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(1)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否 : 最近の最高裁判例を素材にして

著者 岡田 幸宏

雑誌名 同志社法學

巻 62

号 6

ページ 1749‑1773

発行年 2011‑03‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013563

(2)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一一同志社法学六二巻

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

最近の最高裁判例を素材にして

岡 田   幸 宏

︵一七四九︶ 一 はじめに

  民訴法三一九条は︑﹁上告裁判所は︑上告状︑上告理由書︑答弁書その他の書類により︑上告を理由がないと認める

ときは︑口頭弁論を経ないで︑判決で︑上告を棄却することができる﹂と規定する︒必要的口頭弁論︵民訴法八七条一

項︶の例外として︑上告を棄却するのには書面審理だけで足りるとした規定である︒上告審は︑法律審として原判決中

の法律問題のみを扱う審級であり︑口頭弁論を開かなくても︑各種の書面を用いて上告に理由がないと判断できる場合

が多いことから︑上告審における審理の促進のためにこのような規定が置かれたとされる ︵

︒もちろん︑上告棄却の場合 1︶

であっても︑上告審が︑弁論を尽くすことを必要と考えれば︑口頭弁論を開くことも可能である︒他方︑この条文の反

対解釈として︑上告を理由ありと認める場合︑すなわち︑原判決を破棄する場合には︑原則通りに口頭弁論を経る必要

(3)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一二同志社法学六二巻六号

がある︑ということになる︒一般にそのように解されており ︵

︑上告審における破棄率の低さから上告審で口頭弁論が開 2︶

かれた場合には︑かえつて原判決の破棄が予測されるところともなっている︒

  ところが︑近時︑最高裁は︑口頭弁論を経ずに原判決を破棄するという判断をいくつかの事例で示すにいたっており︑

前述した従来の一般的な理解とは異なった実務の扱いが生じている︒ここでは︑民訴法三一九条の反対解釈によって原

則に戻り口頭弁論が必要とされたことについて︑さらにその例外が問題とされることになる︒はたして︑民訴法三一九

条は︑上告審において︑口頭弁論を経ない原判決の破棄を認めているのであろうか︒また︑これが肯定されるとして︑

どのような場合に口頭弁論を経ない原判決の破棄が認められるのか︒本稿は︑このような問題について若干の検討を加

えるものである︒

二 最高裁判例の状況

  前述のように︑上告審が原判決を破棄するには︑差戻しであれ自判であれ︑民訴法三一九条の反対解釈として︑口頭

弁論を経ることが必要と解されており︑平成八年の民訴法改正以前には︑これに反するような判例は見あたらない︒と

ころが︑新民訴法の施行後には︑筆者の知りうる限りで︑口頭弁論を経ずに上告審が原判決を破棄した事件が一〇件報

告されている︒以下では︑どのような事件において︑どのような基準で口頭弁論を経ない原判決破棄を認めているか︑

まずは判例を概観してみたい︒以下の一〇件の判例は︑それが言い渡された順に並べてあるが︑最高裁が︑口頭弁論を

経ない原判決破棄について︑その可能性をしだいに広げていく様子を見てとることができる︒ ︵一七五〇︶

(4)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一三同志社法学六二巻 ︻判例

1

︼最三判平成一四年一二月一七日判時一八一二号七六頁

  Xは︑Y市を相手に︑平成四年度から同一〇年度までの特別土地保有税に関する各更正の請求には更正すべき理由が

ない旨の各処分の取消しを求める訴えを提起し︑原審において︑新たな取消事由を主張して同七年度から同一〇年度ま

での各処分について取消しを予備的に請求した︒原審は︑この取消事由の追加的主張を︑追加的予備的請求にかかる訴

えとして扱い︑その請求は理由がないとして棄却した︒これに対して最高裁は︑職権をもって︑重複起訴禁止︵民訴法

一四二条︶に触れるとして︑以下のような理由で口頭弁論を経ない原判決破棄及び訴えの却下を認めている︒

  ﹁予備的請求に係る訴えは︑上記主位的請求に係る訴えと重複するものであるから︑不適法であって︵民訴法一四二条︶︑却下

すべきである︒これと異なり予備的請求を棄却した原判決には︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり︑原判決

中予備的請求を棄却した部分は破棄を免れない︒⁝⁝不適法でその不備を補正することができない⁝⁝ような訴えについては︑

民訴法一四〇条が第一審において口頭弁論を経ないで判決で訴えを却下することができるものと規定しており︑この規定は上告

審にも準用されている︵民訴法三一三条︑二九七条︶︒したがって︑当裁判所は︑口頭弁論を経ないで上告人の予備的請求に係る

訴えを却下する判決をすることができる︒そして︑これらの規定の趣旨に照らせば︑このような場合には︑訴えを却下する前提

として原判決を破棄する判決も︑口頭弁論を経ないですることができると解するのが相当である︒﹂

  本件では︑重複起訴禁止に触れる︵予備的請求に係る︶訴えについて︑民訴法一四〇条で口頭弁論を経ずに却下がで

きるのであるから︑その前提として︑原判決破棄も口頭弁論を経ずにできるという論法であり︑ここでは︑民訴法三一

九条についての言及を欠いている︒この判例については︑﹁差戻しの必要性がなく簡易な自判を正当化するために﹂民

︵一七五一︶

(5)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一四同志社法学六二巻六号

訴法一四〇条が便宜的に活用されたとの評価 ︵

や︑口頭弁論を開いて両当事者の陳述を聴き取るような必要性のなかった 3︶

ケースと評価されており ︵

︑本件判例についてはその結論自体に異を唱えるものは少ないように思われる︒ 4︶

︻判例

2

︼最一判平成一五年一二月四日判時一八四八号六六頁

  A国際空港の第一期建設事業に関し︑公共用地の取得に関する特別措置法に基づく特定公共事業認定処分を受けた地

域内の土地建物に所有権・賃借権等を有するXらが︑同処分と︑これに先立つ土地収用法に基づく事業認定処分︵本件

事業認定︶の取消しを求めた事案である︒上告人

X

及び1

X

の所有地につき本件事業認定の取消しを求める訴えについ2

て請求棄却の本案判決をした原判決に対して︑最高裁は︑職権をもって︑以下のような理由で︑原判決を破棄し訴えを

却下している︒

  ﹁職権をもって調査するに︑A国際空港公団は︑平成五年六月一六日︑上告人

X

及び同1

X

の所有地につき権利取得裁決の申請2

及び明渡裁決の申立てを取り下げ︑上記所有地については︑土地収用法二九条一項により本件事業認定の効力が失われるに至っ

たから︑上記上告人両名が本件事業認定の取消しを求める法律上の利益も消滅したものといわざるを得ない︒そうすると︑上記

上告人両名の本件事業認定の取消しを求める訴えは却下すべきであり︑同訴えに係る請求につき本案の判断をした原判決は失当

であることに帰するから︑原判決中同請求に関する部分を破棄し︑第一審判決中同部分を取り消し︑上記訴えを却下すべきである︒

そして︑上記訴えは︑不適法でその不備を補正することができないものであるから︑当裁判所は︑口頭弁論を経ないで上記判決

をすることとする︒﹂ ︵一七五二︶

(6)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一五同志社法学六二巻

X

︑1

X

の︑本件事業認定の取消しを求める法律上の利益の消滅を理由に︑訴え却下に導いた事例である︒本件は書2

面のみによって判断可能な事件であったといえよう︒︻判例

1

︼のように民訴法一四〇条によることを明示していない

が︑訴え却下をする前提として上告審における口頭弁論を経ない原判決破棄を認めたものと考えられる︒

︻判例

3

︼最三判平成一七年九月二七日判時一九一一号九六頁

  平成一五年一一月九日に施行された衆議院議員の総選挙のうち東京都第一区における小選挙区選出議員の選挙につい

て︑その選挙人である

X

が︑公職選挙法の規定が憲法に違反するとして︑選挙の無効を求めた事件である︒原判決は︑

公職選挙法の規定は憲法に反するものではないとして︑

X

の請求を棄却した︒

X

の上告に対して︑最高裁は以下のよう

に判示し︑口頭弁論を経ずに原判決を破棄し︑訴えを却下している︒

  ﹁平成一七年八月八日に衆議院が解散されたことは公知の事実であり︑解散によって本件選挙の効力は将来に向かって失われた

ものと解すべきであるから︑本件訴えについては︑訴えの利益が失われたというべきである︒そうすると︑本案の判断をした原

判決は失当であることに帰するから︑原判決を破棄し︑本件訴えを却下すべきである︒なお︑本件訴えは不適法でその不備を補

正することができないものであるから︑当裁判所は︑口頭弁論を経ないで上記の判決をすることとする︒﹂

  本件も︑民訴法一四〇条によることを明示していないが︑上告審において口頭弁論を経ない訴え却下をする前提とし

て︑口頭弁論を経ずに原判決破棄をした事例であると評価できる︒また︑最高裁の判例 ︵

を前提にして書面のみによって 5︶

上告審は審理できた事案であったといえよう︒なお︑判決文中に明示はないものの︑本件も職権による判断と思われる︒

︵一七五三︶

(7)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一六同志社法学六二巻六号

︻判例

4

︼最二判平成一八年九月四日判時一九四八号八一頁

  Xは地方自治法二六〇条の二による認可を受けた団体である町内会の会員であった︒Xを含む一一九名は︑同町内会

の総代であるYに対して︑町内会の規約に基づいて︑総代等の任務満了による後任の総代等の選任の決議を目的とする

臨時総会を招集することを求めて本件訴訟を提起した︒Yは︑Xを含む一一九名を相手方として上告及び上告受理を申

し立てたが︑Xは原審口頭弁論終結後︑原審判決言渡し前に死亡していたことがその後になって判明した︒最高裁は︑

以下のように︑Xの請求部分についてはXの死亡により当然に終了したものとして︑職権で︑口頭弁論を経ることなし

に原判決を破棄し︑自ら訴訟終了を宣言する判決をした︒

  ﹁規約によれば︑会員たる地位は︑当該会員の一身に専属的なものであって相続の対象とはなり得ないものと解されるから︑本

件訴訟は︑被上告人の死亡により当然に終了したというべきで⁝⁝原判決中被上告人に関する部分を破棄し︑被上告人の死亡に

より本件訴訟が終了したことを宣言することとする︒なお︑訴訟の終了の宣言は︑既に訴訟が終了していることを裁判の形式を

採って手続上明確にするものにすぎないから︑民訴法三一九条及び一四〇条︵同法三一三条及び二九七条により上告審に準用︶

の規定の趣旨に照らし︑上告審において判決で訴訟の終了を宣言するに当たり︑その前提として原判決を破棄するについては︑

必ずしも口頭弁論を経る必要はないと解するのが相当である︒﹂

  本件は︑訴訟終了宣言が︑既に訴訟が終了していることを裁判の形式をとって手続上明確にするものにすぎないので︑

民訴法三一九条及び一四〇条の規定の趣旨に照らして︑上告審で訴訟終了を宣言する判決をするに当たってその前提と

して原判決を破棄するには︑必ずしも口頭弁論を経る必要はないとする︒民訴法三一九条は︑上告審の訴訟審理促進を ︵一七五四︶

(8)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一七同志社法学六二巻 その目的とし︑また︑民訴法一四〇条︵同法三一三条及び二九七条により上告審に準用︶も︑欠缺を補正することのできないような不適法な訴えを却下するには︑わざわざ口頭弁論を開くまでもないとする規定であり訴訟促進を目的としている ︵

︒両者とも訴訟促進を理由に必要的口頭弁論の例外を定めるが︑本件は︑訴訟終了宣言の法的な性質と訴訟促進 6︶

という両法条の趣旨を結びつけることによって必要的口頭弁論の例外という帰結を導き出したともいえる︒本件は却下

事例でなかったため民訴法一四〇条のみに基づく形式的な理由づけができず︑その結果として︑必要的口頭弁論の例外

が本件事案の場合にも認められるのか︑という一段掘り下げた理由づけが必要となった︒最高裁は︑訴訟終了宣言が︑

既に訴訟が終了していることを裁判の形式を採って手続上明確にするものにすぎないと述べることによって︑実質的に

みて本件は︑原判決を破棄するのに口頭弁論を経る必要があるような事件ではないと帰結したものと解される ︵

︒なお︑ 7︶

民訴法三一九条及び一四〇条の趣旨を根拠とすることによって︑最高裁は︑︻判例

1

︼ないし︻判例

3

︼では︑口頭弁

論を経ない破棄が訴え却下の自判事例に形式的には限定されていたのを︑口頭弁論を開く必要がないと実質的に判断さ

れる全ての場合に広げる可能性を示したことになる︒

︻判例

5

︼最三判平成一九年一月一六日判時一九五九号二九頁

  Xが︑Yらに対して︑不法行為に基づく損害賠償等を求めたところ︑第一審︑原審ともXの請求を棄却した︒ところ

が︑原判決の判決書に︑判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決裁判官として署名押印していたこと

が明らかとなった︒最高裁は︑職権をもって︑以下のように判示し︑原判決を破棄し原審に差し戻している︒

  ﹁原判決は︑民訴法二四九条一項に違反し︑判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官によってされたものであり︑同

︵一七五五︶

(9)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一八同志社法学六二巻六号

法三一二条二項一号に規定する事由が存在する︒したがって︑上告理由について判断をするまでもなく︑原判決を破棄し︑本件

を原審に差し戻すのが相当である︒⁝⁝民訴法三一九条及び一四〇条︵同法三一三条及び二九七条により上告審に準用︶の規定

の趣旨に照らせば︑上告裁判所は︑判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決をした裁判官として署名押印して

いることを理由として原判決を破棄し︑事件を原審に差し戻す旨の判決をする場合には︑必ずしも口頭弁論を経ることを要しな

いと解するのが相当である︒﹂

  前述の︻判例

4

︼で︑上告審において口頭弁論を開く必要がないと実質的に判断される全ての場合に︑口頭弁論を経

ない原判決破棄の可能性が広がったが︑本件で最高裁は実際に︑原判決を破棄し事件を原審に差し戻す旨の判決をする

場合にも︑民訴法三一九条及び一四〇条の趣旨に照らして︑必ずしも口頭弁論を経る必要がない︑との判断を示すこと

となった︒本件の事案は民訴法一四〇条が訴え却下を規定する場面とは相当に異質であり︑口頭弁論を開く必要性とい

う実質的な判断にむしろ比重が移ってきたように思われる︒なお︑本件で最高裁のとった結論には︑学説において評価

が分かれている ︵

︒私見は︑最高裁の判断を妥当と考えるが︑口頭弁論に関与していない裁判官によって署名がなされた 8︶

という一目瞭然の上告理由があったため︑口頭弁論を経ることが不要とされたと解すべきで︑他の絶対的上告理由によ

る破棄の場合︵例えば︑後掲︻判例

6

︼参照︶も︑当然に口頭弁論を不要と解すべきではないものと考える ︵

︒ 9︶

︻判例

6

︼最三判平成一九年三月二七日民集六一巻二号七一一頁

  本件建物とその敷地の所有者であるX︵提訴当時︑中華民国︶は︑入居者Yらに対して本件建物の明渡しを求める訴

えを提起した︒ところが︑本訴が第一次第一審に係属中︑日本国は中華人民共和国を政府承認し︑中華民国との外交関 ︵一七五六︶

(10)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一一九同志社法学六二巻 係を断つところとなった︒第一次第一審は︑Xの当事者能力を肯定する一方で︑本件建物と敷地に対する所有権支配は︑

わが国が承認する中華人民共和国に移っているのでXの本訴請求は権利保護の資格がないとして訴えを却下︒第一次控

訴審は︑Xの当事者能力︑権利保護の資格および当事者適格を認めて︑原判決を取り消して第一審に差し戻した︒差戻

第一審は︑政府承認の切り替えにもかかわらずXは︑本件建物に対する権利を失わず︑わが国内においてその権利を行

使することができる︑との理由で請求を認容した︒さらに︑差戻控訴審も︑差戻第一審の判断を是認して︑Yらからの

控訴を棄却している︒

  最高裁は︑職権をもって︑原告を﹁中華民国﹂から﹁中華人民共和国﹂と国名が変わった中国国家とし︑政府承認の

切り替えによって従前の中華民国駐日特命全権大使の代表権が消滅し︑この時点で訴訟手続の中断が生じていたと構成

し︑代表権を有する者に訴訟を受継させるべく︑旧民訴法三九五条一項四号を理由として原判決を破棄し︑差戻第一審

判決を取り消して︑事件を三たび第一審に差し戻している︒口頭弁論を経ない原判決破棄については︑以下のように述

べている︒

  ﹁訴訟手続の中断は︑中断事由の存在によって法律上当然に生ずるものであり︑代表権の有無のような職権探知事項については︑

裁判所が職権探知によって中断事由の存否を確認することができるのであるから︑民訴法三一九条及び一四〇条︵同法三一三条

及び二九七条により上告審に準用︶の規定の趣旨に照らし︑上告審において職権探知事項に当たる中断事由が存在することを確

認して原判決を破棄するについては︑必ずしも口頭弁論を経る必要はないと解するのが相当である︒﹂

  最高裁は︑本件において︑﹁職権探知事項に当たる中断事由が存在すること﹂の確認も︑民訴法三一九条及び一四〇

︵一七五七︶

(11)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二〇同志社法学六二巻六号

条の規定の趣旨に照らして︑必ずしも口頭弁論を経る必要はないとの判断を示した︒これまでの判例は︑各種の書面を

用いた形式的な審理で十分対応できる事例であったといえるが︑本件では︑職権探知という新しい基準を示して︑口頭

弁論を不要とする根拠について書面審理だけで判断が可能なケースという枠を超えたように思われる︒ただ︑職権探知

ということと︑口頭弁論が不要︵口頭弁論を経ても判決内容に影響が出ない︶ということは︑直接に結びつくものでは

ない︒本件については︑口頭弁論を不要とすることには疑問も呈されている ︵

︒ 10︶

︻判例

7

︼最三判平成一九年五月二九日判時九七八号七頁

  日米安全保障条約に基づいて

Y

が米軍の使用に提供している横田飛行場の周辺に居住するXらが︑横田飛行場におい

て離着陸する米軍の航空機の発する騒音等により精神的又は身体的被害等を被っていると主張して︑Yに対し︑夜間の

航空機の飛行差止め及び損害賠償等を請求した事案である︒第一審は︑Xらの差し止め請求を棄却し︑過去の損害賠償

請求を一部認容︑将来の損害賠償請求については不適法却下した︒原審は︑口頭弁論終結後︑判決言渡日までの期間に

ついては︑将来の損害賠償請求も適法とし︑これを一部認容した︒Yからの上告に対して最高裁は︑大阪空港事件大法

廷判決 ︵

ほかの先例を踏襲し︑将来の損害賠償請求の部分については請求適格を否定し︑以下のように︑原判決を一部破 11︶

棄し︑Xの控訴を棄却している︒

  ﹁Xらの本件訴えのうち原審の口頭弁論終結の日の翌日⁝⁝以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分は︑権利保護の要件を欠

くものというべきであって︑Xらの上記損害賠償請求を原判決言渡日までの期間について認容した原判決には︑訴訟要件に関す

る法令の解釈の誤りがあり︑この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである︒論旨は理由があり︑原判決中上記将来の損害 ︵一七五八︶

(12)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二一同志社法学六二巻 の賠償請求を認容した部分は破棄を免れず︑上記部分に係る訴えを却下した第一審判決は相当であるから︑この部分についての

Xらの控訴を棄却すべきである︒⁝⁝Xらの本件訴えのうち将来生ずべき損害の賠償請求に係る部分は︑上記のとおり不適法で

その不備を補正することができないものであるから︑口頭弁論を経ないで判決をすることとする︒﹂

  本件では︑これまでの事例が職権判断による原判決破棄にとどまっていたのが︑上告︵及び上告受理︶申立ての事例

にまで︑口頭弁論を経ない原判決破棄が拡大されることになった︒本件では︑原審はことさらに従来の最高裁判例を意

識した上でこれとは異なる判断を示し︑これに対する最高裁の応答が求められていた訳である︒このようなケースであ

っても︑判例違反を理由に原判決を破棄するには︑口頭弁論を経る必要がないことを示したことになる︒原審が判例変

更の可能性を意識してあえて判例に反する判決を下した場合であっても︑上告審が判例変更を不要と考えれば︑口頭弁

論を経る必要がないことになるが︑はたしてこの結論が妥当かには疑問が残る ︵

︒ 12︶

︻判例

8

︼最二判平成二一年四月一七日民集六三巻四号六三八頁

X

︵父︶が世田谷区長に対し︑1

X

と1

X

︵母︶との間の子である2

X

︵子︶につき住民票の記載を求める申出をしたと3

ころ︑これをしない旨の応答を受け︑その後も

X

と共に同様の申入れをしたものの住民票の記載がされなかったこと2

から︑Xらにおいて︑Yに対し︑上記応答及び住民票の記載をしない不作為が違法であると主張して︑国家賠償法一条

一項に基づく損害賠償等を求めるとともに︑上記応答が行政処分であることを前提にその取消しを求めた事案である︒

原審は︑本件応答が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たり︑その取消しを求める

X

の訴えが適法な取消訴訟である3

ことを前提として︑同訴えに係る請求を棄却した︒Xらの上告に対して︑最高裁は︑職権をもって︑取消請求に関する

︵一七五九︶

(13)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二二同志社法学六二巻六号

訴えを不適法であると判断し︑自ら原判決を破棄し訴えを却下した︵なお︑Xらの損害賠償請求およびその他の請求に

関する上告については︑上告が棄却されている︶︒

  ﹁

X

の取消請求に関する訴えは不適法であり︑同訴えに係る請求につき本案の判断をした原判決は失当であるから︑原判決中同3

請求に関する部分を破棄し︑同部分につき第一審判決を取り消し︑上記訴えを却下すべきである︒そして︑上記訴えは︑不適法

でその不備を補正することができないものであるから︑当裁判所は︑口頭弁論を経ないで上記の判決をすることとする︒﹂

  本件は︑明示はないものの︑︻判例

1

︼ないし︻判例

3

︼と同様に︑民訴法一四〇条による口頭弁論を経ない訴え却

下を上告審でなす前提として原判決を破棄した事例と解される︒したがって︑その前提として︑最高裁が︑書面のみで

審理判断できることが必要となる︒確かに︑本件は︑書面のみでの判断も可能であったともいえようが︑手続保障を充

実させるという点では適法な取消訴訟か否かに関する法解釈について当事者に主張の機会を与えても良かったのではな

いかと思われる︒ただしこの点は︑上告審における口頭弁論の要否の問題ではなく︑民訴法一四〇条の適用の有無の問

題であるといえよう︒

︻判例

9

︼最三判平成二二年三月一六日民集六四巻二号四九八頁

  亡Aの相続人であるXが︑共同相続人

Y

︑1

Y

を相手に︑2

Y

が相続欠格者に当たるとしてAの相続財産につき相続人2

の地位を有しないことの確認等を求めた事件である︒第一審がXの請求を棄却したところ︑原審は︑

Y

に対する関係2

でのみ一審判決を取消して同人に対する請求を認容し︑

Y

に対する控訴は︑控訴の利益を欠くものとして却下してし1 ︵一七六〇︶

(14)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二三同志社法学六二巻

まった

︒その結果

X︑

Y

︑1

Y

の訴訟が固有必要的共同訴訟である2

13︶

にもかかわらず

︑合一確定の要請に反する判決

Y

に対しては控訴却下のため第一審判決としての請求棄却︑1

Y

に対しては請求認容︶が生じることとなった︒Yらの2

上告に対して︑最高裁は︑職権をもって︑固有必要的共同訴訟であるにもかかわらず合一確定の要請に反する判決がさ

れた場合には︑上訴審は︑上訴人の不利益にも判決を変更できると判示して︑以下のように︑原判決を

Y

に関する部1

分についても破棄して︑自ら︑Xの

Y

︑1

Y

に対する請求を認容している︒2

  ﹁原審の判断には︑判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり︑原判決は︑全部破棄を免れない︒そして︑上記事実

関係によれば︑上告人

Y

は民法八九一条五号所定の相続欠格者に当たるというべきところ︑記録によれば︑同2

Y

及び同2

Y

は︑第1

一審及び原審を通じて共通の訴訟代理人を選任し︑本件請求の当否につき︑全く同一の主張立証活動をしてきたことが明らかで

あって︑本件請求については︑同

Y

のみならず︑同2

Y

の関係においても︑既に十分な審理が尽くされているということができる1

から︑第一審判決のうち同

Y

及び同2

Y

に対する関係で本件請求を棄却した部分を取り消した上︑これらの請求を認容すべきであ1

る︒なお︑上告審は︑上記のような理由により原判決を破棄する旨の判決をする場合には︑民訴法三一九条並びに同法三一三条

及び二九七条により上告審の訴訟手続に準用される同法一四〇条の規定の趣旨に照らし︑必ずしも口頭弁論を経ることを要しな

いものというべきである︒﹂

  上訴では不利益変更禁止原則︵民訴法三〇四条・三一三条︶が働くため︑上告審が原判決を破棄し自判する場合︑通

常は︑上告人にとって原判決以上に不利な判断はなされない︒しかし本件では︑固有必要的共同訴訟であることを理由

として︑上告人

Y

にとって不利益な形での判決の変更を認めており︑この点で本件は極めて特異なケースともいえる1 ︵

︒ 14︶

︵一七六一︶

(15)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二四同志社法学六二巻六号

民訴法三一九条も通常の場合は︑原判決を破棄されることによって不利益を受ける被上告人の手続保護の規定であると

解されるため︑被上告人にとって口頭弁論を経ることが必要か否かが︑本来的には問題となる︒しかし︑本件では右の

ような事情のため︑口頭弁論を経るべきであったかは︑被上告人よりもむしろ上告人を基準に検討する必要があろう︒

なお本件では︑﹁上記のような理由により原判決を破棄する旨の判決をする場合には﹂︑民訴法三一九条並びに同法一四

〇条の規定の趣旨に照らして必ずしも口頭弁論を経ることを要しないものというべきと判示するが︑どのように照らし

あわされたのかが判然としない︒なぜ口頭弁論を経る必要がないかについて︑民訴法三一九条並びに同法一四〇条の規

定の趣旨とまさに照らしあわせるような説明が必要であったように思われる

︻判例

10

︼最二判平成二二年七月一六日判時二〇九八号四二頁

  A市職員を組合員とする四つの互助組合が︑A市から支出を受けた補給金を組合員のための企業年金保険の保険料に

充てたことについて︑A市の住民らが︑地方自治法二四二条の二第一項四号に基づいて︑Yらに互助組合等に対して損

害賠償請求ないし不当利得返還請求をするよう求める住民訴訟を提起した︒この訴訟に︑すでに別件訴訟で︑Yらに互

助組合等に対して損害賠償請求をするよう求める住民訴訟を提起し訴え却下判決が確定しているXらが︑別訴と同一の

請求の趣旨及び原因で︑共同訴訟参加の申出をしてきた事件である︒一審は共同訴訟参加の申出を却下したが︑原審判

決は︑一審判決を取消・差戻した︒Yの上告に対して最高裁は以下のように述べ︑原判決を破棄し自判している︒

  ﹁本件申出に係る当事者︑請求の趣旨及び原因は︑Xらに関する限り︑別件訴訟と同一であるところ︑別件訴訟において適法な

住民監査請求を前置していないことを理由に訴えを却下する判決が確定しているから︑本件申出はその既判力により不適法な申 ︵一七六二︶

(16)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二五同志社法学六二巻 出として却下されるべきものである︒⁝⁝原判決のうちXらに関する部分は破棄を免れない︒そして︑第一審判決のうち本件申

出を却下した部分は正当であるから︑Xらの控訴を棄却すべきである︒また︑本件申出は不適法でその不備を補正することがで

きないものであるから︑当裁判所は︑口頭弁論を経ないで上記の判決をすることとする︒﹂

  本件では︑民訴法三一九条︑同法一四〇条の規定の趣旨ということは判決理由には一切表れておらず︑﹁本件申出は

不適法でその不備を補正することができない﹂という︑民訴法一四〇条の文言に沿う理由だけが︑口頭弁論を経ない原

判決破棄の理由として示されている︒本件は︑︻判例

1

︼に近い利益状況にあるため︑このような理由だけで十分とも

いいうる︒かえって︑本件のような理由づけがなされることからは︑具体的な理由を一切示すことなく︑民訴法三一九

条並びに同法一四〇条の規定の趣旨に照らしてとだけ述べることが︑口頭弁論を経ない原判決破棄を正当化するための

単なる形式的な理由付けに堕していることの証左といえるのではないか︒ただ︑本件では却下判決の既判力という法解

釈上の論点が含まれており︑上告受理申立理由に対する対応としての判断であることを考慮すれば︑口頭弁論を経ると

いう選択もあったのではないかと思われる︒

三 上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の必要性

⑴ 口頭弁論を経ないで原判決を破棄する判例が現れた初期の各事案︵︻判例

1

︼ないし︻判例

5

︼︶は︑原判決を破棄

するについて口頭弁論を経ないことが︑実際上とりたてて問題となるような事例であったとは思われない︒とはいえ︑

既に︻判例

1

︼が公表された頃から︑必要的口頭弁論の例外を認めることには慎重であるべきとの指摘が加えられて

︵一七六三︶

(17)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二六同志社法学六二巻六号

きた ︵

︒しかし︑このような指摘を受けながらも︑実務は︑︻判例 15︶

6

︼以降︑口頭弁論を経ずに原判決を破棄する可能性

をしだいに広げてきており︑前述のように︑中にはその妥当性が疑わしい事例も含まれるようになってきた︒

  ここで︑改めて︑上告審における口頭弁論の役割を踏まえて︑原判決を破棄する際に口頭弁論が必要とされない場合

について検討してみたい︒

  まずここで確認しておく必要があるのは︑口頭弁論を経ずに原判決を破棄する事例には︑二種の異なった類型が存在

することである︒一つは︑口頭弁論を経ることなく破棄判決されるのが︑民訴法一四〇条の適用による類型であり︑も

う一つは︑民訴法三一九条の類推によって口頭弁論を経ることなく破棄判決される類型である︒以下︑順に検討してみ

たい︒⑵ 民訴法一四〇条の適用類型  民事訴訟においては口頭弁論を開くことが原則であり︵民訴法八七条一項︶︑これは

上告審においても異ならない︵民訴法三一三条・二九七条︶︒ただし︑特別の定めがある場合にはこの限りではなく︵民

訴法八七条三項︶︑民訴法三一九条の定める口頭弁論を経ない上告の棄却はこの特別の定めに該当する︒したがって︑

上告審は︑﹁上告状︑上告理由書︑答弁書その他の書類により︑上告を理由がないと認めるとき﹂以外は︑口頭弁論を

開く必要がある︒他方︑上告審においても民訴法一四〇条が適用される︵民訴法三一三条・二九七条︶ため︑﹁訴えが

不適法でその不備を補正することができないとき﹂には︑上告審においても︑口頭弁論を経ずに訴えを却下することが

できる︒原判決が︑本案判決である場合には︑上告審が訴えを却下するためには︑原判決の破棄も当然に必要となるが︑

この場合は民訴法一四〇条の適用に伴う結果として︑あるいは付随して︑口頭弁論を経る必要はないと解される ︵

16︶

︵ ︻

判 例

1

︼ ︑

︻判例

2

︼︑︻判例

3

︼ ︑

︻ 判

8

︼ ︑ ︻

判 例

10

︼ ︶ ︒

  以上は︑実のところ上告審に固有の問題ではない︒異論はあるものの ︵

︑控訴審において﹁訴えが不適法でその不備を 17︶ ︵一七六四︶

(18)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二七同志社法学六二巻 補正することができない﹂として︑第一審判決を取り消して訴えを却下する場合にも︑やはり口頭弁論を経る必要はないものと解される ︵

︒すなわち︑この類型は︑上告審が原判決を破棄する場合に口頭弁論を経ることを必要とするかの問 18︶

題ではなく︑当該事案に民訴法一四〇条の適用があるか否かの問題であり︑どのような場合に口頭弁論を必要としない

かは︑同条の解釈に委ねられることになる ︵

︒ただし︑民訴法一四〇条によって口頭弁論を経ず訴えを却下することには︑ 19︶

既に実務における拡張傾向そのものに懸念が示されている ︵

︒ことに最終審における訴え却下であり︑その判断の当否を 20︶

争う場がないことを考慮すれば

︑ここでの訴訟要件欠缺は争う余地の全くないようなケースに限定されるべきであ

ろう ︵

︒この点︑︻判例 21︶

1

︼ ︑ ︻ 判 例

2

︼ ︑

︻ 判

3

︼は問題がないと考えるが︑︻判例

10

︼などは︑許容される限界的なケー

スともいえよう︒︻判例

8

︼については︑むしろ口頭弁論を経るべきケースであったのではないかと考える︒

⑶ 民訴法三一九条を類推適用する類型   それでは︑原判決の破棄において民訴法一四〇条の適用が問題とならない

場合には︑どのように解するべきか︒

  前述のように︑この場合には口頭弁論を経ることが原則となる︒口頭弁論は︑裁判を受ける権利︵憲法三二条︶の具

体化であり︑当事者の手続保障が図られる場でもある︒法律審である上告審の口頭弁論では︑法解釈の当否について主

張がたたかわされることが期待される︒民訴法三一九条は︑上告審における審理の促進のために︑口頭弁論を経ない上

告棄却を認めているが︑あくまで︑﹁上告状︑上告理由書︑答弁書その他の書類﹂によって︑上告を理由がないと認め

ることができるときであり︑上告棄却の場合一般について︑口頭弁論が不要とされている訳ではない︒例外の方が圧倒

的に多いため︑原則と例外が逆転してしまっているが︑原則は必要的口頭弁論である︒書面のみでは上告理由について

判断することができないときには︑原則通りに口頭弁論が開かれ︑当事者の法的主張についての手続保障が図られる︒

  ではなぜ︑必要的口頭弁論の例外が上告棄却の場合に限って定められたのか︒﹁上告状︑上告理由書︑答弁書その他

︵一七六五︶

(19)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二八同志社法学六二巻六号

の書類﹂のみによって上告理由ありとされ原判決を破棄するとの判断が可能であれば︑上告審における審理の促進のた

めに︑口頭弁論を経ることなく原判決の破棄も可能とする規定であっても問題ないように思われる︒この点に︑原判決

破棄の際に口頭弁論を経る必要があるか否かを決定づける鍵があるように思われる︒

  周知のように︑現行三一九条︵旧民訴法四〇一条︶は︑大正一五年改正において新設された規定である︒立法の経過

を見ると︑﹁民事訴訟法改正案︵第一案・議案 ︵

︶﹂の段階では︑第三八一条として︑﹁上告裁判所カ上告狀︑上告理由書︑ 22︶

答辯書其他ノ書類ニ基キ裁判ヲ爲スニ熟スルモノト認ムルトキハ口頭辯論ヲ經スシテ判決ヲ爲スコトヲ得﹂と︑上告審

においては︑上告棄却の場合に限らず破棄の場合においても書面審理を可能とする規定が提案されていた︒これが︑﹁民

事訴訟法改正案︵第二案 ︵

︶﹂の段階で﹁上告裁判所カ上告 23︶

︑上告理由書︑答辯書其他ノ書類ニ依リ上告ヲ理由ナシト

認ムルトキハ口頭辯論ヲ經スシテ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スルコトヲ得﹂と修正され︑大正一五年改正を経て︑現行法に

引き継がれている︒第一案から第二案への修正が本稿の問題関心から重要であるが︑その過程での民事訴訟法改正調査

委員会における︑松岡義正委員と岩田宙造委員の以下のようなやり取り ︵

が興味深い︒ 24︶

﹁○松岡義正君  此本案の三百八十一條は之は新設の條亣でありまして︹︑︺此上告狀其他の書類丈けで裁判を爲すに熟

した場合に於ても口頭辯論を經て判決をしなければならぬと云ふことになりますと︑之は實際上不經濟でありますか

ら︑そこで斯樣な場合は書面審理主義の形を取りまして口頭辯論を經ずして裁判することが出來る︑斯う云ふやうに

したいのであります︑⁝⁝︹省略︺⁝⁝︒

○岩田宙造君  三百八十一條に関聯する御尋ねですが︑之は答辯書を提出しない場合にも上告狀竝に上告理由書に依つ

て裁判所に於ては無論判決はあることになるのでせうね︑若しさうであるとすると答辯書を提出させずに被上告人に ︵一七六六︶

(20)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一二九同志社法学六二巻 不利益な判決をすることが出來ることになるのでありますか︒○松岡義正君  被上告人に不利益な判決の︹を︺答辯書を提出し︹させ︺ないでさせ︹す︺ると云ふ趣旨ではない︑答

辯書を相手方に出すことを命ずると云ふ場合は何であるかと云ふと︹︑︺之は上告が理由ありと見た場合に被上告人

に對して答辯書の提出を命ずることがある︑それでありますから上告理由書等で以て上告の理由がないと云ふことに

なりさへすれば答辯書を差出すことを命じないで直ぐ棄却してしまふ︒

○岩田宙造君  此文字の上から云ふと先づ答辯書の提出を命ずる迄もなく︑命じて見ても上告の理由を覆す餘地のない

上告の理由の有力であつて頗る緊切なるものには答辯書を提出せしめずにやる⁝⁝

○松岡義正君  さうですが︑原判決が違法であると云ふことが明かで答辯書を提出せしめる必要がない時⁝⁝

○岩田宙造君  さう認めた時は答辯書を提出せしめずに原判決を破毀することが出來さうに見えますが︑どうです︒

○松岡義正君  さう云ふ場合には答辯書の必要はないと思ひます︒

○岩田宙造君  それも出來ることゝ云ふことになるのですな︒

○松岡義正君  さうなる︒

○岩田宙造君  さうであると極めて顯著な場合はそれで宜いやうですが︑それが出來るとなると何處迄顯著であると見

てやるかと云ふ境界ははつきりしないことになりますから︑裁判所の何時でも意見に依つて答辯書を提出させずに被

上告人に不利益な判決が出來るやうになつては事實當事者は滿足しない場合があると思ふ︑それで之は必らず一應は

答辯を聽くと云ふことになつた方が宜くはないでせうか︑訴訟を一方の片言丈け聽いて︑如何に顯著なりとも︑相手

方に辯明を與へずに不利益な判決をすると云ふことは穩やかでないやうに思はれる⁝⁝﹂

︵一七六七︶

(21)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一三〇同志社法学六二巻六号

  以上のような︑両委員のやりとりの結果︑上告審における書面審理が上告棄却事例に限定されることとなったが ︵

︑こ 25︶

のことから旧民訴法四〇一条を承ける民訴法三一九条は︑本来的には︑﹁上告状︑上告理由書︑答弁書その他の書類﹂

から原判決破棄を簡単に導くことができるような事例であっても︑必ず口頭弁論を経ることを要求する規定として立法

されたことは明らかである︒原判決を破棄する事例の手続的な特徴を踏まえて口頭弁論を要求したのではなく︑被上告

人に弁明の機会を与えるため︑換言すれば︑手続保障のために一律に口頭弁論を要求した規定である︒したがって︑原

判決破棄にあたって口頭弁論を経る必要がないことを理由づけるために︑民訴法三一九条の規定の趣旨を持ち出すのは

当を得ないものといえよう︒仮に書面のみによって原判決破棄の判断が可能であるとしても︑民訴法三一九条は当然に

これを許すものではない︒

  しかし︑民訴法三一九条の類推によって︑口頭弁論を経ない原判決破棄も全く許されない訳ではないものと考える︒

上述のように︑民訴法三一九条は︑事後審であり法律審である上告審では︑書面によって上告理由についての審理が可

能な場合も相当にあることを踏まえて︑審理促進のために置かれた規定である︒同条が︑上告棄却事例に限定するのは︑

原判決破棄という︑自らにとって不利益な判決を甘受しなければならない被上告人に弁明の機会を与えるためである︒

そうであるならば︑被上告人に対して︑上告破棄の理由について争う機会を保障する必要が認められない場合には︑民

訴法三一九条の類推によって︑口頭弁論を経ない原判決破棄も許されるものと解されよう︒

  どのような場合に︑被上告人に対して︑上告破棄の理由について争う機会を保障することが不要と解されるのか︒

  少なくとも︑原判決破棄の裁判が︑上告︵及び上告受理︶申立てへの応答としてなされる場合には︑被上告人に上告

人の提示した法解釈の当否についての弁論を保障すべく︑口頭弁論を経ない原判決破棄は許されないであろう︒この点︑

︻判例

7

︼は︑判例変更の可能性を模索した原審の判断の是非が︑判例違反を上告理由として上告審で問題となった事 ︵一七六八︶

(22)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一三一同志社法学六二巻 例である︒原判決を破棄し︑訴えを却下した第一審判決を活かしたことを踏まえれば︑民訴法一四〇条適用の事例としての性質も有するものといえるが︑法解釈の当否について当事者に弁論を保障すべき場合として︑口頭弁論を経る必要があったものと考える︒むしろ︑原審が判例に反する判断を意図的に示した場合に原判決を破棄するには︑口頭弁論を経る必要があると解すべきでなかろうか︒  以上のように︑上告申立て又は上告受理申立てに応答する場合を除外するならば︑口頭弁論を経ない原判決破棄は︑

職権をもって判断する場合に限られることになる ︵

︒この場合︑上告人は破棄の事由となった法解釈を特段問題としてい 26︶

た訳ではなく︑むしろ裁判所の職責をもって判断する必要があるとされる場合なので︑被上告人に法解釈の当否につい

て弁論を保障する必要はとりたててないものと解されよう︒ただし︑職権をもって判断する全ての場合において︑口頭

弁論を経ない原判決破棄が可能と解すべきではない︒まず︑民訴法三一九条の類推を考える以上︑書面のみによって判

断可能な事例という枠を超えることは許されない︒また︑職権判断の場合でも︑非常に重要な法解釈が含まれるときに

は︑原判決破棄で不利益を被る被上告人のために口頭弁論を保障すべきである︒

  ︻判例

6

︼は︑ことさらに職権探知に言及したことから推し量るに︑上告審は手元にある書面のみでは原判決破棄の

判断が困難な事案であったと考えられる︒職権探知が妥当する手続においても口頭弁論が排斥されていないように︑職

権探知で明らかになった事情についても当事者に何らかの意見陳述の機会を与えるべきである ︵

︒︻判例 27︶

6

︼は︑口頭弁

論を経るべき事案であったものと解されよう ︵

︒ 28︶

  それでは︑︻判例

4

︼ ︑ ︻ 判 例

5

︼︑︻判例

9

︼のケースはどうか︒これらのケースでは︑破棄の事由は職権をもって判

断されており︑また︑書面のみによって判断可能な事例であったといえよう︒まず︻判例

4

︼ ︑ ︻

判 例

5

︼では︑原判決

を破棄する理由に法解釈上の論点が含まれている訳ではなく︑被上告人︵さらには上告人︶に法解釈について弁論の機

︵一七六九︶

(23)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一三二同志社法学六二巻六号

会を保障すべき事案であったとも思われない︒︻判例

4

︼ ︑ ︻

判 例

5

︼で上告審が︑口頭弁論を経ることなく原判決を破

棄したことは是認されよう︒これに対して︻判例

9

︼では︑固有必要的共同訴訟であることを理由として︑原判決破棄

の上で︑上告人に不利益に判決内容が変更されており︑このことだけをとってみても︑極めて例外的な状況にある︒ま

た︑このような異例な状況が生じたのは︑重要な法解釈の結果でもある︒本件で上告人に口頭弁論を保障する必要性は︑

通常の原判決破棄のケースで被上告人に口頭弁論を保障する必要性と何ら異ならない︑否むしろ︑本件の特異性を考え

ると大きいとさえいえよう︒︻判例

9

︼は︑口頭弁論を経るべき事件であったように思われる︒

四 むすび

  最高裁ホームページ ︵

の判例検索システムによると︑平成一〇年一月一日以降の最高裁の民事判決で原判決を破棄した 29︶

事例が︑平成二二年一二月三一日現在で︑四二九件ヒットする︒このうちの一〇件が︑口頭弁論を経ることなく原判決

を破棄した事案であるとすれば︑その数は二%強に過ぎず︑破棄判決のほとんどは︑口頭弁論を経ているものといえよ

う︒確かに︑現段階ではそのようにいえるが︑今後︑上告審の審理促進といった点を強調して︑口頭弁論を経ない原判

決破棄の件数が増加する可能性も否定できない︒他方︑口頭弁論を経ない原判決破棄を︑裁判を受ける権利や手続保障

といった観点から否定すべきものとも考えない︒しかし︑口頭弁論の必要性についての例外を認める訳なので︑民訴法

一四〇条の適用にしろ︑民訴法三一九条の類推適用にしろ︑一層の慎重さが要求されよう︒それぞれの事案ごとに︑口

頭弁論を開く必要性の有無を慎重に審査し︑口頭弁論の必要性が多少なりとも認められるのであれば︑手間を惜しむこ

となく︑口頭弁論を経るべきであろう︒また︑口頭弁論を経ることなしに原判決を破棄するのであれば︑判決理由中に︑ ︵一七七〇︶

(24)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一三三同志社法学六二巻 口頭弁論を必要としない理由を具体的かつ詳細に示すことが求められよう︒

1

︶ 鈴木正裕=鈴木重勝編﹃注釈民事訴訟法⑻﹄︵有斐閣・一九九八︶三一九頁︹遠藤賢治︺参照︒

2

︶ 例えば︑前掲注︵

1

︶三二〇頁︹遠藤賢治︺

3

︶ 川嶋四郎﹁判批﹂法セ五九四号︵二〇〇四︶一一八頁︒

4

︶ 宇野聡﹁判批﹂私法判例リマークス二八︵二〇〇四︶一三〇頁︒

5

︶ 最二判昭和五四年一二月四日訟月二六巻三号五〇〇頁など︒

6

︶ 鈴木正裕=青山善充編﹃注釈民事訴訟法⑷﹄︵有斐閣・一九九七︶四六〇頁︹三谷忠之︺など参照

7

︶ 和田吉弘﹁判批﹂法セ六二七号︵二〇〇七︶一一九頁は︑訴訟終了についての判断が微妙な場合には口頭弁論を開くべきとし︑訴訟終了

宣言の場合は当然に口頭弁論が不要になるのではないと指摘する︒

8

︶ 賛成するものとして︑和田吉弘判批﹂法セ六三一号︵二〇〇七︶一二一頁︑勅使河原和彦﹁判批﹂私法判例リマークス三六︵二〇〇八︶

一三〇頁︒反対するものとして︑加波眞一﹁判批﹂民商一三六巻六号︵二〇〇七︶八四頁︒

9

︶ 和田・前掲注︵

8

︶一二一頁参照︒

10

︶ 和田吉弘﹁判批﹂法セ六三三号︵二〇〇七︶一一七頁︑川嶋四郎﹁判批﹂法セ六四二号︵二〇〇八︶一一七頁︑拙稿﹁判批﹂速報判例解

説二号︵二〇〇八︶一六〇頁小原将照﹁判批﹂法学研究︵慶応大︶八一巻一号︵二〇〇八︶一一八頁など︒なお最高裁判例解説︵絹川

泰毅﹁判解﹂曹時六一巻八号︵二〇〇九︶一三三頁︵一四三頁︶によれば︑本件判決に先立ち︑双方当事者に対しての訴訟追行が代表

権のある者によってされたといえるかについて期日外釈明の手続がとられ︑双方がこれに回答したため︑口頭弁論を経なくとも不意打ち的

とはいえないとする︒確かに不意打ち的とはいえないが︑期日外釈明が︑口頭弁論に代替しうるものかについては疑問である︒

11

︶ 最大判昭和五六年一二月一六日民集三五巻一〇号一三六九頁︒

12

︶ 山本和彦﹁判批﹂判時一九九九号︵二〇〇八︶一六四頁も︑本件で口頭弁論を経ないことに疑問を呈している︒

13

︶ 最三判平成一六年七月六日民集五八巻五号一三一九頁参照︒

14

︶ 独立当事者参加訴訟において最高裁は同様の判断を示していた︵最二判昭和四八年七月二〇日民集二七巻七号八六三頁︶が︑本件ではじ

めて︑固有必要的共同訴訟においても︑上告人に不利益に原審判決を変更できるとの判断を示した︒

︵一七七一︶

(25)

上告裁判所における原判決破棄と口頭弁論の要否

 

一三四同志社法学六二巻六号

15

︶ ︻判例

1

︼においては︑川嶋・前掲注

3

︶一一八頁︒また︻判例

4

︼においては︑和田・前掲注

7

︶一一九頁︑拙稿﹁判批﹂民商法一

三六巻三号︵二〇〇七︶三七一頁など︒

16

︶ 反対︑坂原正夫﹁民事訴訟法第三一九条について﹂慶應法学研究八二巻一二号︵二〇〇九︶四七頁以下︒坂原教授は︑一四〇条が適用さ

れるからといって三一九条を無視して良いわけではなく︑上告審手続の規定である三一九条の適用を優先すべきであるとする︒また︑波多

野雅子﹁上告審における口頭弁論の意義﹂松山大学論集一七巻四号︵二〇〇五︶一〇一頁も一四〇条で却下する場合にも口頭弁論を経る必

要があるとする︒しかし︑坂原教授は一四〇条と三一九条の衝突を指摘されるが︑ここでもっぱら問題となるのは一四〇条の適用であり︑

はり一四〇条適用の問題として口頭弁論の必要性を判断すべきであろう︒

17

︶ 宇野・前掲注

4

︶一三二頁︒控訴審手続に関しては必要的口頭弁論の原則が行われており民訴法三一九条に相当する規定がない︑上告

審よりも事実審である控訴審の方が口頭弁論の重要性が高い︑事件が控訴審で終了する可能性が高いといった理由をあげて︑必要的口頭

弁論の例外を認めることに反対するしかし︑上告審においても必要的口頭弁論の原則が妥当し︑その例外として民訴法一四〇条によって

口頭弁論を経ない却下があると考えれば控訴審においてこれを認めない理由はないように思われるし︑また︑事実審で口頭弁論の重要性が

高いという理由も︑第一審においてすら口頭弁論を経ない却下があることからすれば根拠としては弱いように思われる︒事件が控訴審で

終了する可能性が高いという理由も︑上告審で口頭弁論を経ない却下のできることが説明できなくなる︒本文のように︑民訴法一四〇条︵同

二九七条︶による︑口頭弁論を経ない原判決取消し・訴え却下の可能性を認めた上で︑民訴法一四〇条の適用事例を絞るといった扱いの方

が適当であろう︒

18

︶ 鈴木=青山・前掲注︵

6

︶四六三頁︹三谷︺︑太田幸夫﹁判批﹂判タ一一五四号︵平成一五年主要民事判例解説︶︵二〇〇四︶二五三頁︒

19

︶ 具体例については︑例えば︑堤龍弥﹁口頭弁論を経ない訴え却下﹂﹃判例民事訴訟法の理論︵中野貞一郎先生古稀祝賀︶下︶﹄︵有斐閣一九

九五︶一一一頁以下参照︒

20

︶ 堤・前掲注︵

19

︶一三七頁以下︒

21

︶ 同旨︑川嶋・前掲注︵

3

︶一一八頁︒

22

︶ 松本博之=河野正憲=徳田和幸編著﹃日本立法資料全集

11

民事訴訟法︹大正改正編︺

﹄︵信山社・一九九三︶一八〇頁以下︒

23

︶ 松本=河野=徳田・前掲注︵

22

︶二四一頁以下︒

24

︶ 松本博之=河野正憲=徳田和幸編著﹃日本立法資料全集

12

民事訴訟法︹大正改正編︺

﹄︵信山社一九九三︶四二六頁以下︒なお︑坂原 ︵一七七二︶

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〔追記〕  校正の段階で、山﨑俊恵「刑事訴訟法判例研究」