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論文審査の結果の要旨

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Academic year: 2021

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論文審査の結果の要旨

氏名:横 井 元 治

博士の専攻分野の名称:博士(工学)

論文題名:自動二輪車の低速走行におけるライダーの挙動に関する研究~熟練度による差異の分析~

審査委員: (主査) 教授 青 木 和 夫

(副査) 教授 青 木 義 男 教授 景 山 一 郎

自動二輪車は低速走行では不安定になるため,運転免許の実技試験にも低速走行の課題が含まれている。

この課題は幅 30cm,長さ 15m の走路(通称一本橋)をできるだけ低速で走行するもので,一定時間以上を かけて走行しないと合格できない。このような課題を達成するためには訓練が必要であるが,その指導内 容は,主に指導者の経験によるもので,科学的根拠や理論に基づいたものではないのが現状である。そこ で,この一本橋走行に関して熟練したライダーと非熟練ライダーの低速走行時の挙動を比較し,両者の挙 動の違いを明らかにすることによって,低速走行の指導訓練に生かせる理論的根拠を見出すことを目的と して本研究は行われた。

本論文は6章で構成されている。

第Ⅰ章は序論であり,我が国の交通事故の現状を示し,特に本研究の背景となる自動二輪車運転時の事 故は死傷率が高いことを述べている。また,自動二輪車の低速走行の能力が操縦技術の向上と事故防止に 役立つことから,低速走行の技能向上のための指導や訓練の方法が確立される必要があるとしている。し かし自動二輪車の運転に関する先行研究では,低速走行に関するものはほとんどなく,また低速走行は通 常の走行とは身体の挙動が異なるため,ライダーの挙動の把握のための測定方法から明らかにする必要が あることを述べている。

第Ⅱ章では自動二輪車の一本橋走行におけるライダーの挙動の測定法を検討している。一本橋走行に熟 練したライダーと,未熟練のライダーを対象に,自動二輪車の車体中央上部とライダーの背部,頭部に小 型ワイヤレスジャイロセンサを取り付け,走行中の加速度と角速度を測定する実験を行った。その結果,

車体中央上部のロール角速度,ライダーの背部のロール角速度,ライダーの頭部のロール角速度の分布に 熟練者と非熟練者の差が大きく表れていた。その他のピッチ角速度,ヨー角速度には差がみられず,加速 度成分ではライダーの背部と頭部で前後と上下方向の加速度分布のピーク値に差がみられた。この加速度 成分の分布の差はライダーの姿勢の違いによるものと考えられた。このことから,熟練者と非熟練者では 低速走行時の車体のロール角速度と身体のロール角速度に差があることが明らかとなった。

第Ⅲ章では,第Ⅱ章で得られたデータをもとに,車体のロール角速度とライダーのロール角速度の関係 について解析を行った結果が述べられている。車体のロール角速度とライダー頭部のロール角速度の時系 列データの相互相関分析を行った。その結果,熟練者では最大で相関係数が0.35であったのに対し,非熟 練者では0.75と高い値を示した。また非熟練者の最大の相関係数はライダー頭部のロール角速度と車体の ロール角速度の位相差が約0.14秒の場合に得られた。このことから,非熟練者では頭部のロールが生じた ために車体のロールが発生したと推定されたが,熟練者では頭部のロールが尐なく,このような関係がみ られなかったと考えられた。

第Ⅳ章では,これまでの実験の結果をもとに,対象者を増して実証データを得るための実験を行った結 果を述べている。実験は14名の男性ライダーに参加してもらい,第Ⅱ章の実験と同様の一本橋走行を行っ た。挙動の測定は第Ⅱ章の実験と同様に車体とライダーの背部,頭部にジャイロセンサを取り付けて行っ た。さらに,ハンドル転舵角を測定するためにポテンショメータをハンドル回転中央部ステムホールに取 り付けるとともに,ハンドル荷重を測定するために歪ゲージをハンドルパイプ付け根付近に貼付した。ハ

(2)

ンドル荷重の測定は前後方向と上下方向の2方向とした。

実験結果から一本橋走行時間によりライダーを3群に分け,上位4名を熟練者群,下位4名を初級者群 とし,計 8 名のデータを解析対象として比較検討を行った。その結果,車体のロール角速度には熟練者群 と初級者群で差はなかったが,ライダー頭部のロール角速度は熟練者群のほうが有意に小さいことが明ら かとなった。このことから,車体のロールは熟練度と関係がないが,ライダーの頭部のロールが熟練度と 関係があると考えられた。また,頭部のロール角速度と車体のロール角速度の相互相関分析を行ったが,

第Ⅲ章の解析結果とは異なり,すべてのライダーで頭部のロールと車体のロールの位相差が約0.08秒付近 で相関係数が0.8前後の最大値を示した。このことから,頭部のロールが生じた後に車体のロールが発生し ていたと考えられ,熟練度とは関係がないという可能性が示唆された。

第Ⅴ章では第Ⅳ章で行った実験データのうち,ハンドル転舵角とハンドル荷重について解析を行った結 果を述べている。解析の結果,ハンドル転舵角は熟練者のほうが有意に大きな値に分布しており,ハンド ルを左右に大きく切っていることが明らかとなった。またハンドルの上下荷重の分布では,熟練者群のほ うが荷重が有意に大きかった。しかし,ハンドルの前後方向の荷重については両群間に差はみられなかっ た。このことから,熟練者群は初級者群に比べてハンドルに上下方向の荷重をかけていることが明らかと なった。

さらに第Ⅳ章と本章の実験データの解析結果について考察を行っている。初級者群,熟練者群ともに大 きな車体のロールが発生しなかったことから,一本橋走行において安定して走行をおこなうためには車体 のロールを発生させないことが大切な条件であると考えられた。そのために,初級者群では速度を落とさ ずに車体の安定を図っており,その結果として一本橋走行時間が短くなっていると考えられた。これに対 し熟練者群では,ハンドル操作を大きく行い,ハンドルに荷重をかけて一本橋走行を行っており,これが 頭部のロールを小さくしていると考えられた。またその結果,速度を落として一本橋走行を安定して行う ことができたと考えられた。

第Ⅵ章では結論として,熟練者の一本橋走行の特徴を述べている。その特徴は,頭部のロールが小さい こと,大きなハンドル操作,ハンドルへの上下方向の荷重の 3 つであるとしている。このことから,低速 走行における安定した走行のためにはハンドルへの荷重が必要であり,今後の指導に生かしていける知見 を得られたとしている。

以上のように,自動二輪車の低速走行実験を一本橋を用いて行った結果,熟練者群では頭部のロールが 小さいことが明らかとなり,その理由としてハンドルの上下方向の荷重が関係していることを明確にした。

このような研究結果は今までにないものであり,今後,二輪車の低速走行の指導や訓練に科学的根拠をも った新しい方法を提案できると考えられ,交通の安全に寄与するものであると判断した。また,二輪車の 低速走行にはアクセル操作やブレーキ操作,乗車姿勢や注視点など,多くの要因が関与していると考えら れることから,今後はこれらの要因を含めた研究がさらに発展してゆくと考えられた。

このことは,本論文の提出者が自立して研究活動を行い,またはその他の高度な専門的業務に従事する に必要な能力及びその基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである。

よって本論文は博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる。

以 上 平成28年2月18日

参照

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