酒石酸エステルを活用する不斉付加環化反応および 不斉求核付加反応
著者 猪股 勝彦, 宇梶 裕
著者別表示 Inomata Katsuhiko, Ukaji Yutaka
雑誌名 有機合成化学協会誌
巻 56
号 1
ページ 27‑37
発行年 1998‑01‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/3714
総合論文
酒石酸エステルを活用する不斉付加環化反応および不斉求 核付加反応
猪股勝彦*・字梶裕*
DevelopmentoftheAsymmetricCycloadditionReactionsandAsymmetricNucle‐
ophilicAdditiOnReactionUtilizingTartaricAcidEsters
KatR11hikoINoMATA*andYutakaUKAJI*
lnordertodevelopapracticalmethodfortheconstructionofchiralmolecules,wehavedesigneda novelchiralsystempossessingtwometalcentersutilizingtartaricacidesters:thatis,iftworeactants areboundtothetwometalcentersofadialkoxidederivedfromtartaricacidester,theymightbeideally orientedand/oractivatedbythemetalsandthesubsequentreactioncanproceedinanenantioselective mannertoaffordthecorrespondingopticallyactiveproducts.Accordingtothisworkmghypothesis,
wecoulddevelopanasymmetricSimmons-SmithreactionUasymmetric1,3-dipolarcycloaddition reactionsofnitrileoxidesandnitrones,andanasymmetricnucleophilicadditionreactionofdialkyl‐
zincstonitrones,
Keywords:Tartaricacidester,Twometalcenters,Asymmetric,Simmons-Smithreaction,1,3-
Dipolarcycloadditionreaction,Nucleophilicadditionreaction
の場合,酒石酸と対応するアルコールを酸触媒存在下,
縮合させることにより1段階で合成でき,最も入手しや すい化合物のひとつである。酒石酸エステルをはじめと する酒石酸の誘導体は,これまでにも不斉合成反応にお いてしばしば利用されてきた。・酒石酸エステルを用いた
不斉合成反応としては,香月一Sharple§sエポキシ化反
応が最も有名な反応のひとつであるが'),この他にもア リル化プロパギル化反応2),シアノヒドリン化反応3),チオールなどの求核試剤によるエポキシドの開環反 応4),Diels-Alder反応5),さらにはSimmons-Smith反 応6),スルフイドの酸化反応7)などがあげられる。酒石酸 アミドを用いた反応としてはアリル化反応8),Simmons- Smith反応9)が,また,酒石酸のモノアシル体から調製 されるキラルアシロキシポラン触媒によるDiels-Alder 反応'0),アルドール反応l0cJ1)が報告されている。また,
酒石酸で修飾したニッケル触媒による水素化反応'2),酒 石酸の金属塩を用いたエポキシドの開環反応なども報告 されている'3)。その他,酒石酸エステルから数段階を経 て合成することのできる2,3-ブタンジオール誘導体M),
1,4-ブタンジオール誘導体15),1,4-ブタンジアミン誘導 体'6)を不斉源とする反応まで含めると,多数の不斉合成 1.はじめに
天然には有用な生理活性を示す光学活I性有機化合物が 数多く存在し,それらの生理活性は不斉炭素の立体化学 に大きく左右されることから,構造活性相関の探究なら びに新規医薬,農薬の開発には,任意の立体化学を有す る不斉炭素の精密かつ高効率的な構築法の確立が必要不 可欠である。ここで,両鏡像体ともに入手容易な化合物 を不斉源として用いて特異的なキラル反応場を設計する ことができれば,任意の立体化学を有する光学活性化合 物の合成のための有力な手法を提供することになると考 えられる。現在両鏡像体ともに入手容易な化合物は,ア ルコール類,カルポン酸類,アミン類をはじめとしてか なりの数に上る。アミノ酸は一般に天然型以外は入手困 難と思われがちであるが,天然型よりは高価なものの,
ほとんどのものが購入できる。それらの化合物の中で酒 石酸エステルは,メチル,エチル,イソプロピルエステ ルなどが市販されており,また他のエステルもほとんど
金沢大学理学部(〒920-11金沢市角間町)
FacultyofScience,KanazawaUniversity(Kaku- mamachi,Kanazawa920-11,Japan)
**
第56巻第1号(1998) 27 11
反応があげられる'7)。
従来,酒石酸エステルおよびその誘導体を不斉源とし て用いたエナンチオ選択的反応では,基本的には酒石酸 エステルの2つの水酸基に対し1つの金属原子を結合さ せた設計であった。これに対し,筆者らは以下のような コンセプトのもとにキラル反応場の設計を行った。すな わち,酒石酸エステルは2つの水酸基を有することか ら,これらの水酸基を金属アルコキシドの形にすれば,
2つの5員環が縮合した比較的堅固な構造の二核反応場 を形成でき,それぞれの金属(Met1およびMet2)の特性 に見合った反応剤同士(ReactantAおよびB)を金属に 結合または配位させることにより両者の立体的相互作用 を高度に制御できるものと考えた(図1)。このような観 点から酒石酸エステルを活用する新規なキラル反応場の 創生を行い,高選択的不斉付加環化反応および不斉求核 付加反応を見いだすことができたので以下に紹介する。
ていたが6.18),エナンチオ選択的な反応例は,筆者らが研
究を始めた時点ではなかった。なお,オレフィンヘのジ アゾ酢酸エステルを用いるカルベンの不斉付加反応によ るシクロプロパンの合成法に関しては優れた報告が多数 ある'9)。二核化金属としては,Furukawa法20)により系内調製 される反応剤をそのまま使うことを考えて亜鉛を選び,
アリルアルコールとの反応を試みることとした。すなわ ち,アリルアルコール’にジエチル亜鉛,(R,R)-酒石酸 ジエステル,ジエチル亜鉛,ジヨードメタンを順次作用 させれば,アリルアルコール部分およびエチル亜鉛がジ ヨードメタンに対して還元剤として作用して生成する ヨードメチル基が,それぞれ酒石酸アルコキシドの異な る亜鉛に結合した二核キラル中間体2が生成し,引き続 くSimmons-Smith反応がエナンチオ選択的に進行す るものと考えた(式1)。
宰蝋誤芯≦
lNWf灘罎jト ー20-3
lReacIantAlm 画:1
|ReactantBlⅢ irOR
0
Fig.1
実際に各種のアリルアルコールを用いて,この不斉シ クロプロパン化反応を試みた。特に官能基化されたシク ロプロパン誘導体の合成を目的に,ケイ素官能基を導入 したアリルアルコールについて詳細に検討を行ったとこ ろ,図のようにアリルアルコールを描いたとき,紙面の 表側からメチレンが付加した光学活性シクロプロパン誘 2.不斉Simmons-Smith反応
まず最初に,不斉Simmons-Smith反応を試みた。
Simmons-Smith反応による光学活性シクロプロパン 誘導体の合成法としては,不斉源を分子内に組み込んだ オレフィンヘのジアステレオ選択的な反応例が報告され
TablelTheasymmetricSimmons-Smithreactionofallylicalcoholsl.
EntryR1R2R31Temp/oCTime/hYieldof3/%ee/%
11
f牙34567890
●1Ph H phMe2Si phMe2Si Me3Si Ph3Si phMe2Si
Me Ph
phMe2Si
S・-
HmH咋咋咋曰囎峰H
PHHHHHHHHH鵬
2220000000 11233 33 6365705900 34 1 22 4028324248 5648588786 9072707807 7779898484 、。。、】cHu。》忍I【剴面I’ a)、ichloroethanewasusedasasolvent
12 28) 有機合成化学協会誌
導体3が光学純度良く得られることが明らかとなった (表1)21,22)。アリルアルコールは二置換のものより三置 換のものの方がより低温で反応が進行し,選択性が良 かった(Entries3,4)。オレフィンの幾何異性体に関し ては,E体の方がZ体よりも選択性がよい傾向が見られ た(Entries4,8)。また,2位に置換基を有するアリルア ルコールの場合には選択性の低下が観察された(Entries 3,10)23,24)。なお,本反応を光学活性牛理活性物質の合成 に利用した例がその後報告された25)。
以上のように,酒石酸エステルを不斉源として用いた アリルアルコールの不斉Simmons-Smith反応を実現 することができた。筆者らの報告とは別に,その後いく つかのアリルアルコールの不斉Simmons-Smith反応 が報告され9,26),さらに触媒的な反応例も報告され た2302,127)0
3.不斉1,3-双極子付加環化反応
付加環化反応は一度に複数の不斉点の立体化学を制御 しながら環状化合物を合成できる有用な反応である。従 来,[47T+277]型付加環化反応であるDiels-Alder反応 については特に精力的な研究がなされ,キラルなルイス 酸触媒を用いた不斉触媒反応が数多く報告されてい る28)。これに対し,同じ[4〃+2河型付加環化反応である 不斉1,3-双極子付加環化反応に関しては,分子内にキラ ル補助基を導入したオレフィンヘのニトロンのジァステ レオ選択的反応は報告されていたが29),エナンチオ選択 的な例はなかった。この原因のひとつとして,Diels- Alder反応において好結果をもたらしたルイス酸は,一 般に1,3-双極子と強い錯体を形成するために,1,3-双極 子の性質が失われやすいことが考えられている。金政ら は,ルイス酸としてマグネシウム塩を用いることによ り,ニトリルオキシドおよびニトロンとアリルァルコー ルとの1,3-双極子付加環化反応が高レジオ,ジァステレ オ選択的に進行することを見いだしている30)。
そこで,上記の不斉Simmons-Smith反応で,ジヨー ドメタンの代わりにヒドロキシモイルクロリドを作用さ せれば,エチル亜鉛が塩基として作用してニトリルオキ シドが系内で発生し,アリルアルコール部分と異なる亜 鉛に配位した二核中間体4が生成し,引き続く1,3-双極 子付加環化反応がエナンチオ選択的に進行して,光学活 性2-イソオキサゾリン5が得られるものと考えた(式 2)。
まず,モデル反応として,2-プロペンー1-オール(1k,
R'=R2=H)とベンゾニトリルオキシド(R3=C6H5)との 反応を行った。すなわち,1kにジエチル亜鉛1当量,酒
瀞・鱗Ir-rh
OR:-關付.舸鰹’
_5 N-O+-
R3-C三N-0 R3C(Cl)=NOH
-EtH
鳳了゜7V】
石酸エステルを1当量,さらにジエチル亜鉛、当量,最 後にベンズヒドロキシモイルクロリド、当量を加え,0
°Cで反応を行った(式3)。その結果,対応するR体の光 学活性2-イソオキサゾリン5aが得られることがわかつ
1)Et2Zn(1.Oeq,)3)Et2Zn(neq)
グー・H2)RO2C>_fO2R4)R圏ClM5Ⅱ。H
1k HOOHOoC(1.0eq.)
R3/<Uヘ/OH(3)
N-O 5日ぞた(表2)。ベンゾニトリルオキシドの反応の場合,後か ら加えるジエチル亜鉛とヒドロキシモイルクロリドが2 当量(n=2.0)のときに比較的高い光学純度で生成物が 得られることがわかった。反応溶媒はハロゲン化炭化水 素がよく(Entriesl-7),特にクロロホルムを用いたと き,95%eeと極めて高い光学純度で生成物を得ること ができた(Entry7)。酒石酸エステルの違いによる光学 純度への影響はほとんどなかったが,イソプロピルエス テルを用いたときに最も収率が良かったので(Entry 9),以後1,3-双極子付加環化反応の場合には酒石酸ジイ
ソプロピル(DIPT)を不斉源として用いることとした。
種々のニトリルオキシドに対して同様な反応を行った ところ(Entriesll-14),後から加えるジエチル亜鉛と ヒドロキシモイルクロリドの最適な量はニトリルオキシ ドの種類によって異なることがわかった。これは,ニト リルオキシドの種類により反応性が異なるために,それ らの二量化反応と目的の1,3-双極子付加環化反応との 競争の兼ね合いによるものと思われる。芳香族のニトリ ルオキシドばかりでなく,鎖状の脂肪族のニトリルオキ シドの反応においても高エナンチオ選択的に反応が進行 し,最高98%eeという極めて高い光学純度で対応する 光学活性2-イソオキサゾリン5a-eを得ることができ た31)。
基質として,2-ブテンー1-オール11,mを用いる反応も 行った(式4)。その結果,E体のアルコール11の場合は 収率に問題があるものの,いずれの場合も立体特異的に
第56巻第1号(1998) (29 13
Table2TheasymmetricL3-dipolarcycloaddtionreaction明らかとなった(表4)。興味深いこ
ofnitrileoxidestolk、 とに,エステルのかわりに,酒石酸
アミド7を用いた場合にもほとんど
Yield/%ee/%
エナンチオ選択'性が観測されなかつ Ent「yRR3nSolventTime/h 閂、
た。このことから,エステル官能基
5558
3551がエナンチオ選択|生発現にとって極 6077めて重要であることが明らかとなっ
6389 た。
6688
現在のところ,反応中間体に関す
7185
る直接的な高正拠は得ていないが,以
6995
下のようなモデルを考えている。す
6992
7896なわち,酒石酸エステルの2つの亜
5894 鉛アルコキシドにより2つの5員環 が縮合した中間体が生成し,この2
8398
つの亜鉛にアリルアルコール部分と
7493
9296ニトリルオキシドが結合および配位
6495した遷移状態8を経て反応が進行
ttttttterU EEEEEEEM,P℃ 一コ555戸。戸。芦。5R》R]HⅢuⅡuⅡuMmHMuⅡuMuⅡ“HⅡMHⅡ 【o(。【。6戸□(□【□(。(。6(‐〉ccccccccc
Et20 THF toluene
CH2Cl2 01CH2CH2Cl
CCl4 CHCI3 CHC13 CHCl3 CHCl3
0429721121 2211111111
123456789扣
0000000000 ■0句GB』■■■B2222222222 aaaaaaaaaarrrr pIDIp0p0
Iil。-
pCH30C6H4 PClC6H4
(CH3LC CH3(CHJ5CH2
1.1 1.1 1.5 1.5
CHCl3 CHCl3 CHCI3 CHCL
6670 1112 bcpde
11 12 13 14
し,R体の生成物が得られたものと 考えている。’'4-ジメトキシー2,3_
ブタンジオール(6),および酒石酸アミド7を用いた場合 に全くエナンチオ選択』性の発現が観察されなかったこと から,エステルのカルポニル酸素の亜鉛への配位する強 さがこの反応にちょうど適しているものと考えられる。
次に1,3-双極子としてニトリルオキシドの代わりに ニトロンを用いる不斉1,3-双極子付加環化反応を試み たところ,電子吸引基を有するニトロン9a-bとの付加 環化反応が進行することが明らかとなった(式6)33)。す l)Et2Zn3)Et2ZnN-O
T馴馴髄卜峠鍾;|…付.鮒Ⅷ’
11,mToCinCHCI35f-h高い光学純度で対応する4-置換-2-イソオキサゾリン5f-
hを得ることができた(表3)32)。
不斉源として用いる酒石酸エステルの効果を調べるた めに,酒石酸エステルのかわりに種々の1,2-ジオールを 用いてニトリルオキシドの1,3-双極子付加環化反応を 試みたところ(式5),エステル置換基をもたないジオー ルでは,ほとんどエナンチオ選択JlLkが発現しないことが
1)EI2Zn(1,5eq・)R’
~、蝋:'閉iPlw川人r
Ⅲ《,HjiL祠鐵)_~
9牌R2N-O
----o,〆ミノヘー
o円
Ⅱ
1)Et2Zn
(1.Oeq.)
2)、ICI・
(1.Oeq)
3)Et2Zn
(1.1eq)
4)AnC(Cl)=NOH
(1.1eq.)
OoCinCHCl3 18h
AriLoHI51
5b
(A、=PCH30C6H4)
〆へ/OH
1k
 ̄R1〆へノヘーOH
10
+cjs-isome「(6)
Table3Theasymmetricl,3-dipolarcycloadditionofnitrileoxides to2-buten-1-olslLm.
EntryR1R21 R3 Time/hT/・C5Yield/%ee/%
n勺)
叩HH
33H叩叩
pCH30C6H4 CGH5 pCH30C5H4
lgh
123 357 222 055 22 513 356 986 899
皿 而
有機合成化学協会誌
14 (30
TabIe4Asymmetricl,3-.ipolarcycloaddition withchirall,2-diols.
OP「」 OPrI
co2prj CO2Pr
【●]
EntryDior Yieldof5b/%ee/%
n,~:7,
IBuO,!:〕〔:::.。「’
ェi:穏八…■
。!:弐・.い
`::〕〔i'十::'1Ⅳ。“
。i:毒c ob7頸・
V|’(
繍芋=.~/o R28
H11程のニトリルオキシドの場合とほぼ同様のZ-e"do型の 遷移状態11を経由して進行しているものと考えている。
高い温度の方が選択性が良かったのは,後述するよう に,反応の進行に不都合な会合状態の解離が促進され,
活性な単量体あるいは低次の会合状態が速やかに生成し たためであると考えられる。また,E,Zの混合物である ニトロン9bの場合にはE-Zの異性化も促進されている ものと思われる。ニトロンとして,たとえば3,4-ジヒド ロイソキノリンョハノーオキシド(12a)のような電子吸引基 を持たないニトロンとの付加環化反応は残念ながら進行 しなかった。このことから,この1,3-双極子付加環化反 応は,ニトロンのLUMOとオレフィンのHOMOの相 互作用で進行していることが示唆される。
ニトロンと電子不足オレフィンとの不斉1,3-双極子 付加環化反応に関しては最近,触媒的な反応を含めて報 告がなされるようになった34)。これらの反応は,基本的 には従来のDiels-A1der反応の延長上にあると考えら れ,二座配位の可能な電子不足オレフィンがキラルなル イス酸に強く配位し,ニトロンの1,3-双極子としての性 質を損なうことなく反応が進行しているものと思われ る。一方,ニトロンをルイス酸で活性化し,ケテンシリ ルアセタールとの求核付加反応を経た後,系内で段階的 に閉環させてイソオキサゾリジンを得る反応も報告され ている35,36)。
a)Theoppositeenantiomerwasobtained
なわち,アリルアルコールにジエチル亜鉛,酒石酸ジイ ソプロイル,さらに塩化エチル亜鉛(X=Cl)を加えた 後,ニトロンを加えると1,3-双極子付加環化反応が進行 し,対応するイソオキサゾリジン10の2つのジアステ レオマ_のうち,t7mzs体が極めて高い光学純度で選択 的に得られた(表5)。塩化エチル亜鉛の代わりにジエチ ル亜鉛(X=Et)を加えた場合には反応が進行しなかった ことから,この付加環化反応にはある程度のルイス酸性 が必要であることがわかった。また,反応温度は高い方 が,ジアステレオおよびエナンチオ選択性が向上した (Entries3,6)。これらニトロンの反応の遷移状態も先
Table5TheasymmetricL3-dipolarcyc]oadditionreactionofnitrones9.
10 C/S-1sOmer
EntryR1R29,T/・C
Yield/%ee/%Yield/%
CNC6H5aa)
123-456 、、0-000113-222
0率妬一率扣加
982-088 14-666卵弱弘一巫師蛇
elFo6弘一q)2
r』I。OOOlBuCH3bb)
a)Only二form.b)曰Z=3.4/1(inCDCl3)
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1,3-双極子としてニトリルイミンを用いる付加環化反 応も試みた。この場合も光学活性な2-ピラゾリン13が 得られたが,収率,光学純度とも満足できるものではな かった(式7)。亜鉛に配位すると考えられる窒素上に置
行ったところ,83%eeという高い光学純度で生成物5b を得ることができた(スキーム1)。すなわち,酒石酸エ ステルと結合していた生成物の2-イソオキサゾリン部
分は,新たに系内で発生したニトリルオキシドおよび2-プロペンー1-オールの部分と交換可能であることがわ かった。
そこで,触媒的な反応条件について検討したところ,
2-プロペンー1-オールにジエチル亜鉛,20モル%の(R,
R)-DIPT,最後にヒドロキシモイルクロリドを加えるだ けで反応がエナンチオ選択的に進行し,光学活」性2-イソ
オキサゾリンを得ることができた。しかし,残念ながらこの反応条件下では,再現性に乏しかった。反応系を注 意深く観察すると,ヒドロキシモイルクロリドを加えた 直後反応系は懸濁するが,高いエナンチオ選択性を与え る場合には10分程度で懸濁が消失するのに対し,選択 性の乏しい場合には懸濁の消失が遅く,1時間以上かか
ることもあった。この懸濁物は,ヒドロキシモイルクロ リドとエチル亜鉛から生じた塩化亜鉛ではないかと考え,塩化亜鉛を溶かすエーテル類を少量加えて反応を試
みたところ,再現性よく光学活性2-イソオキサゾリンを得ることができた(式8,表6)。エーテル類としては,
1)Et2Zn(1.Oeq)
2)(R,FD-DET
(1.oeq.)
4)PhO(Cl)=NNHPh
(2.0eq.)N-Nph
:Mtl:::1AP、ノ(ル。Ⅲ
16h 13(7)31%、49%ee
ニーーOH
1k 3)El2Zn(1.Oeq)
換基があるため配位が弱いこと,あるいは配位環境が異 なっていることがその理由として考えられる37)。
前述のように,Diels-Alder反応についてはキラルな ルイス酸触媒を用いる触媒反応が数多く報告されている のに対し,触媒的不斉1,3-双極子付加環化反応の成功例 はなかった。そこで,筆者らはニトリルオキシドによる 1,3-双極子付加環化反応において,触媒的反応を試み た。前述したように最近報告されたニトロンの触媒的不 斉1,3-双極子付加環化反応の場合は,ニトロンが単離精 製可能なため,基本的には従来のDiels-A1der反応を発 展させれば可能であるが,ニトリルオキシドは一般に不 安定なため,その前駆体から反応系内で発生させながら
反応を行うため,その制御には困難が予想された。また,
上述した化学量論量の反応では2-プロペンー1-オールに 対し,ジエチル亜鉛などの反応剤をlllii次加えていくの で,酒石酸エステルの量を触媒量にしたとき,生成した 2-イソオキサゾリン部分と未反応の2-プロペンー1-オー ルおよびニトリルオキシド部分の交換の可否が最も重要 な点であった。
そこで,次のような実験を行った。すなわち,まず化 学量論量の反応を行った後,さらに4倍モル量のジエチ ル亜鉛を加え,引き続き,2-プロペンー1-オールとヒドロ キシモイルクロリドの混合物をゆっくり加えて反応を
1)El2Zn(12eq,)
2)(R0FD-DIPT(O2eq) N-O
R3-U~。Ⅱ(81
5日も
グー/OH
1k
3)R3C(Cl)=NOH(1.Oeq)
1,4-Dioxane(t5eq.)
0°C,CHC13
1,4-ジオキサン,DMEなど配位性の高いものがより良 い結果を与えた38)。
エーテル類の添加効果については,現在のところはっ
きりしたことはわかっていない。酒石酸エステルの光学 純度と生成物の光学純度の間に正の非線形効果が観察さ
れたこと(図2)などから,不斉1,3-双極子付加環化反応 020〆へ/OH1)O20Et2Zn 2)0.20(RnR)-DlPT
l:|:麓郷,,篝,Ⅲ.Ⅱ
looQ19hinCHCl.
0.80グヘーOHl…、c問Cl,
穗巽、’… …一A、ノL人/oH
90%,83%ee N-O 5bSchemel
16 (32) 有機合成化学協会誌
Table6Thecatalyticasymmetricl,3-dipolarcycloaddiデヒドヘの有機金属試薬の触媒的不斉求
tionreactionofnitrileoxides・ 核付加反応の例は数多く報告されている
EntryR35Yield/%ee/% のに対し,対応するイミン類は反応性に
乏しく,触媒的不斉求核付加反応の成功
C6H5a8784 例は限られている42)。筆者らは,ニトロ
2PCH30C6H4b98go
ンがイミン類の中でも反応性に富み,カユ 3lDClC6H4c9190
4(CH3)3cd9193つニトロンの酸素原子が金属に配位しや
5CH3(CH2)sCH2e6292すいことに着目し’その不斉求核付加反
‘応について検討してきた43,44)。
今回,酒石酸エステルによる二核キラ ル反応場での求核付加反応を試み,触媒量の酒石酸エス テルに対し二核化金属として亜鉛とマグネシウムを用い た場合,イソキノリン骨格を有するニトロン12へのジ アルキル亜鉛の不斉求核付加反応が高エナンチオ選択的 に進行することを見いだした(式10,MethodA)。この 反応で用いる酒石酸エステルの種類についてエナンチオ 選択性に与える影響を詳細に調べた結果(表7),エステ ルとしては,2級アルコール,それも環状のアルコール 由来のエステルを用いたとき,選択'性が良く(Entries5,
7,8),酒石酸ジシクロペンチルを用いたとき最も選択性 よく生成物であるヒドロキシルアミン14aを得ること
100
5 0 5 7 5 2
訳二○.’8』・←。①の
O】 l■
0255075100 eeof(RFI)-,IPT/%
Fig.2Nonlineareffectconcerningwiththereac-
tionofentry2inTable6.
の二核キラル中間体は二量体あるいはそれ以上の会合体 との平衡状態にあり,1,4-ジオキサンのようなエーテル 類の添加により,触媒として不活性な会合体が解離して 活性な触媒種が生成し,このキラルな反応場で反応が進 行しているものと現在のところ考えている3MO)。
先程のニトロン9bによる不斉1,3-双極子付加環化反 応の触媒化についても試みた。この場合,アミンオキシ ドを添加剤として反応系に添加することにより,光学純 度よくイソオキサゾリジン10bを得ることができた(式 9)41)。
:|爵:,':fiIl2…「。u:ijL1i力
|(2.Oeq)グヘーOH3)ZnCI2(O5eq.)9bMe
1k』)c○N〈。,i…,霞。.,iicH…Ⅲ
MeN-O
lBuO2C人>~OH+c腸|some『(9)
10b <2%
50%、79%ee
iWethodAR3○2°>_fo2Ro
i蝋…蝿簿.ⅢⅧ
Table7Theeffectofestersoftartaricacidderived fromvariousalcoholsintheadditionreac‐
tionofEt2Zntothenitronel2a(R'=R2=
H).
EntryR30R4Yieldofl4a/%ee/%
鯛沖〆小.いい託
Etg63Et9040 日9065 EtB856
Et9474 Me89B2 Et8971 日9471 日7234
2345678 9
4.ニトロンヘの不斉求核付加反応
電子不足型二重結合への有機金属化合物の不斉求核付 加反応は,有用な不斉炭素構築法のひとつである。アル
第56巻第1号(1998) 33) 17
ができた(Entry5)45)。
この反応における立体選択J性の発現についての知見を 得るために化学量論量の二核キラル中間体とニトロンの 反応においてジエチル亜鉛の当量(")と光学純度との関 係を調べたところ(式,,),〃-0の時はR体,〃>1.5で は,逆にS体の生成物が得られた(図3)。当初,アルキ
反応において,反応'性の低いメチル亜鉛体(R4=Me)を 触媒として用いることによりアルコキシド側からの付加 反応を抑制し,エナンチオ選択性を向上させることがで きた(表7,Entry6)。他の求核付加反応においても光学 純度良<生成物14を得ることができた(表8,Method A)。
上の検討から,過剰のジアルキル亜鉛が系内に存在す るほど光学純度が向上することから(図3),過剰のジア ルキル亜鉛存在下,ニトロンを加えてみたところ,さら に選択性が向上した。この場合,亜鉛上の置換基R4の 影響はなかった。ニトロンをゆっくり加えると一層選択 性が向上することが明らかとなった(式12)。
’Pro贄。〉-{。`P’
○95回znMw。「
回2ZnO7eq.)CQ。開,耐, 14回回
12B
(s)60
40
%ee 20
0 20 40
(R)60
聯篭需篦cw
(R3=cyclopentyl) l4aEt R4=EtT=Oh91%yield83%ee RLMeT=Oh83%yield83%ee R4=EtT=15h88%yield90%ee。
!
2468101214,
Fig3Therelationshipbetweenthemolaramounts ofEt2Znandtheopticalyields.
i;iiliiRi1iiii:篝ii,鶚了:蒋柵
1W::蝉…ルー;::c寺iM
:k<l1iiIii1iFi1Lh
ル化は亜鉛アルコキシドのアルキル基が付加するという 予想のもとで反応を行ったが,実際の触媒反応では外か
ら加えたジエチル亜鉛がsj面から攻撃しており,二核 中間体15の脈船上のアルキル基は,むしろ花面側を選 択的に遮蔽する役割を果たしているという予期しなかっ た事実が明らかとなった。ジエチル亜鉛によるエチル化
そこで,ニトロンをゆっくり加える条件下,各種のア ルキル化反応をこころみたところ,いずれの場合にも選 択性が向上し,高いエナンチオ選択性で生成物14を得
Table8Theasymmetricadditionreactionofdialkylzmcstonitronesl2.
Emr,Ⅷ「.、.。〃壜zロヅ』|Mwio,。,…
MethodA。】 Wht/hYield/%ee/% MethodBq 1.52288go5.5109382 339992 1469086 249793 638595
帆轌卿繊、癖
ⅢMMM123456
Et2Zn Me2Zn
Et2Zn Me2Zn
Et2Zn Me2Zn
188982
198463 199083
199064
199394 199585
aDbcpd e年7
a)R`=MeinMethodAiR4=RinMethodB
有機合成化学協会誌
(34 18
ることができた(式13,表8,MethodB)。メチル化生成 物14.は,還元することによりイソキノリンアルカロイ
ドSalsolidineに変換することができた(式14)。
今まで述べてきた反応における二核化の長所として,
金属を変えることにより立体化学の制御が可能になると いうことがあげられる。たとえば,上述のニトロンのア ルキル化反応では,2つの金属の組み合わせは亜鉛とマ グネシウムが良く,マグネシウムとマグネシウムあるい は亜鉛と亜鉛の組み合わせは良くなかった。このように 二極の金属を適宜選択することにより,各種の反応形式 への展開が可能であることが明らかとなった。
5.おわりに
以上のように酒石酸エステルを活用した二核キラル反 応場を新たに設計し,新規不斉合成反応を開発すること ができた。現在のところ,二核キラル中間体の構造をX 線構造解析などによって直接的に観測できていないが,
この二核キラル反応場の設計のコンセプトは,多様な機 能を有する各種金属の種々の組み合わせへ無限に発展で きる可能性を秘めており,次世代の不斉合成反応を開拓 する端緒となり得る。さらに,酒石酸エステルは(R,R)
体,(S,S)体ともに入手容易であることから,本手法は 各種光学活性化合物の両鏡像体をともに簡便に合成でき る画期的なものであり,有機合成化学に止まらず,医学,
薬学などの関連分野の発展に大きく貢献できるものと考 えられる。
本稿で紹介させていただいた研究は,多くの学生諸氏 の努力の賜物であり,ここに感謝の意を表します。本研 究の一部は,有機合成化学協会田辺製薬研究企画賞なら びに文部省科学研究費補助金の援助によって行われたも のであり,ここに感謝いたします。
(平成9年9月16日受理)
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Yamamoto,』.」加.Che加.SOC.,115,11490
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16)たとえば,T、Yamada,KNarasaka,C"c加.
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17)DIOPも酒石酸エステルより誘導される不斉配位 子である:`E"CycJOPe(ZiaQ/?Rcage"is允γ0屯mzic Sy"オノtesis',,ed,byL.A,Paquette,JohnWiley
&Sons,Chichester(1995),VOL4,p、2922 18)E,A・Mash,ns・Torok,J,OTgC"c加.,54,
250(1989);T,Sugimura,M・Yoshikawa,T、
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19)VK・Singh,ADattaGupta,G・Sekar,Sjノ"オノje- sjs,1997,137
20)JFurukawa,NKawabata,J・Nishimura,
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21)Y、Ukaji,M・Nishimura,T、Fujisawa,Che加.
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22)Y,Ukaji,K・Sada,K・Inomata,C/te腕.Lejt.,
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23)同様の傾向が他の不斉Simmons-Smith反応でも 報告されている:SE・Denmark,S.P.
O'Connor,J、0屯.Che加.,62,584(1997)
24)最近,一般にEtZnORとCH212との反応では,直 接ICH2ZnORは生成しないことが報告された:
(a)A、B、Charette,C,Brochu,』.A加.Che加.
SOC.,117,11367(1995);(b)SE、Denmark,S.
P.OConnor,J,0屯.C/tc77z.,62,3390(1997)。
従って本Simmons-Smith反応では,過剰の Et2ZnとCH212より生成した(ICH2LZnと EtZnORとの反応により,目的のICH2ZnORが生 成して反応が進行していることが考えられる。
25)A・G.M・Barrett,W、W・Doubleday,GJ Tustin,AJ・P・White,,.J、Williams,』.
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