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中国刑法における「ひき逃げ致死」の争点

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(1)

中国刑法における「ひき逃げ致死」の争点

著者 王 昭武

雑誌名 同志社法學

巻 70

号 4

ページ 1401‑1447

発行年 2018‑11‑30

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000354

(2)

中国刑法における「ひき逃げ致死」の争点

王   昭 武 

 目 次 一 問題の所在

二 危険運転行為に関する立法および司法解釈の現状  1 司法解釈の内容

 2 『道路交通安全法』の関連規定

三 「ひき逃げ致死」が成立するための前提条件  1 肯定説

 2 否定説  3 小括

四 「ひき逃げ」の意義  1 「ひき逃げ」の法的性格  2 「ひき逃げ」は目的犯であるか

  (1)ひき逃げは法的責任追及を免れるための行為であるとする見解   (2)ひき逃げは救護義務に違反する行為であるとする見解

  (3)ひき逃げは被害者の救護を中心とする各義務を履行しない行為であるとする 見解

  (4)ひき逃げは被害者を救護せずに逃走する行為であるとする見解

  (5)ひき逃げは法的責任追及を免れるために被害者を救護せずに逃走する行為で あるとする見解

 3 小括

五 「ひき逃げ致死」の被害者 六 「ひき逃げ致死」の主観的要素  1 過失犯説

 2 故意犯説  3 小括

七 「ひき逃げ致死」の共同犯罪

八 「ひき逃げ致死」の交通事故罪と故意殺人罪の関係 九 結論

(3)

一 問題の所在

 中国刑法においては、交通犯罪を規制する条文は刑法133条の交通事故罪 と刑法133条の1の危険運転罪があり、前者は過失犯で、後者は故意犯であ ると一般的に理解されている。危険運転罪は、酒酔い運転・暴走運転など危 険な運転方法によって公共交通安全に危害を及ぼすことに対処するため に1)、2011年と2015年の法改正によって追加し改正されたものである。伝統 的な交通犯罪は過失犯としての交通事故罪である。また、中国は日本と異な って、罪を定めることができるのは刑法だけであるから、道交法などの行政 法には具体的な罪名と刑罰をいっさい規定しておらず、単に「犯罪になった ときには、刑法の関係規定によって処罰される」と規定されているに過ぎず、

厳格的な意味での付属刑法はない。

 具体的に、刑法133条は、「交通運輸管理法規に違反し、よって重大な事故 を引き起こし、人に重傷害を負わせ若しくは人を死亡させ、又は公私の財産 に重大な損害を生じさせたときは、3年以下の有期懲役又は拘役に処する。

交通事故を引き起こした後に、ひき逃げ又はその他の特に悪質な情状がある ときは、3年以上7年以下の有期懲役に処する。ひき逃げによって人を死亡 させたときは、7年以上の有期懲役に処する。」と規定している。交通事故 罪は過失による結果犯であることは明らかであり、基本犯、ひき逃げ、ひき 逃げ致死という三段階に分けてそれぞれの法定刑を決めている。以下では、

それぞれ(括弧をつけて)「基本犯」、「ひき逃げ」、「ひき逃げ致死」と表記 する。

 ここで特に注意を要するのは、刑法133条の司法実務での適用に関して、

日本の最高裁判所に相当する最高人民法院は2000年11月10日に「交通事故に よる刑事案件を審理する際に法律を具体的に適用することに関する若干問題

1) 詳細は王昭武「中国刑法における危険運転罪――酒酔い運転型の危険運転罪を中心に――」『同 志社法学』第394号121-174頁を参照。

(4)

2) 中国において、最高人民法院および最高人民検察院はある法律の実務適用について、最高司 法機関の意見として司法解釈を公布するのはよくある現象であり、それは中国特色のあるやり 方でもある。この司法解釈が法律ではないのは勿論であるにも関わらず、最高司法機関による 権威のある法的解釈であり、下級司法機関がそれに従うべきであるとされている。即ち、司法 解釈は法律ではないが、それに準ずる拘束力がある。

についての解釈」という司法解釈を公布した(以下は司法解釈と略称する)2)。 司法実務において、この司法解釈に従って交通事故罪を具体的に適用する。

司法解釈5条1項は、「『ひき逃げによって人を死亡させたとき』とは、行為 者が交通事故を引き起こしてから法的責任追及を免れるために逃走し、よっ て被害者が救護を受けられないために死亡したことをいう」と規定している。

つまり、「ひき逃げ致死」になるには、交通事故の惹起者が法的責任追及を 免れるためという特定な目的を持って逃走したことによって、被害者が適時 に救護されずに死亡したことが必要である。当然ながら、行為者の逃走行為 と被害者の死亡結果との間に因果関係が認められなければならない。具体的 に、被害者が交通事故によって即死した場合、被害者が適時に救護されなか ったが、たとえ適時に救護されたとしても救命できないと判明された場合や、

行為者の逃走行為と被害者の死亡結果との間にある因果関係を遮断する介在 事情があった場合などは「ひき逃げ致死」にならない。この点について、ほ ぼ異議がない。

 この司法解釈は実務上刑法133条の適用に関するガイドラインのような存 在であるが、いまだにその適用についていろいろな議論があり、それらは主 に以下の六つの争点に集中している。即ち、①「ひき逃げ致死」が成立する には、ひき逃げする前の過失行為である先行行為が、交通事故罪の「基本犯」

が成立する前提条件であるか。②「ひき逃げ」(「ひき逃げ致死」)になるには、

行為者が「法的責任追及を免れる」という特定な目的で逃走したことが必要 であるか。③刑法133条の「人を死亡させた」(「ひき逃げ致死」)にいう「人」

には、逃走中に新たに引き起こした二次事故の死者も含まれるのか。④「ひ き逃げ致死」の主観的要素は過失のほかに、故意も含まれるのか。⑤交通事 故を引き起こした者にひき逃げ行為を教唆し、よって被害者が適時に救護を

(5)

受けられずに死亡した場合に、「ひき逃げ致死」の教唆犯になるか。⑥いか に「ひき逃げ致死」の交通事故罪と故意殺人罪を区別するか。そのうち、② が最大の争点である。以下では判例を参考しながら、その六つの争点をめぐ る対立意見を紹介することに加えて、私見を展開しようとするものである。

二 危険運転行為に関する立法および司法解釈の現状

 中国において運転行為を規制する法律は、刑法133条、刑法133条の1のほ かに、『道路交通安全法』にも関連規定がある。また、前述する司法解釈は 刑法133条の適用について詳細にわたって規定している。「ひき逃げ致死」に 関する争点を展開する前に、その司法解釈の内容と『道路交通安全法』の関 連規定を紹介することにする。

1 司法解釈の内容

 前述する司法解釈の詳細な内容は以下のとおりである。そのうち、2条、

3条、5条1項はそれぞれ「基本犯」、「ひき逃げ」、「ひき逃げ致死」に関す る規定であり、5条2項は「ひき逃げ致死」の共犯、6条は故意殺人罪と故 意傷害罪に関する規定である。

第一条 交通運輸に業として従事する者またはそれに業として従事して いない者は、交通運輸に関する管理法規を違反することによって重大 な交通事故を引き起こしたときに、事故の責任分担を明確にさせた上 で、犯罪になる者を、刑法133条の規定により罪を定めて処罰する。

第二条 交通事故を引き起こして次に掲げるいずれかの事情があるとき は、3年以下の有期懲役又は拘役に処する。

 (1)1人以上を死亡させまたは3人以上に重傷を負わせ、且つその 事故の全責任または主要責任を負う者

 (2)3人以上を死亡させ、且つその事故に関して(被害者等と)同 等な責任を負う者

(6)

 (3)公共財産または他人の財産に対して直接的な財産的損失を生じ させ、賠償できない金額が30万元以上で、且つその事故の全責任ま たは主要責任を負う者

② 交通事故を引き起こして1人以上に重傷を負わせ、且つその事故の 全責任または主要責任を負う者に次に掲げるいずれかの事情があると きは、交通事故罪に処する。

 (1)飲酒した後または薬物を服用した後に、機動車を運転する者3)

 (2)運転免許がなく機動車を運転する者

 (3)安全装置不備または安全部品失効の機動車であることを知りな がらそれを運転する者

 (4)ナンバープレートのない機動車または廃棄処分にされた機動車 であることを知りながらそれを運転する者

 (5)定員数又は確定荷重を大幅に超過して運転する者  (6)法的責任追及を免れるために事故現場を逃げ去る者

第三条 「交通事故を引き起こした後にひき逃げがあるとき」とは、行 為者が、本解釈の2条1項と2項の1号から5号に規定されたいずれ かの事情があって、交通事故を生じさせた後に、法的責任追及を免れ るために逃走することをいう。

第四条 交通事故を引き起こして次に掲げるいずれかの事情があるとき は、「交通事故を引き起こした後にその他の特に悪質な情状があると き」のことであり、3年以上7年以下の有期懲役に処する。

 (1)2人以上を死亡させまたは5人以上に重傷を負わせ、且つその 事故の全責任または主要責任を負う者

 (2)6人以上を死亡させ、且つその事故に関して(被害者等と)同 等な責任を負う者

3) ここにいう「機動車」は専門用語であり、自動車、オートバイなどを指す。『道路交通安全法』

119条1項3号は、「『機動車』は、動力装置によって駆動または牽引され、路上を走行する車 両のうち、人の乗用に供される、または物の運送および特種な工事作業に使われる、装輪式の 車両をいう。」と規定している。

(7)

 (3)公共財産または他人の財産に対して直接的な財産的損失を生じ させ、賠償できない金額が60万元以上で、且つその事故の全責任ま たは主要責任を負う者

第五条 「ひき逃げによって人を死亡させたとき」とは、行為者が交通 事故を引き起こしてから法的責任追及を免れるために逃走し、よって 被害者が救護を受けられないために死亡したことをいう。

② 交通事故が引き起こされた後に、行為者の所属会社等の責任者、お よび機動車の所有者、請負人または同乗者が行為者に逃走を唆し、よ って被害者が救護を受けられないために死亡したときは、その人を交 通事故罪の共犯に処する。

第六条 行為者が交通事故を引き起こした後に、被害者を事故現場から 他所に搬送してその者を隠匿しまたは遺棄し、よって被害者が救護を 受けられないために死亡しまたは体の重大な不自由を生じさせられた ときは、刑法232条または刑法234条2項の規定により、それぞれ故意 殺人罪または故意傷害罪で処罰する。

第七条 所属会社等の責任者、機動車の所有者、または機動車の請負人 は、人に交通運輸管理法規に違反して運転することを唆しまたは強制 させ、よってその人が重大な交通事故を引き起こし、本解釈の2条の 規定されているいずれかの事情があったときは、交通事故罪で処罰す る。

第八条 略 第九条 略

2 『道路交通安全法』の関連規定

 他に、『道路交通安全法』にも交通事故のひき逃げに関連する規定がある。

 道交法70条は、「道路上において交通事故が発生したときは、車両の運転 者は直ちに停車して事故現場を保護すべきである。人の死傷を生じさせたと きは、車両の運転者は直ちに負傷者を救護して、迅速に当番の交通警察また

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は警察の交通管理機関に報告すべきである。負傷者を救護するために事故現 場を変更したときは、関係位置を表明すべきである」と規定している。即ち、

道交法70条は、負傷者救護義務と事故報告義務を規定しているが、それに違 反した場合には負傷者救護義務違反罪または事故報告義務違反罪になるわけ ではなく、単に行政罰にとどまる。

 道交法73条は、「警察の交通管理機関は交通事故現場を検証・検査・調査 する状況、およびその事故に関係する検査結論と検定結論に基づいて、適時 に交通事故認定書を作成して、それを交通事故を処理するための証拠とする。

交通事故認定書には当該交通事故の基本事実、発生原因および各当事者の責 任分担を明記した上、それを各当事者に届けるべきである」と規定している。

即ち、交通事故が発生した後、警察の交通管理機関は事故の発生に関して各 当事者の責任分担を明確にさせる必要がある。交通事故罪の成否を判断する にあたって、裁判所がその責任分担をもとに判断する場合は多い。当然なが ら、刑事案件は実行行為と結果との因果関係を重要視しているから、交通警 察官の認定した責任分担は単に裁判官がそれを判断するための材料の一つに 過ぎず、その責任分担を認めるかどうかは最終的に裁判官の判断に委ねられ ている。

 さらに、『道路交通安全実施条例』92条1項は、「交通事故が発生した後に、

当事者が逃走したときは、その当事者は当該交通事故に関して全責任を負う。

但し、相手の当事者にも過失があることを証明できる証拠があれば、その責 任を減軽することができる。」と規定している。即ち、交通事故が発生した 場合に、当事者が現場から逃走したときは、その事故の発生に関して本来、

責任があったかどうかを問わずに、一律に全責任を負わせる。ここからは、

行政法が、その責任認定を通じて、ひき逃げを抑止しようとする趣旨が見ら れる。

(9)

三 「ひき逃げ致死」が成立するための前提条件

 上述したように、刑法133条後段は、「ひき逃げによって人を死亡させたと きは、7年以上の有期懲役に処する。」と規定している。さらに、司法解釈 3条は、「『交通事故を引き起こした後にひき逃げがあるとき』とは、行為者 が本解釈の2条1項と2項の1号から5号に規定されたいずれかの事情があ って、交通事故を生じさせた後に、法的責任追及を免れるために逃走するこ とをいう」と規定している。ここにいう「行為者が本解釈の2条1項と2項 の1号から5号に規定されたいずれかの事情があって、交通事故を生じさせ た後」とは、交通事故罪の「基本犯」が成立することを意味する。しかし、

司法解釈5条は、「『ひき逃げによって人を死亡させたとき』とは、行為者が 交通事故を引き起こしてから法的責任追及を免れるために逃走し、よって被 害者が救護を受けられないために死亡したことをいう」と規定しているに過 ぎず、「行為者が本解釈の2条1項と2項の1号から5号に規定されたいず れかの事情があって、交通事故を生じさせた後に」という文言がない。そう すると、「ひき逃げ」になるためには、先行行為として、交通事故罪の「基 本犯」が成立しなければならないのに対して、「ひき逃げ致死」が成立する ためには、先行行為である交通事故罪の「基本犯」が成立するのがその前提 条件であるかどうかが法文上明記されていない。この点について学説上激し い論争がある。その見解によって「ひき逃げ致死」の成否が変わり、結果的 に「ひき逃げ致死」の場合に処される法定刑「7年以上の有期懲役」を適用 するかどうかについても結論が変わる。

 例えば、【事案1】2011年2月25日20時頃、被告人甲が乙を載せて電動自 転車を運転する際に、道路状況をよく注意せずに、且つ回避措置を適切に講 ずることができなかったので、同方向に向かっている歩行者に後方から衝突 し、被害者を転倒させた。事故発生後、被告人は警察に報告せず、また何ら の救護措置も取らずに、そのまま電動自動車を運転して逃走した。不幸にも

(10)

被害者が後続してくる車にはねられてしまった。警察官が駆けつけてきたと きに、被害者が既に死亡したことを確認した。この事故発生の責任分担に関 して、警察官は被告人が全責任を負い、被害者に責任なしと認定した4)。こ れは司法実務によく見られる事案であり、本事案の特徴は一人だけを死亡さ せ、且つその死亡結果が過失の先行行為だけではなく、ひき逃げ行為と相ま って引き起こされたのである。即ち、過失の先行行為が死亡の危険性を生じ させて、ひき逃げ行為はその危険性を現実化させた。上述したように、交通 事故罪の「基本犯」が成立するのは、「ひき逃げ致死」が成立するための前 提条件であるかによって、被告人に「ひき逃げ致死」を適用するかという結 論も違ってくる。

 この問題について、学説と判例では肯定説と否定説の対立が見られる。

1 肯定説

 肯定説は通説であり、「ひき逃げ致死」は、ひき逃げする前の過失の先行 行為が交通事故罪の「基本犯」として成立することが前提となると主張す る5)。そうすると、行為者が制限速度を超えて一人に重傷を負わせてからの 逃走行為によって被害者を死亡させたときは、「ひき逃げ致死」を適用できず、

単に交通事故罪の基本犯になるに過ぎず、3年以下の有期懲役又は拘役に処 せられることになる6)。その理由は、否定説をとれば不合理な結論を避けら れないからであるということにある。つまり、否定説によれば、交通事故を 引き起こした場合に、その結果が重傷であれ軽傷であれ、いったんひき逃げ によって被害者を死亡させたら、一律に「ひき逃げ致死」の規定によって処 罰され、7年以上の有期懲役に処することになる。この結論は明らかに「罪 刑の均衡」という刑法の基本原則にふさわしくない。だから、「ひき逃げ」

4) 広西壮族自治区貴港市南区人民法院刑事判決書(2012年)南刑初字第26号。

5) 高銘暄編『刑法専論』(高等教育出版社、2006年)629頁、張明楷『刑法学(下)(第5版)』(法 律出版社、2016年)723頁、周光権『刑法各論(第3版)』(中国人民大学出版社、2016年)191 頁、陳興良編『刑法学(第3版)』(復旦大学出版社、2016年)334頁(林維)。

6) 張明楷・前掲(5)723頁。

(11)

と同じく、「ひき逃げ致死」の成立についても、ひき逃げする前の先行行為 は交通事故罪の「基本犯」が成立することを前提とするべきである7)。判例 の多くは、肯定説をとっている8)

2 否定説

 肯定説に対して、否定説は、「ひき逃げ致死」が結果的加重犯ではなく情 状的加重犯であり、その成立は行為者の先行行為が交通事故罪の「基本犯」

として成立することを前提とせず、ひき逃げによって被害者を死亡させたと いう情状さえあれば、一律に交通事故罪の加重犯である「ひき逃げ致死」は 成立する、とする9)。即ち、救護義務のある行為者はその義務を履行せず、

よって被害者が死亡したときに、交通事故罪の「基本犯」が成立するかどう かを問わずに、「ひき逃げ致死」は成立すべきである10)。言い換えれば、同 じくひき逃げという文言を使っているが、「ひき逃げ」と「ひき逃げ致死」

においてはその意味合いが異なる11)

 否定説は肯定説を批判しながら展開されてきたものである。具体的に、司 法解釈により、交通事故を引き起こして一人に重傷を負わせた場合は交通事 故罪の「基本犯」が成立しないが、肯定説によると、そのときにひき逃げに よって被害者を死亡させたにも関わらず、交通事故罪の「基本犯」または「ひ き逃げ」が成立するにとどまり、依然として「ひき逃げ致死」にならない。

しかし、第一に、この見解は、ほかの過失犯罪との間に刑罰の不均衡を生じ させる恐れがある。例えば、森林を濫伐して、倒れてきた樹木によって誰か

7) 喩貴英「交通肇事中四種『逃逸』行為之認定」『法律科学(西北政法学院学報)』2005年第1 期参照。

8) 例えば、万剣鋒「交通肇事報警後在処警期間離開現場不応認定為『逃逸』」国家法官学院案例 開発研究中心編『中国法院2016年度案例:刑法分則案例』(中国法制出版社、2016年)6頁。

9) 劉艶紅「交通肇事逃逸致人死亡的個案研究」陳興良編『刑事法判解』(第5巻)(法律出版社、

2002年)432頁。

10) 劉艶紅・前掲(9)432頁、王沢群「論我国刑法中的具体・抽象危険犯――従交通肇事逃逸 行為的処罰根拠入手」『海南大学学報(人文社会科学版)』2009年第6期、陳洪兵・前掲(9)。

11) 侯国雲「論交通肇事後逃逸」『法制与社会発展』2003年第2期。

(12)

が下敷きになり重傷を負ったときに12)、行為者が被害者を救護せずに放置し たら、理論的には過失致死罪が成立するほかに、不作為による故意殺人罪が 成立する可能性もある。それに対して、交通事故罪は法益侵害性のより大き い業務上過失の性質のある過失犯罪として、交通事故の被害者を放置するこ とによって死亡させたとしても、3年以下の有期懲役又は拘役に処するにと どまり、その間の不均衡が明らかである。第二に、この見解は「ひき逃げ致 死」に対する一般人の理解からも乖離する。通説の見解を忠実に適用すれば、

一回の交通事故で数人を死傷させて、そのうち少なくとも死者1人または重 傷者3人があって初めて交通事故罪の「基本犯」が成立し、その上に少なく とも一人が適時に救護されずに死亡したという事実があってはじめて「ひき 逃げ致死」になる。つまり、ひき逃げによって被害者を死亡させたにも関わ らず、「ひき逃げ致死」にはならない場合がある。しかし、その通説の見解 と異なり、一般人が「ひき逃げ致死」という表現から抱く素朴なイメージは、

被害者を救護せずにひき逃げして被害者を死亡させてしまったということで あるはずである。その意味では、通説の見解は、一般人の想像をはるかに超 えたものであると言わざるを得ない。第三に、司法実務では、ひき逃げによ って被害者を死亡させた事案が決して少なくないにも関わらず、「ひき逃げ 致死」として処罰されるケースが多くない。そういう状況になったのは、通 説のやり方がその要因の一つであるとも言える。そうすると、1997年刑法改 正が「ひき逃げ致死」を追加する立法目的は実現できなくなってしまう13)。 第四に、例えば、行為者が法定速度を超えて運転し、赤信号を無視する歩行 者5人に衝突し、重傷を負わせた後にひき逃げして、その5人の被害者が適 時に救護されずに死亡したときに、もし交通事故の発生に関して警察官が行 為者に同等または同等以下の責任を負うという責任を認定したら、司法解釈

12) 中国刑法345条2項【林木濫伐罪】は、「森林法の規定に違反して、森林又はその他の林木を 濫伐した者は、その量が比較的多いときは、3年以下の有期懲役、拘役又は管制に処し、罰金 を併科し又は単科する。その量が非常に多いときは、3年以上7年以下の有期懲役に処し、罰 金を併科する」と規定している。

13) 陳洪兵・前掲(9)。

(13)

によって先行行為が交通事故罪にならない。そうすると、通説によれば、「ひ き逃げ致死」が成立せず、多くても「ひき逃げ」になるにとどまる。この結 論は交通事故発生後に財産および人身の損害の拡大を防止するという立法趣 旨にも明らかに反する14)。それは、通説が「犯罪と刑罰が均衡する」という 刑法の基本原則にふさわしくないと批判された所以でもある15)

 他方で、明確に否定説を採用した判例も見られる。例えば、【事案2】

2014年7月19日22時5分、被告人甲は乗用車を運転して浙江省開化県華埠鎮 のバスステーションの近くで、女性歩行者を跳ねて転倒させた。乗用車のバ ックミラーが地面に落ちて、フロントガラスの左下の部分が破損されるなど の損傷が発生した。事件発生後、被害者自らが救護を求めたほか、通行人も 電話で警察に報告した。被告人甲は一旦事故現場から24キロ離れたところま で逃走したが、途中で変心して折り返して現場近くに戻ってきた。また、被 告人甲は22時25分に警察に報告して、警察の指定する場所で待機した。22時 7分に、不幸にも地面に倒れている被害者が後続してきた乙の乗用車に轢か れて死亡した。警察官の事故責任認定によると、第一次の事故に関して、被 告人甲は全責任を負い、第2次の事故に関して被告人甲は乙と同等の責任を 負うのに対して、被害者はいっさい責任を負わない。この事案について、一 審と二審はともに、被告人甲のひき逃げ行為が被害者に自力で現場から離れ られない程度の傷害を与えて、更に被害者がほかの車に轢かれて死亡する結 果を生じさせたという事実を認定した上で、被告人甲のひき逃げ行為と被害 者の死亡結果との間に因果関係があり、「ひき逃げ致死」が成立するという 判決を下した。

 これは事実が複雑ではない案件であるが、最高人民法院に「指導事案」(第 1118号)に指定され、最高人民法院の機関紙『刑事審判参考』に掲載されて いる。そのために、本件の裁判官は、裁判理由を詳しく説明していた。そし て、裁判官は以下の理由に基づいて、「『ひき逃げ致死』の認定には、ひき逃

14) 張蓋「因『逃逸致人死亡』的理解」『蘇州大学2016年度修士論文』20頁。

15) 李会彬「『因逃逸致人死亡』情節的独立性解読」『政治と法律』2014年第8期。

(14)

げ前の交通事故惹起行為が交通事故罪になることを前提としない」と明言し た。第一に、刑法133条が三つの種類の交通事故罪を規定しており、その三 種類が段階的に重くなっていく関係にあるが、「ひき逃げ致死」は、先行行 為は「基本犯」が成立することを前提条件とすることを規定していないから、

否定説は法的規定にも合致する。

 第二に、否定説は、司法解釈の趣旨にも合致する。具体的に、司法解釈に は3種類のひき逃げ行為を規定している。一つ目のひき逃げ行為は司法解釈 の2条2項が規定する交通事故罪の「基本犯」の成立要件で、二つ目のひき 逃げ行為は司法解釈の3条が規定する「基本犯」が成立した上での法的加重 情状で、三つ目のひき逃げ行為は司法解釈の5条が規定する重い罪(「ひき 逃げ致死」)の構成要件である。そのうち、三つ目のひき逃げ行為が成立す る「ひき逃げ致死」は、「基本犯」の成立を前提条件とせずに、以下の4つ の要素を構成要件とする。即ち、①ひき逃げ前の先行行為が交通事故を引き 起こす行為であること、②事故の結果として死者を生じたかどうかを別にし て、少なくとも1人または1人以上の被害者が生存していること、③行為者 が法的責任追及を免れるために逃走したこと、④その被害者が、行為者のひ き逃げ行為によって救護を受けられずに死亡したこと、という四点である。

そのうち、司法解釈が重視しているのは四つ目の要件であり、被害者が行為 者のひき逃げによって救護を受けられずに死亡したことさえあれば、行為者 には、(特殊情状の重い罪としての)「ひき逃げ致死」の交通事故罪が成立す る。

 第三に、司法実務の要望にも合致する。肯定説によれば、1人に重傷を負 わせてひき逃げしたときは、(「ひき逃げ」になる可能性があるが)「ひき逃 げ致死」にならないが、それは明らかに一般人の理解から乖離する。特に司 法実務では、行為者がひき逃げしてから、被害者が後続してくる車に轢かれ て死亡してしまうことがよく見られる。このような場合には、第一次の交通 事故が被害者に重傷を負わせたかを確認する可能性がほとんどないから、先 行行為がいったい交通事故罪の基本犯になったかもなかなか判定できな

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16)

 ほかに、【事案1】の一審は、「本裁判所は、被告人が交通運輸管理法規に 違反し、よって交通事故を生じさせて、さらにひき逃げによって1人の被害 者を死亡させた。その行為は中華人民共和国刑法第133条の規定を犯して交 通事故罪が成立する。…被告人が法的責任追及を免れるために事故現場を逃 げ去ることによって、被害者が救護を受けられないため死亡した。これは『ひ き逃げ致死』と認定すべき行為であり、法により7年以上の有期懲役に処す べきである」と判決して、7年の有期懲役に処した17)。この判決も明らかに 否定説を採用していると思われる。

3 小括

 「ひき逃げ致死」は、ひき逃げする前の行為に交通事故罪が成立すること を前提とすべきかどうかについて、否定説にも一定の説得力があるが、肯定 説が依然として、判例の主流であり通説でもある。確かに、司法解釈5条は、

3条のように先行行為に交通事故罪の基本犯が成立することを前提条件とす ることを明記していない。しかし、「法律が同じ概念を使用するときに、そ の概念を同じく解釈するのが原則であり、それで法律適用の安定が維持され る。ただ、これは絶対的ではなく、同じ概念が異なる意味を有することはた まにある18)」。同じ司法解釈をもって同じ刑法条文の同じ文言に関する解釈 であるから、特別な理由がない限り異なる解釈をすべきではなく、同一に理 解すべきであると思われる19)。また、否定説の指摘するように、肯定説によ れば、1人に重傷を負わせてひき逃げしたときは、「ひき逃げ致死」になる ことがないので、被害状況の更なる拡大を有効に防止できない恐れがあるか

16) 殷一村・周永敏・毛曼諭「邵大平交通肇事案――交通肇事撞傷他人後逃離現場、致被害人被 後続車両碾圧致死的如何定性」最高人民法院編『刑事審判参考』第105期(「指導判例」第1118 号)15-23頁。

17) 広西壮族自治区貴港市・前掲(4)。

18) 王沢鑒『民法思維――請求権基礎理論体系』(北京大学出版社、2009年)174頁。

19) 労東燕「交通肇事逃逸的相関問題研究」『法学』2013年第6期。

(16)

もしれない。しかし、ひき逃げによって被害者が死亡したら、必ずしも「ひ き逃げ致死」にならないというのは、司法解釈の明文規定であり、その規定 自体の合理性に疑問があるという理由で、「ひき逃げ」という文言を別々に 解釈すべきであるという発想そのものが合理性を欠くとも言える。実は、そ の場合に、交通事故罪の「基本犯」は、刑法233条の過失致死罪と観念的競 合の関係にあり、これで他の過失犯罪との間に刑罰の不均衡が生じない。

四 「ひき逃げ」の意義

1 「ひき逃げ」の法的性格

 上述したように、司法解釈の2条、3条、5条にはひき逃げ行為に関する 規定があり、同じくひき逃げ行為でありながらその法的性格が違う。2条で は、それが交通事故罪の「基本犯」の成立要件の一つであり、即ち、交通事 故を引き起こして1人以上に重傷を負わせ、且つその事故の全責任または主 要責任を負う者が、事故発生後に法的責任追及を免れるために事故現場を逃 げ去ったときは、交通事故罪が成立する。3条、5条には、それが量刑情状 で、刑罰を加重する情状であり、先行行為が交通事故罪の「基本犯」が成立 した上で、ひき逃げすれば、3年以上7年以下の有期懲役に処し、またはひ き逃げによって被害者が死亡すれば、7年以上の有期懲役に処する。即ち、

ひき逃げ行為は、犯罪成立要件の場合もあれば、刑罰加重の量刑情状となる 場合もある。当然ながら、一つのひき逃げ行為に対して重複評価は許されず、

いったん犯罪成立要件として評価されたら、それを改めて刑罰加重の量刑情 状として評価することはできない。

 例えば、【事案3】2014年6月10日15時頃、被告人は、制限速度を超過し てトラックを運転して交差点を通過する際に、無免許の被害者が運転する二 輪バイクと衝突し、被害者をその場で即死させた。被告人は警察に電話で事 故を報告した後に、トラックを放置して事故現場から立ち去った。しかし、

(17)

21時50分に、被告人は変心して、警察官に自首して犯罪事実を供述した。事 件の責任分担に関して、警察官は、被告人が制限速度に違反し、且つ事故現 場から離れた行為がこの事故を引き起こす直接的な原因であり、主要責任を 負うのに対して、被害者が無免許運転し、且つ右方向に進行する車両を先に 通過させない行為がこの事故を引き起こす間接的な原因であり、副次的な責 任を負うと認定した。それに基づいて、一審は、被告人には「ひき逃げ」の 交通事故罪が成立すると判決した。被告人が上訴したが、二審は、「『中華人 民共和国刑法』133条および最高人民法院『交通事故による刑事案件を審理 する際に法律を具体的に適用することに関する若干問題についての解釈』2 条1項の規定に基づいて、交通事故を引き起こして一人を死亡させた場合に、

交通事故罪が成立するには、同時に行為者は交通事故の全責任または主要責 任を負う必要がある。本事案では、交通警察官はまさに、被告人が制限速度 を超過して運転し、且つ事故発生後にトラックを放置して現場を離れた事実 に基づいて、被告人に主要責任を負うことを認定していたわけである。つま り、被告人が事故現場から離れたことは、交通事故罪(の「基本犯」)が成 立するための構成要件である。したがって、一審は、最高人民法院『交通事 故による刑事案件を審理する際に法律を具体的に適用することに関する若干 問題についての解釈』3条の規定を適用して、被告人には交通事故罪が成立 し、且つ『ひき逃げ』であることを認定したのは、そのひき逃げ行為を重複 評価しているのが明らかであり、法律の適用が間違っている」とした上で、

被告人には交通事故罪の「基本犯」が成立すると判決した20)

 つまり、【事案3】の二審判決の趣旨は、「交通事故に関する事案において は、ひき逃げ行為が犯罪の成立要件に認定された以上、さらにそれを被告人 の刑罰を加重する量刑情状として重複評価してはならない」ということにあ る。また、ひき逃げ行為と関係なく、行為者の先行行為そのものが既に交通 事故罪として成立したときは、そのひき逃げ行為は刑罰加重情状即ち量刑情

20) 「安徽省頴上県人民検察院訴徳田交通肇事案」『最高人民法院公報』2017年第6期。

(18)

状として認定すべきである21)

2 「ひき逃げ」は目的犯であるか

 ひき逃げの法的性格よりもっと激しく論争されている争点は、ひき逃げが 目的犯であるかである。これは「ひき逃げ致死」に関する最大の争点である とも言える。

 司法解釈2条2項6号に「法的責任追及を免れるために事故現場を逃げ去 る者」と規定し、3条に「『交通事故を引き起こした後にひき逃げがあるとき』

とは、行為者が本解釈の2条1項と2項の1号から5号に規定されたいずれ かの事情があって、交通事故を生じさせた後に、法的責任追及を免れるため に逃走することをいう」と規定し、そして5条に「『ひき逃げによって人を 死亡させたとき』とは、行為者が交通事故を引き起こしてから法的責任追及 を免れるために逃走し、よって被害者が救護を受けられないために死亡した ことをいう」と規定している。それ故、「ひき逃げ」と「ひき逃げ致死」と するには、行為者が「法的責任追及を免れるため」という目的で逃走したこ とが必要であるという見解が、判例の主流であり、かつての通説でもあった。

ここにいう「法的責任追及を免れるため」とは、「行政責任、民事責任また は刑事責任を免れるため」といわれている22)。この問題に関する争いは、事 故発生後に「法的責任追及を免れるため」に逃走するのは人間の本能であり、

それだけの理由で刑罰を加重するはずがなく、それより救護義務違反こそが 刑罰加重の理由であり、そのためにひき逃げになるには救護義務違反だけで 足りるではないか、というところに集中している。

21) 例えば、李永輝「交通肇事者擅自離開事故発生地可構成交通肇事逃逸」2018年5月24日付け

『人民法院報』は、「交通事故を引き起こした者には、その事故惹起行為が一人を死亡させ、且 つ事故発生に関して全責任を負う等の情状によって既に交通事故罪が成立している場合に、事 故発生後のひき逃げ行為が刑罰加重情状として評価されることができる」とする。

22) 劉徳権編『最高人民法院司法観点集成刑事巻①(第2版)』(人民法院出版社、2014年)467頁、

欧陽福生「交通肇事後譲同案犯頂罪的案件如何処理」2012年5月31日付『人民法院報』。

(19)

(1)ひき逃げは法的責任追及を免れるための行為であるとする見解  司法解釈の見解を支持して、ひき逃げ行為は法的責任追及を免れるために 現場から逃走する行為であり、「ひき逃げ致死」は法的責任追及を免れるた めに現場から逃走し、よって被害者が救助されずに死亡した行為であるとす る見解は、かつての通説であった23)。この見解は、被害者を救護しないこと だけをもって「ひき逃げ」が成立するという見解は、実際に現場から逃げ去 ったかどうかを問わないものであり、それは司法解釈の趣旨に相応しくなく 処罰範囲を不当に拡大するものでもある、と主張する24)

 この見解をとる判例が多くある。例えば、【事案4】2016年11月14日23時頃、

被告人はナンバープレートを取得していない二輪バイクを無免許運転して、

歩行者に衝突し、二人とも負傷した。他の通行人は負傷していた被告人と被 害者を病院に搬送して治療を受けさせた。翌日に、被告人は故なくして勝手 に病院を出て行方不明となった。警察は、交通事故罪が成立する疑いがある として取り調べをして、被告人を指名手配した。2017年1月3日に、被告人 が逮捕された。2017年5月13日に、被害者は救命できず死亡した。この交通 事故の責任分担について、交通警察官は被告人が全責任を負うと認定した。

この事案について、一審は、「被告人は交通運輸管理法規に違反して、ナン バープレートを取得していない機動車であることを知りながらそれを無免許 運転し、よって重大な事故を生じさせ、1人を死亡させた。被告人は全責任 を負い、そして事故発生後にひき逃げした。その行為は(『ひき逃げ』の)

交通事故罪が成立する」と判決して、被告人を4年7月の有期懲役に処し た25)。さらに、一審の裁判官は、次のように判決理由を説明した。交通事故 を引き起こしてから現場から逃走する行為は「ひき逃げ」になるかどうかは、

以下のことを総合的に判断すべきである。まず、行為者が逃走する際に、そ の先行行為が既に交通事故を引き起こしたことを知りながらまたは知るべき

23) 高銘暄・馬克昌編『刑法学(第8版)』(北京大学出版社、2017年)358頁以下(林亜剛)、陳 興良・前掲(5)334頁(林維)。

24) 高銘暄・馬克昌・前掲(23)358頁以下(林亜剛)。

25) 広東省海豊県人民法院(2017)粤1521刑初207号。

(20)

でありながら、法的責任追及を免れるために逃走した。これは行為者の主観 面にある故意である。もし事故発生後に負傷者を救護せずに、被害者の家族 などに殴られることを恐れるなどの理由で、車を運転して現場から逃走して 直ちに警察官のところに自首すれば、主観面には、「法的責任追及を免れる ため」という目的が認められないから、その逃走行為は「ひき逃げ」になら ない。次に、「ひき逃げ」は「現場から逃走する」ことに限らず、病院に搬 送する途中で逃走する場合も含まれる26)

 この判決理由のうち、「法的責任追及を免れるために逃走した」という目 的を強調して、「もし事故発生後に負傷者を救護せずに、被害者の家族など に殴られることを恐れるなどの理由で、車を運転して現場から逃走して直ち に警察官のところに自首すれば、主観面には、『法的責任追及を免れるため』

という目的が認められないから、その逃走行為は『ひき逃げ』にならない」

という結論が得られた。この結論は多くの学者に厳しく批判されていた。清 華大学の張明楷教授、黎宏教授と周光権教授はその代表的な論者として、そ の批判をもとに各自の見解を展開している。

(2)ひき逃げは救護義務に違反する行為であるとする見解

 張明楷教授は、司法解釈が「ひき逃げ」を「法的責任追及を免れるために 逃走することをいう」と解釈するのは合理性がないと厳しく批判した。とい うのは、犯罪を犯した後に「法的責任追及を免れるために逃走する」のは、

犯罪者にとってそれが人間としての本能であり、言い換えればそれが期待可 能性のない行為でもある。だからこそ、自首が法定的な処罰減軽事由になっ ているわけである27)。例えば、バイクを運転している乙を殺すために、甲が 車を運転して追いかけている途中に、不注意で交通事故を引き起こして第三 者である丙に重傷を負わせた場合に、甲は乙を殺してから丙を救護しようと 思って、引き続き追いかけて適時に丙を救護しないことによって丙が死亡し

26) 李永輝・前掲(21)。

27) 張明楷・前掲(5)723頁。なお、陳洪兵・前掲(9)。

(21)

てしまった。司法解釈の見解によれば、この場合にも甲は「ひき逃げ致死」

にならない。それは明らかに不合理である28)

 この批判を踏まえて、張明楷教授は自説を展開する。刑法が交通事故罪の ひき逃げ行為だけに対してその法定刑を引き上げるのは、交通事故の場合に 救護を要する被害者があり、その刑罰の加重によって救護義務の履行を強制 させるためである。行為者の先行行為が人の生命を危険な状態に陥れている から、被害者を救護する作為義務が生じる。その作為義務を履行しなければ、

当然ながらそれはその法定刑を引き上げる根拠付けになる。だから、被害者 を救護しないことを中心にひき逃げを認定すべきである。つまり、「ひき逃げ」

は被害者を救護する義務を怠ることを、「ひき逃げ致死」は被害者を救護し ないことによって被害者が死亡したことをいう。特別な事情がない限り、交 通事故発生後に被害者を救護しなければ、「ひき逃げ」と認定してもよい。

例えば、交通事故を引き起こして、事故現場から離れずにその場所に残留し ていたとしても、被害者を救護しない限り「ひき逃げ」になる。また、交通 事故を引き起こしてから、行為者自身が現場から離れたが、家族または友人 に被害者を救護してもらった場合は、救護義務を履行したため「ひき逃げ」

にならない。交通事故を引き起こしたが、救護を要する被害者がなければ(例 えば、被害者がその場で即死した場合、または救命する可能性がない場合)、

そのまま逃走しても「ひき逃げ」にならない。交通事故を引き起こしてから、

いったん現場から逃走したが、その後変心して被害者を救護するために現場 に戻ってきた場合は「ひき逃げ」にならない29)

 この学説の強い影響を受けて、近年、この見解を採用する判例もよく見ら れるようになった。【事案5】2014年11月16日、被告人は乗用車を運転して、

路上に駐車しているトラックと衝突して、乗用車の同乗者

A

を死亡させ、B に軽傷を負わせた。警察官は被告人が主要責任を負い、トラックの運転者が

28) 張明楷・前掲(5)723頁。なお、陳洪兵「交通肇事『逃逸』規範目的的相対性解読」『東方 法学』2016年第6期。

29) 張明楷・前掲(5)722頁。

(22)

第二次責任を負うと認定した。また、事故発生後に、被告人は、二人の被害 者を病院に搬送してから故なくして病院から離れた。翌日、被告人は交通警 察官から事情聴取を受けた。しかし、本件が刑事事件に認定されてからは、

被告人と連絡が取れなくなった。2015年1月6日に、被告人が逮捕された。

この事案について、裁判官は張明楷教授の見解を引用した上で、事故発生後 に被害者を病院に搬送して救護を受けさせる行為を行って、被害者死亡のリ スクを減らしていたから、立法趣旨を達成していたといえるのに対して、「ひ き逃げ」を専らに「法的責任追及を免れるために逃走することをいう」と理 解するのは、「犯罪と刑罰とが均衡する」という刑法の基本原則にふさわし くないという理由で、被告人が「ひき逃げ」にならないと判決した30)。  【事案6】2015年3月17日夜、会社経営者である被告人甲は車を運転して 交差点で右折しようとするときに、歩道ではなく車道で逆行する電動自転車 と衝突した。被告人甲はさっそく停車して被害者の状況を確認した。被告人 甲の事後供述によれば、当時、被害者がまだ会話できる状態にあるから、大 丈夫だと思い込んだ。警察官に報告しようとしたが、明日は用事があると思 い出して、自社の社員乙を電話で事故現場に呼んできて、事情を説明した上 で自分の代わりに出頭するように依頼した。乙は自分が交通事故を引き起こ した張本人であると自称して警察官に通報した。その時、被告人甲は現場を 離れずに、乙と一緒に警察官の取り調べを受けた。3月19日、被害者が救命 できなかったという情報をえて、被告人は警察に出頭した。本事案の特徴は、

被告人甲が交通ルールを守って正常に右折するのに対して、車道で逆行する 被害者の行為は交通運輸管理法規を違反した行為である。単に不注意で被害 者と衝突したという理由だけで、被告人に主要責任を負わせるわけにはいか ない。だから、被告人に交通事故罪(基本犯)が成立するかどうかは、自分 の代わりに乙に出頭してもらうことをいかに評価するかによる。検察官は、

事故発生後に、被告人甲は適時に負傷者を救護せずに、事故発生から警察官

30) 趙志強・李暁珂「本案是否構成交通肇事逃逸」2015年10月14日付『人民法院報』。

(23)

に報告するまでは37分間もかかり、被害者を救護するタイミングを逃し、そ して「ひき逃げ」には、事故現場から逃走した場合のみならず、現場で身分 を隠す場合も含まれるから、被告人が現場に滞在しているにもかかわらず、

自分の身代わりに乙を出頭させることは「ひき逃げ」だと評価すべきである と主張した。裁判官も検察官の意見を採用して、被告人甲の行為がひき逃げ 行為であるから、(司法解釈2条2項により)事故の主要責任を負うべきで 交通事故罪(の基本犯)が成立すると判決した31)

 ほかに、「『ひき逃げ』の立法趣旨は、行為者が『救護義務の履行』に違反 したことにあり、『法的責任追及を免れるために逃走すること』ではな」く、

「現場保護と負傷者救護が行為者に与えられる法定義務であり、そしてその 法定義務は行為者の先行行為から生じたものであるから、積極的に救護義務 を履行することこそが『ひき逃げ』の阻却事由である。刑法が『ひき逃げ』

を法定刑を引き上げる情状として規定する立法趣旨は、行為者に積極的に救 護義務を履行させることにある以上、何らの救護措置もとらずに現場を離れ ていく行為が『ひき逃げ』に認定されるべき客観的行為である。(救護義務 を履行しなくて)たとえ事故発生後に警察官に自首するために現場を離れた 行為であっても、『ひき逃げ』に認定されるべきである」と主張する裁判官 もいれば32)、「『ひき逃げ』には広義のものと狭義のものがあり、後者は現場 から逃走することをいうが、前者は現場で身分を隠すこと、または現場にい るが自己が容疑者であることを否定すること、現場にいるが他人に出頭して もらうことなどを含める」が、字面上の意味に拘って「ひき逃げ」を前者の 場合に限定するのは、逆に立法趣旨に背く、と主張する裁判官もいる33)

31) 徐徳高・管軍軍「発生事故找人頂包被定肇事逃逸」2016年2月3日付『検察日報』。

32) 陳超「交通肇事後未履行法定救助義務径行投案行為的定性」国家法官学院案例開発研究中心 編『中国法院2016年度案例:刑法分則案例』(中国法制出版社、2016年)9頁。

33) 劉羽梅「交通肇事找人頂包未離現場也属逃逸」2014年6月12日付『人民法院報』。

(24)

(3)ひき逃げは被害者の救護を中心とする各義務を履行しない行為である とする見解

 この見解は、司法解釈と張明楷教授の見解を批判した上で、黎宏教授より 提唱されたものである。

 黎宏教授は、張明楷教授と同じ理由で司法解釈を批判してから、道交法70 条は、負傷者救護義務と事故報告義務を規定しているから、「交通事故発生 後に行為者が逃走すれば、被害者が適時に救護されないばかりでなく、事故 現場がよく保存できないためその事故の責任分担も的確に認定できなくなっ てしまう。この意味においては、『ひき逃げ』が被害者を救護しないことで あるとする見解は」「ひき逃げ」の意味を全面的に理解していないとも言え ると、張明楷教授の見解を批判した34)。そして、正しい理解は、「ひき逃げ」

が「交通事故発生後に、被害者の救護を中心とする各義務を履行しない行為 である」。その意味においては、司法解釈にある主観的動機としての「法的 責任追及を免れるため」とは、法的処罰を免れることを言っているのではな く、法定の各義務を履行しないことを言っている35)。実務には、この見解を 支持する判例も見られる。例えば、行為の目的から見れば、「ひき逃げ」は 交通事故を引き起こすことによって生じた負傷者救護、現場保護、適時報告 などの法定義務を履行しないために逃走することをいうと、明言した判例も ある36)

 そうすると、交通事故発生後に、被害者を病院に搬送して救護を受けさせ てから故なくして病院を離れた場合に、行為者が「法的責任追及を免れるた め」という目的があったとしても、被害者の救護を遅延させなかったため、

「ひき逃げ」にはならない。また、交通事故発生後に現場を離れずに負傷者 を救護したが、自分が交通事故を惹起した者であることを隠蔽して誰かを自 分の代わりに出頭させた場合は、「ひき逃げ」にもならない37)。それに対して、

34) 黎宏『刑法学各論(第2版)』(法律出版社、2016年)61頁。

35) 黎宏・前掲(34)62頁。

36) 謝威「交通肇事中逃逸的理解与認定」『人民司法』2017年第29期。

(25)

交通事故発生後に、現場を離れずに近くのどこかで事故現場の様子を黙って 見守っていた場合は、現場から逃走していないにも関わらず、被害者を救護 する義務を履行していなかったため、依然として「ひき逃げ」になる38)。  つまり、黎宏教授は、先行行為による救護義務を含める法定義務の履行を 中心に「ひき逃げ」を理解している。黎宏教授の見解は張明楷教授のそれと 大同小異であり、具体的事案に関する結論もほぼ同じである。ここで特に注 意すべきなのは、二人の教授とも、救護義務を履行しない限り、事故現場に 滞在していても「ひき逃げ」になるという見解を取っている。つまり、「ひ き逃げ」になるためには、現場から逃走したことが必ずしも必要ではない。

(4)ひき逃げは被害者を救護せずに逃走する行為であるとする見解  この見解は、司法解釈と張明楷教授の見解を批判した上で、周光権教授よ り提唱されたものである。

 周光権教授は、張明楷教授、黎宏教授と同じ理由で司法解釈を批判してか ら、張明楷教授と同様に、「被害者を救護しないことを中心に『ひき逃げ』

を認定すべきである」と「法的責任追及を免れるため」という目的が不要で あると主張しながら、単に救護義務を履行したかどうかによって「ひき逃げ」

の成否を判断すべきであるとする張明楷教授の見解を厳しく批判したうえ、

いわゆる「ひき逃げ」とは、被害者を救護せずに、且つ現場から逃走する行 為であると主張する。つまり、行為者が客観的に救護行為を行うことができ るにも関わらず、その行為を行わずに逃走した場合は「ひき逃げ」、救護行 為を行わずに逃走したことによって被害者が死亡した場合は「ひき逃げ致死」

である39)

37) ただ、この場合は偽証罪になりうるにすぎない(黎宏・前掲(34)62頁参照)。しかし、交 通事故を引き起こしてから法的責任追及を免れるために現場から逃走することと比べて、自分 が交通事故を惹起した者であることを隠蔽するために、誰かを自分の代わりに出頭させたほう ははるかに期待可能性が低いから、行為者が偽証罪になることはないと思われる。

38) 黎宏・前掲(34)62頁。

39) 周光権・前掲(5)190頁。

(26)

 具体的に、確かに、交通事故を引き起こした後に、事故現場に滞在しなが ら被害者を救護しないことは、適時に被害者を救護していないという点にお いて、事故発生後に現場から逃走した場合と全く同じであるようにみえる。

しかし、目的的解釈論を取らない限りは、この結論が得られない。ただ、目 的的解釈論は、いかなる場合にも通用することでもなく、その適用は文理解 釈からの制限を受けるべきである。すなわち、文理解釈によってその処罰範 囲が明らかに広過ぎる場合に、目的的解釈論をもってその適用範囲を限定し 縮小することができるのに対して、文理解釈によってその処罰範囲が明らか に狭すぎる場合に、当然ながら目的的解釈論をもってそれを拡大することが あってはいけない。「ひき逃げ」という言葉は、当然ながら現場から一定距 離があるということを意味している。刑法の解釈において、行為者が「ひき 逃げ」になるかどうかを判断する際に、文言の本来的な意味およびこの文言 に対する一般人の通常理解も考慮しなければならない。現行法の表現を「交 通事故を引き起こした後、ひき逃げがあるとき」から、「交通事故を引き起 こした後、被害者を救護しないとき」に法改正しない限り、「ひき逃げ」と するためには、現場から逃走したことが不可欠である。例えば、被告人が無 免許運転して交通事故を引き起こして1人の歩行者に重傷を負わせた場合 に、下車して被害者の状況を確認したが、何らの救護措置もとらずに現場に 滞在しながら被害者の死去を黙視した。その後、警察官に電話で事故状況を 報告した。医師の事後判断によれば、事故発生後2時間以内に被害者を病院 に搬送して救護を受けさせたならば、被害者が救命できたはずである。その 場合には、(ほかに遺棄致死または不作為の殺人が成立するかどうかは別と して)被害者を救護しない限り、現場から離れたかどうかが法益侵害に何ら 影響もないという理由だけで、被告人が「ひき逃げ致死」になると認定して はならない。というのは、結果が発生したのは救護しなかったためであると いう目的的解釈論を行うことは、罪刑法定主義を動揺させかねないからであ る40)。つまり、「ひき逃げ」とするためには、救護義務を履行しないこと、

40) 周光権・前掲(5)190頁。

(27)

および現場から逃走することという二つの要件が不可欠であり、ただ、「法 的責任追及を免れるため」という目的で逃走する必要はない。

(5)ひき逃げは法的責任追及を免れるために被害者を救護せずに逃走する 行為であるとする見解

 司法解釈が公布されて以来、学説の批判は「法的責任追及を免れるために 逃走する」という点に集中している。その批判を受けて、司法実務の態度も 少し変わってきた。現在、多くの判例は司法解釈の基本的見解を維持しなが ら、学説の意見も受け入れて、「ひき逃げ」になるには、主観的には「法的 責任追及を免れるため」という目的を持って、客観的には「被害者を救護せ ずに逃走する行為」を行ったことが必要であるという態度をとっている。

 【事案7】2011年8月14日、被告人甲は、被告人乙が無免許運転であるこ とを知りながら、乗用車を自ら運転せずに乙に運転してもらった。当日の21 時25分頃、乙は携帯電話のコールに気が取られて路面状況を注意しなかった ため、助手席にいる甲は左手でハンドルを右方向に回した。その影響を受け て、乙は運転方向を制御できなくなって、歩道で自転車に乗っている被害者 に衝突し、甲に軽傷を負わせ、被害者を死亡させる交通事故を引き起こした。

事故発生後、甲は、乙の要望に応じて、警察に出頭して乙の犯罪事実を隠蔽 することとした。8月18日に、乙は警察に自首した。一審の裁判官は、「被 告人乙は、交通運輸管理法規に違反し、よって重大な交通事故を引き起こし て、一人を死亡させた。乙の行為は交通事故罪が成立し、且つ『ひき逃げ』

になる。被告人甲は、交通運輸管理法規に違反し、よって重大な交通事故を 引き起こして、一人を死亡させた。甲の行為は交通事故罪が成立する」と判 決した41)。乙の行為が「ひき逃げ」になる理由について、裁判官は、「司法 解釈の規定により、行為者が『ひき逃げ』になるかどうかは、行為者に『法 的責任追及を免れるため』と『事故現場から離れた』という二点から判断す

41) 浙江省舟山市定海区人民法院(2011)舟定刑初第343号。

(28)

べきである。…本件では、乙は無免許運転であり、事故発生後に刑事責任の 追及を免れるために、甲に偽証をしてもらうことを指示してから現場を離れ たことは、『ひき逃げ』に認定するための主観的、客観的要件を備えること になり、『ひき逃げ』に認定されるべきである」と説明した42)

 【事案8】2014年9月13日21時30分頃、被告人は無免許運転かつ酒気帯び 運転をして、歩行者に衝突して重傷を負わせた。事故発生後、被告人は、被 害者を現場から近い病院に搬送して救護を受けさせた。交通警察官が病院に 事情聴取に来るときに、被告人は自分が事故惹起者であることを強く否定し た。その後、被告人は、被害者の転院を手伝った後に、故なくして帰宅した。

翌日、被告人は自首して、犯罪事実を如実に供述した。交通警察官は、事故 発生について被告人が全責任を負うと認定した。しかし、警察官が本件を刑 事案件として検挙してからは、被告人に数回連絡したが、被告人は出頭して くることを拒否した。本件について、裁判官は、「『ひき逃げ』を認定するた めに、事故の惹起者が積極的に救護義務を履行するのはその本質的要件であ り、事件の惹起者が直ちに出頭するのはその形式的要件である。それ故、交 通事故を引き起こしてから、行為者が積極的に救護義務を履行することおよ び直ちに出頭することは、行為者に法的責任追及を受ける意欲があることを 徴表するものであり、その二つもの者は互いに関連し合って、いずれも欠け てはいけない」としたうえで、「本件において、被告人は、無免許運転かつ 酒気帯び運転をして、事故を引き起こし、且つ事故の全責任を負うから、交 通事故罪の基本犯が成立する。事故発生後、被害者を病院に搬送して治療を 受けさせることは、『ひき逃げ』とされる行為ではない。しかし、交通警察 官が病院に駆けつけてきて事情聴取するときに、自分が事故の惹起者である ことを認めず、さらに交通警察官から出頭してくるという連絡があったとき に、それを拒否した。それらの行為は、被告人が主観面では『法的責任追及 を免れるため』という故意があることを根拠づける。そして、客観面では、

42) 欧陽福生・前掲(22)。

(29)

被害者を病院に搬送してから、警察官の取り調べを拒否し、交通警察官の出 頭命令も無視することがある」という理由で、被告人が「ひき逃げ」になる と判決した43)

 【事案9】は最高人民法院の下級審を指導する「指導判例」であり、その 意味では司法実務の代表的な態度であるともいえる。2006年5月20日16時15 分頃、被告人は大型トラックを運転して、交通信号の指示に違反したことに よって、自転車で道を西方向から東方向へ渡る被害者

A(自転車の後ろ座席

に被害者

B

を乗せている)とぶつかり、被害者

B

を即死させ、被害者

A

に 重傷を負わせるという重大な交通事故を引き起こした。事故発生後に、被告 人は、警察官に報告し、被害者

A

を安全な場所に移動させてから、トラッ クを放置して事故現場から離れた。翌日の午後、被告人は自首した。警察官 の責任認定により、被告人がトラックの定期的安全検査を怠って、ブレーキ が安全基準を満たさないトラックを運転して、そして交通信号の指示に違反 し、緊急状況に遭遇するときに適切な措置を取れなかったため、交通事故を 引き起こした全責任を負う、とされた。一審は、「被告人は交通運輸を行う 途中に、交通運輸管理法規を違反したことによって1人を死亡させ、1人に 重傷を負わせた重大な交通事故を引き起こして、且つその事故発生に対して 全責任を負うから、その行為については既に交通事故罪が成立する。そして、

交通事故を引き起こした後に、被告人は直ちに停車し、現場を保護し、さら に警察官に報告しなければならなかったにもかかわらず、トラックを放置し て現場から逃走した。したがって、その行為が『ひき逃げ』になると認定す べきである」と判決した。

 被告人は、「警察官に報告した後に、被害者側の人に殴られることを恐れ て現場から離れる行為は『ひき逃げ』にならない」という理由で上訴した。

二審は被告人の上訴を却下した。判決理由について、二審の裁判官は以下の ように説明した。「『ひき逃げ』が認定されるためには、行為者が現場から離

43) 宋鵬・範献献「交通肇事履行救護義務後離開能否認定為逃逸」2016年7月27日付『人民法院 報』。

参照

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