎方面 84人 94,036円 37円591 b) 1〜1.5 12ケ月 5割迄

c)  1〜1.5

五城目方面 24 12,000 208,333 b)   1。3 12ケ月 3割迄 c)   1.5

a)   1.0

男鹿方面 46 53,875 30,117 b) 0.5〜1.0 12ケ月 5割迄

c)  2〜2.5 159,911(平均)92.014

(付記)利率a)は100円未満、b)は100円以上1,000円未満、 c)は1,000円以上とする。

(5)

ヨリ約定上大二寛厳ノ別アリテー定ナラサルカ為  例ナリ。而シテ利子ハ元金返済ノ時二於同時二債 メー々之レカ類別ヲ掲クルニ由ナキモ約定期限ヲ  主二払込ムモノトス。尤モ元金返済ノ延期ヲ乞フ 失スレハ、債権者二於テ抵当土地ヲ売却シ余金ハ   ノ時ハ先ツ利子ヲ払込ミ其月ヨリ更二利子ヲ附 負債者二返戻シ、不足ハ更二負債者若シクハ保証   (俗二躍リ利子)スルモノアルモ、多クハ最初ノ 人ヨリ弁償セシムルハ普通ノ慣例」といい、土地  割合計算ヲ以テ返済スルヲ例トス」

価格の変動がなく、債主の属望の土地ならば、「負   ②「農産物質入等は、本郡ニハ未タ見サル処ナ 債者ノ希望二依リ、返済期限二至レハ其利子金ノ   リ。故二其例ナシ」

ミヲ払フカ、若シクハ元利ヲ合算シ証書ノ書換ヲ   ③「農家負債現況ハ、小農ハ唯タ耕作ヲ以テー 為ス。幾年トナク約定ヲ継続スルノ類又少シトセ  家ノ糊ロヲ営ミ偏二辛苦ヲ甘シ他二負債等ヲナス ス」と。       モノ甚タ稀ナリ。是畢尭近来貧富ノ差著シク小農

②「農産物質入」につては、「其数甚タ少ク定  等ハ巳二負債ノ為メ悉ク資産ヲ失ヒ現今二至リ抵 例ト為スヘキモノナシ。土崎地方二於テハ弁済期  当トナスヘキ土地ノ所有モナク負債ヲナスノ道ナ 限二至ラサルモ抵当物ノ価格下落ヲ来タシ(タ  キニ依ル」と。

ル?)場合ハ、更二追抵当ヲ出サシムルカ又ハ借

金高ノ或部分ヲ返金セシム。若シ負債者ニシテニ   以上、県下全体の概況とほぼ同じといってよい 者共二肯諾セサレハ、質入品ハ売却セラルルノ止   と考えられるが、①「土地抵当借入」については、

ヲ得サルニ至ル」と報告されている。       平鹿郡の「躍り利子」に代表されるように、飽く

③「農民負債ノ現状」については、「耕作地ハ  なき収奪の激しさを予想させよう。,②「農産物 大概豪農豪商ノ有二帰シ、中等以下ノ農民ハ僅力   質入」については、南秋田郡土崎町(現秋田市)

二小作米二依リ生計営ムニスギス、故二耕作ノ外   に代表されるように、輸移出米の増大の中で、豪 収利ヲ得ルノ途ナキ者一般」というのが通常であ  商(あるいは米商)と大農(あるいは地主)との った。      関係を基軸に、倉庫保管業務も含めた荷為替の利

用という観点からの収奪関係を予想させるのであ 2)仙北郡:①「第三項 土地抵当借入二関シテ  るが、併せて地主層の商業利潤の抽出の場たる、

ハ其契約一ナラスト錐モ概シテ期限二至リテ返済  いわゆる「川下げ」利用をも考慮にいれてみると、

二至リ兼ヌル時ハ土地ハ債主へ永大引渡或ハ其証   雄物川・能代川などの貫流する各郡下の実態の記 人二於テ弁償ヲ為スヘキ契約ノ例最モ多シ。然レ  述は必ずしも説得的ではないようにに思われる(8)。

トモ実際期限二至リ返済二及兼ネタルトキハ其土  ③「農家負債ノ現況」は、三郡に共通して、「地主 地ヲ売却シテ金ヲ返済スルノ慣例ナリ」といい、   ・小作関係」の著しい進展を指摘しているといえ 農産物質入の事例はないという。        よう。

②「農民負債ノ現状」については、「農家中等

以下即チ小作者ノ如キハ或ハ田畑仕付二差支フル   d)さて、「土地抵当貸付金の景況調査」の報 力或ハ食料二欠乏シ収穫米ヲ差向テ地主ヨリ借入  告結果に見られるように、平鹿郡の土地集中に有 ヲ為スモノ殆ント六七歩通りナルヘシ。然レトモ  利な融資条件の存在は、高い小作地率に代表され 多クハ無利子ナリ。又土地買入其他一時ノ必要二   る地主制の確立・展開に向けて一つの契機になっ 依リ借入ノ向モ少ナカラス」と報告されている。   たとする指摘が正しいとすれば、改めて同郡内の 醍醐村に注目してみたい。それは、周知のように 3)平鹿郡:「土地抵当借入及農産物質入」    斎藤万吉(当時、農商務省農事試験場技師)の晩

①「土地抵当契約ノ例ハ、証人連署ヲナスモノ  年の遺稿(死没の九ケ月前に脱稿されたという)

トナササルモノトアルモ、多クハ証人ヲ立ツルノ  たる『日本農業の経済的変遷』の基礎となった明

(6)

治四十二年実施の「農事調査」(全国で八府県)  貧窮化が一層進み、いってみれば、地主・小作関 における県下の調査対象村として、河辺郡川添村   係の深化がみられたといってよいであろう。

・北秋田郡西舘村と並んで、同じく醍醐村が選定

されていたからであるゆ。      (4)「私立銀行貸金ノ景況」曲

勿論、この資料自体、全国的な視点からの比較・   第2表(末尾、後掲)に掲げるように、「私立 検討も要請されるのであるが、まずここでの小論  銀行」という制約もあってか、秋田銀行(明治29 の範囲内に限定して検討を加えてみたい(1°)。     年5月)・増田銀行(明治28年3月)両行創立以

①まず、「質権・担保」等に関連して、次のよ  前の時点であるのに加え、第四十八国立銀行、第 うに報告されている。       一国立銀行秋田支店は含まれておらず、従って県

「耕地ハ農村人ロノ増加ト比例スルコトナリ。  下全体の検討ではないが、平鹿銀行の活発な土地 加フルニ田畑ヨリノ収益昔時二比シ増加ヲ見ルモ   抵当貸付の動態が知られよう。貸付金額で、凡そ 租税負担ノ増加、奢修ノ風潮、小児ノ養育、地租   平鹿銀行の半分の大久保銀行と比較しても、圧倒 増徴、小作料ノ増加等ハ農家生計上二益々困難ヲ  的部分が土地へ、しかも貸付期限も1年にわたる 感セシメ、其ノ不足分ハ辛ウシテ借財二依リ支弁  契約が多いのである。借主の職業も大久保銀行は

スルヲ以テ暫次負債増加シ、返済スルノ道ナキニ   能代港という条件もあって、商人層の比重が高い 至リ、遂二世襲財産タル田畑ヲ売却スルニ至ル。   が、平鹿銀行は農業、つまり地主層の土地集中を 其他耕地売却ノ際、小作料ノ高キ土地ナルヲロ実   予想させ、2〜3回にわたる書換えも存在している トシ、高価二取引ヲ了セシモー朝自己之力小作人  点にも注意しておきたい。しかも、仙北郡の大曲 タリシトキ始メテ小作納米ノ困難ヲ覚ヘリシキト  銀行は、貸付金額では第三位とはいえ、大曲米穀 キ始メテ保証方ヲ依頼シ、其依頼二応シタル者二  取引所が存在することもあって、抵当品の内容も 於テ之力弁済ノ為メ止ムナク所有耕地ヲモ失フ者  米穀ないしは株式に重点がおかれていることが判 少ナカラサルノ状況ナリ」と。      明しよう。

②「農家負債ノ状況及之レカ変遷」に移れば、   ただ、第一国立銀行秋田支店は「数年前ヨリ国

「往時ハ小作農ト錐トモ収支相償フコトヲ得タル   債証券株券及ビ米穀類ニシテ土地ノ抵当貸付バー ヲ以テ負債ヲ起スモノ至ツテ勘ナク往々之アルモ  切無之(中略)何分一般二手数ト長期二渡ルノ憂 無謀ノ行為二出テタルニアラスシテ秋収二至リ充  有之二付悉皆謝絶致居候」と回答しており、中央 分二弁済ノ見込ミアル丈ケニ止メタリ。然ルニ時   に本店をもつ大銀行は次第に近代的金融機関とし 勢ノ変遷スルニ従ヒ生活程度農作収入二伴ハス、  ての体裁・内容を整備してゆくためにも、それが 加フルニ農事改良二費スヨリモ、都市二集リ浪費  地方支店の経営方針となったといわれている⑰。

スルモノ近年二至リ殊二多キヲ加ヘタリ。斯ル現   だが、同時に同支店報告は「当(秋田一引用者注)

況ナルヲ以テ自然負債ハ往時ト異ナリ別二成算ア   地方ニテ資産家ト称スルノ\概シテ大地主ニシテ ルニアラサルヲ以テ遂二相嵩ミ、殊二三十七、八   大地主ハ其収入純益ノ半額ヲ以テ他人名義二因リ 年戦役ハ租税其ノ他万般ノ増加ヲ見ルニ至リタル  商業ヲ営ミ……、此結果トシテ商業二従事スルモ

ヲ以テ中産者ハ益々負債重ナリ、小農者ハ遂二産   ノハ、多ク資産ナキモノニシテ金融ハ大地主ヨリ

ヲ破リ、北海道其他二移住スル者近年二至リ漸ク  致居候。此金融ハ土地ノ抵当ヨリ来リ従ッテ土地

増加スルニ至レリ」と。       ノ所有ハ益々一方二偏スル次第二有之候。右大地

主ノ指揮スル金融ハ通常ノ順序二於テハ支ヘウベ

秋田県南部の平鹿郡内でも有数な稲作地帯と考   キモ繁忙ノ節二至レノ\之ヲ銀行二仰ガサルヲ得

えられる醍醐村についてみても、事態は益々深刻   ズ。銀行ハ土地ノ抵当ヲー切謝絶スルヨリ近年公

であり、日露戦時の特別増税も加わって、小農の  債ノ買入ヲナシ之ヲ以テ銀行ヨリ金融ヲ計ルニ至

(7)

リ申候」とも回答しており、拝司氏は、ここに「二   ゆきたい。

重の金融構造」の存在を指摘されているのである。

さきの中央の大銀行経営における近代化の進展は、  (注)

日清戦後経営の展開のなかでの公債発行とも絡ん   (1)拙稿「蚕糸業の展開と地主制」(『秋田近代史研究』

で個人(大地主)金融の資金補充を展開させる。   35,所収),1993,55ページ以下。

平鹿銀行を始めとする県下の地方(私立)銀行が、  (2)前掲,拙稿,48〜49ページ,表1参照。有元正雄他 これら大銀行地方支店に如何にして組込まれて行    「郡市別小作地率の史的分析」(『広島大学文学部紀 くか、貸付利率の検討・対比も含めて、今後の究    要』第44巻特輯号2)より作成。

明が要請されよデ13)。       (3)拝司静夫「土地抵当貸付と銀行」(『資本主義の成立 と発展』所収),有斐閣,昭和34年。

(5)小括一残された課題      (4)前掲,拝司論文,96ページ。

いままで、県下市郡別の土地抵当貸付ならびに   (5)秋田県庁文書「自明治二十一年至明治二十九年第 主要私立銀行貸付の検討を重ねてきたが、「日本    五課農商課事務簿 商工ノ部」。なお、後述の「官 勧業銀行」設立に向けての景況調査とはいえ、平    房秘二四六,二四七号」文書参照。

鹿郡及び平鹿銀行の検討結果は、優れて土地集中、  (6)前掲,秋田県庁文書。

換言すれば地主・小作関係の進展ないしは深化が   (7)前掲,拝司論文102及び109ページ参照。

みられたと考えてよいであろう。日本勧業銀行・  (8)さしあたり、『秋田県史』第五巻,明治編,昭和39 各府県農工銀行の創設とともに、県内の私立銀行   年,428ページ以下の第1図及び第11表参照。なお、

は地域の要求に応えつつ、日清戦後の普通銀行転    守田志郎『地主経済と地方資本』(御茶の水書房,1963 換(あるいは新立・合併)への歩みを速めてゆく   年),第四章「米商人と地主」もあわせ参照。

のであるが、平鹿銀行を一つの軸とした「土地抵   ⑨斎藤万吉『日本農業の経済的変遷』(『明治大正農政 当貸付」は、秋田県下の地主制の展開にも大きな   経済名著集9』,農山漁村文化協会,昭和51年)「解 役割を果していたのである。      題」参照。

以上のような一断面の分析結果が正しいとすれ  (lo)秋田県庁文書「明治四十二年醍醐村・西館村・

ば、斯かる視点をも含めて県下普通銀行(地方銀    川添村農事調査農業状態」。

行)のその後の展開の実証分析を今後一層進めて  (11)前掲,「第五課農商課事務簿商工ノ部」。

第1表 秋田県における土地抵当貸付金の景況(M28.7)

    項目

s郡名 営業者数 資本金額 1口平均

ン付金額 リ入金利率 土地抵当

同期   限 抵当地々価

対スル貸付金額 南 秋 田 154人 159,911円  lIl X2,014 (1ケ月)9朱〜2分 12 ケ 月 地価金額

北 秋 田 380 190,620 40.一 1分〜3分 同   上 同  上

山   本 178 146,146 73,509 1〜2.5分 10〜12ケ月 同  上

鹿   角 32 90,000 182,528 1.5分 12 ケ 月 8  割

河   辺 14 48,300 165,856 7朱〜2分 同   上 1倍半

由   利 (1)165 182,438 39.一 6朱〜1.6分 6〜12ケ月 全  額 仙   北 (1)556 171,718 125,712 5朱〜2分 12 ケ 月 同  上 平   鹿 (2)330 277,166

(397「j)二285

6朱〜1分 同   上 2倍マデ 雄   膀 308 185,800 87.70 1〜2分 年   末 全  額

秋   田 57 200,000 30.一 1分 12 ケ 月 同  上 合計又は平均 2,174人 1,652,593 151,832

備考)秋田県庁文書「自明治21年至明治29年 第五課農商課事務簿 商工ノ部」より作成。()は会社数。

(8)

(吻前掲,拝司論文,102ページ。      なお、本稿は平成五年度専修大学研究助成(個

⑬同上,109〜110ページ。      別研究)「戦前期水稲単作地帯における地域構造の

(付記進藤教授の今後のこ加餐を祈りつつ、この   特質」による研究成果の一部である。)

小論を捧げたい。

第2表 秋田県における私立銀行貸金の景況(M.27.12.31)

      銀行名

?@ 目 平鹿銀行 横手銀行 五業会社

酎 支店 大曲銀行 大久保銀行 本荘銀行

A.貸付金々額(口数): 47,175円(188口) 16,025円(170) 8,541円(18口) 61,044円(134口)  円 Q2,492,076(730) 5,459円(8口)

内 期限過    (313) S1.934.929(266) 16,205円(17)

『 一 20,02&935(59)

滞貸金 5,140.259(47)

一 } 一 2,46a141(14)

B.期限: 1ケ月未満 1,143,40(28) 7,375円(9) 7,391円(16) 10,090円(28) 577円(5)

6ケ月〃 1,008.079(13) 8,650(8) 1,150(2) 36,504(81) 19,421.076(59) 5,459円(8>

1ケ月〃 45,023,709(272) 14,450(25) 2,494 (9)

C.利息:

千円未満 1割5分 1割2分?

千円以上

( 百円二付 1日4銭

1割2分

長  期 (月)1歩 長短ニカカワ 長短ニカカ

短  期 (月)1歩2厘 ラ礼日歩4銭 ワラズ日歩3銭8厘

D.抵当種類:

生  糸 7,391円(16)

米穀類 286円(3) 5,250剛4) 27,630円(61) 2,472円(9)

土  地 32,374.369(48) 7,394(12) 2,474(8)

雑  品 1,86凱479(38) 8,850(8> 150円(1) 1,945(12) 肥種500(1)

株  券 175(1> 27,630(38) 14,132.076(51) 2,100円(2>

公債証書 1,000円(1) 625(5) 3,359(6>

信  用 12,64駄34(224) 1,750(4) 3,200(6) 2,914(4)

E.借主職業:

商 3,25乱479円(530〉 15,525円(14口) 8,541円(18口) 30,109円(93口) 21,693.076円(69) 4,959円(7)

農 43,427.661(231> 29,885(34) 799円(4)

雑 353.496(21) 1,850(6) 500(1)

町役場 500(3) 200(1)

F.書替度数:(ナシ) 19,973,306(283) 22,492.076円(73)

(1回) 26,778,36(17>

2回379.75(6)

3[口143,772(7)

G.当座貸越:地 所 8,199(7) 21,210.5(17) 530円(1)

信 用 7,050.一(5)

職 業

(商) 8,199(7) 9,61q5(8> 1,450円(1)

(農) 18,650,一(14)

(雑) 530円(1)

参照

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