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大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究 : 自宅外通学者を対象として

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Academic year: 2021

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(1)Title. 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究 : 自宅外通学者 を対象として. Author(s). 小柳, 文彦; 杉山, 喜一; 村田, 芳久. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 55(1): 285-294. Issue Date. 2004-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/344. Rights. 本文ファイルはNIIから提供されたものである。. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 第1号. 平成16年9月. JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.1. September,2004. 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究 一自宅外通学者を対象として−. 小柳 文彦・杉山 喜一*・村田 芳久**. 北海道教育大学大学院. * 北海道教育大学旭川校 体育・スポーツ心理学研究室 **北海道教育大学旭川校 健康スポーツ方法学研究室. 1.目 的 現在のスポーツ選手の食事提供状況を見ると,ジュニアスポーツ選手は,自宅から通学し,家庭に調理担 当者がいるケースが多い.また,ジュニアスポーツ選手の調理担当者に対し「料理する時には,食品の組み 合わせや栄養バランスを考えてつくりますか」と尋ねたところ,90%が「考えてつくる」と回答している(樋 口,1994a).企業スポーツ選手においては,宿舎を与えられ,そこで栄養管理,食事供与が行われている場. 合が多い(樋口ほか,1994b).一方,大学スポーツ選手は,自宅外通学者を中心に,三食とも本人が調理 したり,外食で摂るなど,その内容は個人の好みやわずかな知識に委ねられるというケースが最も多い.そ の結果,食物の栄養素に関して無頓着で,好きなものや簡単に調理できるものを選び,食物を何も考えずに 食べる選手や,鉄・タンパク質の摂取状況が把握出来ず,減量を意識するあまりスポーツ貧血を繰り返す選. 手,自分を飾ることや楽しみに金銭を使い,食費を切り詰めて栄養不足に陥る選手などの例が増加している と言われている(豊岡,1996).このような現状では,試合でベストパフォーマンスを出すことや,競技力. 向上に望ましくない影響を与えることはおろか,健康状態まで崩しかねない.日常生活活動においてコンディ ションを維持するためには,まず,スポーツ栄養学の基本に立脚した食生活がきわめて重要であり,その基 礎知識を身につけ,実践に役立てることによって栄養状態を高いレベルで保つ必要がある(樋口,1998). その為には,個人に対する栄養教育・栄養指導は必要不可欠と考えられる. 大学生で最も多いとされる自宅外通学者の場合,食事は各選手の意思に大きく左右されるため,より良い 栄養摂取に対する動機付けが非常に重要となる.しかし,大学スポーツ選手への栄養教育・栄養指導につい. ての報告は,.選手は合宿所で生活し,栄養専門家が食事もしくは献立を提僕しているケースが中心であり(樋 口ほか,1994b,;石井・樋口,1996;河合・高戸,2001),自宅外通学者に視点を置いた報告は少ない.. 本研究では,自宅外通学者を対象に,栄養サプリメントの継続的提供及び栄養調査結果の速やかなフィー ドバックが栄養摂取状況に及ぼす影響をみることにより,今後の大学スポーツ選手へのより良いスポーツ栄. 養指導のあり方を探るための基礎資料を得ることを目的とした.. 2.方 法 2−1.調査対象者 本研究の対象者は,調査1では,自宅外通学者である大学陸上競技部中・長距離選手9名(男子6名,女. 285.

(3) 小柳 文彦・杉山 喜一・村田 芳久. 子3名),調査2では4名(男子3名,女子1名)を対象者とした. 2−2.調査方法. 表1は調査全体の流れ,表2は栄養摂取状況調査の流れを示したものである. 表1 調査の流れ <調査1>. <調査2>. ・栄養に関する知識提供. 2002年. ・栄養サプリメント摂取. × 7′−9月. 二栄養摂取状況調査(対象調査). 2003年 10月1∼3日. J. J. ・栄養摂取状況調査(課題調査) ・フイ∵ドバック. 2003年. 10∵11月 ・フィードバック. 表2 栄養摂取状況調査の流れ <調査1>. 2003年10月1∼3日 2003年10∼11月 1週目調査. 2週目調査. 5週目調査. J. (課題調査)5週実施. 対象調査の結果を フィードバック. 第1週目の調査結果 をフィードバック. 第4週目の調査結果 をフィードバック. <調査2>. (対象調査)1,回実施 (課題調査)5週実施. 対象調査の結果を フィードバック. 第1週目の錮査結果 をフイードバック. 第4週目の調査結果 をフィードバヅク. 1)調査1 ① 栄養に関する知識の提供及び栄養サプリメント摂取による動機付け. 2002年7月∼8月にかけて,栄養摂取に関する知識の提供及び栄養サプリメント摂取による動機付けを 行った.栄養摂取に関する知識として,対象者は,まず日本体育協会作成のビデオ(スポーツ選手の新ラ イフマネージメント)を視聴し,その後,スポーツ栄養学を専門とする教官からの教育サポートを得た. 次に,トレーニング後の栄養サプリメント摂取を実施した.栄養サプリメント摂取は事前に運動後の速や. かな糖質とタンパク質摂取が筋肉疲労の軽減・回復に役立つという科学的根拠(Okamura,1997)を説 明した上で,2002年7月16日から8月31日の47日間,1日1本を目安として実施された.使用した栄養サ プリメントには,容易に手に入り且つ摂取しやすい製品であるジョグメイトプロテイン(エネルギー. 100kcal,タンパク質10g,脂質3.3g,糖質7g;大塚製薬㈱)を用いた.また,栄養サプリメント摂取 終了後,意識調査を実施した.. 286.

(4) 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究. ② 栄養摂取状況調査. 栄養摂取状況調査は栄養サプリメント摂取期間前,摂取開始24日後および摂取期間後の3回(2002年7 月∼9月)および2003年10月∼11月の5週にわたり実施された.栄養摂取状況調査は聞き取り方式(田村 ほか,1998)により,行った.すなわち対象者に3日間の食事内容右食事調査記録用紙に記録してもらい, 正確さを期すために面接して聞き取り;栄養摂取量を算出した.なお,食事調査内容の集計及び各栄養素 の摂取量の算出は栄養計算ソフト「ヘルシーダイエツ\トⅢversionl.0.0」を用いて行った.. ③ 栄養摂取状況調査のフィードバック. 2003年の5週間にわたる調査(以下課題調査と称する)において,1週前の栄養摂取状況調査結果を充 足率と食事内容改善の為のアドバイスを示した上で本人にフィードバックした(第1週目は2002年7∼9. 月の栄養摂取状況調査結果を返却した).フィードバック効果は,フィードバックをしなかった2002年7 ∼9月の栄養摂取状況調査結果(以下対象調査と称する)を対象に課題調査と比較検討した.さらに,9 名の対象者を,専門の調理担当者がおり自分で食事を選ぶ必要のない下宿者(3名)と,食材選びから自 分でおこなう自炊者(6名)に分けて検討した.. 2)調査2. 栄養摂取に関する知識の提供な′どの動機付けをせずに,調査1と同様の方法で栄養摂取状況調査のフィー ドバックのみを4名の対象者に行った.フィードバック効果は2003年10月初旬(3日間)を対象調査とし, 調査1と同じく2003年の5週間にわたる調査(以下課題調査と称する)と比較検討した. 2−3.栄養所要量の策定. 各対象者のエネルギー所要量は,練習を行っていない日は生活活動強度Ⅱとして算定し(高橋ほか,2000), 練習を行った日に関しては,先行研究を参考にその日の走行距離に応じて算出した(水沼ほか,1997;田口・ 金子,1996b)(表3).タンパク質所要量は体重当たり2.Ogとし(柳沢・大石,1998;田口,1996a),エネ ルギー比率は,樋口氏(1998)により報告されているアスリート推奨値(炭永化物:60%,脂肪25%,タン パク質15%)と同様になるように設定した.カルシウム及び鉄の栄養所要量は第六次改定栄養所要量の約2 倍(田口,1996a;田口・金子,1996b)とした(表4).. 2−4.達成度の算出 各栄養素の摂取量の評価は,達成度(ポイント)で表し,以下の式を用いて換算した・個人に対応して設 定した栄養所要量は目標値であり,不足しても過多であっても好ましくない.したがって,摂取量不足であっ ても,栄養所要量を越えても上回っても(過剰摂取),ポイントは減少する.. 達成度(ポイント) =100−】100−(摂取量/栄養所要量)・100】. 2−5.統計学的処理. 有意差の検定は,対象調査と課題調査間における平均値の差の検定には対応のあるt検定を用い,自炊者 と下宿著聞における平均値の差の検定には対応のないt検定を用いた.また統計学的な有意水準は危険率 5%以下とした.. 287.

(5) 小柳 文彦・杉山 喜一・村田 芳久. 表3 走行距離に応じたエネルギー所要量 (例1)対象者A (性別:見身長=173cm,体重:53kg,BMI:17.7) Okm 2200kcal lkm 2265kca1 9km 2785kcal. 17km 3305kcal. 25km 3875kca1. 33km 4475kca1. 2km 2330kca1. 10km 2850kcal. 18km 3370kcal. 26km 3950kca1. 34km 4550kca1. 3km 2395kca1. llkm 2915kcal. 19km 3435kca1. 27km 4025kca1. 35km 4625kca1. 4km 2460kca1. 12km 2980kcal. 20km 3500kca1. 28km 4100kca1. 36km 4700kca1. 5km 2525kca1. 13km 3045kcal. 21km 3575kca1. 29km 4175kca1. 37km 4775kca1. 6km 2590kca1. 14km 3110kcal. 22km 3650kca1. 30km 4250kca1. 38km 4850kca1. 7km 2655kca1. 15km 3175kcal. 23km 3725kca1. 31km 4325kca1. 39km 4925kca1. 8km 2720kcal. 16km 3240kcal. 24km 3800kcal. 32km 4400kcal. 40km 5000kcal. (例2)対象者B (性別=女身長:158cm,体重:46kg,BMI:18.4) Okm 1800kcal lkm 1835kca1. 9km 2115kcal. 17km 2395kcal. 25km 2875kca1. 33km 3475kca1. 2km 1870kca1. lOkm 2150kcal. 18km 2430kcal. 26km 2950kca1. 34km 3550kca1. 3km 1905kca1. llkm 2185kcal. 19km 2465kca1. 27km 3025kca1. 35km 3625kca1. 4km 1940kca1. 12km 2220kcal. 20km 2500kca1. 28km 3100kca1. 36km 3700kca1. 5km、1975kca1. 13km 2255kcal. 21km 2575kca1. 29km 3175kca1. 37km 3775kca1. 6km 2010kca1. 14km 2290kcal. 22km 2650kca1. 30km 3250kca1. 38km 3850kca1. 7km 2045kca1. 15km 2325kcal. 23km 2725kca1. 31km 3325kca1. 39km 3925kca1. 8km 2080kcal. 16km 2360kcal. 24km 2800kcal. 32km 3400kcal. 40km 4000keal. 表4 栄養所要量 タンパク質 カルシウム (g/kg体重). 一般成人. 鉄. (mg). (mg). 男:700. 男:10. 女:600. 女:12. 1.01 (18歳∼29歳). 対象者. 2.0. 1200 一般成人:第六次改定栄養所要量. 3.結 果 3−1/栄養に関する知識の提供及び栄養サプリメント摂取による動機付け. 図1は,調査1において2002年7月∼8月にかけて,栄養摂取に関する知識の提供及び栄養サプリメント 摂取による動機付けの効果を検討するために実施された栄養摂取状況調査(栄養サプリメント摂取期間前,. 摂取開始24日後および摂取期間後の3回)から得られたエネルギー摂取量の達成度を示したものである.栄 養サプリメント摂取前に行った第1回の栄養摂取状況調査におけるエネルギー摂取量の達成度は76.2ポイン トであり,第2回(7、4・9ポイント)および第3国(65.1ポイント)ゐ調査結果との問に有意な差は,認めら れなかった.. 3−2.栄養摂取状況調査結果のフィードバック効果 1)調査1. 図2は対象調査と課題調査の達成度を示したグラフである.. 課題調査のエネルギー摂取量(84.3ボインりは,対象調査の75.6ポイントより,有意に高かった(P<. 288.

(6) 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究. 0.01).タンパク質摂取量では,課題調査(94.9ポイント)が対象調査(76.0ポイント)より高い傾向にあっ た(P<0.10).炭水化物では,対象調査の摂取量が59.1ポイントであったのに対して,課題調査では69・7 ポイントであり,有意に高い値であった(P<0.01).鉄分およびカルシウム摂取量においても,課題調査 の達成度の方が,対象調査より有意に高かった(ともにP<0.01).一方,脂質の摂取量は,対象調査およ び課題調査どちらも過剰摂取であり,両調査結果の間に有意な差はみられなかった. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9 00 7 6 5 4 3 2 1. ポイント. 第1回. 第2回. 第3回. (2002年7月9∼11日)(2002年8月8∼10日)(2002年9月2∼4日). 図1エネルギー摂取量の達成度の推移(調査1:対象調査). (脂質のみ過剰摂取によるポイント). エネルギー タンパク質 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄. 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 ポイント. apく0.10,**Pく0.01. 図2 対象調査と課題調査の達成度(調査1). 図3に,栄養摂取状況調査における各栄養素の達成度の推移を示した.. 課題調査の栄養摂取状況の推移を全体的に見ると,3週目をピークに4∼5週目では平均値が低下してお り,一定の傾向は得られなかった.. 図4は,各栄養素において下宿者の達成度を示したものである.タンパク質摂取の達成度は,対象調査の 75.8ポイントに対して,課題調査では89.1ポイントと高い傾向にあった(P<0.10).課題調査のカルシウ. ム摂取における達成度(49.9ポイント)は,対象調査(36.1ポイント)に比べて有意に高い値(P<0.05) であった.エネルギー ,炭水化物,脂質および鉄分の達成度では,有意な差はみられなかった. 図5は,自炊者の各栄養素の達成度を示したものである.エネルギーの達成度は,対象調査(78・2ポイン ト)と比較して課題調査(87.5ポイント)は,高い傾向にあった(P<0.10).また,自炊者のエネルギー の達成度は,下宿者に比べて有意に高い値(P<0.05)であった.課題調査における炭水化物の達成度(71・1 ポイント)は,対象調査(60.6ポイント)に比べて有意に高かった(P<0.05).カルシウムの達成度は,. 289.

(7) 小柳 ′文彦・杉山 喜一・村田 芳久. 対象調査では51.6ポイントであったが,課題調査では72.7ポイントであり,課題調査の方が高い傾向にあっ た(Pく0.10).鉄分の達成度のおいても課題調査(59・6ポイント)の方が対象調査(43・5ポイント)より も有意に高い値(P<0.05)を示した.また,タンパク質および脂質の達成度では,両調査の間に統計学的 有意差は認められなかった.. (脂質のみ過剰摂取によるポイント). 対象調査. 第1週. 第2週. 第3週. 第4週. 第5過. 図3 達成度の推移(調査1). エネルギー タンパク質 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄 0 10. 20. 30. 40. 50. 60. 70. 80 90 100 ポイント. a. Pく0.10,*Pく0.05. 図4 対象調査と課題調査の達成度(調査1:下宿著). (脂質のみ過剰摂取によるポイント). エネルギー タンパク質 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄 0 10. 20. 30. 40. 50. 60. 70. 80. 90 100. apく0.10,*Pく0.05. 図5 対象調査と課題調査の達成度(調査1:自炊者). 290.

(8) 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究. 2)調査2. 図6は,栄養摂取状況調査における各栄養素の達成度の推移を示した.課題調査の栄養摂取状況の推移を 全体的に見ると,3週目までは全体的に達成度は上昇するが,4∼5週では下降していた. 図7は,調査2における対象調査と課題調査の達成度を示したグラフである.エネルギーの達成度は,対 象調査の81.3ポイントに対レ課題調査では84.1ポイントであり,課題調査の方が高い傾向にあった(P< 0.10).しかし,タンパク質,炭水化物,脂質,カルシウムおよび鉄分の達成度では,課題研究と対象研究 の間に有意差はみられなかった.. ポイント. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1. (脂質のみ対象調査・1・2・3・5週は過剰摂取によるポイント). 対象調査. 第1週. 第2週. 第3週. 第4週. 第5週. 図6 達成度の推移(調査2). (脂質のみ過剰摂取によるポイント). エネルギー タン/くク質. 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄 0. 10. 20. 30. 40. 50 ポイント. 60. 70. 80. 90 100. a Pく0.10. 図7 対象調査と課題調査の達成度(調査2). 3)陸上競技実業団チーム内での栄養摂取状況(参考資料として). 対象者の1名が本研究調査終了後に陸上競技実業団チームの合宿練習に参加し,栄養専門家がプログラム した食事の提供(以下,実業団)を受けた.そこで,実業団での食事摂取内容と本研究の課題調査とを比較・ 検討した(図8).その結果,エネルギーにおける達成度は,課題調査の86.7ポイントに対して,実業団で は96.7ポイントとかなり高い値を示した.タンパク質に関しては,課題調査での達成度が87.1ポイントであっ たのに対し,実業団では5. り多くのタンパク質(体重1kgあたり3g)を摂取していた.脂質の達成度では,課題調査の78・4ポイン トに対し,実業団では88.1ポイ′ントと高い値を示した.どちらも過剰摂取であったため,実業団の方が,よ. 291.

(9) 小柳 文彦・杉山 喜一・村田 芳久. り達成度に近い脂質の摂取量であった.炭水化物の達成度では,課題調査の66.1ポイントに対し,実業団で. は78・6ポイントと高い値を示した・カルシウムおよび鉄分の達成度に関して,実業団の達成度は過剰摂取の ポイントであり,実業団の合宿練習ではかなり多くのカルシウムおよび鉄分を摂取していた. (課題調査の脂質,陸上実業団のタンパク質・脂質・カルシウム・鉄は過剰摂取によるポイント). エネルギー たんばく質 脂質 炭水化物 カルシウム 鉄 20. 0. 40. ポイント. 60. 80. 100. 図8 陸上競技実業団チーム内での食事との比較. 4.考 察 4−1.栄養に関する知識の提供及び栄養サプリメント摂取による動機付け. 調査1において,栄養サプリメント摂取期間前,期間中および期間後の3回にわたり実施した食事調査か ら得られたエネルギー所要量はすべてにおいて不足していた.また,達成度の推移には有意差はなく,栄養 に関する知識の提供及び栄養サプリメント摂取は栄養摂取状況の改善に効果を示さなかった. しかし,7週間に及ぶ栄養サプリメント摂取の意識調査を行った結果,「以前よりも自己管理を徹底する. ようになった」,「練習後のプロテイン摂取の有無に関わらず,出来るだけ早く食事を摂るように心がけた」, 「個人,及びチーム力の向上のためにもこのような栄養学習を定期的に行うべきだ」など肯定的な感想が多 く,否定的な意見・感想は見られなかった.また,継続を望む要望が多数あったことから栄養摂取の大切さ に関する意識の向上は見られた可能性が考えられる.しかし,栄養素摂取の基本となる食事が疎かにされ, 栄養状態が悪ければ,トレーニング効果は充分に期待出来ないことから,トレーニング後の栄養サプリメン ト摂取を継続しても十分な効果を得るこ七は難しいと考えられる.このような結果から,栄養補助食品の効 果を期待する前にまず三食の栄養状態を改善することが重要であることが改めて確認された.. 4−2.栄養摂取状況フィードバック効果 1−)調査1(知識提供・動機付け・栄養摂取状況のフィードバック). 自己の栄養摂取状況を把捉することが,達成度の変化に影響を及ぼすかを検討する目的で,栄養摂取状況 調査の結果を随時返却した課題調査と調査結果を知らされていない対象調査とを比較・検討した.. 対象調査と課題調査を比較すると,エネルギー,炭水化物,カルシウムおよび鉄において達成度は有意に 上昇した・しかし,脂質の達成度には変化が認められず,過剰摂取のポイントであった.脂質摂取に関して は改善が見られなかったが,脂質摂取量を上げずに他の栄養素摂取量が改善していることから,総合的な栄 養摂取状況は改善傾向であったと考えられる・しかし,課題調査の栄養摂取状況の推移を全体的に見ると,. 3週目をピークに4∼5週では平均値が下がっており一定の傾向は得られなかった.このことから,栄養摂 取状況のフィードバックにより,達成度に関して短期間の上昇は見られるが,その効果は継続的ではなく,. 292.

(10) 大学陸上競技中・長距離選手への栄養教育に関する研究. 栄養摂取状況のフィードバックと併せて何らかの定期的な栄養摂取に関する教育的刺激が必要であると考え. られる.. 次に,専門の調理担当者がおり自分で食事を選ぶ必要のない下宿者(3名)と,食材選びから自分で考え る自炊者(6名)に分けて検討した結果,下宿者では,タンパク質において達成度は上昇傾向が見られ,カ ルシウムにおいて達成度は有意に上昇した.一方,自炊看ではエネルギー,炭水化物,カルシウム,鉄にお いて達成度は有意に上昇した.またエネルギーでは,下宿者よりも自炊者において有意に高い値を示した. これらの結果は,自炊者に比べ下宿者は栄養摂取状況が改善されにくいことを示している.下宿者は基本 的には食事の内容を自分で変えることが出来ないため,フィードバックの結果を有効に利用できない可能性 が高いことが推察される.次に,脂質の摂取状況を見ると,下宿者は目標値に近い状態であるのに対し自炊 者は過剰摂取状態にあった.自炊者は外食や単品で済ます傾向があり,脂質の過剰摂取につながっていると 考えられる.したがって,脂肪摂取を抑えながらタンパク質摂取量を増やしていけるような食事の選び方の 指導が大切であると考えられる.一方,下宿者は主食のおかわりなど,炭水化物摂取量を増やしていき,不 足分は間食などで補う工夫をすることが必要と考える.. 2)調査2. 調査2では,栄養に関する知識提供及び栄養サプリメントによる動機付けをしていない部員4名に対し, 栄養摂取状況調査のフィードバックのみをおこない,その影響について検討した.. 課題調査の推移を見ると,調査1と同様に3週目までは全体的に達成度は上昇する傾向があるが,4∼5 週では下降していた.また対象調査と課題調査を比較すると,エネルギー以外の栄養素に関しては有意な差 は見られなかったが,エネルギーにおいて,調査2において達成度が上昇する傾向が見られた.しかし,脂 質の摂取量をみると調査2の課題調査では,始めから過剰摂取であったにも関わらず,更に摂取量が増える 傾向が認められ,脂質の摂取量の増加がエネルギー量の上昇を反映していた.エネルギーバランスが乱れた. 状態でのエネルギー量の充足は望ましいとは言えない.また,スポーツ選手にとって脂質の過剰摂取は,体 脂肪の蓄積を促し,パフォーマンスの低下に繋がる恐れがあることから,問題である.本調査結果から栄養 状況調査のフィードバックのみでは,栄養教育的効果は得られにくいことが示唆された.. 3)陸上競技実業団チーム内での栄養摂取状況. 栄養専門家がプログラムした陸上競技実業団チームの食事は,脂質は控えめで,タンパク質,炭水化物, 鉄分およびカルシウムにおいて,かなり多くの量を提供していた.特に,タンパク質,鉄分およびカルシウ ム摂取に関しては,本研究において算定した陸上中・長距離選手の目標摂取量をかなり上回る量であった. 激しいトレーニングをおこなう選手は,脂質以外の栄養素を通常より多く摂取するが必要である.実業団チー ムの食事内容は,その点を十分配慮したものであった.これに対して,本調査対象者の課題調査における各 栄養素の摂取量は,知識提供,動機付けや栄養摂取状況のフィードバックによる初期の改善効果が認められ てはいるが,全体的に不足傾向であった.これらの結果の背景には,学生スポーツ選手の栄養学的知識の不. 足や動機付け希薄さの問題だけではなく,経済的問題や調理法に関する知識や技術の未熟,またそれに付随 する手間や時間など問題なども大きく関係すると推察される.. 5.ま と め 本研究では,自宅外通学の大学陸上競技部中・長距離選手を対象に,栄養に関する知識の提供及び動機付. 293.

(11) 小柳 文彦・杉山 喜一・村田 芳久. けを行うことにより,栄養状態のレベルをあげ,より良いコンディションの維持に貢献することを目的とし た.. 栄養摂取に関するビデオの視聴,スポーツ栄養学を専門とする教官からのサポートにより栄養に関する知 識を与え,また栄養サプリメント(ジョグメイトプロテイン)を摂取することで,栄養摂取状況改善に向け ての動機付けを行ったが,栄養摂取状況は改善されなかった・そこで,栄養摂取状況調査を実施し,その結 果をフィードバックすることで栄養摂取の改善を図った結果,栄養状態の一部は改善されることが示された. しかし,同時に栄養摂取状況調査のフィードバックのみでは継続的な効果は得られにくいことも示された.. 今後の課題として,栄養に関する正しい知識を与えた上で,長期的調査を実施し,栄養摂取状況調査結果 のフィードバックを重ねること,さらに新たな栄養的情報の刺激を追加していくことで,正しい食行動の習. 慣化へ導く方法を提示することがあげられる.. 参考文献. 石井恵子・樋口満(1996)レベル別にみた栄養サポート活動社会人・大学ボート・臨床スポーツ医学Vol,13 臨時増刊号 :321−326.. Okamurakoji,Doitatsuya・Hamadakoichiro,Sakuraimasao・Matsumotokeitaro,Imaizumikiyoko,Yoshiokayasuyuki,Shimiz. SeiichiandSuzukimasashige(1997)Effectofaminoacidandglucoseadministrationduringpostexerciserecoveryon proteinkineticsindogs.AmJ.Physiol.272:ElO23−ElO30.. 河合志穂・高戸良之(2001)大学男子長距離選手の食事摂取状況および食事指導の効果に歯する検討.ShidaxRes。ar。hV。1,1 :33−38.. 健康・栄養情報研究会(1999)第六次改定日本人の栄養所要量食事摂取基準.第一出版:東京. 高橋啓子・大谷八峯・吉村幸雄・志塚ふじ子(2000)第六次改定日本人の栄養所要量に準拠した生活活動強度別・、身長別栄養 所要量(試案).栄養学レビュー 8(2):8卜88. 田口素子(1996a)スポーツ選手の食事一長距離ランナーの食事−.体育の科学Vol.46(9):719−725. 田口素子・金子ひろみ(1996b)長距離ランナーの栄養サポート.臨床栄養Vol.89N。6(11):73卜736. 田村明・城田知子・平戸八千代(1998)イラスト栄養学総論.東京教学社:東京p.134. 豊岡示朗(1996)レベル別に見た栄養サポート活動 陸上長距離(大学生選手).臨床スポーツ医学(13):312−314. 樋口満(1994a)ジュニア期のスポーツライフに関する研究一第1報−・平成6年度日本体育協会スポーツ医・科学研究報告 No.Ⅳ:43−50.. 樋口満・石井恵子・井上喜久子・村上照美・田・中あゆみ・柳沢香絵(1994b)ジュニア期のスポーツライフに関する研究一第 1報−.平成6年度日本体育協会スポーツ医・科学研究報告No.Ⅳ:76−85. 樋口満(1998)現場に生かすスポーツ栄養学.体育の科学(10):839−840. 水沼俊美・菊石五月・坂井堅太郎・山本茂・山上文子・木路修平・河野匡・川野因・高橋保子(1997)一流・長距離走選手の 栄養指導.体力科学(46):383−388.. 柳沢香絵・大石邦枝(1998)からだづくり タンパク質・アミノ酸.体育の科学(11):917−922.. (小柳 文彦 旭川校大学院生). (杉山 喜一、旭川校 助教授) (村田 芳久 旭川校 助教授). 294.

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参照

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