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私的自己意識と自己受容性・離人感との関連 ―「反芻」と「省察」の

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私的自己意識と自己受容性・離人感との関連

―「反芻」と「省察」の2側面からの検討―

14011PCM 林本 恵里佳

Ⅰ.問題と目的

青年期は自己同一性の確立,あるいは青年期 以前の「私」と現実の「私」を修復かつ統合す る重要な時期であり(溝上,2002),自己注目や自 己意識の高まる時期ともとらえられてきた( ,2012)Trapnell & Campbell(1999)は,私 的自己意識を「反芻」と「省察」に分け,「反 芻」は,ネガティブで慢性的かつ持続性の強い 自己へ注意を向けやすい特性であり,「省察」

は,自己理解を促し精神的健康に寄与する適応 的な自己へ注意を向けやすい特性と定義してい (高野・丹野,2008)。また,「反芻」は,ネガ ティブな内容について繰り返し考える自己注目 であるため,自己の否定的な部分に目を向ける ことでネガティブな思考が促進されると考えら れる(高野・坂本・丹野,2012)。一方で,「省 察」は,否定的な感情を増強することなく自己 理解を促進し,自己の肯定的な部分に注目する ことから精神的健康にポジティブな影響を持つ ことが示唆される。宮沢(1988)は,青年期は自 己認識に関わる変化の大きい時期であると述べ ており,自己受容が重要な役割を果たすと指摘 している。沢崎(1993)は自己受容が高いほど精 神的健康の程度も高いことを明らかにし,自己 受容と精神的健康の密接な関係を示唆している。

田辺(2004)は,自らが体験しているといった主

体感,自らが制御しているという統制感の喪失 といった軽度の解離体験の一側面が,思春期・

青年期の発達的な自己同一性の問題と何らかの 形で接しているとしている。離人症とは,自分 の知覚,感覚,行為などについての能動性の意 識の変化で,生き生きとした実感のないことで

あり(立山,1998),臨床的には,現実感の喪失と

疎隔感によって特徴づけられる特異的な体験を 指している。これらは一般には本人にとって違 和感があり,苦痛と感じられ,病識があるとさ

れる(筒井,2006)。青野(2009)は,意識や記憶の 障害などが生じる解離は,自分のものとして受 け止めきれない悩みを意識から切り離すことで,

自我を守ろうとする防衛機制の一つであると述 べている。これらのことから,自己同一性の確 立につながる私的自己意識のあり方が,自己受 容性,離人感に影響を与えることが考えられる。

そこで,本研究は「「反芻」傾向が高いと「離人 感」は高くなり,「省察」傾向が高いと「離人感」

は低くなる」(仮説1)「「反芻」傾向が高いと自 己受容性は低くなり,「省察」傾向が高いと自己 受容性は高くなる」(仮説2),「自己受容性が高 いと「離人感」は低くなる」(仮説 3)という 3 つの仮説を検討することを目的とする。

Ⅱ.方法

調査対象者:私立A大学の学生185名を対象に 質問紙調査を実施し,不備のある者を除き,計 173名を分析対象とした(男性33名,女性140 名,平均年齢19.4歳,SD=.85)

調査手続き:2015512日に実施した。講 義時間内に質問紙を一斉配布した。

質問紙構成RRQ日本語版(高野・丹野,2008) 自己受容性測定スケール(宮沢,1980),日常的離

人尺度(舛田,2006),フェイスシートから構成さ

れた。

Ⅲ.結果と考察

各下位尺度間の関連を見るため,強制投入法 による重回帰分析を行った(1)。その結果,「反 芻」から「離人感」に有意な正の影響がみられ,

仮説 1 は一部支持されたが,「省察」からも有 意な正の影響がみられた。「自己価値」,「自己理 解」,「自己承認」に「反芻」から有意な負の影 響が,「自己理解」,「自己承認」,「自己信頼」に

「省察」から有意な正の影響がみられ,仮説 2 は一部支持された。「自己価値」,「自己理解」が

「離人感」に有意に負の影響を与えており,仮

(2)

3は一部支持された。

仮説 1 について,「反芻」は,自己の否定的 側面やネガティブなことに関して慢性的かつ持 続性が強い自己意識であり,自己の受け入れが たい側面に対して目を向けることになるため,

自己についての葛藤状況が生まれることが考え られる。小川(1965)は,耐え難い葛藤状況から の回避の保護作用として離人体験が生じると述 べている。このことから,「反芻」は,「離人感」

に正の影響を与えたと推察される。また,有馬

(2013)は,離人症は自己というものを強迫的に

強く意識した状態であると述べている。自己意 識が高まり,自分が自分でしかないことに直面 した際に自分のことを否定,拒否することが指 摘されており(小沢,1999),自己が考える自己と 直面する自己との矛盾に耐えることができず,

「離人感」が生まれると考えられる。このこと から,自己に意識を向ける傾向が高いほど,「離 人感」も高くなることが考えられ,自己意識が 高まる青年期においては,「反芻」と「省察」の 間に「離人感」に与える影響の差がみられなか ったのではないだろうか。「省察」は,問題解決 がうまくいかない場合,次第に「反芻」に引き 込まれてしまうため,結果的にその適応的な効 果が薄れてしまう可能性がある(Miranda &

Nolen-Hoeksema,2007)。様々な葛藤が生じる 青年期においては,「省察」にとどまらず,「反 芻」に移ることが考えられ,本研究においても,

「省察」が「反芻」の影響を受けていた可能性 があり,「離人感」に対して「省察」からも正の 影響がみられたのではないかと推察される。

仮説 2 について,「反芻」は,ネガティブな 内容について繰り返し考えてしまう自己注目で あり(Trapnell & Campbell,1999),自己の否定 的な部分に目を向けることでネガティブな思考 が促進されると考えられる。中澤(1982)は,青 年は自己嫌悪や自己否定の感情から,強い自己 探求の要求をもちながら,自己について考え,

自己からの逃避を企てることを指摘している。

自己について「反芻」することがやめられず,

「反芻」すればするほど受け入れがたい自己に 直面し,受容することができない状態になると

考えられる。一方で,「省察」は自己理解や精神 的な健康の促進に寄与しており,特に受容との 関連が指摘されている(Burwell & Shirk,2007)

「省察」によって,自己の肯定的な側面にも注 目した結果,自己受容性が高まったのではない だろうか。

仮説3について,木村(2012)は,離人症は一 種の防衛機制といえることを指摘している。自 己を受け入れることができない状態では,その 苦痛からの回避の手段として,「離人感」が生ま れることが考えられ,自己受容性が「離人感」

に負の影響を与えたと考えられる。

1.各下位尺度間の関連

)***p<.001,**p<.01,*p<.05

Ⅳ.今後の課題

様々な葛藤が生じる青年期においては,「反芻」

と「省察」の両方の私的自己意識を行っている 者がいることが予想される。そのため,「反芻」

と「省察」でタイプ分けをしたうえで,精神的 健康にどのように影響を及ぼすのかを確認する ことが望ましいだろう。田中・北山(2009)は,

離人体験者は「分かってもらえない」という感 覚があることを指摘しており,「離人感」につい ての回答に葛藤が生じた可能性が考えられる。

今後は,自由記述欄の設置や,投映法,面接法 を用いることでより詳細な「離人感」を捉える ことが可能になると考えられる。また,本研究 は一般大学生を対象に行われたため,今回の知 見が臨床例の理解にも用いることができるかど うか,検討していく必要があるだろう。

R2=.06**

-.25**

R2=.08** -.30**

-.22**

.22**

-.32***

-.25**

.29***

R2=.07**

R2=.04* .21**

省察

自己承認

自己信頼 .17*

自己価値

.18*

自己理解 反芻

離人感 R2=.09*** R2=.25***

参照

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