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中学校における技術科教育について(Ⅰ)
広瀬正美・川崎晴通
1.緒 論
昭和33年中学校の教育課程の中にはじ,めて,技術・家庭の教科が新設され,男子生徒に
.対しては工的内容を主とする技術科の学習が行なわれることになった。この教科の目標と
して
生活に必要な基礎的技術を習得させ,創造し生産する喜びを味わわせ,近代技術に関す る理解を与え,生活に処する基本的な態度を養う。
とある。しかし,この表現からでは技術科の教育目標が家庭生活の合理化にあるのか,単 なる技能者の養成につながるものなのか,あるいは近代技術に適応させるための科学技術 教育の一環を担うものなのかが明らかにされていない。しかし,昭和42年公表された「中 学校の教育課程の改善について」の中で「中学校教育のねらい」として
近年における中学校教育の実態,科学技術の高度の発達,経済,社会,文化などの急激:
な進展,および最近における生徒の心身の発達におけ る傾向などをじゅうぶん考慮し,
さらに将来に対する広い展望のうえに立って,つぎの点に留意して中学校教育課程の改 善をはかる必要がある。
.とあり,また
社会的使命の自覚を促すとともに,将来の進路を選択する能力の育成を目ざし,とくに 自己の個性,能力,特性などの理解,社会連帯の意識や進んで公共に奉仕する態度の洒 養,職業についての基礎的な知識や技能の修得および勤労を尊重する態度の育成を強調 すること。
とある。このことからも技術科教育の内容は科学技術教育の一環であり,すべての職業に 共通な基礎的知識,技能の習得を目的としたものでなければならない。
科学技術教育(1)は欧米の先進国では古くから体系的に行なわれてきた。たとえばアメリ カでは「科学技術者拡充委員会」が設置され,科学技術者の養成の拡充と,その効果的な 活用が行なわれた。イギリスでは「技術教育白書,1965年」が発表され,従来の2倍もの 技術教育拡充計画を立てた。ソビエトでは「第6次5箇年計画」で技術者65万人が社会に 送り出されることになった。かような先進国に於ける技術教育が刺激となってか,我国に おいてもようやく「産業教育振興法,昭26」や「理科教育振興法,昭28」が制定された。
さらに「科学技術教育の振興方策について,昭32」の答申などが行なわれ,その結果,科 学技術教育の振興も広く認められるようになった。しかしながら,一方,我国においては 古くから支配階級が被支配階級に対する優位性を保つために,支配者である精神労働者と
被支配者である技能労働者との間に差別的な国民感情が長く伝統的に存在し,科学とは関 係の浅い技能が経験的なものの積み重ねで発展してきたように思われる。こめことが明治 以来日本の教育に深く根ざしている立身出世主義とつながり,専門的な職業教育,また一 般教育としての技術教育が軽視される思想となり,知識的な普通科目が技能的な技術科目
より優先すべきであるという考え方となっているようである。
実際に,最近社会的問題となっている鉄道事故や交通事故の例をとってもこのことがはっ きり考えられる。その原因として運転者の質の低下,安全装置の不備,過密ダイヤの強行,
管理体制の不備等があげられているが,はたしてそれだけの問題が解決されたとしても事 故を防ぎきれるであろうか。我国にはさきに指摘したように技術や技能があなどられる傾 向にあり,これに立身出世主義がむすびついて,現実の業務に熟達するよりも管理職への 道をいそぐ傾向があり,これらのことも事故発生の大きな原因となっていると思われる。
またヨーロッパの機械文明は長年の歳月と多くの人の努力の結集によるものであるから機 械とそれを使用する技能者との間に無理がすくなく,社会も技能を軽視しない。しかし,
我国に於ては機械文明はつくり出されたものではなく,明治以後導入され,模倣により利 用されているに過ぎない。人間が発見し,作り出された機械の機能をみずから知り,人間 の能力の多様性と限界をはっきり知ることが必要であり,この様な努力がなくては安全で 事故の無い社会は考えられない。
この技能軽視の風潮は国民教育の基礎的な役割を果すべき義務教育の課程にも見られ,
戦後科学技術教育の振興が叫ばれたにもかかわらず,国語,社会,数学,理科等の知能教 科にくらべて技能を中心にして教えこむ技術教育は重んじられていない。それはそれなり の理由があると思われるが,本稿においては,まず戦後から今日まで中学校教育で行なわ1 れた技術教育の変遷をとらえ,次に技術科教育の現状と対策につて考え,技術科教育のあ
るべき姿,現代化等について考察してみたい。
2.戦後における中学校技術教育の変遷
戦後の技術教育(2)はまず職業科として発足したが,この教科ほど変遷iのはげしかった教 科は珍らしいと言わなければなるまい。中学校の教育課程が変るたびに大きく3度の手直
しを受け,名称だけについても 職業
科 職業・家庭科 技術・家庭科 職業科
家庭
と変っている。したがって,大多数の現場教師にとって「一体なにを,どれだけ教えたら よいのか」という疑問が起ってくるのも当然かと思われる。
まず,職業科という教科名が戦後の教育にはじめて現われてきたのは,昭和21年(1946)
に「米国教育使節団報告書」(第一次)が連合軍最高司令官に提出され,同年総司令部から 発表された「日本の教育の目的および内容」の章の中で次のように述べられてからであるひ 日本は,その家屋,都市,工場および文化施設を再建するために,教養ある頭はもちろ ん,熟練せる手をも必要とされる。日本における民主主i義の保証としては,一団の熟練 せる,職についての,見聞の広い労働者にまさるものはない。じゅうぶんに訓練された 職員の指導のもとに,各種の職業的経験を生徒に与えるべきである。
さらに「国民学校および中学校の教育行政」の章においては
下級中学校には職業面(Vocation)を探究してみるような機会を取り入れるべきである。
と述べられている。さらに総司令部民間情報教育局の助言によって文部省内にできた「職・
業教育並職業指導委員会」がこの「教育使節団報告書」によって指摘された問題を審議し
「新制中学校の職業科について」の意見答申を行った。
中学校における技術科教育について(広瀬・川崎) 75
} 職業科の目標
1。 日本再建の基礎となる産業の発展につくそうとする熱意をもつようになる。
2.いろいろの職業や就職,進学についての基礎的知識を得る。
3.社会生活における職業の意義を理解し,勤労を愛好し,これに心身を打ち込む態度:
を身につける。
4.真理を探究し,これにしたがおうとする態度および職業,職業生活についての研究 的態度を身につける。
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
璽 1.
2.
っていなければならない。
3.職業科はその内容として,将来の進路決定に役立つような多方面な職業への準備が 計画されていなければならない。
4.職業に関する知識と実習とが分離してはならない。
5.実際社会が要求する職業の基礎的知識,技能を身につけさせるのであって,将来か・
ならずしもその職業にしたがわせようとするものではない。
以上の内容からも考えられるように名称は職業科であっても内容的には職業指導が主目 標であり,技術の指導や技能の訓練は職業選択にあたり生徒が適応性を見出すための試行 過程であり,現在のいわゆる進路指導の教育が主流を占めていたのである。これはもとより その当時の総司令部民間情報教育局(CI,E)の担当官を通して,アメリカのIndustrial artsの手工業的傾向,ならびに職業指導的傾向の影響が強くあったものと言われている。
昭和22年後半「学習指導要領一般編(3)」に続いて「学習指導要領」職業科農業編,工業.
編,商業編,水産編,家庭編,職業指導編と合計7冊が刊行された。これら各冊の共通の まえがき,「中学校の職業科について」の中には次のように述べられている。
人が社会の一員として,その社会の発展のために力を合せることは,まことに欠くこと のできないところである。このような社会の発展への協力を具体的に考えると,職業生 活はじつに大切な意味をもっている。人は職業の社会生活における意義と貴さを自覚 し,これに必要な知識や技術を身につけ,そうしてそこに自らのあらん限りの力をつく して忠実にこれを営むことで,りっぱな職業人となり,これによって社会の発展に協力 することができるのである。だから,これから,このような社会の一員とならなくては ならない青少年に対して,勤労の精神を養い,職業の意義と貴さとを自覚するようにし また職業を営むために必要な基礎的な知識や技術を身につけるようにすることは,教育 の大きい目標とならなければならないのである。
職業についての基礎的知識と技能および応用の能力を身につける。
物を大切にし,その働きを活かそうとする熱意をもつようにする。
事実,実物に即して工夫する態度を身につける。
経済生活の基礎となる正しい見方,考え方を身につける。
日常の実際生活に必要な知識,技能を身につける。
職業人としての個性の自覚,および伸長をはかる。
適正な職業相談,紹介斡旋,補導をうける。
職業科の取扱上の根本方針
職業科の教育は職業に関する一般陶冶でなければならない。
職業科の実習は単なる職業訓練ではなく,試行課程(Try out)、としての性質をも
中学校の職業科は,まず生徒が勤労の態度を堅実にすることを第一のたてまえとし,さ らに職業生活の意義と貴さとを理解させ,将来の職業のある程度きまっているものや,
ある仕事を特に希望するものに対しては,ヒの上のやや専門的な知識や技術を学ばせる ようにすべきであろう。必修教科としての職業科は,この前の趣旨により,選択教科と しての職業科はおおむねこの後の趣旨によって設けられたのである。
中学校め職業科は,このような目標をもっているものであるから,ただある種の観念や 知識をあたえるのは不適当である。どこまでもちみちな仕事をとおして,生徒の経験の 基礎をかため,どうしたら仕事がうまくいくか,どういう態度が必要か,どういう考え 方がたいせつか,といったことをつかませることがもっとも肝要である。そうして,そ の上に広く職業についての展望をもつように導く必要があるのである。
このように,ここでは戦前の実業科教育時代の勤労主義が強く残っており,また,前述 のように,職業指導の考え方が強調されているのである。戦前の教育制度はいわゆる複線 型であり,高等小学校における実業科教育は卒業後ただちに就職するためのものであっ た。したがって,中学校においても進学指導が高等学校進学希望者のためのものであり,
職業指導をふくむ職業科は就職希望者のためのものであるとの印象をあたえ,このことが 現在まで技術科教育の目的をあいまいにさせ,混乱させている大きな原因の一つであると 思われる。そこには,あくまで就職希望生徒への職業指導の面が強く職業前教育が職業科 の使命であった。職業科は科学技術振興の期待外におかれ,科学技術不在の教科であっ
た。
さらに昭和24年5月,文部省学校教育局長の通達「新制中学校の教科と時間数の改正に ついて」が出た。その中の「職業科及び家庭科について」では次のことが記されている。
1.必修教科としての職業科は,特定の職業についての専門的な知識や技術の教育をす るのではなく,全生徒に社会に必要な各種の職業についての,基礎的な知識技能の啓 発を主眼とすること。
2.職業科は職業指導と相まって,生徒個々の興味,適性,能力の発達を促し,生徒が 将来の進路を適切に選択する能力を啓発するとともに,生徒の必要と社会の要請にこ たえ得るように計画すること。中学校をもって正規の教育を終ろうとする生徒には職 業を得るのに有用な知識と技能を与えるのがよい。
この通達の中に見られることは,前述の学習指導要領にも述べられたように,職業科は 職業についての専門的な知識や技能を教育するのではなく,職業指導に必要な適性発見の ための機能的ないくつかの生産技術や消費技術について,啓発的経験を試行することとな っており,若干の相異はあっても本質的な差は認められない。
さらに同年,教育刷新審議会が設置され,「職業教育振興方策」が建議された。その中 では,新制中学校における職業科の教育がもっとも混乱していることを指摘している。
新教育制度の実施により,一般教育の点においては画期的刷新が行なわれ,進歩改善の 跡をみるが,職業教育に関しては大いに見劣りせられるものがあり,職業教育振興の 要,真に今日より急なるはない。
新制中学校においては職業科の教育は混乱を来し,新制高等学校においては普通科教育
に偏して,職業教育は衰微の傾向を示している。定時制高等学校ならびに技能者養成の
制度も一般に使用されるに至らず,職場における教育もまた不振を極めている。
中学校における技術科教育について(広瀬・川崎) 7τ
新制中学校における職業科の教育は,その普通教育機関たるの使命にかんがみ,職業生 活に関する理解と,勤労愛好の精神とを養うことに主眼をおき,もっぱら職業人たる根.
幹を培うことにつとめること。上級学校における生徒ならびに父兄の,普通教育偏重の 傾向にかんがみ,特に新制中学校において,職業指導の徹底を期すること。
この建議から感じられることは,中学校の職業科が職業指導を主とすることに,いささ かの疑念ももたず,もっぱら現場教師の努力に期待していることであり,その方策の中に おいても,戦前の勤労主義的な実業教育の教科としての性格が強く残されていることであ る。そこで当時の情勢をふりかえってみながら問題点を指摘してみたい。
中学校は義務教育の最終課程であるから,その課程において,生徒が自己の適性を発見 し,職業に理解をもち将来の職業選択にそなえることは,きわめて重要なことである。し かし,現実的には高等学校,特に普通課程に進学する生徒にとっては,職業選択は高校入 学後の問題であるから,中学校の職業指導は無縁のものであった。また就職する生徒にと っても適性に応じた職業につくことはむずかしく,職業選択は企業の大小,給与の多少等 によって決定されることが多かったのである。
第二の問題点として考えられるのは当時の職業科担当教師についてである。当時の職業 科担当教師は旧青年学校から転任した農業技術の専門家が多く,他の分野の啓発的経験の 指導には無理があったし,またいかに努力しても広範囲の各職業内容に通じることは不可 能に近かった。
第三の問題点は職業科の内容としてもるべき必要最少限度である。学問的形態をもつ教 科においては可能であるかも知れないが,当時数千種類といわれた職業の職務内容を分析
し,技能的なものを体系化することは不可能であった。
第四の問題点は家庭科を包含している点である。生産技術を主体とする農業,工業,水産:
業と流通技術を主とする商業だけでも複雑きわまりないのに,生活技術を主とする家庭科 が加わっているのであるから,目標も不明確となり,混乱がおきたのは当然かも知れない。
昭和24年12月,文部省初等中等教育局長通達「中学校の職業科および家庭科の取扱につ いて」が出された。この通達によって,後の昭和26年版の「学習指導要領」の基礎が出来一 たのである。そして,その中において,始めて「職業・家庭科」が誕生した。その性格と
目標は次のようなものであった。
1.中学校における職業・家庭科は実生活に役立つ仕事を中心として,職業生活,家庭.
生活についての理解を深め,実生活の充実発展をめざして学習するものである。
2.職業・家庭科の仕事は,啓発的経験の意義をもつとともに,実生活に役立つ知識,
技能を養うものである。
3.職業・家庭科の学習内容は,地域社会の必要と,学校や生徒の事情によって特色を ものものである。
さらに
1.実生活に役立つ仕事をすることの重要さを理解する。
2.
3.
4.
5.
実生活に役立つ仕事についての基礎的な知識技能を養う。
協力的な明るい家庭生活,職業生活のあり方を理解する。
家庭生活,職業生活についての,社会的,経済的な知識理解を養う。
家庭生活,職業生活の充実向上をはかろうとする態度を養う。
6.勤労を重んじ,楽しく働く態度を養う。
7.仕事を科学的,能率的に,かつ安全に進めようとする能力を養う。
8.職業の業態,および性能についての理解を深め,個性や環境に応じて将来の進路を 選択する能力を養う。
ここで登場してきた「職業生活」についてはその意味が明確でない。しいて考えれば職
・場におげる人間関係ともうけとられるが,もしそうだとするならぼ,後退してその名も進 路指導と改められた職業指導やいわゆる職業前教育の目標とどのように関連づけるのか理 解に苦しむところである。また仕事については生活技術が主体になっているが,はたして これだけで進路指導のための啓発的経験となり得るかは疑問である。ただ目標の一一部に見 られるように,科学的な技術教育の芽がはじめて出てきたのは注目すべきことと思われる。
昭和26年7月「学習指導要領,一般編(4)」 (昭和26年改訂版)が出された。その中の
「教育課程」の「家庭ならびに職業に関する教科」には
このような発達の段階にある生徒が実際の仕事を行ない,家庭生活,職業生活の基礎と なる知識の理解や,技能,態度を養うことは,中学校をもって正規の学校生活を終る者 にとっても,きわめて必要なばかりでなく,上級の学校に入学する者にとっても,きわ めて必要なことである。そこでこのような仕事と,その仕事に関連して指導したほうが 都合のよいいろいろな教育内容とを一つの体系として指導しようとするのが中学校の職 業・家庭科のねらいである。
と述べられている。その中には実生活に役立つ仕事をし,勤労を重んじる精神があり,個 性や環境に応じて将来の進路を選択する能力を養うことを目的としている。そして,カリ キュラムは生活カリキュラムをとり,方法はプロジュクト法を主としてとっているが,こ れが今日の「物つくり主義教育」の原因をつくったともいえる。そこにはまだ科学技術教
育の一一環としての技術教育に関するものは,少しも見いだれていない。
さらに昭和26年6月に「産業教育振興法」が公布され,それにもどずいて中央教育審議 会が,職業・家庭科を改訂するために,昭和28年3月に「中学校職業・家庭科教育の改善 について」を文部省に建議し,さらに翌29年10月には, 「中学校職業・家庭科の教育内容
・について」が建議された。これがもとになって文部省は「中学校職業・家庭科の改訂要項
(案)」を発表した。
この「中学校職業・家庭科教育の改善について」の中では,職業・家庭科の性格として 次のようなことが,かかげてある。
(1):職業・家庭科は,職業生活および家庭生活における基礎的な技術の習得,基本的な 活動の経験とともに,それを通じて国民経済および国民生活に対する一般的な理解を 養うものであり,共同的な労働の訓練を重要視して,技術的,実践的な態度を養うも のである。
この基礎的な技術,および基本的な活動は,日本の国民経済および国民生活の向上 改善に役立つものでなければならず,その中にひそむ原理や法則を理解して,それを 合目的,実践的に用いる能力を養い,さらにその社会的,経済的意義を理解させる。
〈2)職業・家庭科は義務教育としての普通教育の教科である。したがって必修としての
この教科は,直接に特定の職業への準備をするものではなく,将来の進路にかかわり
なく,男女すべての生徒に課せられるべきものである。
中学校における技術科教育について(広瀬・川崎) 79
しかし選択としてのこの教科においては,生徒の必要に応じて,特定の職業への準 備教育を行うことができる。
ここではじめて,原理や法則の理解,基礎的技術の習得などの,科学技術教育としての 考え方が多少出てきている。しかし,この建議については,文部省は改訂の措置をとらず,
審議を継続したにとどまった。
昭和31年5月「学習指導要領,職業・家庭科編(5)」昭和32年度改訂版が刊行されたが,
これは前回の昭和26年度版を整理したにとどまり,その性格や目標は改訂されずに過ぎた のである。
以上のような情勢の中で,世界的規模で展開された技術革新と,それにともなった科学 技術教育の再編成の影響をうけ,我国においても科学技術教育の振興が強力に推進される
ことになった。
昭和32年11月,中央教育審議会は文部大臣に対して「科学技術振興に関する答申」を行 い,また昭和33年3月,教育課程審議会は「小学校,中学校教育課程の改善について」を 答申した。この中で,
科学技術教育の向上については,小学校,中学校を通じて,算数科,数学科,理科およ びその他の関係教科の内容を充実し,特に中学校においては,数学科および理科の指導 時間数を増加し,かつ技術科を新たに設けて,科学技術に関する指導を強化すること。
①現行の職業・家庭科(必修)を改め,これと図画工作科において取り扱われてきた 生産的技術に関する部分を合わせて技術科を編成すること。
②内容に2系列を設け,男子向には工的内容を中心とする系列,女子向には家庭科的 内容を中心とする系列を学習させること。
③理科との関連において内容を精選し,系統的学習ができるようにすること。
④技術科教育の効果を高めるため,教員養成と現職教育の強化徹底を図り,施設設備 の整備に努める必要があること。
となっている。ここではじめて科学技術教育の一環である技術科が誕生したわけであり,
理科との関連において,系統的学習ができるようになった。
しかるに,昭和33年10月に公表された「学習指導要領」ではその目標として,
〔第1学年〕
設計,製図,木材加工,i栽培に関する基礎的技術を習得させ,考案設計の能力を養うと ともに,技術と生活との関係を理解させ,ものごとを合理的に処理する態度を養う。
〔第2学年〕
設計,製図,木材加工,金属加工,機械に関する基礎的技術を習得させ,考案設計の能 力を高めるとともに,技術と生産の関係を理解させ,生活の向上と技術の発展に努める 態度を養う1。
〔第3学年〕
機械および電気に関する基礎的技術を習得させ,近代技術を活用する能力を養うととも に,近代技術と生産や生活との関係を理解させ,生活に処する基本的な態度を養う。
とあげており,理科との関連における系統的学習に対する特別な配慮は見あたらない。す
なわち,科学技術教育の基本である自然科学的基礎の裏づけのある技術の学習はまったく
はいっておらず,教科が手工業的,工芸的である。その結果として,低度の技能が訓練さ
れるにすぎず,このことは根本的な欠陥といわなければならない。しかしながら,職業・
家庭科の時代に比べると,教材が整理されており,工的な生産技術に重点がおかれている 点は,今までのものに比べて大いに改善されているわけである。
3.科学技術教育と中学校に於ける技術科教育
教育課程における融科には,それぞれの教科の背景となる学問体系がある。たとえば,
社会科には社会科学,理科には自然科学がある。そして教師はそれらの学問体系をふまえ て生徒の実態に応じた指導を行ってこそ充分な学習効果をあげることができるのである。
技術胎教育め大部分をしめる工業技術に対応するものは工学である。この工学もまた自然 科学を基礎としている。もちろん,自然科学の理論,法則だけでは工学は成立しない。
又工学の内容だけでは,中学校に於ける技術科教育の問題は解決できない。三者の間には.
深い関係がある。したがって,技術科教育は工学を中心として,自然科学の理論,法則の 知識と実際の工業技術との間で分析と綜合をくり返す教科であるといえよう。
たとえば,我々は日常生活において,また研究生活上で写真i撮影を行なうことが多い◎
このような写真機を使用する場合,どうしても鮮明な写真が撮れないことがある。カメラ の構成を考えるならば,レンズ,絞り,シャッター,ファインダー,ピントグラス,フィル ム等でありこれらの個々の特性,相互関係,および使用上の技術が全体として撮影結果に 影響することとなる。普通の写真機に用いられるレンズ系においては,像空間では焦点深.
度の深さは最良位置の手前およびその前方とが同じであるが,物空間では被写体深度は最.
良のピント位置より深くなっていることは知られている。しかし,実際の写真機は上記の ようになっているが,それによっては,被写体の映像が最良の結果として得られないこと もある。このような問題はどのように技術教育の中で取扱われるべきか検討して見よう。
先に,著者の一人は,被写体の写真を実際に撮って,簡単に偏りの概況を調べる方法を 創案し,それによって市販の写真機の被写体深度の偏りを実際に調べ,写真機によって差 異のあることを報告した(6)。このように,写真機は被写体の様子によっては撮影の条件を 補正する必要がある。そのため写真機について,いろいろと構造を分析し,その結果に応 じて,撮影条件を変える必要が生じる。このようにあらゆる角度から検討し,ふたたび綜 合するやり方は技術向上の常道である。しかも光学,写真工学などの原理,法則がその裏 づけになっている。
まず,写真第1図に示すような,1辺25㎜の正方形の厚紙に数字10,9,8,……1,0,
一1,……一8,一9,一10と記したものを支柱棒21本の先端に取りつけた。これを被写
体(S)とする。
この被写体(s)を研究室にある市販のカメラAsahi pentaxとNikon(F:1.8)で撮影 した。この場合,被写体(s)と写真機のレンズとの距離(被写体距雑ω)は約80㎝,100cm,
120㎝,200㎝の4種に変えた。それぞれの距離において,たとえば,数字10の板に焦点を 合せて絞りを開放,F2.8,:F8, F16と順次に絞って行き写真を撮る。このようにして,
1つの被写体距離において84必ずつの写真を撮った。依って,1つの写真機で総計約34α 枚の写真を撮った。この場合,写真撮影の露出時間は被写体の明るさ,および絞りによっ
て11。。柵たは虚少,210軌蕊概1秒に圃
中学校における技術科教育について(広瀬・川崎) 81
第 1 油
蝉凝詳
71
第 2 図
上記のようにして撮った写真フィルムを虫眼鏡で拡大して見て像の鮮明なものと不鮮明 なものとに見分けた。第2図に示すものはその写真の一例である。ここで○印は鮮明と判 定した数字板,Cの字はピントを合せた数字板である。
このようにして,約340枚の写真フィルムの内,被写体距離と絞りが一一定のものについ て,ピントを合せた数字板から一定の距離(d㎝)にある数字板の内,鮮明に撮れたもの がいくらあるかを百分比(A%)で求めた。
以上のような方法で,求めたAとdとの関係を横軸にd(cm),縦軸にA(%)を取っ て図示した。第3図に示すものはAsahi pentaxカメラの場合である。被写体距離200㎝,
}一・・一・・一・・
ノ ノ
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(F1.8の正しい偏り)
\
(F1.8) (F2・8) Z
一20−15−10−50510
第3図Aとdの関係図(被写体距離200cm)
d6ncm)
絞りF1.8(開放) (点線)びおよび絞りF2.8(実線)で前記の被写体を撮ったものであ
る。なお図中一・・一で示すものは絞り開放の場合の理想的な被写体深度である。なお横軸
の原点はピントを合せた数字板の位置で正の側はピント合せた位置より前方,すなわちレ
ンズの反対側である9この鮮明に写る度合100%のものの存在する広がりたとえば開放の
場合13cm,絞りF2.8のとき16cmをこの写真機の被写体深度と見なした。これら二つの被 写体深度を見るにいずれの場合も著しく異常な偏りをしている。
この実験方法で市販のAsahi PentaxとNikon Fの被写体深度を調べた。第4図,第
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第4図 Aとdの関係図(被写体距離100cm)
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100 、 覧 75
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