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鋳鉄製金物を用いた柱梁高力ボルト接合構法に関する実験的研究
1. 序論 我が国の鋼構造建築物の柱には角形鋼管を用いるこ とが多く,柱梁接合部にはダイアフラムを取り付ける ことが一般的である.このような仕口部分では柱や 梁,ダイアフラムなど直交に取り付く部材の接合に際 し溶接に頼らざるを得ないのが現状である.溶接品質 は溶接工の技量や環境条件などによってばらつきが発 生するため熟練した技術が要求されるが,溶接工の就 業者数は年々減少傾向にあり,将来的に熟練した技術 を持つ溶接工の不足は避けられない. そこで,本研究では溶接量を可能な限り削減し,角 形鋼管柱と H 形鋼梁を接合させる新しい構法の開発 を目的とする.本構法では形状を自由に決定できる鋳 鉄製の接合金物( 以下,鋳鉄製金物) により柱と梁を 接合する.金物の材料には球状黒鉛鋳鉄(FCD)を採用 することにした.F C D は鉄基地中の黒鉛を球状に晶 出させたものであり,黒鉛が片状に晶出するねずみ鋳 鉄(普通鋳鉄,片状黒鉛鋳鉄,FC)に比べると強度,靭 性が優れ,自動車部品や産業機械などの分野で数多く 用いられている.また近年,建築の分野でも球状黒鉛 鋳鉄を活用するために基本的な力学性能を明らかにし ようとする研究が行われており1),2),塑性変形がさほど 生じない部位への活用が期待されている. 本論では,まず鋳鉄を高力ボルト摩擦接合部に用い た際のすべり係数を調査する.その後,鋳鉄製金物を 用いた構法による十字形架構試験と仕口部引張試験を 行い,本構法の実現性を検討する. 2 . 母材に鋳鉄を用いたすべり試験 2.1 実験計画 表 1 に試験体一覧を示す.実験パラメータは,摩擦 面処理,添板の鋼種と強度,母材側摩擦面の粗さ,添 板の板厚,フィラープレートの種類とする. 2000kN 万能試験機による単調引張載荷とし,摩擦 面に十分なすべり( 2. 0 m m 程度) が発生する,もしく はボルトが支圧状態に達するまで続ける. 2.2 実験結果 実験結果を図 1 に示す.すべり係数 は,0.2mm 時 すべり係数とピーク時すべり係数の 2 種類が考えられ るが,ここではピーク時すべり係数を採用する3 ). 鋳鉄母材と普通鋼添板の組合せのうち,ブラスト処 理を施した母材と添板を用いた試験体(No.3,8,13)で は,=0.461 ~ 0.612 となり,すべての試験体ですべり 係数 0.45 以上を得ている.アルミ溶射添板を用いた試 験体(No.1,2,7,10)では,=0.527 ~ 0.792 の高すべり係 数を得ている.鋳鉄母材と鋳鉄添板を用いた試験体 (No.4 ~ 6,9)では,=0.216 ~ 0.358 と小さな値を示した. 摩擦面処理がすべり係数に与える影響としては,鋳 鉄母材と普通鋼添板を用いた試験体では,アルミ溶射 を施した場合,ブラスト処理に比べて高すべり係数を 得ている.鋳鉄母材と鋳鉄添板を用いた試験体では, ブラスト処理に比べて,赤錆処理と無処理の試験体の すべり係数が小さい. 添板の鋼種の影響として,ブラスト処理の鋳鉄母材 と普通鋼添板ではすべり係数 0.45 以上を得ているが, 壇 泰朗 表 1 試験体一覧 表面処理 表面粗さ Rz[m] 表面処理 材種 板厚[mm] 材種 板厚[mm] 1 2 ブラスト 120.9 (97.8 - 156.7) - -2 2 赤錆(薬剤) 126.5 (95.7 - 146.0) - -3 2 104.0 (91.3 - 133.2) - -4 2 120.1 (84.9 - 154.1) - -5 2 赤錆(薬剤) 122.0 (91.0 - 153.8) 赤錆(薬剤) - -6 2 無処理 122.0 (59.2 - 149.5) 無処理 - -7 2 66.0 (58.5 - 69.3) アルミ溶射 - -8 1 64.8 (61.0 - 67.9) - -9 2 61.1 (54.9 - 67.3) 鋳鉄 - -10 2 90.3 (81.5 - 104.5) アルミ溶射 12 - -11 2 99.3 (86.1 - 117.8) A1050P 2 12 2 101.4 (89.9 - 114.1) SS400(アルミ溶射) 3.2 13 2 108.2 (92.4 - 117.9) SN400 - -フィラープレート 試験 体数 SN490 鋳鉄 SN490 SN490 ブラスト ブラスト ブラスト アルミ溶射 No. 母材 添板 ブラスト ブラスト 16 16 1649 - 2 鋳鉄同士の場合 0.35 前後であった. 添板厚の影響については,板厚 12mm のすべり係数 は板厚 16m m に比べて小さくなる結果となった. フィラープレートの有無については,アルミ溶射 フィラーを挿入した場合は,アルミ溶射添板と同等程 度の高すべり係数を得た.アルミフィラーを用いた場 合は,ピーク時すべり係数を得ることはできなかった が,0.2mm 時すべり係数ではブラスト処理の試験体と 同程度となった. 表面粗さ及び添板強度の影響は,明確でない. 3 . 十字形架構試験 3.1 鋳鉄製金物の概要 鋳鉄製金物の諸寸法を図 2 に示す.また,図 3 に示 すように金物は鉛直プレート,水平プレート,引張ボ ルト接合部,リブからなり,4 つの金物を組み合わせ ることで角形鋼管を一周するようになっている.鉛直 プレートは鋼管柱と接し,摩擦と支圧によって柱と金 物間の応力伝達を行う.水平プレートは H 形鋼梁の フランジと接し,ボルト孔が 3 つずつ設けられてい る.引張ボルト接合部は金物を取り付ける際に,隣り 合う金物同士をボルトで締め付ける部位であり,上下 に対になるように設けられている.リブは金物の曲げ 剛性を上げるために設けた.また,ボルトには F 14T のトルシア形超高力ボルトを用いる.金物の表面は鋳 型の砂を除去するためのブラスト処理がなされた鋳肌 面である.一般に鋳物には,製品を鋳型から取り外し 図 1 各パラメータのすべり係数への影響 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 No.4 鋳鉄(B) + 鋳鉄(B) No.5 鋳鉄(R) + 鋳鉄(R) No.6 鋳鉄(無) + 鋳鉄(無) No.9 鋳鉄(B) + 鋳鉄(B) (表面粗さ 小) 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 No.1 鋳鉄(B) + AlSP No.2 鋳鉄(R) + AlSP No.3 鋳鉄(B) + BP No.7 鋳鉄(B) + AlSP No.8 鋳鉄(B) + BP No.10 鋳鉄(B) + AlSP (板厚12mm) No.11 鋳鉄(B) + AlF No.12 鋳鉄(B) + AlSF No.13 鋳鉄(B) + BP (SN400) 表面粗さ 小 B :ブラ ス ト 処 理 R :赤錆 無:無処 理 A l S P :アル ミ 溶 射 添 板 B P :ブラ ス ト 処 理 添 板 A l F :アルミフ ィラー A l S F :アルミ 溶射 フィ ラー 鋳鉄母材 + 普通鋼添板 鋳鉄母材 + 鋳鉄添板 ●は 平均 値 ( b ) 鋳鉄製金物試験体 ( a ) 通しダイ アフラム 形式試験 体 H - 400 × 200 × 8 × 13 (SN400B) 1 ,3 0 0 3,600 梁 1 梁 2 上 側 金 物 下 側 金 物 1 ,3 0 0 3,600 梁 1 梁 2 □- 300 × 300 × 12 (BCR295) PL - 350 × 350 × 19 (SN400C) 図 2 鋳鉄製金物の諸寸法 図 3 鋳鉄製金物の各部名称 第 一 ボ ル ト 孔 第 二 ボ ル ト 孔 第 三 ボ ル ト 孔 鉛直プレート リ ブ 水 平 プ レ ー ト 引 張 ボ ル ト 接 合 部 4 0 20 59 6 0 6 0 1 6 0 4 6 9 1 4 9 2 0 20 3 2 0 24 φ φ 2 2 1 8 0 80 2 0 100 4 0 5 0 70 22 φ 図 4 十字形架構試験体 H - 400 × 200 × 8 × 13 (SN400B) □- 300 × 300 × 12 (BCR295)
49 - 3 やすいように抜き勾配が設けられるが,鉛直プレート の柱と接する面および引張ボルト接合部には抜き勾配 を設けない.金物同士の間には約 2m m のクリアラン スが設けられている. 3.2 実験概要 図 4 に試験体を示す.試験体は,通しダイアフラム 形式試験体(No.1)と鋳鉄製金物を用いた試験体(No.2) の計 2 体である.No.2 の鋳鉄製金物は図 3 に示すもの を用いており,柱の金物と接触する部位には黒皮を除 去する程度のグラインダー処理を施し,梁フランジの 金物と接触する部分にはブラスト処理を施した.直交 方向に取り付く水平プレートには,本来取り付くべき 梁フランジの代わりとして厚さ 12mm の鋼板を取り付 ける.梁フランジと金物を接合する摩擦面の間にはア ルミ溶射フィラーを挟み,摩擦係数を上昇させてい る.鋼管柱及び H 形鋼梁のサイズは共通であり,□ - 300 × 300 × 12(BCR295),H - 400 × 200 × 8 × 13(SN400B)である.鋼材の機械的性質を表 2 に示す. 載荷装置を図 5 に示す.柱上端をピンローラー支 持,柱下端をピン支持とし,梁両端に取り付けた 500kN 油圧ジャッキにより梁せん断力を加える.加力 図 5 試験体設置図 角形鋼管 BCR295 12 192,565 385 455 42.1 梁フランジ 13 198,905 289 437 29.9 梁ウェブ 8 198,254 324 446 30.0 直交梁フランジ板 12 200,635 280 439 31.4 SN400B 引張強さ N/mm2 伸び % 部位 鋼種 板厚 mm ヤング係数 N/mm2 降伏応力 N/mm2 表 2 鋼材の機械的性質 図 6 柱せん断力- 層間変形 角関係 図 8 金物の挙動 ( b ) 柱-金物間のズレ 隙 間 曲 げ 変 形 隙 間 -600 -400 -200 0 200 400 600 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 No.1 No.2 R [rad] cQ [kN] 図 7 隙間とズレの様子 ( a ) 柱-金物間の隙間 鉛 直 ズ レ 隙 間 点間距離は 3,600mm,上下ピン中心間距離は 1,800mm である.載荷は逆対称正負交番繰返し漸増載荷とし, 制御は両側の梁回転角が等しくなるように保持した状 態で層間変形角 R により行い,R= ±0.002rad の振幅で 1 サイクル載荷した後,R = ±0.005rad,0.01rad,0.02rad の振幅で各 2 サイクル載荷した. 梁せん断力は油圧ジャッキに取り付けたロードセル より測定する.変位計測項目は,左右の梁端の鉛直変 位,柱梁接合部周辺の水平変位及び鉛直変位,上下ピ ンの水平変位である. 3.3 実験結果 図 6 に層間変形角 R と柱せん断力cQ の関係を示す. No.1 では紡錘形の履歴を示したが,No.2 ではスリッ プ性状を含む履歴となった. N o. 2 の挙動を観察したところ,柱-金物間に隙間 が生じている部分があり,柱と金物との間で鉛直方向 にズレが発生していた(図 7).この鉛直方向のズレが, N o . 2 の履歴にスリップが含まれた一因であると考え られる.図 8 に示すように,引張ボルト接合部の曲げ 変形が柱-金物間の隙間を生じさせ,その隙間による 摩擦力消失が鉛直ズレを引き起こしたと思われる. No.2 の層間変形角に占める各変形成分の割合を図 9 に示す.変形の大部分を柱-金物間のズレが占めてお り,その割合は振幅が大きくなる程増大している. 実験結果から,スリップ性状を含む履歴を示した原 因は,柱-金物間の鉛直ズレであると結論付けられ た.このズレの影響を除去した場合,No.2 でも No.1 と同等の剛性を示すと考えられる.そこで,No.2 の層 図 9 変形分担率 (a)No.2 正側載荷時 0 20 40 60 80 100 0.002 0.005 0.01 0.02 [%] R [rad] パネル 梁 柱 金物局部変形 ズレ (b)No.2 負側載荷時 0 20 40 60 80 100 -0.002 -0.005 -0.01 -0.02 [%] R [rad] + - + - 反 力 フ レ ー ム 面 外 移 動 拘 束 材 ピ ン ロ ー ラ ー ピ ン 油 圧 ジ ャ ッ キ (500kN) 北 側 正 面 図 A 断面 A 1 ,8 0 0 3,600
49 - 4 0 200 400 600 800 1000 0 2 4 6 8 10 [mm] [kN] -600 -400 -200 0 200 400 600 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 No.2 No.2(ズレ除外) R [rad] cQ [kN] 図 1 0 ズレを除外した挙動 -600 -400 -200 0 200 400 600 -0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03 No.1 No.2 No.2(ズレ除外)
R [rad] cQ [kN] 表 3 剛性の比較 0 200 400 600 800 1000 0 2 4 6 8 10 u
AB1 uAD1 uAB2 uAD2
[mm] [kN] 図 1 3 ボルト接合部歪性状 図 1 5 載荷方向の変形 間変形角から鉛直ズレによる変形成分を除いた履歴性 状及びスケルトンカーブを図 1 0 に示す.履歴性状よ り,鉛直ズレの影響を除外した履歴は紡錘形を示し た.またスケルトンカーブについては,初期剛性が No.1 よりも大きくなった.表 3 に各試験体の剛性の一 覧を示す.No.1 の剛性の実験値は理論値を正側で 3%, 負側で 9% ほど下回ったが,実験の精度は概ね良好で あるといえる.No.2 の剛性は No.1 の実験値とほぼ同 程度であったが,鉛直ズレの影響を除いた場合,2 割 程度上回る結果となった. 4 . 仕口部引張試験 4.1 実験概要 図 1 1 に試験体及び変位計測位置を示す.変位計測 項目は接合部全体変形,金物の水平プレート同士の開 き量である.使用する鋳鉄製金物の形状は十字形架構 試験とは異なるが,高力ボルト引張接合により鋼管柱 を締め付ける点は共通である(図 12).載荷は単調引張 載荷とする. 4.2 実験結果 本試験では引張ボルト接合部の面外変形が進展し, 脆性破断を生じて終局状態に至った.図 1 3 に引張ボ ルト接合部周辺の歪性状の一例を示す.水平プレー トとの接続部の端部で大きな歪が生じており,これ は破断が生じた位置と一致する.図 1 4 に引張荷重と 水平プレート同士の開き変形の関係を示す.荷重の 増加に伴い水平プレート同士の開きが進展していく 傾向があるが,これは引張ボルト接合部に面外変形 が生じた分,水平プレート同士が離れていくもので あると考えられる. 破壊性状と変位計及び歪ゲージの結果から崩壊モ デルを考案し耐力算定を行ったところ,耐力計算値 は 507kN となった.図 15 に引張荷重と接合部全体の 変形の関係を示すが,耐力計算値の荷重レベルでは 接合部全体で約 1.3m m の変形が生じている. 5. まとめ 本論では,高力ボルト摩擦接合部に鋳鉄を用いた 場合のすべり係数を得た.十字形架構試験では,鋳鉄 製金物を用いた接合部の場合,鋼管柱-金物間のズ レによってフレーム全体の剛性低下が観測されたが, そのズレを起こさないように金物を改良することで, 通しダイアフラムと同等以上の剛性を持たせること ができると予想された.仕口部引張試験では実験結 果と破壊性状から崩壊モデルを考案し,耐力算定法 の検討を行った. 参考文献 1) 木村祥裕,山口貴之,原田哲夫,古賀瞬斗:曲げモーメントを受ける球状黒鉛鋳鉄管部材 の塑性変形性状,日本建築学会構造系論文集,第683号,pp.183-192,2013.1 2) 木村祥裕,山口貴之,原田哲夫:球状黒鉛鋳鉄管部材の終局挙動に及ぼす表面状態の影響, 日本建築学会構造系論文集,第700号,pp.829-837,2014.6 3) 日本建築学会:鋼構造接合部設計指針,2006.3 図 1 1 試験体形状及び変位計測位置 正側 負側 No.1(理論値) No.1 48,599 45,326 No.2 46,702 45,139 No.2(ズレ除外) 57,352 60,119 49,892 U uAB1 図 1 2 金物の形状 ( a ) 履歴性状 ( b ) 履歴性状 金物 A 金物 D 金物 C 金物 B uAB2 uAD1 uAD2 鉛直 PL 水平 PL 図 1 4 水平 P L 同士の開き 0 2000 [] 0 2000 4000 6000 8000[] 引張ボルト接合部 鉛直プレート 水平プレート 100 kN 300 kN 500 kN 700 kN 終局時 耐力 計算 値