ICT機器を活用して玩具を製作する情報科と家庭科 の協同題材の提案
著者 室伏 春樹
雑誌名 静岡大学教育実践総合センター紀要
巻 23
ページ 61‑68
発行年 2015‑02‑27
出版者 静岡大学教育学部附属教育実践総合センター
URL http://doi.org/10.14945/00008888
器を活用 して玩具を製作する情報科 と家庭科の協同題材の提案
室伏
春樹中
Proposal ofCollaboration SuttecttO Fabricatc TOys Using ICT Equipment With lnfollllation and Home Econonllcs.
Harukl MUROFUSHI
Abstract
This paper propOses a collaboration subiect fOr lnforllation Science alld Home Economics in Japanese high school Feature of this proposal associates each ciass with childcare experience ln lnforllation class, students fabricate loys for childcare experiellce in 3D prirlting ln HOme Economics class, students verify the safety of loys as well as learn the necessary knowledge of childcare experiellce Therefore, this proposal can be expected to teach the required subjects effectively
キーワード : 3Dプ リンター デジタル・ ファプリケーション 保育体験
1
は じめ に2014年6月 に閣議決定 された世界最先端 IT国家倉1
造宣言では
,情
報通信技術 (以下,ITと
略す)の
活 用が国家の成長戦略の鍵 として位置づけ られている 。。そ して
,日
本が2020年
までに世界最高水準のIT利
活用社会の実現 し,その成果 を国際展開することを目 標 に様々な取 り組みが策定されている。その取 り組みの一つに,国民全体の情報利活用力向 上を実現するための 「発達段階に応 じた情報教育,及
び学習環境の充実 (ソフ ト・ハー ドを含む
)J"が
定 義されている。その中では,教育環境のIT化
による 指導方法の充実に加え,「新 しいモノづ くりであるデ ジタル・ ファプリケーションや ロポティクス,プ
ログ ラミング,コ
ンテ ンツ作成等,学生等が,将来を展望 した技術 を習得できる環境整備 を教育環境のIT化
と ともに進 める」〕ことが示 されて いる。 デジタル・ファプリケーションとは,「3D(three dinensiOnal) プ リ ン タ ー
J,「
切 削 加 工 機 CNC:cottuterNumerical Control)J,「
レーザーカ ッターJ及
び「
3Dス
キ ャナー」 といったデジタルエ作機械 を利用 した ものづ くりを指 している 。。特に3Dプ
リンター は,バ
ラク・オバマ米国大統領が2013年
の一般教書 演説で取 り上げた り9,家庭用の小型で低価格な装置 が 日本の家電量販店で販売された りした ことで いつ,メディアか ら注 目されている。また,学校教育におい て も
3Dプ
リンターの利活用が工業高等学校 を中心に 推進 されつつある。例えば,製
図の演習問題で示 された部品を
3Dプ
リンターで製作す ることで生徒の学習 に役立てた り',地域の博物館 と連携 して触れること ができる文化財や仏像のレプリカ を3Dプ
リンターで 製作 した りする事例が報告 されている9。しか し,普通高等学校における
3Dプ
リンター を利 用 した実践事例は報告 されていない。普通高等学校で は,情
報教育 を体系的に指導す る普通教科 「情報」(以後,情報科 と称す
)が
必修科 目として設定 されて いる。情報科では,デジタル・ コンテンツの作成や問 題 を解決す るためのプログラミング,情報モ ラル と いつた情報 に関する今 日的な内容を扱っている。その ため,3Dプ
リンターを含むデジタル・ ファプ リケー ションについて扱 うことも可能であると考えられる。そ こで,普通高等学校における
3Dプ
リンターの利 用促進を図ることを目的に,情報科 における3Dプ
リ ンターを利用する具体的な授業題材を提案する。デジ タル・ ファプ リケーションとして3Dプ
リンターを利 用す る理由は,3Dプ
リンターが切削加工 を行わず に 実物 を作 る ことができるためで ある。切削加工機や レーザーカ ッターは材料を切削するため,切削加工の 際に生 じる粉 じん対策や,加工部 (刃や レーザー光)の対策な ど,学校教育で利用するためには安全面で課 題が残る。また,3Dスキ ャナーは立体物 を3Dモデル としてコンピューターに取 り込むための装置であるた め,他の加工機が無ければ実物の製作ができない。
本稿はまず
,3Dプ
リンターによるものづ くりにつ いて解説 を行 う。次に,情
報科 にお ける 3Dプリン ター を利用す る具体 的な授業題材 として,普通教科*静
岡大学教育学部 技術教育講座室伏春樹
「家庭
J(以
後,家庭科 と称す)の保育体験 と連携 し た玩具製作プロジェク トを提案す る。そ して,提案 し た授業題材の情報科 と家庭科における位置づけを考察 し,提案の学習指導要領 における位置づけと新規性 を 検討す る。なお,本論文中における制作は
,コ
ンピューター内 部で処理 され るデータ作成す ることを示 し,製作はコ ンピュー ター外に出力 され る造形物を作成す ることを 示 している。2 3Dプ リンターによるものづくり
213Dプ
リンターの定義3Dプリンター とは, コン ピュー ター内に記憶 され て い る
3Dデ
ー タに基づいて物質 を積層出力 し,立体 物 を印刷 す る装 置 で あ る。 図1は ,市
販 の家 庭 向 け 3Dプリン ター の概観 いで ある。3Dプリン ター は 「足 し算型 (加算型)」 の加 工装 置 とい う表現 が され る い。 これは従来までのカロエ装 置 が 「引 き算型 (減算型
)Jで
あつた こ とが 由来で あ る。従来までの加工装置 は, 目的の製品を製作す るた め に原材料 を切 削 した り,加工 に必要な金型 を必要 と した りす る。そのため,大量 かつ迅速 な生産 には向い て い るが,原材料 の廃 棄や金型 な どの設備 費 が多いた め,環境 に対す る影響 が大 きい。 また,単純 な形状で あれ ば造形物 を直接 出力す ることが可能であるが,複雑 な形 状 の場合 は造形物 を部 品 として製作す る必要が あ る。 一方
,3Dプ
リン ター は物 質 を一層ずつ積 み重 ね て 出力す る積層造形法で ある。 そのため,不要 な切削や金型 は原理 的に不要 で あ り,従来 の加 工装置 では 困難であった中空の造形物 も比較的容易に成型す るこ とが可能で ある。つま り,製作者 のイ メー ジ した もの を直接 出力す ることができる。ただ し,底面積 が大 き い ものや積層 の高 さが必要な ものは製作に時間がかか るた め,少量生産や製 作 品の試 作 として利用 され る。
3Dプ
リンターな どの 自由に利 用 で きる3Dデ
ジタル ものづ く り体験 スペ ー ス を運 営す る原 は,3Dプ
リン ター のポイ ン トとして次 の三点 を著書の 中で紹 介 して い る "。1 100V電
源で稼働 す る2
専任 のオペ レー タや特別 な免許 は不要3 ‑般
的なオ フ ィスや家庭 で も使 える本 稿 も,原が紹介す るポイ ン トに基づ いた装置 を 3Dプリン ター の定義 と して扱 う。
223Dプ
リンターの造形 方式3Dプ
リンター に よ る積 層造 形 は,複数 の方法 が実 用 化 され てい る。そ こで,3Dプ
リン ター の代 表 的 な 造 形方式 について,光造形 方式,粉
末焼結方式,イ
ンクジェ ッ ト方式,熱溶解 方式 の順 に解説 し,学校 で利
用 で きる方式 を明 らかにす る。
図
1
市 販 の家庭 向け3Dプリンター の概観 つ) 光造形 方式 は,紫外線 レーザー を照射す る こ とで硬 イヒす る樹月旨を利用 して積層造形を行 う方式である。 こ の方式は他 の積層造形方式 よ りも精度が高 く,産業 に お け る 「ラ ピ ッ ド・プ ロ トタイ ビング (高速試作)」装置 と して利 用 され てきた。 しか し,装置 の価格 が数 百万か ら
1億
円程度 と高額 であ り,利用す るエポキシ樹脂 は消 防法上 の危険物 に該 当 して いる。 そ のた め,
学校 の教具 と して利 用す るこ とは困難で あ る。
粉末焼結方式 は,粉末樹脂 を レーザーに よ り焼結 さ せ なが ら積層造形 を行 う方式である。 この方式は粉末 樹脂 を焼f.Lさせ るため,強度 のある造形物 を作 る こ と が可能である。
しか し,装置 の価格 が数千万 か ら1億 円程度 と高額 であ り,産業用装置 しか販売 され ていな い。そのため
,学
校 の教具 として利用す ることは困難 で ある。イ ン クジ ェ ッ ト方式 は,イ ンクジ ェッ トプ リンター の よ うにノ リを石膏粉末 に吹き付 け
,固
めなが ら積層 造形 を行 う方式 で あ る。 この方式 は,ノ リと同時 にカ ラーイ ンクを吹 き付 けるこ とでカ ラーの造形物 を出力 す るこ とがで き る。 また,装置 の価格 は数 百万 円程度 とやや 高額であるが,他の方式 よ りも造形 にかか る時 間が二倍程 高速 で あるた め,個
人 の利用 も進 んで い る。しか し,造形物 は極 めて もろ く
,細
かい造形 が困難で あ るた め,後
述す る玩具製作プロジェク トにお ける利 用 は困難 で あ る。熱溶解 方式 は
,出
力す る物質を高温で溶 か しなが ら 積層造形 を行 う方式 で ある。 出力す る物質 は熱 で溶 け る もので あれ ば原 理 的 に問わないが,一
般 的 に 畑S (Acrylonitrile Butadiene Styrene)去 い PLA (Poly―lactic Acid)などの熱可塑性汎用樹脂 が利用 され る。
装置 の価格 は数 万 か ら数 千万 円程度 と幅が あ り, この 価格差 は主 に積層 幅 (精度 の粗い もので 041111,高 精 度 の もので 0 015mn(15μ m))や造形 可能 サ イ ズ な どに影響 を与 える。市販 され る
3Dプ
リンター と して 小型 で低価格 な製 品は,ほぼ熱溶解方式 を採用 してい る。他 の方式 と比較 して積層の段差が 目立 ちやす く, きれ い に造形す るた めには装置の設定を造形物 ご とに 変更す る必要 が ある ものの,造形物 の強度が高 く安全rυ
233Dプ
リンターによる造形の流れ3Dプ
リンターによる造形は積層方式 によ り異なる た め,本稿では家庭用に利用 され る熱溶解方式の 3D プ リンターによる造形の流れ を解説す る。図2は
3D プ リンターの基本構成を説明する図 月)である。3Dブリンター による造 形は
,次
に示 す五 つのス テ ップを経て行われる。(l)3Dデ
ータの準備3Dプリンターで出力するための3Dデータは,
3D CAD(Computer Aided Design) ヽl cG(Computer Graphicゞ ソフ トで作成する方法が一般的である。
また,3Dデータを作成する専用アプリを使って データを作成 した り
,デ
ータ共有サイ トか ら他人の 作成 した3Dデータをダウンロー ドした りすることも可能である。
│)STLファイルの品質確認
STL(StereoLithography)フ
ァ ィ ル と は 、3D データを表現するファイル形式の一つである。 この 形式は光造形方式の3Dプ
リンター を世界で初めて 製品開発 した 3D Systems社 が開発 し,3Dデ
ータを 三角形パ ッチの集合体 として定義する。断面計算が しやす く,デ
ータ量が軽ぃことか ら,積
層造 形用 データのデファク トスタンダー ドなフォーマ ットと して扱われる。STLフ
ァイルの品質確認は,特にCGソ
フ トで作 成 した3Dデ
ータに対 して行われる。CGソフ トで作 成 した3Dデ
ータは立体造形を意識 してデータが作 られていない場合が多い。そのため,三
角形バ ッチ を構成する法線ベク トルが一部で反転 していた り,壁な どの構成 に厚みがなかった りする。そのため,
STLフ
ァイル を開覧できるビュー ワー ソフ トで造形 物 として破綻 していないか確認する必要がある。8)STLファイルの修正
STLフ
ァイルの品質確認の結果,大幅なデータ欠 落や形状の干渉が見 られ る場合はSTLデ
ータ をつ〈った 3D CADや CGソフ トで修正する必要がある。
また,データ欠落や形状の干渉がわずかであれば,
STLフ
ァイル の修 復 ソフ トを利 用す る ことで STL ファイルの不具合 を解消できる。{4)Gコー ドの作成
Gコ
ー ドとは,切削加工機 を制御す るために利用 され るプログラミング言語の名称である。3Dプ
リ ンターは材料 を出力す るノズルな どの位置制御 に G コー ドを利用 してお り,どのよ うな速度で どのよう に 移 動 す る か,Gコ
ー ドに よ っ て 定 義 され撻形ス テーシ
Z穂モーター ‐ ^
コント●―ルバネル
図
2 3Dプ
リンターの基本構成13る。そ のため,STLファィルか ら
Gコ
ー ドに変換する処理が必要 にな る。 この変換処理 を行 うのは
,ス
ライサー ソフ トである。ス ライサー ソフ トは
3Dプ
リンター が積層造形す るため に,造形物 を一層 ごと 薄 切 りに して移動経路 を計算す る。
15)3Dプ
リンターの 出力3Dプリンター の積層造 形 にお いて材料 とな る熱 可 塑 性汎用樹脂は フィラメン トと呼 ばれ,図
2の
左 下 に描かれ るよ うに リール に巻かれた ワィャー状 と な って い るのが一般的である。 フィラメン トに利用 され る代表的な樹脂は,ABSとPLAで
ある。ABSは
ア ク リロニ トリル,ブタ ジエ ン
,ス
チ レンか らな る 熱 可 塑性樹脂の総称 で,弾力が あ り,取り回 しやす い。 しか し,冷却 ム ラによ るひび割れや歪みが生 じ や す く。微量なが ら発がん性物質 を含むため利用が 控 え られ つつ ある。PLAは
ポ リ乳酸 と呼 ばれ る植物 由来 の生分解性樹脂で,冷
却 ム ラによ る割れや歪み は生 じに くい。 しか し,弾
力 に乏 しく,仕上が りが 硬 くな るた め造形後の加工が困難である。この フィラメン トをモー ターで巻き取 り,エクス トル ー ダー と呼 ばれ る樹脂加熱部で加熱 し,ノ ズル か ら出力す る。造 形を行 う方法は二種類 あ り,エク ス トル ー ダー を
3個
の モ ー ター(X軸 ,Y軸 ,Z
軸
)で
制御 す る方 法 と,エクス トルー ダー を 2411の モ ー ター(X軸 ,Y軸 ),造
形 物 が 固定 され るプ ラ ッ トフォーム を1個のモー ター(Z軸
)で制御す る方 法が ある。前者は制御が複雑であるが プラッ ト フ ォームが固定 され るため,積層 のズ レが発生 しづ らい。反対 に後者 は制御 が容易 とな るが,プ
ラ ッ ト フ ォームが動 くため積層のズ レが発生 しやす い。●︐ ¨.
3 3Dプ
リンターを利用した授業題材の提案31授
業題材の提案の必要性学校教育 における
3Dプ
リンターの導入は,工業高 等学校 を中心 に導入が進んでいるものの,普通高等学 校の普及は進んでいない。理 由としてまず挙げ られ るのが
,3Dプ
リンターの 価格である。一部の工業高等学校では,工業教育の一 環 として産業用装置 として利用されてきた光造形方式 やインクジェッ ト方式の3Dプ
リンター を導入 してい る。 しか し,普通教育を目的 とする普通高等学校では 産業用装置 としての3Dプ
リンターを導入することは 困難である。また,3Dプ
リンターの出力には時間が かかるため,授業で3Dプ
リンターを利用 しようとす ると,少な くとも児童生徒四名のグループに対 し一台 の導入が必要になると考える。 これ らの課題 に対 して, 家庭用に販売 される熱溶解方式の3Dプ
リンターは数 万円程度の装置が販売されてお り,複数台の導入 も検 討可能である。 しか し,安
価な装置は組立式が多いた め,装置の組立や保守管理な どに対する教員の負担と いう新たな課題が生 じる。この新たな課題 とともに普及が進まない理 由として 挙げ られ るのが
,3Dプ
リンター を利用する授業題材 の不足である。3Dデ
ー タを利用 した授業教材 として, 数学科における空間図形教材や理科 における分子構造 模型,地理歴史科における地形学習な どの教材利用が 検討 されているもののm,市
販の教材 との差別化や3Dプ
リンターを利用す る必要性 に欠けている。また, なによ り学習者である生徒が 3Dプリンターによるデ ジタル・ ファプリケーションを体験 していない。例えば小学生であって も,適切な機材の配備 と指導 によ り
3Dプ
リンターでオ リジナルのはん こを出力す る事例 もある 。。 この事例は小規模校 における実践 であり,企
業も一般に販売 していないソフ トウェアを 提供するな ど特別な事例であることは違いない。 しか し,こ
の事例は3Dプ
リンターを利用することが授業 の 目的ではな く,3Dプ
リンターを利用 して 「はん こ としての文字の配置やバ ランス を考え,工
夫 して表 す」 ことが授業の 目的 と位置づけ られてお り,3Dプ
リンターによるデジタル・ フアプ リケーションを学校 の授業 として位置づける ことができる可能性 を見出す
ことができる。
3Dプ
リンターによるデジタル・ ファプ リケーショ ンを学校の授業 として位置づける必要性 として,国
際 団 体 ATC21S ttssess■ent and Teachin8 01 21stCentury SkiHJが
定義する21世紀型スキルでは,創
造性 とイノベーションがスキルの 1つ に定義されてい る °。 このとき,学
習者のもつアイデアやデザイン をイメージした通 りに具体化できる3Dプ
リンターは,これ らのスキルに対 して質の高い成果 を生み出す こと が期待でき
,3Dプ
リンターを扱 う知識や技能は21世紀 を生きる生徒にとって必要な能力とな り得る。また, マサチューセ ッツエ科大学のニール・ ガーシェンフェ ル ドは
,自
身が開講するデジタル・ ファプリケー ショ ン講座において,受講生が新 しい技術 を習得すると, その技術 を必要とする他の受講生に伝達 していくこと か ら「いつか知識が役に立つことを期待 して,あ
らか じめ用意 されたカ リキュラムを教える従来の"ジャストインケース (万―に備える
)"教
育モデルではな く, 具体的に必要が生 じたときだけ教える"ジャス トインタイム"教育モデル ●」への転換を示唆 している。
つま り,学校教育で
3Dプ
リンターを利用する授業 題材 を利用することで,今後の学校教育で求め られ る 能力の習得や協同的な学習が期待される。そ して, こ のためには3Dプ
リンターを利用することを目的 とす るのではな く, 目的を達成するための手段の一つ とし て3Dプリンターを利用する授業題材が必要である。32提
案の概要3Dプリンターを利用する授業題材 として
,情
報科 におけるデジタル・ コンテ ンツの制作 と家庭科におけ る保育体験 を関連付けた複合的な授業題材を提案する。図
3は
,提案する授業題材の概要を示す ものである。この授業題材は,情報科 と家庭科で別の 目的を有す る。情報科では 「家庭科の保育体験で利用する幼児向 け玩具の企画・設計・発表を行 うことを通 して
,情
報 技術 を主体的に活用するための知識と技能 を身に付け る」 ことを目的とし,表1に 示す評価規準 を設定 した。家庭科では 「乳幼児と触れ合 う体験活動 を通 して,
玩具 を利用 した遊びの意義 とその効果を学び,乳幼児 の発達や保育に関する知識 と技能を身に付ける」 こと を目的 とし,表2に示す評価規準を設定 した。
情報科 と家庭科の単元計画を表3に示す。授業は ど ちらも
10時
限で計画 している。授業はまず,家
庭科 で保育体験を実施することを生徒に説明す るところか ら始 まる。 このとき,乳幼児のことを考えた玩具 をグ ループごと製作 し,保育体験に持参することを伝達す る。そ して,玩具設計に必要となる子 どもの成長 につ いての基礎知識や,幼児の遊びの意義についての学習 を行 う。情報科では同時期に,3Dモ
デルの作成 に必 要な基礎知識や3Dプ
リンターによるデジタル・ ファ プリケーションについての学習を進めてお く。次 に,家庭科で幼児向けの玩具の検討と同時に,情
報科で3Dモデルの作成と3Dプリンターによる出力を 並行 に進 め る。
3Dプ
リンター による製品 開発 は ラ ビッ ド・ プロ トタイ ビングと呼ばれn,ァ
ィデアを具体的な形にす ることでアイデアやデータの時点では 見えなかった問題点に気づき
,よ
りよい製品にものづ くりの質を高めることができるようになると考え られている 1"。
3Dプ
リンターによる出力は造形する大きさにもよるが,授業時間内に出力することは困難であ 室伏春樹
64
科における授業
03o7 夕の作成
03oプ
リンターによる出力☆製作物の発表
保育施設
Oは
保育実習前の授業内容☆は保育実習後の授業内容を意味する
図
3
提案する授業題材の概要 表1
情報科の評価規準関心・意欲・態度 思考・ 判断・表現 技 能 知識・理解
デジタル・ フ ァプ リケー シ ョンが社会 に果 たす役 割や及 ぼす影響 に関心 を もち
,対
象 となる幼児 の 成長 を促進 させ る 目的 に 基づ いた玩具 を,情
報機 器 を活 用 して 企 画 ・ 設 計 .発 表 しよ うとする。対 象 とな る幼 児 の成 長 を
3Dプ
リンターで出力を行 促 進 させ る と と もに,製
うた め の3Dモ
デル の作 作 物 の安 全 に配 慮 した玩成 と検 証 を行 い
,3Dプ
リ 具 を検 討 し,製作 に必 要ンター で 出力 をす るた め な事 項 を効 率よ く適 用 し
の 一 連 の 流 れ を 身 に 付 け
,効
果的にデジタル・フ アプ リケ ー シ ョ ン を 行 っている。
3Dモ
デル に関す る基礎的 な知識 とともに,対象 と な る幼児 につ いて の知 識 を 効 率 よ く収 集,処
理 し,玩具 と して表現す る 過 程 を 通 して,デ
ジ タ ル・ フ ァプ リケー シ ョン が 社会 に果たす 役割 と及 ぼ す 影 響 を理 解 して い る。て い る。
表
2
家庭科の評価規準関心・意欲・態度 思考 ,判 断・表現 知識・理解
玩 具 が子 ど もに与 え る影 響 に 関 心 を 持 つ と と も に
,玩
具 の検 討 に意 欲 を もって 取 り組み,製
作 し た玩 具 を利用 した体 験活 動 に取 り組 んで いる。遊びが子 どもに与える意
玩具の安全性 に関す る法 義 を考 え,子どもの発達
律や精度 な どの情報収集 に見合 った玩具 を構想 し
や整理 に加え
,製
作 した た り,製
作 した玩具の 目玩具 による子 どもの姿 を 的や機能 を発表 した りし
観察することができる。
ている。
子 どもの発達 と遊びや環 境 の関わ りにつ いて知 る とともに
,子
どもは生活 や遊びな どを通 して育つことを理解 している。
るため,放課後な どの空いた時間を活用することが求 め られる。家庭科の授業で,玩具の検討の途中に安全 性 についての授業 を行 う理由は,生徒が 自主的に玩具 の安全性 を検討することを期待するためである。安全 性の指導では,食品衛生法に基づ く玩具の材質につい ての規定・・ についての知識や
,3Dプ
リンターで出力 した玩具 を 「誤飲チ ェ ッカー」2"に
よって確認する ことで幼児の理解 を深める。そ して,実際に保育体験に行 くときは,製品 として
製作 した玩具を持参 して幼児の反応を観察す ることを 通 して,家庭科における乳幼児の発達や保育に関する 知識 と技能を学習す ることになる。情報科では,製作 した玩具の機能や工夫点,実際に幼児に与えたときの 反応な どを発表 し,デジタル・ ファプ リケーションに よるものづ くりの利点や製品開発の流れ をまとめるこ とで
,情
報技術 を主体的に活用する知識 と技能を学習 す ることになる。図
4と
図5は,生徒が製作すると考え られ る玩具の| "+.** l
豪庭科における授業
技 能
室伏春樹
表
3
家庭科 と情報科の単元計画1
乳幼児の成長 とその特徴3Dモ
デル作成の基礎知識 情報科3Dプ リンターによるデジタル・フアブリケーション 幼児向け玩具モデルの制作 (1)
幼児向け環具モデルの制作 (2) 幼児向け玩具モデルの制作 (3)
幼児向け玩具モデルの制作 (4)
幼児向け玩具モデルの制作 (5) 製作物の発表(1)
製作物の発表(2) 製作物の発表(3) 時 限
2
幼児の遊びの意義 家庭科幼児向け玩具の検討(D 幼児向け玩具の検討9) 玩具の安全性
幼児向け玩具の検討0) 幼児向け玩具の検討 に) 保育実習の事前指導 保育実習
保育実習の事後指導
3 4 5 6
7 8 9 10
製作例である。図
4は
ロケッ トを模 した水鉄砲である。全長 90111のロケ ッ ト部は内部 に水 を貯蔵できるス ベースがあ り, もう一つの部品である全長 80mmのビ ス トン部の先端に布の切れ端などを巻いて押 し出す こ とでロケッ ト部の先端か ら水が発射できる。図
5は
砂 と石を分けるふるいである。ふるいの全長は ■Olllで, 網 目の底面に魚の模様が描かれている。 この模様を利 用すると,ふるい分けた砂で地面に魚 を描 くことがで きる。 このように,紙や金属ではできない玩具や市販 されていない玩具を造形することができる。図
4
ロケ ッ ト水鉄砲4 考察
41情 報科における
3Dモデル設計・制作学習と
しての位置づけ高等学校指導要領解説によると,普通教科 「情報」
の目標は,「情報及び情報技術を活用するための知識 及び技能の習得」 「情報に関する科学的な見方や考え 方 を養う」 「社会の中で情報及び情報技術が果た して いる役割や影響 を理解Jによ り構成 され,最終的に
「社会の情報科の進展に主体的に対応できる能力と態 度を育てる」 ことである″)。
「情報及び情報技術を活用するための知識及び技能 の習得」の観点か らは,実際に
3Dモ
デルを設計・制 作することを通 して,基本的なコンピューターの利用 方法を習得することができる。また,設計 した3Dモ
デルについての発表 を実施することで,情報収集や適 切な表現方法についての理解を深めさせることができ る。特に,保育体験で利用する玩具という具体的な目 的や,保育体験での具体的な体験に基づ く発表は,生徒の主体性を促進するものであると考える。
「情報に関する科学的な見方や考え方を養 うJの観 点か らは,玩具の製作までに必要な要件を定義 して効 率よ く作業を進めようとした り
,コ
ンピューターにお ける3Dモ
デルの表現方法についての知識や技能を習 得 した りすることを通 して,体
験的に身に付けさせて いくことができると考える。「社会の中で情報及び情報技術が果たしている役割 や影響を理解」の観点か らは,情報社会における 「光 と影」や情報格差の問題 と関連 して
,3Dモ
デル を作 成することができる技能が今後の社会生活に影響 を与 えることを考えさせ ることができる。また,3Dプ
リンターで製作する対象物の著作権についての理解や銃 な どの一般に所持が禁 じられているものを製造す るこ とについての配慮な ども指導することができる。特に, 製品を開発する体験 を行 うことで
,ア
イデアを具体化 する難しさを実感 し,著作権を侵害する造形物が存在 する理由について考えることができるため,情
報モラ 図5
お魚ふるいそ して,最終的な 「社会の情報科の進展に主体的に 対応できる能力と態度を育てる」観点か らは
,目
的と なる幼児 を想定 したICT機
器 を利用す るデジタル ファプリケーションを行 うことで,生徒 に身に付けさ せることが期待される。課題 として,提案する製作題材 を効率よ く実践する ためには複数台の
3Dプ
リンターを導入する必要があ る。最適な台数は四名のグループにつき一台であると 先述 したが,出力を授業時間外で実施 した り,試作確 認の段階では印刷す る造形物の大きさを縮小 した りす るな どの運用上の工夫によ り,少ない台数でも一定の 活動 を行 うことが期待できる。その他,地域で3Dブ
リンター を導入 している企業な どに依頼 し,遊休時間 中の貸借や共同開発などの方法 も検討される。
また,本提案は提案段階にとどまっているため,情
報科担当教員 に授業題材の実効性を確認するとともに,
授業 にお ける 3Dプリンター を利用 したデジタル・
ファプ リケー ションの教授方法 を詳細化する必要があ る。
42家
庭科 における保育体験と しての位置づけ 高等学校指導要領解説 による と,「
家庭総合」 のO)「
子 ど もや 高齢者 とのかかわ りと福祉Jで
は,「地域の実態に応 じて
,幼
稚園や保育所,高齢者施設 等を訪問 し,触れ合いや交流な どの体験的な学習活動 を取 り入れるよ うにする」 ことが明記されている。 こ のよ うな保育体験 について,静
岡県 では 「高校生保 育・介護体験実習事業」が実施 されてお り,家庭科の 授業以外に学校行事や学年行事,総
合的な学習の時間として も位置づ けられている20。
小川 らの研究 によれば
,静
岡県の 「高校生保育・介 護体験実習事業」 における保育体験の実施形態は,家庭科における保育学習 との関係 に応 じて三つに類型化 され る2。。
1
家庭科 における保育学習の中での実施2
学校行事や総合的な学習の時間の中での実施3
進学校 における短時間の実施今回の提案は
,上
記の類型のいずれにも当てはまら ない新たな実施形態である。 この提案の利点は,家庭 科における保育学習 と結び付けやす くなるとともに,情報科で玩具の製作 を扱 うため
,家
庭科の授業時間が 保育学習に多 く割かれすぎないということである。課題 として,本研究は提案段階 にとどまってお り,
家庭科担当教員による保育体験の位置づけや提案の実 現可能性についての検証 を行っていない。また,製作 した玩具の安全性 について,どこまで検証を行えばよ いか という課題 もある。前者については,今後の研究 において協力者 を求めることで対応できる。後者につ
マ ー ク基準 か な どを参考 に安全基準 を検 討す る こと が可能である。
ただ し
,生
徒 が製作 した玩具は紙や木製 の玩具 と異 な る材質のため,保育体験で受 け入れ る側 とな る保育 施 設 の理解が重要 となる。保育体験時 に利用する玩具 につ いて,プラスチ ックで製作 された玩具は加工が困 難 で あ る とされ て いたため か,安全 性 の保 証 は これ まで されていない。加えて,保育体 験 に製作 した玩具 を持参す るときの安全性 についてのガイ ドライ ンや玩 具 の検証方法は共通で利用可能な ものが設定 されてい な い。そ のため,今後 の研 究で定義づ けを行 う必要が あ る。5 まとめ
世界最先端
IT国
家倉1造宣言に基づき,高等学校 に おけるデジタソレファブリケーションとしての
3Dプ
リンターを利用する授業題材 として,情報科 と家庭科 の保育体験 と連携 した玩具製作プロジェク トを提案 し,各授業における位置づけを考察 した。また
,提
案 にあ た り 3Dプリンター によるデジタル・ フ ァプ リケー ションの流れをまとめた。提案 した授業題材は,保育体験に持参するための幼 児向けの玩具の製作 を家庭科の授業 と情報科の授業で 分担す る。家庭科の授業では,主に玩具の企画や試作 した玩具の安全性 についての検証を行い
,情
報科の授業では企画 した玩具の3Dモデル を作成 し
,3Dプ
リン ターで出力するとともに,製作 した玩具 についての発 表 を行 う。考察よ り
,3Dプ
リンターを利用する本提案は,情
報科の授業として 目標に示される 「情報及び情報技術 を活用するための知識及び技能の習得
J「
情報に関す る科学的な見方や考え方 を養 う」 「社会の中で情報及 び情報技術が果た している役割や影響 を理解」のそれ ぞれに対応 してお り,そ
の内容は情報科の最終 日標で ある 「社会の情報科の進展に主体的に対応できる能力 と態度 を育てるJものであると考え られた。家庭科の 授業 としては,静岡県内における保育体験の実施形態 に関する研究では示 されていない新たな実施形態とし て,家庭科における保育学習に多 くの時間を割かずに 結び付けることができる方法である考え られた。今後は,情報科 と家庭科の教員か ら本提案 について の意見 を集めるとともに,情報科の授業にお ける3D ブ リンターを利用す るデジタル・ ファプリケー ション の教授方法を詳細化するとともに,家庭科の授業にお ける玩具の安全性の検証について研究を進めていく必 要がある。
室伏春樹
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