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陸上長距離選手のパーソナリティに関する検討

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Academic year: 2021

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陸上長距離選手のパーソナリティに関する検討

著者 中澤 史, 梶内 大輝, 佐藤 友哉, 松岡 悠太

出版者 法政大学スポーツ研究センター

雑誌名 法政大学スポーツ研究センター紀要

巻 38

ページ 15‑18

発行年 2020‑03‑31

URL http://doi.org/10.15002/00023596

(2)

Ⅰ.緒言

 Taikyo Sport Motivation Inventory(以下,TSMI)とMaudsely Personality Inventory (以下,MPI)を用いて実業団の男子駅伝 選手の心理特性を解明した吉井(1992)は「高い神経症傾向 を持つ者ほど,特に失敗不安や緊張不安が高く,それを強く 感じるような競争場面や緊張場面では心理的な自己コント ロールが難しく,あがりやすい状態に陥る」と報告している。

近年では堀ほか(2019)が陸上競技の長距離選手(以下,陸 上長距離選手)の競技レベルにおける不安とパーソナリティ の関係について検討し,男子選手の競技レベル別の比較では 下位レベルの選手は上位レベルの選手よりも有意に状態不安 が高いこと,また特性不安では,男子の中位および下位レベ ルの選手の方が上位レベルの選手以上に情緒不安定性が高位 であることを明らかにしている。

 このように陸上長距離選手の心理特性に関する研究報告が 蓄積されつつあるが,パーソナリティ検査の一つとして知ら れるエゴグラムを用いて選手のパーソナリティの解明を試み た研究は見られない。そこで本研究では,競技レベル別にみ た陸上長距離選手のパーソナリティについてエゴグラムを用 いて検討する。

Ⅱ.方法 1.調査対象者

 体育会陸上競技部において,主として駅伝競技に取り組む 男子大学生48名(平均年齢19.56歳:表1)。なお,調査対象 者には守秘義務の厳守および得られたデータは本研究の目的 以外には使用しないことを説明し,データ使用の了承を得た。

陸上長距離選手のパーソナリティに関する検討 Examination about personality of long-distance athletes

中 澤   史(国際文化学部・スポーツ健康学研究科)

Tadashi Nakazawa 梶 内 大 輝(東急リバブル株式会社)

Daiki Kajiuchi 佐 藤 友 哉(スポーツ健康学研究科)

Tomoya Sato 松 岡 悠 太(スポーツ健康学研究科)

Yuta Matsuoka

要 旨

 本研究では,陸上の長距離走に取り組む男子大学生48名(平均年齢19.56歳)を対象者として,エゴグラムを用いて競技レベ ル別にみた選手のパーソナリティについて検討した。その結果,ACの自我状態に起因する思考や行動は実力発揮や競技成績にネ ガティブな影響を与える可能性があること,また個人種目を主とする陸上競技であっても,所属選手の目標がチーム目標と一致す る場合,所属選手のNPの自我状態が促進されことが示された。

キーワード:陸上長距離選手,パーソナリティ,競技レベル Key words : Long-distance athletes, Personality, Competition level

レギュラー候補群 非レギュラー候補群

1年生 8 5 13

2年生 1 11 12

3年生 8 3 11

4年生 8 4 12

合計 25 23 48

表 1 調査対象者の内訳

(3)

法政大学スポーツ研究センター紀要

2.調査時期:X年9月

3.調査内容:集合調査法による質問紙調査を行った。

1)属性項目:フェイスシートに,氏名,年齢,学年,競技経 験年数等の記入を求めた。

2)質問紙:桂式自己成長エゴグラム(桂ほか,1999)を使用 した。エゴグラムは,1957年にエリック・バーン博士が提唱 した交流分析理論に基づき,場面や状況によって変化する人 の思考・行動様式を5つの自我状態(表2)に分類し,その発 生頻度をプロフィールに表すことによって人のパーソナリ ティを現象的,客観的に捉えるための工夫が施された心理検 査である。

4. 分析手順

1)統計分析:競技レベル別(レギュラー候補群,非レギュ ラー候補群)のパーソナリティについて検討するため,エゴ グラムにおける5つの自我状態の平均値の差について一要因 分散分析を行った。統計学的解析にはHAD16.012(清水,

2016)を使用した。また,効果量は水本・竹内(2008)の基

準に従いCohen’s d を用いた。なお,競技レベルの判別は当該

チームの監督が行った。

2)エゴグラムを用いた分析:競技レベル別に5つの自我状態 の平均値を用いてエゴグラムを作成し,比較検討した。

Ⅲ.結果

 5つの自我状態の平均値の差について分析したところ,表3 の通りACの自我状態において非レギュラー候補群の方がレ ギュラー候補群より有意に高い値を示した。また,図1に両 群の5つの自我状態の平均値を用いて競技レベル別のエゴグ ラムを示した。

Ⅳ.考察

 非レギュラー候補群における高位なACの自我状態は,選手 たちの消極性や不安傾向の高さを示しており,彼らの競技活 動に負の影響を与えている可能性がある。高位なACの自我状 態が自信の欠如を示唆している(中澤,2016)こと,また堀 ら(2019)が「特性不安において競技レベルの低い選手の情 緒不安定性が高い」と報告していることに鑑みると,ACの自 我状態に起因する思考や行動は,両群の選手たちの実力発揮 やパフォーマンスに異なる影響を与えている可能性がある。

 デュセイ(2007)は,エゴグラムは個人の心的エネルギー の量を示すとともに,その独特な形から個人のパーソナリティ の理解を可能にする手段となりえると主張している。このこ とを踏まえ,以下ではエゴグラムの高さ,位置および形など に注目して検討を加えることとする。

 レギュラー候補群のエゴグラムはNPとFCの自我状態を頂 点としたM型である。NPの自我状態が周囲への配慮や気配 りの心性であることから,同群の選手たちの他者志向性の強 さがうかがえる。また,高い集中や活動性との正の関連が指

Note) *p<0.05 , d : Small=0.20, Medium=0.50, Large=.080 (水本・竹内,2008)

M SD M SD t df p d

CP 57.52 24.26 50.26 27.88 0.91 46 0.367 0.28

NP 62.52 26.26 67.30 25.99 0.61 46 0.544 0.18

A 50.52 28.12 57.39 25.34 0.89 46 0.378 0.26

FC 64.00 24.94 55.61 28.33 1.09 46 0.284 0.31

AC 51.40 29.52 69.87 22.32 2.42 46 0.018* 0.71

レギュラー候補群(n =25) 非レギュラー候補群(n =23)

CP :義務感,責任感,信念,理想の追求などの側面に関わる心性 NP :受容,思いやり,自他の心身の育成などの側面に関わる心性

A : 論理性,合理性,客観性,計画性などの側面に関わる心性

FC :自主性,活動性,積極性,創造性などの側面に関わる心性 AC :協調性,社会性,妥協,依存などの側面に関わる心性

表 3 競技レベル別にみたエゴグラム得点の平均値の比較 表 2 5 つの自我状態

(4)

摘(中澤,2011)される高位なFCの自我状態は,同群の選手 たちのパフォーマンスにポジティブな影響を及ぼしている可 能性がある。他方,NPに加えACの自我状態を頂点したN型 のエゴグラムを示した非レギュラー候補群では,高位なACの 自我状態から選手の自信の欠如や不安傾向の高さがうかがえ る。この様子は,「高い神経症傾向を持つ者ほど失敗不安や緊 張不安が高く,それを強く感じるような競争場面,緊張場面 では心理的な自己コントロールが難しく,あがりやすい状態 に陥りやすい」と報告した吉井(1992)の研究結果とも重な る。つまり,ACの自我状態に起因する思考・行動様式はパ フォーマンスに対するネガティブな影響力を持つ可能性があ る。

 高位なNPは,競技レベルに関係なく駅伝を主とする長距 離種目に取り組む選手たちに見られる象徴的な自我状態であ ることが示された。駅伝はメンバーが襷を繋ぐことによって 成立する競技である。つまり,個々の選手が競技力向上を追 求する背景には、常にチーム目標の達成がある。そのため,

個人種目でありながらも他者志向的な心性であるNPの自我 状態が育まれるのかもしれない。この傾向は団体種目を専門と する新体操選手においても確認されている(中澤ほか,2018)。

また,大学の陸上競技チームに所属する選手の集団凝集性に ついて調査した宇土・村上(2018)は「競技レベルの高い者 ほど,チームの凝集性の必要性を感じている」と報告してい る。他者尊重が求められる凝集性の強化にはNPの自我状態 の影響力が不可欠となる。これらのことを鑑みると,個人種 目を主とする陸上競技であっても,そこに所属する選手の目 標がチーム目標と一致する場合,所属選手のNPの自我状態 が促進されるようである。

 一方,パフォーマンスに着目した場合,FCと ACの自我状 態に注目する必要がある。先行研究(中澤,2011,2016)で はFCが実力発揮にポジティブな,またACがネガティブな影 響を及ぼす自我状態であると報告しており,本研究でもこの ことを支持する結果が認められた。つまり,駅伝を主とする 陸上長距離選手の実力発揮おいても FCの自我状態が重要な役

割を担っている可能性がある。

Ⅴ.まとめ

 本研究では,エゴグラムを用いて競技レベル別にみた陸上 長距離選手のパーソナリティの特徴について検討した。その 結果,次のことが示された。

1) ACの自我状態に起因する思考や行動は,選手の実力発揮

やパフォーマンスにネガティブな影響を与える。

2) 個人種目を主とする陸上競技であっても,所属選手の目標 がチーム目標と一致する場合,選手たちのNPの自我状態 が促進される。

 ただし,本研究の結果は単一事例から導出されたものであ り,一般化するには無理がある。そのため,今後は更なるサ ンプル数の確保が求められる。また,本研究によって選手の パーソナリティと競技レベルの関係に関する知見を得たが,

このことからパーソナリティとパフォーマンスの関係につい て論じるには限界がある。今後は選手のパフォーマンスや実 力発揮の程度を測定可能な尺度を採用し,その尺度とパーソ ナリティの関係について調査することによって,選手の実力 発揮に関わる心理的要因を同定していく必要がある。

引用・参考文献

1. ジョン,M.デュセイ(2007)エゴグラム:ひと目でわ かる性格の自己診断. 新里里春訳.創元社.

2. 堀弘樹・上田毅・福田倫大・足立達也・尾﨑祐(2019)

陸上競技中・長距離選手の不安とパーソナリティの関係.

広島体育学研究,45:14-21.

3. 桂載作・芦原睦・村上正人(1999)自己成長エゴグラム のすべて―SGEマニュアル. 株式会社チーム医療. 4. 水本篤・竹内理(2008)研究論文における効果量の報告

のために-基礎的概念と注意点-.英語教育研究,31:

57-66.

5. 中澤史(2011)エゴグラム療法によるアスリートへの心 理サポートの検討―自我発達と心理的競技能力および社

0 50 100

CP NP A FC AC

レギュラー候補群 非レギュラー候補群

図 1 競技レベル別にみたエゴグラムの比較

(5)

法政大学スポーツ研究センター紀要

会的スキルの獲得. http://www.kozuki-foundation.or.jp/

ronbun/spresearch/spres06_nakazawa.pdf.(参照日2019 年7月11日).

6. 中澤史(2016)アスリートの心理学.日本文化出版.

7. 中澤史・神谷玲伊奈・博田広樹・土屋有羽・梶内大輝・

佐藤友哉・上野雄己・小野田桂子(2019)新体操選手の 心理特性に関する検討.法政大学スポーツ研究センター 紀要,37:1-10.

8. 清水裕士(2016)フリーの統計分析ソフトHAD―機能の

紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提 案―.メディア・情報・コミュニケーション研究,1:

59-73.

9. 宇土昌志・村上貴聡(2018)大学陸上競技チームの凝集 性の特徴―中国四国インカレ総合上位チームを対象とし て―.山口県体育学研究,61:1-10.

10. 吉井泉(1992)TSMI とMPI からみた長距離選手の心理 的特性―実業団男子駅伝選手を対象として―.中京大学 体育学論叢,33(2):39-46.

参照

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