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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

新規医療用麻薬製剤の日本人健康成人における臨床 薬物動態評価及び医療用麻薬の個別化医療実現のた めの新規バイオマーカーの探索

東山, 馨

https://doi.org/10.15017/1932004

出版情報:九州大学, 2017, 博士(臨床薬学), 論文博士 バージョン:

権利関係:

(2)

(様式8-2)

新規医療用麻薬製剤の日本人健康成人における臨床薬物動態評価及び 医療用麻薬の個別化医療実現のための新規バイオマーカーの探索

東山 馨

【目的】

強オピオイド鎮痛薬はがん疼痛に最も有効な治療手段であり、効果的に疼痛コントロールを行 うことが可能である。オピオイドによる薬物療法では、疼痛パターン(持続痛及び突出痛)に応 じた製剤(徐放性製剤、即放性製剤及び注射剤)が必要であり、またオピオイドスイッチング(オ ピオイドの副作用により必要量を投与できない場合に、他のオピオイドに変更することで副作用 が改善すること)に対処するため、臨床使用可能なオピオイドの種類及びその製剤の充実が治療 戦略設計のために重要である。

オピオイドは疼痛治療に有効な薬剤であるが、その有効性及び副作用には大きな個人差が存在 する。しかし、現在までにオピオイドによる疼痛治療を要する患者の層別化のための客観的な指 標はなく、どういった背景の患者に、どのオピオイドを選択し、どのような用量用法を設定すべ きか等の明確な方策はなく、安全かつ効果的な個別化治療を可能とするための実用的なバイオマ ーカーの確立が望まれる。

microRNA(miRNA)は、22 塩基程度の長さの 1 本鎖 RNA であり、遺伝子の発現調整に関与 し、様々な生命現象に重要な役割を担っている。miRNAは、血液中で極めて安定であり、採血に

より miRNA サンプルとした場合でも、pH 変動や長期保存等の過酷な条件下でも分解せず安定

であることから、機能的な重要性のみならず、バイオマーカーとしての有用性が注目されている。

そこでまず、国内で使用可能なオピオイドの選択肢を増やし、かつ同一有効成分を有する多様 な製剤を揃えるために新規開発された医療用麻薬製剤の薬物動態特性について、健康成人被験者 を対象とし、被験者の安全性を最優先に、かつ規制要件を満たす臨床試験を計画し、臨床評価を 行った。新有効成分の医療用麻薬製剤として即放錠及び徐放錠を検討したヒドロモルフォンは、

海外ではがん疼痛治療の標準薬として広く使用されているものの、国内では未承認であった。ま たオピオイドスイッチングの一角を担うオキシコドンについて、服薬利便性の高い即放錠(国内 未上市)を含む2剤形(即放錠及び徐放錠)を検討した。さらに、これらの臨床試験で血中miRNA 変動を評価し、医療用麻薬の使用対象となるがん疼痛患者の適切な選択、オピオイドの有効性、

安全性評価、及び至適用法用量設定等、オピオイドの個別化医療をサポートするための客観的か つ定量的なバイオマーカーとしての血中miRNAの活用可能性を検討した。

【方法】

1. 新規医療用麻薬製剤の臨床薬物動態評価 1) ヒドロモルフォン臨床薬物動態試験

(3)

日本人健康成人男性(各投与群6名)を対象とし、ヒドロモルフォン即放錠(1 mg、2 mg、 4 mg)又は徐放錠(2 mg、6 mg)を単回経口投与し、安全性及び薬物動態(血漿中及び尿中)

を評価した。また、2-wayクロスオーバー法で食事の影響(空腹時及び食後投与)を検討した。

2) オキシコドン臨床薬物動態試験(生物学的同等性の検討)

日本人健康成人男性(各投与条件24名)を対象とし、2群2期クロスオーバー法にて、オキ シコドン即放錠と先発医薬品の速放性製剤(散剤)を空腹時に単回経口投与した。また、同様 にオキシコドン徐放錠と先発医薬品の徐放性製剤(錠剤)を空腹時又は食後に単回経口投与し た。評価項目は、安全性及び薬物動態(血漿中)とし、生物学的同等性の検討は、ガイドライ ンに準じ、最高血漿中濃度(Cmax)及び血漿中濃度-時間曲線下面積(AUC)を評価した。

いずれの臨床薬物動態試験についても、国内外の関連情報を精査し、被験者の安全性を担保 し、かつ製剤の薬物動態が評価可能な設定した。試料中の薬物濃度は液体クロマトグラフィー

-タンデムマススペクトロメトリー(LC-MS/MS)にて測定し、薬物動態パラメータは、モデ ル非依存的に算出した。さらに、同意が得られた被験者からバイオマーカー探索のための血液 採取を行った。

2. 医療用麻薬の新規バイオマーカーとしての血中miRNAの探索

日本人健康成人を対象とした上記の臨床薬物動態試験のうち、ヒドロモルフォン徐放錠 6 mg 投与群(6名)、及びオキシコドン製剤10 mg投与群(23名)から、オピオイド投与前及び投与 24時間後に血液を採取し、RNAを調製した。miRNAの定量PCR解析は、179種類のmiRNA 検出プライマーを搭載した定量PCRパネルを用いて行った。

【結果】

ヒドロモルフォン即放錠及び徐放錠の臨床薬物動態試験では、空腹時投与における血漿中ヒド ロモルフォン濃度、Cmax、AUCは概ね投与量の増加に伴い上昇した。未変化体の尿中排泄率は いずれの製剤も投与量の約 3%であった。主な代謝物であるグルクロン酸抱合代謝物の曝露も投 与量の増加に伴い上昇し、その尿中排泄率は投与量の約 30%であった。即放錠と徐放錠の AUC は、同一投与量の場合ほぼ同様であった。一方、徐放錠では即放錠よりもCmaxの低下及びTmax の遅延が認められ、徐放特性が確認された。食後投与では、いずれの製剤も空腹時投与と比較し てその曝露は 1.3~1.6倍上昇した。用いた投与量の範囲で安全性に問題はなく、忍容であった。

オキシコドン即放錠及び徐放錠の臨床薬物動態試験(生物学的同等性試験の検討)では、Cmax 及びAUC について、即放錠及び徐放錠の先発医薬品に対する幾何平均値の比の両側90%信頼区 間は、いずれの投与条件でもそれぞれ0.80~1.25の範囲にあり、生物学的同等性の基準を満たし た。安全性に問題はなかった。

血中miRNAの探索では、ヒドロモルフォン投与により26種のmiRNAの血中レベルが増加、

(4)

19種のmiRNAの血中レベルが低下し、オキシコドン投与により13種のmiRNAの血中レベル

が増加、14種のmiRNAの血中レベルが低下した。ヒドロモルフォン及びオキシコドンの投与に

共通して、9種のmiRNAの血中レベルが増加し、17種のmiRNAの血中レベルが低下した。こ のうち、µ-オピオイド受容体の機能調節に関与すると考えられるmiRNA として、ヒドロモルフ ォン投与により 6 種の miRNA(let-7f-5p、let-7d-5p、let-7c、let-7e-5p、miR-181a-5p、miR- 103a-3p)、オキシコドン投与により1種のmiRNA(miR-339-3p)の血中レベルが増加した。

【考察】

新規に開発された医療用麻薬ヒドロモルフォン即放錠及び徐放錠について、国内で初めて、新 有効成分の医療用麻薬の健康成人対象臨床試験を実施し、日本人健康成人における安全性及び新 規製剤のヒト体内動態特性を明らかにした。これにより、従来海外での実施を検討していた新規 医療用麻薬の日本人健康成人対象試験を、被験者の安全性を最優先に計画することで、国内にお いてもその実施が可能であることを実証し、今後の新規医療用麻薬の国内臨床開発基盤を構築し た。ヒドロモルフォン即放錠及び徐放錠は、それぞれの使用目的に適った体内動態特性を有する ことが確認され、がん疼痛コントロールの治療戦略をより充実させる新規医療用麻薬製剤として、

臨床使用可能なオピオイドの選択肢が充実した。また、食事がヒドロモルフォン製剤の体内動態 に及ぼす影響が明確となった。食後投与によりヒドロモルフォンの体内曝露は上昇するものの、

その程度は軽微であり、ヒドロモルフォン即放錠及び徐放錠の服薬に食事制限は必要ないことが 示唆され、用法用量設計の基となる情報が得られた。

国内で新規に開発されたオキシコドン即放錠及び徐放錠のヒト体内動態が、日本人健康成人男 性被験者を対象として検討され、即放錠及び徐放錠ともに先発医薬品との生物学的同等性が検証 された。これにより、新たなオキシコドン即放性製剤として服薬利便性の高い錠剤が提供可能と なり、がん疼痛コントロールに使用可能な製剤の選択肢が充実するとともに、患者の経済負担及 び医療費圧迫の軽減に寄与するものと考えられた。

さらに、上記の臨床試験で採取された血液検体を用いてオピオイド投与により変動する循環血

中 miRNA を探索したところ、ヒドロモルフォン及びオキシコドンの投与 24 時間後に共通して、

9種のmiRNAの血中レベルが増加し、17種のmiRNAの血中レベルが低下した。増加したmiRNA には、オピオイド刺激との関連性がin vitro試験等で報告されているlet-7a-5p、miR-146-5p、miR-

23b-3p等も含まれ(下表)、これらのmiRNAは、オピオイドによる受容体刺激に対する負のフィ

ードバック制御を反映していることが示唆された(下図)。今後、更なる検討が必要ではあるもの の、このようなオピオイド刺激による miRNA 変動に関する臨床検討はこれまでに報告がなく、

本研究は医療用麻薬に関連する新規バイオマーカーの発展に貢献するものと考えられ、医療用麻 薬の使用対象となるがん疼痛患者の適切な選択、オピオイドの有効性、安全性、及び至適用法用 量設定等、オピオイドの個別化医療をサポートする診断ツールの開発等、医療用麻薬の適正使用 への活用が期待される。

(5)

表 血中レベルが増加したmiRNA及びµ-オピオイド受容体機能調節への関与に関する報告 投与薬剤 miRNA µ-オピオイド受容体機能調節への関与

ヒドロモルフォン 及びオキシコドン

共通

let7a-5p OPRM1遺伝子への結合によるµ-オピオイド受容体機能調節に関与。

オピオイド耐性に関係。

miR-146-5p ヒト単球由来マクロファージでモルヒネ処置により増加。

疼痛シグナル伝達に関与。

miR-23b-3p モルヒネによって発現誘導され、µ-オピオイド受容体シグナル伝達の

調節に関与。

ヒドロモルフォン

let-7 ファミリー

let-7f-5plet-7d-5p let-7clet-7e-5p)

OPRM1遺伝子への結合によるµ-オピオイド受容体機能調節に関与。

オピオイド耐性に関係。

miR-181a-5p マウス海馬細胞でモルヒネ処置により増加。神経発生や薬物中毒と

関連。

miR-103a-3p モルヒネ曝露によりBe(2)C細胞株及びマウス線条体において発現レ

ベルが増加、µ-オピオイド受容体機能の抑制に関与 オキシコドン miR-339-3p µ-オピオイド受容体シグナル伝達と機能的に関連。

µ-オピオイド受容体機能を抑制。

OPRM1: opioid receptor mu 1

図 ヒドロモルフォン及びオキシコドン投与により変動するmiRNAのまとめ

【発表論文】

1) Toyama K, Uchida N, Ishizuka H, Sambe T, Kobayashi S. Single-dose evaluation of safety, tolerability and pharmacokinetics of newly formulated hydromorphone

immediate-release and hydrophilic matrix extended-release tablets in healthy Japanese subjects without co-administration of an opioid antagonist. J Clin Pharmacol

2015;55(9):975-84.

2) Toyama K, Furuie H, Kuroda K, Ishizuka H. Pharmacokinetic Bioequivalence Studies of an Extended-Release Oxycodone Hydrochloride Tablet in Healthy Japanese Subjects Under Fasting and Fed Conditions Without an Opioid Antagonist. Drugs in R&D 2017;17(3):363-370.

3) Toyama K, Kiyosawa N, Watanabe K, Ishizuka H. Identification of circulating miRNAs differentially regulated by opioid treatment. Int J Mol Sci 2017;18(9):1991.

表  血中レベルが増加した miRNA 及びµ-オピオイド受容体機能調節への関与に関する報告  投与薬剤  miRNA  µ-オピオイド受容体機能調節への関与  ヒドロモルフォン 及びオキシコドン 共通 let7a-5p  OPRM1 遺伝子への結合による µ-オピオイド受容体機能調節に関与。 オピオイド耐性に関係。 miR-146-5p ヒト単球由来マクロファージでモルヒネ処置により増加。疼痛シグナル伝達に関与。 miR-23b-3p  モルヒネによって発現誘導され、 µ-オピオイド受容体シグナル伝達の

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