は じ め に
副鼻腔真菌症は,耳鼻咽喉科領域における深在性真菌 症として最も重要なものであり,重篤な症状を呈する 浸潤性(invasive)と限局した病変を呈する非浸潤 性
(non―invasive)に大別され1),さらに急性浸潤性,慢性 浸潤性,慢性非浸潤性および真菌の抗原性が関与するア レルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(allergic fungal rhinosi-
nusitis ; AFRS)の4つの病態に分類されている(Bent
& Kuhn
の分類)2)(表1).これまで浸潤型や非浸潤型 と訳されていることが多かったが,「深在性真菌症の診 断・治療ガイドライン(2014年版)作成委員会」の編集 会議において,和訳として「型」ではなく「性」の表記 が望ましいとの指摘があり,「性」の表記をガイドラインに採用した.そのため,本稿においてもそれに則り記 述する.また,国際的にはいまだに多くの議論はあるも のの,真菌性鼻副鼻腔炎(fungal rhinosinusitis ; FRS)
は表2のように分類されている3).
急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症は,ステロイド,
免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫が低下 した患者において日和見感染として発症することが多 い.両者とも組織浸潤を伴うが,慢性浸潤性の場合は粘 膜内浸潤にとどまることが多い.鼻脳型ムーコル症や電 撃型アスペルギルス症などの急性浸潤性の場合は,真菌 が血管内に浸潤し,血栓形成を伴う血管侵襲により周辺 臓器の壊死性感染を引き起こす.そして,副鼻腔から眼 窩,海綿状静脈洞,頭蓋内へ浸潤し致死的となる.また,
吉川 衛
東邦大学医学部耳鼻咽喉科学講座
日耳鼻 118:629―635,2015
「第115回日本耳鼻咽喉科学会総会ランチョンセミナー」
副鼻腔真菌症の診断と治療
近年,日常診療において副鼻腔真菌症に遭遇する機会が増加してきているが,
その理由として,患者の高齢化はもとより,糖尿病患者の増加や,ステロイド,
免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫機能の低下した患者の増加など が考えられる.さらに,副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対するⅠ型・Ⅲ型の アレルギー反応やT細胞応答などにより病態が形成される,アレルギー性真菌性 鼻副鼻腔炎のような特殊な副鼻腔真菌症も報告されるようになった.急性および 慢性浸潤性副鼻腔真菌症の治療は,外切開による拡大手術が第一選択となり,手 術による病巣の徹底的な除去と,抗真菌薬の全身投与を行う.慢性非浸潤性副鼻 腔真菌症の治療は,抗真菌薬の全身投与は不要で,手術により真菌塊を除去した 上で病的な粘膜上皮を切除すると予後は良好である.アレルギー性真菌性鼻副鼻 腔炎の治療は,現在のところ手術療法が第一選択で,術後のステロイドの全身投 与が有効とされている.このように,いずれのタイプにおいても副鼻腔真菌症で は手術治療が中心となるため,耳鼻咽喉科医が的確に診断し,治療を進めていく ことが求められる.2014年4月に「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014 年版」が刊行され,副鼻腔真菌症について治療アルゴリズムが示されている.非 浸潤性以外の副鼻腔真菌症はどれも発症頻度の高い疾患ではないため,エビデン スレベルの高い報告は国内外を問わず存在しなかったが,これまで蓄積された報 告に基づくこの治療アルゴリズムが,今後の診療の指標となると考える.
キーワード
:
浸潤性副鼻腔真菌症,非浸潤性副鼻腔真菌症,アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎,抗真菌薬,
内視鏡下鼻内副鼻腔手術
総 説
糖尿病や透析中で血液がケトアシドーシスに傾いている 場合に重症化しやすいといわれている4).症状は,通常 の副鼻腔炎よりも高度な頭痛や,急激に進行する視力障 害などの真菌の浸潤部位に応じた脳神経症状が認められ る.鼻脳型ムーコル症の場合は,黒色の分泌物や粘膜病 変が認められることが特徴である.副鼻腔炎患者におい て,これらの症状があった場合には必ず浸潤性副鼻腔真 菌症を念頭に置くべきである.
慢性非浸潤性(寄生型)は副鼻腔真菌症の中では最も 発生頻度が高く,真菌塊(fungus ball)を形成する.ほ とんどが片側性に発症し,副鼻腔の中でも上顎洞に発生 することが最も多い5)6).全身の免疫状態との直接の関連 はなく無症状の患者も多いので,長期にわたり放置され ていて偶然発見されることも多い.一般的な症状として は,膿性鼻漏,後鼻漏,頭痛や頬部痛,鼻出血などであ り,片側性の病変のため悪性腫瘍(特に上顎癌)や歯性 上顎洞炎との鑑別が必要となる.
AFRS
は,1994年に診断基準がBent
らによって提唱 された疾患である7).その病態についてはいまだ不明な 点も多いが,副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対するⅠ型・Ⅲ型のアレルギー反応やT細胞応答などによる,
ニカワ状ともいわれる粘稠な好酸球性ムチンの形成が,
この病態の増悪因子であると考えられている.また,鼻 副鼻腔粘膜に著明な好酸球浸潤が認められることも特徴 の一つで,血清総
IgE
値と正の相関が認められるとの報告もある8).
副鼻腔真菌症の診断
急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症では
CT
による画 像診断が重要であり,石灰化や濃淡像を伴う副鼻腔内の 軟部濃度陰影に加えて,骨破壊や周辺臓器への浸潤所見 を認める(図1).また,硬膜病変や硬膜内浸潤の評価 にはMRI
が有用であり,病変部がT2WI
で低〜無信号 を呈する.実際の臨床現場では,真菌培養で真菌が同定 されることは少なく,仮に同定できたとしても培養に時 間を要するので,これらの画像所見のみで診断(臨床診 断)し,手術を含めた標的治療を開始することが多い.また,浸潤性副鼻腔真菌症を疑う場合には補助診断とし て
β
―D―グルカンの測定が有用とされているが,必ずし も高値とならないこともあり注意が必要である.β―D―グルカンは主要な病原真菌に共通する細胞壁構成多糖成 分の一つであり,この測定に関しては抗原検出法のよう な特異的な検査法ではないので,あくまでもスクリーニ ング検査と考えなければならない.ただし,
β
―D―グル 表1
副鼻腔真菌症の分類分類 経過 免疫状態 アトピー 真菌の役割 組織浸潤 急性浸潤性 急性 免疫不全が多い なし 病原菌 あり 慢性浸潤性 慢性 免疫正常が多い なし 病原菌 あり 慢性非浸潤性
(寄生型) 慢性 免疫正常が多い なし 真菌塊 なし アレルギー性
(AFRS) 慢性 免疫正常 あり 抗原 なし
表
2
副鼻腔真菌症の分類invasive acute invasive
(fulminant)FRS
subacute invasive FRS chronic invasive FRS granulomatous invasive FRS non―invasive saprophytic fungal infection
fungas ball
eosinophil―related FRS including allergic FRS
図
1
急性浸潤性副鼻腔真菌症患者の冠状断CT
を呈示 する.左眼窩の骨破壊(△)に伴い軟部濃度陰影 の眼窩内への浸潤を認める.カンの測定により浸潤性副鼻腔真菌症の活動性の評価は 可能である.ムーコルが原因真菌の場合には,細胞壁の
β
―D―グルカンが乏しいため上昇しないことに注意が必 要である.特異的な血清診断法としては,本邦ではカン ジダマンナン抗原,アスペルギルスガラクトマンナン抗 原,クリプトコックスグルクロノキシロマンナン抗原が 臨床応用されている.前述した画像診断や血清診断はあくまでも補助診断法 の位置づけであり,確定診断には培養検査や病理検査が 必要である.鼻副鼻腔からの培養検査において,原因真 菌の多くはありふれた環境菌であることが多いにもかか わらず,汚染検体の培養となることが問題である.その ため,原因真菌を推定する際には,同一菌種が繰り返し 分離されることが必要である.手術検体の場合,病巣の 中心部ではなく外縁部を細切して,できるだけ多くの組 織片を培養検体とするのが望ましい.培地については,
一般的に非選択培地として,クロラムフェニコールを添 加したポテト・デキストロールやサブロー・デキストロ ール寒天培地を使用する.白癬菌などの皮膚糸状菌の分 離を目的として皮膚科領域でよく使用されるシクロヘキ サミドを添加した培地は,Aspergillus属などの多くの糸 状菌の発育を抑制するので,鼻副鼻腔領域での使用は避 けるべきである.病理組織学的所見では,HE染色で真 菌の形態を把握することもできるが,正確な真菌形態の 把握や組織浸潤の有無を診断するには
Grocott
染色やPAS
染色を中心とした特殊染色の必要がある.急性お よび慢性浸潤性副鼻腔真菌症では,鼻副鼻腔粘膜や粘膜 下の血管内への真菌の浸潤像が観察される.生検,手術 材料を問わず,採取した検体を病理検査のためにホルマ リン固定してしまうことが多いが,真菌感染症を疑う場 合には微生物学的な培養の実施が優先されるべきであ り,適切な検体の取り扱いについて,耳鼻咽喉科医,検査技師,病理医の間で検査の手順を決めておくことが重 要である.
慢性非浸潤性副鼻腔真菌症の診断においても画像所見 が有用で,CTでは副鼻腔周囲の骨肥厚や洞内の石灰化 を伴う軟部濃度陰影を認め(図2),MRIでは
T1WI
で 等〜低信号を呈し,T2WIで菌糸に含まれるマンガンや 鉄の成分によって菌球は低〜無信号を呈する(図3).真菌塊に血流はないので造影効果は認められない.東京 慈恵会医科大学付属病院および東邦大学医療センター大 橋病院で内視鏡下鼻内副鼻腔手術を受け,慢性非浸潤性 副鼻腔真菌症と診断された患者114名における,自覚症 状,罹患副鼻腔,病理組織学的診断,培養検査結果,画 像所見について表3に示す6).
AFRS
の診断には,以下に示すAmerican Academy of Allergy, Asthma & Immunology
(AAAAI)のガイドライ ンによる診断基準9)を用いることが多い(表4).また,ほぼ同一の診断基準である
Bent & Kuhn
による診断基 準7)も用いられている.AFRSの自覚症状は好酸球性副図
2
慢性非浸潤性副鼻腔真菌症患者の冠状断CT
を呈 示する.左上顎洞内の軟部濃度陰影に伴い,真菌 塊と一致する石灰化病変(▲)を認める.冠状断
MRI(T1WI)
冠状断MRI(T2WI)
図
3
慢性非浸潤性副鼻腔真菌症患者の冠状断MRI
を呈示する.真菌塊(△)と一致する部位は,T1WI
で低信号,T2WIで無信号を呈している.鼻腔炎と類似しており,鼻内所見においてもポリープの 形成や粘膜の浮腫とともに,ニカワ状の粘稠な分泌物を 認めることが多い.その分泌物には,多数の好酸球とと もに,崩壊した好酸球顆粒が溶出して結晶化した
Char- cot―Leyden crystal
を認め,好酸球性ムチンと呼ばれる.その好酸球性ムチンの中に真菌を認めるものの,浸潤性 副鼻腔真菌症のように鼻副鼻腔粘膜への浸潤は認めない 点が
AFRS
の特徴である.血液検査では,総IgE
値とと もに,真菌に対する特異的IgE
値の高値を認める.画 像所見では,典型例では片側に陰影を認めるが,両側性 のものもある.しかし,両側性の場合でも病変の程度に は左右差があったり,AFRSの病態を呈しているのは片 側であったりすることが多い.CTの軟部条件におい て,副鼻腔内に貯留する好酸球性ムチンに一致して高吸 収域を認めるが,ムチンに含まれる鉄やマンガンなどの 重金属やカルシウム成分によるとされる(図4).またMRI
において,同部位はT1WI
で等〜低信号,T2WIで 低〜無信号を示す(図4).確定診断には病理組織検査 が必須となるので,術前の画像診断や血液検査の段階で 表3
慢性非浸潤性副鼻腔真菌症の臨床所見(文献6より改変)症状
N
(%)膿性鼻漏 40 (40.0)
顔面痛 27 (27.0)
後鼻漏 14 (14.0)
顔面違和感 9 ( 9.0)
鼻閉 6 ( 6.0)
頭痛 2 ( 2.0)
鼻出血 1 ( 1.0)
なし 1 ( 1.0)
罹患副鼻腔
N
(%)上顎洞 92 (80.7)
蝶形骨洞 11 ( 9.6)
上顎洞,篩骨洞 7 ( 6.1)
篩骨洞 3 ( 2.6)
上顎洞,蝶形骨洞 1 ( 0.9)
計 114 (100)
病理組織学的診断
N
(%)Aspergillus
105 (94.6)Candida
3 ( 2.7)Actinomycetes
1 ( 0.9)Unable to differentiate
2 ( 1.8)計 111 (100)
培養検査結果
N
(%)Aspergillus sp.
9 (13.0)Aspergillus sp.+Candida sp.
1 ( 1.4)Negative
58 (84.1)計 68 (100)
画像所見
N
(%)CT
における高吸収域 92/
110 (83.6%)MRI
(T2強調像)における低信号域 36/
36 (100%)表
4 AFRS
の診断基準(文献9より引用)症状が12週以上
以下の症状が1つ以上必要 1.前・後鼻漏
2.鼻閉 3.嗅覚低下 4.顔面痛・圧迫感 必須項目
1.内視鏡検査にて好酸球性ムチン(病理検査に て真菌と好酸球浸潤)と炎症(粘膜浮腫,中 鼻道ポリープ)
2.CTもしくは
MRI
にて鼻副鼻腔炎の所見 3.真菌特異的IgE(皮内テストもしくは RAST)
4.病理検査にて真菌の浸潤を認めない 参考項目(必須ではない)
1.真菌培養 2.血清総
IgE
値3.AFRSに特異的な画像所見
AFRS
を強く疑い,術中に好酸球性ムチンや鼻副鼻腔粘 膜を採取することが重要である.副鼻腔真菌症の治療
急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症の治療としては,
外切開による拡大手術が第一選択となり,手術による病 巣の徹底的な除去と,抗真菌薬の全身投与を行う.これ により眼窩内に進展していないような早期の浸潤性真菌 症では,良好な治療成績も報告されている10).しかし実 際には,診断された時点で外切開による手術でも病変の 全摘出は困難であることが多く,特に病変が眼窩尖端か ら海綿状静脈洞に浸潤してしまうと,これらの外科的治 療は不可能となる.さらに,患者は何らかの免疫不全に よる易感染の状態のため全身状態が不良な症例が多く,
薬物療法が十分行えないこともあり問題となる.現在本 邦で使用可能な抗真菌薬は10薬剤あるが,急性および慢 性浸潤性副鼻腔真菌症がそれほど発症頻度の高い疾患で はないため,それらの効果についてエビデンスレベルの 高い報告は国内外を問わず存在しないのが実情である.
これまでの報告の中で,薬物療法としては,最も広い 抗真菌スペクト ル を 有 し,Candida属 か ら
Aspergillus
属 ま で 殺 菌 的 に 作 用 す る,ポ リ エ ン 系 抗 真 菌 薬 のAmphotericin B(以下 AMPH―B)の全身投与が最も効
果が高いとされていた.また補助的な治療となるが,生 理食塩水に溶解したAMPH―B
を洗浄に用いる方法も報 告されている11).しかし,AMPH―Bの全身投与は特定 臓器への移行性が必ずしも高くなく,副作用として腎機 能障害が多いことが問題であったため,十分な投与が行 えなかった症例が少なくない.そこで,AMPH―Bを脂質製剤化した
Liposomal Amphotericin B(以下 L―AMB)
が開発され長期間の大量使用が可能となった.また,古 くから
Itraconazole(以下 ITCZ)の有用性も報告されて
いるが12),現在の第一選択薬はアゾール系抗真菌薬のVoriconazole(以下 VRCZ)である
13)14).もともと脳脊髄 液 へ の 移 行 が よ く 副 作 用 が 少 な か っ たFluconazole
(FLCZ)よりも,抗真菌作用が強いことが特徴である.
また,キャンディン系抗真菌薬の
Micafungin
(MCFG)は,スペクトラムは広くないが,副作用が少なく高用量 でも安全に使用できる.Candida属には殺真菌的に作用 するが,Aspergillus属には静真菌的に作用することが知 られている.単剤での使用では効果が期待できないが,
ITCZ
15)やVRCZ
16)との併用による有効性については,経 験的なレベルで報告されているものの明確なエビデンス はない.また,ムーコルの場合は,L―AMBが第一選択 となる.これらの報告をもとに「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2014年版)」において,治療アルゴ リズムが示された17)(図5).しかし,前述したように 副鼻腔真菌症に関する報告は,どれもエビデンスレベル が高いとはいえないため,このガイドラインについては
今後も
up―date
が必要である.また,抗真菌薬による治療の終了時期の判断についても確立されていないのが実 情である.そのため,薬物治療を終了した後も厳重な経 過観察が必要である.
慢性非浸潤性の場合は,真菌が粘膜内には浸潤してい ないので抗真菌薬の全身投与は不要である.内視鏡下鼻 内副鼻腔手術により病巣である副鼻腔を開放して,真菌 塊を除去した上で病的な粘膜上皮のみを切除する治療が 第一選択となる.
冠状断
CT(軟部条件)
冠状断MRI(T2WI)
図
4 AFRS
患者の冠状断CT
とMRI
を呈示する.CTの軟部条件において,副鼻腔内に貯留する好 酸球性ムチンに一致して高吸収域を認める(▲).またMRI
において,同部位(▲)はT2WI
で無信号を示している.AFRS
の治療は,現在のところ手術療法が第一選択 で,術後のステロイドの全身投与が有効とされている.まず,内視鏡下鼻内副鼻腔手術により副鼻腔を単洞化 し,換気や排泄を促すとともに,鼻副鼻腔に浸潤した真 菌や好酸球性ムチンを除去する.再発した際に好酸球性 ムチンを容易に除去できるようにすることも,単洞化の 目的の一つである.術後のステロイドの全身投与も有効 な治療であるが,ステロイドの投与量また投与期間に関 する一致した見解はない.そのほかにも,鼻噴霧用ステ ロイド,抗真菌薬,免疫療法の有効性についても報告さ れている.
副鼻腔真菌症の予後
急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症の予後について は,症例の少なさからこれまでほとんど報告がなかった が,近年散見されるようになってきた10)18)19)20).これらに よると,全生存率は報告によりばらつきはあるもののお おむね50%とされており予後は不良である.予後を増悪 させる因子として,病変の進展範囲の大きさ,特に頭蓋 内への進展を指摘する報告が多い.また,長期にわたり
生存した場合でも,鼻副鼻腔の合併症を来す危険がある ことを念頭に置いて,厳重な経過観察を行うことが必要 であると述べられている.これらの報告に基づいた予後 についての
Systematic review
19)より,生命予後を悪化 させる因子と改善させる因子について表5に示す.慢性非浸潤性の場合,異物となっている真菌塊が除去 され,鼻腔と副鼻腔の間に十分な換気が行われることに 表
5
急性浸潤性副鼻腔真菌症の予後にかかわる因子(文献19より引用)
生命予後を悪化させる因子 精神状態の変化
再生不良性貧血
肝あるいは腎機能障害下での発症 頭蓋内・海綿状静脈洞への真菌浸潤 生命予後を改善させる因子
手術可能症例
内視鏡下鼻内副鼻腔手術によるデブリードメント 糖尿病合併下での発症
L―AMB
の使用 図5
深在性真菌症の診断・治療ガイドライン(2014年版)文献17における,副鼻腔真菌症の治療アルゴリズムを呈示する.培養検査や病理組織学的診断 による確定診断が得られない場合でも,画像所見などから強く副鼻腔真菌症を疑う場合は,臨 床診断例として標的治療を開始する.
よって,副鼻腔内が好気性の環境に変化するだけで予後 は良好となる.
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎は再発を来すことが多 いと報告されている.特に不十分な手術による残存蜂巣 内の好酸球性ムチンが,再発の原因となると指摘されて いる.血清
IgE
値が病態を反映するといわれているの で,原因真菌が分かっている場合は,特異的IgE
値に より病態を把握する21).お わ り に
近年,日常診療において副鼻腔真菌症に遭遇する機会 が増加してきている.その理由として,患者の高齢化は もとより,糖尿病患者の増加や,ステロイド,免疫抑制 薬,抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫機能の低下した 患者の増加などが考えられる.また,細菌感染に対して 使用される抗菌薬の抗菌スペクトルが強力になるにつれ て,菌交代現象としての真菌感染症も増加してきてい る.さらに
AFRS
のような特殊な副鼻腔真菌症も報告さ れるようになった.これらの状況を踏まえ,耳鼻咽喉科 医が副鼻腔真菌症についての理解を深め,的確に診断と 治療を進めていくことが必要である.文 献
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連絡先 〒153―8515 東京都目黒区大橋2―17―6
東邦大学医療センター大橋病院耳鼻咽喉科学講座 吉川 衛