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ダウン症児における構音障害とその要因に関する文献研究

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(1)

問題と目的

 ダウン症児・者の発達は,特徴的な様相が見られる ことから,様々な観点から研究がなされてきた。言語 発達が認知発達と比べて低いこと(大伴,2006など),

そして特に言語理解よりも言語表出に遅れが見られる ことが示唆されてきた。言語発達の特徴として,①表 出言語の遅れ,②言語の不明瞭さ,③聴覚障害,④吃 音などが挙げられ(松本・菊池,2016),日常的なコ ミュニケーションを行う際に,表出言語の少なさや構 音障害により伝えたいことが伝えられない場面が多く 見られる。そのことが成長とともに様々な問題となる 場合もある。ダウン症児・者の構音障害の要因として は,筋緊張の低さや口腔内器官の形態の問題と抹消器 官としての聴覚の問題とを関連づけて論じられること が多い。一方,音韻認知や聴知覚などの中枢神経系の 入力系についての問題(石田,1999)や,それらと関 連しながら発達すると考えられる音韻意識,音韻体系 の形成の問題(斎藤,1996;大澤,1995)なども指摘 されている。ダウン症児は,障害の発見が早く,早期 に療育につながることが多い。特に将来の表出言語に

つながる療育についてどのようなことを重要視して進 めていけばよいのかを理解するために,本論文では国 内の30年間のダウン症児の構音についての研究を概観 することを目的とする。

方  法

 国立情報研究所が提供する CiNii Articles を用いて 検索を行った。以下のとおり対象とする論文を抽出し た。

① 「ダウン症児 構音」をキーワードとし,検索時か ら30年前までを目安に,1989年以降に発表された 文献の検索を行った。

② 学会発表の要旨や論文要旨は除いた。

③ 検索時期は2020年2月である。

④ ①のキーワードで検索された論文を対象に,②の 基準に基づいて確認した結果,1989〜2016年に発 表された20件の論文が抽出された。

⑤ ④で抽出された20件の論文のうち,構音や言語発 達に対しての指導をまとめたものが7件,構音の 特徴や発達の様相について経過を追って事例をま 特集論文 

ダウン症児における構音障害とその要因に関する文献研究

野末 由紀子(白百合女子大学大学院文学研究科/認定NPO法人わんぱくクラブ育成会)

他の知的障害を伴う症例と異なり,ダウン症児・者には高い頻度で言葉の遅れが見られ ることが臨床的にも知られている。ダウン症児においても,発達段階を通して認知的な 発達と比べ,言語発達に顕著な遅れが見られる。特に構音障害については,コミュニケー ションの困難さを引き起こす要因となっている。構音障害についてはいくつかの要因が 考えられているが,不明な点も多い。本稿では,近年30年のダウン症児の構音に関する 先行研究について,(1)ダウン症児の年齢から見る言語発達,(2)前言語期のコミュニケー ションの発達,(3)ダウン症児の言語習得の特徴,(4)ダウン症児における構音障害の 要因,(5)ダウン症児の構音指導の5つの観点でまとめた。最後に,今後の研究内容や 指導方法などについての課題を述べた。

【キー・ワード】ダウン症,構音障害,表出言語,音韻認識,構音指導

(2)

とめたものが4件,健常児と非ダウン症知的障害 児などを比較してダウン症児の構音についてまと

めたものが6件,文献研究が3件であった。これ らをTable 1〜Table 4に示す。

Table 1 ダウン症児・者構音に対して指導を行った論文

題 目 論文執筆者 発表年

1 ダウン症生徒への構音改善に向けた包括的支援(1)附属特

別支援学校と学部とのチーム支援の構築と実践 吉田ゆり,今里順一,竹下成彦,

浦川 心,五反田明日見,

高橋甲介,石川衣紀

2016年

2 ダウン症生徒への構音改善に向けた包括的支援(2)附属特

別支援学校と学部とのチーム支援の構築と実践 今里順一,五反田明日見,

竹下成彦,浦川 心,高橋甲介,

石川衣紀,吉田ゆり

2016年

3 ダウン症児の発語の明瞭さを促す構音・音韻指導の効果 松本茉莉花,菊池哲平 2016年 4 ダウン症児の構音指導に関する事例研究 /s/・/dz/ の改善に向

けて 川合紀宗,松谷典枝 2012年

5 ダウン症児の構音指導:サイン・文字・音声の3種類のプロ

ンプトを用いた /k/の指導効果の検討 川合紀宗,下村美由紀 2011年 6 中度知的障害のあるダウン症児の構音指導の効果 石坂郁代,清家 愛,木般憲幸 2004年 7 ダウン症児に対する言語指導:複数音節語に構音障害を示す

事例 村上由則 1989年

Table 2 ダウン症児・者の構音の特徴や発達の様相について経過を追ってまとめた論文

題 名 論文執筆者 発表年

1 ダウン症児1名にみられた一貫性の低い構音の誤りの特徴 高木潤野 2012年 2 1ダウン症児にみられた構音障害の継時的分析 西村辨作,綿巻 徹,原 幸一 1997年 3 言語表出が重度に遅れた1ダウン症児の言語習得と構音障害 斎藤佐和子 1996年

4 ダウン症児の始語獲得期における認知発達 斎藤佐和子 1989年

Table 3 ダウン症児と健常児や非ダウン症知的障害児等との比較の論文

題 名 論文発表者 発表年

1 ダウン症児の発話の不明瞭さと音韻的側面に対するメタ言語

意識との関係 高木潤野,伊藤友彦 2009年

2 ダウン症児の口腔運動能力と身体運動機能の連関に関する研

究:構音障害に対する運動機能問題として検討 橋本創一,菅野 敦,

細川かおり,池田由紀江 2002年

3 ダウン症児の発語の明瞭さと音韻意識との関連 石田宏代 1999年

4 ダウン症児の構音:音韻プロセス分析による検討 大澤富美子 1995年 5 ダウン症児の構音の発達に関する研究 佐藤比登美,黒田吉孝,

井上悦子,荒川順子,岡山英子 1992年 6 精神遅滞児の構音の特徴に関する一資料:ダウン症児を中心

として 林部英雄,岡田民代 1989年

Table 4 ダウン症児・者構音における文献研究の論文

題 名 論文執筆者 発表年

1 ダウン症児者の言語発達に関する最近の研究 斎藤佐和子 2002年

2 ダウン症児・者の記憶に関する文献的考察:短期記憶から作

動記憶へ 菅野和恵,池田由紀江 2001年

3 ダウン症児の構音をめぐる諸問題 吉岡博英,糸井美和 2001年

(3)

結  果

 対象となった20件の論文について,(1)ダウン症児 の年齢から見る言語発達,(2)前言語期のコミュニ ケーションの発達,(3)ダウン症児における言語習得 の特徴,(4)ダウン症児における構音障害の要因,

(5)ダウン症児の構音指導の5つの観点を設定して,

それぞれ概観していく。

(1)ダウン症児の年齢からみる言語発達

 まず,ダウン症児の言語発達の全体の様相である が,斎藤(2002)は,西村他(1984a,1984b,1984c)

から次のように述べている。ダウン症の始語は精神年 齢に比べて遅く,平均すると30ヶ月で,他の運動や,

知能,社会性の発達に比べると遅いことがわかってい る。句の使用は5歳ごろで,5歳以上のダウン症児の 10%は話すことができなかった。語彙の獲得順を品詞 ごとにみると,健常児と同じ経過をたどるが,自発的 な使用場面で多様に使用できておらず,2語以上の統 語においても一定の句や文をステレオタイプに使用し ていた。構文については生活年齢が14歳で精神年齢の 発達が変わらなくなり,定型発達が5歳で到達する言 語の段階には達しないとしている。この内容は18歳ま でのダウン症児の研究で,言語の急速な発達は小学校 時代に見られ,そのピークは8歳から10歳でありその 後の発達のスピードは減少していくという指摘とも一 致する(佐藤・井上・荒川・岡山,1992)。

(2)前言語期のコミュニケーションの発達

 ダウン症児の前言語期からの発達の遅れについて指 摘している研究を斎藤(2002)がまとめている。長崎

(1995)は,前言語期にあるダウン症児に新しいおも ちゃの提示や,取り上げ,妨害などを行い,MAを一 致させた健常児と比較した。ダウン症児は健常児と比 べ,おもちゃを取られても興味が薄く,新しいおも ちゃの提示に対しての発声もなかった。健常児は新し いおもちゃを提示されるとそこへの注視のため,発声 が急減するが,その様な現象はダウン症児には見られ なかった。また,妨害される場面では,母親へ注視し たり発声したりする頻度もダウン症児は少なく,母親 との eye to eye contact 時に,ダウン症児から母親を 見ることが増加しなかった。その他にも要求や共同注 視時に,健常児は母親と物を交互に見る回数が増える が,ダウン症児には見られなかった。これらのことか ら,母親がダウン症児からの交渉要求を捉えること や,要求のサインに対してタイミングを合わせること が難しいことが予想され,ダウン症児と母親とのコ ミュニケーションが,母親主導の相互交渉になる傾向 にあることが示唆された。

 Franco and Wishart(1995)は21ヶ月から47カ月の

ダウン症児に対して「人の気を引いて相手の関心を物 に向けさせる場面」と「人を手段として欲しいものを 手に入れる」場面での伝達的身振りを検査した。「人 の気を引いて相手の関心を物に向けさせる場面」時に は「指差し」を,「人を手段として欲しい物を手に入 れる場面」では「手差し」をするなど,ダウン症児は それぞれの場面で異なった身振り伝達を行なってお り,健常児と比較しても身振りが多かったことを報告 している。このことから,ダウン症児が音声言語獲得 以前から他者との対人関係を理解し,音声言語表出の 遅れを身振りで補っていることが分かった。Franco  and Wishart(1995)は前言語期のダウン症児は,他者 との対人関係を理解しており,自発的な要求などを伝 えることができるが,他者からの非言語的なコミュニ ケーションの方法に対して理解することが難しいと述 べている。前言語期のダウン症児が,ジェスチャーな どを使って自発的に要求などを周りに示しているが,

それが伝わりにくく保護者や支援者からの一方通行な コミュニケーションになりやすいことが予想される。

(3)ダウン症児における言語習得の特徴 3-1 ダウン症児と健常児の比較

 ダウン症児の言語発達の中で特に遅れがあるのが表 出言語であることは多くの研究者が示唆するところで ある(佐藤ほか,1992;斎藤,2002;石田,1999)。

ではダウン症児はどのような経緯を辿って言語を習得 しているのか。斎藤(1989)はダウン症児の初期言語 発達について,言語発達と認知発達の特徴をまとめて いる。斎藤は,先行研究(斎藤,1988)で,定型発達 児の言語表出と Uzgiris-Hunt 精神発達順序尺度との関 連性を検討した。その結果,語彙の増加が速い「表出 順調群」は,語彙発達の平均的な「表出標準群」に比 べて,表示機能を示す語(物の命名,動作や状態の記 述 ) が 高 か った。 ま た,「 表 出 順 調 群 」 はUzgiris- Hunt 精神発達順序尺度の下位尺度のうち,「物の永続 性」と「音声模倣」の発達が良好だった。「物の永続 性」は物の対象概念,「音声模倣」は音声の形式面と の関係が深いと考えられる。始語との関連では,「単 純な表象」,「構音能力」,「身近な事物の概念化」の3 つの能力が備わると同時期に始語が出現することが分 かった。

 斎藤(1989)は,2名のダウン症児を対象に斎藤

(1988)と同様の検査,観察を行なった。その結果,

ダウン症児の場合,認知の発達順序はほぼ健常児群と 同じだが,速度に違いがあり,特に「音声模倣」と

「動作模倣」での遅れが目立っていた。ダウン症児の M  Aに比して始語が遅い理由として,この2つの項 目の遅れが原因だと考えられた。また,言語表出の質 的な発達の特徴として,物の概念との関連が深いと考 えられる表示機能を示す語が少なく,情動機能を示す

(4)

語(挨拶や,呼びかけ,動作に伴う掛け声など)を示 す語が多かった。健常児では始語の数ヶ月後に語彙の 急増がある一方,ダウン症児は語彙の急増する時期が 遅れていた。情動機能を示す語は助詞などをつける機 能がなく,語から文への形成に発展しにくいことか ら,統語機能の遅れとも関連があると考えられる。

3-2 言語発達の個人差

 長崎(1988)はダウン症児の言語発達の仕方につい ては,いろいろなタイプがあると述べ,①認知,言語 理解,言語表出がバランスよく発達する者,②表出の み遅れる者,③全般にMAより遅れる者の3パターン を挙げている。斎藤(1989)は,特に表出の発達が順 調に進まない,長崎(1988)の類型の②にあたるダウ ン症児について,その理由として「音声模倣の遅れ」

を挙げている。大澤(1995)も,就学前のダウン症児 と健常2歳児に25単語構音検査を行いその特徴を分析 し,ダウン症児の言語発達には,音の誤り方の側面か らみて,遅れてはいても正常構音発達の経過をたどる 者」と「正常構音発達とは異なる者」に分けられると 述べている。西村・綿巻・原(1997)はこの2つのグ ループをそれぞれ「遅れのグループ」と「偏倚のグ ループ」とした。大澤(1995)はそれらを鑑別すること が構音指導を考える上で重要であると示唆している。

3-3 始語獲得期の特徴

 斎藤(1989)は,ダウン症児の始語には,言語表出 と思われるものが現れても,まもなく消失して,表出 が再び獲得されるまでに数ヶ月を要するという特徴が あることを示唆し,その時期や特徴をまとめている。

健常児の先行研究でも,始語の消失は見られたが,ダ ウン症児の場合,安定までに数ヶ月かかる点や表出が 全くなくなってしまう時期があった点では違いがあっ た。ダウン症児の表出語の質的発達を見るため,表出 語を①表示機能(物の命名,動作や状態の叙述),② 要求機能,③情動機能(感情や意志の表現,挨拶,呼 びかけ,動作に伴う掛け声)の3種類に分類した。結 果,語彙数の増加が順調に進んでいたダウン症児にお いても,情動機能を示す語が多く,物の概念との関連 が深いと考えられる表示機能を示す語が少なかった。

定型発達児では始語数ヶ月後に語彙の急増があるが,

それは物の概念との関係が深いとされている。ダウン 症児の表出言語に情動機能が多いことは,これからの 語彙の増加に影響があると考えられ,それ以降の言語 発達でも,統語構造の形成には情動機能を示す語は関 連がなく,さらなる言語発達の遅れが懸念される。

(4)ダウン症児における構音障害の要因 4-1 ダウン症児における構音障害の特徴

 ダウン症児の言語発達について,他の知的障害に比 べても優位に出現の頻度が高いとされるのが,構音障 害,吃音,音声障害などから起こる発話の不明瞭性で

ある(吉岡・糸井,2001)。ダウン症児の構音の特徴 として,佐藤ほか(1992)は①発達年齢と比べて構音 の誤りが多いこと,②誤りやすい音は単音では健常児 と一致していたが,正しく構音できる単音も単語内で は誤ることを指摘している。健常児ではこのような傾 向はなかった。これは林部・岡田(1989)でも報告さ れている。さらに,健常児群では時間が経つと自発語 で構音の改善が見られたのに対し,ダウン症児では模 唱では改善が見られるものの自発語での改善が見られ なかった。西村ほか(1997)は正しく構音されない母 音が,繰り返し増加する傾向も指摘している。一度正 しく構音された母音でも,発語が増加する時や文が長 くなる時に一時的に母音の誤りが増加する。構音能力 が健常児のように平均発話長(MLU)と連動しない ことを挙げている。他にも,特に語尾の間違いよりも 語頭の間違いが顕著であること(佐藤ほか,1992)な どの指摘があった。

 もう一つダウン症児の構音の特徴として,浮動性を 示唆するものもあった。西村ほか(1997)は,ある音 環境では正しく構音できるが,別の音環境では間違っ たり,誤り方に一貫性がなく,正構音の安定性の低さ を挙げている。他にも高木(2012)は一貫性の低い構 音の誤りを示すダウン症児について調べた。「メガネ」

「ウサギ」などの絵が描かれているカードを提示し,

呼称を求めた。その結果,いずれの語においても異 なった音形で構音された反応があり,正しい構音が可 能であった語についても多様な誤り方をした。また,

正構音数が少ない「メガネ」では,他の語に比べて異 なるパターンが多い傾向が見られた。そして分節素ご との音の変化を母音と子音に分けて分析した結果,母 音と比べて子音の方が異なり方のパターンが多い傾向 が見られ,子音によっては同じ誤り方が見られるもの もあれば,誤り方が異なっているものもあった。つま りダウン症児は正しい構音が可能な場合も,多様な誤 り方を示していた。

4-2 構音障害と運動障害

 橋本・菅野・細川・池田(2002)はダウン症,自閉 症,知的障害の3群に対して単語の模唱による構音課 題(口腔運動能力)と,ひも通しやタッピング計測

(巧緻性),開眼片足立ち測定(平衡性),まりつき(協 調性)のそれぞれの関連性を調べた。ダウン症児は全 ての運動能力で他の群に比べて低く,特に構音課題が 顕著に劣っていることが分かった。構音課題の優劣と 他の身体運動能力の結果が連動していたことから,ダ ウン症児の構音障害は身体運動機能の劣弱さと関連が あると考えられる。また,構音課題を詳細に見ると,

他の知的障害児や自閉症と比べ誤発音が多いことや誤 り方の特徴として歪みや,省略が多いこと,一貫性の ない誤発音の傾向が見られた。これにより他の言語障 害とは異なる傾向があることが示唆された。そして,

(5)

構音課題による口腔運動能力は,MA,IQ,協調 性,巧緻性の順に有意な関与が見られ,口腔運動能力 と,協調運動の連関が高く,ダウン症児の構音障害が 協調運動の困難さと関係が深いことが推測される。

4-3 構音障害と音韻意識

 健常児とダウン症児の発語の明瞭さについて比較す る中で,ダウン症児には,単語の聴取の仕方や,音韻 意識に関して特有の問題があるのではないかという指 摘がある。斎藤(1996)は,知的発達が中度であるの に6歳11ヶ月までほとんど表出語がなかったダウン症 児に対し,5年間の指導を行なった。指導当初での構 音検査では母音の模倣ができず,検査不能であった。

舌突出は充分前に出ず,下で口角を舐めたり,舌を挙 上することができなかった。口型図などを用いた語や 語連鎖の習得と,構音指導を行った結果,口腔運動機 能は改善され,舌と口唇の連動,発声持続に関しては 正常とは言えないまでも発話明瞭度に大きく影響する ほどの問題ではなくなった。しかし,口腔運動機能と 比べて音の歪みや一貫性のない誤りが多く,MAと同 等の言語理解力があっても,発話の明瞭度は依然とし て低く,最高5分節まで表出できるのに,ほとんどが 3分節までで会話をするという状況だった。文字の読 みの特徴としては,言語表出と同じで,音節の省略や 音の引き伸ばし,構音の誤りが見られた。また書字に ついては言語表出ができていても全く書けないこと や,音の感じの似た全く別の語に誤ることなどいくつ かの特徴があった。音の聴覚弁別も,言語表出や書字 から判断されるよりも高い水準にあり,聴覚認知の問 題ではないと考えられた。このダウン症児の指導経過 から斎藤(1996)は,「(言語の)障害は入力と出力を つなぐ部分ないしは出力に関する系にあると考えられ る」と考え,「障害の原因として,発語器官や聴覚認 知,音声表出のための運動企画や構音運動習得の障害 では説明しきれず,音韻体系の獲得の困難が根底にあ り,正しい音のイメージを持ち,そのイメージと照合 しつつ音の表出をすることに問題がある」と考察して いる。

 石田(1999)は,ダウン症児,非ダウン症知的障害 児,発達障害児,健常児の4群に対して,絵を見て自 発的に単語を呼称する発音明瞭度検査と単音を復唱さ せる単音節明瞭度検査課題,音が似ている単語を絵で 示し,聞き取った単語を指で指し示す単語聴収検査,

そして単語の音節数にあった数ボタンを押す,音節分 解検査を行なった。単語聴収検査については,正しく 聞き取った単語数/施行回数×100を求め,単語聴収 率とした。石田(1999)は,入力として単語聴収率 を,出力として音節分解を想定し検討した。ダウン症 児は他の群に比べて単語の聴収と音韻分解について低 かった。また,発音の明瞭度と単語の聴収率との関連 は高かったが,音節分解との相関はそれほど高くな

かった。健常児や難聴児が一度音節分解の意味を獲得 すれば,音節数が増えても音節分解は可能であるのに 対し,ダウン症児は音節数が増えると極端に正反応数 が低くなることが明らかになった。この結果は,ダウ ン症児の音的側面への意識の低さを示唆している。ダ ウン症児・者の音韻記憶の低さの原因の一つとして菅 野・池田(2001)は,聴覚情報のリハーサル活動の貧 弱さと長期記憶内の語彙知識へのアクセスの遅さを挙 げている。

(5)ダウン症児の構音指導

 構音障害のある子どもの指導には,音の産生指導と 語音の聞き取りの指導とがあり,両面からアプローチ するのが一般的である(加藤・竹下・大伴(2012))。

音の産生指導とは,構音の運動的側面に関する指導,

「構音指導」であり,語音の聞き取り指導とは,音韻 意識や音韻的側面に関する指導,「音韻指導」である。

音韻意識とは,音韻を意識して操作する能力のことで あり,音韻意識が構築されると,単語を音に分解した り,音を単語に結びつける,または語頭音を意識す る,韻を踏むなどができる。遊びの場面ではしりとり や,逆さま言葉,音の数だけ歩くなどの遊びができる ことをさす。今回取り上げたダウン症児の構音障害に 対する指導をまとめた論文では,「構音指導」としな がらも,「音韻指導」の側面が含まれている場合が多 く,吉田ほか(2016)と,今里ほか(2016)以外の5 報告は「構音指導」と「音韻指導」の両方が行われて いた。

 松本・菊池(2016)は,ダウン症児2名(8歳と10 歳)の/s/を対象音とした構音指導(口の体操,漸次 接近法),音韻的指導(語音弁別課題,音韻数を意識 する課題)を行った。構音指導結果,/s/の構音が以 前より改善し,同じ構音位置である歯茎舌先音も検査 に向上が見られた。構音指導の効果は石坂・清家・木 般(2004)でも報告されている。石坂ほか(2004)

は,10歳4ヶ月のダウン症児に対して構音指導と音韻 指導を行った。発語器官の運動の指導として,舌の運 動状態や口の運動を示した絵カードを利用して模倣を 促し,フィードバックとして鏡を使用している。聴覚 的な言語指示のみでなく視覚的な教材を用いたことは 効果があったと述べている。松本・菊池(2016)の対 象児について,音韻指導の場面ではゆっくりと音節に 区切って伝えようとするようになり,コミュニケー ションの改善が報告された。ひらがなの読みが困難 だったが,文字を音のイメージとして認識させること で文字を視覚的なプロンプトとして用いることは,正 確な構音を誘導することに有効であると述べている。

 視覚的なプロンプトについて,川合・松谷(2011)

は,11歳2ヶ月の構音障害のあるダウン障害児に対し て,単語レベルにおける/k/の改善を目的に,絵単語

(6)

カードを教材として,サイン・文字・音声の3種類の プロンプトを用いた構音指導の比較検討を行なった。

対象児は,サインの提示による正構音率が最も高く,

文字は,サイン,音声に比べて低い正構音率を示し た。この結果は対象児がひらがなの読みを完全に習得 していないことが原因の一つとしている。川合・松谷

(2012)が12歳の構音障害のあるダウン症児に対して  /s/の改善を目的に視覚的な3プロンプトを用いて指 導を行なった結果,対象児がひらがなを読めたことも あり,文字のプロンプトを使用することが正確な構音 の定着を促進できたと述べている。これは石坂ほか

(2004)の指導でも同じような結果だった。

 聴覚的なプロンプトと視覚的なプロンプトを組み合 わせて行うことで,より効果が見られた。ダウン症児 は,情報処理において,視覚―運動回路に比べ,聴覚

―音声回路の発達に落ち込みがあり,聴覚的記憶の弱 さが指摘されているが,視覚的プロンプト(サイン,

文字)と聴覚的プロンプト(音声)を併用して構音指 導を行うことで,聴覚―音声回路の発達や聴覚的記憶 を促進させることにつながるとしている。斎藤(2002)

にあるように,ダウン症児のサインへの適応の良さか ら,川合・松谷(2012)の対象児も正確な構音を誘導 するためにサインを自発的に用いる様子が見られた。

サインは文字と同様音のイメージをとらえるために有 効であったと考えられる。

 村上(1989)は,構音障害のある14歳10ヶ月のダウ ン症児に構音内容を企画する過程に問題があると推測 し,情報を継時的に入力し,統合した後,再び継時的 に出力できるような指導を行った。聴覚的な入力と視 覚的な入力を継時的に行い,統合させ,掲示的に出力 させる方法で指導を行った。結果,文の復唱では構音 の誤りが現象し,文の内容がほぼ聞き取れるように なった。また,日常会話もゆっくりと話す様子が見ら れるようになり,コミュニケーションがとりやすく なった。

 吉田ほか(2016)や今里ほか(2016)は,学校とい う教育現場で,中学生のダウン症児の表出量の確保 と,構音改善に対して包括的な支援を行っている。表 出量を確保するためには,発語意欲を高めて発語の楽 しさや伝わることの楽しさを伝えられるような関わり が支援者に求められているとしていた。否定的な発言 ではなく,賞賛や励まし,興味関心が持てる教材づく りなどにより意欲的に取り組むことができる様子をま とめている。

今後の課題

 ダウン症児の構音障害についての海外の研究は多数 あるが,日本語を対象とした研究はあまり多くない。

構音障害は言語が持つ特有性に関連していることが多

く,日本語での研究の必要性を感じた。また,指導に ついては小学校高学年から中学生に向けた取り組みが 多く発表されていたが,乳幼児期や小学校低学年での 取り組みが少なかった。どのような取り組みが将来ど う影響するのか,長い時間での経過をまとめる必要性 を感じた。特に斎藤(1988)では,ダウン症児の表出 語の少なさについて,物の概念を習得する困難さをそ の要因の一つと挙げていた。このような示唆に関連し た指導の有効性を検証していきたい。近年は発達障害 児や知的障害児の実行機能やワーキングメモリーと言 語発達との関連を示唆する研究も増えている。今回は それらを含めることができなかった。それらの研究を まとめることも今後の課題としたい。

文  献

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(7)

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(2020年5月31日受稿 2021年3月1日受理)

Nozue Yukiko(Shirayuri University Graduate School of Liberal Arts,Department of  Developmental Psychology, Youji Group Wanpaku). A literature review of articulation disorder and its factors in children with Down’s syndrome. RESEARCH IN LIFESPAN  DEVELOPMENTAL PSYCHOLOGY, 2020, No12, 41-47.

It is clinically known that children with Down’s syndrome have a high frequency of  language delay, unlike cases with other intellectual disabilities. Significant language  development  disorder  in  children  with  Down’s  syndrome  compared  to  cognitive  development disorder in them. In particular, articulation disorder is a factor that  causes  difficulty  in  communication.  Several  factors  have  been  considered  for  articulation disorder, but there are many unclear points. In this paper, research of the  past 30 years on articulation of children with Down’s syndrome are reviewed from  the viewpoint of (1) language development seen from the age of Down’s syndrome  children, (2) communication  from  the  pre-language  stage, (3) characteristics  of  language  acquisition  in  children  with  Down  syndrome (4) factors  of  articulation  disorder  in  children  with  Down’s  syndrome (5) articulation  therapy  for  Down’s  syndrome children. Finally, I mentioned future research issues.

【Keywords】Down’s syndrome children, Articulation disorder, Verbal expression, Articulation disorder, Phonological awareness, Articulation therapy.

参照

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