氏 名
くしだ ひろたか串田 浩孝
学 位 の 種 類
博士(薬学)
報
告
番
号
乙第
1590 号
学位授与の日付
平成 27 年 9 月 29 日
学位授与の要件
学位規則第4条第
2 項該当(論文博士)
学 位 論 文 題 目
釣藤鈎アルカロイドの薬物動態に関する研究
論文審査委員
(主 査)
福岡大学
教授
岩崎 克典
(副 査)
福岡大学
教授
山野 茂
福岡大学
教授
金城 順英
福岡大学
教授
三島 健一
1 ページ
博士学位申請論文内容の要旨
博士学位申請論文名
釣藤鈎アルカロイドの薬物動態に関する研究
博士学位申請者氏名 串田 浩孝
(平成 27 年 6 月 10 日提出)
(日本語訳)
2 ページ
【内容要旨】
釣藤鈎(ちょうとうこう、Uncariae Uncis cum Ramulus、Gambir Plant, Morning Star)は、ア カネ科(Rubiaceae)のカギカズラ(釣藤 Uncaria rhynchophylla Miquel、華釣藤 Uncaria sinensis Haviland 又は大葉釣藤 Uncaria macrophylla Wallich)を基原とする鈎棘の付着した茎枝の薬用 部位である。本生薬は、古来より名医別録下品など多くの本草書に収載されており、小児の 驚癇、発疹、疳症、頭痛、眩暈に効果があると記載されている。 この釣藤鈎を配合する漢方処方には、不安症を主訴とする患者に対して抑肝散や抑肝散加 陳皮半夏、高血圧を主訴とする患者に対して釣藤散や七物降下湯などがあり、現在も臨床に おいて頻用されている処方である。最近では、釣藤散による脳血管障害性認知症や抑肝散に よる認知症周辺症状(BPSD)に対する有効性が二重盲検試験により検証されている。特に抑 肝散は、BPSD の他に、統合失調症や睡眠障害などに対しても効果的であることが報告され ている。これら漢方処方の作用を担う構成生薬の一つが釣藤鈎である。これまでの基礎研究 か ら 、 釣 藤 鈎 に は 、 corynoxeine ( CX )、 isocorynoxeine ( ICX )、 rhynchophylline ( RP )、 isorhynchophylline(IRP)、hirsutine(HTI)、hirsuteine(HTE)及び geissoschizine methyl ether (GM)(図 1)などのインドール系及びオキシインドール系アルカロイドが含まれており、 これら成分が血圧降下作用、睡眠鎮静作用、精神安定作用、鎮痙作用、セロトニン(5-HT) 調節作用、脳細胞保護作用及び血管拡張作用などの薬理作用を担う有力な活性成分であろう と考えられている。
3 ページ 一方で、医療用漢方製剤の普及は著しく、医師に対する使用調査では漢方薬処方経験医師 の割合が上市された 1976 年で 2 割程度であったものが 2003 年では既に 9 割に達している。 また、最近の調査状況では、8 割以上の医師が西洋薬との併用で用いており、留意点として 薬物相互作用を挙げている。特に現在の高齢化社会においては、それに伴う認知症、高血圧、 癌などの高齢化疾患の発生頻度も高くなっており、漢方薬の需要や西洋薬との併用の割合も 益々増えていくものと推測される。特に身体的虚弱傾向にある高齢者にとっては、薬物相互 作用や副作用についての情報は重要となる。 しかしながら、生薬や漢方製剤の薬物相互作用や副作用に関わるそれらの成分の吸収、分 布、代謝及び排泄といった、いわゆる薬物動態学的研究はほとんど行われていない。それは、 漢方薬が複数生薬からなる多成分系合剤であるためである。漢方薬の薬物動態学的研究を行 うためには、その中から生体作用成分を先ず見つけ、それらを検出する分析法を確立する必 要がある。そこで、本研究では、釣藤鈎アルカロイドの高速液体クロマトグラフィー/直列 型質量分析装置(LC/MS/MS)一斉定量法を構築し、釣藤鈎を含む種々漢方薬の薬物動態の解 明という大きな課題の基盤となる釣藤鈎アルカロイドの薬物動態について検討した。本論文 ではそれらの成果を 3 章に分けて論述した。 第 1 章 釣藤鈎アルカロイドの体内動態 本章第 1 節では、先ず釣藤鈎の薬効成分であるアルカロイドに焦点をあて、LC/MS/MS を 用いた 7 種のインドール系及びオキシインドール系アルカロイドの特異的高感度一斉定量法 を開発し、本法によって得られる測定値の信頼性を担保するため、安定性など含むバリデー ションを米国食品医薬品局(FDA)のガイドライン「Guidance for Industry : Bioanalytical Method Validation (2001)」に従い検討した。その結果、ラット血漿及び脳の測定試料中の釣藤鈎アル カロイド成分は、2 か月間以内の−20°C での冷凍保存、実験中の試料の暴露環境(4 時間室温 放置、24 時間 10°C オートサンプラー内放置及び−20°C/室温の凍結融解の 3 回繰り返し)にお いて安定であり、この条件下で保存された試料を測定することにより信頼性のある定量値が 担保できることを実証した。 第 2 節では、前節で開発した釣藤鈎アルカロイドの LC/MS/MS 一斉定量法を構成生薬とし て釣藤鈎を含む漢方薬・抑肝散の薬物動態研究に応用した。一晩絶食させたラットに抑肝散 (0.25、1 及び 4 g/kg)を経口投与し(各 n=3)、投与 0.25、0.5、1、2、4、8、及び 24 時間 後の血漿及び脳中の 7 種の釣藤鈎アルカロイドを LC/MS/MS を用いて定量した。図 2 には血 漿中に検出された 4 成分(RP、HTI、HTE 及び GM)の経時的濃度変化を示す。いずれの成
4 ページ 分も抑肝散投与後 30~60 分の tmax、用量依存的な AUC を示した。また、図 3 には、脳中で 唯一検出された GM の経時的濃度変化を示す。GM の濃度‐時間曲線のパターンは、血漿と 類似していた。 図 2. ラットに抑肝散を 0.25, 1 及び 4 g/kg で経口投与した後の血漿中 RP, HTI, HTE 及び GM の 濃度。各値は平均 ± 標準偏差を示す(n = 3)。 図 3. 抑肝散を 0.25, 1, and 4 g/kg で経口投与した後のラット脳中の GM 濃度。 各値は平均 ± 標準偏差を示す(n = 3)。 以上の結果から、釣藤鈎アルカロイド成分の内、RP、HTI、HTE 及び GM が血中から検出 され、特に GM が唯一脳中から検出されることを示し、この成分がアルカロイド成分の中で も中枢作用を担う重要な成分であることを見出した。
5 ページ 第 2 章 GM の薬物代謝 GM は検討した 7 種のアルカロイドの中で唯一脳中から検出された。また、本成分はアル カロイドの中でも血管拡張作用、各種 5-HT 受容体結合作用及び神経細胞保護作用などの薬効 力価が高い。これらの知見から、GM の代謝プロファイルを明確にすることは、薬効や他剤 との併用による薬物相互作用を考える上で非常に重要である。 そこで、本章第 1 節では、GM の代謝プロファイルを明らかにするため、GM にラットまた はヒト肝ミクロソームを作用させどのような代謝物が生成されるかを前章で開発した LC/MS/MS 分析法を用いて検討した。その結果、ラットまたはヒト肝ミクロソームのいずれ においても、図 4 に示したような 13 個の代謝物が検出された。MS/MS 解析の結果、これら の代謝物は、主に五つの経路(脱メチル化反応、脱水素化反応、メチル化反応、酸化反応及 び水付加代謝)により生成されるものと推定された。即ち、二種類の脱メチル化代謝物(M1-1 及び M1-2)、一種類の脱水素化代謝物(M2-1)、三種類のメチル化または酸化脱水素化代謝物 (M3-1、M3-2 及び M3-3)、三種類の酸化代謝物(M4-1、M4-2 及び M4-3)、二種類の水付加 代謝物(M5-1 及び M5-2)、一種類の二脱メチル化代謝物(M6-1)及び一種類の酸化水付加代 謝物(M7-1)であった。 図 4. ラットまたはヒト肝ミクロソームによる GM の推定 in vitro 代謝経路。
6 ページ 本成果は、ヒト及びラット肝ミクロソームにおける GM の薬物代謝を提示した初めての報 告であり、釣藤鈎を構成生薬とする漢方薬の薬物動態学と薬力学の今後の研究に大きく貢献 するものと思われる。 第 2 節では、GM の代謝に関与する代謝酵素について検討した。GM と構造が類似する HTI と HTE がラット肝シトクロム P450(CYP)によって代謝されることが報告されている。この ことから、GM もまた CYP によって代謝される可能性が推察されたため、CYP、フラビンモ ノオキシゲナーゼ及び UDP グルコニルトランスフェラーゼなどの薬物代謝酵素が含まれる ヒト肝 S9 画分を用いて第 1 節で認められた GM の代謝物生成に関与する薬物代謝酵素が CYP であるか否かを先ず検討した。 GM とヒト肝 S9 を反応させたところ、GM 未変化体のピーク面積値は大きく減少した。ま た、この GM ピーク面積の減少は CYP の非特異的阻害剤 1-aminobenzotriazole の添加により 有意に抑制された。この結果から GM の代謝に CYP が関わっていることが示唆された。そこ で、組み換えヒト CYP 分子種発現系による GM 代謝とヒト肝ミクロソームにおけるポリクロ ーナル抗体を用いた GM 代謝阻害を検討し、これら GM 代謝反応に関わるヒト CYP 分子種の 候補選定を行った。その結果、M1-1 は CYP2C19 及び CYP2D6、M2-1 は CYP1A1 及び CYP3A4、 M3-1 及び M3-2 は CYP3A4、M3-3 は CYP1A1 及び CYP3A4、M4-1 は CYP1A1 及び CYP3A4、 M4-2 は CYP1A1 及び CYP2D6、そして M5-1 及び M5-2 は CYP2C19 によって代謝生成される ことが示唆された。また前節において、M3-1~M3-3 を GM のメチル化または酸化脱水素化 代謝物と推定したが、CYP はメチル化反応を触媒しないと考えられることから、M3-1~M3-3 はメチル化代謝物ではなく酸化脱水素化代謝物であることが示唆された。
さらに、選定した CYP 分子種から GM 代謝に関わる CYP を同定するため、その寄与率を RAFCYPisoform(Relative Active Factor)値と組み換え CYP 分子種を用いた GM 代謝の CLrec-CYPisoform
を用いて算出した。その結果、CYP3A4 が一番高く、61.3%、続いて CYP2C19 が 23.5%、 CYP2D6 が 15.2%であった。この結果から、CYP3A4 が GM 代謝に最も寄与していることが明らかと なった。以上のように、GM の代謝酵素を明確にしたことは、臨床で併用される可能性のあ る西洋薬との薬物相互作用や副作用を予見するうえで非常に重要なことである。 第 3 節では、抑肝散を経口投与したラットの脳内に GM のほかにその代謝物が存在するか どうか、また存在するならその代謝物が GM と同じような 5-HT1A受容体パーシャルアゴニス ト作用を持つかどうかについて検討した。抑肝散(4 g/kg)を経口投与した 1 時間後のラット 脳には GM に加え、主にその代謝物である 23-O-脱メチル GM(M1-1)が検出されたが、そ のほかの代謝物はほとんど検出されなかった。また、この代謝物が GM と同様な 5-HT1A受容
7 ページ 体パーシャルアゴニスト作用があるか否かを in vitro[35 S]GTPγS 結合試験を用いて調べたとこ ろ、受容体に対する結合性はほとんど認められなかった。この結果は、少なくとも脳内にお ける 5-HT 作用は GM に依存するもので、その活性は脱メチル化されることにより不活化さ れることを示唆した。 以上、本章では釣藤鈎アルカロイドの中でも最も薬効力価が高いと推察されている GM に 焦点をあて、その薬物代謝について初めて明らかにした。 第 3 章 GM のラット脳内結合部位の特定とのその特性 GM が釣藤鈎含有処方の中枢作用を担う活性物質候補の一つであること、また血液脳関門 を通過して脳内に移行することは既に報告されているが、脳のどの領域でどのような分子と 結合しているかについては全く判っていない。そこで、本章第 1 節では、トリチウム標識 GM ([3 H]GM)を用いたラット脳切片の定量的オートラジオグラフィーを行い GM の脳内結合部 位を検討した。その結果、[3 H]GM の放射活性は脳の広範囲に検出された(図 5)。さらにス キャチャードプロット解析を行ったところ、特に前頭前野、前辺縁皮質、眼窩前頭皮質を含 む前頭皮質領域に高親和性の GM 結合分子が高密度に存在していることが明らかになった。 図 5. ラット脳組織における[3H]GM のオートラジオグラム。 (A)は脳の4方向の切断面(ブレグマ基準点より、(a) 前方に +4.00、(b) 前方に −3.30 mm、(c) 側方に+1.90、(d) 側方に+0.18 mm)における[3H]GM のオートラジオ グラムを示し、(B)は[3H]GM 結合の用量依存性を示す。
(a)
(b)
(c)
(d)
8 ページ 第 2 節では、GM の結合分子を同定するために、同様な脳切片を用いた[3 H]GM のオートラ ジオグラフィーにおいて各種受容体リガンドと競合的結合試験を行った。5-HT1A受容体アゴ ニスト(DPAT)、5-HT2A 受容体アンタゴニスト(ketanserin)、5-HT2B 受容体アゴニスト (BW723C86)、5-HT2C 受容体アゴニスト(RO60-0175)、5-HT7 受容体アンタゴニスト (SB269970)、アドレナリン 2A受容体アンタゴニスト(yohimbine)、ドーパミン D2受容体 アンタゴニスト((S)-(-)-sulpiride)、L 型 Ca2+チャネルブロッカー(verapamil)、µ-オピオイド 受容体アンタゴニスト(naloxone)をリガンドとして用いたところ、小脳を除く前辺縁皮質、 内側前頭前野、眼窩前頭皮質を含む前頭皮質及び縫線核において、5-HT1A、5-HT2A、5-HT2B、 5-HT2C、5-HT7受容体などの 5-HT 受容体やアドレナリン α2A受容体、Ca 2+ チャネル受容体、μ-オピオイド受容体などに競合拮抗性が認められた。これらの結果は、これら受容体が GM の 結合分子であることを示唆した。 最後に第 3 節において、GM 結合分子が結合部位でどの細胞に存在しているかを証明する ため、[3 H]GM の乳剤ミクロオートラジオグラフィーを用いて標的細胞の同定を行ったところ、 前頭皮質及び縫線核の大型及び小型細胞や細胞外マトリクスに[3 H]GM 陽性シグナル(黒色の 銀粒子)が標識された。これらの結果から、GM 結合分子は神経細胞(大型細胞)、非神経細 胞(小型細胞)や神経突起(細胞外マトリクス)に発現していることが示唆された。 本章をまとめると、脳内には GM の特異的結合部位が広範に存在し、その中で特に前頭前 野、前辺縁皮質、眼窩前頭皮質を含む前頭皮質領域に高親和性の GM 結合分子が高密度に存 在しており、その結合分子は神経細胞(大型細胞)、非神経細胞(小型細胞)や神経突起(細 胞外マトリクス)に発現している 5-HT1A、5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT7受容体などの 5-HT 受容体やアドレナリンα2A受容体、Ca 2+チャネル受容体、μ-オピオイド受容体などであること が示唆された。 以上、本研究の成果の内、特異的高感度 LC/MS/MS 一斉定量法は、今後、抑肝散だけでな く釣藤鈎を構成生薬として含む抑肝散加陳皮半夏、釣藤散、七物降下湯などの動物さらには ヒトでの薬物動態学的研究に幅広く応用される分析法である。また、釣藤鈎アルカロイドの 主要成分 GM の代謝経路の提唱は、臨床での薬物相互作用や副作用の今後の研究の基盤をな すものである。さらに GM の脳内結合性に関する知見は、GM(釣藤鈎)を含有する漢方薬の 薬理学的作用(薬力学的研究)の解明に貢献するものである。本論文の成果/新知見は今後 の漢方薬の薬物動態や薬力学的研究に応用され、患者をはじめ、医師や薬剤師などの多く医 療関係者がこれまで以上に安心して使える漢方薬の研究に役立つものと考えられる。
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 1 近 年 、 医 療 用 漢 方 製 剤 の 普 及 は 著 し く 、 最 近 の 調 査 状 況 で は 、 8 割 以 上 の 医 師 が 西 洋 薬 と の 併 用 で 用 い て い る 。 特 に 現 在 の 高 齢 化 社 会 に お い て は 、 そ れ に 伴 う 認 知 症 、 高 血 圧 、 癌 な ど の 高 齢 化 疾 患 の 発 生 頻 度 も 高 く な っ て お り 漢 方 製 剤 の 応 用 は さ ら に 広 が り を み せ る と 推 察 さ れ る 。 本 研 究 に 取 り 上 げ た 釣 藤 鈎 は 、 小 児 の 驚 癇 、 発 疹 、 疳 症 、 頭 痛 、 眩 暈 に 効 果 が あ る 生 薬 で あ る 。 こ の 釣 藤 鈎 を 配 合 し て い る 漢 方 薬 に は 、 不 安 症 を 主 訴 と す る 抑 肝 散 や 抑 肝 散 加 陳 皮 半 夏 、 高 血 圧 を 主 訴 と す る 釣 藤 散 や 七 物 降 下 湯 な ど が あ り 、 臨 床 に お い て も 頻 用 さ れ て い る 漢 方 薬 で あ る 。 最 近 で は 、 釣 藤 散 に よ る 脳 血 管 障 害 性 認 知 症 や 抑 肝 散 に よ る 認 知 症 の 周 辺 症 状 に 対 す る 二 重 盲 検 試 験 に よ る 有 効 性 な ど の 報 告 、 さ ら に 作 用 機 序 の 解 明 な ど も 進 ん で い る こ と か ら 、 そ の 需 要 や 西 洋 薬 と の 併 用 の 割 合 も 益 々 増 え て い く も の と 推 測 さ れ る 。 そ れ だ け に 、 特 に 身 体 的 虚 弱 傾
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 2 向 に あ る 高 齢 者 に と っ て は 薬 物 相 互 作 用 や 副 作 用 に つ い て の 情 報 は 重 要 と な る 。 し か し 、 生 薬 や 漢 方 製 剤 の 薬 物 相 互 作 用 や 副 作 用 に 関 わ る 吸 収 、 分 布 、 代 謝 及 び 排 泄 と い っ た 、 い わ ゆ る 薬 物 動 態 学 的 研 究 は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。 そ れ は 、 漢 方 薬 が 複 数 生 薬 ・ 多 成 分 系 合 剤 で あ る か ら で あ る 。 薬 物 動 態 学 的 研 究 を 行 う た め に は そ の 中 か ら 生 体 作 用 成 分 を 先 ず 見 つ け 、 そ れ ら を 検 出 す る 分 析 法 を 確 立 す る 必 要 が あ る 。 こ れ ま で の 基 礎 研 究 か ら 、 釣 藤 鈎 は c o r y n o x e i n e ( C X ) , i s o c o r y n o x e i n ( I C X ) , r h y n c h o p h y l l i n e ( R P ) , i s o r h y n c h o p h y l l i n e ( I R P ) , h i r s u t i n e ( H T I ) , h i r s u t e i n e ( T H E ) 及 び g e i s s o s c h i z i n e m e t h y l e t h e r ( G M ) な ど の イ ン ド ー ル 系 ア ル カ ロ イ ド に 血 圧 降 下 作 用 、 睡 眠 鎮 静 作 用 、 精 神 安 定 作 用 、 鎮 痙 作 用 、 セ ロ ト ニ ン 調 節 作 用 、 脳 細 胞 保 護 作 用 及 び 血 管 拡 張 作 用 な ど の 薬 理 活 性 作 用 が あ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ こ で 、 著 者 は 釣 藤 鈎 を 含 む 種 々 漢 方 薬 の 薬
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 3 物 動 態 の 解 明 と い う 大 き な 課 題 の 基 盤 と な る 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド の 薬 物 動 態 に 関 す る 研 究 に 取 り 組 み 、 以 下 の 新 知 見 を 得 た 。 第 1 章 で は 、 L C / M S / M S に よ る 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド ( C X 、 I C X 、 R P 、 I R P 、 H T I 、 H T E 及 び G M ) の 特 異 的 な 高 感 度 一 斉 定 量 法 を 試 料 の 保 存 ・ 安 定 性 及 び 機 器 管 理 な ど の バ リ デ ー シ ョ ン と 共 に 構 築 し 、 世 界 の 基 準 ( F D A の ガ イ ド ラ イ ン 基 準 ) を 満 た す 定 量 法 と し て 確 立 し た 。 ま た 、 そ の 有 用 性 を 抑 肝 散 投 与 ラ ッ ト で の 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド の 血 中 及 び 脳 中 動 態 解 明 で 検 証 し た 。 特 に 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド の G M が 効 率 よ く 血 漿 及 び 脳 中 へ 移 行 す る こ と を 見 出 し 、 ア ル カ ロ イ ド 成 分 の 中 で も 中 枢 作 用 を 担 う 重 要 な 成 分 で あ る こ と を 指 摘 し た 。 第 2 章 で は 、 ラ ッ ト 及 び ヒ ト 肝 ミ ク ロ ソ ー ム を 用 い て 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド の 主 要 活 性 成 分 と 推 定 さ れ る G M の 代 謝 経 路 を 提 唱 し た 。 す な わ ち 、 G M は 肝 代 謝 酵 素 C Y P 2 C 1 9 、
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 4 C Y P 2 D 6 及 び C Y P 3 A 4 に よ り 、 脱 メ チ ル 化 反 応 、 脱 水 素 化 反 応 、 メ チ ル 化 反 応 、 酸 化 反 応 及 び 水 付 加 反 応 の 5 つ の 代 謝 経 路 を 経 て 、 少 な く と も 1 3 種 類 の 代 謝 物 が 生 成 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 脳 で は 主 に 2 3 -O - 脱 メ チ ル G M が 検 出 さ れ た が 、 G M の よ う な 薬 理 活 性 を 示 さ な か っ た が こ と か ら 、 G M が 活 性 本 体 と し て 重 要 で あ る こ と を 指 摘 し た 。 第 3 章 で は 、 脳 に 移 行 し た G M の 脳 内 結 合 部 位 の 特 定 と の そ の 特 性 を 明 ら か に す る た め 、 ト リ チ ウ ム 標 識 G M ( [ 3 H ] G M ) を 用 い た オ ー ト ラ ジ オ グ ラ フ ィ ー に よ り 、 脳 内 に は G M の 特 異 的 結 合 部 位 が 広 範 に 存 在 し 、 そ の 中 で 特 に 前 頭 前 野 、 前 辺 縁 皮 質 、 眼 窩 前 頭 皮 質 を 含 む 前 頭 皮 質 領 域 に 高 親 和 性 の G M 結 合 分 子 が 高 密 度 に 存 在 し て い る こ と 、 及 び 、 そ の 結 合 分 子 は 神 経 細 胞 ( 大 型 細 胞 ) 、 非 神 経 細 胞 ( 小 型 細 胞 ) や 神 経 突 起 細 ( 胞 外 マ ト リ ク ス ) に 発 現 し て い る 5 - H T 1 A 、 5 - H T 2 A 、 5 -H T 2 B 、 5 - H T 2 C 、 5 - H T 7 受 容 体 な ど の セ ロ ト
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 5 ニ ン 受 容 体 や ア ド レ ナ リ ン α 2 A 受 容 体 、 C a 2 + チ ャ ネ ル 受 容 体 、 μ - オ ピ オ イ ド 受 容 体 な ど で あ る こ と を 示 唆 し た 。 以 上 、 本 研 究 で 得 た 新 知 見 の 内 、 特 異 的 高 感 度 L C / M S / M S 一 斉 定 量 法 は 、 今 後 、 抑 肝 散 だ け で な く 釣 藤 鈎 を 構 成 生 薬 と し て 含 む 抑 肝 散 加 陳 皮 半 夏 、 釣 藤 散 、 七 物 降 下 湯 な ど の 動 物 さ ら に は ヒ ト で の 薬 物 動 態 学 的 研 究 に 幅 広 く 応 用 さ れ る 分 析 法 で あ る 。 ま た 、 釣 藤 鈎 ア ル カ ロ イ ド の 主 要 成 分 G M の 代 謝 経 路 の 提 唱 は 、 臨 床 で の 薬 物 相 互 作 用 や 副 作 用 の 今 後 の 研 究 の 基 盤 を な す も の で あ る 。 さ ら に G M の 脳 内 結 合 性 に 関 す る 知 見 は 、 G M ( 釣 藤 鈎 ) を 含 有 す る 漢 方 薬 の 薬 理 学 的 作 用 ( 薬 力 学 的 研 究 ) の 解 明 に 貢 献 す る も の で あ る 。 本 論 文 の 成 果 は 今 後 の 漢 方 薬 の 薬 物 動 態 や 薬 力 学 的 研 究 に 応 用 さ れ 、 患 者 を は じ め 、 医 師 や 薬 剤 師 な ど の 多 く 医 療 関 係 者 が こ れ ま で 以 上 に 安 心 し て 使 え る 漢 方 薬 の 研 究 に 役 立 つ も の と 考 え ら れ る 。
福岡大学大学院博士学位申請論文審査の結果の要旨 福岡大学大学院20×20 6 上 記 の 内 容 に 関 し て 、 そ の 独 創 性 ・ 新 規 性 、 論 文 投 稿 、 さ ら に は 公 聴 会 で の 質 疑 に 対 す る 能 力 を 鑑 み た 上 で 、 本 論 文 は 本 学 薬 学 研 究 科 の 博 士 学 位 論 文 と し て 認 定 出 来 る と 判 断 し た 。