第12号:69−78 1985年10月1日
英虞湾内における局所海洋環境の特性−ⅠⅠ
小池 隆
三 重 大学水産 学部
LocaJMarine Environments jn Ago−BaY−ⅠⅠ
TakashiKoIKE
Faculity of Fisheries,Mie University
In recent years,prOfound attention has been directed to conservation of the environment of various marine culture groundsin theinlet waters.For the pur−
pose of understanding the factors vitalfor this conservation,thereis need to clarify characteristics of the water flow,aS Wellas the distribution and fluctu−
ation patterns of dissoIved and suspended matter.This was the purpose of the present study.
Observations were carried out for one yearin Ago Bay,Situated on the Paci−
fic coast of centralJapan,Where pearloysters(Pinctada Fucata martensii)and green algae(Monostro仇alalissimunl)are densely cultured.
The results obtained may be summarized as follows:Direction of the tidaiflow in the upperlayer was genera11y opposite that of the flowin thelowerlayer,and its velocity was always higherin the upperlayer.It was estimated that most of the watersin the area studied were replacedin the course of a day.Concentra−
tions of suspended matters were always higherin thelowerlayersin summer,
but no trace could be found of themin winter.
Key words:culture ground,tidalflow,SuSpended matter
熊野灘沿岸の内湾は,ハマチ,タイ,真珠貝,カキ等種々の魚介類の養殖に徹底的に利用され て釆ている。これら養殖規模の拡大によって,漁場の過密使用や養殖負荷の増大・集中により水 質が悪化し,生産効率の低下のみならず有害赤潮の発生などにより養殖生物が被害を受けること もしばし生じている。そこで,養殖漁場の生物収容力の評価にもとずく有効利用と環境の保全目 標値や到達手法に関する基礎的研究は,内湾を対象とする重要課題となって来ている。
真珠貝養殖漁場の環境の特徴や水質変動に関しては,上野(1961),柴原(1978)の報告があ る。養殖漁場の環境と対象生物の生理,生態との関連性について,関(1972),山口(1977),
楠木(1978),伊東(1979),植本(1979)など多〈の報告がある。しかし,養殖漁場における 流動と海水の交換および,それに伴う懸濁物質の移動についての究明は十分とはいえない(中村
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1966∴宗繋1982)。
著者は前報(坂本ら1978)で,晩期のアコヤ貝と寒期のヒトエグサの餐殖場として利用されて いる英厳特産磐悔周辺海域の極洋環境を調査し,その季節推移の特徴について示した。本報では,
同海域における潮汐に伴う流動と局地的な海水交換および光学的濁りと懸濁物質の随伴的な動き について報告する。
観測方法及び使用測器
調査水城は,基巌湾内のほぼ中東部に位置し,志摩半島と座賀鳥とに挟まれた座賀島南側水遣 郎である。当海域は栄西約600m,両棲約83000m〜でその西に‡ほ帽約120m 水深約13m 断面機動 1250酢,衆口は帽勅60m水深約2.5m断面稜約106mヱであり曹側杖湾は閉そくし東口が非常に狭
まった特徴ある地形をなしている(Fig.1)。
この東商両月を愛鳥として調査嫡・を固定し,西側St.1の上層(3m)と下メ習(10mまたは12
m)及び東側St.2(2m)において微流速計(東邦電探K.K製のCM−1とSensordata社製 のSD−1,共に限界感度2cm/s)を使用して各層5分間の平均流速を20分ないし60分の間隔 で25時間にわたるオイラー手法の潮間測流を行なった。観測日は大潮期の1979年6月12〜13日,
8月7〜8日,1980年1月16〜17日と小潮期の1979年8月28〜29日である。測流と並行して表層 から海底まで,Martek Ma上・】く1IlとMartelくTran朗Tlissio Meter(光路濃1m,散大透過披養
493rlm,半値帽53nm)を用いて,水温,塩分,浴衣酸素,pIj,と光学濁度明儲滴的分布の潮階 観測と∴採水を行なった。採水紙料は,ワットマンGF/Cによってそれぞれ2gづつ麗ちに現場 でろ過し,残渾の山つば8%ギ醸アンモニウ水溶液で洗浄後60℃ 24時間乾燥による懸濁物盛儀
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を,他の一つは90%アセトンj■鋸甘液について分光微光度紳J定法によi)クロロフィルaj盈を測窟し た。
結 果
1.流動 衰射コ(St.=及び剰コ(St.2)における測洗結果をFig.2①濠撃の大潮期
(St.1),②夏季の小潮期(St.1)及び(St,2),③冬季の大潮期(St.1)に示す。
西日(St,1)の下層には上層流の反流が生じ,狭く浅い東口(St. 2)では流速が督しく加
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F癌.2.Cur王・ent V8CtOr diagrams.
① 7〜8t‡1A咽.1979.
② 28〜29t‡lAtlg.1979.
③16〜17tllJa!1.1980.
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速されている。
夏季の西口では,落潮期に」こ層で流速3〜4cm/sの北西流,下層では1〜3cm/sの南東流 であ㌔∵醸潮期には上下層共に流向が逆転した。さらに,転流鳩瀾は下層は上層よト)多少の時間 おくれを生じた。また,西日(St.1)上層部における流速は,大潮と小潮との潮位差に比例す る程の顕著な差は認められずむしろ類似した低であった。
東仁l(St.2)では薄瀾膵附こ平均流速9.6cm/sグ)北西流,職瀾膵捌こ5・6cn−/sの南東流であi),
洗向は酉lコ上層に連なる変動を示すが,流速ではしばしば2倍以上に加速された(Fig.2−②)。
㈱挽に併せ観測した水温,塩仇 溶在酸衆及びpiイの夏季の鉛遼分布例ぐFig.3)から評価す
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れば(1979年8月28日14時),来日(St.2)には西=の上層部がそのまま出現していると判断 された。また,密度の用屑深度は西=で6〜8m層の問で変動がみられた。
冬季における西日(St.1)の洗況は,強い北酉の学部風の影響によって,上層では南東流が 張・落に応じて強弱の変動を生じ,下層ではその反流が南東流となって同期的に上のせされてい た(Fig.2−③)。水温,塩分,溶在触発,pIうはいずれも海底付近まで鉛直的変化ほ少なく,
その縫時的な変勅もみられなかった。対流混合の完成状態の中でも流向ほ上下層で逆赦し,来日 の地形効果が大きい革が推察された。
2.光学濁度及び懸濁物質の変動 夏季における西日は,上層には常に低濁度(0.5〜0.8nナl)
海水が去来するが,その植は慮閣に増大し,夜間に減少する傾向がみられた。このことからは亥
翠の養殖アコヤ貝のろ水活性の軋閣変化と,基礎生産層の袈層への移動との関係が想定される。
これに対し下層は商濁度(>1.5山l)海水で占められていた。また,光学濁度の獄層深度は落潮 時に上昇し,祓潮時に下降がみられた(Fig.4)。薄瀾では上層水の酉向流働に対し,狭く浅い 東口からの酉向流東では不足するため下層の束向流束がそれを補い,溢潮では西口上層からの来 向流宋が来日によって制約登れるため上層水が貯留されることによって,濁度粗層の潮時による 上下変蘭が生じていると判断された。
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coefricier11.(αmMi)at St.1 A 7〜8tllAug,1979 1∋ 28−2鋸1Al唱.1979
C 16〜17tllJail.1980
この濁度変化の大きな掛コ下層(10m層)における濁風 水温,塩分,潜在醜紫及びpHの経 略変化をFig.6に示す。当毎放では落潮瀾に高濁度,低地紫,低pHの底屑水が西側下瀾から 流入し,滋潮期には低湖底㌧ 商磯機,霧p㌻主の海水が下層から西側下層より洗出している。すな わち,落潮魔の下層からの湧昇と敲潮期の上層水の収束・沈降が想定され,この原因は衆口で地 形的に制約されるために生ずる流来不足によると推察される。
冬季において季節風による上層水の吹送が卓越する期間は,成層の商溌皮水はこの海域から消 滅する。この原因の山つとしては,上層水が東側で沈降して西方への強い流れとなって洗い出し 効果を示したと考えられる。
夏季の成層した光学濁度の変動内容を検討するため,西目(St.1)の懸濁物質と植物プラン クトン畿の指標となるクロロフィルaならびに両者の比の経時変動をFig.7に示す。懸濁物と
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① 7−8tllÅug.1979
②16〜17血」壬In.1980
クロロフィルa及び光学濁度の3者は同時進行的変動を示した。また膵層に近い7・5m層のクロ ロフィル払と懸濁物との比は特に表層のそれよi)低レベルを示すこともなく,昼夜・潮時につい ても層別による質的特性は示さなかった。
考 察
海水の流動ほ,酪溌物質や洛存酸素の分配のみならず登殖貝代謝魔物と栄粒琴の分散・輸送や その結果としての分布に鷹按的影響を及ぼす(楠木1978)。英藤袴では海水交換率の低い所に澄み 潮や赤潮などの輿常が出現するとの報告もある(沢注=968,柴原1978)。したがって,狭い範囲の 養殖漁場の環境変化レベルを正確に把握しまたは予知するには,流速範問のBiolⅥaSSの活性と 現有魔の把握のみならず海水の移動盛や交換鹿の把瀾が不可欠である。。
座賀飽水道における8月28日の落潮gj(9〜15時)と祓潮期(15〜20時)について海水流畿を 試算してFig,8に示す。海面両横(一定とみなす),潮位愛執鉛麗断面面梯(St・1および st.2),平均流速(St.1の上下層ならびにSt.2,測流結果から求めた)をもとに計算し た。またJtと光学濁度の鉛寓分布よりSt.1の上層の厚みを6mとし,St・2は金屑均一とみな
した。この結果,落潮蘭匿は,西口上層よ㌢)約50万m冨の海水が洗出し,来日と関口下層より約46 万m3流入する。潮位の低下に伴う海水容盈の減少は約6万m3である。洗潮動こは,酢コ上層より 約22万がの海水が流入し,来日と西日下層よ㌢)約13ブぎm磯出する。潮位の上昇による海水容盈の
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円熟8.Quantity of t主Ie Water mOVed by tile tide.
増加は約7方m3である(満潮期・祓潮期共に流出入盈の5〜10%の不均衡を生ずるが,これは上 層の厚みを仙窟としたことや無洗面を設定しなかったことによると推察される)。したがって,当 海域でほ落潮期に西口上層より西側へ洗出した蛍を東口と西口下層からの流入で補い,祓潮期に 西口上層で南東流により流入した盈ほ衆口と西日下層からの流出でほぼ釣り合っていると考えら れる。今後さらに当海域の流動や海水交換率を詳細に知るためにほ西口断面における細かな流動 分布を経時的に求める必要がある。
海水の濁度と懸濁物質厳については次式で表わされる関係が得られている。(松虫1982)。
3・Qext
CÅ = ・S
2・D・β
ここで C人 は改選入における光来消散係数(濁度)
Qex亡ほ懸濁粒子の有効断面係数
D ほ懸濁粒子の平均粒径 β は懸濁粒子の密度 S は懸濁敏感慮
Qextは海津では2に収れんするといわれ両者の関儲せ滞す麗線の勾配は粒子の大きさとその密 度(有機無機の比及び含水率等)によって決まる(JERLO】ご,1958)。光学濁度と懸濁物との相 関は前報(坂本ら1978)で報告したように高い。今回の観測で求めた山例をFig.8に示した。
相関係数はいずれもの場合でも0.8以上で,光輝瀾魔の連続測窺で懸濁物を宝盈的に指燻し得 る、、
前項で,夏季に当海域の上層は,冬季と同じレベルの低濁度の均質な海水で削こ覆われている
ことを述べた。また,下層でほ裔濁度水が潮汐により流動していることを示した。この商濁度水 ほ,落潮期には上層の北西流により吸引されて爾来洗となって西口下層より流入し,祓潮期には
上層の南東流によって東側に収東して沈降した上屑水によって押し出され西日下層より北西へ流出 し,往復運動を繰り返していると判断される。また,淘水の交換が」ニ層では極めて良いにもかか わらず攫層は常に存在し,成層水の上層への流速は制約されていると推察される。したがって,
下層の懸濁物が上層へ拡散して分解あるいはアコヤ貝等により再利用されることほ少ないと考 えられる。これらのことから,当海域ではアコヤ貝の過密な餐殖は排せつ勧の下層への輸送と貯 留が一層促進され,好気分解による低酸素に連係する水質怒化をまねく山園となるおそれがある。
山方,変季にあった嵩濁度の成層水は粗瀾の消滅した冬季にはまったくみられない。この原図 としては,北西季節風により上層では南東流が肇適し,下層では北西への流出が継続するため一
︵ T︑こ ⊆山≡﹂﹂﹈≡≡こVコ荒こくE五山
0 1 2 5
SESTONレほ王甜T いl憫/り
F;g.9.Relation be腑ee11beanlattenllation coerficient(αm ̄リaIld sestoll Weight at St.1.
押されると考えられるが,発生者である養殖アコヤ貝の避寒による不在という要因もある。下層 の輸送懸沸物儲が他の局所水城へ廉中澤留するのか否か,物理貿瀾と生物繋園といずれが主導的 に卓越するか等の評価は更に検討を質する。
謝 辞
本研究にあたー),有益な御討論と原稿の御校閲を賜わった三盛大学水産学部教授坂本市太郎博 士,及び東京水産大学教授松虫拾博士に深甚なる感謝の窓を衷します。同時に,観測に御助力い ただいた三盛大学付属水産爽倣所職眉の方々に深く謝意を表します。
この研究は,−…膚部三藍県受託研究費及び文部省科学研究費(1979年奨励研究A,課題番号4761 42)によった。
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