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チャイルドシート不使用と 自賠法3条の責任

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(1)

チャイルドシート不使用と 自賠法3条の責任

東京地裁平成24年6月12日判決を題材に

大 井 暁

■アブストラクト

赤信号無視の加害車両に衝突された被害車両の運転者は,通常信頼の原則 により無過失とされる。運転者が同乗の幼児にチャイルドシートを使用させ なかったため幼児が重度後遺障害を負った場合,保有者に自賠法3条の責任 が生じるか。チャイルドシート不使用を 運行 とする見解には賛成できな い。自動車の走行を 運行 とすれば,運行と事故発生との間に相当因果関 係は認められる。しかし,チャイルドシート不使用の過失は,人身事故発生 との間に因果関係がないから,保有者には自賠法3条但書の免責が認められ る。東京地判平成24年6月12日を題材に検討した。

■キーワード

チャイルドシート,シートベルト,自賠法3条

一 東京地判平成24年6月12日(確定)

1.事案の概要

母親B子が幼児X(1歳,原告)を乗用車(甲車)に同乗させて,青色灯 火信号に従って交差点に進入したところ,貨物車(乙車)が赤色灯火信号を

*平成24年9月8日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成25年7月3日原稿受領。

1)

TKC

法律情報データベース文献番号25481689,交通民集45巻3号720頁,

(2)

看過して,左方から交差点に進入し,甲車に衝突した。Xは,本件事故の衝 撃により車体内部に頭部を打ち付けるなどして脳挫傷等の傷害を負い(以下 本件傷害 という。),高次脳機能障害を残遺させて自賠法施行令後遺障害 等級別表第二3級3号該当と認定された。Xとその父A郎・母B子は,貨物 車の運転者と保有者に対する損害賠償請求訴訟をP裁判所に提起し(別件訴 訟),P裁判所は,B子が幼児用補助装置(以下 チャイルドシート とい う)を使用させずにXを同乗させていたとして過失相殺を1割とする和解を 勧告し,和解が成立してXに1億円が支払われた。その後,Xは,甲車の保 有者であるA郎が契約する自賠責保険会社Yを被告として,運転者B子には,

チャイルドシートを使用せずにXを同乗させた過失があるとし ,自賠法16 条に基づく損害賠償額の支払請求を行ったのが本件訴訟である 。

2.判 旨(請求棄却)

⑴ 本件傷害は甲車の 運行によつて (自賠法3条本文)生じたといえる か。

本件事故は,B子が甲車を運転して本件交差点に進入したことにより生 じたものであり…,本件傷害は,本件事故により生じたものであるから…,

本件傷害は,甲車の 運行によつて (自賠法3条本文)生じたものである ことは明らかである。したがって,A郎は,甲車の保有者であるから…,自

自保1879号125頁。なお,筆者は,被告保険会社代理人であった。文中の意見は 個人の見解である。

2) 道路交通法第71条の3第3項は, 自動車の運転者は,幼児用補助装置(幼 児を乗車させる際座席ベルトに代わる機能を果たさせるため座席に固定して用 いる補助装置であつて,道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定に 適合し,かつ,幼児の発育の程度に応じた形状を有するものをいう…)を使用 しない幼児を乗車させて自動車を運転してはならない。 と定める。同項は,平 成12年4月1日より施行されている。

3) 判決では, チャイルドシート不使用 は, チャイルドシートを使用させず にXを甲車に同乗させていたこと の意味で用いられており,不装備までを意 味していない。

(3)

賠法3条ただし書所定の免責事由が主張立証されない限り,本件事故により 原告に生じた損害について,同条に基づく損害賠償責任を負うことにな る。

⑵ A郎につき自賠法3条ただし書所定の免責事由があるか

本件においては,A郎につき自賠法3条ただし書所定の免責事由が認め られるから,A郎には同条に基づく損害賠償責任は発生しない。…自賠法の 趣旨及び規定等にかんがみると,同法3条は,自動車の運行を原因とする人 身事故の発生により損害が生じた場合に,民法の不法行為責任を前提とした 上で,責任の主体を拡大して自動車の運行供用者にもその賠償責任を負わせ ることとしつつ(同条本文),不法行為責任における過失の主張立証責任を 加害者の側に転換し,かつ,免責要件を更に付加すること(同条ただし書)

によって損害賠償責任を加重したものと解される。したがって,同条ただし 書所定の免責要件のうち 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠ら なかつたこと とは,過失の主張立証責任を転換し,不法行為責任における 過失がないことを免責要件として定めたものであって(ただし,運行供用者 の無過失も証明されない限り免責されない。),損害賠償責任の根拠となる運 転者の過失の範囲を民法の不法行為責任よりも拡大したものではないと解す るのが相当である。

そうすると,同条ただし書の 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意 を怠らなかつたこと は,もっぱら損害拡大に関わる過失など,人身事故の 発生と関わりのない過失が存在しないことまでを求めるものではなく(最高 裁昭和48年6月21日第一小法廷判決・裁判集民事109号387頁参照),免責を 主張する運行供用者は, 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠ら なかつたこと として,運行供用者及び運転者が人身事故の発生を回避する のに必要な自動車の運行に関する注意を怠らなかったこと,すなわち,人身

4) Yは,チャイルドシート不使用が自賠法3条本文の 運行 に該当しないと 主張したが,判決は,Xが自動車の運転を 運行 と主張しているのでYの主 張を失当とした。

(4)

事故の発生と因果関係のある自動車運行上の過失が存しなかったことを主張 立証すれば足りるものと解するのが相当である(このように解することは,

自賠法3条ただし書所定の免責要件事実のうち,ある要件事実の存否が事故 発生と関係がない場合には,免責を受けようとする自動車の運行供用者は,

当該要件事実が当該事故と関係がない旨を主張立証すれば足りるとされてい ること(最高裁昭和45年1月22日第一小法廷判決・民集24巻1号40頁参照)

とも整合する。)。

…対面信号機の青色灯火信号に従って甲車を運転していたB子は,乙車の ように対面信号機の赤色灯火信号を看過して交差点に進入してくる車両のあ りうることまでも予測して,本件交差点の手前で停止することができるよう に減速し,左右の安全を確認する注意義務を負わないものと解されるから

(最高裁昭和45年10月29日第一小法廷判決・裁判集民事101号225頁,前掲最 高裁昭和48年6月21日第一小法廷判決参照),B子が 自動車の運行に関し 注意を怠らなかつたこと ,すなわち,B子に本件事故の発生と因果関係の ある自動車運行上の過失がなかったことが証明されたといえる。

これに対し,Xは,チャイルドシート不使用の事実が存したことを理由と して,B子は 自動車の運行に関し注意を怠らなかつた とはいえないと主 張するが,チャイルドシート不使用は,本件事故の発生,すなわち,乙車と 甲車の衝突の原因となるものではないから,チャイルドシート不使用と本件 事故の発生との間に因果関係は認められない。よって,チャイルドシート不 使用の事実があっても,B子が 自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこ と を認定する妨げとなるものではない。

そして,B子に本件事故の発生と因果関係のある自動車運行上の過失がな い以上,運行供用者であるA郎も 自動車の運行に関し注意を怠らなかつ た というべきである。

タイトルのみになってしまうためアキを作成しています

(5)

運行 の解釈

1. 運行 に関する学説

自賠法3条本文は,運行供用者の責任要件として 運行によつて他人の生 命又は身体を害したとき と定め,同法2条2項は, 運行 を 人又は物 を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用い ること と定義する。この 運行 の解釈には,古くから議論がある。

⑴ 原動機説 当該装置 を原動機装置と解し, 運行 とは,原動機の作 用により自動車をある地点から他の地点に移動し前進させることと解する 見解である 。初期の学説であり,すでに判例により排されている。

⑵ 走行装置説 自動車の構造上設備されている操向,制動,機関その他走 行に関連する走行装置を 当該装置 といい,必ずしも自力で走行する必 要はないが,これらの装置の本来の使用方法に従って,これを操作すれば

運行 にあたるとする見解である 。判例は,この説も排している。

⑶ 固有装置説 当該装置 とは,自動車の構造上設備されている各装置

(機関,操向,伝動,制動,電気,燃料,冷却,潤滑,排気その他の装置)

のほか,クレーンカーのクレーン,ダンプカーのダンプ,普通のトラック の側板や後板等の当該自動車固有の装置をいい,これらの装置の全部また は一部をその目的に従い操作すれば運行にあたるとする見解である 。判

5) 坂本雄三 自動車損害賠償保障法第三条の損害賠償原因 ⑴ 明治大学法律 論叢34巻5号125頁(1961),神戸地判昭34年4月18日下民集10巻4号781頁。

判例評釈として西島梅治ジュリ250号85頁(1962)。

6) 茅沼英一 運行の概念 判タ212号37頁(1967),井上健一 自動車損害賠償 保障制度の実施状況とその問題点 ジュリ172号42頁(1959)(トラックの側板,

後板,バス,乗用車の扉等社会通念上運送に必要な装置は含むとする)。

7) 木宮高彦 註釈自動車損害賠償保障法 新版26頁(有斐閣,1967),木宮高 彦・判例評論122号41頁(1969),椎木緑司 判例研究自動車事故損害賠償の詳 解 101頁(労働法学出版,1966),実務の取扱につき海老名惣吉 自動車損害 賠償責任保険 綜合法学32号32頁(1961)。支持するものとして,中西正明 荷おろし中の人身事故と自賠責保険に基づく保険金請求権 商事法務1102号

(6)

例は,運行概念につき固有装置説に立っていると考えられる 。固有装置 説は,自賠法2条2項の文言解釈に忠実であるが,駐車中の積荷の積み降 ろしや駐車状態それ自体を 運行 と言いにくい難点がある 。

⑷ 車庫から車庫説(車自体説) 当該装置 を自動車そのものと解し,車 庫を出てから車庫に帰着するまでの状態を 運行 とする見解である 。 運行概念を機械工学的ではなく交通技術的な理解のもとに把握すべきこと を根拠とする立場などがある 。走行状態に劣らない駐停車等の危険を運 行に含める点で被害者保護に資するが,条文の文言を離れ, 運行 の範 囲が無限定に拡大するとの批判がある 。

53頁(1987),川井健 運行の範囲 ㈶交通事故紛争処理センター編・創立20 周年記念論文集 ・交通事故賠償の法理と紛争処理22頁(ぎょうせい,1994),

塩崎勤 自動車の運行 金澤理=塩崎勤編・裁判実務体系26巻損害保険訴訟法 278頁(青林書院・1996)など。

8) 中西・前掲注7)52頁,川井健ほか・新版注解交通損害賠償法1巻17頁〔富田 善範〕(青林書院,1997),同上書1巻68頁〔稲田龍樹〕。

9) 藤原弘道 駐車と運行 新交通事故判例百選別ジュリ94号27頁(1987),富 田善範・前掲注8)18頁,比佐和枝 自賠法三条の 運行 の意義 塩崎勤編・

交通損害賠 償 の 諸 問 題 8 頁(判 例 タ イ ム ズ 社,1999)(初 出 判 タ631号45頁 1987)。

10) 野村好弘 自動車事故と運行供用者責任 ジュリ384号125頁(1967),寺 本嘉弘 運行によって 判タ268号臨時増刊特集交通事故58頁(1971),中村行 雄 自賠法における 運行 及び 運行によって 有泉亨監修・現代損害賠 償法講座3巻・吉岡進編・交通事故106頁(日本評論社,1972),白羽祐三 ロ ープによる牽引中の事故 交通事故判 例 百 選[第 二 版]別 ジ ュ リ48号49頁

(1975),平井一雄 運行の範囲 中川善之助=兼子一監修・実務法律体系4交 通事故〔改訂版〕221頁(青林書院,1978),今井薫 駐車場に駐車中の自動車 内での幼児の熱射病による死亡と 運行 の概念 判タ452号70頁(1981),土 田哲也 運行によって 山田卓生=宮原守男編・新・現代損害賠償法講座5巻 交通事故54頁(日本評論社,1997),丸山一朗 自賠法三条の 運行 , 運行 によつて の意義 飯村敏明編・現代裁判法体系6巻交通事故107頁(新日本 法規,1998)。

11) 中村・前掲注10)105頁。

12) 塩崎・前掲注7)278頁。

(7)

⑸ 危険性説 運行 という概念は,自賠法2条2項にいう 当該装置の 用い方に従い用いること という文言の解釈によって定められるべきでは なく,通常の走行の場合に匹敵するような危険性(他人の生命,身体に害 を加える危険性)を持つ状態に自動車をおく行為とする見解である 。法 文の文理解釈よりも自賠法の目的から実質的に運行の外延を定めようとす る説であるが,結論のための説明と批判される 。

⑹ 物的危険状態説 運行 とは,その自動車の装置といえるもの(積み 荷,乗員は装置ではない)の用い方に従って用いる場合の 物的危険状 態 をいうとする説である 。

2.判例の推移

⑴ 最判43年10月8日民集22巻10号2125頁は, 当該装置 とは,エンジン 装置,即ち原動機装置に重点をおくものではあるが,必ずしも右装置にの み限定する趣旨ではなく,ハンドル装置,ブレーキ装置などの走行装置も これに含まれる とし, エンジンの故障によりロープで他の自動車に牽 引されて走行している自動車も,当該自動車のハンドル操作により,或は フットブレーキまたはハンドルブレーキ操作により,その操縦の自由を有 するときにこれらの装置を操作しながら走行している場合には,…運行に あたる として,原動機説を排した 。

⑵ 最判昭和52年11月24日民集31巻6号918頁は,高圧電線にクレーンのワ

13) 石田穣 判批 法協86巻12号136頁(1969),榮春彦 自賠法三条の 運行に よって の意義 吉田秀文=塩崎勤編・裁判実務体系8巻民事交通・労働災害 訴訟法83頁(青林書院,1985)。

14) 比佐・前掲注9)8頁。

15) 高崎尚志 運行 概念 田辺康平=石田満編・新損害保険双書2自動車保 険371頁(文眞堂,1983)。

16) 判例評釈として,宇野栄一郎・最高裁判所判例解説民事篇昭和43年度 758 頁(1969),木宮・前 掲 注7)判 例 評 論39頁,石 田 ・ 前 掲 注13)133頁,白 羽 祐 三・民商60巻6号894頁(1969),白羽・前掲注10)48頁,大塚市助・ジュリ478 号151頁(1971)がある。

(8)

イヤーが接触し作業員が感電死した事故について, 自動車損害賠償保障 法二条二項にいう 自動車を当該装置の用い方に従い用いること には,

自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態に置 くだけでなく,本件のように,特殊自動車であるクレーン車を走行停止の 状態におき,操縦者において,固有の装置であるクレーンをその目的に従 って操作する場合をも含む とし,走行装置説を排した 。

⑶ 最判昭和56年11月13日判時1026号87頁は,材料置場に停車中の普通貨物 自動車から荷降し作業中,何らかの原因で古電柱が荷台から落下し,作業 員が死亡した事故に関するものである。原審大阪高判昭和55年12月23日交 通民集14巻6号1261頁は,普通貨物自動車の荷台が仮に 当該装置 に当 るとしても, 操作 ということは考えられないこと,材料置場は一般通 行人や一般通行車が出入する事態はまず考えられないこと,更に,本件事 故は,駐車前後の走行との連続性に欠けることを理由に,本件事故が自賠 法三条にいう自動車の 運行によって 発生したものということはできな い。と判示し,最判は 原審の判断は正当として是認することができ る とした 。

その後の下級審も①駐停車前後の走行との連続性の有無,②駐停車の場所,

③自動車の構造という基準によって 運行 該当性を判断する総合判断的手 法を採用した 。しかし,こうした総合判断的手法は,自賠法2条2項の

運行 との関連性が不明であった。

17) 吉井直昭・最高裁判所判例解説民事篇昭和52年度338頁(1981)は,同判決は,

少なくとも固有装置説の立場から運行供用者責任を認めたとする。判例評釈と してほかに,潮海一雄・民商79巻2号294頁(1978),錦織成史・京都大学法學 論叢104巻3号73頁(1978),赤坂軍治・新交通事故判例百選別ジュリ94号24頁

(1987),北河隆之・交通事故判例百選〔第四版〕別ジュリ152号30頁(1999)。

18) 判例評釈として,小林和明・新交通事故判例百選別ジュリ94号28頁(1987),

同・交通事故判例百選〔第四版〕別ジュリ152号34頁(1999)。

19) 宮原守男ほか座談会 東京地裁及び大阪地裁の交通事故裁判について 交通 民集16巻索引・解説号368〜371頁(1985)小林和明,坂井良和判事の発言部分 参照。

(9)

⑷ 最判昭和63年6月16日民集42巻5号414頁 は, 本件事故は,X1が,

被害車を運転中,道路上にフオーク部分を進入させた状態で進路前方左側 の空地に停止中の本件フオークリフトのフオーク部分に被害車を衝突させ て発生したのであるから,本件車両がフオークリフトによる荷降ろし作業 のための枕木を荷台に装着した木材運搬用の貨物自動車であり,Yが,荷 降ろし作業終了後直ちに出発する予定で,一般車両の通行する道路に本件 車両を駐車させ,本件フオークリフトの運転者Bと共同して荷降ろし作業 を開始したものであり,本件事故発生当時,本件フオークリフトが三回目 の荷降ろしのため本件車両に向かう途中であったなど前記の事情があって も,本件事故は,本件車両を当該装置の用い方に従い用いることによって 発生したものとはいえないと解するのが相当である。 として,自賠法3 条責任を否定した。

この判例は,固有装置説またはそれに近い立場に立ち,相当因果関係を否 定した判決と解される 。また,荷降ろし中の事故を総合的評価で 運行 に含めようとする下級審裁判例の立場を退けたと評されている 。

⑸ 最判昭和63年6月16日判時1298号113頁は,木材専用運搬車で荷台にフ ォークリフトのフォーク挿入用の枕木が設置されている貨物自動車の荷台 に積載していた木材の荷降ろし作業をするため,フォークリフトを用いて 20) ⑷ ⑸ 判決の判例評釈として,田上富信・民商100巻1号135頁149頁(1989),

浦川道太郎・昭和63年度重要判例解説ジュリ935号77頁(1989),瀬戸正義・最 高裁判所判例解説民事篇昭和63年度218頁(1990),國井和郎・判タ698号46頁

(1989),國井和郎・法律時報別冊私法判例リマークス平成元年度判例評論124頁

(1990),吉川吉衛・判例評論368号36頁(1989),尾島茂樹・名古屋大学法政論 集128巻277頁(1989),加藤了・判タ711号71頁(1990),田口紀子・平成元年 度主要民事判例解説判タ735号134頁(1990),田中治・同判タ735号136頁,坂 本武憲・法協108巻7号108頁(1991),松村武・交通事故判例百選〔第四版〕

別ジュリ152号38頁(1999)。

21) 瀬戸・前掲注20)225頁,田上・前掲注20)143頁,浦川・前掲注20)79頁,田 中・前掲注20)137頁。

22) 國井・前掲注20)判タ50頁,浦川・前掲注20)79頁,坂本倫城 自賠法三条の 運行によって をめぐる諸問題 判タ724号70頁(1990)。

(10)

木材を貨物自動車の荷台から木材置場に突き落としたところ,被害者が木 材の下敷になって死亡した事故につき, 右枕木が装置されている荷台は,

本件車両の固有の装置というに妨げなく,また,本件荷降ろし作業は,直 接にはフォークリフトを用いてなされたものであるにせよ,併せてその荷 台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきであ るから,本件事故は,本件車両を 当該装置の用い方に従い用いること によって生じたものということができる。 として,自賠法3条の責任を 肯定した。

この判例は,フォークリフトの利用を前提とした枕木の設置された荷台を 固有の装置とみなし,最判昭和52年が固有装置を 目的に従って操作する ことを 運行 としていたのを 目的に従って使用 するにまで拡げたと評 されている 。

3. 運行 の解釈

初期の学説・判例は, 運行 概念を拡大する方向へ進んできたが,自賠 法3条による保有者の賠償責任が生じることは,強制保険の填補責任の範囲 を画する要件でもあるから(同法11条),被害者保護と同時に,責任成立要 件の外延を画することも重要な課題である。自賠法2条2項の 運行 の文 言から離れた解釈はとるべきではなく,基本的には固有装置説に立つべきと 考える 。固有装置説でも駐停車中の事故の事案処理は可能である 。

固有装置の範囲には広狭各説があり,広義説は,自動車に固有の装置一切 23) 浦川・前掲注20)79頁は, 現時点での最高裁の考え方は,固有装置の 操 作 といい難い荷積み・荷降ろし中の事故について,走行の連続性・駐停車の 場所などを総合的に判断して 運行 に含めようとする一部の下級審裁判例の 立場を避け,固有装置説を形式的に適用する立場に立って,固有の装置たる荷 降ろし設備の施された荷台を本来予定していた形で 使用 する限りにおいて

運行 概念に含めていこうとするもののようである とする。

24) 中西・前掲注7)53頁。

25) 固有装置説の立場から,駐車中の事故を運行起因事故とする方法として,駐 車直前の走行との密接な関連から因果関係の肯定されるものについてのみ 運

(11)

すなわち自動車そのものが装置であるとする 。広義説を取ると,車庫から 車庫説に限りなく近づく。判例の立場は評価が分かれるが ,フォーク挿入 用の 右枕木が設置された荷台は固有装置というに妨げなく との表現から すると(前掲最判63年6月16日判時1298号113頁),広義説には至っていない と解される。

用い方に従い用いる の解釈にも広狭各説があり,前掲大阪高判昭和55 年12月23日交通民集14巻6号1261頁のように 操作 を重視する見解や,端 的に 自動車を使用している と言えればよいとする見解がある 。判例は,

フォーク挿入用の枕木の設置された荷台を 目的に従って使用 する限度で 用いる に含めているが,自動車の使用全般を含めているとまでは評価し 難い。自賠法は,操作によって自動車の危険性が顕在化すると考えており,

基本的には 用いる は操作行為を意味すると考える 。

近時は,固有装置説に立ちつつ,危険性説の実質的判断基準を 運行 ま たは によつて の解釈に反映させる見解がある。⑴ 当該装置 の解釈と しては固有装置説を採用したうえで,走行による危険に準ずる程度の危険性 ある行為を 運行 とする見解 ,⑵固有装置を通常の走行による危険に匹 敵する程度の危険性のあるものに限る見解 ,⑶固有装置とは自動車固有の

行によつて 生じたものと認める見解(藤原・前掲注9)27頁(1987))や,走 行を終了させるべく制動装置を操作することによる駐停車する行為を運行と捉 え, 運行によつて の によつて の解釈として処理する見解(比佐・前掲 注9)10頁)などがある。

26) 鷺岡康雄 荷降ろし中の事故 小川昭二郎=川井健ほか編・基礎法律学体系 20巻交通損害賠償の基礎(青林書院,1976),坂本倫城・前掲注22)65頁。

27) 坂本倫城・前掲注22)66頁は,広義説が判例上定着したとするが,富田・前 掲8)20頁は,判例は広義説のいう自動車自体を固有装置とみるところまではい っていないとする。

28) 清水良二 駐車車両の損害賠償責任 東京三弁護士会交通事故処理委員会 編・交通事故訴訟の理論と展望180頁(ぎょうせい,1993)。

29) 比佐・前掲注9)8頁。

30) 稲田・前掲注8)68頁。

31) 宮原守男 自動車損害賠償責任保険 遠藤浩ほか編・現代契約法体系6巻

(12)

危険性を内在している自動車固有の装置であり, 用い方に従い用いる と は,自動車固有の危険性を顕在化させうる行為であり操作にこだわる必要は ないとする見解 ,⑷固有装置説(広義説)に立ちつつ,危険性説のいう危 険性の有無は相当因果関係の有無の判断の際の有力な判断基準とするとの見 などである。

固有装置や操作の該当性は,事実認定の問題であるから,客観的判断に馴 染みやすく,危険性の有無により実質的評価を加えて認定することが難しい 面がある。これに対し,危険性は評価的概念であるから,相当因果関係の判 断に馴染みやすい。そこで,固有装置や操作の該当性は客観的に判断し,自 動車としての固有の危険性のある操作行為が原因となっている場合に相当因 果関係を認める見解が実務上は妥当と考える。

ところで, 自動車を当該装置の用い方に従い用いる を,危険性説のよ うに 自動車を走行と同様の危険な状態に置く行為 と定義した場合, 行 為 には不作為も含まれるのではないかとの疑問が生じうる。例えば,違法 駐車車両を放置する行為,ガレージでエンジンを切らず排ガスを噴出する行 為,暴走中の車両のブレーキを講じない行為は,不作為による 運行 か。

しかし,これらの例では,不作為の前段階に危険を生じさせた操作があり,

不作為を事故の原因行為として取上げる必要は特に認められない。 不使用

(不作為)まで 用いる に含ませるのは, 用いる の拡大解釈に過ぎ妥当 でないと解する。

4.シートベルト の不装着と 運行

静岡地下田支判昭和62年12月21日金商804号38頁は,被害者が自動車の後

147頁(有斐閣,1984),同 自動車保険における運行起因性 星野英一 = 森 島昭夫編・現代社会と民法学の動向 不法行為316頁(有斐閣,1992)。

32) 古笛恵子 運行起因性 判タ943号62頁(1997)。

33) 坂本倫城・前掲注22)65〜67頁。

34) 自動車の運転者は,座席ベルトを装着しないで自動車を運転してはならず

(道路交通法71条の3第1項),座席ベルトを装着しない者を運転者席以外の乗

(13)

部座席の右側ドアから降車しようとした際,シートベルトに足を引っ掛けて 車外に転倒し骨折した事故について,シートベルトが固有装置であるとして も,事故がその目的にしたがって操作,使用したことに起因するのでないこ と,本件事故は,自らの過失により自動車の運行と関わりのない原因で発生 したこと,シートベルトは,走行による危険に匹敵する程度の危険を有する 固有装置ではないことを根拠に, 本件事故は, 運行によって に該当しな い。 とした。

大阪地裁平成19年8月29日判決(判例集未登載)は,原告が同乗中の貨物 車が中央自動車道において訴外車両に追突され,シートベルトを装着してい なかった原告が車外に投げ出されて負傷した交通事故について,貨物車付保 の自賠責保険会社を被告として,自賠法16条1項に基づき後遺症損害の被害 者請求を行った事案であり,題材の東京地判に類似する。

判旨は, 本件事故は,本件車両の運行行為それ自体によって生じたもの ではなく,訴外車両が走行中に本件車両の右後部に追突するという訴外車両 の運行行為によって生じたものであり,本件車両の 運行 と原告の傷害又 は後遺障害との間には相当因果関係がないから,本件車両の運転手…の過失 の有無について検討するまでもなく,(保有者)は,自賠法3条に基づく損 害賠償責任を負わないというべきである。 原告は,本件事故を訴外車両の 本件車両への追突事故と追突後に本件車両が横転した際のシートベルトの作 動不能事故が競合して原告車が外に飛び出した事故と捉えた上,… 当該装 置 には,シートベルトも含まれるから,シートベルトの装着・不装着も運 行に当たる旨主張している。しかしながら,… 当該装置 の該当性につい ても,人の生命又は身体に対する侵害という結果発生の危険性を有するか否 かという観点から判断するのが相当であり, 当該装置 に車両搭乗者の安

車装置に乗車させて自動車を運転してはならない(同2項)とされている。運 転席・助手席は,昭和60年9月1日より高速自動車道・自動車専用道路におい て,平成4年11月1日より一般道において,それぞれ義務化され,平成20年6 月1日より全座席について義務化された。

(14)

全を確保するための装置であるシートベルトを含めることには疑問があるし,

運行 という字義に照らしても,シートベルトをこれに含めるのは無理が ある 本件事故の発生は訴外車両の追突行為によるものであり,シートベ ルトの不装着それ自体により本件事故が発生したわけではないから,その意 味で,本件のシートベルトの不装着は, 運行 ではなく,いわば運行中の 同乗者の状態というべきものであって,本件では,その状態が本件事故の損 害の拡大に寄与しているにすぎない。 として請求を棄却した。

いずれの裁判例も結論は妥当であるが,シートベルトの固有装置性は,認 められると考える 。静岡地下田支判の事例は,シートベルトの操作が なく,もっぱら自招行為に起因する事故で運行起因性を欠く。大阪地判の事 例は,シートベルト不装着が操作性を欠き 運行 に該当しないことは当然 であるが,被追突車両は事故当時走行中であり, 運行 概念に関するどの 説に立っても事故発生の運行起因性は認められる。走行を 運行 として,

自賠法3条但書で処理する方が整理できる。

5.チャイルドシート不使用と 運行

チャイルドシートは固有装置に該当すると思われる 。 運行 を 危険 な状態に置く行為 と捉えれば,チャイルドシート不使用を 運行 とする 見解も出てくるかもしれないが, 用い方に従い用いる に 不使用 まで 含めることは,責任条件の外延を画する 運行 の解釈として妥当でなく,

チャイルドシートの不使用は, 運行 に該当しない。また,身体への外力 や衝撃は,アクセルやブレーキ,ハンドル転把など他の固有装置の操作が顕

35) 宮原守男ほか前掲注19)373頁小林和明判事は,シートベルトの固有装置性を 肯定する。

36) 座席ベルトは,道路運送車両の保安基準22条の3に適合すべき自動車の装置 である。

37) チャイルドシートは着脱可能ではあるが,道路交通法71条の3第3項は,

固定 という言葉を用いているし,使用が義務化された今日固有装置性は否 定できないと考える。

(15)

在化させるものであり,チャイルドシートの不使用を独立に 運行 と捉え る必要もない。東京地裁平成24年6月12日判決は,自動車の運転を 運行 と捉えており, 運行 概念に関するどの説を採っても異論はないと思われ る。

によつて の解釈

1.学 説

に際して 説 によつて を に依って と解し,運行と事故の発生 との間に時間的場所的接着性があればよいとする説である 。自賠法がモ デルとした旧西ドイツ道路交通法を根拠とする。

⑵ 事実的因果関係説 運行と事故の結果との間に,事実上の因果関係があ れば足りるとする説である 。相当因果関係説に立つと被害者が予見可能 性の立証責任を負担することとなるため,自賠法3条本文の趣旨に反する とする。

⑶ 相当因果関係説 運行と事故との間に相当因果関係を要するとする見解 である。自賠法3条が民法709条の特則であることを根拠とする 。通 説・判例 である。近時の下級審裁判例もこの説に立っている 。

38) 坂本雄三・前掲注5)128頁,木宮・前掲注7)註解58頁,木宮・前掲注7)判例 評論41頁,木宮高彦=羽成守=坂東司朗・ 注釈自動車損害賠償保障法 37頁

〔木宮高彦・羽成守〕(有斐閣,1986),小川・加藤ほか 交通事故による損害 賠償請求訴訟の諸問題[研究会12] 判タ187号40〜43頁(1966),福岡地小倉 支判昭和54年11月26日判時962号106頁など。

39) 小川・加藤ほか前掲注38)43頁加藤一郎教授発言部分,寺本・前掲注10)58頁,

中村・前掲注10)113頁。

40) 稲田・前 掲 注8)72頁,野 村・前 掲 注10)126頁,石 田・前 掲 注13)138頁, 鷺 岡・前掲注26)52頁,運輸省自動車局監修・改訂 自動車損害賠償保障法の解 説 25頁(自動車保障研究会,1970),比佐・前掲注9)10頁,宮原・前掲注31)

自動車損害賠償責任保険 155頁,中西・前掲注7)53頁,潮見直之 事故原因 との因果関係 新交通事故判例百選別ジュリ94号37頁(1987)。

41) 最判昭和52年11月24日民集31巻6号918頁,最判昭和54年7月24日判時952号 54頁。

(16)

2.検 討

自賠法3条は,不法行為の特則であるから,自賠法3条の によつて も 相当因果関係を指すと解するのが妥当である 。運行とかかわりのない自招 行為を原因とする事故は,運行と事故の間に相当因果関係が認められない 。 ところで,自賠法3条本文は, その運行によって他人の生命又は身体を害 したときは とし 事故 の文言を用いていないが, 運行によつて とは,

運行 と人身事故の発生との間に相当因果関係があることを意味する 。 最判昭和63年6月16日民集42巻5号414頁も 本件事故は,本件車両を当該 装置の用い方に従い用いることによって発生したものとはいえない。 と判 示しており,運行と事故発生との相当因果関係を問題としている。損害の拡 大に寄与したにすぎない行為は,事故発生の原因行為から除外される。

3.チャイルドシート不使用と相当因果関係

チャイルドシート不使用やシートベルトの不装着は,通常は,単独では人 身事故の発生の原因とならない。道路交通法という取締法規違反行為か,衝 突事故が発生した場合に損害拡大に寄与するに留まる。東京地判平成24年6 月12日は,自動車の運転による交差点進入を 運行 と解し,運行と人身事 故との相当因果関係を肯定した。 運行 概念及び によつて に関する諸

42) 東京高判昭和62年3月30日判タ644号200頁,仙台高判平成14年1月24日判時 1778号86頁など。

43) 民法709条の によつて は,民法416条と同様の相当因果関係と解されてい る。大判大正15年5月22日民集5巻386頁参照。

44) 加藤了・前掲注20)73頁は,事実的因果関係説に立ちつつ同様の結論を取る。

45) 大嶋芳樹 自賠法3条の運行起因性に関する紛争処理事例 円谷峻=松尾弘 編・損害賠償法の軌跡と展望305頁(日本評論社,2008年)は,自動車の運行に よって受傷又は死亡に至るまでに,自動車の運行→事故の発生→受傷→死亡の 経過をたどるとし, 事故の発生 とは, 衝突・接触又はこれに比すべき事態,

その他身体への衝撃等により身体を害する危険の発生をいう 自動車の運行 と事故の発生との間の因果関係又は事故の発生と受傷との間の因果関係の存在 が認められなければ受傷に対する責任は否定され(る) とする。

(17)

説のいずれの説を採用しても,異論は生じないと思われる。

チャイルドシート不使用が事故発生原因となりうる場合,たとえば,チャ イルドシートを装着させず,車内に幼児を残したまま,車両を停車し,運転 者が一時的に車両を離れた𨻶に,幼児が動いてフロアに転落し重傷を負った 場合,運行起因性は認められるか。停車行為を運行とし, 際して 説を採 用すれば,肯定されそうである。しかし,停車行為を運行としても,幼児の 転落事故は,停車行為を原因力として発生したものではないから,相当因果 関係は否定される 。民法709条の責任で処理すべきである。

運行に関し注意を怠らなかったこと の解釈

1.免責要件事実の主張立証責任

自賠法3条但書は, 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らな かったこと,被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並 びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したとき に運行供用者を免責とする。免責のため三要件すべての主張立証が必要か。

⑴ 全部説・非例示説 初期の学説は, 並びに との文言を重視して厳格 に三要件の主張立証を求め,これを欠く場合主張自体失当とする下級審裁 判例も存在した 。文理解釈としては素直であるが,昼間の事故で加害車 の照明灯に故障があるとの一事をもって免責を否定することは,明らかに 不合理である。

⑵ 一部説・例示説 これに対し,自賠法のモデルとなった旧西ドイツ道路 交通法7条2項に倣い,自賠法3条但書の三要件を事故が避けられなかっ たことの例示的規定であると解し,当該事故が避けられなかったことを主 張立証すれば免責されるとの見解が展開された。しかし,自賠法3条但書 46) 東京地判昭和55年12月23日判時993号68頁は,3歳の幼児を駐車場に駐車さ せた自動車内に長時間放置したため幼児が熱射病で死亡し自賠法16条請求がな された事案につき,仮にドアを閉める行為を運行と仮定しても,死亡との間に 相当因果関係はないと判示した。

47) 東京地判昭和38年6月24日判タ147号131頁。

(18)

の文言は,旧西ドイツ道路交通法とは異なっている。

⑶ 折衷説 そこで,三個の事実中,事故発生と明らかに無関係なものがあ るときは,その事実と事故との間に因果関係がないことを主張立証すれば 足りるとの説が実務家からなされ ,下級審裁判例に次第に定着した 。

⑷ 判例 最判昭和45年1月22日民集24巻1号40頁は,子どもの飛び出し事 案において, 右要件事実のうちある要件事実の存否が,当該事故発生と 関係のない場合においても,なおかつ,該要件事実を主張立証しなければ 免責されないとまで解する必要はなく,このような場合,運行供用者は,

右要件事実の存否は当該事故と関係がない旨を主張立証すれば足り,つね に右但書所定の要件事実のすべてを主張立証する必要はないと解するのが 相当である と判示し,折衷説を支持した 。現在の通説・判例である 。

2.法条外要件としての因果関係

折衷説の理論を整理すると, 自賠法3条但書の免責要件は,①運転者・

運行供用者の事故と因果関係のある過失の不存在,②被害者又は第三者の事 48) 谷水央 免責の要件 ⑴ 判タ212号159頁(1967),小川・加藤ほか 交通事 故による損害賠償請求訴訟の諸問題[研究会18] 判タ196号34頁加藤一郎教授 発言部分,37頁吉岡進判事発言部分,安田実 自賠法三条における免責立証の 現状と問題点 ジュリ431号137頁(1969),安田実 運行供用者の免責をめぐ る諸問題 ジュリ増刊総合特集8交通事故−実態と法理93頁(1977,以下諸問 題と表示)。

49) 広島地判昭和42年5月31日判タ209号217号。

50) 判例評釈として,谷水央・判タ248号71頁(1970),鈴木弘・最高裁判所判例 解説民事篇 昭和45年度81頁(1973),倉田卓次・民商63巻4号599頁(1971),

原島克己・交通事故判例百選〔第二版〕別ジュリ48号64頁(1975)。

51) 篠田省三 自賠法における免責 有泉亨監修・現代損害賠償法講座3吉岡進 編・交通事故151頁(日本評論社,1972),東京地判昭和59年11月13日判時1165 号137頁。

52) 当初,自賠法3条但書の免責要件は,例示か非例示かという形で論議がされ てきたが,法条外の要件事実として自賠法3条但書の各事実に 事故との因果 関係あること という要件を補充すべきかという問題でもある。篠田・前掲 51)151,152頁。

(19)

故と因果関係のある過失の存在,③事故と因果関係のある欠陥・障害の不存 在ということになる。 とされる 。そのため,道路交通法違反があっても 人身事故の発生と相当因果関係がなければ,運行供用者は免責される。本判 決にも引用されている最判昭和48年6月21日交通民集6巻3号785頁は,速 度違反があっても事故発生と因果関係がないとして免責を認めている 。

自賠法3条但書の文言に記載がないにもかかわらず,人身事故と因果関係 あることが免責要件事実に付加される法的根拠は何か。自賠法3条が完全な 無過失責任主義を取るのではなく,民法709条の過失の立証責任を運行供用 者側に転換したものであるため,民法709条の注意義務違反,すなわち人身 事故発生と因果関係ある注意義務違反のないことの立証責任が,運行供用者 に転換されたものだからである 。本判決も同様の理解に立つ。

3.運転者の注意義務の範囲と程度

自賠法3条但書における運行供用者の免責要件としての運転者の注意義務

53) 篠田・前掲51)151頁,154頁脚注26)。太田幸夫 免責 吉田秀文=塩崎勤 編・裁判実務体系8巻民事交通・労働災害訴訟法116頁。

54) 最判昭和48年6月21日交通民集6巻3号785頁は,青色灯火信号に従い交差 点に進入したタクシーが赤色灯火信号無視の車両に衝突され,タクシーの乗客 が受傷した事故について, 本件交差点のように信号機の表示する信号により 交通整理が行われている場合には,同所を通過する者は,互いにその信号に従 わなければならないのであるから,交差点を直進する車両の運転者は,特別な 事情のないかぎり,信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうること までも予想して,交差点の手前で停止できるように減速し,左右の安全を確認 すべき注意義務は負わないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和42年 (オ)第980号同45年10月29日第一小法廷判決・裁判集民事101号225頁参照)。…

もっとも,Y2には道路交通法68条に違反して走行していた事実が認められる が,その速度違反と本件事故との間には因果関係はなかったというのであるか ら,この点は右の結論になんら影響を及ぼすものではない。 とする。

55) 安田・前掲注48)ジュリ431号137頁は, 免責要件事実としては,事故原因と 関連性のある事実だけを主張立証すれば足りることは,自賠法3条の責任が全 くの無過失責任ではないことから考えて,法文上の限定はないけれども,法理 上当然であり,解釈上も異論のないところである と述べている。同旨太田・

(20)

の範囲と程度に関して,民法709条の注意義務と同一と理解する見解(通常 義務説) と,旧西ドイツ道路交通法7条の規定を根拠に通常の注意義務違 反ではなく,より高度の注意義務と理解する立場(高度義務説)がある 。 しかし,自賠法3条但書は,旧西ドイツ法とその要件,効果を異にしている から,高度義務説は採用し難く ,通常義務説が妥当である。通常義務説で は,運行供用者の免責要件である運転者の注意義務は,自動車の運行に関し て要求される民法一般原則上の注意義務を怠らなかったこととされる 。

4.免責に関する本判決の判断

運転者であるB子には,幼児であるXにチャイルドシートを使用させずに 乗車させた道路交通法上の義務違反があった。Xは,自賠法3条但書の 運 行に関し の 関し は,運行関連性を示すものであり,運行に関連する注 意義務違反を広く含むと主張し,そのように解することが被害者保護を旨と する自賠法の趣旨にも合致するとした。

本判決は,自賠法3条但書の免責要件のうち, 自己及び運転者が自動車 の運行に関し注意を怠らなかったこと とは, 過失の立証責任を転換し,

不法行為における過失がないことを免責要件として定めたものであって,…

損害賠償責任の根拠となる運転者の過失の範囲を民法の不法行為責任よりも 拡大したものではないと解するのが相当 として,通常義務説を採用する。

過失相殺における過失は,責任要件の過失と必ずしも一致しない。

前掲注53)116頁。

56) 安田実 免責の要件 ⑵ 判タ212号164頁(1967),安田実 民事裁判よりみ た信頼の原則 判タ220号42頁(1968),篠田・前掲注51)157頁,島林樹 自賠 法三条但書の免責 塩崎勤編・交通損害賠償の諸問題179頁(判例タイムズ社,

1999)。

57) 舟本信光 自動車事故責任の構造と課題 ジュリ431号108頁(1969)。

58) 安田・前掲注48)諸問題95頁。

59) 木宮・前掲注7)註釈60頁。木宮=羽成・前掲注38)48頁。安田・前掲注48)諸 問題94頁は, 運転者は,交通法規を遵守するのはもちろん,運行の安全を確 認し事故発生を未然に防止すべき義務がある。 とする。

(21)

また,本判決は, 自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなか ったこと は,もっぱら損害拡大に関わる過失など,人身事故の発生と関わ りのない過失が存在しないことまでを求めるものではなく,…免責を主張す る運行供用者は,…運行供用者及び運転者が人身事故の発生を回避するのに 必要な自動車の運行に関する注意を怠らなかったこと,すなわち,人身事故 の発生と因果関係のある自動車運行上の過失が存しなかったことを主張立証 すれば足りる と判示した。この点も前述の通説・判例に一致する。人身事 故発生と因果関係のない注意義務違反のある場合を広く有責とすれば,強制 保険制度の維持にも重大な影響を及ぼすから,妥当な判断である。

ところで,本判決は, もっぱら損害拡大に関わる過失 との枕言葉を置 いているため, もっぱら に該当しない例外的事例を救済する余地を残し たのか疑問が残る 。しかし,通常義務説では,自賠法3条但書の過失の範 囲は,民法709条の過失の範囲と同一と解され,人身事故の発生との因果関 係が過失の範囲を画することとなる。チャイルドシート不使用に関して言え ば,それのみで人身傷害事故が発生することはなく,事故発生の原因力は衝 突にあるのが通常であるから,免責の否定は慎重であるべきと解する。

(筆者は弁護士)

60) たとえば,追突が極めて軽微であったのに,被追突車のチャイルドシート不 使用のため乳児がフロアに転落し重大な後遺障害を負った場合も,運行供用者 を免責とすべきか。

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