山形医学 2009;27(1):5卜56
黄痘を伴うVater乳頭部癌に アシアロシンチグラフィーを用い
術前肝予備能評価をおこない 安全に膵頭十二指腸切除術を施行した1例
牧野孝俊,平井一郎*,布施明**
戸屋亮*,渡追利広*,木村理*
財団法人米沢三友堂病院 外科
*山形大学医学部器官機能統御学講座消化器・一般外科学分野
**寒河江市立病院 外科
抄 録
一般的に本邦では術前に黄症がある場合は術後の合併症率,死亡率が高いと考えられ ている.今臥 減黄不良のVater乳頭部癌に対し,月琴頭十二指腸切除術を施行し,予 定減黄期間よりも速く減黄した症例を経験した.症例は52歳の男性.胃部不快感で近 医の胃内視鏡でVater乳頭の腫大,CTで胆管拡張あり,乳頭部癌疑いで紹介となった.
ERCPで下部月旦管狭窄,乳頭部に腫癌潰瘍型腫瘍を認め,生検で腺癌であった.PTBD を施行し,徐々に滅黄したが,ゆっくりだった.アシアロシンチで耐術可能と判断し,
転移の危険性を考え,術中ProstagrandineElを投与しながら膵頭十二指腸切除術を
行った.術後,肝不全は生じなかった.黄痘時でも,アシアロシンチグラフィーで肝機能を適切に評価することにより,膵頭 十二指腸切除術を安全に施行できた一例を経験したので報告する.
Keywords:Vater乳頭部癌,高ビリルビン血症,アシアロシンチグラフィー,
ProstagrandineEl,
別刷請求先:牧野孝俊(財団法人米沢三友堂病院 外科)〒990−0045 米沢市中央6丁目1番219号
上部消化管内視鏡所見:乳頭部所見では,約1.5 cmの腫痛憤瘍型の乳頭部腫瘍が認められ,生 検で高分化型腺癌だった(図3).
胆汁内服
緒
一般的に本邦では術前に黄症がある場合は術 後の合併症率,死亡率が高いと考えられてい
る.多くの施設では血清総ビリルビン値(Total
bilirubin:以下T−Bil)が5mg/dl以下に減黄
してから膵頭十二指腸切除や肝切除を行なって いるのが現状である1)。世界の術前減黄に関す る文献を検索したが長所,短所に関してはさま ざまな報告があり,術前減黄に関する有用性は 未だ明らかではない2)3)4)5) .今回,高ビリル
ビン血症を伴ったVater乳頭部癌に術前減黄 不十分な時点で膵頭十二指腸切除を行なったと ころ,術後肝不全に陥ることなく,速やかに減 黄せしめた症例を経験したので報告する.
症 例
症例:52歳,男性 主訴:黄痘 既往歴:胃潰瘍
家族歴:特記すべきことなし
現病歴:2000年より,胃潰瘍により近医で毎年,
上部内視鏡検査を受けていた.2003年,上部
内視鏡検査でVater乳頭部の腫大を認め,CT
を施行したところ,月旦管の拡張があり,Vater 乳頭部腫瘍を疑われ,精査加療目的に入院となった.
入院時身体所見:皮膚黄症あり
術前T−Bil値の推移:入院後,内科で内視鏡 的逆行性胆道ドレナージチューブ(Endoscopic
retrogradebiliarydrainage以下:ERBD)を 挿入した.しかし,ERBDは自然脱落し,T
−Bil値は徐々に上昇し,次に経皮経肝月旦道ド
レナージ(Percutaneoustranshepaticbiliary drainage以下:PTBD)を施行した.その後,
徐々に減黄したがより早く減黄するために胆汁 の内服も行なった.PTBDからの胆汁中ビリル ビンは徐々に濃くなっていった(図1,2).
l/ノl
二二7∠/−
︵弓\汐Eご摂Tト
7/28 8/4 8′11 8/18 8/25 8/1 0/8 9/15 8/22
8
図1.術前T・Bilの推移
PTBD挿入、胆汁内服により徐々に減黄したが、依
然ビリルビンの値は、高値であった.T.bilが5mg/dl以下になるまで待つと約2週間かかると考えられた.
鳩 5
︵弓も∈這1ト
8/10 9/17 8/24 10/110/8 10/15 ■柑/2210/28
日
図2.月旦汁中ビリルビン値、術後ビリルビン値変移 胞汁内服後、胆汁中ビリルビンの浪度は上昇した.
また、術後速やかに減黄した.
図3.上部内視鏡所見
約1.5emの腫癌潰瘍型の乳頭部腫瘍を認めた.生検 では高分化型腺病だった.
黄症を伴う乳頭部癌にPDを施行した1例
MRCP(Magneticresonancecholangiopan−
creatography):術前のMRCP所見では主膵管
の拡張は認めなかった.下部月旦管は末梢で閉塞していた(図4).
アシアロシンチグラフィー:
当院で行っているアシアロシンチグラフィー
を示す(図5)、全肝のuptakeの正常値は約
60%で,23%以下では当科では術後肝不全と なると報告した6).本症例のuptakeは55%で やや低下していたものの,耐術は可能であると 判断した.手術所見:開腹所見では、著名な黄症肝を呈し ていたが,肝転移は認めなかった.大動脈周囲
リンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術を行 なった(図6).術中より,肝不全を予防する 意味でプロスタグランディンEl(Prostagran−
dineEl以下:PGEl)を0.01γで使用した.
切除標本割面像:Vater乳頭部に15×13×
10mmの腫癌潰瘍型の腫瘍を認めた.病理組織 学的には十二指腸浸潤を認めたが,膵浸潤は認 めなかった(図7).リンパ節転移も認めなかっ
た.
術後丁一Bil値の推移:術後のT−Bilの推移 を示す.手術しないでT−Bilが5mg/dl以下
になるまで待つと,約2週間かかると推定され た.手術前日のT−Bil値が9.7mg/dlで手術図5.アシアロシンチグラフィー
全肝のuptakeの正常値は約60%だが、本症例では 55%を肝機能は比較的保たれている.
図4.MRCP
主膵管の拡張は認めないが、月旦管下部が閉塞してい
る.
図7.切除標本
Vater乳頭部癌.十二指腸浸潤は認めるも、膵浸潤
は認めなかった.
図6.手術所見 前述通り
の予備機能を評価する検査である.今回の症例 では黄症時における客観的肝機能評価ができる かが問題となった.ICG検査では黄症時には 異常値を示すため,指標にはならないと言われ ているが,アシアロシンチグラフィーは黄症時
でも肝予備能を反映する9).術前の肝機能評価
としてアシアロシンチグラフィーを行なうこと により.黄症肝であっても肝予備能の評価を行 なうことができ,本症例では十分な肝予備能が あることを確認できていた.最後にPGElを術中より投与したことであ る.PGElの投与で門脈血流,肝循環を良好に 保たれると報告されている10)11)。また,PGEl は肝細胞保護作用により,手術侵襲から細胞レ
ベルで肝臓を保護するとも報告されている10).
以上のことから,さまざまな工夫を加え,ア シアロシンチグラフィーで,黄症時における肝 機能評価を行なうことにより,より安全に黄症 時における,月琴頭十二指腸切除術を行なうこと ができると考えられた.
結
高ビリルビン血症を合併するVater乳頭部癌 に安全に膵頭十二指腸切除術を行ない得た1例 を経験した.黄症症例では肝予備能の評価には アシアロシンチグラフィーを用い,適切に肝機 能を評価し,胆汁内服,術中PGElの使用に よりより安全に膵頭十二指腸切除を行い得ると 考えられた.
文 献
(1)ⅩawaradaY,HigashiguchiT,YokoiH,etal:
Preoperativebiliarydrainageinobstructive]aun・
dice.Hepatogastroenterology.42:300・307,1995
(2)SrivastavaS,SikoraSS,KumarA,etal:Out・
COmefollowingpancreaticoduodenectomyinpa・
tientsundergoingpreoperativebiliarydrainage.
;DigSurg.18:381・387,2001 を行ったが,翌日には5mg/dl近くまで低下し,
その後,若干上昇したものの,すみやかに低下 し,術前に危惧していた肝不全には陥らなかっ た(図1,2).
考 察
Vater乳頭部癌は膵癌,月旦管癌と比較して比 較的予後良好と思われているが,5年生存率は 50%程度であり7),けして良好とは言えない.
Vater乳頭部癌の予後規定因子は,リンパ節転 移がないこと,膵浸潤がないこと,十二指腸浸 潤がないことであるが,本症例では術前の内視 鏡的超音波検査で十二指腸浸潤が陽性であると 診断されており,十分な減黄を得られるまで待 つと,腫瘍の進展や転移が起こってくる危険性 が考えられた.
本邦では一般的に減黄不十分で膵頭十二指腸 切除術を行なった場合,術後肝不全の危険性が 高いと考えられている1)2).また,T−Bil値 が10mg/dl以上では出血と感染のリスクが上昇 するとの報告もある2).しかし,近年,術前の 減黄は不要であるとの報告がされつつある8).
本症例でも患者に十分にインフォームドコンセ ントした上で減黄を待たず,手術を行なった.
結果としては,図2に示したように,術後,
心配された肝不全に陥ることはなかった.黄症 時に多いとされる術後の出血,感染などの合併 症も起こすことなく経過した.術後,肝不全を 起こすことなく,速やかな減黄ができた理由と
して以下のことが考えられた.
第1に再建はChild法で行っており,PTBD
と異なり,順行性に月旦汁が流れたため,腸肝循環が回復し,肝微小循環が回復したことで
ある.更に,術前には月旦汁内服を行っており,
PTCD挿入により本来喪失される胆汁酸を,腸 肝循環に戻すことにより,肝臓への負担を減ら
し,肝機能を改善したと考えられる.
第2に,アシアロシンチグラフィーを行なっ たことである.アシアロシンチグラフィーは肝
黄症を伴う乳頭部癌にPDを施行した1例
(3)AkashiK,MizunoS,Ⅰ8ajis:Comparative Studyofperioperativemanagementofhepaticre・
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(4)SewnathME,KarstenTM,PrinsMH,:Ame・
ta・analysISOnthee組cacyofpreoperativebilialy
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tomy,Withspecialreferencetoassessmentofnon・
embolizedlobefunctionwith99mTc.GSASPECT
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99mTe−GSASPECTを用いた冠摂取率測定法によ る肝機能評価一簡便に求められる局所肝機能評価 を目指して−.核医学36:37・44,1999
(10)川名 真,中山 雅康,佐藤 紀他:肝切所術 におけるプロスタグランディンElの有用性 現代 医療27:3287・3291,1995
(11)上島 康生:プロスタグランディンElによる 肝切除術後肝庇護に関する基礎的ならびに臨床的 研究.京府医大誌104:989〜998,1995
Aca$eOfthecarc;nomaofthepap;llaofVaterw;th
$eVerejaund;ce$uCCeS$fu yre$eCtedwith
PanCrOatOduodonoctomy.
1bkatoshiMakino,lchiro Hirai*,Akira Fuse….
Ryolbya*,lbshihiroWatanabe*,WataruKimura鴬 5ロnyUdoHosp血J5ur9e†γ
*泡mロ9ロ佃Un/ve13吋5choo/of〟edJcJne′
GostI10enfe!10IogyondGeneroISu(gery
**S叩ロeC吋HoざP/厄/5ur9ery
Abstract
InJapan,Surgeryforthepatientswithjaundiceconsideredtohavehighmorbidity andmortality.WereportacaseofthecarcinomaofthepapillaofVaterwithsevere
)aundicesuccessfu11yresectedwithpancreatoduodenectomy.
A52−yearOldmanwassu鮎ringfromepigastralgiaandjaundice.CTexamination
revealeddilatationofintrahepaticbileducts.Endoscopicexaminationshowedtumor
withulcerationatthepapillaofVater,andbiopsyspecimenrevealedadenocacinoma.
Howeverpercutaneoustranshepaticbiliarydrainagewasperformed,decreaserateof
serumtOtalbilirubinlevelwasveryslow.Weawareoftheprogressionofthecancer,if SurgeryPrOlongedwhentheserumbilirubinleveldecreaseunder5mg/dl.Sinceliver
functionofthispatientestimatedrelativelygoodby99mTc−GSAscintigraphy,PanCre−
aticoduodenectomywasdonewithjaundiceconditionusingprostaglandin.Aftersur−
gery,SerumtOtalbilirubinleveldecreasedimmediately,pOStOPerativeliverfailuredid
notoccur.
99m
Tc−GSAscintigraphyisusefu1diagnosticmethodfbrevaluateliverfunctionun−derjaundicecondition.Intravenousprostaglandinipjectionmayimprovehepaticcir−
Culationin]aundiceliver.