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概念変化研究からみた教育課程編成の課題 : 理科 教育の事例検討

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概念変化研究からみた教育課程編成の課題 : 理科 教育の事例検討

著者 村山 功

雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要

巻 23

ページ 133‑140

発行年 2015‑02‑27

出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター

URL http://doi.org/10.14945/00008895

(2)

概念変化研 究か らみた教育課程編成の課題

―理科教育の事例検討―

Issues in Curriculum Development Raised by the Conceptual Change Researcht A Case Study ofScience Education

村 山

 

Isao 

Iurayama

静 岡大 学大学 院教 育学研 究科

abstract

To develop a curnculum, three tasks shOuld be accomplished: selectlon of educat■ ollal cOlltents, arranttmellt of educatlonal contente,and asslgllment of educat10nal con nts tO appropriate grades lt's deslrable if these tasks are performed,or at least supported,by educational theories HOweveち results of∞nceptllal change research Jve negatlve answer to this expectaion This artlde shOws why educatlonal theories can t contribute to these tasks,based Oll examples lrom science education At the end ofth18 artlcle,・Lcarlling PrO"00iOns・ research ls intrOduced as alternaive candldate

キー ワー ド

教 育課 程

 

概 念 変 化

 

発 達 段 階

 

学 習 の階層 性

 

素 朴概 念

1  問題の背景

学習指導要領 を念頭 に置けば、教育課程 を編成 す るには、

(1)教

育内容 を選択 し、(2)そ れを内容 の順序性 に基づいて配列 し、最終的に

(3)学

年に 配 当す ることが必要である。 これ は後ろにいけば い くほ ど強い制約 となっている。 このため、問題 としての難 しさは選択、配列、学年配 当の順に高 くなつてい く。 さらに、 これ らよ りも基本的な問 題 として、教育内容の記述方法がある。本稿では、

これ らを教育課程編成の中心 となる問題 として扱 う。

教育課程 は、それ に従 つて学習 を進 めることに よって、その 目標段階に到達す ることができなけ ればな らない。 これ を教育課程 の 「学習可能性」

と呼ぶ こととす る。 ここに注 目すれば、教育課程 の編成は教育内容 の研 究成果に基づ くと同時に、

学習研究の成果 にも基づ く必要がある。 さらに、

学習指導要領 の よ うに教科 における長期の学習 を 規定す る場合には、そ こに概念 的な理解 も含 まれ ざるを得 ない。概念変化研究 とい う心理学の一分 野か ら教育課程編成 に一石 を投 じる理 由は ここに

ある。

教育課 程 を実際に編成 してい くためには大変 な 作 業 が要求 され るた め、上記の問題 に対す る何 ら かの理論 的な解決 が得 られ るな らば、それ は教育 課程編成 に携わ る ものに とっては朗報 だろ う。 そ こで本稿 では、概念変化研 究 の知見に基づいて、

教 育課 程 編成 の諸 問題 の理論 的解決 の可能性 につ いて検討 してい く。

学 年配 当の妥 当性 と発達段階

学習指導要領 では、教 育 内容 が単 に配列 され て い るだ けではな く、学年 に対 して割 り当て られ て い る。 この よ うな形式 の教育課程では、配列 の順 序性 の 問題 に加 えて、学年へ の割 り当てが妥 当で あ るか とい う問題 が生 じる。学年配 当の妥 当性 と は、その教育 内容 をその学年 の児童生徒の大多数 が習得 可能で あるか、 とい う問題 である。 もちろ ん、 これ はそ こに至 る教 育 内容 の配列や学年配 当 の妥 当性 が保 証 され てい る とい う前提 がお かれて い る。

成 人 を対象 と した教育 であれ ば、順序性 の問題

(3)

村 山

 

に加 わ るの は 、学 習期 間 に対す る教育 内容 の配 分 の妥 当性 であ る。つ ま り、学習期 間に比 して学ぶ べ き内容 が多す ぎないか とい う 「量の妥 当性 」の 問題 で あ る。

 

しか し、子 どもを対象 とした学校教 育 にお い て は 、 単 に量 だ けで はな く、その年齢 の 児 童 生 徒 に 学 習 可 能 な教 育 内容 で あ るか とい う

「質の妥 当性 」問題が加 わ るのである。

理科教 育 の分 野 におい て は、学年 配 当の妥 当性 につ いて発 達 段 階 を根拠 とす る研 究が行 われ て い た。その代表的な研究者 として、Law nが挙 げ ら れ る (Lawton et al,1978)。 ここで扱 われ る発達 段 階 とは、主 に ピアジェの発達段階である。Piaget の発 達段 階説 の特徴 は、発達的変化 が段階的 に生 じる こ と、そ の変化 は新 たな心的操作の獲得 に よ る こ と、そのため発 達的変化 はすべての領域 に共 通 して生 じる こ とで ある。 た とえば、量 の保 存概 念 の獲得 には 可逆 的操作 が不 可欠 で あ り、可逆 的 操 作 がで きな い段 階 では量 の保 存概念 は獲得 で き ない こ とに な る。 この こ とか ら、具体 的操 作期 に 達 してい な い児童 に量 の保 存 を教 えるのは妥 当で はない とい う結論 が導かれ る。(注

1)

この よ うに、発達段階説 を前提 とすれ ば学年配 当の 問題 はあ る程度 は解決 で きるよ うに思 える。

しか し、概念 変化研 究の進展 に よ り、 この発達段 階説 自体 の有 効性 が疑 問視 され て い る。具 体 的 な 例 と して 、生 物概 念 に関す る一連 の研 究 の発 端 と な つた Carey(1985)の 研 究 が ある。Careyは

「生物

Xが

属性

Yを

持 つ こ とを教 えた ときに、 ど の範 囲の動物 に属性

Yを

付 与す るか」な どの課題 を用 いて 、子 どもの生物概 合 の発 達 を調べ た。そ の結果 、4歳児 では、人 間 とどの くらい似 て い る か に基づ い て属性 の付与 を判断す る、人 間 との比 較モ デル を用 い てい た。 ところが、年 齢 が増 え る につれ 、生物 学 的カテ ゴ リや 生物 学 的 な機 能 につ いての知識 に基づ く推論へ と変化 してい く。Carey は この変化 を、4歳か ら10歳の間に生 じる生物に つ い ての知識 の再体制化 による もの と説明 してい

る。

この研究以降、幼児が物理的世界、生物的世界、

心的世界 の3領域 に分 かれ た 「理論

Jを

持 つて い るこ とが提 唱 され た(Weuman&Gelman,1998)。

子 どもが発 達 す るにつれ 、初 期 の物理 的世 界 の 中 か ら天文的世界 が分化 してい くな ど、 この大 きな 領 域 の 中で さ らに理論領 域 の分化 が生 じてい くの である (VosnladOu&Brewe■ 1992)。 この よ う

な発達 の全 体像 は、Platttの主張す る領域 に共通

な発達的変化 とい う発達観 とは相容れ ない もので あ る。

ま た、領域 内での発達的変化 は既 有知識 に基 づ くもので あ り、心的操作 による もので は な い。 心 的操 作のみで あれ ば、Plagetの主張す るよ りも低 年 齢 の 段 階 か ら で き る こ と が 示 さ れ て い る

(Goswaml&Brown,1989な

)。 また 、Plaget

に よれ ば、物体 は見 えな くなって も存在 し続 ける とい う物体の永続性の概念は、感覚運動期 の間に1 年 ほ どか け て 獲 得 され る。

 

しか し、

Ballargeon

( 1987 )  

 

  

 

 

 

 

 

(habitllatlon dishabltuatlon)を 用 い て 乳 児 が

35カ

月です で に物体永続性 を示 す こ とを明 らか に した。 ここか ら始 まる一連の研 究で は、発 達初 期 にお ける 「生得性Jが主張 され てお り、認識 は 相互 作用 か ら発 生す る と考 える

Piagetの

発 達観 と は異なつている。

こ の よ うに 、 現 在 の発 達 心 理 学 的研 究 で は Piagetのよ うな発達段階説は少 な くとも主流 では な くな った。発 達段 階説 に基づ いて学 年 配 当 を考 え る とい うプ ランは、発 達段 階説 自体 の信 頼 性 の 喪失 に よつて、 当初 の も くろみ とは異 な り実 現 困 難 な もの となったのであ る。

配列の妥 当性 と素朴概念

学 年配 当の問題 を除いた として も、教 育 内容 の 配 列 を決 定す る問題 は残 る。選 択 した個 々 の教 育 内容 に何の関係 もな ければ、配列 を決 定す る必要 は ない。 どこか ら学 んで もよいか らで ある。 つ ま り、配列 を決 める とい うことの前提 と して、教育 内容 に順序性・ 系統性がなけれ ばな らない。 問題 は順 序性 ・系統性 が どの よ うに決 ま るかで あ る。

これ に関 しては、

Gagne(1962)の

提 唱 した学習 の階層性 に言及 され ることが多い。

学習 の階層性 とは、一般 に よ り高次 の知 識 ・ 技 能・ 行 動 は よ り低 次 の知識・ 技 能 ・行 動 の学 習 を 前 提 としてい る とい う

,知

的技能 の相 互依 存 性 の こ とを指 してい る (注2)。 このた め、教育 内容 の 配 列 は低次 の技能 か ら高次の技 能へ と累積 的 に構 成 され な けれ ば な らない。 それ を実現 す るた めの 具 体 的 な方法 が課題 分析 であ り、行 動 の場 合 に は 以 下の よ うな手順 を用い る。

(D目

標行動の形成に直接必要な下位の行動

(下

位 目標行動 )を 決定する。

(2)下

位 目標行動のおのおのに対 して、その形成 に直接必要な下位 目標行動を決定す る。

134

(4)

(3)上

0)の

手続 きを学習者がすでに形成 して いる行動

(前

提行動

)に

達す るまで繰 り返す。

結局、学習の階層性 とい うのは、個々の教育内 容 間に半順序関係 を想定す るとい うことである。

もし全順序関係 が想定できれば配列 を一意に定 め ることができるが、ほ とん どの場合は半順序関係 であるためそれ に起因す る曖味 さは残 るものの、

教育内容の配列は可能 となる。ただ し、それ を実 施す る手段である課題分析は、最終 目標 としての 教育内容、つま り学習が終了 した時点での知識 を 対象 として行われ る。そのため、生み出 され る知 識 の階層構造 は、学習終了時点での正 しい知識 を 構成す る階層構造である。 これが学習過程の階層 構造 と一致す るか どうかは、課題分析 の正 しさと は別問題であ り、改めて検討す る必要がある。

これ を言い換 えると次のよ うになる。課題分析 によ り、最終 日標 とす る知識 を構成す る要素知識 の集合が生み出 され る。 これは要素間に半順序 関 係 を持つ、半順序集合である。 これ を全体集合 と 考 える。 ある学習者 を想定す ると、この集合の要 素はその学習者 に とつて既習の もの と未習のもの に分 け られ る。既習の要素知識 か らなる部分集合 は、この学習者 のその時点での理解状態 を表 して い る。未習の要素知識 の集合がその補集合 となる ため、半順序関係 に従つて この補集合の要素を順 番 に部分集合 に移 してい くのが、学習の系列 とな る。 これが、基礎か ら順序 よくとい うことの意味 である。

問題 は、 この想定が間違 っていることである。

概念変化研究において最 も基本的な知見は、学習 者 が しば しば誤 つた知識や信念 を持っている、 と い うことである。 た とえば、中学校第

3学

年第 2 分野 「地球 と宇宙」で扱 う月の満 ち欠 けの仕組み を考 えてみ よ う。学習指導要領解説 には、以下の よ うに書かれている。

イ 太陽系 と恒星

(イ)月

の運動 と見え方

月の観察 を行い ,そ の観察記録や資料に基 づいて

,月

の公転 と見え方 を関連付 けて とら えること。

この内容 を理解す るためには、少なくとも

・地球が太陽の周 りを公転 している

・地球が 自転 している

・月が地球の周 りを公転 している

とい う知識 を必要 とす る。地球に関 しては、直近 では 「ア 天体の動 きと地球の 自転・公転」で扱わ

れ る。 しか し、そ こに至 るまでに、

・ 地球が球形である

・ 月が球形である

とい う知識 も必要で ある。

 

しか し、幼児期 には、

地球 は平 らな面である と考 え られ てお り、球形で あ る こ とは受 け入れ られていない (VOsniadOu&

Brewe■ 1992)。 この時点での幼児の理解状態 を、

「月 の満 ち欠 けの仕組み」の課題分析 か ら得 られ る知 識 の集合 の部分集合 として表す こ とはで きな い。 なぜ な らば、そ の理解状態 を表す ため には、

部 分集 合 の 中に 「地球 は平 らで ある」 とい う要素 知識 を含 めなけれ ばな らないが、課題 分析 か ら得 られ た全体集合 の中にその よ うな要素知識 は存在 しないか らである。

教 育課 程編成 に とつては残念 な ことに、最終的 に獲得 され る正 しい知識 を分析す るこ とに よって、

学 習者 が持 っている可能性 のあ る誤 つた知識 を導 き出す こ とはで きない。正 しい知識 は正 しい知識 か ら構成 されてい るため、それ を分析 して も正 し い知識 しか出てこないか らである。 この こ とか ら、

学 習 の階層性や それ を用 いた課題分析 とい う方法 lFよ

つては、学習者 のすべての学習状態を記述す る枠組み を生み出せない ことがわかる。それは、

この よ うな方法で教育内容の配列 を作 ることがで きない とい うことを意味 している。

これが学習の初期段階のみに関わる問題 である な らば、そ こだけは何 らかの方法で問題 を回避 で きるかもしれない。 しか し、問題 はもつ と根深 い のである。電気回路 を題材 として、これを説明 し よ う。

小学校学習指導要領解説 によれば、第

3学

年 「 A

物質 。エネル ギー

 (D電

気の通 り道」では、以下 のように 目標が設定 されている。

乾電池に豆電球な どをつなぎ ,電 気 を通すつ なぎ方や電気 を通す物 を調べ ,電 気 の回路 につ いての考 えをもつ ことができるよ うにす る。

ア   電気 を通すつなぎ方 と通 さないつなぎ方が あること。

 

電気 を通す物 と通 さない物があるこ と。

このアの詳細 は以下の通 りである。

ア 乾電池1個と豆電球1個を導線 でつな ぎ,回

路 がで きる と電気が通 り

,豆

電 球 が 点灯す る こ とを とらえるよ うにす る。 また

,乾

電 池 と 豆電球 と導線 を使 い

,豆

電 球 が点灯す るつな

ぎ方 と点灯 しないつなぎ方 を比較 し ,回 路が

できると電気が通 り ,豆 電球が点灯す ること

(5)

村 山   功

を とらえるよ うにす る。 さらに ,導 線 を乾電 池の二つの極以外 につないだ り ,導 線 と乾電 池がつながつていなかつた り ,回 路の一部が 切れていた りす ると豆電球 は点灯 しない こと

もとらえるようにす る。

このよ うに、小学校第 3学 年において、乾電池

の二つの極 をつなぐ電気の通 り道 とい う概念が教 えられ る。

また、第

4学

年 「 A  物質・エネル ギー

 (め

電 気の働 き」では、

乾電池や光電池に豆電球やモー ターな どをつ なぎ ,乾 電池や光電池の働 きを調べ ,電 気の働 きについての考 えをもつ ことができるよ うにす る。

ア 乾電池の数やつなぎ方 を変えると ,豆 電球の

明るさやモーターの回 り方が変わること。

イ 光電池 を使 つてモー ター を回す ことな どが できること。

が 目標 とされ、アに関 しては、

ア 乾電池の数 を

1個

か ら

2個

に増や して豆電 球 を点灯 させた り ,モ ー ター を回 した りす る と ,そ の明るさや回転数 が増す場合 と ,乾 電 池

1個

につないだ とき と変わ らない場合があ ることな どか ら ,電 球の明るさやモー ターの 回 り方の変化 を電流の強 さと関係付 けなが ら とらえるよ うにす る。 また ,乾 電池の向きを 変えるとモー ターが逆に回 ることか ら ,電 流 の向 きについて もとらえるよ うにす る。その 際 ,例 えば ,簡 易検流計 な どを用いて

,こ

れ らの現象 と電流の強 さや 向きとを関係付 けな が ら調べるよ うにす る。

と、電流の向きを提 えさせ ることが示 されている。

一方、電流に関す る理解の研究では、 Osbome&

Frelberg(1988)の

指摘 した 「電気は

+と

一の両極 か ら流れている」な ど、様 々な素朴概念が発見 さ れている。畦・井村

(2012)は

「電気のはたらき」

を学習す る以前の小学校

4年

生が、「電気は

+と

一 の両極か ら流れている」「回路を流れる電気の強 さ は同 じではない」「回路を流れ る電気には種類があ る」 とい う二つの素朴概念 を持つ ことを示 した上 で、「電気のはた らき」を学習す ることにより、「電 気は

+と

―の両極から流れている」が「電気は

+極

か ら報 へ流れ る」に変容 したものの、残 り

2つ

は 変化 しなかつたことを報告 している。

乾電池については 日常生活の中で扱 う経験があ るため、

3年

生で 「電気 の とお りみち Jを 学ぶ前

か らこのよ うな素朴概念 を持っていた可能性 はあ る。 しか し、「回路 を流れる電気の強 さは同 じでは ない」は、豆電球の回路でいえば、 +極 か ら流れ る電流が豆電球の前後で強 さが変わる

(豆

電球で 電気が使われて電流が弱 くなる

)と

い う考 え方で ある。 これは、「電気は

+と

―の両極か ら流れてい る」から「電気は

+極

か ら一極へ流れ る」へ と概念 変化 した後でなければ出て こない素朴概念である。

この ことは、学校 で学んだ教育内容 によって素朴 概念が生成 された ことを示 してお り、初期 の素朴 概念が教育によって解消 されてい くとい う想 定が 成 り立たない ことを示 している。つま り、正 しい 知識 を学ぶ ことが新たな間違 つた知識 を生み出 し ているのである。

4  教育内容選択の妥当性 と概念変化

前項で述べたことは、教育内容の配列

(学

習系 列 )上 に学習者 を位置づけることができない とい う以上の問題につながつている。正 しい知識 のみ を要素 とす る集合 によつて、学習者の理解状態 を 表現す ることができない とい うことは、学習系列 もまた正 しい知識 のみでは記述できない とい うこ とである。 これ を言 い換 えると、誤 つた知識 を含 んだ学習系列 を考 える必要があることになる。 こ の ことは、場合によつては、教育課程 に誤 つた知 識 を含めるとい う異様な結論につながつてい く可 能性 を含んでいるのである。再び電気回路 を例 に

して、これを説明 しよう。

電気回路について 「回路を流れ る電気の強 さは 同 じではない」 とい う素朴概念があることはす で に述べた。 この例では、電気の通 り道ができれば 電気が流れ ると正 しく理解 してい る学習者 が、そ の一方で電気は豆電球で使われ るため豆電球の前 後で電流の大きさが異なると考 えていることにな る。 しか し、電気の通 り道ができれば電気が流れ るとい う知識 を持 つていれば、電流の大きさに関 す る誤解は小学校 の教育課程で触れ られていない がために許容 されている。 ちなみに、黒岩・村上

(1993)で

は大学生か らもこのよ うな素朴概念の 存在 を示す回答が得 られている。

さらに、電流に関す る理解 を研究 した山縣 によ れば、「直列回路中の電流の量は変わ らない」 こと を理解 している生徒でも 「豆電球は電子 を消費す る」 とい う素木卜 概念 を持つ ものが多 く、教授実験 において 「直列の回路を流れる電流の量は一定で ある

Jこ

とを理解 させて も 「熱 が発生する時、電

136

(6)

子は消費 され る

Jと

い う素朴概念 は 自動的に修整 されない

(山

,2002,山

,2006)。

  このように、

正 しい知識 と素朴概念は容易に併存 しうるのであ る。

しか し、この問題はそれでは済まないのである。

HatanO&Inagak(1996)は 、概念変化 を自発的 概念変化 と教授 に基づ く概念変化 に分 けて論 じて いる。教育課程 について考 えるとい うことは、教 授 によつて概念変化 を 目指す ことである。 この と き、 自発 的に生 じる概念変化 をなぞ る方が教授 =

学習は容易になると考 えられ る。 なぜな らば、そ の変化 は組織的な教授がな くて も生 じる変化だか らである。

自発 的な概念変化 として、再び VosniadOllら

(1992)に

よる地球の概念の変化 を見てみよ う。

日常経験か ら作 られ る就学前児の地球の概念は、

平 らで安定 し不動の物理的対象、 とい うものであ る。地球は下か ら地面等 によつて支え られ、地球 の上 には空や天体がある。地上の物体は上下に働 く重力に従い、空間は上下の次元で組織化 されて い る。 これが、球形の天体 としての地球 とい う理 解 に至 るまでに、以下のよ うなモデル を経 るとい

う。

2つ

の地球モデル

これ まで通 りに理解 された地球 とは別に、惑 星 としての地球が空にあると想定 したモデル 空洞球体モデル

空洞 の球体の中に大地があ り、その上に人間 が立っているモデル

平 らな球体モデル

球体 を平 らに押 しつぶ した、あるいは上部 を 水平に切 り取った形のモデル

この一連 のモデル は、平 らな大地 とい う既存のモ デル に丸い地球 とい う新たな情報 を統合 しよ うと す るために生み出 され る 「統合モデル Jで ある。

地球の理解 はなぜ このよ うな一連のモデルの変 化を経 るのだろ うか。

17。

niadouら (1992)の

説 明は次の よ うなものである。子 どもに とつて地球 は素朴物理学 とい う大きなフレーム ヮー ク理論 に 埋 め込まれているが、地球に関す る科学的な知識 は天体 とい うフ レーム ワーク理論 に埋め込まれて い る。素朴物理学 とい うフ レーム ヮー ク理論の前 提が少 しずつ外れてい くことで、 このよ うな一連 の統合モデルが生み出 され る。  2つ の地球モデル は、知識相互が干渉 しない ように作 られ 、フ レー ム ワーク理論 は維持 され る。空洞球体モデルでは

地球 を支 えるものが不要 とな り、平 らな球体モデ ルでは不動の中心 とい う前提 もなくなるが、上下 方向に分節化 された空間 とい う前提が残 るために 平 らな部分 を必要 とす る。

このよ うに、球形 としての地球 とい う理解 に至 るにはフ レームワーク理論の変更が必要である。

この変更は困難であ り、単純に事実 を教 えれ ばす む ものではない。索朴物理学のフ レームヮー ク理 論の前提 を少 し外 し、そ こで生み出 され る誤 つた モデルに慣れ る、 とい う段階を繰 り返 して到達で きるのである。

17。sniadOuら

のこの説明が正 しい とすれば、子 どもに地球の概念 を教 えるためにこ の変化 を教授 によつて生み出す とした ら、途 中段 階の誤 ったモデル を積極的に教 えてい く必要があ るのではないだろ うか。

教育の過程 においては、誤 りを含んだ教授方法 が選択 され る場合 もある。理科 においては、溶解 や物質の状態変化な ど目に見えない ものを説 明す るために、モデルがよく用い られ る。 これ らのモ デルは、説明す る現象 との対応性が高いものか ら 低い ものまで様 々である。電池 と抵抗か らなる簡 単な電気回路における電流―電圧 ―抵抗の関係 を 教 えるときには、水流モデルや小動物モデルが用 い られ ることが多い。 しか し、用いるモデル によ つてある側面が理解 しやす くなる一方で、他 の側 面に対す る誤解 を生 じることがある

(CTentner&

Gentne■ 1983)。 Gentnerら

は、理解 とモデルの 関係 を調べ るため、電池や抵抗 を直列や並列 につ ないだ回路における、電流や電圧の大きさを判断 す る課題 を用いた。その結果、水流モデル を用い た被験者 は、電池 を直列・並列 に した回路は正 し く判断で きるが、抵抗 を直列・並列に した回路で は誤答 しやすかった。小動物モデル を用いた被験 者 は、それ とは逆の傾 向を示 した。

このよ うな用い方 によっては誤解 を生 じるよう なモデル を、それを理解 した上で教授 に用い るの は、それ によるメ リッ トの方が大きい と判断 して いるか らである。教育内容編成 において同 じ判断 がなされても何 ら不思議ではない。

5  教育内容の記述 と断片的知識アプローチ

ここまでの議論 は、知識 を単位 として行 われて

いる。教育内容 について も、理解 した /理 解 して

いないの三分法で語 られてきた。 しか し、概念変

化研究においては、学習者の理解 をどのよ うに記

述するかが大きな問題 となっている。

(7)

村 山   功

断 片 的 知識 アプ ロー チ と呼 ばれ るアプ ロー チ で は、知識 は断片 的な ものである とされ てい る。従 って 、 ここまで紹介 して きた研 究が子 どもの理解 をひ とま とま りの知識や 理 論 とい うレベル で記述 して い るの に対 し、断片的知識 アプ ローチの扱 う 個 々 の知 識 はか な り単純 な内容 しか表 してい ない。

この意味で、概念下 (sub conceptual)の 知識 と呼 ばれ るこ ともある。断片 的で単純 な知識 しか持 た な いの に複雑 な認 知や行 動 が 可能 なの は、 これ ら の断片 的 な知識 が組 み合 わ されて用 い られ るか ら で あ る。 この ア プ ロー チ の代 表 例 が 、 醸

Sessa

(1983)の提 唱す るp‐

pnmで

あ る。

p‐primは phellomeコDlogical primlt■

vesと

│ゴ

れ る要 素 知識 の短縮 形 で あ る。 これ は 、物理 的世 界 の現 象 の観 察 を通 して獲 得 され る、単純 な要 素 知識 で あ る。 た とえば、バネ を押 す と縮 み 、放す と戻 る。 この現象 を見 る ことで、人間は 「弾性J

とい うp‐primを形成 す る。弾性 のpp五m自体 は、

押 し縮 め た り引 き伸 ば した りして も元 に戻 る とい う現 象 を見 た ときに想起 され る とい うだ けの単純 な要素 知識 で あ る。 この よ うな要 素知識 は、観察 に基づいて多様 な現象か ら大量 に作 り出 され る。

先 に述べ た よ うに、個 々のp‐pttm自体 は単純 な もので あ り、 それ 単独 で複雑 な思考 を説 明す るの ではな く、p prims間の 関係 によつて説明を行 う。

そ の た めの仕組 み が、呼び 出 しの優 先度 (cllig p五 oriけ)と信 頼性 の優先度 (reliab■priOrity) で ある。

人 間が 自然 現象 を見 た とき、それ に関連 す る と 思われ るpp五

mが

呼び出 され る。いつ何が呼び出 され るか を決 めてい るのが 、呼 び 出 しの優 先度 に 基 づ くメカニ ズムで あ る。観察 された現象 に関連 す るp‐

pnmが

複数 あつて も、呼び 出 され るのは優 先度 の高 いpp五

mで

あ る。

 

しか し、p‐pttmsの び 出 しは状況 との単純なマ ッチ ングに よつて行 わ れ るた め、呼び出 された

ppHmは

必ず しもその状 況 に適切 とは限 らない。呼び 出 され たp‐prlmを使

うか ど うか を決 定す るのが 、信 頼性 の優先 度 で あ る。 同 じp‐pttmsを持 つていて も、呼び出 しの優 先度や 信 頼性 の優 先度 が変 われ ば、反 応 は異 な る

こ とになる。

この アプ ローチか ら、学習 に関 して3つの重要 な示唆 が導 き出 され る (村,2013)。

第 一 に、正 しい知識 の獲 得 を学 習 と呼ぶ こ と が多いが、個 々のp‐prim自体 について正 しい と か 間違 っている と言 うの は意味がない。物理現

象 につ いて 問 われ た とき、正 しく答 え られ た と い うのは:その現象を扱 うのに適切 なp‐

prmが

呼 び 出 され た ことの結果であ り、間違 った解答 は不適切 なp‐primが呼び出 された ことの結果で あ る。呼び出 された個々のp primが正 しいわけ で も間違 つてい るわけで もない。

第二 に、学 習 の どの時点 にお い て も、 同 じよ うなp‐primsを含 んでい る とい うことである。

科 学的概念 の獲 得 によつて、た とえ根本 的 な概 念変化 が起 きた として も、p pⅡ

msの

総入 れ替 え は生 じない。 た とえば、運動方程式 あるいはエ ネル ギー保 存則や 弾性係数 に よって 、物体 の跳 ね返 りの運動 が計算できるよ うにな つた として も、弾む とい う現象を見た ときに弾むp pttmが 働 くこ とに変 わ りはない。そ うでない と、現象

と科学的概念 をつ な ぐものがな くなって しま う。

第 二 の示 唆 は、科 学的概念 の獲 得 は学習 の終 了 を意 味 しない とい うこ とで あ る。 た とえば、

ガ ラス板 の上 に鉄 の玉が落 ちる場合 で も、そ こ に弾性 は存在 してい る。 しか し、

 

日常的 な考 え 方 では 、 この現象 か ら 「剛性」や 「壊れ る」 と い うp‐p五

mは

呼び出 され て も、「弾性」や 「弾 む 」とい うp‐pttmは呼び出 され ない。この こと は 、弾性 についての科学的概念 が獲得 され てい て も、 この場 面には適用 され ない とい うこ とを 意 味 して い る。 つ ま り、科学 的概 念 を正 しく獲 得 した と して も、 それ が必要な現象 に適用 され るか ど うかは呼び 出 しの優先度 の問題なので あ る。

(p57)

この よ うに断片 的知識アプ ローチか ら考 える と、

どの段 階で知識 を学 んだ と判断す るかが、かな り 曖味 にな って しま うので あ る。 そ うな る と、教 育 課程 にお いて教育 内容 を知識 として記 述 した場合 、 学 習者が どうなれ ば教育 目標 を達成で きたのか、

教 師 に とつて も判 断 が難 しい とい うこ とに な る。

この よ うな形で教育課程 を記述す るこ とが妥 当で あ るのか 、 どの よ うな記 述 が可能 であ るか につ い て、今後研 究を進 めてい く必要があるだろ う。

おわ りに

本稿 で は、教 育課 程編成 の問題 を教 育内容 の選 択 ・配列・ 学年配 当 とし、それ が理論 的に決 定 も しくは支援で きるか どうかを検討 した。素朴

lbll念

研 究 か ら発展 した概念変化研究の知見 に依拠 しつ つ 、3つの問題 に対 して考察 した結果、(1)学年 配 当 を発達 段 階説 に基づいて決定す るこ とはで きな

138

(8)

い、 (D教 育内容の配列を学習の階層性やそれに基 づ く課題分析 な どの手法によって決定す ることは できない、

(3)教

育内容の選択においては「誤 つた 知識」 を教育内容 として設定す る必要性があるこ と、が示 された。 これ らのことは、教育課程編成 の

3つ

の問題が、理論的 に解決できない ことを示 してい る。本稿 はあくまで も理科教育 に限定 した 事例研究であるが、 ここで示 された課題 は どの教 科で も同様 に当てはまると思われ る。

本稿 が否定 したのは、一般的な理論 に基づいて 教育内容 をいわば 自動的に選択・配列・学年配 当 す る可能性であ り、教育課程編成 において研究が 不要だ とい うことではない。一般的に決定す るこ とができないだけで、個 々の教育内容 に対 しては よ り具体的な研究を必要 とす るのは当然である。

しか し、学習指導要領の ように長期にわたる教育 課程 を編成す るとなると、個別 の具体的な研究に よって網羅す るのは不可能に近い。少な くとも、

これ までに行われた研究だけで学習指導要領 に対 応す る範 囲をカバーす ることは、内容領域的にも 対象年齢的にもまった く不可能である。

この困難 なプランを実際に実現 しよ うとしてい るのが、 ラーニ ング・ プログレッシ ョンズ と呼ば れ る運動である

(Alonzo&Go缶

als,2012;山 口・

出 口

,2011)。

これは、科学教育に関 して実際に教 育課程 を編成す る行政 と研究者が協力 して行 つて い る取 り組みである。現在は、将来の教育課程再 編 に向けて検討 中とい う段階であるが、実証的研 究 に基づいて教育課程 を編成す るために、個別 の 具体的な素朴概念研究・概念変化研究を積み上げ て教育課程 を編成す る可能性 を真剣 に模 索 してい る。 こ うした研究 を背景に持てば、た とえ教育内 容が単なる一文で記述 された として も、その研 究 に基づいてよ り明確 な達成基準 を示す ことがで き るのではないだろ うか。

(注

3)

1  実際 には、物質量、重 さ、体積の順で保存概 念が獲得 され、その背景には数量化の獲得 に関 す る段 階 が あ る と され て い る。 (Plart&

Inhelde■ 1941)

低 次 の技 能 は高 次 の技能 の学 習 に垂 直 的 に転 移 す る とい う垂 直 的転移 仮説 も、学 習 階層 説 を 構成するもう一つの柱である (福,1992)。 か し、それを含めても本稿の議論に変わ りはな

い 。

3 NGSS(Next Genera

n Sclence Standard) の策定 した 'Earth Space Sttnce Progresslon・

̀〕

ま オτる

 

ESSl B: Earth and the solar

system・ にお いて は、

68年

生 で太 陽系は重力 に よつて ま とめ られ た様 々な物体 を含 んでい る と い う内容 を学ぶ ことになってい る (NGSS Lead

States,2013,p380)。

この前段階の5年生 にお いて は、 ・PLysical Sc■ence Progressioll"  の 

PS2 A:Forces and mot10n・

お よび ・

PS2 B:

Ъ peS Ofinteractlond'の 中に、地球 の重力 は地 球 の 中心方向に働 くことが含 まれている

(NGSS

Lead States,2013,p̲375)。 この こ とは、それ以 前 には重力 が 「下向き」 に働 いてい る と理解 し て い るこ とを合意 してお り、Vosniadouらの平 らな球体モデル の 「上下方向に分節化 された空 間 とい う前提 が残 る」 とい う説 明 と合致 してい る。

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参照

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