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企業合併・買収の論理とその実務における展開

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(1)

企業合併・買収の論理とその実務における展開

成践大学教授

村  松  司  叙

1 企業合併・買収の本質       1 企業合併・買収の本質 1.倒産の代替コースとしての合併

2.企業資産の支配としての合併       1.倒産の代替コースとしての合併

3.テークオーバーと株主タダ乗り論     デューイ(D.Dewey)は,合併を倒産に代わる 4.合併シナージー論の変貌        ものとして評価する立場をとった。すなわち,彼 H 企業合併・買収戦略樹立のためのフレーム  の表現によると,「ほとんどの合併は市場支配力の

ワーク      造出とか,規模の経済性メリットの実現とかいう 1.企業買収機会の探索と認識       ものとは実際にあまり関係がない。合併は,倒産 2.不確実性と株価       あるいは衰退企業から成長企業へ資産を移転する

3.合併交渉の進展と交渉余地       自発的清算にとって代わる近代的方法にしか過ぎ      ω4.交渉ベースとしての「会社資産の直接取  ない。」となる。デューイの合併の倒産代替論は,

得」説      さらに積極的に合併の競争排除・独占強化論の立 5.合併交渉における駆け引きの要素    場をとる論者を批判して,つぎのように述べてい 6.資本市場と合併情報      る。「市場が完全で,合併が独占力を持たない場合 皿 買収論理の実務における展開       には,成長企業としては内部研究開発からの内部

1.企業合併・買収技法の発展        的成長方式であっても,合併のような外部的成長 2.株式取得(テンダー・オファ)による買収  方式であっても,成長方式であればどちらでもよ 3.競合ビッドの事例研究         い。そこで急速に成長しつつある産業で,そこに 4.委任状奪取(プロクシー・コンテスト)   属する企業のライフ・サイクルが比較的短いとこ 5.買収に対する経営者のカウンター・アタ  ろでは,積極的に外部的成長方式をとって伸び成 ック      功している企業が多い。したがって,合併はほと

(1)ゴールデン・パラシュート      んどの場合,市場競争の低下につながるものでな

(2)訴訟戦術      く,経済活力を示すものである。」

(3)定款の変更      デューイのいうように,成長産業がライフ・サ

(4)特殊な証券の発行         イクルの短い企業から構成されているとばかりは

(5)白い騎士       限らないから,彼の議論は一面の当を得ているに

(6)買戻し      過ぎず,破産や清算が迫っているような場合にお

  (7)パック・マン      ける合併の効用をいっているだけ,という批判も       {21

PV 結びに代えて      なされている。この批判に沿って,一歩突っ込ん で考えてみると,破産が迫った段階で合併がこれ に代わるものとして奨められるものであれば,実

(2)

際に多くの産業で,依然として破産や清算が数多  ある。この種の報酬以外にも,経営者の地位を利 くみられるのはどう説明されるであろうか,とい  用してインサイダー・トレーデングを行なうため う疑問がでてくる。破産によって経済的に失われ  の情報が得られるとかのプラスが考えられるが,

るものは大きく,これが合併によって早期に救済  これだけが部外者にテークオーバーを企図させる されるならば理想的であるといえる。      誘因になっているとは考えにくい。むしろつぎに

挙げる第2点が,第一・義的なテークオーバーの動 2.企業資産の支配としての合併        機になっているのではないか,というのがマンの

デューイの,合併を倒産のより効率的な代替コ  見解である。それは,株価がたんに経営効率を測 一スとしてとらえる考えに対して,マン(H.G.   る尺度として機能するばかりでなく,株式に内蔵 Manne)は企業支配権を価値のある資産とみ,こ  されるキャピタル・ゲイン獲得のチャンスを測る

の資産をめぐって活発な市場が存在し,この市場  ものであるからである。そのため,株価が,もっ       〔3}

ノおける活動の1つの結果が合併であるとする。  と質のよい経営者によって管理された場合の当該 彼によれば,企業支配権という資産は,規模の経  企業の株価に比べて,相対的に低ければ低いほど,

済性とか独占的利潤とかとは関係がなく,特別な  テークオーバーへの誘因が強まるのである。もち 市場を構成している。そして,企業支配権という  ろんその場合,テークオーバーへの誘因を誘因と 資産がそのようなかたちで存在することの背景に  して感じるのは,もっと質の高い経営管理によっ は,大規模企業における資本と支配の分離という  て当該企業をもっと効率よく運営できると信ずる 現象が指摘できることはいうまでもない。しかし  人々である。テークオーバーへの誘因が強くても,

以下でわれわれが吟味していくように,企業支配  当該企業の株式取得のための資金準備ができなけ 権をめぐる市場の存在は,小口株主にも彼らの持  ればテークオーバーは実現しない。われわれはテ 分に相応しい権力と保護とを与えている事実は見  一クオーバーのための資金調達方法の問題を,後 逃されるべきではない。バーリーミーンズ(A.A. 章で詳しく考察することになるので,ここでは省 Berle&G.C.Means)の命題は,資本と支配の分  略しよう。

離傾向を述べているのであり,小口株主と経営者   いずれにせよ,テークオーバーの意義を,質の との間の支配関係を識別することが不可能である  悪い経営管理者の企業運営を断つ効果的なツール 限り,この点についての注意深い見極めが必要で  というところに認めるマンの所論は,マリス(R.

ある。       Marris)のそれを受継いだものとみることができ      {4}

@企業支配権の市場についての議論には,企業の  る。テークオーバーは,当該企業の内部および外 経営効率と株価との問に高い正の相関があるとい  部の経営管理専門家に経営管理効率の優劣を競う

う認識が前提になっている。すなわち,現経営者  市場を提供するばかりでなく,多数の小口株主を

の経営管理の効率が同業他社のそれに劣る場合に, 保護するための強力かつ有効な手段を提供してい       15)

秤ソが市場一般の株価よりも下回るという現象が  る,とマンは強調するのである。この保護手段は,

みられる,とする認識である。この現象は,企業  SEC(連邦証券取引委員会)の保護努力や,小口株 支配権の市場という観点から2つの意義をもつと  主ら自身の訴訟活動などよりも強力であることは 考えられる。      ひろく認められている。しかしながら,テークオ

その第1は,相対的に低い株価が,高給をはむ  一バーを成立たせるためには,現経営者陣に不満 経営者の地位を引継こうとする者の拠り所になっ  な株主による株式売却が不可欠である。この場合,

ている点である。ここで経営者の報酬の中味を考  売却株主は現在の株価をかなり上回る価格で売却 えてみると,俸給,ボーナス,企業年金,社費で  できるのがふつうであるが,それにしても新経営 決済される交際費,ストック・オプションなどで  者陣による効率改善→株価上昇→キャピタル・ゲ

(3)

インは享受することができない。もちろんその場  えられるテークオーバーも,実際には採算割れで 合,テークオーバーが行なわれず,不満を持ちな  成立しなくなる。これは被買収企業のおおかたの がらも株主であり続けたり,市場で低い株価でし  株主にマイナスを与えることになるから,株主と か売れず,満足なキャピタル・ゲインも得られな  しては何とかこのタダ乗り組を排除する方策を講 いよりはまし,とも考えられる。しかしここで問  じなければならない。

題になるのは,買収企業のテンダー・オファに応   そのような方策の1つには,被買収企業の定款 ぜずに株式を売らなかった株主である。      に,株式を売却しない少数株主に対しては,買収

企業が買収を完了したあと経営改善から得られた 3.テークオーバーと株主タダ乗り論      利益の分配にあずかれないよう締め出すことがで

テークオーバーは低効率経営から株主を解放し  きる旨明文化する方法がある。さらに徹底した方 て,良質な経営者陣を注入する方策であり,株主  策としては,被買収企業の多数株主が,買収に成 の利益につながる,というマリス,マンらの主張  功した企業に,買収した会社資産をさらに買収企 に対して,グロスマンーハーツ(S.J.Grossman&  業の子会社に完全売却することを認めるようにす

0.D.Hart)は,必ずしも単純にそうは言えない3  る方法である。その場合の売却条件には,株を売      16}と反論している。グロスマンらの議論は,買収企  らなかった少数株主に不利になるような条項が含

業のテンダー・オファに応ぜず株式を売らない株  められるわけである。

主は,テークオーバーによって改善された新経営   しかし実際問題としては,タダ乗りを目論む株 体制の企業から大きな利益を得る,いわばタダ乗  主の排除は厄介な問題であり,必ずしもスムーズ り(free ride)をするかたちとなり,テンダー・オ  にはいかない。後出の皿1の1でも説明されるよう フアに快く応じて,株式を売却してしまった株主  に,株の売却に応じない株主に対しては,被買収 との間に利害の不一致が生ずる,というものであ  企業を最後に吸収合併し,残存株主に存続企業の る。このタダ乗りは買収企業の利益を小さくする  株式を渡す代りに現金を渡すというケースが実務 ものであるから,潜在的買収企業側としては,そ  上は多い。問題はその場合に渡す現金の額である れだけテークオーバーを行って非効率経営企業を  が,どうしても早くケリをつけようとする会社側 効率化しようとする動機が弱められるわけである。 が,最初にテンダー・オファに応じて株を売却し こうしたグロスマンらの所説をさらに詳しく吟味  た株主の得たプレミァムを超える金額を交付する してみよう。彼らは,買収企業が取得した株式の  結果となることは避けられない。ここでもタダ乗 値上りによって得られる利益は,本来,被買収企  り株主を払拭できないわけである。

業の株主が,提示されたテンダー・オファに乗っ

て自分たちの株式を売らなかった場合に獲得でき  4.合併シナージー論の変貌

たはずの利益に他ならない,と説明する。そこで   これまでの企業合併の意義を説明する議論とし 株式が分散している大規模企業の場合には,なに  ては,投資ないし生産スケールの拡大による不連 も自分が株式を売却しなくても,テンダー・オフ  続な資本コストの低減効果,したがってそれによ アは成功し,新しいベターな経営者陣に替り,業  りもたらされる不連続な投資収益率の増加という 績が向上し,株価が上昇し,自分もその一部を享  組立ての合併シナージー説が主流であった。これ

受できると予想して,いまは持株を売らないでお  はさらに,ウェストン(J.E Weston)によればっ      (7}こうと決意する。このようにタダ乗り希望者は,  ぎのように説明される。「合併後の企業は,最初に

買収企業が本来得ると期待される利益の一部を奪  資本コストを低くすることにより,つぎに組織的 うわけであるから,コストーベネフィットの関係  資源(organization capital)をさらに開発すること で,このタダ乗りがなかったならば成立したと考  1により,投資機会の内部化が容易にできるように

(4)

なる。したがってコングロマリット的合併は,被  もいろいろな角度から行なわれてきたが,その主 合併企業の当該企業固有の要素と,合併企業の全  流ともいえる考え方は,事業シナージーと財務シ 般的組織資源の保全と効率的活用を意味する」と  ナージーであった,といって差支えないであろう。

される。しかしこのような伝統的合併シナージー  前章で述べたような実証上の困難という点はある 論の最大の泣き所は,合併後企業の投資収益率の  としても,ミクロ・レベルでの理論では,このよ 向上を実証的に確認できないところにある。    うなシナージーの存在を是認する限り,株主の富 最近の現代合併シナージー論は,客観的データ  の増大目的と合併活動を結び付けることが可能と の得られ易い財務指標の変動を,合併買収活動の  なる。すなわち,合併は基本的に企業の投資活動 スケール,買収企業と被買収企業の別,買収技法  であるからである。一般の投資活動と合併活動の および買収拒否手段の採否などの変数と関連付け, 違いは,合併達成には相手企業との交渉が肝要で CAR法(cumulative average residual method)に  あり,自社のトップだけでは諸条件の決定ができ

よる実証分析に支えられて,とみに注目を集める  ないことである。

ようになってきた。この手法をとるすべての研究   われわれは以下の分析で,分析上,合併活動特 者がほとんど等しく述べている結果は,合併ある  有の諸局面を明らかにし,可能性としての合併・

いはテンダー・オファの情報は,被合併企業の株  買収活動の経済的メリットをどう評価し,合併企 主の富を増大(株価上昇によるキャピタル・ゲイ  業の求める情報をより広範に,より正確にするた ン)せしめるというものである。また合併あるい  め,どのようなツールを用意できるか,考えてみ はテンダー・オファを公告する合併企業側のCA  たい。以下の議論では,株式が上場されているい Rもプラスとなるが,それは被合併企業の株主の  わゆるパブリック・カンパニーを想定している。

それに比べるとかなり小さいというのが一般的な   上述の諸点を吟味するため,つぎの1ような仮設    (81       【9)

告である。さらに興味ある発見は,競合ビッド 例を考えてみよう。1980年の初めに,化学会社で のように複数の買収企業にせり合いをさせたほう  あるA社のトップは,業績が伸びてきたのに伴い があるいは一度はテンダー・オファを拒否し,  生産設備の拡充をしたいと望んでいた。1970年以 二度目の買収企業に株を売ったほうが被買収企業  来全般にわたって増収増益を続けてきて,トップ の株主へのリターンが大きい,などの結果が出て  の経営陣の経営能力も評価されているため,株式 いることである。       市場での評価もよく,株価はコンスタントに上昇

マリス以来テークオーバー擁護論は続いていた  してきた。1980年4月の株価は50ドル前後のとこ わけであるが,不良経営企業はテークオーバーさ  ろであった。そして発行済株式数は1,000万株で れ,ベターな質の経営管理が注入されることによ  あった。

り業績を上げ,株主の富増大につながるという経   工場新設か買収かの両案が検討されていたが,

営資源活用説にもとずいた買収容認の論理は,C  たまたまB社の存在が関係者の情報網に入ってき AR法など新しい実証ツールを具備して,現代合  た。B社はA社よりかなり小さいメーカーである 併シナージー論へと変貌しているとみることが許  が,その生産設備はA社のそれとよく似ており,

されよう。       程度も悪くなかった。従業員の労働の質もけっし てA社のそれに劣らなかった。慎重な審議の末,

       A社トップはテークオーバーに入ることに決定し

閨@企業合併・買収戦略樹立のための       た。ちなみにB社株は40ドル前後で,発行済株式  フレームワーク       数は100万株であった。B社のバランス・シート

1.企業買収機会の探索と認識         は表1のようである。

企業合併の動機を探る議論は,古くから,しか

(5)

表1 B社バランスシート(1980年3月末日)    (a)株式市場の変化から判断して,投資家たち

(単位100万ドル)

は合併案を好感をもって受け入れたのであろ

現      金

4 短期負債 14

その他流動資産 16

社   債

8 うか。

固定資産(ネット) 55

普 通 株

10 (b)もしそうだとすると,合併後企業の価値が

土      地

5 留保利益 48 どの位であると予想したのであろうか。

80 80

(c)A社が提示した合併比率は賢明なものであ A社トップは,B社を買収した段階での収益状 ったろうか。

況を予測するに当って,キャッシュ・フロー割引   われわれは以上の3点を頭に置いた上で,もう 法を用いた。この計算により,A社がB社の生産  少し突込んでこのケースを検討することにしよう。

設備を用いて,A社の現在の製品を作った場合に  両社の株価は,4月21日の発表に反応してかなり は,B社の現在の総市場価値を上回る現在価値が  上昇したところをみると,この合併は投資家によ

もたらされることが分った。そこでA社は,A・  って好感をもって迎えられたと判断してよいであ B両社が上場しているニューヨーク株式市場で,  ろう。一般的な立言としてはそれだけでよいので

4月21日に,B社株主にテンダー・オファを申し  あるが,この合併がどれだけの価値を生みだすも 出る旨発表した。条件はB社株1株に対してA社  のと資本市場が判断したか,を訊ねることがつぎ 株工2株を提供するというものであった。このニュ  の課題とならなければならない。この数値を算定 一スは,それまで厳重な秘密保持がはかられてい  することは比較的易しい。A社は合併後継続会社 たので,一般投資家およびB社トップを驚かせた。 であり,合併発表前の株価55ドルは,投資家が合 表2に掲げられている市場の反応は,このテン  併後の新会社の普通株の価値がつぎの式のように ダー・オファー以外にさして大きな問題は両社に  なるであろうと想像してつけた株価であることを なかったので,もっぱらこの発表のリアクション  示している。

と考えられよう。表2には,両社のオファー発表   Vノ=(P/A)(N A)=(P/A)(NA十△NA)……(1)

前と発表直後の株価と一般の株価指数,化学業界  (1)式でP気はA社の合併前株価,N伝はA社の合併後 の株価指数などが盛られている。市場一般として  発行済株式総数の推定値である。(1)式に示されて は4月後半は比較的平穏であったから,両社の株  いるように,これは現在の株式数(NA)とこれに付 価に現れた変動は合併ニュー・スの影響と考えられ  加される株式数(△NA)との和である。△NAは,合

る。A社株は50ドルの水準から55ドルへ, B社株  併比率1.2対1が採られた場合に合併時発行される は40ドルの水準から62ドルへとそれぞれアップし  株式である。ここでNF1,000万,△NF120万で たわけである。      あるから,V』55ドル×1,120万一61,600万ドルと

なる。A社とB社の合併前株価は50ドル(PA)と 表2 株価データ

一 般 化学産 40ドル(PB),発行済株式数は1,000万株と100万株

時   期

A 社 B 社 株式市 業株価 (NB)であったから,両社の株式の価値を単純に

場指数 指 数 合算すると,つぎのようである。

第1四半期 48ドル 3&ドル 115.2 75.0 V濡VA十VF(PA)(NA)十(PB)(NB)

下の期に終る週

@4月7日 50 39 114.8 74.7 =54,000万ドル………(2)

14日 51 39 115.1 75.1 この数値をもとにして,市場の投資家は合併より

21日 Q8日

50 T5

40 U2

114.6 P14.7

74.8

V4.9 生じるシナージーからの株主の利得を,VLVす なわち7,600万ドルと評量したわけである。

ここでつぎの問題は,以下のように整理されよ

う。      2 不確実性と株価

(6)

合併による株主への利得を推定するもうひとつ  で取引されるかである。後者の値はすでに分って の方法は,2つのそれぞれ独立した会社(A社と  お・り,4月21日の合併申込直前の株価はA社が50 B社)の合併発表後の市場の評価を検討すること  ドル,B社が40ドルである。

である。2社の株式の新しい価値の合計は,61,2  合併取引には不確実性が伴うわけであるが,そ 00万ドル(V気=55,000万ドルとV{B=6,200万ドル) のなかで,投資家は腰だめ的な値にしても,とも であった。これは,会社の株式市価が61,600万ド  かくA社とB社の株にせり値を付けなければなら ルになるような合併後企業の株主の持分全部を買  ない。そのための手掛りとして,合併申込直後の 占めるために必要な金額を示すものである。V4一  株価を,起りうる2つの結果をも踏まえた株式の V=61,200万ドルー54,000万ドル=7,200万ドル  均衡期待値として考えることができよう。いまπ と,さきのV一V=7,600万ドルとの差はこの合併  を,合併が成功する確率についての市場の見積り ケースにおけるシナージーの認識の違いを示すも  とし,P失とP査を合併成功が確認された直後の株 のなのであろうか。実は両方の値とも正確な答で  価としよう。ここで仮に申込直後観察された株価 はない,と言える。まず第1に,合併が実際に成  P A,P急がそれぞれ55ドル,62ドルであるとし,

立するかどうか分らないわけで,この点に関して  これらはつぎのように投資家が成功,不成功の場 若干の不確実性が存在する。これは合併発表後の  合の株価を勘案しながら決めたとしよう。

A社の株価とB社の株価との問にみられる関係か    P気=(H)(P天)十(1一π)(PA)……・…・…〈3)

らも分る。すなわち,4月28日で終る週において    P/B・=( )(P査)十(1一π)(PB)…………・・く4)

は,両社の株価の間の比率は,合併比率の1.2対  方程式が2つなのに未知数(pK, P査,π)が3つ 1でなく,ほぼ1.13対1(62ドル/55ドル)であ  あるので答を出すわけにはいかない。そこで第3 った。当然のこととして,62ドルも55ドルもさき  の式は,

に述べた点についての不確実性を割引いて成立し      P査=(X)(P沁………・………一(5>

た値であって,合併後企業の真の価値を市場がど  となろう。(5)式でXは合併比率であり,いま合併 う認識しているか,ということへの正しい手引き  比率は1.2対1とされている。以上の3つの式から となっているかどうか疑しい。したがって,61,6 解くと,P斑=56.25ドル, P査=67β0ドルπ=0.80 00万ドルも61,200万ドルも総価値を表わす数値と  と出る。この合併取引に不確実性が存在しないと 言い難い。      仮定すると,合併申込後,2社の株価はこのよう われわれがここで逢着する問題は,第1には,  に上昇することになる。そしてこれから合併後企 合併成立の確率を市場の投資家がどう評量してい  業の自己資本の価値を市場がどう評価するか,が

るかはわれわれに分らないという点,第2には,  計算できる。いま合併後企業の株式の価値をV×と 企業評価額の見積りをするためには媒介変数(パ  すると,

ラメーター)が必要になるという点である。しか    V進(P沁(NA十△NA),または しこうしたジレンマを脱する方法が全くないわけ    V進(P沁(NA)十(P査)(NB)

ではない。合併が,提案された場合,予想される  となり,その値は63,000万ドルと計算される。し 結果は2つである。すなわち成功するか失敗する  たがって,合併シナージーによる利得は7,600万 かである。もし合併申込みのときに結果が分って  ドルや7,200万ドルでなく9,000万ドルとなるわけ いれば,合併当事者企業の双方の株式は成功か失  である。この食違いについては十分注意する必要 敗かどちらかを表す株価で取引されているはずで  があろう。

ある。つまり合併後企業の総価値に対するそれそ   これらの食違いが大きければ大きいほど,合併 れの請求権を表す値で取引されるか,あるいは2  取引が成立する可能性は小さくなるのである。つ つの別々のままの企業に対する各社の請求権の値  まり,πが小さくなればなるほど,縣や賄が正

(7)

しい値であるP栄やP査からどんどん離れてしまう  ル,全部で4,000万ドルということであるが,そう からである。しかし,いまわれわれが扱っている  なるためには,のこりの5億9,000万ドルが合併後 例では,この開きはごく小さなものである,とい  全部A社の旧株主に帰属することを意味する。A

うのは,投資家は合併成功の確率は高いとみてい  社旧株主の手には1,000万株あるから,合併後企業      一

たからである。      の計算上の株価は59ドルとなる。したがって合併 比率は40ドル/59ドルで0.68対1となる。これを 3 合併交渉の進展と交渉余地         一般式のかたちで表すと,

さきに合併後企業の株式価値の見積を6億3,000   P査一PB=(Xmi・)(P沁=(△N天in/NB)(P勾(8)

万ドルとしたわけであるが,これを基礎にして,両    P査=vl7(N A十△N天in) ・・…・………(9)

社の経営陣にとって合併交渉の余地がどの位ある  となり,合併が生じた利得は全部合併企業のほう か,合併企業の経営者の申入れがどの位賢明なも  についたことになる。したがって,両社の株主に のであったか,などを検討してみよう。検討に当  合併のメリットが共有されるような範囲は,合併 っての拠り所としては,これまで通り株主の富基  比率が0.68対1から2.6対1の間である。これま 準を用いることにする。合併比率形成のための許  で分析してきたことに関連してひとつ注意されな 容範囲の上限は,合併企業の株主にとっては,合  ければならないことは,被合併会社の株主が上述 併がなかった場合の株主の富(1株50ドル)と同  の下限の値に,あるいは合併会社の株主が上限の

じものをもたらすような合併比率であり,したが  値に,現実に興味をもつかどうかはまた別の問題 って被合併企業の株主にすべての評価利益が移る  であるという点である。いまこ・では,そういう ような比率である。他方,許容範囲の下限は,被  可能性が存在することを指摘しているだけである。

合併企業の株主の富がちょうど変らずに保持され   もしB社の経営陣あるいは株主がA社の最初の る(1株40ドル)ような合併比率である。上限と  合併申込を断った場合には,A社の経営陣として 下限をさらに詳しく吟味してみよう。      は,自社の株主の利益を害しない範囲でどれだけ まず上限からみよう。合併後企業の総価値が6億  いい値を上げたらよいか考える上で,価格を動か 3,000万ドルであるから,50ドルの株価をそのまま  し得る範囲をはっきり定めてからことに当らなけ 維持するためには,6億3,000万ドル÷50ドルで,合  ればならない。A社の経営者が合併申込を行なう 併後の発行済株式数は1,260万株にならなければ  際に,どのような値をつけるのが賢明なのか,は ならない。A社の現在の株数が1,000万株である  大きな問題である。表面的には,申込がなされた から,あと260万株が追加されなければならない。 時にA社の株価が上ったわけであるから,経営者 B社の現在の株数が100万株であるから,合併比  の決定は正当化される。その上,最初に提案され 率は2.6対1である。一旦vが決まると,式はつぎ  た合併比率は,許容範囲のなかで最小値にかなり のようになる。      近い値であっ,た。一方,B社のほうの株価は合併

     米

o蚕=PA=V/(NA十△NAmax)………(6)  申込のニュースが流れた後55%値上りし,さらに Xm=△N騨/NB…………・…・・…………(7)  交渉完結時に約14%値上りした。それに対してA 求める合併比率をX,A社が発行する新株を△NAと 社株主にとっての株価上昇は全部合せて12.5%に してmaxという添字をつけたものは,上式のよう  しか過ぎなかった。この面でみる限り,合併申込 に定義される。この取引の結果,B社の旧株の所  をした側にとって,合併はあまり意味がないよう 有者は,2.6×50ドル,すなわち130ドルを受取る  に映る。

ことになる。       それに対する有力な反論は,合併のシナージー っぎに下限のほうに移ろう。B社の株主の富が  という成果をある割合で配分できるから,という 合併後も変らない,ということは,1株当り40ド  ものである。われわれの例では,合併により9,0

(8)

00万ドルの増分企業価値があった(5億9,000万  た市価で吟味し直されなければならないわけであ ドルー5億ドル)。そしてこのうち2,750万ドルは  るが,例えば,B社の社債が金利の低い時に発行 B社の株主に帰属すべきものであり(6,750万ド  されたもので,現在の金利水準を考慮するとA社 ルー4,000万ドル),残りの6,250万ドルがA社の  にとってきわめて有利なものとする。したがって,

旧株主に帰属することになる。したがって,約30 現行金利で換算するとB社の社債の現在価値は6

%の評価益が被合併会社の株主の手中に入るわけ  00万ドルにしかならない。以上を総合すると,B である。しかし彼等の株式の持分は,両社の合併  社との合併でもたらされる純有形資産価値は市価 前株式の市価を合算したものの約7%にしかなっ  で9,200万ドルと計算される。しかし合併によっ ていない(40ドル/540ドル)。このことからみて  てもたらされたものには,これ以外にかなりの価 も,B社の株主自身が善戦したためこの成果がも  値の無形のメリットがある。工場・設備を新たに たらされたものと思われる。もちろんその他にも, 建設する場合の時間的遅れ,人材を集め訓練する 合併交渉の際A社側が交渉の成功を願ってB社に  ためのコストなどとらえにくいものがさまざまで 好条件を提示することは十分に考えられるから,  ある。これらのメリットはB社との合併によって 合併によるプラス分の分配は,厳密に両社の合併  もたらされる価値を増大させるものであるから,

前の持分割合どうりに行なわれるとは限らないの  できるだけ細い項目についてそれらの価値を推定 である。      するこどが重要である。そのためのひとつの指標

としては,つぎの2つの予想値の差の現在価値を 4 交渉ベースとしての「会社資産の直接取得」説 求めることが考えられる。すなわち1つは,B社

A社がB社に合併申込をした主な狙いは,B社  の工場・設備を取得し,整備したあと数年問のA の工場設備を入手し,若干手直しして使うことに  社の製品販売から生ずると予想される税引後純キ あったわけであるから,A社にとって目的遂行の  ヤッシュ・フローであり,もう1つは,従業員の もうひとつの方法は,B社の実物資産の直i接取得  教育訓練費なども含んだ工場始動期の予想税引後 である。この方法を採る場合には,同様の資産の  純キャッシュ・アウトフローである。なお現在価 再生産コストが交渉条件決定の論理的基準となる。 値を計算する際に用いられる割引率としては,A

いまいくつかの数値を仮定してこの問題を考えて  社の資本コストが適当と考えられる。いま仮に,

みよう。      B社をそっくり再生産するコストが1億ドルとす 直接取得の申込の時点で,B社資産の工場・設  ると,さきに述べたように有形資産価値が9,200 備とほぼ同じものを建設するとなると8,500万ド  万ドルであるから,差引き800万ドルが無形の利

ルかかるとしよう。もちろんB社へ合併申込をす  得となる。

る場合には,直接取得と違って,工場・設備資産   これらの数字を,B社!こ対して行なう合併申込 以外の諸資産や負債などが交渉内容に含まれてき  の上限となる最高合併比率に換算し直すことは,

て,これらの評価が問題となる。いまB社の純運  さして難しい問題ではない。両社の合併に対する 転資産が600万ド川とするとこれも入ってくる。  資本市場の反応は,合併後会社の自己資本が6億

しかし,この額は簿価でなくて市価で評価された  3,000万ドルになるような収益力をこの両社は潜 ものでなければならない。そこで市価で評価し直  在的に持っている,というものである。したがっ すと800万ドルになろう。さらに,工場・設備以  て,もしA社が自社内の直接投資によって,B社 外の固定資産を売却すると,税引後で500万ドル  と合併した場合に得られるものを作り出そうとす 手もとに入る。こんどは負債を検討すると,B社  ると,最終的にでき上る企業の価値はこれまた6 の帳簿上の長期負債は800万ドルになっており,  億3,000万ドルでなければならない。もしA社が 合併の場合は当然A社に引継がれる。この額もま  4月21日に,B社を合併する意志はなく,その代

(9)

り株式を1億ドル分発行し,その資金で直接投資  らない。

すると発表すれば,普通株の株価は,この投資に   以上のように考えてくると,合併申込のなかで よってもたらされる企業価値の増加を反映して直  示唆されている成果の分配は,さらにアンバラン ちに値上りしよう。この反応は合併発表に対する  スなものになるようである。2,750万ドルの利得が 株価の反応と同じである。       B社株主のところにいき,6,250万ドルがA社株主

以上のように資本市場の反応を推定したり,そ  の富の増分となるとさきに指摘された。しかし実 れをもとに合併を申込む際の合併比率の上限を設  は6,250万ドルのうち3,750万ドルだけが,B社資 定したりする評価プロセスは,われわれがさきに  産をバーゲンで購入したためのプラスとして説明 検討した議論{式(6×7×8×9)}と対応するものであ  がつくのである(1億500万ドルの再生産一6,7 って,とくに新しいものではない。前にみたよう  50万ドル相当の株式)。したがってB社の株主は42 にA社の株価は,A社の株式の予想総市価V×を発  %の評価益(27.5ドル/65ドル)を得て合併取引 行済普通株の数NA十△NAで割れば求められる。  を終えたことになる。

株式発行によって1億ドルを調達するためには,   ここでこれまでの議論が依拠している効率的市 発行費用などを差引いた残りが1億ドルにならな  場の問題について一べつしておこう。効率的市場 ければならないから,新株の株数△N天を売る必要  の仮定下では,資本市場が合併申込に対して反応 がある。いま発行費用の負担をパーセントで表わ  するスピードも態様も,A社の設備拡張計画発表 したものをbとし,これを0,05と仮定すると,つ  に対する反応のそれも,全く差違がないことにな ぎの両式から△N渠が求められる。        る。A社とB社とが合体し,その結果資産価値が

P嚢=vlγ(NA十△N沁…………・…・………側  6億3,000万ドルになる限り,この合体がそのよ

(△N天)(P勅(1−b)=1億ドル…………(ll)  うな方法で行なわれようとも一切関係ないという すなわち,△N夫=(約)200万株,踏=5%0ドルと  ことである。他方,A社の内部拡大計画発表に対

なる。B社の発行済株式が100万株であるから,  する市場の反応が,どの位速やかであるかさだか

△N却NBであらわされる合併比率((7)式をみよ)  でない場合には, B社の再生産コストをもとに,

は2対1となり,これが合併交渉にお・ける上限値  合併比率提案の際の最高値にすることも可能であ となる。この点を超えると,A社株主にとっては, る。

会社が直接投資で工場・設備を拡張する,いわゆ   この点について確かめるため,つぎのような例 る内部成長戦略を採ったほうが,合併による拡大, をみよう。A社の株価が,同社の拡張計画が発表 すなわち外部成長戦略よりもとくになる。     されたあと暫くしないと反応しないという考えに

さて6億3,000万ドルに上る企業価値が割出さ  立つと,A社としては,1億ドルを調達するには,

れたわけであるが,この配分に関しては次のよう  50ドルという発表前の株価で新株を発行せざるを に考えられよう。このうち5億2,500万ドルはA  得なくなる。ここでも発行費用を5%とすると,

社株主に帰属し(1,000万株×52.50ドル),残りの  何株発行しなければならないかはっぎの式で計算 1億500万ドル(200万株×52.50ドル)は新株の購  できる。

入者に帰属するのである。すなわちA社株主の富    (△N勅(50ドル)(1−0£15)=1億ドル……(12 は2,500万ドルだけ増えたわけである。この増分  △N変は約210万株となり,これは合併比率提案の は,基礎になっている投資プロジェクトそのもの  際の最高値,すなわちB社株に対して2.1対1と がプラスの現在価値をもつためにもたらされたも  いうことを意味する。この2.1対1という比率は,

のである。そういう意味でこの増分はB社との合  合併するか,しないかだけの選択しかない場合に 併なしでも生じるわけであるから,合併申込の評  適用される2.6対1という合併比率よりはなお低 価に当っては別のものとして区別されなければな  い。したがってA社に内部拡大の可能性がある場

@      」

(10)

合は,そのコストが合併取引の上限値をも構成す   図1 合併シナージーが交渉範囲に

るのである。       与えるインパクト 5 合併交渉における駆け引きの要素         32

       2.8

√ケ会社の経営者がいよいよ合併交渉に入ろう   合 h限

併 2・4

とするとき,最初にぶつかる問題は,スタート時   比2.       率の交渉条件をどのように設定するか,ということ   一1・6       [〉

である。交渉が始ってしまってから,相手に対す   量L

髀 件を落として,しか給併を成功させること 量::1 一一…

は不可能である。そこで問題になるのは,合併交 0.0

渉を行なう際の許容範囲の下限に近いところに,     01530456075901  1   スタート点を見出すにはどうしたらよいか,とい     シナージー ゲイン(単位:100万ドル)

うことである。そのスタート点からどこまで譲歩  自己資本の合併前市価が,被合併会社のそれもり できるか,つまり交渉を決裂させるようなことな  も大きい限りいつでもみられる特徴である。両者 しにやり合える範囲はどれだけか,をも探らなけ  の開きが大きければ大きいほど,合併比率の上限 ればならない。スタート時の条件提示の一番望ま  値と下限値との間の開きが拡大していくテンポが しいかたちは,それによって資本市場の評価情報  速い。ちなみに図1の場合は,両者の開きが12対 が得られ,しかも同時に,交渉の第1ラウンドで  1であるから,このように急速に開いていく。こ 折衝を放棄せざるを得なくなるような事態発生を  の背後にある論理は明白である。適当な量のシナ 最小限に抑え得るようなものである。そのような  一ジー・ゲインの発生は,比較的小さな企業の株

ものが存在するかどうか,つぎに考察してみよう。 主にとっては,もしそれが全部彼らのものになる      {1α

@図1に示されるように,合併比率の最高値,最  のであれば,相対的に大きなゲインとなる。それ 低値に対応するさまざまなレベルの合併シナージ  に反して,より大きな企業の株式に対してもつ,

一・ Qインがどんな意味をもつか吟味しよう。こ  そのようなシナージー・ゲインのインパクトはさ れまでのところでみてきたように,われわれの例  ほど大きなものではない。

では,シナージー・ゲインが9,000万ドルで,こ   以上のような考察から導かれる1つの観察結果 の価値は合併当事者の両社の株主に,合併比率が  は,A・B両者の株式がもつ合併前株価の比は,

0.68対1から2.6対1の間である限りもたらされ  合併交渉の許容範囲の下限にずっと近いところに るものであった。しかしここでは,いま仮に4,5 見出される,というものである。したがって,こ 00万ドルだけのシナージー・ゲインがもたらされ  の比率を合併提案の最初のスタート点を決める場

るとしよう。すると(6)式から(9)式までの計算で合  合の参考とできよう。すなわち,合併企業が申込 併交渉の許容範囲は,0.73対1から1.7対1まで  の際とるべきステップとしては,つぎのような内

となる。つぎの仮定として,シナージー・ゲイン  容を盛ることが望ましい。まず第1に,両社の合 がゼロとしてみよう。この場合には最高,最低値  併前株価の比を取り上げ,これに20%ないし25%

が等しく0.8対1となる。これは40ドル/50ドル  のプレミアムを付けて合併申込のスタート点とす♂

という合併株価の比率である。         る。第2に,この申込内容を公表し,資本市場の 図1にみられるように,シナージー・ゲインの  反応が株価にどう出るかを見守る。第3に,図1 額がゼロから9,000万ドルまで増加するにしたが  のようなグラフを描くため,合併後企業の総価値

って,最上限線が上昇する度合は下限線の低下度  V×を資本市場がどう推定するかを計算し,これか 合よりもずっと大きい。この特徴は,合併会社の  ら合併交渉の許容範囲の上限,下限を算出する。

(11)

最後のステップは,以上のような知識を持った上  ストを引下げるため,新設備導入に5万ドル投資 で,相手企業との交渉過程で,必要とあれば合併  するという情報があり,この反応を市場に求めよ 比率の点で徐々に譲歩していくという現実的手段  うとするが,反応が余りに弱く,毎日の株価変動 を用いる。       のなかに隠されてしまう,などである。このため

さてここで第1ステップに数値を当てはめてみ  投資案の評価については,資本市場の反応を見る よう。第1ステップでは,合併比率を1対1のあ  という方法でなく,割引キャッシュ・フロー法な たりとしてスタート時の申込比率とすることが賢  どのある基準を設定しての投資案選択法が用いら 明であろう。この合併比率だと,V×が6億3,000 れるのが一般的である。しかし両者の間に全く関 万ドルであるから,P天二P査=57.25ドルという結  係がないわけでなく,投資案選択法はいわば資本 果になる。これはB社株主にとっては約43%の利  市場の反応の代替的予測手段といえよう。それで 益を意味する。もしB社株主が1対1の比率を受  は,企業合併もひとつの投資案と考えられるから,

入れたとすると,彼らの持分は,合併後企業の自  たとえば割引キャッシュ・フロー法で評価すべき 己資本の6,750万ドルでなく5,725万ドルのみで  かという問題が出てくる。結論的に言えば,合併 終ってしまうことになる。そして6,750万ドル.と  案の場合には,企業外部に十分な情報が伝えられ 5,725万ドルとの差はA社株主のところにいくの  る時間的余裕と明確さとが存在すると考えられる。

である。合併案の規模が大きければ大きいほど,  したがって市場の反応を見極めることが可能であ 最初の提示条件が的外れにならないようにするこ  る。しかも市場の反応を見つつ,これまで述べて とが大切である。さきにも指摘したように,徐々  きたような合併の理論的フレームワークの中で調 に値段を上げていくことによって得られる心理的  整を行ないつつ,そして合併完結にまつわる不確 なプラスが大きいからである。合併プランを発表  実性を克服しつつ,次の交渉の手を考えることが したあと,A社の株価が低落した場合には, B社  できる。それ故に,合併案評価を割引キャッシュ との交渉で最初の提示条件を下げることは不可能  ・フロー法にのみ依存することなく進めることが であるから,直ちに合併交渉は断念しなければな  できるのである。以上本章では,主としてルウェ らない。       レン=フェリ(W.G. Lewellen&M.G. Ferri)に

学びつつ,合併交渉プロセスの背後にあるロジッ 6 資本市場と合併情報      クを考察したわけである。

前節で第2ステップとして掲げた行動は,合併 申込の内容を公表し,資本市場の反応を見るとい

@       皿 買収論理の実務における展開うものであった。企業経営者が株主の富極大化原

理にのっとって行動する限り,つねに市場に自ら  1 企業合併・買収技法の発展

の意思決定一行動コースを問い質しつつ歩むこと   米国や英国などの新聞紙上には,ときどき企業 が必要であるといえる。もし市場が経営者の決定  買収の公告,あるいはそれに関連する報道が登場 に好感をもてば,その意思決定情報が流され次第  して人目を引く。企業買収とは,買収企業が被買 株価は上昇する。つまりその決定は正しいと判断  収候補企業の株式を買収し,経営支配に必要な株

されるのである。      数を買い占めることによって,経営権を獲得する こうしたやり方にも1つの問題がある。それは, とともに,株価値上りによってキャピタル・ゲイ ほとんどの企業の意思決定についでは十分な情報  ンを得ようとする試みである。そのような企業買 が市場に与えられず,市場の反応も弱く,そのた  収は,し細にみるとつぎのように分類される。わ め経営者のほうもその反応を読み切れないという  れわれは企業買収の実際を考察するに先立って,

欠点である。例えば,企業が1つの工場で生産コ  まずこの分類によって企業買収の輪郭を知ってお

(12)

図2 企業買収方法の分類

株式取得

友好的買収

吸収合併

(merger・ffer)

営業譲受 資産取得

企業買収

(take・ver) 現金によるテンダー・オファ

株式取得

(tender・ffer)

株式交付によるテンダー・オファ

冒冒雪冒

非友好的買収 吸収合併i

(unfriendly take・ver) (merger)

,曹一 曹幽 9■ 一冒一 一一 一一 一 一,

1営業譲受i

    o

猿綜Y取得i

o. 一曹 ■曹…    一一 一 一 一一一,

〆purchase・f pr(油ctハ right, Rurchase。f

kassets

委任状奪取

(pr。xy c・ntest)

くことが得策であろう。      ない。さてこの非友好的テークオーバーは株式取 図2で示されているように,企業買収(テーク  得によって行われるのが一般的である。この株式 オーバー)は友好的買収と非友好的買収とに分け  取得はテンダー・オファ(公開買付)とかテーク られる。買収を希望する企業の経営者は,最初に  オーバー・ビッド(乗っ取り)と呼ばれることも 合併申込(マージャー・オファ)といわれる,き  ある。前者のtender offerは主に米国で,後者

わめて友好的態度でのアプローチを対象企業の経  のtakeover bid略してTOBは主に英国で用いら 営者および株主に対して試みる。もし被買収企業  れる用語である。非友好的テークオーバーの買収 の経営者と株主が同意し,自発的に株式を売却し  方式として,吸収合併や営業譲受・資産取得を単 ようと考える場合には,買収企業側からの表現で, 独で考えることは,不可能とはいえないが,実際 株式取得,吸収合併,営業譲受・資産取得などと  にはまず見られない。というのはこれらの買収方

かなりバラエテーに富んだ諸方法があり,いずれ  式は,被買収企業の株主の同意を得ないと成立し      Uli

かが選択される。なおここで吸収合併(マージャ  ないわけであり,これがまず難しい。その意味で,

一)としているが,これは合併の実施方法として  図2ではこれらの方式を点線で囲ったわけである。

新設合併もあるが,新設合併のほうは実際にはほ  しかしこの図から全くこれらを排除してしまうこ とんど採用されないので,実をとって吸収合併と  とも適当でない。何故ならば,株式取得方式の副 いうように特定化したわけである。       次的方法としてこれらが採用される場合があるか 図2でみられるように,もう1つの企業買収が  らである。テンダー・オファをかけられてもこれ 非友好的な買収(アンフレンドリー・テークオー  に応じない株主が残ってしまうのがむしろ普通で バー)である。友好的買収申入れが対象企業の経  あり,被買収企業の株式を100%取得することは 営者によって拒けられた場合,買収企業に残され  なかなか難しい。その場合の措置として,残存株 た非常手段として用意されたものがこのテークオ  主を追い出すために,対象企業を吸収合併し,こ 一バーである。もっとも合併申込をせず,最初か  れらの残存株主には存続会社の株式を渡す代りに,

らこの非友好的テークオーバーに訴えてもかまわ  現金を渡すという方法がとられる。もっともこの

(13)

やりかたが許されるのは欧米だけで,わが国では  に移行する。

合併新株の代わりに現金を交付することは禁じら  (2)サプライズ・テンダー・オファ(surprise れている。次節から非友好的買収方法をみていく  tender offer)……これは,買収企業にとって買 ことにしよう。      収成功の可能性を高めるためにとられるもので,

「不意の乗っ取り」などといわれる。テンダー・

2 株式取得(テンダー・オファ)による買収    オファを公告する以前に,乗っ取りの意図を隠し 図2の示すように,非友好的買収のうちの株式  たまま株式市場で相手企業の株式を少数株主から 取得方式は,さらに現金によるテンダー・オファ  買い取る方法である。短期間に,20%程度のプレ

と株式交付によるテンダー・オファに分けられる。 ミアムを付して,全株式の5%までの株式を市場      〔12

オかし実際には,テンダー・オファはほとんどが  で取得するのがふつうである。この行動によって,

現金によるテンダー・オファであるといってよい。 被買収企業に買収問題に真剣に取り組むよう刺激 というのは,株式交付によるテンダー・オファ( を与え,競合ビッドに他企業が入ってくることを 正確には有価証券交付によるテンダー・オファで  牽制することができる。また万一競合ビッドにな あって,買収企業の株式以外の証券を交付し,代  ってこちらが敗れても,それまで買付けた株式を,

わりに被買収企業の株式を引き取ることもできる) 競争相手に高く売り付けて利益を得ることができ のほうは,ほとんど利用されないからである。こ  る。この不意の乗っ取りは,本来はその名前の通 の場合は,SEC(連邦証券取引委員会)に登録届  り,隠密裡にことが運ばれることを理想とするが,

出書を提出し,調査が終るまで長い期間待たなけ  実際にはなかなかそうはいかないようである。一 ればならない。この期間に対象になった企業のほ  般的には,この不意の乗っ取りに続いてテンダー うはいろいろな買収防衛策を講ずるので,結局,  ・オフーアの公告がなされ,公けにテンダー・オフ 買収失敗につながるケースが多くなるからである。 アが実施されるというステップを踏む。

ひろく行なわれている現金によるテンダー・オ  (3)グリーン・メール(green mall)……グリーン ファは,買収企業の経営者が,被買収企業の全株  ・メールという言葉がどこから来たかは分らない 式あるいは買取る株式数の最上限を示して,一定  が,ブラック・メール(脅迫状)との連想が強い の値段で買入れたい旨を被買収企業の株主に日刊  ことは明らカ・であり,事実グリーン・メールの内 紙への公告などを通じて直接申し出る方式である。 容もそれに近いものである。これは,買収が本意

この場合,条件を提示して働きかける相手は対象  でなく,大量に買い集めた株式を,当該会社に高 企業の株主であって,当該企業の経営者ではない。 く買い取らせることによって利益を得ようとする またこのテンダー・オファは政府など関係機関に  目的で行われる偽テンダー・オファである。狙っ 申請する必要もないから,迅速にことを運ぶこと  た企業が買い取らなければさらに株式を買い増し ができる。現金によるテンダー・オファにもいく  て乗っ取ると脅しをかけるわけであるが,稀には つかのバリエーションがあり,それぞれとられる  脅された企業のほうがあっさりと手を挙げてしま ステップに違いがある。いまそれらのうち2,3  い,グリーン・メールを向けた企業のほうが周章 を取り上げてみよう。      狼敗するというようなケースもある。

(1)ベア・バッグ(bear hug) ……ベア・バッグ

とは強く羽交い締めにすることである。これは相  3 競合ビッドの事例研究

手企業の経営者,取締役会にこれこれの価格で株   競合ビッドとは,2社あるいはそれ以上の買収 式を売ってくれるよう書面で申込むものである。  企業があらわれ,競争して被買収企業の株式取得

これは多くの場合拒否されるので,つぎのステッ  をはかることをいう。当然,被買収企業の株主に プとして買収企業は現金によるテンダー・オファ  提示される買入価格は高騰し,プレミァムは60%

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