九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
T-box転写因子Brachyuryノックダウンによる新しい 治療概念の確立 : 腺様囊胞癌における癌幹細胞を標 的とした治療法の開発に向けて
小林, 洋輔
九州大学大学院歯学府
https://doi.org/10.15017/21986
出版情報:Kyushu University, 2011, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
T-box 転写因子 Brachyury ノックダウン による新しい治療概念の確立
―腺様囊胞癌における癌幹細胞を標的とした 治療法の開発に向けて―
九州大学大学院歯学府
口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野
小林 洋輔
指導教員
九州大学大学院歯学府
口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野
森 悦秀 教授
本研究の内容は下記の学術雑誌に投稿中である。
T-box transcription factor Brachyury knockdown increases chemo and radiosensitivity of adenoid cystic carcinoma cells in vitro:
implications for a new therapeutic concept
Yosuke Kobayashi, Tsuyoshi Sugiura, Ikumi Imajyo, Miyuki Shimoda,
Kotaro Ishii, Naonari Akimoto, Naoya Yoshihama, and Yoshihide Mori
The BioMed Central Editorial
略語表
ABC : ATP-binding cassette (ATP結合カセット) AdCC : Adenoid cystic carcinoma (腺様嚢胞癌) CRT : chemo radiation (化学療法・放射線療法)
DMEM : Dulbecco’s modified Eagle’s medium (ダルベッコ変法イーグル培地) EMT : epithelial-mesenchymal transition (上皮間葉移行)
FBS : fetal bovine serum (ウシ胎児血清)
GFP : green fluorescent protein (緑色蛍光蛋白質) mRNA : messenger RNA (メッセンジャーRNA)
MTT : methyl thiazolyl tetrazorium (メチルテトラゾリウム塩) PBS : phosphate-buffered saline (リン酸緩衝食塩水)
PCR : polymerase chain reaction (ポリメラーゼ連鎖反応) sh RNA : short hairpin RNA (低分子ヘアピン型RNA) SLC : solute carrier (溶質輸送)
SOX2 : Sex-determining region Y-box 2 (Y染色体性決定領域遺伝子)
目次
要旨 1
緒言 4
研究材料と方法 8 結果、図表
その1 in vitroにおけるBrachyuryノックダウンの腫瘍遊走能、浸潤能 に与える効果 17 その2 in vitroにおけるBrachyuryノックダウンの抗癌剤および放射線 耐性に与える効果 24 その3 in vivoにおけるBrachyuryノックダウンの造腫瘍性・転移能
に与える効果 36
考察 40
総括 46
謝辞 47
引用文献 48
1
要旨
腺様嚢胞癌は、著明な浸潤増殖や肺などへの転移を特徴とする悪性度の高い 腫瘍である。さらに、抗癌剤や放射線に耐性を示すことが知られており、外科 的療法以外に標準的な治療法がなく、その治療は困難を極める。近年、様々な 癌腫において治療耐性の原因として癌幹細胞の存在が指摘されており、腺様嚢 胞癌に対しても癌幹細胞を標的とした治療法の確立が必須である。当分野では 培養ヒト腺様嚢胞癌細胞株 ACCS に緑色蛍光タンパク質 (GFP) 遺伝子を導入
したACCS GFPより高転移性で癌幹細胞形質を示すACCS-M GFPを分離した。
さらに、ACCS-M GFPの癌幹細胞形質の制御に T-box転写因子Brachyuryお よび SOX2 が関与しており、特に Brachyury は SOX2 の発現も制御する癌幹 細胞の制御因子であることを明らかにしている。しかし、抗癌剤や放射線耐性 に対する癌幹細胞の関与は不明な点が多いばかりか、癌幹細胞を標的とした遺 伝子治療の可能性については、ほとんど検討されていない。
そこで、本研究では癌幹細胞ACCS-M GFPを用い、Brachyury のノックダ ウンにより① 癌幹細胞の遊走能、浸潤能に対する効果 ② 抗癌剤、放射線感受 性に対する効果 ③ 造腫瘍性および転移能の抑制効果について検討した。
1. in vitroにおけるBrachyury ノックダウンの腫瘍の浸潤に与える効果 ACCS-M GFPはin vitro (原発巣離脱モデル、Wound healing assay) におい て、ACCS GFPと比較して著明な浸潤能の亢進を認めた。ACCS-M GFPにお
2
いて、BrachyuryあるいはSOX2をshort hairpin RNA (sh RNA) を用いてノ ックダウンすると (それぞれACCS-M sh Br. GFP、ACCS-M sh SOX2 GFP)、
ACCS-M sh Br. GFPはACCS GFPと同程度まで浸潤能が抑制された。
2. in vitroにおけるBrachyuryノックダウンが抗癌剤および放射線耐性に与え る効果
ACCS-M GFPはACCS GFPよりも抗癌剤に強い耐性をもつことが、生細胞
率に基づいた抗癌剤感受性試験により確認された。ACCS-M sh Br. GFP では ACCS GFPと同程度まで抗癌剤耐性が減弱した。また、ACCS-M GFPはACCS GFP と比較して放射線にも強い耐性を示すことが、生細胞率に基づいた放射線 感受性試験により確認されたが、ACCS-M sh Br. GFP、ACCS-M sh SOX2 GFP
ではACCS GFP程度まで放射線に対する耐性が減弱した。さらに、抗癌剤と放
射線の同時併用を行うと、単独使用と比較してACCS-M sh Br. GFPにおいて、
特に抗癌剤耐性の減弱を認めた。ABC, SLC トランスポーター遺伝子の発現は ACCS-M GFPで発現亢進しており、ACCS-M sh Br. GFP、ACCS-M sh SOX2 GFPにおいて発現が減弱した。
3. in vivoにおけるBrachyuryノックダウンの造腫瘍性、転移能に与える効果 ヌードマウスを用いた造腫瘍性・転移能実験において ACCS-M GFP と比較 してACCS-M Br. sh GFPでは、造腫瘍性50%、転移能0% に減弱しており、
ACCS-M sh SOX2 GFPでもACCS-M GFP のそれぞれ造腫瘍性87.5%、転移 能87.5% に減弱した。
以上の結果から、Brachyury をノックダウンする事により、①癌幹細胞の浸
3
潤抑制、②抗癌剤および放射線に対する耐性減弱、③造腫瘍性・転移能の抑制 が可能であることが示唆され、癌幹細胞を標的とした遺伝子治療の有用な標的 分子となり得ること考えられた。
4
緒言
腺様嚢胞癌 (AdCC) は唾液腺に発生する悪性腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍 の1つであり、発育増殖は緩慢であるが、神経、血管への著明な局所浸潤およ び遠隔転移という特徴的な悪性形質を示す。本腫瘍の再発率、遠隔転移の発生
率は非常に高く、罹患した患者の40~60%に肺、骨、軟組織への転移が認められ る [1, 2]。さらに AdCCは、化学療法や放射線療法に対する強い耐性が知られ ており、外科的切除が唯一の標準的治療である。従って、本腫瘍の局所浸潤お よび転移能の制御が治療成績向上に必須である。
当分野ではこれまでに、ヒト口腔腺様嚢胞癌細胞株 ACCS [3] に緑色蛍光タ ンパク質 (GFP) 発現ベクターを導入することによって得たACCS GFPを樹立
するとともに、ヌードマウスの舌に接種し、腫瘍形成後再びin vitroに分離する in vivo selection を繰り返すことにより ACCS-T GFP (高造腫瘍性細胞株)、
ACCS-M GFP (高造腫瘍性高転移性細胞株) という、計3種の腺様嚢胞癌細胞 株を樹立した [4]。
ACCS-M GFPは、ACCS-GFP と比較するとE-cadherinとintegrin の発現 抑制、およびvimentinの発現亢進を特徴とする上皮間葉移行 (EMT) を起こし ており、それが AdCC の原発巣からの腫瘍細胞離脱を引き起こしていると考え
5
られた [4]。
悪性腫瘍における EMT は、通常胚形成の早期で発現している遺伝子群、
Twist, Snail, Slug, GoosecoidおよびSIP1などにより制御されている [5, 6]。
これらは転写因子であり、上皮系細胞である腫瘍細胞を間葉系へ形質転換させ
遊走能や浸潤能を付与すると考えられる。たとえば Twist の発現は乳癌、前立 腺癌、胃癌、メラノーマなど様々な癌で上昇していることが知られている [7]。
T-box 転写因子であり、発生段階における中胚葉形成に必須の遺伝子である
Brachyury [8-10] も、ヒト癌細胞におけるEMTを引き起こすことが報告され ている [11]。これらの報告から、癌における EMT は極めて発生段階と類似し たメカニズムでコントロールされていると推察される。
胚発生とは別に、癌細胞の集団の中に自己複製能をもつ、幹細胞様の性質を 有している細胞が存在していることが報告され、癌幹細胞と命名されている。
癌幹細胞は癌細胞の細胞集団のなかでは極めて数尐ない細胞集団で、新しく腫 瘍を形成する能力を持つという点で“tumor initiating cells”[12] ともよばれ
ている。EMTによって誘導された転移過程において播種された癌細胞は、自己 複製能および造腫瘍性を備えて転移巣を形成し、正常組織における幹細胞が有 する性格と同一である [13]。このことは癌細胞播種を誘発する EMT の現象の 中に、自己複製能も包含されていることを示唆している。現実に近年、EMTと
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癌幹細胞の直接の関連を示唆する報告が急増している [11, 14, 15]。幹細胞と同
じく、癌幹細胞はOct4, Nanog, c-Myc, SOX2およびKlf4などの遺伝子群によ りコントロールされており、これらの遺伝子群は、EMT 関連遺伝子と酷似して いる [16, 17]。
癌幹細胞は、抗癌剤や放射線に耐性を示すことが知られている。臨床的に、
抗癌剤または放射線治療により完全奏功を示した症例でも、再発時には同様の 治療は効果がなくなり、不良な転帰をたどる。この原因として抗癌剤、放射線 に耐性を示す癌幹細胞が残存し、再発の源となっていることが考えられる[18, 19]。
当分野の下田らは、AdCC の亜系株で高転移性を示す ACCS-M GFP が癌幹
細胞性質で、かつEMTを示すことから、癌幹細胞およびEMTが直接関連して いることを証明した。さらに、T-box 転写因子で中胚葉分化マーカーである Brachyury [22, 23] が、癌幹細胞およびEMTを直接的に抑制している因子で ある可能性も示した。また、正常幹細胞の調節遺伝子であることが知られてい
るSOX2ノックダウンよりも、Brachyuryノックダウンが癌幹細胞性質および EMT を強く制御することを明らかにした(論文投稿中)。近年、大腸癌での癌幹
細胞とBrachyuryの関連性を示す新しい報告がなされており、これは我々の考
えを支持するものである [24]。
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以上の知見および結果から、Brachyury ノックダウンによって癌幹細胞を分化
誘導することが可能であり、EMTを同時に抑制できると考えられる。このこと
はBrachyuryノックダウンが腫瘍の造腫瘍性と転移能を抑制可能であることを
示唆している。さらに、癌幹細胞が抗癌剤や放射線に耐性であることから、
Brachyury ノックダウンにより癌幹細胞を分化誘導すると、抗癌剤や放射線に
対する耐性が克服され、治療成績の向上が期待される。近年、この様な癌幹細 胞を標的とした癌治療の新しい概念が提唱されつつある [20, 21]。
本研究では、癌幹細胞を標的とした新しい治療方法を確立するための基礎的 な検討として、Brachyuryノックダウンが、in vitroにおける抗癌剤や放射線耐
性およびin vivo における造腫瘍性および転移能に与える効果を検討した。
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研究材料と方法
1.試薬および抗体
標準阻害剤キットは文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究・がんの 特性を踏まえた総合支援活動・化学療法基盤支援活動班より提供を受けた。
Docetaxel, 5-Fluorouracil (5-FU), paclitaxel, cisplatin (CDDP), mitomycin C、
bestatin hydrochroride, bleomycin sulfateおよびetoposide は、Sigma Aldrich (St Louis, MO, USA)よりそれぞれ入手した。Actinomycin D (streptomyces SP) は、Calbiochem (Merck, Darmstadt, Germany) より入手した。
2.細胞培養
本研究では、当分野の杉浦・石井らによって樹立された、ヒト唾液腺腺様嚢 胞癌細胞株ACCS-GFP, ACCS-M GFP [4] を用いた。ACCS-GFPは、白砂ら によって樹立された腺様嚢胞癌細胞株ACCS [3] に緑色蛍光蛋白質 (GFP) を 遺伝子導入して得た細胞で、in vitroおよびin vivo において、その細胞形態は 親株ACCS と同等である。ACCS-GFP のヌードマウスにおける造腫瘍性は親 株ACCSと同様に低いが (腫瘍形成率22.2%)、GFPの発光によりACCS-GFP をヌードマウスの舌に接種した場合、その腫瘍形成及び転移巣が励起光下で高
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感度に検知可能となった。ACCS-M GFP はACCS-GFP をヌードマウスの舌 へ接種して腫瘍を形成させ、さらにin vitroへの細胞分離を繰り返す、いわゆ るin vivo selectionを行うことで樹立された細胞株である。ACCS GFPは腫瘍 形成率22.2%、頸部リンパ節への転移率0%であるのに対し、ACCS-M GFPは 腫瘍形成率100%、頸部リンパ節転移100%の細胞株である(表 1:文献[3]より 引用)。ACCS-M GFPが形成したマウス舌腫瘍の組織学的、免疫組織化学的性 質は腺様嚢胞癌と類似していた [4]。当分野の下田らは、ACCS-M GFPがスフ ェア形成能、幹細胞マーカー発現の亢進を認め、造腫瘍性を有することから癌 幹細胞であることを確認している。
実験に用いた各腫瘍細胞株は、 10%ウシ胎児血清 ( FBS;ICN Biomedicals Inc, Aurora, Ohio, USA)、2mM L-glutamine、penicilin Gおよびstreptomycin
を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM;Sigma-Aldrich) を増殖 培地として、37℃、5%CO2の条件下で培養を行った。
表1. ACCSより分離した細胞株の腫瘍および転移形成率 (文献[3]より引用)
腫瘍形成率 転移形成率
cell lines
腫瘍形成匹数 /接種匹数 (%)
顎下リンパ節転移数 /接種匹数 (%)
肺転移匹数 /接種匹数 (%)
ACCS 1/6 ( 16.7% ) N.D. N.D.
ACCS GFP 4/18 ( 22.2 % ) 0/4 ( 0% ) 0/4 ( 0% )
ACCS- M GFP 9/9 ( 100% ) 9/9 ( 100% ) 6/9(66.7%)
N.D.:検出できず
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3.遺伝子導入
BrachyuryおよびSOX2のノックダウンはshort hairpin RNA (shRNA) の 遺伝子導入により行った。ACCS-M GFP に Lipofectamin LTX 試薬 (Invitrogen
Life Technologies, Carlsbad, CA, USA) を用いて、shRNAレンチウィルスを組み 込んだプラスミド発現ベクター (pLKO.1-puro;Sigma-Aldrich) を遺伝子導入し
た。遺伝子導入した腫瘍細胞は増殖培地で 2µg/mL puromycin (Sigma-Aldrich) を加え、37℃、5%CO2の条件下で選択培養を行った。
ACCS-M GFPにpLKO.1-puro;Control Vector (Sigma-Aldrich) を遺伝子導入し てACCS-M sh cont. GFP (以後、M sh cont.) を樹立した。同様にACCS-M GFPに それぞれsh RNA (T. Brachyury) もしくはsh RNA (SOX2) (Sigma- Aldrich) を組 み込んだpLKO.1-puro Vectorを遺伝子導入し、ACCS-M sh Br. GFP (以後、M sh Br.) およびACCS-M sh SOX2 GFP (以後、M sh SOX2) を樹立した。
4. リアルタイムPCR法によるmRNA 発現の解析
各種のACCS細胞 (ACCS-GFP, ACCS-M GFP, M sh cont. , M sh Br.および M sh SOX2) からのRNA 抽出は、RNeasy Mini Kit (QIAGEN, Chatsworth, CA, USA) を使用した。リアルタイムPCRは、Light Cycler FastStart DNA Master SYBER Green 1 kit (Roche Diagnotics, Mannheim, Germany) を用い
11
てmRNA定量を行った。また、プライマー (RT2 Profiler PCR Array [96-well Format] Human Drug Transporters) はQIAGEN(Chatsworth, CA, USA) よ り入手した。
使用したBrachyuryおよびSOX2のプライマー配列は以下の通りである。
Brachyury (human) :
(F)5´-TGCTGCAATCCCATGACA-3´
(R)5´-CGTTGCTCACAGACCACA-3´
SOX2 (human) :
(F)5´-TGGGTTCGGTGGTCAAGT-3´
(R)5´-CTCTGGTAGTGCTGGGACA3´
反応条件は、熱変性は95℃で1サイクル10分間、2サイクル以降10秒間行 った。アニーリング/伸長反応は60℃で10秒間、72℃で10秒間とし、すべて 47サイクルの増幅を行った。BrachyuryおよびSOX2のリアルタイムPCRは LightCycler Software Version 3.5 (Roche Diagnotics, Mannheim, Germany)
を 、RT2 Profiler PCR Array に は Mx 3000P QPCR System (Agilent Technologies, Co, USA) を使用した。また、各細胞株でmRNA発現量を比較す るために、-actinのmRNA発現量と比較し、相対的発現量を算出した。
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5. Wound healing assay
6穴平型プレートに各種のACCS細胞を1穴あたり6×105 個の細胞を播種し、
増殖培地で培養した。培養24時間後、200µlピペットチップにてウェル内に直 線状に“傷”を付け、その傷によって形成されたスペースを創部面積とした。
観察は各腫瘍細胞を傷つけた直後から蛍光顕微鏡 (BZ-8000, Keyence, Osaka, Japan) を用いて開始し、8時間毎に24時間後まで行った。
創部面積は以下の計算式を用いて評価した。
創部面積 (%)=(観察した時点での創部面積 / 観察開始直後の創部面積)×100
6. 原発巣からの腫瘍細胞の離脱・浸潤能の評価
原発巣からの腫瘍細胞の離脱・浸潤能の評価は、当分野の阿部らが報告した 方法に準じた [24] 。各種のACCS細胞をそれぞれ 1×106 個を遠心分離にてペ レットとした後、10µlのⅠ型コラーゲンゲル (高研、東京) に懸濁し37℃、30 分で硬化させ、細胞凝集塊とした。固まった細胞凝集塊は、ヒト歯肉由来線維 芽細胞を1×105 個/mlの濃度で浮遊させたⅠ型コラーゲンゲルの中央に埋没し、
凝集塊ごとコラーゲンゲルを硬化させた。培養液をコラーゲンが浸るまで加え、
37℃、5%CO2の条件下で培養した。腫瘍の細胞凝集塊からの離脱の様子は蛍光
顕微鏡 (BZ-8000;Keyence, Osaka, Japan) で観察し、写真を撮影した。各腫
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瘍細胞の凝集塊からの離脱の評価は培養7日後の写真上で500 ×100µmの領域 をランダムに 5 視野選択し、凝集塊の辺縁からの離脱した全ての細胞の距離を 測定し、その総和を浸潤能として評価した。
7. MTT assay
細胞増殖率および生細胞率はMTT assay を用いて検討した。MTT assayキ ットCellTiter 96® AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay G4000は Promega (Madison, WI, USA) より入手した。
後 述(1), (2), (3) 各 々 の 条 件 で 実 験 を 行 っ た 後 、CellTiter96® AQueous
Non-Radioactive Cell Proliferation Assay Dye Solutionを1穴あたり15 µl 加 え、37℃、5%CO2の条件下で4時間培養した。4時間後、培養液を吸引し、次
に CellTiter96® AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay Solubilization Solution / Stop Mixを1wellあたり100µl 加えた。その後、マ イクロプレートリーダー (Biorad Model 680, Bio-Rad, USA) にて 590 nm (A590) の吸光度を測定した。測定はそれぞれの条件で 3 穴ずつ用意し、同一の 実験を3回行った。
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(1) 細胞増殖能活性の測定
各種のACCS 細胞を、それぞれ96 穴平型プレートに1 穴あたり、5×104個 /mlの細胞浮遊液100µlを播種し、増殖培地にて8時間培養後、当日を0日とし、
0 日から 1 日毎に 7 日までの各々細胞群の細胞増殖能を、第 1 日目の吸光度 (A590) を1として相対的に測定した。
(2) 抗癌剤感受性の評価
各種のACCS細胞を、それぞれ96穴平型プレートに1穴あたり1×105個/ml の細胞浮遊液100µlを播種し、増殖培地にて8時間培養後、PBSにて3回洗浄
し 、 無 血 清 培 地 と 交 換 し た 。 そ の 後 、 各 種 抗 癌 剤 (CDDP, 5-FU docetaxel, paclitaxel, actinomycin D, mitomycin C, bleomycin, bestatin, およ
び etoposide) を各々1穴あたり0, 0.001, 0.01, 0.1, 1, 10, 100, 1000 µM の濃度
で添加し、37℃、5%CO2 の条件下で24 時間培養した。その後、抗癌剤無添加 (0µM) の吸光度 (A590) を 100%として 24 時間後の各条件での吸光度 (A590) を生細胞率として測定した。
(3) 放射線照射感受性の評価
各種のACCS細胞を、それぞれ96穴平型プレートに1穴あたり1×105個/ml 細胞浮遊液 100µl を播種し、増殖培地で培養した。24 時間後、γ 線照射装置 (Ganmmacell40® Exactor;Best Theratronics Ottawa, Canada) を用いて、
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それぞれ0, 5, 10, 15, 30 Gyの線量で 各種のACCS細胞に照射した。その後、
37℃、5%CO2の条件下で48時間あるいは72時間培養した。放射線無照射 (0Gy) の吸光度 (A590) を 100%として 48 時間後および 72 時間後の各照射線量にお ける吸光度 (A590) を生細胞率として測定した。
8. マウス異種移植による造腫瘍性、転移能の検討
実験動物は8週齢のヌードマウス (BALB / cA Jcl-nu、九動 福岡) の雌を使 用した。飼料及び飲料水は自由摂取とし、飼育管理は可及的無菌状態にて行い、
固形飼料、飲料水、床敷及びゲージは全て滅菌したものを用いた。なお、実験 動物の取り扱いに関しては、九州大学大学院動物実験取り扱い規約を遵守した。
各種のACCS細胞をそれぞれ培養液中で細胞密度が2.5×107個 /mlになるよ うに調製し、この細胞浮遊液40μl (1.0×106個) を 27G 注射針付注射器 (トッ ププラスチックシリンジ、東京) を用い、セボフルラン麻酔下でヌードマウスの
舌に接種した。細胞接種後、腫瘍の体積が100 mm3 に達した時点でマウスを屠 殺し、舌、顎下リンパ節、肺を摘出した。なお、腫瘍体積は簡易的に腫瘍長径
×短径×厚みとした。摘出した組織をマルチアングル実体システム (VG-G25, KEYENCE, Osaka) にて470nmの励起光下で観察し、腫瘍の形成と転移の有 無を確認した。
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その1
in vitro における Brachyury ノックダウンが
腫瘍遊走能、浸潤能に与える効果
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結果
1.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが細胞増殖に与える影響
まず、shRNAレンチウィルスを組み込んだプラスミド発現ベクターの遺伝子
導入により、ACCS-M GFPに対するBrachyuryおよびSOX2ノックダウンを
行った。BrachyuryおよびSOX2のmRNA発現量をリアルタイムPCRにて定 量測定し、ノックダウン効率を確認した。Brachyury をノックダウンした細胞 株 (M sh Br.) では、Brachyuryは ACCS GFPの約1/4以下まで発現が抑制さ
れ、SOX2ノックダウンをノックダウンした細胞株 (M sh SOX2) では、ACCS GFPの約1/2まで発現が抑制されていた (図1)。
次に、各種のACCS細胞それぞれの細胞増殖能の変化をMTT assayにより解 析した。ACCS-M GFPとACCS GFPの細胞増殖能にほとんど差が認められな かった。また M sh cont., M sh Br., M sh SOX2もACCS GFP, ACCS-M GFP と比較し、ほぼ同等の細胞増殖能を示した (図2)。
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2.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが細胞遊走能に与える影響
BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが細胞遊走能に与える影響を、Wound healing assay により判定した (図 3)。ACCS-M GFP の細胞遊走能は ACCS GFPと比較し、約2倍に亢進していたが、BrachyuryをノックダウンしたM sh Br. の細胞遊走能は ACCS GFP と同程度まで抑制された (P<0.001)。一方、
SOX2をノックダウンしたM sh SOX2では細胞遊走能の抑制を認めなかった。
3.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが細胞浸潤能に与える影響
BrachyuryおよびSOX2ノックダウンによる細胞浸潤能の評価を、原発巣離
脱モデル [25] により解析した。腫瘍細胞の凝集塊の辺縁から離脱した全ての 細胞の距離を測定し、浸潤能とした。ACCS-M GFP では仮想間質を浸潤しな がら離脱していく様相が観察できた (図4B)。
一方でM sh Br. あるいはM sh SOX2では、癌細胞の離脱が抑制されてい た (図 4C,D)。腫瘍細胞の浸潤能を定量的に解析すると、ACCS-M GFP は ACCS GFPの6.4倍であったが、M sh Br.およびM sh SOX2は、それぞれ M sh Br. がACCS-M GFPの約1/3、M sh SOX2は約1/2以下まで抑制され た (P<0.05) (図4E)。
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その 2
in vitro における Brachyury ノックダウンの
抗癌剤および放射線耐性に与える影響
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結果
1.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが抗癌剤耐性に与える影響
癌幹細胞は様々な抗癌剤に対して耐性を示すことがよく知られている。
BrachyuryあるいはSOX2 をノックダウンすることが、抗癌剤耐性に対して影
響を与えるか否かを検討した。各種抗癌剤に対する ACCS GFP と ACCS-M GFPの感受性を生細胞の割合 (cell viability) を基に比較した (図5)。ACCS-M GFPはACCS GFPよりCDDP, docetaxel, actinomycin D, etoposide, 5-FU, paclitaxel, mitomycin Cおよびbestatinに耐性を示した (表2)。ACCS-M GFP のIC50値はACCS GFP と比較し1.2 ~ 355倍といずれの抗癌剤に対しても有意 に高値であった。その中でも特にタキサン系抗癌剤である docetaxel および paclitaxelに対する耐性が著明であった (docetaxel:355倍、paclitaxel:23倍)。
一方、M sh Br. あるいはM sh SOX2では、抗癌剤耐性はACCS-M GFPと比 べ有意に低下した (図6)。しかしながら、bestatin以外でACCS GFPのレベル まで IC50値の低下を認めたものはなかった (表 2)。etoposide に対しては、各 種のACCS細胞全てが強い耐性を示し、最高濃度1000µMを添加しても生細胞 率が約60%程度以下にならなかった (図5I,6I)。この為、IC50値の測定は不能で あった。
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27 表2.各種抗癌剤におけるIC50値
IC 50 (µM)
etoposide N.D. N.D. N.D. N.D. N.D.
N.D.:検出できず Anti-cancer drug
ACCS GFP
ACCS-M GFP
M sh cont.
M sh Br.
M sh SOX2
cisplatin 353.4 527.6 529.1 360.2 403.4
5-Fluorouracil 463.5 842.9 835.1 623.7 673.6
docetaxel 0.9 320.5 315.8 104.5 248.5
paclitaxel 0.75 17.3 18.5 6.7 18.8
actinomycin D 3.9 43.6 42.1 27.5 35.5
mitomycin C 33.8 49.8 47.1 40.2 48.2
bleomycin 41.1 57.8 58.6 50.2 55.8
bestatin 459 558.8 549.3 306.7 325
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2.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンによる薬剤耐性遺伝子発現の変化
癌の薬剤耐性は、主に ATP-binding cassette (ABC) transporter と solute carrier (SLC) transporterの膜輸送タンパクに影響を受けている。そこでリア ルタイム PCR を用いて、Brachyury あるいは SOX2 ノックダウンによるこれ ら膜輸送タンパクのmRNA発現量を評価した。ACCS GFPにおけるmRNA発 現量を 1 として各種の ACCS 細胞の相対的 mRNA 発現レベルを評価した (図 7)。その結果、ACCS-M GFP は ACCS GFP と比較して全てのABCトランス ポーター発現の上昇を認めたが、M sh Br. あるいはM sh SOX2では、その発 現量は抑制された (図7A)。
SLC トランスポーターの mRNA 発現量に関して、ACCS-M GFP は ACCS GFPと比較して、ほぼ全てが上昇を認めたが、SLC19A1およびSLC5A1だけ
がmRNA発現量の低下を認めた。ACCS-M GFPで低下していたSLC19A1は M sh Br.ではACCS GFPと同等のレベルまで発現の上昇を認めた (図7B)。
3.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが放射線耐性に与える影響
癌幹細胞は、放射線に対しても耐性を持つことが知られている。そこで、in vitroにおける各種のACCS細胞の放射線耐性を検討した。ACCS-M GFPでは ACCS GFPと比較し、強い放射線耐性を示した (P<0.001)。放射線照射後
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のACCS GFP およびACCS-M GFP における細胞生存率は、30Gy照射後 48 時間ではそれぞれ53%と77%、30Gy照射後72 時間ではそれぞれ40%と 60%
であった。M sh Br. およびM sh SOX2の生存率は30Gy照射後48時間ではそ れぞれ65%、70%であり、30Gy照射後72時間で42%、50%とACCS-M GFP と比較し、低下を認めた。BrachyuryノックダウンはSOX2 ノックダウンに比 較し、有意に放射線耐性を減弱させ、ACCS GFPと同程度まで耐性が減弱した (図8)。
4.BrachyuryおよびSOX2ノックダウンが抗癌剤・放射線同時併用療法に与え
る影響
BrachyuryおよびSOX2 ノックダウンによる抗癌剤・放射線同時併用に対す
る効果を比較、検討した。M sh Br. およびM sh SOX2では放射線同時併用に より、ACCS-Mと比較し、抗癌剤耐性が減弱していた(P<0.05)。
また、M sh Br. は M sh SOX2 と比較して耐性が減弱しており、特に 5-FU, docetaxel, paclitaxel, mitomycin Cおよびetoposideでその傾向が顕著であった (P<0.001)。bleomycinおよびmitomycin Cの単独投与時ではACCS-M GFP と比較してM sh Br. はM sh SOX2の抗癌剤耐性は有意な差を認めなかったが (図6)、放射線同時併用により抗癌剤耐性が著明に減弱した (P <0.05) (図9)。
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また、etoposideを除く全ての抗癌剤において、各種のACCS細胞に対する抗癌 剤単独投与時のIC50 値と比較して、放射線同時併用により、M sh Br. のIC50 値 が著明に低下していた。(P<0.001) (図10)。
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その 3
in vivo における Brachyury ノックダウンの
造腫瘍性・転移能に与える効果
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結果
1.BrachyuryおよびSOX2のノックダウンが造腫瘍性に与える効果
ACCS-M GFPは癌幹細胞であり、ヌードマウスにおいて造腫瘍性を示す。
Brachyury ノックダウンによって癌幹細胞の基本性質である造腫瘍性が消失す
るか否かを確認するため、ヌードマウスの舌に各種のACC細胞をそれぞれ接種 し、造腫瘍性を検討した。ACCS-M GFPではマウス舌に8匹中8匹 (100%)が 腫瘍形成を認めたのに対し、M sh Br. では8匹中4匹 (50%)、M sh SOX2では 8匹中7匹 (87.5%)と腫瘍形成率が低下していた。特にM sh Br. では、腫瘍形成 した場合でも腫瘍体積が小さく、励起光下でのGFP発光も認められなかった (図
11 A-F) (表3)。腫瘍増殖曲線においても、M sh Br.では増殖スピードがACCS-M
GFPと比較し、顕著に抑制されていた (図12 )。
2.Brachyuryノックダウンの転移能に対する効果
腫瘍細胞接種後、腫瘍体積が100 mm3に達した時点でマウスを屠殺し、顎下 リンパ節、肺を摘出した。M sh Br. では舌に腫瘍が形成されないか、100 mm3 に達しなかったため、ACCS-M GFP 接種マウスと同時に屠殺した。ACCS-M GFPでは、腫瘍の転移は顎下リンパ節に8匹中8匹 (100%)、肺に8匹中7匹
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(87.5%) 認められたのに対し、M sh SOX2 では顎下リンパ節に 8 匹中 7 匹 (87.5%)、肺には8匹中3匹 (37.5%)認め、M sh Br. では顎下リンパ節および肺 への転移は認めなかった (図11 G-L) (表3)。
表3.各種のACCS細胞の腫瘍および転移形成率
N.D.:検出できず
腫瘍形成率 転移形成率
cell lines
腫瘍形成
/接種匹数(%)
平均腫瘍体積 (mm3)
顎下リンパ節転移
/接種匹数(%)
肺転移/接種匹数(%)
ACCS-M GFP 8/8 ( 100% ) 145.3 8/8 ( 100% ) 7/8 ( 87.5% )
M sh cont. 8/8 ( 100% ) 121.4 8/8 ( 100% ) 7/8 ( 87.5% )
M sh Br. 4/8 ( 50% ) 28.3 N.D. N.D.
M sh SOX2 7/8 ( 87.5% ) 37.2 7/8 ( 87.5% ) 3/8 ( 37.5% )
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考察
腺様囊胞癌 (AdCC) が、抗癌剤および放射線療法に対して耐性を示すことは 臨床的に良く知られており、患者の予後を左右する大きな要因となっている。
癌の抗癌剤や放射線への耐性は、癌幹細胞が抗癌剤や放射線に耐性をもつこと に起因すると考えられており、近年では癌幹細胞を治療標的とする新しい治療 法の概念が提唱されている [26-28]。
当分野の下田らは、T-box転写因子Brachyury遺伝子がAdCCの EMT形質 および癌幹細胞様形質を抑制することから、Brachyury ノックダウンが AdCC における造腫瘍性および転移能を制御する効果的なツールとなり得ることを示 した(論文投稿中)。これはBrachyuryノックダウンがAdCCの転移および転移 巣形成を抑制することを意味する。しかし、Brachyury ノックダウンが抗癌剤 および放射線に対して感受性を上げることが可能かは解明されていない。
ACCS-M GFPはACCS GFPと比較し、細胞浸潤能および遊走能が著明に亢
進していた。Brachyury ノックダウンはこの浸潤能および遊走能を完全に阻害
したのに対し、SOX2ノックダウンは軽度に阻害するにとどまった。また、in vivo における造腫瘍性・転移に与える効果においてもBrachyuryノックダウンは造 腫瘍性を抑制し、転移能も制御した。
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細胞浸潤能の活性化は非常に重要なEMTの性質である。細胞外マトリックス 分解酵素 (MMPs) がEMTにおいて発現増強しており、癌細胞における細胞浸 潤能を誘導していることが報告されている[28-30]。また、EMTに伴い、MMPs のサブタイプであり、基底膜を選択的に分解するゼラチナーゼであるMMP9の 発現上昇は、細胞表面の E-cadherin を分解する [31]。従って、Brachyury ノ ックダウンは癌幹細胞形質の制御による造腫瘍性や転移能を抑制するだけでな く、EMTを制御することにより、原発巣における癌細胞浸潤をも抑制すると考 えられる。このことはBrachyuryノックダウンが既存腫瘍の浸潤・転移を抑制 する可能性を示唆している。
癌幹細胞は、以前から抗癌剤に対する耐性が増強していると報告されている [17, 18]。ACCS-M GFPも同様に、bleomycin以外の抗癌剤に対して耐性を認 めた。 ABCトランスポーターファミリーに属するABCB1 (MDR1 P-糖蛋白)、
ABCC1 (MRP1)、ABCC2 (MRP2) およびABCG2 (BCRP) や、SLCファミリ
ーに属するSLC19A1 (RFC)、SLCO1B1 (SLC21A6) は抗癌剤の細胞内濃度の 上昇を阻害する抗癌剤耐性の因子であると考えられている [32, 33]。ABCトラ
ンスポーターは薬剤の細胞外への排出を促進し、抗癌剤耐性に関与する。
ACCS-M GFPは、ほぼ全てのABCトランスポーターファミリー遺伝子におい
て ACCS GFP よりもその発現が上昇していたが、顕著な変化ではなかった
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(5~15%程度)。このことから、他の因子もACCS-M GFPの抗癌剤耐性に関与し
ている可能性が考えられる。Brachyury あるいは SOX2 ノックダウンにより ABCトランスポーターファミリー遺伝子の発現は減尐を示した。またSOX2遺
伝子は直接的に ABCC3 および ABCC6 の転写を制御すると報告されている [34]。当分野の下田らは ACCS-M GFP において Brachyury ノックダウンが
SOX2 mRNA の発現を抑制することを見出しており(論文投稿中)、その観点か
ら Brachyury は SOX2 発現抑制を介して間接的に ABC トランスポーター遺 伝子を制御すると考えられる。
SLC ファミリー遺伝子もまた、ACCS-M GFPにおいて発現が上昇している。
SLC ファミリーは薬剤の細胞内流入を促進するため、この結果は薬剤の細胞内
への流入を亢進していることを示す。この所見はACCS-M GFP の薬剤耐性に 相反するものである。しかしながら、SLC ファミリー遺伝子の中で、最も薬剤 耐性に起因する遺伝子 [36, 37]、SLC19A1 (RFC1) が唯一ACCS-M GFPにお いて発現が抑制されており、薬剤の細胞内流入が抑制されていることを示唆し ており、注目すべきである。さらに、 BrachyuryノックダウンがSLC19A1の
発現をACCS GFPと同等のレベルまで回復しており、薬剤の細胞内流入を促進
し、抗癌剤耐性を減弱させたと考えられる。
癌幹細胞の抗癌剤耐性を説明するもう一つの要因は、多くの抗癌剤が細胞周
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期依存性だということである。癌幹細胞は細胞周期のなかでもG2期にとどまる ことが報告されている [38]。グリコペプチド系抗生物質であり、特有な抗癌活
性をもつbleomycinはG2期細胞毒性を有する [39]。我々の結果ではbleomycin が唯一、ACCS-M GFP に対しても ACCS GFP と同等の抗癌活性をもち、
Brachyury ノックダウンでの変化も認めなかった。他の細胞周期に特異的に作
用する抗癌剤である5-FU (S期 [40])、etoposide (S/G2期 [41])、タキサン系抗 癌剤 (docetaxel, paclitaxel G2/M期 [42])に対してはACCS-M GFPは耐性を示 し、Brachyury ノックダウンは耐性を減弱させた。これらの結果から、癌幹細
胞における細胞周期への特異的抗癌剤に対する耐性は癌幹細胞の G2 期延長が
関与し、BrachyuryノックダウンはG2期で停止している細胞周期を回転させ、
耐性から離脱させるのではないかと考えられた。
癌幹細胞は、細胞休止状態、放射線反応メカニズム (例:DNA修復能の増強、
細胞周期コントロールのメカニズム増幅、フリーラジカルスカベンジャーの増 強) および細胞生存メカニズムを増強する微小環境 (例:低酸素と癌間質相互作 用) を含む様々な内因性、外因性因子により放射線照射に対し耐性を生じる
[42]。従って、ACCS-M GFPもしくは癌幹細胞の抗癌剤耐性における細胞周期
の関与と同様な説明が放射線耐性やBrachyuryノックダウンによる放射線耐性 の減弱の機構にも適用可能である。細胞周期の中でS期が最も放射線に対し
44
抵抗性があり、G2/M期が最も放射線に対して感受性があることは、放射線生物 学的にはよく知られている [44]。乳癌細胞株MDA-MB231から分離した癌幹細 胞は G2 期から S 期にシフトし、放射線耐性を示すことが報告されている。こ の細胞ではサイクリンD および E が細胞周期を制御し、DNA の修復に関与す ることで放射線耐性を示す [45]。以上から、ACCS-M GFP の細胞周期コント
ロールが放射線耐性においても重要な因子である可能性があり、さらなる解析 が必要である。
癌治療の臨床において抗癌剤・放射線同時併用および多剤併用療法は、その 各々の弱点を補いつつ効果を発揮し、癌細胞の生存率を減尐させる。しかし、
癌幹細胞の細胞周期は特異的で、従来の抗癌剤の多くは特定の細胞周期だけ効 果があるため、癌幹細胞は残存し、放射線を併用しても効果が認められない場 合が多い。Brachyury ノックダウンにより、単独治療では耐性を示した全ての 抗癌剤において放射線同時併用で効果が著明に改善した (図8,9)。これらの結果 は、これまでの研究結果と本実験結果によりBrachyuryが癌幹細胞の重要な制 御因子であることが説明できる。すなわち、癌幹細胞はBrachyury ノックダウ ンにより強制的に分化し、その幹細胞性を失う。これは結果的に細胞周期を回 転させると同時にABC トランスポーターや SLCトランスポーターの発現変化 をきたす。これにより抗癌剤および放射線感受性が獲得される。
45
さらに、重要なことはBrachyury ノックダウンによる効果が、以前より報告 されている幹細胞調節遺伝子である SOX2ノックダウンよりも強力だというこ
とである。細胞の幹細胞形質は、様々な調節因子により調節されていると考え られているが、Brachyury 遺伝子の単独ノックダウンにより、それらの調節因
子が同時に制御されることを当分野の下田らが明らかにしている。すなわち、
Brachyury ノックダウンにより癌幹細胞に関連する様々な遺伝子発現が制御さ
れ、細胞周期や造腫瘍性、癌の浸潤・転移、EMT、抗癌剤、放射線耐性が同時 に強力に制御されると考えられる。
従って、Brachyury は癌幹細胞を標的とした治療における極めて有用な標的 分子であると考えられ、同時にBrachyuryによる癌幹細胞の制御機構の詳細な 検討が今後必要である。
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総括
本研究では、ACCS-M GFP用いて癌幹細胞を標的にした新しい治療方法と して、Brachyuryノックダウンのin vitroにおける腫瘍細胞の遊走能、浸潤能、
化学療法や放射線療法抵抗性と、in vivo における造腫瘍性および転移能の効
果に対し、その有効性を解析した。
in vitroにおいて、ACCS-M GFPのBrachyuryノックダウンにより① 細胞 の遊走能、浸潤能の著明な低下が認められ、② 薬剤耐性遺伝子の発現低下、
抗癌剤耐性も減弱し、③ 放射線療法に対する耐性も減弱した。
また、in vivo においてはACCS-M GFPのBrachyuryノックダウンにより、
① 造腫瘍性の著明な抑制と、② 転移能の低下を認めた。
以上より、Brachyury ノックダウンの有効性が確認され、Brachyury は癌 幹細胞を標的とした治療における有用な標的分子であり、今後の遺伝子治療の 新しいツールとして応用できる可能性が示唆された。
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謝辞
稿を終えるにあたり、御校閲を頂きました 森 悦秀 教授に謝意を表します。
また、本研究の課題を与え、実験方法や研究に対する姿勢など、直接指導頂き ました 杉浦 剛 講師に深謝致します。本研究を遂行するにあたり、実験手技等 の御指導、御助言頂きました 石井 広太郎 先生、下田 みゆき 先生に深く感謝
致します。本研究にはかかせないγ線照射装置ガンマセル40の使用方法を快く ご教授して頂いた、生体防御医学研究所付属遺伝情報センター准教授の 山本 健 先生に深謝致します。また、標準阻害剤キットを提供して頂いた、文部科学 省科学研究費補助金・新学術領域研究・がんの特性等を踏まえた総合支援活動・
化学療法基盤支援活動班の皆さまに深謝致します。そして、様々な御助言や励 ましのお言葉を頂いた、九州大学大学院 歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野の教官各位、研究室の皆様、研究生活を支えてくださっ た全ての皆様方に、心から深く感謝致します。
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