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中 国 刑 事 法 に お け る 死 刑 の 手 続

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(1)ω. 死刑事件の報告及び送付. 張. 凌. ﹁文化大革命﹂時期の状況. 一六一. ラ 再審査の組織及び審査の内容 3 ︵. 中華人民共和国成立後の状況 ㈹ 旧刑法・旧刑事訴訟法施行後の変化. 中国刑事法における死刑の手続. 目 次 はじめに 即時執行死刑の再審査手続. 一︑. 二︑. 即時執行死刑の再審査手続の変遷. 即時執行死刑再審査手続の原型. ︵一︶. 動. 消極的要件. @ 劔. ω. 即時執行死刑の許可手続. 積極的要件. 死刑事件の裁判権及び許可権. 吻. 旧刑法・旧刑事訴訟法の規定 ㈲ 刑法・刑事訴訟法改正後の状況 即時執行死刑の要件. D. ︵二︶. ︵三︶. め. 凌︶. 但 即時執行死刑判決の確定 三︑ 即時執行死刑の執行手続 ︵一︶ 死刑執行の命令 執行命令の発布 ω 執行命令の執行期問 D. 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(2) ㈲. ⑥. ㈲. 回避の申請権. 執行の方法. 執行停止の手続及び処理. ㈲. 死刑執行手続をめぐる議論 弁護士の介入 圖 死刑執行前の面会. 死刑執行の指揮機関及び執行の監督 執行後の処理. 死刑の執行. 死刑執行の停止 執行停止の事由. 早稲田法学会誌第四十八巻 ︵一九九八︶. D. ︵二︶. ︵三︶. @. お. コ. ︵四︶. 執行の場所. 一六二. 四︑ 死刑執行猶予の再審査手続 ︵一︶ 死刑執行猶予再審査手続の変遷 の 死刑執行猶予制度の提起 吻 現行死刑執行猶予制度の状況 ︵二︶ 死刑執行猶予制度をめぐる論争 動 死刑執行猶予制度と中国古代法 ω 死刑執行猶予制度と西洋法 ⑥ 死刑執行猶予制度の存廃 但 死刑執行猶予制度と死刑 ︵三︶ 死刑執行猶予の要件 D 共通の要件 図 独自の要件 ︵四︶ 死刑執行猶予の許可 の 死刑執行猶予の許可権 ㈲ 死刑執行猶予事件の審査 ㈲ 死刑執行猶予事件の処理 五︑ 死刑執行猶予の執行手続 ︵一︶ 死刑執行猶予の執行 O 死刑執行猶予の執行の特徴 ω 死刑執行猶予の執行の場所 ⑥ 執行期間の待遇 死刑執行猶予の変更 即時執行死刑への変更 ㈲ 無期懲役への変更 ⑥ 有期懲役への変更. @ 変更の手続 むすび. D. ︵二︶. 六︑.

(3) 一︑はじめに. 中国の死刑手続は死刑の裁判手続と死刑の執行手続に分けられるが︑死刑の裁判手続は通常の訴訟手続と死刑再審. 手続との二つの段階を含む︒通常の訴訟手続においては︑被告人が上訴しないか又は検察院が抗訴しない第一審の判 ︵1︶ 決又は裁定は︑法的効力を生じた判決又は裁定である︒死刑事件について︑普通の訴訟手続により審理しても︑その. 判決が法的効力を生じず︑さらに死刑再審査手続を経なければならない︒死刑事件の判決が死刑再審査手続を経ず︑ 法的効力を生じえないのは死刑再審査手続の特色である︒. 死刑再審査手続は︑即時執行死刑の再審査手続と二年の猶予期問付き死刑の再審査手続︵以下︑二年の猶予期聞付. き死刑を﹁死刑執行猶予﹂という︶に分けられる︒死刑執行猶予は独立の主刑でなく︑主刑である死刑に属するが︑. 再審査手続および執行の方法が異なる︒即時執行死刑の再審査は︑最高人民法院︵一部の事件は高級人民法院が許可 する︶が行うが︑死刑執行猶予の再審査は︑高級人民法院が行う︒. 執行手続からみれば︑死刑執行の手続は︑即時執行死刑の執行手続と死刑執行猶予の執行手続に分けられる︒即時. 執行死刑の執行手続とは︑最高人民法院又は高級人民法院が許可して︑それぞれの院長が発付した死刑執行の命令に. より直ちに死刑を執行する手続をいい︑死刑執行猶予の執行手続とは︑高級人民法院がこれを許可して︑直ちに死刑. を執行しないで︑二年の猶予期問が付き︑その期間が満了したときに︑死刑を執行するかどうかを判断する手続をい. う︒このように︑死刑手続は︑訴訟手続からみれば︑即時執行死刑再審査手続と死刑執行猶予再審査手続に分けられ︑. 凌︶. 一六三. 執行手続からみれば︑即時執行死刑の執行手続と死刑執行猶予の執行手続に分けられる︒ ︵2︶ 五〇年代から︑日本の学者は︑中国の死刑制度︑とくに︑死刑猶予制度を中心として研究しているが︑死刑手続を 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(4) 早稲田法学会誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一六四. 中心とした研究は少ない︒しかし︑近年︑中国における死刑手続には大きな変化が生じている︒特に︑一九九六年三 ︵4︶. 旦吉に中国刑事訴訟法︵以天新刑訴法とい②が採択潅ぎらに充九七年三旦四日に中国刑法︵以天. 新刑法という︶が全面改正された︒中国の死刑手続の全体像を明らかにするために︑訴訟手続と執行手続との両面か. ら︑即時執行死刑の再審査手続︑即時執行死刑の執行手続︑死刑執行猶予の再審査手続︑及び死刑執行猶予の執行手 続を考察することにする︒. 二︑即時執行死刑の再審査手続 即時執 行 死 刑 の 再 審 査 手 続 の 変 遷. 即時執行死刑の再審査手続の原型. ︵一︶. ①. 即時執行死刑制度は三〇年代から始まったものである︒一九三二年六月中華ソビエト共和国中央執行委員会が公布. した﹁裁判部の暫定的組織及び裁判条例﹂第二六条は︑﹁死刑に処するすべての事件について︑被告人が上訴を提起 ︵5︶. しなくても︑当該事件を審理する裁判部は判決書及び事件書類を上級の裁判部に送付して︑承認させなければならな. い﹂と規定した︒一九四二年一月一日に公布された﹁陳甘寧辺区人権︑財権保障条例﹂第一九条は︑﹁各級の裁判機. 関が死刑判決をした事件で︑すでに上訴期間が過ぎても上訴がない場合は︑辺区政府に報告してその審議と承認を受 ︵6︶ けた後︑はじめて死刑を執行することができる﹂とした︒ 吻 中華人民共和国成立後の状況. 一九四九年十月一日に中華人民共和国が成立した直後︑刑事訴訟法を制定していない場合でも︑死刑再審査手続は. 全国的範囲にわたって実行された︒一九五〇年七月二一二日に政務院と最高人民法院が連合して発布した﹁反革命活動.

(5) の鎮圧に関する指示﹂は︑﹁県︵市︶人民法廷が死刑を言い渡した事件については︑省人民政府又は省人民政府の特. 別指定する行政公署によりこれを承認し︑行政区の直轄市が死刑を言い渡した事件については︑大行政区人民政府 ︵7︶. ︵軍事委員会︶がこれを承認し︑中央直轄市が死刑を言い渡した事件について︑最高人民法院院長がこれを承認す る﹂と規定した︒. 一九五四年九月二〇日に第一次全国人民代表大会︵以下は︑﹁全人代﹂という︶第一会議が採決した﹁中華人民共. 和国人民法院組織法﹂一一条は︑﹁中級人民法院及び高級人民法院が下した死刑事件の終審判決又は裁定に対して︑. 当事者が不服とする場合は︑上級の人民法院が再審査をするよう請求することができる︒基層人民法院が下した死刑. ﹁文化大革命﹂時期の状況. 判決及び中級人民法院が下した死刑判決又は裁定に対して︑当事者が上訴︑再審査を提起しなくても︑高級人民法院 ︵8︶ に報告して︑その承認を得なければ執行しない﹂と規定した︒ ㈹. 一九六六年から一九七六年までの﹁文化大革命﹂時代に︑人民法院の組織機能が停止され︑破壊状態に陥っていた︒. 旧刑法・旧 刑 訴 法 の 規 定. その時期において︑死刑の許可権は人民法院が行使しないで︑各省・自治区・直轄市の﹁革命委員会﹂という組織が ︵9︶ これを行使したので︑法による死刑手続は存在しないことになった︒. @. 一九七九年七月一日に制定された刑事訴訟法︵以下︑旧刑訴法という︶と刑法︵以下︑旧刑法という︶による︑死. 刑手続に関する内容は次の通りである︒①死刑事件の第一審の管轄権は中級人民法院が行使する︵旧刑訴法一五条︶︒. ②死刑即時執行判決に対する許可権は最高人民法院が行使する︒﹁死刑は法によって最高人民法院が判決を下す以外. 凌︶. 一六五. は︑すべて最高人民法院に報告して︑承認を得なければならない︒猶予期間付き死刑は︑高級人民法院が判決を下す 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(6) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 一六六. か又は承認することができる﹂︵旧刑法四三条二項︑旧刑訴法一四四条︶とした︒③死刑事件は死刑再審査手続を経. 旧刑法・旧刑訴法施行後の変化. なければならない︵旧刑訴法一四五条︶︒. ⑥. 旧刑法・旧刑訴法が施行されてから二ヵ月足らずして︑死刑手続には重大な変化が生じた︒まず︑一九八○年二月. 一二日に第五次全人代常務委第=二回会議は︑コ九八○年内に︑現行の殺人・強姦・強盗・放火等を犯した厳重な. 犯罪者に対し死刑を下さなければならない事件については︑最高人民法院はこの許可権を省・自治区・直轄市の高級. 人民法院に授権することができる﹂と決定した︒同三月一八日に最高人民法院は﹁数種の現行犯に対する死刑の許可 ︵10︶. を高級人民法院に授ける若干具体的間題に関する通知﹂を伝達して︑殺人・放火・強盗・強姦等厳重な犯罪に対し死. 刑の許可を高級人民法院に授権すると伝達した︒これは旧刑訴法が制定された後︑死刑手続に関する最初の改正であ る︒. 次に︑一九八一年六月一〇日に第五次全人代常務委第一九回会議によって採決された﹁死刑事件許可権の問題に関. する決定﹂は︑コ九八一年から一九八三年までの問は︑殺人・強盗・強姦・爆発・放火・毒物投棄・溢水及び交. 通・電力等の施設を破壊する犯罪行為を犯した者に対して︑省・自治区・直轄市高級人民法院が死刑の終審判決を下. した場合︑中級人民法院が第一審の死刑判決を下して︑被告人が上訴せず︑高級人民法院が許可した場合︑及び高級. 人民法院が第一審の死刑判決を下し︑被告人が上訴しない場合には︑いずれも最高人民法院に報告・許可するに及ば. ない﹂が︑﹁反革命犯罪と業務上横領罪等で死刑の判決を下した者については︑従来通りに﹃刑事訴訟法﹄における ︵11︶ ﹃死刑再審査手続﹄の規定に基づいて︑最高人民法院がこれを許可する﹂とした︒これは死刑手続に関する第二回の 改正である︒.

(7) さらに︑一九八三年九月二日に第六次全人代常務委第二回会議によって採決された﹁﹃中華人民共和国人民法院組. 織法﹄の改正に関する決定﹂により︑﹁人民法院組織法﹂一三条は﹁死刑事件は︑最高人民法院が判決を下したもの. を除いて︑最高人民法院の許可を求めなければならない︒殺人・強姦・強盗・爆発又は他の公共の安全若しくは社会. の治安に重大な危害を及ぼし︑死刑に処された事件の許可権については︑最高人民法院は︑必要な場合︑省︑自治区. 及び直轄市の人民法院に権限を授けてこれを行使させることができる﹂と改正された︒同九月七日に最高人民法院は. 改正された﹁人民法院組織法﹂に基づいて︑﹁死刑事件についての部分的許可権を高級人民法院に授けることに関す. る通知﹂を発布した︒この﹁通知﹂は︑反革命事件と業務上横領等重大な経済犯罪事件で死刑を下された者は︑高級. 人民法院が審査し︑同意した後︑最高人民法院がこれを許可する︒殺人・強姦・強盗・爆発又はその他公共の安全若. しくは社会の治安に重大な危害を及ぼし︑死刑に処された事件の許可権については︑最高人民法院は法により︑各. 省・自治区・直轄市の人民法院及び解放軍の軍事法院に権限を授けて︑これを行使する﹂としている︒これは死刑手 続に関する第三回の改正である︒ ︵12︶. なお︑一九九一年六月六日に最高人民法院は雲南省における毒品犯罪事件の死刑の許可権を雲南省高級人民法院に ︵B︶. 授けた︒一九九三年八月一八日に最高人民法院は広東省における毒品犯罪事件の死刑の許可権を広東省高級人民法院 に授けた︒. このように︑死刑手続の変化の特徴は︑次のように要約することができる︒その一は︑部分の死刑事件の許可権は. 高級人民法院が行使していた︒すなわち︑旧刑訴法が制定された以前の三十年問︵一九四九年から一九八○年にかけ. て︶︑死刑事件の許可権は高級人民法院が行使していたが︑旧刑訴法が制定された後の一七年間︵一九八○年から一. 凌︶. 一六七. 九九六年にかけて︶︑事実上︑三分の二の期間には死刑事件の許可権は高級人民法院が行使することになった︒ 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(8) 早稲田法学会誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一六八. その二は︑旧刑訴法が制定された後︑三分の二の死刑事件には死刑再審査手続が適用されなかった︒すなわち︑中. 級人民法院が死刑事件の第一審を裁判し︑被告人が上訴すれば︑高級人民法院は第二審︵終審の判決︶の裁判をする ︵14︶. と同時に︑死刑の判決を許可することとなった︒高級人民法院は第二審の裁判所であると同時に︑死刑事件を承認す る権限を行使した︒. ⑥ 刑法・刑事訴訟法改正の状況. 死刑手続について︑刑事訴訟法・法改正の状況は次のように要約することができる︒①一八歳未満の未成年者に対. する死刑執行猶予を廃止した︒②死刑の執行手続を改正した︒しかし︑死刑再審査手続については一文字をも改正し. ないまま維持している︒死刑再審査は刑法・刑事訴訟法改正の重点の一つとして︑さまざまな改正案が提出されたが︑. いずれも適切な提案とはされなかった︒結局︑現行の死刑再審査手続がそのまま維持されている︒. 死刑再審査手続の改正については︑次のような対立がある︒第一は︑即時執行死刑の許可権についてである︒刑. 法・刑事訴訟法は︑死刑は最高人民法院が許可すると規定していることに対して︑一九八三年九月二日に全人代常務. 委が制定した﹁人民法院組織法の改正に関する決定﹂一三条は﹁最高人民法院は必要な場合︑一部の死刑事件の許可. 権を高級人民法院に授けることができる﹂と規定している︒死刑事件の許可権は刑法及び刑事訴訟法の規定によるの. か︑それとも﹁人民法院組織法﹂の規定によるのかについて︑二つ見解がある︒その一は︑刑法及び刑事訴訟法は全. 人代が制定した基本法であって︑全人代常務委員会が制定した法律より法的効力が高く︑特に︑改正された新刑事訴. 訟法および新刑法は﹁死刑事件の授権﹂について規定していないので︑死刑は最高人民法院が許可すべきである︑と. する︒その二は︑改正された﹁人民法院組織法﹂一三条は刑法︑刑事訴訟法における死刑事件許可権の例外的規定で. あり︑通常の場合は︑死刑事件の許可権は最高人民法院が行使するとする︒もっとも︑必要な場合は一部の死刑事件.

(9) の許可権を高級人民法院に授権することができる︒﹁必要な場合﹂は︑社会治安の状況︑重大な犯罪の状況などによ ︵15︶. り定める︒コ部の死刑事件﹂は︑毒品犯罪等の特殊な刑事事件に限定する︒現在︑死刑事件の許可権は最高人民法 院と高級人民法院とが共同的に行使している︒. 次に︑実務上の問題点がある︒その一は︑死刑再審査手続と第二審手続とが重なっていることである︒高級人民が. 死刑の許可権を有する場合︑中級人民法院が第一審の死刑の判決を下したとき︑高級人民法院は第二審の法院であり ︵16︶ ると同時に︑死刑事件の許可権を有することになる︒これは刑事訴訟法の立法趣旨に反するのではないか︒その二は︑. ︵18︶. 高級人民法院に死刑事件の許可権を授けると︑死刑の誤判は避けられないことになることである︒現在は︑誤判の正 ︵17︶ 確な統計資料がないが︑死刑再審査手続の変化の状況から見れば︑これは楽観できないと学者は指摘している︒その. 三は︑死刑の適用範囲を拡大する傾向があることである︒旧刑法・旧刑訴法が制定されて以来︑一方で死刑について ︵19︶. の条文は増加され︑他方で死刑再審査手続が簡略化され︑さらに死刑事件の許可権を高級人民法院に授けている結果︑. 死刑制度を崩壊する可能性がある︒その四は︑全国における三〇以上の高級人民法院では法執行の基準が異なり︑各 ︵20︶ 地方の裁判官の業務上の素質も異なるので︑死刑事件の許可権が濫用される可能性があることである︒. 新刑法・新刑事訴訟法が死刑再審査手続を改正しない理由は︑重大な犯罪状況に基づいて︑すべての死刑事件は最. 即時執行死刑の要件. 高人民法院により許可するのが困難であり︑今の段階では死刑再審査の許可権は最高人民法院と各地の高級人民法院 ︵21︶ により行使しなければ︑犯罪者を迅速に処罰しえないという点にある︒. ︵二︶. 凌︶. 一六九. 死刑の適用の要件について︑新刑法四八条一項は︑ ﹁死刑は犯行が極めて重い犯人だけに適用される︒ 死刑の判決 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(10) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一七〇. を下さなければならない犯人について︑直ちに執行しなければならないものでない場合︑死刑の判決を下すと同時に. 猶予二年を宣告して︑労働改造をさせ︑その態度をみることができる﹂とし︑同四九条は﹁犯罪時に一八才未満の者 ︵22︶. 及び裁判時に懐胎中の女子には︑死刑を適用しない﹂と規定している︒この規定により︑即時執行死刑の要件は︑積. 積極的要件. 極的要件と消極的要件とに分けられる︒. ω. 積極的要件は死刑に処すべき要件である︒その一は︑﹁死刑は犯行が極めて重い犯人だけに適用される﹂こと︑そ. ︵23︶. の二は﹁必ず直ちに執行しなければならない﹂ことである︒﹁犯行が極めて重い﹂とは即時執行死刑の前提条件とし. て︑一般的には︑手段が極めて残虐で︑情状が極めて悪質で︑結果が極めて重いことをいう︒﹁直ちに執行しなけれ. ばならない﹂とは︑即時執行死刑の執行の条件であり︑即時執行死刑と死刑執行猶予との区別でもある︒﹁直ちに執. 行しなければならない﹂場合は即時執行死刑の手続により承認するが︑﹁直ちに執行しなければならないものでな い﹂場合は死刑執行猶予の手続により承認することになる︒. ⑧ 消極的要件 ︵24︶. 消極的要件は︑死刑を阻却する事由として︑死刑を適用しない要件である︒死刑を阻却する事由は︑犯罪時に十八. 才未満の未成年者の場合︑及び裁判時に懐胎中の婦女の場合である︒この場合は︑即時執行死刑も死刑執行猶予も適. 用しないし︑どの場合でも死刑を適用してはならない︵旧刑訴法一五四条︑新刑訴法二二条︶︒. ︵三︶ 即時執行死刑の許可手続. ω 死刑事件の裁判権および許可権.

(11) 前述のように︑即時執行死刑事件には死刑再審査手続を適用しなければならない︒死刑再審手続を経ず︑最高人民. 法院の許可を経ないときは︑死刑の判決は法的効力を生じない︒さらに︑死刑を科せられた犯人に対して最高人民法 ︵25︶ 院院長の死刑命令によらずに︑死刑の執行を行ってはならない︒死刑再審査手続の中核は死刑の許可権である︒. ①死刑事件第一審の裁判権は︑中級人民法院・高級人民法院及び最高人民法院が行使する︒②死刑事件の審査権は. 高級人民法院が行使する︒中級人民法院が死刑の判決を下して︑被告人が上訴しない場合︑高級人民法院はこれを審. 査する︒高級人民法院は中級人民法院の第一審の死刑判決に同意しない場合は︑最高人民法院に報告し︑許可を請求. するが︑同意しない場合は︑自ら裁判するか又は原審人民法院に差戻し再裁判させる︵旧刑訴法一四五条一項︶︒す. なわち︑高級人民法院はその場合︑否決権を有するが︑許可権を持たない︒③中級人民法院が死刑の判決を下した第. 一審事件について︑被告人が上訴した場合︑高級人民法院は第二審の人民法院として︑第二審の判決を下した場合︑. 高級人民法院は死刑事件の審査権も許可権をも持たない︒この場合は︑死刑事件の審査権及び許可権は最高人民法院. が行う︒④高級人民法院が死刑の判決を下した第一審事件について︑被告入が上訴した場合︑最高人民法院がこれを ︵26︶ 再審査し︑許可する︒すなわち︑第二審の裁判権︑再審査権及び許可権は最高人民法院が行使する︒このように︑す べての死刑判決の最終的許可権は最高人民法院が行使する︒. しかし︑前述のように︑一九八三年九月二日に﹁人民法院組織法﹂により︑死刑事件の許可権は二種類になった︒. その一は︑授権による死刑事件の許可権である︑すなわち︑全国各地の高級人民法院は特定の犯罪事件に対し死刑の. 一七一. 許可権を行使する︒その二は︑最高人民法院の許可権であって︑最高人民法院は反革命事件及び業務上横領等の厳重. 凌︶. な経済犯罪事件に対し死刑の許可権を行使する︒. 働 死刑事件の報告及び送付 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(12) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 一七二. 高級人民法院は︑最高人民法院に死刑再審査事件を報告し送付するにあたって︑死刑事件の総合的報告書及び判決. 書︵各一五部︶︑且つすべての訴訟書類及び証拠を報告し送付しなければならない︒共同犯罪の事件について︑全部 の事件の訴訟書類及び証拠を報告し送付しなければならない︒. ﹁死刑事件の総合的報告書﹂は︑次のような内容を含む︒①被告人の氏名・性別・年齢・民族・出生地・住所・職. 業・履歴・逮捕又は勾留の時間・起訴の日・現に拘禁している場所︒②被告人の犯罪事実︑情状︵犯罪の時問・場. 所・動機・目的・手段・危害結果及び軽くするか又は重くする情状などを含む︶︑犯罪を確定する証拠︑刑法又はそ. の他の刑罰規定を有する法律による条項に基づいて犯罪を確定し又は刑を科した証拠︒③高級人民法院が説明すべき 間題︒. ﹁訴訟書類及び証拠﹂は次の通りである︒①勾留状・逮捕状・捜索状︒②貯物・証拠物を押収した目録︒③公安機. 関の捜査終結報告書・起訴意見書︒④人民検察院の起訴書︒⑤中級人民法院及び高級人民法院の事件処理者が作成し. た審査報告書・公判の記録・合議廷の評議記録及び裁判委員会の討議決定の記録︒⑥被告人の上訴状・人民検察院の. 抗訴状︒⑦中級人民法院及び高級人民法院の判決書︑裁定書及び被告人に判決を宣告した記録・送達領収書︒⑧事件. の真実の事情を証明しうる証拠であり︑且つそれを調べたうえでの確実な︑肯定的な又は否定的な証拠︒これは証拠. 物︵大型︑運送の途中での腐蝕・溶解・爆発又は放射する可能性がある物については︑その物を移送しないが︑その ︵27︶. 物の写真及び証拠物の鑑定書︑説明書を付しなければならない︶・証拠書類・証人の証言・被害者の陳述・被告人の. 死刑事件再 審 査 の 組 織 及 び 審 査 の 内 容. 供述と弁解・鑑定結果・検証記録及び身体検査記録を含む︒. ⑥. 刑事訴訟法により︑最高人民法院が死刑事件を再審査し︑高級人民法院が猶予期間付き死刑事件を再審査するとき.

(13) は︑裁判員三名で合議廷を構成して行わなければならないとしている︵新刑訴法二〇二条︑旧刑訴法一四七条︶︒. 合議廷は次のような内容を審査する︒①死刑の判決を下した事件に対して︑死刑の判決の認定した犯罪事実がはっ. きりしているかどうか︑犯罪事実を証明する証拠が確実であるかどうか︑罪名及び量刑が適当であるかどうかについ. て︑全面的に審査する︒②被告人に死刑を科すべきであるかどうかという結論を出す︒③死刑を科すべきであるとの. 結論を下した場合は︑最高人民法院に報告して許可を請求し︑死刑を科すべきではない場合には︑原審人民法院に差. 即時執行死 刑 判 決 の 確 定. 戻して︑審理させる︒. ω. ①原判決による事件事実の認定︑法律の適用が正確で︑量刑が適当である場合は︑最高人民法院は裁定で死刑を承. 認して︑その院長が死刑執行の命令を発付する︒高級人民法院は死刑執行の命令を発付した後︑直ちに法的効力が生 じ︑死刑の執行手続に入る︒. ②原判決による事件事実がはっきりしないか︑又は証拠が不十分である場合は︑最高人民法院は裁定で原判決を破 棄し︑原審人民法院に差戻し︑再審理させる︒. ③原判決による事実の認定に誤りはないが︑法律の適用に誤りがあるか︑又は量刑が不適当である場合は︑最高人. 三︑即時執行死刑の執行手続 死刑執行の命令 凌︶. 一七三. 民法院は裁定で原判決を破棄し︑原審人民法院に差戻し︑再審理させるか︑又は最高人民法院が判決で直接に言い渡 す︒. ︵一︶. 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(14) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. ω 執行命令の発付. 一七四. 最高人民法院が許可した死刑の判決又は裁定は法的効力を生じた判決又は裁定であるが︵新刑訴法二〇八条︑旧刑. 訴法一五一条︶︑死刑の執行のために︑﹁最高人民法院が判決を下し︑及び許可した即時執行の死刑判決については︑. 最高人民法院院長が死刑執行の命令に署名し発付しなければならない﹂︵新刑訴法二一〇条一項︑旧刑訴法一五三項︶︒. なお︑改正された﹁人民法院組織法﹂一三条および最高人民法院の﹁刑事事件の審理手続に関する具体的規定﹂二三. 二条・二三三条の規定により︑最高人民法院は即時執行死刑の許可を高級人民法院に授けた場合︑授権された高級人. 執行命令の執行期間. 民法院の院長が死刑執行の命令に署名し発付する︒. ㈹. 死刑執行の命令が発付されると︑高級人民法院を通じて︑原審の人民法院に伝送され︑原審の人民法院がこれを執. 行する︵新刑訴法二一〇条︑旧刑訴法一五三条︶︒原審の人民法院は最高人民法院の死刑執行命令を受けてから︑七 日以内に執行しなければならない︵新刑訴法ニニ条︑旧刑訴法一五四条︶︒. 死刑の執行命令を発付した後から執行するまでの問に︑執行停止の事由があれば︑執行を停止しなければならない︒ 執行停止の事由がなければ︑期問内に執行しなければならない︒. 死刑執行の停止. 執行停止の事由. ︵二︶. ω. 以下に記載する事由の一つにあたることが判明した場合は︑死刑の執行を停止するとともに︑直ちに最高人民法院. に報告し︑最高人民法院が裁定をしなければならない︒①執行前に判決に誤りのある可能性が判明した場合︑②犯人.

(15) が執行前に重大な犯罪事実を摘発し︑又はその他の重大な功績を立てる行動があり︑改めて判決をする必要のある場. 合︑③犯人が懐胎中の場合である︒①および②号の執行停止事由が消滅したときは︑最高人民法院に報告し︑死刑執. 行の命令が改めて署名のうえ発付された場合でなければ︑執行することはできない︒これは相対的停止である︒③号. の事由により執行を停止した場合は︑最高人民法院に報告して︑法により原判決を改めなければならない︵新刑訴法 二二条一項︶︒これは絶対的停止である︒. 第一は相対的停止である︒相対的停止は︑執行停止の事由が消滅すれば︑死刑が再執行される可能性がある︒その. 理由は判決に誤りの可能性がある場合︑および犯人の執行前での重大な行動がある場合を含んでいる︒前者の﹁判決. に誤りのある可能性﹂とは︑犯人が新たな証拠・事実を提出し︑又は検察院・人民法院が判決に疑いのあることを認 ︵28︶. める場合指す︒事実が十分で︑確実であるかどうかを問わず︑この新たな証拠が死刑の判決と関係すれば執行を停止. しなければならない︒後者の﹁重大な犯罪事実を摘発﹂は新刑訴法が新設した内容であって︑犯人が︑法執行機関に. 判明していない重大な容疑者を摘発した場合︑事件にかかわる重要な手がかり又は重要な証拠を提供する場合を指す︒ ︵29︶. しかし︑重大でない容疑者又は軽微な犯罪事実を摘発した場合には︑死刑の執行を停止してはならない︒新刑訴法が 後者を新設した目的は︑犯罪を徹底的に検挙するためである︒. 第二は絶対的停止である︒絶対的停止は︑どの場合でも死刑を執行してはならないのである︒その停止の事由は犯. 人が懐胎中の場合である︒懐胎中の犯人に対しては︑公判の段階で発見すれば死刑の判決を下してはならないが︑執 行の段階で発見すれば直ちに停止しなければならない︒. 間題となるのは︑人工中絶をさせた場合である︒最高人民法院の解釈は︑拘禁の期間と裁判の期問とを問わず︑死. 凌︶. 一七五. 刑を科するため︑懐胎中の女子に対し人工中絶をしてはならず︑すでに人工中絶をされた者は懐胎している女子とみ 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(16) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶ ︵30︶. 一七六. なし︑死刑を適用してはならないとしている︒しかし︑実務上︑婦女は死刑を回避するため犯行の前後に妊娠した事 ︵31︶. 例もある︒そこで︑理論界では︑特別な場合︑懐胎中の女子が出産してから一定の期問を経て︑死刑を執行すべきだ. 執行停止の手続及び処理. との見解もある︒. ㈲. 死刑を執行する前に︑執行を指揮する人民法院が停止事由を発見した場合には︑死刑の執行を停止して︑直ちに死. 刑を許可した最高人民法院又は高級人民法院に報告する︒具体的にいえば︑次の通りである︒. 相対的停止の場合︒原判決に確かに誤りがあり︑犯人が自首し︑重大な犯罪を検挙し︑功績を立て︑又はその他の. 死刑を科されない情状のある場合には︑最高人民法院又は高級人民法院は原判決を破棄して︑第一審または第二審の. 人民法院に差戻して︑再裁判をさせるか︑または自ら判決を下す︒死刑執行停止の事由が消滅した場合には︑死刑の. 許可権を有する人民法院の院長は死刑執行停止の命令を取り消し︑新たな死刑執行の命令を発付しなければならない︒ 死刑執行の命令を発付してから七日以内にこれを執行する︒. 絶対的停止の場合︒原審の人民法院は直ちに最高人民法院または高級人民法院にこの内容を報告し︑最高人民法院. または高級人民法院は直接に判決を下す︵新刑訴法二一一条二項︑旧刑訴法一五四条二項︶︒但し︑この場合は︑無 ︵32︶ 期懲役又は有期懲役の判決を下すことはできるが︑再び死刑又は死刑執行猶予の判決を下してはならない︒. ︵三︶ 死刑の執行. ω 執行指揮の機関及び執行の監督. 死刑の執行は第一審死刑判決を下した人民法院が指揮する︒執行を指揮する人民法院は︑ 犯人について人違いでな.

(17) いことを確かめ︑遺言又は信書があるかどうかを質問した後︑執行要員に引き渡して︑死刑を執行する︵新刑訴法二. 一二条四項︑旧刑訴法一五五条二項︶︒人民法院は死刑の執行をする前に︑同級の人民検察院に通知して係員を立ち. 会わせ監督させなければならない︒人民検察院は法執行の監督機関として︑死刑執行停止の事由があるかどうか︑執 行の方法及び場所が適法であるかどうかなどについて監督を行う︒ ︵33︶. 後述のように︑死刑は銃殺および注射などの方法により執行する︒銃殺で執行する場合には︑司法警察または公安. 機関に所属する武装警察により執行する︒死刑執行の警戒は公安機関が行う︒注射は銃殺と異なり︑人民法院内部の 法医が執行するか︑それとも医師が執行する︒. ω 執行の方法. 死刑執行の方法について︑旧刑訴法には明らかな規定がなかったが︑旧刑法四五条は﹁死刑は銃殺の方法によって. 執行する﹂とのみ規定していた︒新刑訴法二一二条二項は︑﹁死刑は銃殺又は注射等の方法により執行する﹂と規定 するが︑新刑法はこの規定を削除した︒. ﹁注射﹂という方法は刑訴法改正で追加された新しい処刑の方法であって︑被執行者に致命的薬物を注射して︑死. 亡の苦痛をできるだけ減少させる方法である︒銃殺の方法よりは注射のほうが人道的死刑執行の方法であるので︑受 ︵34︶. ︵35︶. 刑者に対し︑最後の選択の機会を提供している︒銃殺か注射かのどちらかの方法で執行するかは受刑者に選択させる. ことができるが︑受刑者の願望を尊重したうえで︑どの方法で執行するかは人民法院が決定することができる︒. 新刑訴法二一二条二項は﹁銃殺又は注射等の方法﹂という表現である︒﹁等の方法﹂にはどのような方法が含まれ. るのかについては︑司法解釈がないが︑一般的には︑銃殺と注射より人道的︑科学的な方法と理解すべきである︒し. 凌︶. 一七七. かし︑法律が新たに規定するか又は最高人民法院が司法解釈をするまでは︑銃殺と注射の以外の方法を使えないと解 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(18) ︵36︶. 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. すべきであるという見解がある︒. 一七八. なお︑雲南省高級人民法院により︑最近︑昆明市中級人民法院は検察官の監督の下で︑五人の法医が注射の方法で. 7︶. 二名の犯人に死刑を執行した︒執行するとき︑一名の犯人は坐りの姿勢で︑﹁薬物一号﹂で執行され︑三分四五秒の ︵3 後に死亡し︑もう一人の犯人は仰向けの姿勢で︑﹁薬物二号﹂で執行され︑一分問後に死亡したとのことである︒. ㈹執行の場所. 死刑執行の場所については︑旧刑訴法には規定がなかったが︑新刑訴法二一二条三項は︑﹁死刑は刑場又は指定す. ︵38︶. る拘禁場内で執行する﹂と規定している︒従来︑実務上︑死刑執行の場所を郊外のある場所に設置するのが一般的で. あった︒新刑訴法により死刑執行の場所は明確に﹁刑場又は指定する拘禁場所﹂に限られていて︑それ以外の場所で 死刑を執行してはならない︒. さらに︑﹁死刑の執行は公示しなければならないが︑衆人に示してはならない﹂︵新刑訴法二一二条五項︑旧刑訴法. 一五五条三項︶と規定している︒﹁公示﹂とは︑死刑の判決を布告の形式で掲示することをいう︒﹁衆人に示す﹂とは︑. 犯人を町に引き回して衆人の前に示すことをいう︒一九八六年七月二四日︑最高人民法院・最高人民検察院・公安部. 及び司法部は﹁死刑の執行が町に引き回して衆人に示すことを厳禁することに関する通知﹂を伝達して︑﹁死刑を執. 行するとき︑町に出して衆人に示してはならない﹂と強調している︒一九八八年六月一日︑最高人民法院・最高人民. 検察及び公安部は﹁既決犯及び未決犯を町に引き回して衆人の前に示すことを厳しく制止することに関する通知﹂を. 公布して︑﹁死刑を科せられた犯人だけでなく︑その他の既決犯︑未決犯及びすべての法律に違反した者に対しても. 一律に町に引き回して衆人に示してはならない︒この規定に違反すれば︑関係する責任者に対し責任を追求する﹂と. 規定した︒さらに︑一九九四年三月二一日に最高人民法院の﹁刑事事件の審理手続に関する具体的規定﹂二三六条二.

(19) 項は︑﹁死刑の執行は公示すべきであるが︑町に引き回して衆人に示すか︑又は受刑者の人格を侮辱する行為を厳禁 する﹂と再び強調している︒. ㈲ 死刑執行後の処理. 死刑の執行後︑立ち会った書記員は記録を作成し︑執行を指揮した人民法院は死刑執行の状況を最高人民法院に報. 告しなければならない︒記録には死刑執行の時問・場所・指揮した裁判官の氏名・現場にいる検察院の監督員の氏 ︵39﹀. 名・執行した人員の氏名等を明記し︑これらの者が押印して︑死刑執行前後の写真とともに︑速やかに最高人民法院 に報告する︒. 死刑の執行後︑執行を指揮した人民法院は︑この旨を犯人の家族に通知しなければならない︵新刑訴法二一二条六. 項・七項︑旧刑訴法一五五条四項・五項︶︒その家族は期限の内に遺体又は遺骨を領収することができるが︑領収し ︵40︶. ない場合には︑人民法院はこれを処分することができる︒そして︑人民法院は犯人の遺書や遺言等をその家族に渡さ なければならない︒. 死刑執行手続をめぐる議論. 弁護士の介入. ︵四︶. ω. 旧刑訴法には死刑執行の段階で弁護士が死刑犯に対し援助できるかどうかについて︑明確な規定がなかったが︑実. 務上︑死刑執行の段階で弁護士が介入しえないとされた︒しかし︑死刑犯は長期にわたって拘禁されているので︑心. 理的︑精神的状態が崩壊に陥り︑最後の訴訟上の権利を行使しえず︑犯人が自らのどのような権利をもっているのか︑. 一七九. よく知らないか又はまったく知らないのが一般的である︒弁護士が死刑執行の段階に介入しなければ︑事実上︑被告 中国刑事法における死刑の手続︵張凌︶.

(20) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. ︵41︶. 一八○. 人の最後の権利を制限することになり︑死刑の執行という特別な手続の段階で︑犯人に対する弁護士からの援助は極. めて重要であるので︑弁護士に介入させるべきであると︑学者は強調している︒しかし︑新刑訴法は死刑執行の段階 で弁護士はどのように受刑者を援助するかについての問題を解決していない︒. ㈲ 死刑執行前の面会. 死刑を執行する前︑受刑者はその家族と面会することができるかどうかについて︑刑事訴訟法は明確な規定を設置. していない︒﹁死刑の執行後︑執行を言い渡した人民法院は犯人の家族に通知しなければならない﹂とのみ規定して. いる︵新刑訴法二一二条七項︑旧刑訴法一五五条五項︶︒実務上︑面会を許可する場合もあるし︑許可しない場合も ︵42︶. ある︒人道主義の立場からみて︑死刑を執行する前にその家族との面会の請求を許可すべきことを刑訴法に明確に規. 回避の申請 権. 定すべきである︑と主張しているが︑新刑訴法はこのような規定を設置していない︒. ⑥. 回避制度は︑捜査の開始から裁判の終結までの段階で︑裁判員・検察員・捜査員・書記員・翻訳人及び鑑定人が事. 件と特別な関係を有する場合には︑これらの者は自ら回避するか︑または当事者の申請により回避させる制度である︒. しかし︑裁判官は死刑執行の指揮者ではあるが︑具体的な執行者ではない︒一般的には︑死刑を執行する者は武装警. 察または法医である︒このように︑死刑を執行する者が回避すべきかどうか︑受刑者はこれらの者に対する回避の申. 請権があるかどうかが︑問題となる︒死刑囚の訴訟上の権利を保障するために︑死刑執行の段階で︑死刑を執行する ︵43︶ 人員に対する回避を申請する権利を認めるべきであるという主張がある︒.

(21) 四︑死刑執行猶予の再審査手続. 死刑執行猶 予 制 度 の 提 起. ︵一︶ 死刑執行猶予再審査手続の変遷. ω. 一九五〇年五月に第三次全国公安会議決議で︑毛沢東は﹁血の負債︵人民を殺害した罪︶を有しないで︑民衆の憤. 慨が大きくなく︑および国家の利益を厳重に害するにもかかわらず最も厳重な程度に達しないと同時に︑死刑を処す. べきである者に対して︑死刑の判決を下して︑二年の執行猶予期問が付き︑労働を強制し︑その後の表現・行動をみ ︵必︶ る政策をとるべきである﹂とし︑﹁この政策は慎重な政策であって︑誤りを避けることができる﹂と提起した︒死刑. 執行猶予は反革命罪を対象として規定されたものである︒一九五一年六月の﹁中共政法公報﹂第三〇期は死刑執行猶. 予を次のように説明した︒﹁われわれの反革命を消滅する方針が動揺することはないが︑反革命を消滅する方法はさ ︵45︶ まざまがある︒死刑執行猶予を判決するのは新たな方法である﹂︒. 死刑執行猶予の適用の対象は最初︑反革命犯罪であった︒普通の刑事犯罪に死刑執行猶予を適用したのは︑雲南省 ︵46︶ 高級人民法院が夫を殺した婦女に適用したことがきっかけで︑その後︑全国各地に採用されたことになった︒. 死刑執行猶予に関する正式な法令は︑一九五二年三月一一日に政務院が公布した﹁中央節約検査委員会が業務上横. 領︑浪費および官僚主義の錯誤の克服に関する若干規定﹂であった︒その二条三号は﹁横領者に対する処理の方法と ︵47︶ して︑⁝⁝死刑に処する場合︑情状の軽重によって執行猶予を宣告することができる﹂とした︒一九五二年四月二一. 凌︶. 一八一. 日に中央政府が公布した﹁中華人民共和国汚職処罰条例﹂三条により︑汚職罪を犯した場合には︑最高刑として死刑 ︵48︶ を科すことができるが︑特別の場合には︑その刑を軽くするか︑又は執行猶予することができる﹂と規定した︒この 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(22) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 一八二. ﹁汚職処罰条例草案の説明﹂は︑﹁近年︑業務上横領犯の処罰に︑死刑猶予は大きな効果を遂げている﹂と説明した︒ ︵49︶. この後︑死刑執行猶予は死刑の廃止への過渡的方法として︑反革命罪だけでなく︑普通の刑事犯罪にも適用されるこ. 現行死刑執行猶予制度の状況. とになった︒. 吻. 前述のように︑旧刑法四三条は﹁死刑は極悪の犯罪者だけに適用される︒死刑の判決を下さなければならない犯罪. 者について︑かならず直ちに執行しなければならないものでない場合︑死刑の判決を下すと同時に︑二年の期間付き. 猶予を宣告して︑労働改造を実行し︑その態度をみることができる︒猶予期間付き死刑は︑高級人民法院が判決を下. すかまたは許可することができる﹂とし︑同四四条後段はコ六才以上一八才未満の者で︑その犯した犯罪行為が特. に重大な場合は︑二年の猶予期間付き死刑の判決を下すことができる﹂とし︑さらに︑同四六条は﹁猶予期間付き死. 刑の判決を下された者が︑死刑の猶予期間中に︑確かに改俊した場合は︑二年の期問満了後︑無期懲役に減刑する︒. 確かに改俊しさらに功績を立てた場合は︑二年の期問満了後︑十五年以上二十年以下の有期懲役に減刑する︒改造を. 拒否し︑情状が悪質で︑それが事実であることが確かめられたものは︑最高人民法院が裁定または許可をし︑死刑を. 執行する﹂とし︑同四七条は﹁死刑の猶予期間は︑判決確定の日から起算する︒猶予期問付き死刑から有期懲役に減. 刑されたときの刑期は減刑を裁定した日から起算する﹂と規定した︒以上は旧刑法の死刑執行猶予に関する規定であ る︒. 改正刑法は︑未成年者に対する死刑執行猶予の規定を削除したほかは︑旧刑法の規定を維持している︒なお︑改正. 刑事訴訟法は︑死刑執行猶予の再審査手続について旧刑事訴訟法の規定をそのまま維持しており︑その執行手続のみ に若干の改正を加えた︒.

(23) ︵二︶. 死刑執 行 猶 予 を め ぐ る 論 争. 死刑執行猶予をめぐる論争には︑次のような四点が挙げられる︒. ω 死刑執行猶予制度と中国古代法. 死刑執行猶予制度は中国古代法から継承したものであるのか︑それとも新中国が創造した法制度であるのかについ. て︑否定説と肯定説との対立がある︒否定説は︑死刑執行猶予制度は︑刑の猶予制度の一部として︑その流れは中国. 古代刑法に遡ることができ︑新中国の新たな法制度ではないと主張している︒﹃明律集解附例﹄という本の﹁附真犯. 雑犯死罪﹂の章に︑死刑の方法は﹁斬﹂︵首を斬る︶と﹁絞﹂︵絞首︶とに分けられて︑死刑執行の時期は﹁決不待. 時﹂︵即時執行︶と﹁秋後処決﹂︵立秋後執行︶とに分けられている︒清律では︑いわゆる﹁斬立決﹂・﹁絞立決﹂お. よび﹁斬監候﹂・﹁絞監侯﹂の制度が確立された︒﹁決不待時﹂・﹁斬立決﹂・﹁絞立決﹂とは即時執行という意味. であり︑﹁秋後処決﹂・﹁斬監侯﹂・﹁絞監侯﹂とは犯人を監獄に拘禁して︑翌年の秋季を待って死刑を執行するか. どうかを決定するという意味である︒﹁斬監侯﹂・﹁絞監侯﹂を科せられた者で死刑が執行された場合は少なく︑大. 部分は減刑されたそうである︒中国における現行の死刑執行猶予制度は明の時代の﹁秋後処決﹂および清の時代の ︵50︶ ﹁斬監侯﹂・﹁絞監侯﹂を継承したものである︑と主張している︒. これに対し︑肯定説は︑死刑執行猶予は新中国の特色のある法制度として︑毛沢東が提起し︑反革命罪を処罰する. ために創造した法制度であると主張している︒明・清の時代の﹁立秋後執行﹂・﹁斬監侯﹂・﹁絞監侯﹂は︑犯人の ︵51︶. 凌︶. 一八三. 改造の情況と関係がなく︑執行するかどうかは朝廷が恣意的に決定するものであり︑現行の死刑執行猶予制度とは異 なる︑と主張していた︒. 吻 死刑執行猶予制度と西洋法 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(24) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一八四. 死刑執行猶予制度は西洋法制度であり︑一八世紀にフランスがこれを採用したとの見解がある︒一七九三年にフラ. ンス国民議会において︑ローイがいかなる刑罰を受けるべきかという死刑の執行猶予を提起した者がいた︒さらに︑ ︵52︶. イギリスでは︑殺人犯を死刑に処すべき場合および重罪者に死刑を宣告しない場合︑死刑の登録をする場合を規定し. ていた︒この死刑の登録制度は︑実は︑死刑執行猶予制度であるとしている︒これに対し︑イギリスの死刑登録制度 ︵53︶. は法制度ではなく︑死刑の適用を制限する役割を果たしたかもしれないが︑死刑執行猶予制度が確立されたものと断. ㈹. 死刑執行猶予制度の存廃. 定することはできない︑との主張もある︒. 死刑執行猶予制度の存廃について︑廃止説と存置説の対立がある︒廃止説は次のように主張している︒その一は︑. 死刑執行猶予制度は中国の特定の政治的社会的背景に基づくものであって︑その目的は反革命罪に適用することにあ. り︑反革命を鎮圧する運動が終わった以上︑その適用の対象もなくなったとする︒その二は︑死刑執行猶予制度自身. の欠陥として︑受刑者が﹁死﹂と﹁不死﹂と︑つまり死刑と無期懲役との問の不安定な状態に置かれ︑また﹁死﹂と. ﹁不死﹂との境界を把握しにくいとする︒死刑執行猶予を科すべき者を死刑として処罰する可能性もあるし︑無期懲. 役を科す可能性もある︒その三は︑ほとんどの死刑執行猶予に処した者が無期懲役または有期懲役に減刑されたので︑. 生命刑とする死刑の脅威力が失われたとする︒その四は︑死刑執行猶予の手続が面倒で︑犯罪者を迅速に処罰する点 4︶. ︵5 に影響を与えているとする︒. これに対し︑存置説は多数説として︑次のように主張している︒その一に︑死刑執行猶予制度は死刑の執行を減少. する手段であり︑死刑廃止の過渡的手段でもある︒死刑執行猶予に処した犯人が︑執行猶予期間が満了した後︑ほと. んど減刑された︒これこそは︑死刑執行猶予制度の優越性である︒その二に︑死刑執行猶予は死刑を執行する可能性.

(25) 死刑執行猶予と死刑. もあるし︑減刑される可能性もある︒どちらを選ぶかは犯人自らが決定する点で︑教育刑の現われである︒その三に︑ ︵55︶ 死刑執行猶予の手続は面倒であるが︑これこそは誤判を防止するに重要な役割を果たしているとする︒. ㈲. 通説は︑死刑執行猶予は独立の刑種ではなく︑主刑としての死刑の執行方法であるとしている︒これに対し︑死刑. 執行猶予は死刑と無期懲役の間の独立の刑種にあたり︑立法上死刑執行猶予を独立の主刑として規定すべきであると. の見解もある︒この説は死刑執行猶予を死刑の執行方法として存置すべきであるが︑この制度は欠陥もあると主張し. ている︒すなわち︑①刑法は死刑執行猶予の具体的な手続を規定していないので︑裁判官の自由裁量の余地が広すぎ. る︒結局︑地方によって法執行のバランスを取れないことになる︒②死刑執行猶予を死刑の執行方法として︑死刑の. 条文に含めるわけである︒しかし︑死刑執行猶予を存置すれば︑死刑の条文を拡大しなければならず︑これは世界の ︵56︶. 軽罰主義に反している︒そこで︑死刑執行猶予を独立の主刑として設置すれば︑刑法における死刑の条文を大幅に減. 少することができる︒さらに︑④一九九四年一二月二九日に制定した﹁監獄法﹂二条は︑﹁二年の猶予期間付き死刑. 死刑執行猶予の要件. 7︶. を科せられた犯人は監獄内で執行する﹂とし︑﹁監獄法﹂の規定からみて︑死刑執行猶予を独立の刑種とするのであ ︵5 る︒すなわち︑死刑執行猶予は無期懲役より重く︑死刑より軽い刑種であるとする︒. ︵三︶. 刑法の規定により﹁死刑の判決を下さなければならない犯人について︑かならず直ちに執行しなければならないも. のでない場合︑死刑の判決を下すと同時に猶予二年を宣告して︑労働改造を実行し︑その態度をみることができる﹂. 一八五. ︵新刑法四八条一項︑旧刑法四三条一項︶︒この規定により︑死刑執行猶予の要件は二つとなる︒その一は︑﹁死刑に 中国刑事法における死刑の手続︵張 凌︶.

(26) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一八六. 処すべき﹂との要件である︒その二は︑﹁直ちに執行すべきではない﹂との要件である︒前者は死刑と死刑執行猶予 との共通の要件であり︑後者は死刑執行猶予の独自の要件である︒. ω 共通の要件. 前述のように︑﹁罪が死刑に処すべき﹂との要件は死刑を適用する要件であり︑死刑執行猶予を適用する要件であ. る︒死刑執行猶予は死刑の執行方法であるので︑死刑の要件を満たすわけである︒この点では︑死刑執行猶予の要件. は即時執行死刑の要件と同じであるが︑死刑執行猶予と無期懲役との区別がある︒﹁罪が死刑に処すべき﹂とは︑﹁犯. 独自の要件. 行が極めて重い﹂程度に達しなければならない︒﹁極めて重い﹂とは︑危害の結果が特に重いこと︑および情状が特 ︵58︶ に悪質であり︑新刑法各則の条文では﹁極めて重い﹂という要件を具体的に規定している︒ ㈲. 死刑執行猶予の独自の要件は﹁直ちに死刑を執行すべきでない﹂との要件である︒この点は死刑執行猶予と即時執. 行死刑との相違点である︒しかし︑どの場合が﹁直ちに死刑を執行すべきでない﹂かについて︑法律は明確に規定し. ていない︒実務上︑次のような場合は死刑を執行すべきでない︒①法律により軽く処罰する情状のある場合︒被告人. が犯した罪が特に重く︑通常の場合は死刑を科すべきであるが︑法律が定めた軽く処罰する事項があれば︑死刑執行. 猶予に処することができる︒例えば︑自首の場合である︒②他の犯人の犯行を積極的に検挙・摘発し︑または功績を. 立てる場合︒これらはいずれも法定の軽く処罰する情状でないが︑量刑を酌量する情状である︒③犯罪の動機が特に. 悪質ではない場合︒例えば︑偶然の原因で特に重大な罪を犯した場合は犯罪者を改造する可能性が比較的高く︑死刑. 執行猶予を考慮することができる︒④被害者側に一定の責任のある場合︒例えば︑被害者にも過失があるか︑または ︵59︶ 被害者が挑発した場合は︑死刑執行猶予を科することができる︒.

(27) 死刑執行猶予の許可権. ︵四︶ 死刑執行猶予の許可. ω. 死刑執行猶予事件の第一審は中級人民法院が裁判する︵新刑訴法二〇条︑旧刑訴法一五条︶︒﹁中級人民法院が二年. の執行猶予期間付き死刑判決を下したものについては︑高級人民法院がこれを許可する﹂︵新刑訴法二〇一条︑旧刑. 訴法一四六条︶︒高級人民法院が死刑執行猶予事件を再審査するときは︑裁判員三名で合議廷を構成して行わなけれ ばならない︵新刑訴法二〇二条︑旧刑訴法一四七条︶︒. 死刑執行猶予は生命刑として︑直ちに受刑者の生命を剥奪しないが︑その可能性があるので︑死刑執行猶予の手続. を厳しく制限しなければならない︒前述のように︑死刑再審査手続には即時執行死刑の再審査手続と死刑執行猶予の. 再審査手続がある︒でも︑即時執行死刑の再審査手続と比べて︑死刑執行猶予の再審手続は比較的厳格でない︒. 死刑執行猶予判決の公正を保障するために︑死刑執行猶予の許可権も最高人民法院が行使すべきであるが︑中国の. 社会治安の状況および犯罪の実情からみて︑冤罪を防止するために︑最高人民法院の最も重要な任務は人的・物的な ︵60︶ 力を即時執行死刑事件に集中して︑即時執行死刑判決の正確さを保障することである︒. 働 死刑執行猶予事件の審査. 刑事訴訟法は中級人民法院が二年の猶予期間付き死刑の判決を下したものについては高級人民法院が許可すると規. 定するが︑許可の具体的な手続については規定がない︒実務上︑死刑執行猶予事件についての許可手続は次の通りで ある︒. ①中級人民法院が死刑執行猶予の判決を下した第一審事件について︑被告人が上訴しないか︑または検察院が抗訴. 凌︶. 一八七. しない場合︑事件にかかわるすべての書類および証拠を高級人民法院に移送し︑高級人民法院がこれを審査・許可す 中国刑事法における死刑の手続︵張.

(28) る︒. 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 一八八. ②中級人民法院が死刑執行猶予の判決を下した第一審事件について︑被告人が上訴したか︑または検察院が抗訴し. た場合︑高級人民法院は︑一方で第二審の人民法院であり︑他方で死刑執行猶予を許可する人民法院である︒しかし︑. この第二審判決は終審判決であるにもかかわらず︑法的効力がないので︑さらに死刑再審査手続を経なければならな. い︒この場合︑高級人民法院は別に合議廷を構成して︑事件を再審査してはじめて︑高級人民法院が許可した二年の. 猶予期間付き死刑判決は法的効力を生じた判決となる︵新刑訴法二〇八条二項︑旧刑訴法一五一条二項︶︒. ③高級人民法院が死刑執行猶予の判決を下した第一審事件について︑被告人が上訴しないか︑または検察院も抗訴. しない場合︑高級人民法院は第一審の人民法院であると同時に︑死刑執行猶予を許可する人民法院である︒しかし︑. 死刑執行猶予を許可する際にして︑死刑再審手続の規定により︑別に合議廷を構成して審理しなければならない︒. ④高級人民法院が死刑執行猶予の判決を下した第一審事件について︑被告人が上訴したか︑または検察院が抗訴し. 死刑執行猶予事件の処理. た場合︑最高人民法院は第二審の手続により審理して︑終審の判決を下す︒. ㈹. 高級人民法院が死刑執行猶予事件を許可するとき︑裁判官三人が合議廷を構成して審査する︒死刑執行猶予事件を 審査した後︑次のように処理する︒. ①原判決の認定した事実および法律の適用が正しい場合は︑裁定で許可する︒. ②原判決の事実認定が明らかでないか︑または証拠が不十分である場合は︑裁定で原判決を破棄するか︑または原 審人民法院に差戻す︒. ③原判決の事実認定に誤りはなく︑証拠が十分であるが︑法律の適用に誤りがあるかまたは量刑が不適当な場合は︑.

(29) 判決を改めるか︑原判決を破棄するか︑または原審人民法院に差戻す︒. 注意すべきは︑原審人民法院に差戻した事件は︑第一審の手続に基づいて改めて審理し︑その判決および裁定に対. し︑被告人は上訴することができ︑検察院は抗訴することもできる︒高級人民法院は第二審の人民法院として︑第一. 審の人民法院が下した死刑執行猶予の判決を維持する場合は︑維持の判決を下す︒この判決は終審の判決であり︑法. 死刑執行猶予の執行. 五︑死刑執行猶予の執行手続. 的効力を有する︒. ︵一︶. ω 死刑執行猶予の執行の特徴 ︵6. 1︶. 死刑執行猶予を科せられた犯人は﹁生﹂と﹁死﹂との不安定の状態で服役するのである︒二年の執行猶予期問は犯. 人にとって最後の改俊のチャンスである︒﹁生﹂又は﹁死﹂は︑犯人自分が選択する︒執行期間中︑故意の犯罪を犯. せば︑死刑に処しなければならないが︑故意の犯罪を犯さなければ︑減刑することになる︒. 図 死刑執行猶予の執行の場所. 高級人民法院が許可した死刑執行猶予の判決は法的効力を生じた判決であって︑この判決を下してから︑執行する ︵新刑訴法二〇八条︑旧刑訴法一五一条︶︒ ︵62︶. 死刑執行猶予を科せられた犯人について︑公安機関が法にもとづいて監獄に移送して︑刑罰を執行する︵新刑訴法. 二一三条二項前段︶︒﹁監獄法﹂二条は︑二年の猶予期問付き死刑を科せられた犯人は︑監獄内で執行するとし︑同一. 一八九. 五条一項は﹁人民法院は二年の猶予期問付き死刑︑無期懲役︑有期懲役を科せられた犯人について︑執行通知書およ 中国刑事法における死刑の手続︵張凌︶.

(30) 早稲田法学会 誌 第 四 十 八 巻 ︵ 一 九 九 八 ︶. 一九〇. び判決書を犯人を拘禁している公安機関に送達し︑公安機関は執行通知書・判決書を受け取った日から一か月以内に︑ 犯人を監獄に移送しなければならない﹂としている︒. さらに︑﹁監獄法﹂一六条は︑犯人を移送するとき︑人民法院は起訴状の謄本・判決書・執行通知書および事件終. 結登録表を犯人と一緒に監獄に送達しなければならない︒以上の書類がなければ︑監獄は犯人を収容してはならない︒. 書類が不十分で︑書類に誤りの記録がある場合には︑人民法院は速やかに補充するかまたは是正しなければならず︑ 誤りの収容を惹起する可能性がある場合︑収容してはならない︑としている︒. 監獄は犯人を収容した後︑速やかに犯人の家族に通知しなければならない︵新刑訴法二=二条四項︑旧刑訴法一五. 執行期問の待遇. 七条一項︶︒死刑執行猶予の期間は︑判決確定の日から起算する︵新刑法五一条前段︶︒. ⑥. 死刑執行猶予を科せられた犯人は︑法的効力を生じている判決を不服とする場合には︑不服申立てを提出すること. ができ︑人民検察院又は人民法院は︑犯人の不服申立てに対して︑速やかに処理しなければならない︵監獄法二一. 条︶︒監獄の許可を受けて他人と接見交通することができる︵監獄法四七条・四八条︶︒監獄は犯人を監獄に収容した. 後の五日以内に︑その家族に通知書を発しなければならない︵監獄法二〇条︶︒死刑執行猶予を科せられた犯人に対. 死刑執行猶予の変更. して︑監獄外で執行・減刑・仮釈放をしてはならない︵監獄法第三節・第四節︶︒. ︵二︶. 死刑執行猶予の変更は︑死刑執行猶予の執行手続の複雑な手続であって︑ 死刑執行猶予から減刑への変更と︑死刑 の執行への変更との二つの可能性がある︒.

(31) ω. 即時執行死刑への変更. 死刑執行猶予の期問中︑故意の犯罪を犯した場合は︑死刑を執行する︒﹁故意の犯罪﹂は予備︑未遂︑既遂を問わ. ず︑単独犯と共犯とを問わず︑故意の犯罪を犯せば足りる︒犯人が故意の犯罪を犯せば︑死刑執行猶予の期間中︑い. つでも即時執行死刑の手続へ変更することができる︒その理由は猶予期問付き死刑を科せられた犯人はすでに死刑を ︵63︶. 処すべき犯罪を犯したもので︑死刑執行猶予の期問中︑さらに故意の犯罪を犯したのは︑当該犯人の人身の危険性が 極めて高く︑改造の可能性はまったくなくなるということである︒. ㈲ 無期懲役への減刑. 旧刑法四六条前段は︑﹁死刑執行猶予に処せられた者が︑死刑執行猶予期問中︑確かに改俊すれば︑無期懲役に減. 刑する﹂としたが︑﹁確かに改俊した﹂という要件は極めて曖昧であるので︑新刑法五〇条は﹁死刑執行猶予に処せ. られた者は︑死刑執行猶予期問中︑故意の犯罪を犯さない限り︑二年の期間満了後︑無期懲役に減刑する﹂と改正し. た︒新刑法の規定により︑死刑執行猶予を無期懲役に減刑する要件は﹁故意の犯罪を犯さない﹂ことである︒過失の ︵64︶. 犯罪を犯した場合も監獄規則に違反した場合も無期懲役に減刑することができる︒このように︑死刑執行猶予を無期. 有期懲役への減刑. 懲役に減刑する範囲は大幅に拡大してきた︒. ⑥. 旧刑法四六条後段は︑﹁確かに改俊し︑さらに功績を立てた場合は︑二年の期間満了後︑十五年以上二〇年以下の. 有期懲役に減刑する﹂としており︑有期懲役に減刑する要件は①﹁確かに改俊した﹂こと︑②﹁功績を立てた﹂こと である︒. 一九一. これに対して︑新刑法五〇条中段は︑﹁確かに重大な功績を立てた場合は︑二年の期間満了後︑十五年以上二〇年. 中国刑事法における死刑の手続︵張凌︶.

(32) 早稲田法学会誌第四十八巻︵一九九八︶. 一九二. 以下の有期懲役に減刑する﹂としている︒このように︑有期懲役に減刑する要件は①﹁故意の犯罪を犯さない﹂こと. と︑②﹁確かに重大な功績を立てた﹂ことと改正した︒﹁重大な功績を立てた﹂とは︑次の情状を指す︒①他人の重. 大な犯罪を阻止した場合︑②監獄内外の重大な犯罪を摘発して︑確認した場合︑③発明︑創造をしたかまたは重大な. 技術革新をした場合︑④日常の生産︑生活において︑他人を救った場合︑⑤自然災害または重大な事故の救助におい. て︑積極的に参加した場合︑⑥国家および社会のためにその他の重大な貢献を果たした場合である︵監獄法二九条︶︒. ㈲変更の手続. 死刑執行猶予を死刑に変更する場合には︑高級人民法院は最高人民法院に報告して︑許可を得なければならない. ︵新刑訴法二一〇条︑旧刑訴法一五四条︶︒しかし︑死刑に変更する場合は死刑再審査手続を経ないで︑直接に最高. 人民法院が許可する︒なお︑前述の一九八三年人民法院組織法一三条により︑一部の事件は﹁死刑許可権﹂を持2・同 級人民法院がこれを許可することができる︒. 死刑執行猶予を無期懲役・有期懲役に変更する場合には︑犯人が拘禁されている監獄等の執行機関が減刑の意見書. を提出し︑高級人民法院は裁定でこれを減刑する︵監獄法三一条︶︒次の点は注意すべきである︒①減刑は︑死刑執. 行猶予の期間が満了した後で行い︑死刑執行猶予の期間中減刑してはならない︒②死刑執行猶予を有期懲役に減刑し ︵65︶ た刑期は︑死刑執行猶予期問満了の日から起算する︵新刑法五一条︶︒③無期懲役または有期懲役に減刑された後︑ ︵66︶ さらに減刑される可能性がある︵旧刑法七一条︑新刑法七八条︶︒しかし︑死刑執行猶予を無期懲役に減刑した後︑. さらに減刑する場合は︑一回または数回にわたって減刑することができるが︑実際に執行される刑期は︑十二年より 7︶. ︵6 少なくしてはならない︒. 統計により︑死刑執行猶予を科せられた者のうち︑九九%以上の者は︑無期懲役または有期懲役に減刑された︒無.

(33) ︵68︶. 期懲役に減刑した後︑功績を立てた場合には︑ さらに有期懲役に減刑することができる︒. 六︑むすびに. 本稿は︑中国の﹁死刑制度﹂それ自体の問題ではなく︑死刑の手続を中心として考察したものである︒一九九七年. 三月一七日に中国刑法が大幅に改正されたが︑紙数の制限で新刑法における死刑の適用の範囲などには触れることが できなかった︒. 前述のように︑刑法︑刑事訴訟法改正では︑死刑および死刑執行猶予の執行については若干の改正を行ったが︑死. 刑および死刑執行猶予の再審査手続については現状を維持している︒死刑再審査手続の改正は︑条文の改正に関する. だけでなく︑現行の刑事立法︑刑事政策︑審級制度と密接な関係がある︒ここで次のような三点を指摘したい︒第一. は︑立法二次主義の間題である︒中国の立法制度においては︑全国人民代表大会は唯一の立法機関とされておらず︑ ︵69︶ 全国人民代表大会常務委員会も立法権を行使するから︑立法の二次的な重層構造が見られる︒特に︑新旧刑法も新旧. 刑事訴訟法も死刑の許可権は最高人民法院が行使すると規定しているが︑全国人民代表大会常務委員会が改正した. ﹁人民法院組織法﹂は一部の死刑の許可権を高級人民法院に授権することができると規定した︒刑法・刑事訴訟法に. 明確な規定があるのに︑﹁人民法院組織法﹂の規定に基づいて死刑事件を処理している︒この問題は刑法・刑事訴訟. 法の改正自体で解決することが困難である︒第二は︑刑事政策の間題である︒すなわち法制度の整備と犯罪の処罰と. の関係である︒死刑再審査制度の欠陥は明確であるが︑現実の犯罪状況の下で︑理想的な改正案はない︒理想的な改 ︵70︶ 正案のない現段階においては︑犯罪を処罰するには︑現行の死刑再審制度を維持しなければならない︒第三は︑審級. 一九三. 制度の問題である︒中国の刑事裁判は二審制度を実施している︒中級人民法院・高級人民法院および最高人民法院は 中国刑事法における死刑の手続︵張凌︶.

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