中学校における技術科教育について(Ⅱ)
川崎晴通・四辻征雄・広瀬正美
1.緒 論
筆者らは前山において戦後の中学校教育課程における職業科から技術科への変遷をとら え,その現状と教科不振の原因,ならびにその対策について考え当面する技術科教育の問 題点について述べた。前報にも一一・部述べたように技術科教育は普通教育の一環であり,技
(1)能訓練でもなければ職業教育でもまた職業前準備教育でもないはずである。
普通教育としての技術教育はA,N, Whitheadによれば「国民教育の組織の中で必修
されるもので主なものが3つある。すなわち文学的,科学的および技術的課題である。」
と述べられている。それゆえにこのような考え方をもつてすれば系統的な基礎的理論が当 然存在しなければならないし,またその理論の系統性や仕事の順次性によって技術へとい う筋の通った教材についての学習でなければならない。しかしながら技術科教育には理論 の系統性や仕事の順次性が必要だと言っても,そこに考えられるものは,法則や理論を主 として追求する純粋科学(基礎科学)のようなものが直結するのではなく,いわゆる応用 科学とも呼ばれる工学・農学・商学・水産学等の科学的法則や理論でなければならない。
従って技術科教育は応用諸科学の法則や理論を背景にして,生活や実際の産業社会の発 展に寄与するものでなければならないと思う。
今回は新しい中学校学習指導要領実施への移行期間中でもあり,その指導要領について 特に金属加工の領域を例にとりあげその内容にどのような理論の系統性と仕事の順次性が あるのかということと,この領域の題材を前祝の結論として述べた,分析と総合のくりか えしの中で技術科教育は高められて行くのだという立場から展開してみたいと思う。
2. 新指導要領の内容と検討
昭和44年4月に告示され,昭和47年度より全面実施される新しい中学校学習指導要領の 技術・家庭(男子向き)の金属加工領域の内容を示すと次のようになる。
〔第1学年〕
金属加工
(1)主として板金で構成する金属製品の設計について指導する。
ア.模型による構想表示の方法を知ること。
イ.製作品の使用目的に即した機能,材料,構造,費用などの設計の要素を考慮し,
製作品の構想模型を作ることができること。
ウ。構造の強さを増す方法を考えること。
エ.構想模型をもとにして,組立図を第三角法でかくことができること。
オ.組み立て図をもとにして,ふち折りしろや仕上げしろを考慮して展開図をかくこ とができること。
カ・製作図をもとにして,材料の見積もり方および製作工程表の作り方を知ること。
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(2)板金材料と接合材料の特徴およびそれらの使用法について指導する。
ア.金属の塑性変型について知ること。
イ.軟鋼板,亜鉛鉄板,アルミニウム板などの板金材料の性質を知ること。
ウ.はんだ,リベットなどの接合材料の使用法を知ること。
(3)金工具の使用法およびそれらによる加工法について指導する。
ア.けがき用具を適切につかい,板金にけがきができること。
イ.たがねや金切りばさみの切断作用を知ること。
ウ.切断工具を適切に使い,板金の切断ができること。
エ.穴あけ工具を適切に使い,板金に穴あけができること。
オ.折り曲げ用具を適切に使い,板金の折り曲げができること。
ヵ.接合用具を適切に使い,板金の接合ができること。
キ.塗装用具を適切に使い,板金の塗装ができること。
(4)加工作業における測定について指導する。
ア.測定における誤差について知ること。
イ.界尺,直角定規などの用具を使って,加工部分の正確さの検査ができること。、
(5)加工作業における安全について指導する。
ア.金工具を使用する場合に起こりやすい事故と,その防止法を知ること。
イ.はんだごての安全な取り扱いができること。
ウ.板金材料の安全な取り扱いができること。
(6)日常生活における板金製品の選択について指導する。
ア.使用目的,使用条件,価格などに応じて,板金製品の選び方を考えること。
(7)金属と生活との関係について指導する。
ア.塑性加工技術の進歩について知ること。
イ.生活を豊かにするための金属の利用について考えること。
〔第2学年〕
金属加工
(1)主として棒材で構成する金属製品の設計について指導する。
ア.製作品の使用目的や使用条件に即して機能,材料,構造,加工法,費用などの設 計の要素を考慮し,製作品の構想図または構想模型による表示ができること。
イ.金属の接合法を知ること。
ウ.公差について知ること。
エ.構想図または構想模型をもとにして,製作図を第三角法でかくことができるこ
と。オ。製作図をもとにして,材料表と製作工程表の作成ができること。
(2)加工材料と工具材料の特徴およびそれらの使用法について指導する。
ア.炭素鋼,黄銅などの加工材料の性質と用途を知ること。
イ。炭素鋼,合金鋼などの工具材料の性質と用途を知ること。
ウ.同じ材質でも熱処理の方法によって性質が異なることを知ること。
(3)金工具と工作機械の使用法およびそれらによる加工法について指導する。
ア.けがき用具を適切に使い,材料にけがきができること。
イ。切断工具を適切に使い,材料の切断ができること。
ウ。やすりがけが適切にできること。
エ。卓上ボ・一ル盤や小型旋盤の構造と操作法を知ること。
オ.ドリルやバイトの切削作用を知ること。
カ.卓上ボ・一ル盤を適切に操作して,材料に穴あけができること。
キ.小型旋盤を適切に操作して,端面削りや外周削りができること。
ク.ねじ切り工具を適切に使い,ねじ切りができること。
ケ。塗装用具などを適切に使い,表面の処理ができること。
(4)加工作業における測定について指導する。
ア.ノギス,マイクロメータなどの用具を使って,加工部分の正確さの検査が的確に できること。
イ.平面,直角,平行などの工作の精度の検査ができること。
ウ.加工不良の原因を考えること。
(5)加工作業における安全について指導する。
ア.工作機械を使用する場合に起こりやすい事故について知ること。
イ.卓上ボール盤や小型旋盤の安全な使用法を知ること。
ウ.加工法に応じて材料を確実に保持できること。
(6)日常生活における金属製品の選択について指導する。
ア.使用目的,使用条件,価格などに応じて,金属製品の選び方を考えること。
(7)金属と生活との関係について指導する。
ア.切削加工技術の進歩について知ること。
イ.日常生活や産業の中で果たしている金属の役割について考えること。
以上の新しい指導要領の内容について検討してみたい。新しい指導要領も今までの指 導要領と同様に金属加工は,第1学年と第2学年に分割して指導するようになっている。
これは次に挙げる2つの理由から分割しないで,連続した学習をさせた方が良いのではな いかと思う。まず第一の理由は,金属加工学習において,板材と棒材とを別々に取りあつ かうことによって,あたかも何か特別な違いがあるような印象を与えることには問題があ る。材料学的にみれば本質的な差異はないのである。一つの例として曲げ加工を挙げ説明 してみよう。すなわちうすい金属材料を曲げる場合と厚い金属材料を曲げる場合とには材 料学的な立場かちみれば,うすいものから厚いものへと連続的に厚さが異なっているだけ で,その厚さによる加工法の差異はあっても,金属板を曲げることについての本質的な差:
異はないのである。また切断を例にとってみても,例えばShearを使って板金を切断す る場合,板材の厚い,うすいというような違いは切断の理論からいえば,全くないのであ る。ただShearに加える力が大きいか小さいかの点で違;うだけである。
次に第二の理由であるが,分割してあっかわれることは,指導ということから考えて も,同じことを2碧くりかえすことが多くなり,ひじょうに内容の重復が考えられ,時間 的なロスが大きいのではなかろうか。例えば新しい指導要領の内容にも出ているが,金属
加工領域の大項目の(4)(5)(6)(7)は第1学年と第2学年は字句も全く同じものであり,小項.目が幾分異なっているが,本質的には同じようなことを書いてあるように思う。
82 長崎大学教育学部教育科学研究報告 第17号
以上の理由でどうしても金属加工として,連続した学習展開が必要だと主張したい。そ れにともない領域のくみかえが問題になると思うが現実に許された最上の領域編成として 二筆者らは次のように考えた。
第1学年 製 図・木材加工 第2学年 金属加工・機 械 第3学年 栽 培・電 気
勿論この領域編成にも問題点は残されていると思うが一応一つの試みとして掲げた。こ の考え方のもとに新しい指導要領の金属加工領域の学習内容について第1学年と第2学年 のものを大項目について要約すると
(1)金属製品の設計について指導する。
(2)加工材料・接合材料・工具材料の特徴およびそれらの使用法について指導する。
(3)金工具と工作機械の使用法およびそれらによる加工法について指導する。
〈4)加工作業における測定について指導する。
㈲ 加工作業における安全について指導する。
〈6)日常生活における金属製品の選択について指導する。
(7)金属と生活との関係について指導する。
以上の7項目になる。ところがこの7項目の内容を金属加工学的な立場から考えてみる 乏学習場面での比重のおき方には加減をする必要があるのではないだろうか。
筆者らは罪報において,技術科教育の目標は「分析と総合をする態度を養う。」教科だ ということをくりかえし述べてきた。勿論このことは,中学校教育における技術科の位置 づけと同じ意味をもっているのだが,本報でも勿論それが中心である。つまり金属加工学
:習を通して「分析と総合をする態度を養う。」ということである。このようなことから新 しい指導要領の要約項目(1)(2)(3)の内容というのは金属加工の学習を進めて行く上で,ぜ ひ必要な知識や技能を含んでおり,またその3つがこの学習の中心になっていると思う。
次に要約項目(4)(5)は金属加工領域にかかわらず,他の領域にも共通する目的であり,金属 加工を学習する上においては当然知っておかなければならないことだと思う。つまり金属 加工領域だけの基礎的な事項ではないということである。また要約項目(6)(7)はもっと多
くの要素と共に考える必要があり,そこには社会的・経済的な感覚が入りこみ,金属加工 学習の結果として期待される内容ではなかろうか。だからと言って(4)⑤(6)(7)の内容を無 意味だと断定している訳ではなく,7項目の内容が並列的にら列されていることが技術科 の性格をあいまいなものにさせている一つの原因ではなかろうかと思うのである。
以上のような基本的な考えのもとに以下(1)(2)(3)の内容について,中学校段階での金属 加工学習の範囲と要素を考え,それをもとに,具体的な展開例を示してみよう。
3.中学校技術科教育の中の金属加工領域の範囲と要素
金属加工学という大きな学問体系の中に,中学校で義務教育を受けている段階の生徒に
指導しなければならない事項を限定することは容易なことではない。また範囲は定まって
も,どの程度教えるのかという深さについてはなかなか断定はできない。そこで筆老らは
中学校における技術科教育について(皿)(川崎・四辻・広瀬)
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長崎大学教育学部教育科学研究報告 第17号この表では[コの中に書いているのが範囲(幅)を示し,それらを関連づけた矢印の 横に書いているのが要素(深さ)を示す。勿論上記の表では,何かを作ろうと決意してか
ち設計をしょうとするまでの段階だけを示している。
4.展 開 例
現在の工場での生産方式をみてみると,設計者は製品の機能や形態に応じた強度を計算 し,それに対応できる材料を選択して,完成図,組立図,部品図等を作っている。設計者 は実在の材料や工作法についてのかなりな能力や知識を持っているはずであるが,それで
も製図が生産に結びつかないことがあり,設計変更や,やり直しの事態がたびたび生じて
くヨいるのが現実である。この点を考えると,新しい指導要領には「……機能・材料・構造・
加工法・費用などの設計の要素を考慮し……」とあるが,それらについてはほとんど学習 経験のない段階の生徒がどの程度考慮できるのか,理解に苦しむところである。
以上のようなことから筆者らは設計というのは色々なことを学習した後にくるべきだと いう立場から,製作学習の展開を次のように考えた。
材料の理解をする一→加工法の理解をする一→設計をする一→製作をする一→製品の 評価をする一一・反省をする。
つまり前に示した表もこのような意図で作った展開例である。表では左の方に比較的平 易で簡単なものを,右の方へ展開されるに従って幅も広くなり,深さも増すように表わさ れ,学習は矢印の方向に展開されるべきであるが,それぞれの範囲や要素は互いに関連し ながら,次第に総合されて,右の方へ進むことが望ましい。
またこの表は全体が分析した項目を表わしたもので,それらが総合されて始めて設計と 製作が行なわれる段階にくることを示している。
以上この表をもとに分析と総合ということを一本の筋とした金属加工領域の学習展開の 一例を述べてきたが,もちろんこれが最上のものではなく,今後更に検討を加えて,範囲 や要素全体に構造的なつながりを増させたいと考えている。
以上述べたことを要約すると,「分析と総合をする態度を養う」ということが技術科教 育の目標であるという考え方のもとに新しい指導要領が示された機会でもあり,その事を 中心に教材の展開を試みてみた。くりかえすことになるが,もう一度筆者らが主張したい
ことを箇条書き的に挙げてみると,
①金属加工の学習はその性格上薄板金・厚板金・棒材などと分割して指導すべきでは なく,できれば同一学年で連続した学習を行うことが望ましい。
② 新指導要領については,要約項目(本甲のみ)内容の(1)(2)(3)が金属加工領域の学 習上最も中心になる内容であり,(4)(5)は他の領域と共に考えなければならない付帯的 な要素をもっている。また(6)(7)は学習の結果,期待される事項であり,この領域の一 分野はになうとしても,あまり重点をおく必要はないと思う。
③分析と総合をする態度を養なわせるためにをま,指導する側は,その領域の学問体系 を十分に把握しその中に,中学校段階での生徒に学習させなければならない範囲(幅)
と要素(深さ)をはっきり限定できるような努力をし,常に高い次元で生徒に接する
必要がある。
以上一つの試案として述べて来たが,現今の技術革新の速度はいちじるしく,複雑な機 講を持つ機械や,精巧な働きをする機器が日常生活の中にたくさん入りこんでいる。こう いう進んだ社会に生活する我々は,これらに対処するためには常に分析と総合をする態度 でのぞむことが必要ではないだろうか。
コ
今後技術科教育の目標を「分析と総合をする態度を養う。」ということから考えれば,
かならずしも指導要領に示されいてる6つの領域に限定する必要はないように思うし,そ れについても検討を加えてみたいと考えている。
最後に種々の助言をいただいた本学部付属中学校の渡辺,松本両教諭に謝意を表する次 第である。
参 考 文 献
1)広瀬正美,川崎晴通:長大教育科学研究報告1968,P.73