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不登校問題に対する政策的対応の現状と課題

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不登校問題に対する政策的対応の現状と課題

一東京都の不登校発生率地域差に対する社会構造的要因に注目して一

岩 田 香奈江

1.問題の所在

 学級崩壊やいじめ自殺などの教育危機の深刻化や,ゆとり教育とその撤回な ど学習方針をめぐる議論,そして教育基本法の改正や日の丸・君が代といった 政治的側面をめぐる議論など学校教育に関する話題は近年事欠かない.その中 で,かつて大きな社会問題となっていた「不登校」は,目新しさを失い,どの 学校・学級にも当たり前に生じている事態として,日常化してしまった.一方 で,フリーターや,ひきこもり,ニートといった若者に関する社会問題は,

次々と注目をあび,若年層の雇用問題は2000年以降,政治的課題として取り上 げられることも増えた.しかし,若者の社会的排除という視点から捉えると,

不登校という「教育問題」は,これらの若者の就労をめぐる「労働問題」と密 接に関連していると考えられる.本稿では,東京都を事例として,マクロデー タを用いた分析により,90年代以降の不登校急増に対する社会構造的要因の影 響について検討し,文部科学省による不登校に対する対処の問題点について論

じたい.

2.行政による不登校問題の対応の現状

   一「誰にでも起こりうる不登校」答申後の不登校急増

 最初に,教育行政における「不登校」問題への対処の経緯について,不登校 発生率の推移とともに振り返ってみよう.伊藤(2003)によると,戦後教育の 開始から高度経済成長の始まる60年までのいわゆる「戦後」の時代において,

「長期欠席」は経済的理由によって生じるものがほとんどであり,1960年代に

入っても, 「登校拒否」という「症例」が精神科医により心理的な病理として

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紹介され始めたものの,まだまだ特殊な事例として認識されていたようだ.

 「登校拒否」が社会的に注目され始めるのは,1970年代以降のことである.文 部科学省が教育機i関対象に悉皆で毎年行っている学校基本調査では,1966年か ら理由別に長期欠席者の数を集計している.全国の小・中学校と,次章で分析 を行う東京都内の小・中学校の理由別長期欠席生徒数のうち, 「学校ぎらい」

「不登校」に区分されている児童・生徒数を,それぞれ全児童・生徒数で除し て算出した不登校発生率をグラフにしたものが表1である1).1970年代半ばから 徐々に「学校ぎらい」に分類される長期欠席児童・生徒数の割合の上昇がみら れ始めたことを受け,文部省は「生活指導上の問題」として,精神科医の問題 定義・枠組を取り入れることで, 「登校拒否」を子どもの精神的な問題,病理

として「治療」する試みを実施する.少年非行が大きな社会問題であった時節 柄もあり,「登校拒否」は青少年の逸脱的な事象として捉えられ,病院や相談 室の対応だけでなく,強制施設なども設置された.しかし,1980年代の「登校 拒否」そして「不登校」をめぐる論争を受けて, 「登校拒否」に対する文部科 学省の認識が大きく変化する.登校拒否の急激な増加,そして精神科医や登校 拒否の子どもを持つ親たちによって学校外での学びの場(フリースクール)を つくる運動が活発になる中で,学校にいかない子ども達を「病理」としてとら える「登校拒否」という問題認識に対して,異議申し立てが行われた.それら の論争を受け,平成4年に文部省が出した,いわゆる「誰にでも起こりうる不 登校」答申(文部省初等中等教育局長1992)とは,逸脱的状況としての意味合 いが濃い「登校拒否」から, 「不登校」へと認識の転換が行われた点で画期的 であった.

 このような答申がうまれた背景には,不登校に関する社会学的研究の影響も 大きい.答申を審議した中教審「学校不適応対策調査研究協力者会議」の委員 でもあった森田(1991)や,竹川(1993)ら教育社会学者は,社会全体の私事 化,すなわち「自分の私的な領域を確保したいという人々の欲求の現れ」が不 登校をもたらすとし,社会全体の文化的な誘因の存在を指摘2),個々人の病理

として捉える方策の限界を示した.この答申を受け,教育行政の不登校問題へ

の対応は, 「学校は,児童生徒にとって自己の存在感を実感でき精神的に安心

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していることのできる場所一「心の居場所」一としての役割を果すことが求め られる」 (文部省初等中等教育局長1992)という認識のもとに,学校内の相談 体制の充実や,適応指導教室の設置などが勧められていった.

 しかし,問題認識は転換したものの,その具体的方策は,対症療法的に終始 したものである点は変わらなかった.心理関係の専門家が中心的に携わってき た経緯から,「不登校」という状況に陥った子どもに対して個別に適切な「指 導」を行うというのが基本的な対処方法とされている.子どもたちの「心」を 重視する方策に力が入れられ,問題の根本要因を社会的に解決しようという視 座はあまりみられないのである.

 最新の不登校対策の骨子となっている平成17年の文部科学省通知「不登校へ の対応の在り方について」 (文部科学省初等中等教育局長2005)も,平成4年        t

の「誰にでも起こりうる不登校答申」の流れを基本的に汲むものである.「不 登校」を「心の問題」としてのみではなく,「進路の問題」としてとらえ,

「社会的自立」を促すという基本方針のもと, 「不登校の解決目標は,児童生 徒の将来的な社会的自立に向けて支援することである」ことを強調し,「本人 の進路形成に資するような指導・相談や学習支援・情報提供等の対応をする必 要があること」と述べられてはいるが,具体的な施策をみてみると,民間施設 やNPO等との連携も含めた適応指導教室の整備や,スクールカウンセラー,心 の教育相談員,メンタルフレンドの増員などによるカウンセリング体制の強 化,単位制高校など中学卒業後の受け皿の充実といった従来の取り組みとそれ ほど変化があるものではなく,基本的には「優等生的息切れ」的不登校に対す る心理対応が主たる方策となっていることがわかる(文部科学省初等中等教育 局長2005).

 ここでもう一度図1をみて欲しい.「誰にでも起こりうる不登校」答申が出

される前年の1991年から2000年にかけての約10年間で,全国,東京都のいずれ

においても,特に中学校における不登校が急増し,その発生率は2倍以上と

なっている.そして,最新の通知が出された2005年以降も高水準の推移が続

き,2006年度には不登校発生率が過去最高を記録しているのだ.このような状

況を鑑みると,文部科学省の心理対応中心の不登校対策の有効性に疑問の念が

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生じる.子どもの「心」に注視し,子どもの居場所を確保するといった方向性 だけで,不登校対策は十分なのであろうか.次節では,東京都を事例として,

市区町村別不登校発生率をもとに,社会構造的な要因に着目しつつ,不登校が 急増した90年代の変化について考察する.

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一←全国小学筏年閃50日以上   十全国中学筏年関50日以上   十全国小判交年面30日以上   十全国中学筏年聞30日以上 一◇一東京都内小学牧年岡50日以上  一ロー東駅蓼内巾学校年閏50日以上  一▲一聚京蔀内 」学校年陶30日以上  一〇一棘部内中学鮫年闇30日以上

図1小学校・中学校不登校発生率の推移(全国・東京都)

3.不登校発生率の地域差に関するマクロ分析

 本節では, 「不登校」を個々人の病理もしくは生き方といった個人の問題と して捉える視点ではなく, 「社会的事実」と捉えた上で,90年代の不登校増加 の要因について考察を行う.「自殺を,別々に考察されるべき,たがいに孤立

した個々の出来事とのみみないで,所与の時間単位内に所与の社会の内部に起 こる自殺を全体的に考察」 (デュルケーム1897=1985:25)したデュルケーム の自殺に関する古、典的な社会学的実証研究に習い,市区別のマクロデータを用 いて,東京都内の中学校不登校発生率の地域差に着目する.

 まず,中学校不登校発生率の地域差について,地図で確認してみよう.図1

と同じ「学校基本調査」の理由別長期欠席者数のデータを用いて,東京都内の

市区別不登校発生率を算出し,生徒・児童数が1000人以下である町村部を除い

た,49市区の不登校発生率を地図に色分けしたものが図2である.1991年段階

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では,福生市を除き全ての市区が100人当り2人以下の発生率の範囲に納まって いる.ただし,23区内に関しては,中心部の不登校発生率が低く,周辺部が高 い傾向が見られる.また,市部に関しては,北西部の不登校発生率がやや高い 傾向が若干,確認できる.つづいて,不登校がピークを迎えた2000年度間の中 学生の不登校発生率を同様に色分けした地図を見てみよう.49市区全体の平均 は100人中2.68人と約2倍となり,単純に計算すると,どの学級にも最低一人は 不登校の生徒がいるという状況まで事態が悪化している.しかし,地域別に不 登校発生率を比較してみると,発生率が100人中2人以下という低水準にとど

まった地域もある一方で,発生率が100人中4人以上という地域も生じている.

90年代に生じた東京都内の不登校の増加傾向には,かなりの地域差が認められ るのである.それでは,どのような地域で10年間に不登校発生率が急増したの であろうか.倉沢・浅川(2004)の東京圏の空間構造に関する分析によると,

都心部から西南にかけて「上層ホワイトカラー・専業主婦ベルトといった社会 的上層の生活空間」 (倉沢・浅川2004:24)が広がる一方で,23区東部はブ ルーカラー系の住宅地区が多くを占め,また市部についてはホワイトカラー系 の人口再生産地区とブルーカラー系の人口再生産地区がモザイク状に拡がると

されるが,全般に,ブルーカラーの集住している地区と不登校発生率の高い地 区が重なっているのである.

 この点を確認するために,不登校発生率と社会指標の相関を確認してみよ う.1991年と2000年時点での町村部を除いた東京都49市区別の不登校発生率 と,1990年と2000年の『国勢調査』結果をもとに算出した社会指標の相関係数 をもとに,不登校増加に対する社会構造的要因について検討したい.地域特性 を示す指標としては,松本(2004),松本編(2004),倉沢・浅川編(2004)

を参考に,人口学的変数として,年少人口比率と老年人口比率を,社会経済的 変数として上級ホワイトカラー比率とブルーカラー比率,自営業主比率,高等 教育修了者比率を,都市化に関する変数として人口増加率と人口密度を,家族 に関する変数として,核家族世帯比率と単身世帯比率,女子労働力人口比率を

用いた.

 その分析結果が表1である.マクロデータ問の相関係数のため,有意性検定

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結果には理論的意味はない点,また,個票データを用いた場合よりも係数が大 きく算出される点を考慮し,1991年度間と2000年度間で,係数に大きな変化が あったものに着目すると,一目瞭然なのは,社会経済的変数の相関係数の大幅 な上昇である.ブルーカラー比率は1991年度間の0.448から2000年度間の0.643 まで上昇,上級ホワイトカラー比率に関しては,−0.472から一〇.701という非常に

高い値を示している.1991年から2000年にかけて,不登校発生率と社会経済学 的変数の関連が地域レベルで強まったのである.東京都における不登校の急激 な増加は,ブルーカラー層が多く居住する,相対的に低階層な地域で生じてい

たのである.

1991年平均1.14人/100人標準偏差0.51

  ノ脚いへ

㌧、   〆4

一D.pu

 100人幽たり

  旬10人   〜ZO人   〜30人   鱒40人   噌50人

2000年 平均2.68人/100人 標準偏差0.89

\謎〆謬

図2 東京都内中学校不登校発生率

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表1 東京都内中学校不登校発生率と社会指標の相関

 少人口比 老年人口指数

上級ホワイトカラー比率 ブルーカラー比率 自営業主比率 高等教育修了者比率 人口密度

人口増加率(5年間)

核家族世帯比率 単身世帯比率 女子労働力人口比率

de*★

吹D<001,tt p。<01,tp<.05

0.218

欄0.380 ☆鳶

・0.472 0.448

・0.088

・0.399

・0.168 0.368 0.310

・0215

・0.053

0.384

・0.152

・0.701 0。643

・0.224

・0.621

・0.045

・0.192

0.427勲

・0.459 0.490

 これまで, 「不登校」をめぐる議論では,階層問題と.「不登校」の関連性は あまり論じられてこなかった.しかし,東京都内という限定された地域におい てではあるけれども,社会経済的な地域特性が不登校増加に影響を及ぼしてい る可能性は大いに考えうる.そして,問題視すべきなのは,地域の階層特性と 不登校発生率に関連がみられる点だけではない.東京という都市の空間編成

に,階層分化が見られる点は近年に始まったことではなく,区部の西高東低傾 向は1950年代の研究でも指摘され(磯村1954),また不登校との関連性につい ても,1987年の『学校基本調査』のデータを用いて東京都内市区別の公立中学 校における「学校ぎらい」出現率を分析した渡邉(1993)が,片親世帯比率や 離婚率が高く高校進学率の低い地域で,出現率が高いという分析結果を得てい る.注視すべきなのは,1991年からの10年間の不登校急増期に,不登校発生率

と地域の階層特性の関連が強まった点なのである.

 それでは,1991年から2㎜年にかけての10年間に,不登校が急増したブルー カラー地域で何が起こったというのか.バブル経済の崩壊した1990年代は「失 われた10年」と呼ばれ,グローバリゼーションや情報産業化といった世界的な 経済構造の転換のあおりをうけ,中小企業の倒産や,リストラ,非典型雇用の 増大など社会問題が噴出していった時期である(東京大学社会科学研究所 2005).特に,零細な自営層が集積していた東京都内のブルーカラー地域で

は,グローバリゼーションの波の中で製造業部門の海外移転が進んだこと,さ

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らに金融危機による銀行の貸し渋りも重なり,小規模な製造業の経営破たんが 急増した.その中で,学校を取り巻くコミュニティの状況が様々な側面で悪化

していったことは,想像に難くない.その一方で,90年代から2000年にかけて は,都心地域の地価の下落からホワイトカラーの家族形成層が郊外から再開発 された都心に移り住み,都心回帰あるいは再都市化の進行した時期でもある

(松本編2004).つまり,90年代は東京都内の学校あるいは子どもたちを取り 巻く社会的環境に大きな格差が生じた時期であり,その中で不登校発生率の地 域間格差も広がっていったのである.

 それでは,ブルーカラー層が多く居住している地域で,なぜ中学生の不登校 が急増したのであろうか.不登校が増加した経緯については,いくつか可能性 が考えられる.例えば,失業率の上昇や生活保護世帯の増加など家計状況の悪 化が著しくなったことから,家庭あるいは地域の「教育力」が低下したため

に,学校内の秩序が悪化し,学校が「荒れ」たことから,いじめや無気力によ る不登校が増えた可能性も考えられうるだろう.そうであるならば,文部科学 省初等中等教育局長(2005)が主張する, 「いじめや暴力行為を許さない学級 づくり,問題行動への毅然とした対応」による「安心して通うことができる学 校の実現」といった方針も,実現可能性はともかくとして,ある程度の有効性

は期待できるのかもしれない.

 しかし,子どもたちの「こころ」に働きかけ,「魅力あるよりよい学校づく り」を推進すれば,あるいは学校空間以外にでも,子どもたちの「居場所」と なるような教育の場を用意すれば,中学生の不登校が大幅に減少するかは,は なはだ疑問である.なぜなら,経済的事由により大学進学に消極的にならざる をえない生徒にとって,「魅力」うんぬん以前に,学校に通い続ける「経済合 理的」な誘因が,大幅に低下してしまったと考えられるからである.苅谷

(2004)は,1979年時点と1999年時点で比較から高校生の学習時間の階層差が

拡大したという調査結果を根拠に,社会階層・低グループの生徒の学習意欲の

低下傾向を「意欲格差(インセンティブ・ディバイド)」という用語を用いて

警告しているが,90年からの失われた10年の間に,「学習意欲」の低下のみな

らず,「通学意欲」自体の低下すらも生じてしまった可能性が考えられるの

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だ,「意欲格差」のさらに深刻なものとして,学校世界からの撤退としての

「不登校」が,ブルーカラー地域で増えたのではないだろうか.そう考えられ る根拠としては,中卒,高卒の若者たちのおかれる労働環境が非常に厳しいも のになった点が挙げられる.90年代は,若年労働市場の悪化が著しく,若年失 業率が大幅に上昇し,特に高卒後の正規社員への就労の道が閉ざされていった 時期である.玄田(2001)が,2000年の総務省統計局「労働力調査特別調査」

を用いた集計から「在学中の失業者を除く学卒失業者のおよそ半数は,高校卒 の失業者」であり, 「それに続いて多いのは中学卒の失業者で全体の二十三 パーセント」 (玄田2001:26)というショッキングな事実を明らかにしてい る.また,進路多様校(進学校でない学校)である複数の高校を対象にした調 査でも,90年代の日本型雇用システムの崩壊による非典型雇用の増加のなか

で,教師が毎年おおよそ決まった人数の生徒を,勤勉な生徒であることを保証 し,中小企業へと就職口を世話するという,それまで存在していた「学校と企 業との間に慣行的に形成された「実績関係」」 (苅谷他2001:128)が崩れたた めに,よりよい「就職」というかたちで担保されていた,学校や勉強への「最 低限の」コミットメントが失われていったことが示されている(苅谷他 2001).家庭環境あるいは地域環境によって高等教育進学を水路づけられてい

ない子どもにとって,中学あるいは高校卒業後に安定的な労働の場が用意され ているわけではないとしたら,学校に通うのを放棄するというのも合理的な選 択であるといえるのではないだろうか.それは,社会の価値観の多様化という 文脈での,「私事化」による学校へ通うことの自明性の低下とは,全く異質な

ものである.

 ただし,『学校基本調査』によるマクロデータを用いた分析では地域環境と 不登校発生の因果関係の特定ができない,なぜなら,「必ずしも,個人相関と 生態学的相関が一致するとは限らない」 (W.S.Robinson 1950:354)というeco−

logical fallacy(生態学的誤謬)の問題があるからだ.地域別のマクロデータを 用いて算出する生態学的相関は,同地域に居住し同じカテゴリーに分類された 個人の間の分散を無視するために、個人データを用いて算出する個人相関より

も,大きな値を示す傾向があり,場合によっては,個人相関が非常に小さいに

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もかかわらず,生態学的相関係数は大きくなることもありうる.したがって,

ブルーカラー比率が高い地域の中学校で不登校発生率が高いからといって,ブ ルーカラー家庭の子どもの不登校が多いとは必ずしも限らないのである。

 不登校が急増した地域で実際に何が起こっているのかは,さらなる社会調査 を行わないと明らかにされない.しかし,本節の分析結果からもたらされたイ ンプリケーションに基づくと,「心の居場所」づくりが中心の,現在の文部科 学省による不登校対策だけでなく,教育行政の枠にとらわれないかたちで,若 者の経済的基盤を安定化させるための方策を,少なくとも検討だけでも行うべ きではないだろうか.いずれにしろ,社会構造的要因,特に階層的要因を考慮 した不登校に関する社会調査が急務であるといえる3).

4.社会的排除としての不登校一行政による不登校問題の対応の   課題

 それでは,前節の分析結果を踏まえた上で,現行の教育行政による不登校対 策の有効性について再検討したい.現在,文部科学省によって推進されている 不登校に係る様々な取り組みは,平成14年に召集された「不登校問題に関する 調査研究協力者会議」がまとめ,平成15年に発表された『今後の不登校への対 応の在り方について(報告)』が基になっているが4},実はこの会議でも,心 理対応の限界性が複数回取りざたされている.特に,学校長など現場で問題解 決にあたっている関係者を呼んだヒアリングでは,非行型の不登校の増加,深 刻化が指摘されていた.しかし,会議の委員たちは,「心の問題」としての不 登校という枠組みに固執するあまり,心理的対応の充実という基本方針に変更 がなされなかった5).平成4年の「誰にでも起こりうる不登校答申」と同様の問 題意識をひきずったまま,フリースクールやカウンセラーの常備といった相談 体制による対応の強化など,90年代以降も子どもの居場所の確保を目標に「受 け皿」の多様化が進められてきたのである. 「将来の社会的自立に向けた支 援」という新しいキーワードについても,実際の施策をみてみると,進路の多 様化といってもその推進されている方策は,ほとんど教育機関のみが想定され

ている.

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 しかし, 「不登校」は,教育問題の枠組みに収まる問題ではない.不登校児 童・生徒を対象とした唯一の大規模な計量調査である『不登校に関する実態調 査一一平成5年度不登校生徒追跡調査報告書』によると,平成5年の中学3年生 時に不登校であった20歳の若者1265人の内,約4分の1が就学も就業もしていな い状況であり,すなわちニートとなっていた。なお,大学・短大在学率は8.7%

と,調査を行った平成ll年度の大学・短大進学率全国平均49.8%とは比較する べくもない。また,現在就業しているという回答者が最も多く約6割を占めて いたが,フルタイムでの就労は全体の25%に留まっており,パートでの就労が 28.7%と,不安定就労を継続している若者も多かった(現代教育委員会

2001).

 このような問題状況の解決のためには,「社会的排除」という視点から事態 を捉えなおす必要があるのではないだろうか.「社会的排除」とは,経済的側 面のみに着目する「貧困」概念に対して,社会的参加と政治的参加の欠如も含 めた概念であり,資本のグローバル化とそれにともなう労働市場の再編のなか で, 「不安定な仕事と長期失業,家族や家族外の社会的ネットワークの弱体 化,そして社会的地位の喪失といった多次元の諸問題に苦しんでいる人びと」

(バラ・フレデリック1999=2005:4)の状態を示している.EU諸国では,ポ スト福祉国家の下で,移民や高齢の労働者に加えて,若者の失業の増大が社会 問題となっているが,日本においても90年代に若者の労働問題が深刻化した点 は先述したとおりである.

 そして,相対的に低階層な地域で90年代に急増した中学生の不登校は,大変 深刻な若者の「社会的排除」という事態を招いているのではないだろうか.そ

もそも,不登校という状況自体,複数の意味で「社会的排除」という概念に適 合する.第一に,「不登校」の児童・生徒は,そうでない子どもと比べると,

特別な援助が行き届いているケースを除けば,家族以外の(場合によっては家 族も含め),社会的ネットワークから切り離された状態にあると考えられる.

単にクラスメイトなどの友人関係が希薄になるというだけではなく,学校を

きっかけに拡がっていく人間関係を欠くということは,進路形成していく上で

のリファレンス・グループを得にくくなることを意味する.また,学業上も不

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利な環境にある点も進路形成に影響を及ぼし,将来的に「社会的地位の喪失」

を招く傾向があるのは, 「平成5年度不登校生徒追跡調査」の結果をみても明 らかであろう.適応指導教室などが整備されてきたとはいえ,自己学習を継続 的に行うには,本人の強い意志力に加え,家族やその他の大人たちによる手厚 いサポートが必要である.

 しかし,分析から示唆されたように,家族あるいは居住地域の階層的特性が 低い生徒の間で不登校が増加しているとしたら,そのような私的なサポートを 期待するのは難しいであろう.そもそも,「学校に通いつづけること」自体の 合理的価値が低下していることを肌で感じている地域の子どもたちに,勉強す ることの「意義」を説得できる大人がどれだけいるだろうか.しかし,「不登 校」をきっかけに,社会に参加する「意欲」が失われたまま,社会の周辺に追

いやられてしまえば,その期間が長引けば長引くほど,復帰が困難になるので ある.また, 「不登校」に端を発する「社会的排除」の深刻化は,低階層な家 庭の子どもたちだけに生じるものではない.日本において,欧米諸国ほど若者

の貧困が表面化しないのは, 「ひきこもり」問題に顕著なように,定位家族が 青年期を過ぎた「子ども」に対しても,同居も含め手厚い経済的・社会的援助

を続ける文化があるためであると考えられる.しかし,学齢期を終えた「子ど も」の無業状態が続けば,貧困家庭ではなくても,両親の高齢化とともに経済 的に持ちこたえられなくなってしまう家庭が増加することも予想される。

 「将来の社会的自立に向けた支援」を真剣に取り組むためには,学校に来な い「子ども」に,学齢期の間だけ,学校代わりの「居場所」を提供するだけで は,足りないだろう.10年後,20年後の「見通し」がある程度保障されて,は

じめて社会の中に居場所が確保されたといえるのである.90年代以降の「不登

校」の急増の中で, 「不登校」の何が問題なのかを改めて問い直す必要に迫ら

れている.「教育」問題という枠組みを超えて,「不登校」という「社会的排

除」の入り口に立たされてしまった子どもたち,あるいは元子どもたちを,積

極的に社会に包含する方策が,いま求められている.

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松本康編 2004『東京で暮らす一都市社会構造と社会意識』東京都立大学出版会.

宮台真司 1994『制服少女達の選択』講談社.

森田洋司 1991『「不登校」現象の社会学』学文社.

文部科学省初等中等教育局長 2005「不登校への対応の在り方について(通知)」文部     科学省.

文部省初等中等教育局長 1992「登校拒否問題への対応について(通知)」文部省.

(14)

W,S.Robinson,1950, Ecological Correlations and the Behavior of lndividuals American So−

    ciological Revievv,15(3):351−357

竹川郁雄 1993『いじめと不登校の社会学一集団状況と同一化意識』法律文化社.

渡邊亜矢子 1993「東京都公立中学校における「学校ぎらい」出現率の地域差一理由     別長期欠席者調査および社会指標からの検討」 『東京大学教育学部心理教育相     談室紀要』15:77−91.

1) 『学校基本調査』による「理由別長期欠席者数」の集計は,幾度か変更が加えられ  ている.統計が始まった1966年から1990年までは,年間50日以上の欠席者を「長期欠  席者」として集計し, 「病気」 「経済的理由」 「学校ぎらい」 「その他」と分類して  いたが,1991年以降は,年間30日以上の欠席者へと「長期欠席者」の定義が変更され  た.また,1998年には,「学校ぎらい」から「不登校」へと用語が変更された.

2)その他の社会学的研究では, 「不登校」の要因として、学校の指導体制の変化や  (「一斉的・一括的指導のテクノロジーから個別指導のテクノロジーへ」 (樋田  2001), 「教育の心理学化」 (石川2001), 「不可視空間,離脱空間の減少」 (森田  1991)),教室内の仲間集団の変化(「特定の仲間集団への閉塞と,他のクラスメー  トへの無関心」 (苅谷他2000), 「島宇宙」化(宮台1994))の影響も指摘されて

 いる.

3)次節で言及する現代教育研究会(代表:森田洋司)による『平成5年度不登校生徒追  跡実態調査』は,不登校生徒を対象とした唯一といってよいランダムサンプリングに  よる大量追跡調査であるが,残念ながら,本稿で検討した社会構造的要因を実証する  ための家族の階層的背景などの質問項目は含まれていない.

4) この会議は, 「文部科学省初等中等教育局長の諮問機i関として,平成14年9月に発足  し,不登校児童生徒の学校復帰及び自立を支援するという観点から,①不登校問題の

実態の分析,②学校における取組の在り方,③学校と関係機関との連携の在り方,④  その他不登校問題に関連する事項について調査研究を行うという役割を与えられ  た.」 (不登校問題に関する調査研究協力者会議2003)

5)例えば, 「不登校問題に関する研究協力者会議(第3回)議事録」を見ると,先進的  な不登校対策を行っているということでヒアリング対象者となった岡山県の小学校長  と鳥取県の中学校長が,小学生の喫煙がみられるなど,深刻であった怠学・問題行動  による不登校を,地域全体での取り組みによって克服した事例について語っている が,その後の委員の質問は,やはり「心の問題」に起因する「不登校」のためのカウ  ンセリング体制づくりに集中してしまい,その後の会議でも幾度か怠学による不登校

の話題が出たものの,最終的にまとめられた報告書ではほとんど言及されなかった.

(http:〃www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/022/gijiroku/O21201.htm,2008.1.4)

参照

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