研究論文
子どもの居場所に関する研究
−居場所と自己受容感との関係−
瑞慶覧聡子 (長崎大学大学院教育学研究科)
村田義幸 (長崎大学教育学部)
問題および目的
現代はストレスフルな時代であるといわれる。多くの人々が生活の中でストレ スを感じ、それを何とか対処しながら生きている。子どもの主たるストレッサー として生物的要因と社会的要因が挙げられる。生物的要因とは、思春期・青年期 特有の心身の不安定さからくる不安や葛藤、悩みなどである。また、社会的要因 としては、親子関係、学校における教師一生徒関係や生徒間の関係などの対人関 係、子どもを取りまく社会状況や社会環境の変化などがある。少子・高齢化、高
度情報化、高学歴化の波の中で子どもたちの生活に大きな変化が生じている。仲 間と、戸外で、体を使って楽しむ遊びから、マス・メディアやTVゲームとの接 触による「孤立型の遊び」への変化、塾通いや稽古事などに費やす時間の増加に よるゆとりのない生活等により、他者との関わりの希薄化、コミュニケーション 能力の低下が子どもたちに見られるようになってきた。同年代との関係だけでな
く、青少年異年齢・異世代集団との交流の減少は、家庭や地域社会の教育力の低 下と相まって、子どもたちのストレスを高めるだけでなく、規範意識の低下をも たらしている。その結果としていじめ、不登校、学業不振など学校を巡る問題、
社会の中での悲惨な事件の発生につながっていると考える。
青年期の発達課題の一つに自我の確立がある。自我に目覚め、自我を模索する 過程において他者と交わり、他者と自分を比較するなかで自己嫌悪や劣等感を、
あるいは、自尊感情や優越感を抱きながら、青年は、少しずつ自己を受容するよ うになる。社会的価値や望ましさにとらわれずに自己を受容できるようになるた めには、他者によって受容されることが重要となる。あるがままの自分を評価さ れることなく理解され、受容される経験は、自己受容を高め、結果として心身の 健康の維持・増進につながるといえる。自己を受容してくれる他者のいる、安心 できる場、居場所があるということは、心身の健康の維持・増進、ストレスへの 適切な対処につながると考える。
瑞慶覧・野下(2006)は、子どもの居場所について、その場で一緒に活動する 相手および子どもが求める心理的機能が、その場を「居場所」と感じる際に大き な役割を果たしていることを確認した。その研究課題の1つとして、「場所」「相 手」「行動」「役割」「心理的機能」の5つ以外にも、居場所を構成する要素がない か検討することがあげられた。
そ こ で 、 子 ど も に と っ て 重 要 な 役 割
l
を果たす「居場所」を構成する要素として、自 己 を 受 け 容 れ る 「 自 己 受 容 感
J
が関連するのではなし、かと考え、児童期から青 年 期 に あ る 子 ど も を 調 査 対 象 と し 、 両 者 の 関 係 を 検 討 し て い く こ と を 目 的 と し た 。 本 研 究 で は 、 居 場 所 を 「 自 分 が 落 ち 着 け た り 、 安 心 し た り で き る 、 居 心 地 の い い 空 間 」 、 自 己 受 容 感 を 「 弱 点 も 含 ん だ あ り の ま ま の 自 分 を 、 歪 め る こ と な く 認 識し 、 自 分 自 身 と し て 受 け 容 れ る 程 度j と定義した。
方 法
( 1
) 調 査 対 象 者長 崎 市 内 の 公 立 小 学 校
1
校 の 小 学5
年 生 お よ び6
年 生 、 公 立 中 学 校1
校 の 中 学2年 生 、 国 立 大 学 1
校 の 学 生 の 男 女 、 計431
名を対象とした。( 2 ) 調 査 時 期 と 手 続 き
調査は、
2008
年1 0
月 中 旬 に 実 施 し 、 質 問 紙 法 に よ り 、 集 団 で 行 っ たD( 3
) 調 査 内 容質 問 項 目 は 、 居 場 所 と な る 場 所 ( 家 、 学 校 、 そ の 他 ) と そ の 場 所 に 一 緒 に い る 人 ( 家 族 、 友 達 、 そ の 他 、 自 分 だ け ) 、 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 お よ び 自 己 受 容 感 に つ い て で あ るO
1) r
居 場 所j に つ い て居 場 所 に つ い て は 、 瑞 慶 覧 ・ 野 下
( 2 0 0 6 )
を参考として、28
項 目 か ら な る 質 問 紙 を 作 成 し た 。 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 を 調 査 す る に あ た り 、 本 研 究 で は8
因 子24
項 目 ( 表1
参照)とした。表
1
居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能J
に 関 す る 質 問 項 目I.EI守三 安q:1i司戸守宅茅
3 自 分 は そ こ の メ ン バ ー で あ る 。 I 宇皮多乏芝日1長 1 4 人 と 一 緒 に し 、 ら れ る 白
2 0 自クミ,.tまブzこむ刀にさ才、てし、る白 1 多乏'L、サーるo
II 本古宇中白勺
v :
元主 13 1(¥モ玉虫をしえtごし、で、し、らオrしる。19 非主しし、
2 自クミ,.0:>1.¥会Iiう三友コる。
III 行 動 の 自 由 9 ~~芝ることができる口
15 自 分 の 女 子 き な こ と が で き る 。 4 ボ ー っ と 考 え こ む こ と が あ る 。 IV R!...~柔:7・戸司令~' 16 自 分 の こ と に つ し 、 て よ く 考 え るo
2 2 1日 の こ と を 拐 乏 り 玉 屋 る 。
巴5 女 子 き な 物 が あ る 。
、
r
自己司字守主J惑 10 イ可7J斗こ芸夢中にな才、る。2 3 自クミ,.,まうまく‑'¥=>オ1..,る口 8 A 'こ乏"才つT.J:くてごし、し、口
、1I イ 也 手 ヨ 「 か ら の 自 由 17 他 人 の ペ ー ス 』 こ 合 わ せ な く て し 、 し 、 。 2 4 ノ」を7矢Uこしえ£くてごし、し、。
6 Eま し し 叫 均zう三弓三LこJへ る 。
1司I ヰミIJ,主主 11 イ 可 で も 言 う こ と をI却 し 、 て く オ も る 人 が し 、 るo
18 ご 』 ま う てJミ カ 宝 も ら え る 。
7 い ろ し 、 ろ な こ と に チ ャ レ ン ジ で き る 。 VIII 自己.~ミ茎見 12 自 分 を 成 長 さ そ ど る こ と が で き る 。
2 1 自 分 の 役 割 が あ る 。
‑34‑
2) r
自 己 受 容 感 」 に つ い て自 己 受 容 感 に つ い て は 、 大 出 ・ 津 田 (
1988)
の研究を参考として、18
項 目 の うち9
項 目 を 小 学 生 も 理 解 で き る よ う な 表 現 に 変 更 し 、 新 た に5
項 目 を 加 え た23
項 目 ( 表2
参照)からなる質問紙を作成した。表
2
自己受容尺度の変更前と変更後変 更 前 : 変 更 後
1 . 私 は 、 自 分 は 自 分 と わ り き る こ と が で き 1 . 私 は 、 自 分 は 自 分 の ま ま で い い と 思 う 。 る。
2. 私 は 、 で き れ ば 今 の 自 分 と 違 う 自 分 に な 2. 私 は 、 で き れ ば 今 の 自 分 と 違 う 自 分 に な り
りたい。 たい。
③ . 私 は 、 男 ま た は 女 と し て の 自 分 が き ら い だ 。 4.私 は 、 理 想 通 り で は な い が 、 自 分 と い う 4.私 は 、 理 想 ど お り で は な い が 、 自 分 の こ と
も の が 好 き だ 。 が 好 き だ0
5.私 は 、 何 か 失 敗 す る と 、 自 分 は だ め な 人 5.私 は 、 何 か 失 敗 す る と 、 自 分 は だ め な 人 間 間 だ と 思 う こ と が よ く あ る だ と 思 う こ と が よ く あ る
7.私 は 、 人 に 誇 る も の が 何 も な い 。 6.私 は 、 人 と 比 べ て 、 い い と 思 う と こ ろ が な にもなし、。
8. 私 は 、 自 分 に 自 信 が あ る 。 7. 私 は 、 自 分 に 白 イ 言 が あ る 。 10. 私 は 、 今 の 自 分 に 満 足 し て い る 。 8. 私 は 、 今 の 自 分 に 満 足 し て い る 。
⑨ . 私 は 、 自 分 の 性 格 が き ら い だ 。
11 . 私 は 、 人 か ら 必 要 と さ れ て い る と 思 う 。 10. 私 は 、 人 か ら 必 要 と さ れ て い る と 思 う 。 13.私 は 、 何 か 人 の た め に 役 に た っ て い る 。 11 . 私 は 、 何 か 人 の た め に 役 に た っ て い る 。 14.私 は 、 自 分 の こ と が 嫌 い だ 。 12. 私 は 、 自 分 の こ と が き ら い だ 。
16.私 は 、 他 の 人 が う ら や ま し い 口 13. 私 は 、 他 の 人 が う ら や ま し い 。
17.私 は 、 自 分 に 失 望 す る こ と が よ く あ る 。 14.私 は 、 自 分 に が っ か り す る こ と が よ く あ る 。
⑮ . 私 は 、 自 分 の ス タ イ ノ レ に 満 足 し て い る 。
⑬ . 私 は 、 自 分 の 顔 が き ら い だ 。
⑫ . 私 は 、 自 分 の 健 康 に 満 足 し て い る 。 18.私 は 、 誰 か ら も 必 要 と さ れ て い な い 。 18. 私 は 、 だ れ か ら も 必 要 と さ れ て い な い 。 19.私 は 、 自 分 に は 嫌 な と こ ろ が あ る の で 、 19. 私 は 、 自 分 に は い や な と こ ろ が あ る の で 、
自 分 が 嫌 い だ 。 : 自 分 が き ら い だ 。
20.私 は 、 自 分 が 存 在 し て い る こ と 自 体 に 意 20. 私 は 、 自 分 が 今 生 き て い る こ と に 意 味 が あ
味 が あ る と 思 う 。 る と 思 う 。
21 . 私 は 、 今 の 自 分 を 大 切 に し て い る 。 21 . 私 は 、 今 の 自 分 を 大 切 に し て い る 。
22. 私 は 、 自 分 の 一 つ の 面 が だ め だ か ら と し 、 22.私 は 、 自 分 の 一 つ の 面 が だ め だ か ら と い っ っ て 、 自 分 全 体 が だ め だ と は 思 わ な い 。 て 、 自 分 全 体 が だ め だ と は 思 わ な い 。 23. 私 は 、 欠 点 が あ っ て も 、 自 分 が 好 き だ 。 23. 私 は 、 自 分 に 悪 い と こ ろ が あ っ て も 、 自 分
が女子きだ。
※
変更前の項目番号と変更後の項目番号は一致していない。番号にO
がついている項目 は、新たに加えた項目である。※
反転項目番号(変更後). . . 2
、3、5、6、9、12
、13
、14
、16
、18
、19
1
、)2) の 全 項 目 に つ い て 「 と て も よ く あ て は ま る J r
あてはまるJ r
あ ま り あ てはまらなしリ「全然あてはまらなしリの 4件 法 で 回 答 を 求 め 、 あ げ た1)慎に 4'"'"'1 点を与えている。得点範囲は、1
)が3 ' " ' " '12点
、2)が 2 3 " " '92
点である。結 果 お よ び 考 察
( 1
) 居 場 所 の 実 態居 場 所 が あ る と 回 答 し て い る 人 は 全 体 の
9
割 以 上 お り 、 大 半 の 人 が 居 場 所 を 持 っ て い る 。 ま た 、 居 場 所 を 複 数 も つ 人 が 多 く 、 そ の 複 数 の 居 場 所 の 中 で 最 も 居 心 地 の い い 空 間 と し て 「 家 で 家 族 と j い る 空 間 を あ げ る 人 が 多 か っ た が 、 年 齢 段 階 が あ が る に つ れ て 少 な く な っ て い るo 中 学 生 は 「 学 校 で 友 達 とJ
、大学生は「家で自 分 だ け で
j
い る 空 間 を あ げ る 人 も 多 い ( 表3お よ び 図 1
,2
,3
参照)。居 場 所 が な い と 回 答 し て い る 人 は 「 家 で 家 族 や 自 分 だ け Jでいたり、「学校で友 達と
J
い た り す る 空 間 、 ま た は 「 他 の 場 所 で 友 達 や 自 分 だ け 」 で い る 空 間 を 居 場 所 に し た い 人 が 多 い ( 表4
お よ び 図4 , 5 , 6
参照)。家 は 衣 食 住 な ど 生 活 の 中 心 の 場 で あ り 、 子 ど も 自 身 の 成 長 を 見 守 っ て く れ る 家 族 が い る 場 で あ る た め 、 そ の 慣 れ 親 し ん だ 空 間 が 安 心 し て 過 ご せ る 空 間 に な る の だ と 考 え る 。 小 学 生 は 家 族 に 頼 る 機 会 が 多 く 、 そ の 家 族 と 共 に 生 活 す る 家 が 重 要 な 居 場 所 と な る が 、 中 学 生 は 思 春 期 特 有 の 葛 藤 や 悩 み を 、 友 達 と の 精 神 的 交 流 の な か で 互 い に 理 解 し 合 い 、 心 の 支 え と す る の に 加 え 、 部 活 動 や 学 校 行 事 の 運 営 な ど 友 達 と の 関 わ り を 大 切 に す る 機 会 が 多 い た め 、 学 校 を 居 場 所 と 感 じ る 人 も 多 い と考えるD 大 学 生 が 家 で 自 分 だ け の 空 間 を 居 場 所 と 感 じ る 人 も 多 い の は 、 一 人 暮 ら し の 増 加 、 サ ー ク ル や ア ル バ イ ト な ど 活 動 範 囲 の 拡 張 に よ り 、 自 分 だ け で 行 動 し た り 、 考 え た り す る こ と で 、 自 分 自 身 を 振 り 返 り 、 落 ち 着 い た 時 間 を 過 ご せ る た め だ と 考 え る 。 ま た 、 小 学 生 に 比 べ 、 中 学 生 お よ び 大 学 生 が 、 家 で 家 族 と い る 空 間 以 外 の 空 間 を 居 場 所 と 感 じ る 人 も 多 い の は 、 親 か ら の 心 理 的 独 立 の 様 子 が 現 れ て い る と も 考 え るD
居 場 所 に な っ て ほ し い 場 所 の 全 体 的 傾 向 と し て 、 主 に 生 活 空 間 に あ る 、 家 で 家 族 ま た は 自 分 だ け で い る 空 間 や 学 校 で 友 達 と い る 空 間 を 居 場 所 に し た い 人 と 、 友 達 や 自 分 だ け で 過 ご す 空 間 と い う よ う に 、 そ の 場 所 に 一 緒 に い る 人 を 重 視 す る 人 が し 、 る と 考 え ら れ 、 前 者 は 自 分 が 主 に 過 ご す 身 近 な 空 間 で 居 心 地 よ く 過 ご し た い と い う 思 い が あ り 、 後 者 は 自 分 自 身 や 他 者 と の 関 係 に つ い て 多 少 の 問 題 を 抱 え て い る 可 能 性 が 考 え ら れ 、 自 分 が 過 ご し や す い 空 間 に な る た め に は 、 同 じ 空 間 に い る 人 の 存 在 が 大 き い の で は な い か と 考 え るO
表
3各 年 齢 段 階 の 居 場 所 が あ る 人 の 一 番 の 居 場 所 お よ び そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人
【 一 番 の 居 場 所 ( そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人 ) で 記 載 】
家 家 家 学 校 学 校 学 校
(家族) (友達) (自分だけ) (友達) (自分だけ) (その他)
小 学 生 68% 0% 17% 3% 1% 0%
中 学 生 50% 1% 24% 18% 0% 0%
大 学 生 42% 1% 41% 6% 0% 0%
そ の 他 そ の 他 そ の 他 そ の 他
(家族) (友達) (自分だけ) (その他)
小 学 生 0% 3 0 /
04% 4%
中 学 生 2% 3 0 /
00% 2%
大 学 生 0% 7
01 0 0% 3%
‑36‑
し一一…… 1%
図
1
小 学 生 の 居 場 所 が あ る 人 の 一 番 の 居 場 図2
中 学 生 の 居 場 所 が あ る 人 の 一 番 の 居 場 所 お よ び そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人9 1 0
1%
図
3
大 学 生 の 居 場 所 が あ る 人 の 一 番 の 居 場 所 お よ び そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人所 お よ び そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人
0
居 場 所(一緒にいる人)
1.家(家族)
2 .
家(友達)3 .
家(自分だけ)4 .
学校(友達)5 .
学校(自分だけ)6 .
学校(その他)7 .
その他(家族)8 .
その他(友達)9 .
その他(自分だけ)1 0 .
その他(その他)表
4
各 年 齢 段 階 の 居 場 所 が な い 人 の 居 場 所 に 一 番 な っ て ほ し い 場 所 お よ び そ の 居 場 所 で ー 緒 に い て ほ し い 人 【 一 番 の 居 場 所 ( そ の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人 ) で 記 載 】家 家 家 学 校 学 校 学 校
(家族) (友達) (自分だけ) (友達) (自分だけ) (その他)
小 学 生
29% 14% 14% 0% 0% 0%
中学生
7% 0% 50% 7% 0% 。%
大 学 生
12% 0% 37% 25% 0% 0%
そ の 他 そ の 他 そ の 他 そ の 他
(家族) (友達) (自分だけ) (その他)
小 学 生
0% 29% 14% 0%
中学生
0% 14% 22% 0%
大 学 生
0% 13% 13% 0%
1 0
7
7
0%0 % 6 E 0% u
0% 0%
図 4 小 学 生 の 居 場 所 が な い 人 の 居 場 所 に一番なってほしい場所および その居場所で一緒にいてほしい人
10
図 5
中学生の居場所がない人の居場所に一番なってほしい場所および その居場所で一緒にいてほしい人
0
居 場 所(一緒にいる人)
︒
i' e
︐
FW 9
・
FO J 0 6m山
1.家(家族)
2 .
家(友達)3 .
家(自分だけ)4 .
学校(友達)5 .
学校(自分だけ)6 .
学校(その他)7 .
その他(家族)8 .
その他(友達)9 .
その他(自分だけ)1 0 .
その他(その他)図
6 大 学 生 の 居 場 所 が な い 人 の 居 場 所に一番なってほしい場所および その居場所で一緒にいてほしい人
( 2
) 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能小 学 生 、 中 学 生 お よ び 大 学 生 の 全 て を 含 め た 全 体 対 象 が 、 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 因 子 得 点 の 高 さ は 、 次 の よ う な 順 位 で あ っ た ( 表
5 , 6
参照)。1
位 精 神 的 安 定(n)
2位 行 動 の 自 由 (III)
3位 被 受 容 感 (1 、) 自 己 存 在 感 (V)
5位 思 考 ・ 内 省 (IV)、 他 者 か ら の 自 由 (VI)、 自 己 実 現 ( 四 )
8
位 利 益 ( 四 )こ こ で 、 上 記 の
8因 子 に お け る 年 齢 段 階 で の 変 化 を み て み る と 「 思 考 ・ 内 省
J お よ び 「 他 者 か ら の 自 由j
の 得 点 が 「 小 学 生 < 中 学 生 < 大 学 生J と 年 齢 段 階 が あ が る に つ れ て 、 高 く な っ て い た ( 表7
参照)。‑38‑
小 学 生 か ら 大 学 生 ま で 、 安 心 で き 、 落 ち 着 く こ と の で き る 場 を 居 場 所 と し て 求 め 、 そ の 場 で は 、 自 分 の 行 動 を 制 限 さ れ る こ と な く 、 自 分 の 好 き な よ う に 行 動 で き る こ と を 望 ん で い る の で あ る 。 ま た 、 他 者 と の 関 係 も 重 要 で あ り 、 そ の 場 所 で 自 分 が ど う い う 位 置 に い て 、 ど の 程 度 受 け 容 れ ら れ て い る か 、 と い う こ と が 大 切 であることが明らかになった。
年 齢 に 伴 う 変 化 に つ い て は 、 年 齢 段 階 が あ が る に つ れ て 、 自 分 を 客 観 的 に み つ め る よ う に な り 、 社 会 で の 責 任 あ る 行 動 を 自 ら 望 む よ う に な る た め 、 自 分 は ど ん な価値観や世界観をもち、何のために生きていくのか、というような問題を考え、
自 分 な り の 答 え を 見 つ け た り 、 自 己 に よ る 決 定 で 自 由 に 活 動 し た り で き る 場 を 求 めるようになり、「思考・内省
J
や「他者からの自由J
の得点が上昇すると考える。表 5
全 体 の 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 因 子 得 点 の 平 均 値 と 標 準 偏 差表 6 全 体 の 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 因 子 得 点 聞 の 分 散 分 析 結 果 と 有 意 差 判 定
I E
m
IV、
r、
11 VII VIIII ¥ ¥ ¥ ¥ 1. 077 0.780 ‑1. 121 0.023 ‑1. 234 ‑3.053 ‑1. 086 E 斗4斗ミ
‑ ‑ ‑ ‑ 、 ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑
‑0.297 ‑2. 197 1. 053 ‑2.311 ‑4. 130 2. 162
m
斗 * 斗ヨ ¥ ¥ ¥ ¥ ‑1. 900 ‑0. 756 ‑2.014 ‑3.833 ‑1. 865 IV 斗〈 斗ミ 持ミ斗4 ヰミ持ミ ¥ ¥ ¥ ¥ 1. 144 ‑0. 114 ‑1. 933 0.035、
r 斗ミ斗〈 ヰ * 斗〈 斗ミ ¥ ¥ ¥ ¥ ‑1. 258 ‑3.077 ‑1. 109、
11 ヰミ詩〈 斗 * 斗 **
~ミ ¥ ¥ ¥ ¥ ‑1. 819 o. 149 VII 持〈 持主 斗4持〈 * 斗 〈 * 斗4 オミ斗〈 持~*
¥ ¥ ¥ ¥ 1.968VIII 持4持〈 斗ミ 斗ミ 斗ミ斗〈 斗ミ斗4 え4斗4 一 ¥ 下 エ
※ 上 欄 は 2因 子 の 平 均 値 の 差 ( 列 因 子 得 点 一 行 因 子 得 点 〉 、
下 欄 の r
* *
J は r1%有 意J、 r*
J は r5%有 意 」 を 示 し て し 、 る 口表 7 各 年 齢 段 階 の 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 因 子 得 点 の 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 お よ び 有 意 差 判 定
I E E N V VI v l l V I I I
平 均 9.964 10.848 10.268 7.804 9. 723 7.375 6.393 8.848兵寸三L品a
標 準 偏 差 2.603 1. 508 2.066 2.176 2. 157 2.294 2.387 2.544
生
中 平 均 9.402 10. 566 10.302 8. 328 9.587 8.429 6. 709 8.497
一
‑
、T日 ‑
標 準 偏 差 2.401 1.445 1. 768 2.233 1. 726 2.334 2.204 2.409
生
大 平 均 9.446 10. 562 10.462 9. 154 9.462 9.000 6. 315 8. 123
兵‑主f4‑
標 準 偏 差 2. 189 1. 353 1.643 2.006 1. 708 2.299 2.065 2.203
生
有 意 差 判 定
* * * *
* * :
1 %有 意* :
5 %有 意1
被 受 容 感 ill:行 動 の 自 由n
精 神 的 安 定N : 思 考 ・ 内 省
V :自 己 存 在 感
Vll:利益
VI:
他 者 か ら の 自 由 VllI:自己実現( 3
) 自 己 受 容 感自 己 受 容 感 を 年 齢 段 階 別 に 比 較 し て み る と ( 表
8
参照)r
中 学 生 お よ び 大 学 生J
よ り 「 小 学 生 」 の 自 己 受 容 感 の 方 が 高 か っ た 。 居 場 所 と の 関 係 で み る と ( 表9
参 照)、居場所で「友達と一緒にいる人および自分だけでいる人 J より「家族と一緒 に い る 人j
の 自 己 受 容 感 の 方 が 高 か っ たO さ ら に 、 居 場 所 で 「 家 族 と 一 緒 に い る 人 J に 関 し て 、 年 齢 段 階 別 に 比 較 し て み る と 「 中 学 生 お よ び 大 学 生j よ り 「 小 学 生 」 の 自 己 受 容 感 が 高 く 、 表8
と同様の傾向が認められた。年 齢 に 伴 う 傾 向 に 関 し て は 、 自 己 を 客 観 的 に 捉 え る よ う に な る と 、 自 分 自 身 に つ い て よ り 深 く 考 え る よ う に な り 、 具 体 的 な 理 想 像 を 抱 く よ う に な る と 考 え 、 あ り の ま ま の 自 分 を 素 直 に 受 け 容 れ に く く な り 、 上 記 の 結 果 に 繋 が っ た と 考 え る 。
居 場 所 で 一 緒 に い る 人 に つ い て の 傾 向 は 、 身 近 に い る 大 切 な 存 在 の 人 か ら 自 分 が 受 け 容 れ ら れ て い る と い う 他 者 受 容 が 一 因 と 考 え 、 特 に 小 学 生 は 、 自 己 受 容 感 の 年 齢 に 伴 う 傾 向 が 影 響 し て い る こ と も 関 係 す る が 、 さ ら に 親 か ら の 心 理 的 独 立 が 不 十 分 で あ る こ と も 要 因 だ と 考 え ら れ るo
表
8 各 年 齢 段 階 の 自 己 受 容 感 得 点 の 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 お よ び 有 意 差 判 定
小 学 生 中 学 生 大 学 生平 均 6 7 . 143 58.529 59.477 標 準 偏 差 1
1. 4721
1. 53810.614 有 意 差 判 定 * * (中学生=大学生く小学生)
* * : 1 % 有 意 * : 5 % 有 意
表
9一 番 の 居 場 所 で 一 緒 に い る 人 ご と の 自 己 受 容 感 得 点 の 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 お よ び 有 意 差 判 定
亙 話 建 立 に 家 族 友 達 そ の 他 自 分 だ け
「 一 緒 に い る 人 」 聞 の 差全 体
平 均 値 63.561 60.375 6 3 . 786 59.420 **
標 準 偏 差 10.795 10.466 10.991 1
1. 759 (友達=自分だけ<家族)小 学 生
平 均 値 69.425 68.000 6 5 . 167 6
1. 700*
標 準 偏 差 10.621 10.973 1 4 . 757 10.418
(自分だけく家族) 中 学 生平 均 値 6
1.102 5 8 . 780 6 3 . 750 5 7 . 190
標 準 偏 差 1 0 . 138 1 0 . 725 8.921 1
1. 559 大 学 生平 均 値 59.462 6
1. 75058.800 59.574 標 準 偏 差
8. 412 8. 4611
1. 03912.562
年 齢 段 階聞 の 差 有 意 差 判 定 (中学生=大学生
**
く小学生)
* * : 1 % 有 意 * : 5 % 有 意
‑40‑
( 4
) 居 場 所 の 有 無 と の 関 係居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 で あ る 「 被 受 容 感
J
精 神 的 安 定 行 動 の 自 由 」「自己存在感
J
自己実現」の5因 子 に お い て 、 居 場 所 が 「 な し リ と 回 答 し た 人
より「あるj と 回 答 し た 人 の 方 が 高 か っ た ( 表1 0
参照)0自 己 受 容 感 に つ い て も 、 居 場 所 が 「 な し リ と 回 答 し た 人 よ り 「 あ る 」 と 回 答 し た 人 の 方 が 高 か っ た ( 表
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参照)。居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 に つ い て は 、 居 場 所 は 自 分 の 存 在 と と も に あ る た め 、 居 場 所 が 「 な いj と 回 答 し た 人 は 自 分 を 見 失 い 、 自 分 が 集 団 や 社 会 の 中 で ど の よ う な 位 置 に 存 在 し て い る の か わ か ら な く な っ て い る と 捉 え る こ と も で き 、 不 安 な 気 持 ち を 感 じ や す い 状 態 に あ る と 考 え る こ と か ら 、
5因子において、居場所が「あ
るj と 回 答 し た 人 の 方 が 高 い と い え る 。 ま た 居 場 所 が 「 な し リ と 回 答 し た 人 に と っ て 、 居 場 所 は 想 像 上 の も の で あ り 、 実 際 に 心 理 的 機 能 を 居 場 所 で 体 感 し て い る か ど う か も 、 影 響 を 与 え て い る と 考 え るo 自 己 受 容 感 に つ い て は 、 居 場 所 は 安 心 で き る 居 心 地 の よ い 場 所 で あ り 、 自 分 の 気 持 ち を 切 り 替 え ら れ る 場 と も な る た め 、 居 場 所 が 「 あ るj と 回 答 し た 人 は 快 の 気 持 ち を 抱 く こ と が で き 、 居 場 所 で 過 ご す 自 己 を 肯 定 的 に 受 け と め る 機 会 が あ り 、 自 己 受 容 感 の 上 昇 に つ な が る と 考 え る 。表
10 居 場 所 の 有 無 ご と の 居 場 所 に 求 め る 心 理 的 機 能 因 子 得 点 の 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 お よ び 有 意 差 判 定I E
皿IV v
VI VlIv m
あ 平 均 9.684 10.701 10.400 8.448 9.642 8.341 6. 522 8. 545 る 標 準 偏 差 2. 318
1 .
3251 .
722 2. 1961 .
791 2.325 2. 191 2.361な
平 均 7.862 9. 759 9.517 8. 345 8. 793 8. 138 6.310 7.517 し、 標 準 偏 差 2. 887 2. 385 2. 694 2. 409 2. 320 3.182 2. 565 2. 694有 意 差 判 定
** ** ** ** **
* * 1%
有 意* : 5%
有 意1 被 受 容 感 皿 : 行 動 の 自 由
n 精 神 的 安 定 N 思 考 ・ 内 省
v 自 己 存 在 感 VII : 利 益 VI 他 者 か ら の 自 由 VIII: 自 己 実 現
表
11 居 場 所 の 有 無 ご と の 自 己 受 容 感 得 点 の 平 均 値 ・ 標 準 偏 差 ・ 有 意 判 定孟 註
4哩竺±
あ る (n=402) な い (n=29) 「 居 場 所 の 有 無j間 の 差全 体
平 均 値 61 .
908 49.207**
標 準 偏 差 1
1 .
153 14.153 ( な い く あ る )小 学 生 平 均 値 67.629 59.857
標 準 偏 差 1
1 .
116 15.060中 学 生 平 均 値 59.680 44. 143
**
標 準 偏 差 10.667 12.715 ( な い く あ る )
大 学 生 平 均 値 60. 180 48.750
**
標 準 偏 差 10.188 1
1 .
901 ( な い く あ る ) 年 齢 段 階** *
聞 の 差 有 意 差 判 定 ( 中 学 生 = 大 学 生 ( 中 学 生
< 小 学 生 ) く 小 学 生 )
* *
1%)有 意* : 5%
有 意総 合 考 察
居 場 所 と 自 己 受 容 感 と の 関 係 は あ る と い え るo 居 場 所 の 有 無 は 自 己 受 容 感 の 高 さ と 関 連 し 、 子 ど も が 安 心 し 、 落 ち 着 い て 活 動 で き る 場 が 、 子 ど も に と っ て 居 場 所 的 存 在 お よ び 自 己 を 受 け 容 れ る 要 因 と し て 、 影 響 力 を も つ こ と が わ か っ たO
家 や 学 校 な ど 生 活 の 大 半 を 過 ご す 場 で 、 家 族 や 友 達 と 安 心 し て 過 ご せ 、 さ ら に そ の よ う な 居 場 所 が 多 く あ れ ば 、 他 者 と の 関 わ り の 中 で 自 己 を 肯 定 的 に 捉 え る 機 会 も 増 え る 。 一 方 、 思 春 期 の 特 徴 や 自 我 の 確 立 に よ り 、 自 分 だ け で 過 ご す 時 間 も 大切な存在となる。子どもは、成長の過程で自分に適した居場所を見つけていき、
い く つ か の 居 場 所 を も つ が 、 そ の 各 居 場 所 の 不 足 部 分 を 補 い 合 わ せ 、 自 分 に と っ て う ま く 機 能 す る よ う 居 場 所 を 活 用 す る こ と が 大 切 で あ るD つ ま り 、 他 者 と の 空 間 と 自 分 だ け の 空 間 と を 使 い 分 け 、 自 分 と う ま く 付 き 合 っ て 生 活 す る こ と が 、 自 己 受 容 感 の 高 ま り と 関 連 す る と 考 え るO 居 場 所 が な い 人 は 、 自 己 の 葛 藤 や 悩 み を 受 容 し 難 く 、 自 分 の 中 だ け に 閉 じ こ も っ た 狭 い 自 我 形 成 に な る 可 能 性 も 伺 え る た め 、 周 り の 人 が そ の 人 に と っ て 理 解 し 受 容 し て く れ る 存 在 と な っ た り 、 そ の 人 が 居 心 地 が よ い と 感 じ る 空 間 を 提 供 し た り す る な ど の サ ポ ー ト が 必 要 だ と 考 え るO
居 場 所 は 、 本 人 が ど の 要 素 に 価 値 づ け す る か に よ っ て 違 い 、 誰 も が 同 じ 場 や 空 間 を 好 む わ け で は な い 。 し か し 居 場 所 で の 他 者 と の 良 好 な 関 係 、 の 重 要 性 は 、 共 通 す る も の と い え るD 今 日 、 社 会 問 題 の
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っ と し て あ げ ら れ る 学 校 生 活 に お け る 問 題 を 考 え る 際 に も 、 子 ど も と 子 ど も 、 子 ど も と 教 師 、 子 ど も と 家 族 と の 良 好 な 関 係 を 築 く こ と の で き る 雰 囲 気 お よ び 環 境 づ く り が 必 要 で あ り 、 大 人 が 子 ど も を 理 解 し 、 認 め 、 受 け 容 れ る こ と が 大 切 で あ るD こ の こ と を 通 し て 、 子 ど も の 自 己 受 容 感 が 高 ま り 、 学 校 を 居 場 所 と し て 捉 え る き っ か け に な る の で は な い か と 考 え るO居 場 所 の 中 で も 、 自 分 だ け の 空 間 で は な く 、 他 者 と 関 わ り が も て る 空 間 で 自 己 受 容 感 は 高 め る こ と が で き る と 考 え るO
今 後 の 課 題
本 研 究 で は 年 齢 段 階 間 の 変 化 も 踏 ま え 、 居 場 所 と 自 己 受 容 感 と の 関 係 、 を 検 討 す る た め に 、 小 学 生 、 中 学 生 、 大 学 生 を 調 査 対 象 者 と し た が 、 高 校 生 を 対 象 者 に 含 め る 必 要 が あ っ た と 考 え 、 今 後 の 研 究 へ の 改 善 点 と す るO 加 え て 、 分 析 結 果 か ら 今後の研究課題として、
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つ 自 に 、 自 分 だ け で 過 ご す 空 間 と 他 者 と 過 ご す 空 間 と の違し、から、自己受容感を高める空間の要因の検討があげられるo2
つ 自 に 、 居 場 所 の 数 が 本 人 の 社 交 性 の 高 さ や 活 動 範 囲 の 広 さ と 関 連 が あ る と 示 唆 さ れ た た め 、 社 会 で よ り よ く 生 活 で き る 能 力 の 度 合 い を 指 す こ こ ろ の 知 能 指 数EQ
のうち「社会 性J r
協 調 性J r
積 極 性 」 と 自 己 受 容 感 と の 関 係 性 の 検 討 が あ げ ら れ 、 そ れ ら を 踏ま え 、 今 後 、 子 ど も の 居 場 所 に 関 す る 研 究 を 深 め て い き た い 。 引 用 ・ 参 考 文 献
大 出 美 知 子 ・ 津 田 秀 一
1988 f
自 己 受 容 に 関 す る 一 研 究 一 様 相 と 関 連 要 因 を めぐって-~ カ ウ ン セ リ ン グ 研 究Vo 1 . 20 NO.2 128‑137
瑞慶覧聡、子・野下なずな