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ケト・エノール互変異性は、塩基だけでなく、酸によっても触媒される。

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Academic year: 2021

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前回は、エノラートアニオンが塩基や求核剤としてどのような反応を起こすかを学ん だ。すなわち、ケト・エノール互変異性、エノラートのアルキル化、アルドール付加、

クライゼン縮合である。今回は、これらの反応のそれぞれに関連するトピックをいくつ か取り上げる。

1.

ケト・エノール互変異性は、塩基だけでなく、酸によっても触媒される。

まず、ケト型からエノール型への異性化について考察する。カルボニル化合物の酸触 媒反応の一般的な傾向にしたがって、カルボニル酸素にプロトン化が起きる。

生成したカチオンは、一番右のようなカルボカチオン型の共鳴寄与体を持つ。このカ ルボカチオンから、隣の炭素上の水素原子がプロトンとして脱離すれば、二重結合が生 成する。これは

E1

反応で二重結合が生成するのと同じメカニズムである。

次に、エノール型からケト型への異性化について考察する。最初のステップに注意を 払う必要がある。下のように、プロトン化が炭素原子上で起きる。

C C O

H C C

O H H+

C C O H

H+

C C O H

H

C C O H

H

C C O

H

H

C C O H – H+

C C O H

H+ C

O H

(2)

る。エノールは、下のような共鳴構造を持つ。右の共鳴寄与体は電荷が偏っているため 不自然な形であり、あまり寄与は大きくはないが、この構造の寄与があるためにエノー ルの「

OH

から遠い方の炭素原子」は少し負に分極している。このことから、

-

従って、この位置にプロトン化が 起きることは不思議ではない。

この炭素原子にプロトン化が起きると、先ほどと同じく共鳴安定化されたカチオンが 生成する。最後に、

O

上の水素原子が

H+

として脱離すれば、ケト型が生成する。

2.

アルドール付加も、塩基だけでなく、酸によっても触媒される。

まず、アルドール付加はカルボニル基(上の式の青い部分)に対する求核付加なので、

最初に酸触媒がこのカルボニル基を活性化すると考えてよいだろう。

求核剤となるカルボニル化合物の方はどうだろうか。α炭素が求核剤として働かなく てはならない。このためには、エノール型が反応すると考えればよい。先ほどのエノー ルの共鳴構造からわかる通り、酸素原子から遠い方の炭素が求核剤として反応する。

C C O H

C C O H δ+

δ–

C C O H

C C O H

H+

C C O

H

H

C C O

H

H

C C O

H – H+

C

O H+

C O H

(3)

生成したのは、共鳴安定化されたカルボカチオンである。酸素上の水素原子が

H+

と して脱離すると、カルボニル基が再生する。

以上をまとめると、酸触媒でのアルドール付加は、

-

下の ような反応であることがわかる。

3.

アルドール付加の生成物であるβ

-

ヒドロキシカルボニル化合物は、容易に脱水を起

こして、 を生成する。

カルボニル基の「隣の隣の炭素」をβ炭素と呼ぶ。上の化合物は、α炭素とβ炭素の 間に二重結合があるため、「α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物」と呼ばれる。このように、

アルドール付加に続いて脱水が起きて、α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物が生成する反応

を、

aldol condensation という。「

」とは、一般に2つの分子

が結合して1つの小さな分子が失われる反応のことである。「アルドール付加」は失わ

C C

O H

C C H O

H+ C

OH

C C HO

C O H

C C H O

C O H

C C O

C O H – H+

C C O

H

C C H O

H+ C

O H

C C H O

C O H

C C O

C O H – H+

C C O

H C OH

C C O

C + H2O

! "

(4)

α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物の

C=C

二重結合は、カルボニル基の二重結合との間 で、π電子の非局在化を起こす。共鳴式で書くと、下のようになる。

右辺の共鳴寄与体は、正負の電荷が分離しており、不自然な電子配置である。しかし ながら、負の電荷が電気陰性度の高い酸素原子上にあるため、ある程度の寄与があると 考えられる(カルボニル基の分極を表す共鳴寄与体と同様である)。つまり、α,β-不飽 和カルボニル化合物の

C=C

二重結合は、通常の

C=C

結合よりも安定化されている。こ のことから、アルドール縮合における脱水反応は、単なるアルコールの脱水反応よりも 起こりやすい。

アルドール縮合における脱水反応は、酸または塩基によって触媒される。酸触媒によ る脱水は、通常のアルコールの脱水と同様に、

E2

機構で進行すると考えられる。つま り、OH 基がプロトン化されて良い脱離基になったあと、α水素と同時に脱離する。酸 触媒なので系中には弱い塩基しか存在しないが、α水素は酸性度が高いため、脱離が可 能であると考えられる。

一方、塩基触媒による反応は、エノラートを経由する。脱離能の低い

OH

を脱離さ せる推進力は二つある。一つは、エノラートが(安定化されているとはいえ)アニオン であるため、脱離基を押し出す能力が高いことである。もう一つは、生成物であるα

,

β­不飽和カルボニル化合物が、二重結合の非局在化によって安定化されていることで ある。

C C O

H

H C

O

+ C C

O

H C OH

C C O – H2O C

O O

C C O

H C

OH H+

C C O

H C H OH

C C O – H2O C

Base

– H-Base

(5)

このように、「プロトンとアニオン性置換基」が脱離する反応で、先にプロトンが引 き抜かれ、その後脱離基が切断される反応機構を

E1cB

と呼ぶ。

”CB”

“conjugate

base”

(共役塩基)を意味する。この機構は、プロトンが引き抜かれて生成するカルボ

アニオンが安定化されている場合に見られる。ここでは、カルボアニオンがエノラート で安定化を受けているので、この条件に合致する。

4. , -

先にα

,

β

-

不飽和カルボニル化合物の共鳴について述べた。もう少し詳しく書くと、

α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物は下のような共鳴寄与体を持つ。このことから、カルボ ニル炭素とβ位の炭素が、ともに正に分極していることがわかる。

従って、α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物と求核剤が反応する場合は、通常のカルボニ ル炭素への付加反応と、β炭素に対する付加反応が競争する。カルボニル炭素への付加

direct addition

または

1,2- 1,2-addition、β炭素に対する付加反応を

conjugate addition

または

1,4- 1,4-addition

と呼ぶ(注1)。

注1:特に、エノラートを求核剤とする共役付加を Michael(マイケル)付加と呼ぶ。

C C O

H C OH

Base

C C O

C OH

OH C C O

C – H-Base

O O O

O Nu O

Nu

H+ OH Nu 1,2-

O Nu O Nu

H+ OH Nu O Nu

1,4-

O O O O

(6)

5. 3- ,

カルボニル基のα炭素上の特徴ある反応の一つとして、

3-

位にカルボニル基を持つカ ルボン酸の

decarboxylation

がある。脱炭酸反応とは、ある分子から

CO2

が 脱離する反応のことである。

3-

位にカルボニル基があるカルボン酸が脱炭酸を起こしやすい理由は、塩基性条件で の脱炭酸を考えると理解しやすい。この場合、カルボン酸は共役塩基になっている。こ こから

CO2

が脱離すると、エノラートアニオンが生成する。エノラートは通常のカル ボアニオンよりもはるかに安定なので、この反応は円滑に進行する。

3-

位にカルボニル基があるカルボン酸は、酸性条件でも脱炭酸を起こす。この場合は 塩基性条件の場合とは反応機構が異なり、 を経由すると考えられている。

エノールが生成するが、互変異性化によってケト型の生成物が得られる。

この反応は、

pericyclic reaction

の一種である。ペリ環状反応とは、遷 移状態が環状構造をとり、そこで2つ以上の電子対が一斉に移動することで、複数の結 合が一度に組み変わる反応のことである。ペリ環状反応については、次回に改めて学ぶ ことにする。

(マロン酸の誘導体)でも、同様の脱炭酸が進行する。

O OH O

H O

+ CO2

O O

O O

+ C O

O

O O O

H O H

+ O C O

O

H O O

O H

O O

O

O – CO2

O

O 2H+

O

HO H

O HO

O O

H O

HO H

– CO2 O

HO H

(7)

6. 3- ,

上で学んだ脱炭酸反応は、有機合成において有用である。エノラートのアルキル化・

エステルの加水分解・脱炭酸を組み合わせた合成法を紹介する。

(1)

ethyl acetoacetate

のα位をアルキル化したあと、加水分解・脱炭

酸すると、ケトンを得ることができる。この一連の反応を

acetoacetic ester synthesis

と呼ぶ。

得られるケトンは、カルボニル基の一方は必ずメチル基になる(上図の左側のメチル 基)。このメチル基は、アセト酢酸エチルの末端のメチル基由来のものである。もう一 方は、炭素原子を一つはさんで、アルキル化に用いたアルキル基が結合する。エノラー トのアルキル化は

SN2

反応なので、このアルキル基は

SN2

反応が可能なアルキル基、

すなわち一級または二級のアルキル基でなければならない。

アルキル化の段階でジハロゲン化物を用いると、環状の化合物を得ることができる場 合がある。この反応は、特に五員環・六員環が形成される場合に有用である。

(2)

malonic acid

とは、「プロパン二酸

propanedioic acid

」の慣用名で、下の構

造式を持つ。マロン酸は、ジカルボン酸(分子内にカルボキシ基を2個持つ化合物)の 一種である。マロン酸の2個のカルボキシ基を両方エステルにした化合物を、マロン酸 のジエステル、または単にマロン酸エステルと呼ぶ。

O O OEt

O R R–Br O O

OEt R

Base OH

Δ

Br Br

O O

OEt +

O

EtO

O O

HO OEt

O O

OH

(8)

酸を得ることができる。この一連の反応を

malonic ester synthesis

と呼ぶ。

得られるカルボン酸は、炭素原子を一つはさんで、アルキル化に用いたアルキル基が 結合したものである。アルキル基については、アセト酢酸エステル合成の場合と全く同 じ注意があてはまる。すなわち、このアルキル基は

SN2

反応が可能なアルキル基、す なわち一級または二級のアルキル基でなければならない。また、ジハロゲン化物を用い ると、環状の化合物を得ることができる場合がある。

7.

・ 酸触媒でのケト・エノール互変異性

・ 酸触媒でのアルドール付加

・ アルドール縮合

・ α

,

β

-

不飽和カルボニル化合物

・ 直接付加と共役付加

3-

位にカルボニル基を持つカルボン酸の脱炭酸

・ アセト酢酸エステル合成

・ マロン酸エステル合成

【教科書の問題(第

18

章)】

22, 26, 38, 40, 42, 67 EtO

O O OEt

R–Br EtO

O O OEt R

Base OH

Δ R

O HO

EtO

O O

OEt + Br Br

O HO

参照

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