[別紙-2]論文
区分地上権の設定補償について
鈴木美南子
1・坂本真由美
2 1南部国道事務所 用地第一課(〒900-0001 沖縄県那覇市港町2-8-14) 2南部国道事務所 用地第一課(〒900-0001 沖縄県那覇市港町2-8-14) 一般国道331号改築(中山改良)事業における取得用地の中に南城市中山財産区所有 の土地があり、その地下にトンネルを設置することとなることから、トンネル設置部に区 分地上権設定を行い地下部分の使用制限に対する補償を行う事例である。 キーワード 区分地上権設定、用地買収 1. はじめに (1)公共事業における用地補償の重要性 道路事業等の公共事業を施行するためには、用地の確 保が重要となってくる。私有財産制度の我が国では事業 予定地は、例外を除き、必ず、私人の所有となっている からである。この私有財産については、憲法第29条第 1項で「財産権は、これを侵してはならない。」と定め、 何人も侵すことのできない不可侵の権利とされている。 一方で、憲法29条第3項では「私有財産は、正当な補 償の下にこれを公共のために用いることができる」と定 めており、この規定が、公共事業における用地取得の正 当性を根拠付けるものとなっている。さらに、この憲法 の規定を受け、土地収用法や国土交通省の損失補償基準 等では公共事業のための土地の収用及び補償手続き等の 要件や効果等を詳細に規定し、公共の利益の増進と私有 財産との調整を図っている。 (2)公共事業における「権原取得」の方法 このように公共事業における用地の確保、すなわち 「権原の取得」は、工事の実施や将来的な供用・管理の 前提条件となるため、重要な事柄となってくる。 権原 とは、「ある行為を正当化する法律上の原因」とされ、 土地に関して言えば、所有権、賃借権、地上権、地役権 等があげられる。 公共事業における権原の取得は、適正な公物管理の観 点から、土地を全面的に支配し、排他性の強い権利であ る「土地所有権」を土地売買契約により取得するのが一 般的である。なお、土地の取得にあたっては、土地所有 権以外の権利である借地権や漁業権等の「権利の消滅」 を行う場合もあることに留意する必要がある。また、土 地区画整理事業と道路事業が同時期に施行される場合に は、公共施設管理者負担金制度を活用し、換地処分に よって道路用地の権原を取得する方法もある。このよう に公共事業の施行の際には、工事等の実施前に土地所有 者等から権原を取得するのが一般的であるが、例外とし て、土地収用法第122条及び災害対策基本法による非常 災害時の土地の使用については、条件付きながら権原取 得前の通知による緊急使用制度もある。これらの緊急使 用の際に損失等が発生すれば補償することは言うまでも ない。 (3)法律で定める土地に関する権利の種類 権利の種類は、民法では概ね以下に分類されている。 物権 ≪物に対する直接的・排他的支配権≫ ① 所有権(民法206条)②地上権(同265条)③地下 又は空間を目的とする地上権(同269条の2)④永 小作権(同270条)⑤地役権(同280条) 債権 ≪他人に一定の行為を要求する権利≫ ① 賃借権(同601条) ②使用貸借権(同539条) 物権と債権の主な違いは、物権が「物」を直接支配し、 すべての人にその権利を主張できる排他性を有している のに対し、債権は、特定の人に対して、特定の行為を請 求する権利であり、排他性を有しない。 その他の法令で定める権利として、以下のものがある。 ○借地権 (借地借家法) ○区分所有権 (建物の区分所有等に関する法律) ○鉱業権(鉱業法) ○採石権(採石法) ○大深度地下使用権([大深度地下の公共的使用に関す る特別措置法)2. 中山改良における区分地上権設定の必要性 (1)中山改良事業の概要 当該事業は、延長約1.8kmの防災対策事業である。 中山改良に並行する国道331号は、地滑り危険箇所に 囲まれており、落石、土砂流出といった災害等が繰り返 し発生している地域である。また、地形が急峻のため幅 員が狭く、線形不良に伴い大型観光バス等の大型車のす れ違いが困難な箇所であるため、当該地域を整備し、災 害時の通行の確保(迂回路的役割)や道路の線形改良を 行うことにより円滑で安全な交通を確保することを目的 として事業をおこなっているものである。 図-1中山改良事業の概要図 (2)区分地上権設定の経緯 今回、区分地上権を設定した理由として、当該個所は、 土地所有者である中山財産区からトンネル上部を祭事等 で利用したいとの要望を踏まえつつ、事業者としては、 トンネルの構造物の適切な維持管理のため、第三者に対 抗できる権原を取得する必要があった。そのため土地所 有者及び事業者双方の条件を満足する権原の取得方法を 検討したところ、民法第269号条の2に基づき区分地上権 を設定することが最も適切であると判断した。 (3)区分地上権とは何か 地下又は空間に上下の範囲を設定し、工作物、立木等 を所有するために設定される権利をいう。区分地上権を 設定すると当該設定区域の権原を取得しつつ、地上面の 使用に制限を加えることができ、トンネルや送電線等を 建設・管理するために設定されることが多い。 3. 区分地上権設定範囲及び制限荷重 区分地上権の設定の範囲及び制限荷重については、ト ンネル区間における技術的検討資料及びほかの補償事例 等を参考に決定した。 (1)区分地上権設定の範囲(※4.で詳細説明記述) ・施設上部:トンネル最頂部から鉛直の上方向に12.9m ・施設下部:トンネル最底部から鉛直の下方向に0.5m ・設 定 幅:ロックボルトの先端から4.5m (2) 制限荷重について トンネル頂面における耐力は、数値で明確に表現する ことはできないが、トンネル上に無制限に大きな荷重を かけられると、トンネル施設が崩壊する恐れが十分に考 えられる。また、保護層の上に2階建て以上の建物を建 築しようとすると、杭等を打設する可能性が生じ、保護 層を侵すことが懸念される。その為、2階建て以上の建 築を制限する目的から、1階当たりの重量である2t/ ㎡を制限荷重とする。 制限荷重2t/㎡の値の設定に当たっては、一般的な コンクリート造りの建物の1階層の荷重が2t/㎡を超 えるものではないこと、また、いくつかの事例において も1階2t/㎡とされていることから、最大2t/㎡が妥 当であるとして定めた。 4. 中山トンネルに求められる保護領域 中山トンネルは、地山強度比の小さい島尻泥岩内に計 画されている。当該地域は、宅地開発が活発に行われる 地域ではないなどの地域性や中山財産区の土地について は、将来建物等の建設の予定がないことを理由に、ここ では、必要最低限の範囲として1D≒12.9mと設定する。 また、側方についても、トンネル掘削径に等しい範囲 (前述の1D)を積極的に保護領域とすることは、土地 利用を過度に制限することにも繋がりかねないため、ト ンネル構造物を直接保護するという視点から、ロックボ ルト+施工余裕程度(今回は0.5mとする)を確保して おけばよいと考える。下方についても、同様に施工余裕 程度の0.5mを確保する。 下方: 施工余裕0.5m 保護領域 側方:4.5m (ロックボルト4.0m+余裕幅0.5m) 1D≒12.9m 上方: 1D≒12.9m ( 保 護 領 域 ) 区 分 地 上 権 設 定 範 囲 図-2 中山トンネルの保護領域の設定
5. 補償額算定方法 (1)地下使用に係る補償基準等について 地下使用に係る補償の取り扱いについては、以下のよ うに定められている。 ≪国土交通省損失補償基準第26条≫ ≪国土交通省損失補償取扱要領第5条≫ ≪土地利用制限率算定要領第2条≫ (2)中山地区における基準等の適用について 当該地の属する地域は、算定要領第2条第2号に定め られた「高度市街地以外の市街地及びこれに準ずる地 域内の宅地または宅地見込地」に該当し、ゆるやかに 宅地化へと移行しつつある地域であることから、宅地 見込地と認定した。 別表第1 土地の立体利用率配分表 上記配分表より、当該地の立体利用率は、以下のとお りとなった。 ① 建物利用率 60% ② 地下利用率 30% ③ その他利用率10%(上下配分割合4:1) 次に、算定要領第3条及び第4条により、当該地の各 利用制限率を求めることとした。 ≪算定要領第3条≫ 図-1 中山トンネル保護領域 (空間又は地下の使用に係る補償) 第26条 空間又は地下の使用に対しては、前条の 規定により算定した額に、土地の利用が妨げられる 程度に応じて適正に定めた割合を乗じて得た額を もって補償するものとする。 2 前項の場合において、当該空間又は地下の使用 が長期にわたるときは、同項の規定にかかわらず、 第9条の規定により算定した当該土地の正常な取引 価格に相当する額に、当該土地の利用が妨げられる 程度に応じて適正に定めた割合を乗じて得た額を一 時払いとして補償することができるものとする。 第5条 基準第26条(空間又は地下の使用に係る 補償)は、次により処理する。 1 同条に規定する空間又は地下の使用に係る補償 額は、別記2土地利用制限率算定要領の定めるとこ ろにより算定するものとする。 (土地の利用価値) 第2条 土地の利用価値は、地上及び地下に立体的 に分布しているものとし、次の各号に掲げる土地の 種類に応じ、当該各号に掲げる利用価値の合計とす ることを基本とし、それぞれの利用価値の割合は、 図-3 区間別保護領域 (土地利用制限率の算定方法) 第3条 土地の利用制限率は、次式により算定 するものとする。 1 前条第1号の場合 (前略) 2 前条第2号の場合 建物による利用価値の割合×B/A +地下の利用割合×p +その他の利用価値の割合×α 別表第1「土地の立体利用率配分表」に定める率を標 準として適正に定めるものとする。 1 高度市街地内の宅地(省略) 2 高度市街地以外の市街地及びこれに準ずる地域内 の宅地又は宅地見込地 建物による利用価値、地下の利用価値及びその他 の利用価値 3農地又は林地(省略)
≪算定要領第4条≫ イ.建物利用制限率 当該地は、南城市役所の南方約1kmに位置し、中 山集落に隣接し、南向け傾斜の山林・原野の広がる宅 地見込地であるが、国道との接近性が良好なうえ、中 山集落へ繋がる道路も整備されている。建物が建築さ れた土地も見受けられ、宅地化へと移行しつつある地 域であり、都市計画法上、特定用途制限地域の居住環 境保全地区となっており、健ぺい率70%、容積率2 00%となっている。 算定要領第4条各項を総合的に勘案した結果、近隣並 びに周辺部における土地利用の状況や建ぺい率、容積 率から最有効使用を2階と想定した。 よって、建物利用制限率は、算定要領第3条第2項に より以下のとおり算定した。 0.6 × 1/2 = 0.3 ロ.地下利用制限率 地下に対する阻害率は、保護層への杭打ちのほか、 地盤の掘削等を禁止することから100%とした。 よって、地下利用制限率は以下のとおり算定した。 0.3 × 100% = 0.3 ハ.その他の利用制限率 地下部分が阻害されることから、算定要領別表第 1に定められたその他利用率に地下の配分割合を 乗じ、その他の利用制限率とした。 0.1 × 1/5 = 0.02 ニ.土地利用制限率の決定 イ+ロ+ハ=0.3+0.3+0.02=0.62 ホ. 補償額の決定 以上の計算により、対象不動産の土地価格に0.62を 乗じて求められた価格をもって、区分地上権設定の対価 とした。 6. 区分地上権の設定期間について 民法上、物件(構造物)は有限(耐用年数がある。)と されていることや、道路管理上の必要性及び他の補償事 例等の調査結果等も踏まえ、「トンネルが存続している 期間」とした。 7. 土地の使用制限について 土地所有者においては、地上利用を可能としつつもト ンネル管理上、以下の制限を課すこととした。 ① 土地を掘削し、または形質を変更しないこと。 ② 権利設定範囲の上限において1㎡につき2t 以上の 荷重をかけないこと。 ③ 土地にトンネルの維持管理の障害になる建物及び工 作物を設置しないこと。 ④ 土地に建物及び工作物を設置する場合、その設計及 び工法について事前に協議すること。 8. 租税特別措置の適用について 通常、公共事業により資産等を国等に譲渡した場合 には、一定の条件の下、特別控除等の適用があるが、区 分地上権設定にともなう補償金(権利金)が土地価格の 4分の1以下の場合には、譲渡取得ではなく、不動産収 入とみなされるため、収用等の場合の課税の特例(5千 万円控除)が受けられないことになる。(所得税法施行 (建物利用における各階層の利用率) 第4条 前条に規定する建物利用における各階 層の利用率を求める際の建物及び用途は、原則 として、使用する土地を最も有効に使用する場 合における階数及び用途とするものとし、当該 階数及び用途は、次の各号に掲げる事項を総合 的に勘案して判定する。 1 当該地域に現存する建物の階数及び用途 2 当該地域において近年建築された建物の標 準的な階数及び用途 3土地の容積率を該当土地の建坪率で除して得 た値の階数 4 当該地域における都市計画上の建坪率に対 する標準的な実際使用建坪率の状況 5 当該地域における用途的地域 6 当該地域の将来の動向等 3 前条第3号の割合 (前略) A 建物利用における各階層の利用率の和 B 空間又は地下の使用により建物利用が制 限される各階層の利用率の和 p 地下の利用がなされる深度における深度 別地下制限率 α 空間又は地下の使用によりその他利用が 制限される部分の高さ又は深さによる補正 率(0~1の間で定める)
令第79条)、ただし、今回の場合は、土地価格の4分 の1以上となるため、課税の特例が受けられることに なった。 9. 登記関係について 区分地上権設定は、権利登記によって行うが抵当権と同 様、権利については、一筆全部にかかることから、区分 地上権の設定範囲を分筆した後に権利設定を行う必要が ある。 なお、登記簿の記載事項は下記のとおりとなる。 10. おわりに 南部国道事務所では、これまで多くの改築事業等を行っ てきており、その殆どの事業用地について所有権の取得 を行ってきたところです。今回の区分地上権設定という 権原の取得方法は非常にまれな事例ではありますが、今 回の業務をとおして、私自身、大いに勉強になり、公共 事業における用地取得の重要性を再認識するとともに、 今後の仕事に活かしていきたいと思います。 参考文献 ・「用地取得と補償 新訂第6版」 ・「公共用地の取得に伴う用対連基準の解説」 ・「大深度地下空間に対する土地所有権の限界」 ・「道路法解説 改訂4反」 【区分地上権設定の目的】 トンネル設置のため 【範 囲】東京湾平均海面の上○○○○メートルから 東京湾平均海面の上○○○○メートルの間 【地代】無償 【特約】(1)東京湾平均海面の上○○○○メートルから 東京湾平均海面の上○○○○メートルの間 を掘削し、又は形質を変更しないこと。 (2)東京湾平均海面の上○○○○メートルにお いて1平方メートルにつき2トン以上の荷 重をかけないこと。 (3)土地所有者は、トンネルの維持管理の障害 となる建物及び工作物を設置しないこと。 (4)土地所有者は、建物及び工作物を設置する 場合は、道路管理者に対し、設計及び工法 について事前に協議するものとする。