︿論説V
男 女 共 同 参 画 社 会 形 成 の 課 題
高橋保
目次
はじめに
一︑男女共同参画社会形成の意義
二︑男女共同参画社会基本法
(五)(四)(三)(二)(一)
成立の経緯
目的・理念
国・地方公共団体・国民の責務
男女共同参画社会形成促進の施策
男女共同参画審議会 三︑男女共同参画社会形成の課題
O男女共同参画社会形成の基本的視点
⇔男女共同参画社会形成の風土づくり
の男女共同参画家庭の形成
四政策・方針決定への男女共同参画
㈲雇用における男女共同参画
おわりに
はじめに
男女共同参画社会の形成は︑ひとえに女性問題にかぎらず︑広く二一世紀社会の基本目標となっている︒しかし︑
いったい男女共同参画社会の形成とは何かについては︑広く国民の間に理解され︑浸透しているとは思えない︒その
ことは︑とくに男性に対していえることである︒
女性問題の台頭と前進により︑いまや男女平等意識は︑男性の間にかなり浸透している︒しかし︑そのことは︑必
ずしも男女共同参画と連動していない︒男性は︑政治や地域や雇用などの現場で︑いざ男女共同参画で物事をなし遂
げようとすると︑いまだに躊躇し︑狼狽し︑あるいは拒否反応さえ示す︒このことは︑男性自身が︑男女共同参画社
会の形成の意義を理解していないことに原因がある︒
他方︑男女共同参画社会の形成は︑女性の側にも十分浸透しているとは思えない︒確かに︑男女平等意識は︑男性
同様女性の側にも広く浸透している︒しかし︑男女共同参画となると︑これも男性同様︑躊躇︑狼狽︑拒否反応がみ
える︒これも︑女性自身が︑男女共同参画社会の形成の意義を理解していないことに原因がある︒
ときに︑わが国では︑これまで︑政治︑経済︑社会︑文化︑教育︑雇用︑家庭などあらゆる分野において︑性別役
割分業意識が伝統的に固定化されていることが指摘されてきた︒こうした状況のなかで︑男女平等意識は一歩一歩と
醸成され︑浸透してきた︒しかし︑男女意識の行動化というべき男女共同参画については︑男女ともすでに述べた状
況にあるのである︒このような状況のなかで︑国や地方公共団体が男女共同参画社会の形成を重要目標として掲げた
としても︑さして前進は期待できないのではないか︒
真に男女共同参画社会の形成を促進していくためには︑男女平等意識の変革が︑初期の女性問題の解決の段階で論
議されたように︑﹁男女共同参画意識の変革﹂が次策として問われなければならない︒そのためには︑男女共同参画
社会の形成とは何か︑つまりその意義について︑広く国民の間に周知徹底させる必要がある︒その上で︑では︑男女
共同参画社会を形成していくためには︑具体的にどのような施策を策定し︑行動していかなければならないか︑につ
いて検討されるべきである︒
本稿は︑右の問題意識に立って︑男女共同参画社会の形成の意義と立法状況について検討し︑施策︑行動への課題
について考察してみた︒
男女共同参画社会形成の課題
一︑男女共同参画社会形成の意義
﹁男女共同参画社会の形成﹂は︑現代の女性問題解決のための重要目標である︒それは︑たんに︑女性問題に限ら
ず︑﹁生涯学習社会の形成﹂と並んで︑広く現代社会の重要目標として位置づけられている︒
では︑﹁男女共同参画社会の形成﹂とは︑なにか︒﹁男女共同参画社会基本法﹂(以下﹁基本法﹂という︒)は︑男女
共同参画社会の形成について︑つぎのように定義している︒﹁男女が︑社会の対等な構成員として︑自らの意思によっ
て社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され︑もって男女が均等な政治的︑経済的︑社会的及び文
化的利益を享受することができ︑かつ︑共に責任を担うべき社会を形成することをいう︒﹂(第二条一項)︒
基本法は︑このような意味の男女共同参画社会の形成を︑﹁二一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付
け﹂ている(前文)︒
男女共同参画社会の形成は︑国際社会においても確認されている︒
﹁女性差別撤廃条約﹂は︑前文において︑﹁国の完全な発展︑世界の福祉及び理想とする平和は︑あらゆる分野にお
いて女子が男子と平等な条件で最大限に参加することを必要としている﹂と述べている︒この女性差別撤廃条約は︑
一九七九年に国連で採択され︑わが国は︑一九八五年に批准している︒
また︑﹁ナイロビ将来戦略﹂は︑﹁二〇〇〇年までに︑すべての政府は社会のあらゆる分野における婦人の完全かつ
平等な参加に対するすべての障害を撤廃するため︑総括的で一貫した適切な国内婦人政策をとることが必要である︒﹂
と述べている(七八パラグラフ)︒ナイロビ将来戦略は︑一九八五年︑ナイロビで開催された第二回世界女性会議に
おいて採択された︑女性の地位向上のための戦略である︒
なお︑一九七五年︑メキシコ・シティで開催された第一回世界女性会議は︑﹁世界行動計画﹂を採択し︑この行動
計画は︑国際婦人年の目的と関連して︑つぎのように述べている︒﹁婦人が真の︑かつ︑完全な意味で︑経済的︑社
会的︑政治的生活に参加するような社会の概念を定め︑社会をそのように発展させていくための戦略を作り出すこと
である︒﹂(序章)︒
この他︑﹁世界人権宣言﹂(一九四八年)や﹁国際人権規約﹂(A規約︑一九六六年)も︑人権保障の立場から︑﹁文
化生活への参加権﹂を定めている(世界人権宣言︑第二七条︑国際人権規約︑第一五条)︒
このように︑男女共同参画社会の形成は︑国際社会やわが国社会において︑重要目標となっている︒
では︑なぜ︑男女共同参画社会の形成が︑現代社会で重要目標となっているのか︒いいかえれば︑男女共同参画社
会形成の現代的意義は何かということである︒
わが国において︑男女共同参画社会の形成が︑女性問題解決の基本目標とされるようになったのは︑正確には平成
三年五月である︒このとき︑わが国は︑女性の行動計画として︑﹁西暦二〇〇〇年に向けての新国内行動計画(第一
次改定)i男女共同参画社会の形成を目指すー﹂を策定している︒この新国内行動計画で︑わが国ははじめて
﹁男女共同参加﹂を﹁男女共同参画﹂に改定している︒新国内行動計画は︑この改定の理由について︑﹁第一部基
本的な考え方﹂の最後の行で︑つぎのように述べている︒﹁二一世紀の社会は︑あらゆる分野へ男女が平等に共同し
て参画することが不可欠であるという基本認識のもとに︑⁝⁝男女共同参画社会の形成を目指すこととした︒﹂︒
問題は︑なぜ男女共同参画社会の形成が必要なのかである︒これについて︑新国内行動計画は︑﹁基本的な考え方﹂
のなかで︑やや具体的に︑つぎのように述べている︒﹁二一世紀の社会は︑男女の共同参画によって築き上げられる
ものである︒制度上のみならず実際上の女性の地位向上を図り︑社会のあらゆる分野に女性と男性とが平等に参画す
ることが不可欠である︒そのためには︑社会に今なお根強く残存する男女の固定的な役割分担意識の解消と︑女性の
社会参加のための条件整備といった問題を解決することが必要である︒これらの問題を解決し︑女性の社会参加と男
性の地域︑家庭参加の双方を促進することにより︑男女の共同参画によって支えられる社会が実現するものである︒﹂
しかし︑この新国内行動計画をみるかぎり︑男女共同参画社会の形成の必要性を十分に読みとることができない︒
この行動計画は︑﹁二一世紀の社会は︑男女の共同参画によって築き上げられるものである︒﹂と明言している︒しか
し︑その趣旨は理解できるとしても︑なぜ﹁男女の共同参画によって築き上げられるもの﹂なのか︑つまり︑なぜ男
女共同参画社会の形成が必要なのかについては︑明らかにしていない︒
わが国において︑男女共同参画社会の形成が具体的な姿を見せてくるのは︑一九九六年(平成八年)七月の﹁男女
共同参画ビジョン﹂⁝二一世紀の新たな価値の創造⁝の答申においてであった︒男女共同参画ビジョンの答申は︑
まず男女共同参画社会について︑つぎのように定義をしている︒すなわち︑男女共同参画社会とは︑﹁男女が︑社会
の対等な構成員として︑自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され︑もって男
女が均等に政治的︑経済的︑社会的及び文化的利益を享受することができ︑かつ共に責任を担うべき社会をいう︒﹂
男女共同参画ビジョンの答申は︑このような男女共同参画社会を形成するための基本目標として︑人権の確立︑政策︑
方針決定過程への参画による民主主義の成熟など五つの目標を掲げている︒さらに︑男女共同参画ビジョンの答申は︑
男女共同参画社会の形成のために︑具体的な取組みについて提示している︒この点は︑次項において具体的にみるこ
とにしたい︒
その後︑男女共同参画社会の形成については︑法的基盤を確立しようとする動きが出てきた︒その結果︑一九九九
年(平成=年)六月二三日の﹁男女共同参画社会基本法﹂が制定された︒
ところで︑この基本法が成立する一年前︑一九九八年(平成一〇年)六月一六日に︑男女共同参画審議会基本問題
部会による﹁男女共同参画社会基本法(仮称)の論点整理﹂⁝男女共同参画社会を形成するための基礎的条件つく
ユ りーが公表されている︒この﹁論点整理﹂は︑公表されたとはいえ︑正式なものではない︒しかし︑この﹁論点整
理﹂は︑なぜ男女共同参画社会の形成が必要なのかについて︑具体的に明らかにしているので︑ここでとり上げてみ
たい︒
﹁論点整理﹂によると︑﹁男女共同参画社会の実現は︑次の五つの目標を達成するために必要である︒﹂として︑具
体的に︑以下の目標を明示している︒
ア︑人権を確立すること︒
イ︑政策︑方針決定過程へ参画することによって民主主義の成熟を図ること︒
ウ︑社会的︑文化的に形成された性別(ジェンダー)に敏感な視点を定着・深化させること︒
エ︑一二世紀を切り開くために男女共により質の高い生活を実現する新たな価値を創造すること︒
オ︑地球社会へ貢献すること︒
以上の五つの目標は︑すでに平成八年七月三〇日の男女共同参画審議会による﹁男女共同参画ビジョン﹂i一二
世紀の新たな価値の創造ーにおいて︑男女共同参画社会の実現に必要な目標として提示されていたものである︒
男女共同参画審議会は︑﹁男女共同参画基本法(仮称)の論点整理﹂ー男女共同参画社会を形成するための基礎