グロス(dictogloss)の活用
著者 調子 和紀
雑誌名 ノートルダム清心女子大学紀要. 外国語・外国文学
編, 文化学編, 日本語・日本文学編 = Notre Dame Seishin University kiyo
巻 44
号 1
ページ 52‑70
発行年 2020
URL http://id.nii.ac.jp/1560/00000445/
「主体的・対話的で深い学び」につながる ディクトグロス(dictogloss)の活用
調子 和紀
※A Practical Use of Dictogloss Associated with “Proactive, Interactive, and Deep Learning”
Kazunori C
hoshiAccording to the new Courses of Study, there are three main pillars to grow important elements of academic ability as follows: 1. acquisition of fundamental knowledge and skills; 2. skills of thinking, making judgments and engaging in self- expression; and 3. eagerness to learn. It is necessary for instructors to enhance their class or teaching methods in order to realize proactive, interactive, and deep learning about how students learn. In addition, the overall objective in learning, the four areas of language acquisition should be interlinked for comprehensive learning, while incorporating appropriate language activities involving speaking and writing about content, heard or read, to develop students’ communication abilities.
This paper focuses on dictogloss as an effective way of proactive, interactive, and deep learning. Dictogloss is a sort of activity which integrates listening and writing to reconstruct English passages. This promotes cognitive processes involved in second language acquisition and simultaneously in ‘focus-on-form’ activity through learning English grammar consciously.
From the results obtained in self-evaluation of the students who tried dictogloss continuously, they realized proactive, interactive, and deep learning through dictogloss as well as improving their score of TOEIC® Listening.
Keywords: dictogloss, proactive, interactive, and deep learning, focus on form
1.はじめに
中央教育審議会が 2016 年 12 月に取りまとめた『幼稚園,小学校,中学校,高等学校及 び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』によれば,
次期学習指導要領が求める資質・能力(何ができるようになるか)について,
キーワード : ディクトグロス,主体的・対話的で深い学び,フォーカス・オン・フォーム
※ 本学文学部英語教育センター
1. 生きて働く「知識・技能」の習得
2. 未知の状況にも対応できる「思考力・ 判断力・表現力等」の育成
3. 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養
の3つの柱で再整理し,それらをどのように学ぶかについては,主体的・対話的で深い学びの実 現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)を行うこと,としている。
また,次期高等学校学習指導要領(2018 年告示)によれば,外国語科の目標を次のよ うに設定している。
第 1 目 標
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞 くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動及びこれらを結び付けた統合的な 言語活動を通して,情報や考えなどを的確に理解したり適切に表現したり伝え合った りするコミュニケーションを図る資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
この目標に示されている統合的な言語活動とは,「聞くこと」,「読むこと」,「話すこと[やり 取り]」,「話すこと[発表]」,「書くこと」の複数の領域を結び付けて統合した言語活動のことで あり,中学校や高等学校ではこうした統合的な言語活動を重視した目標設定がなされている。
本稿では,統合的な言語活動の一つとして,特に「聞くこと」と「書くこと」を統合したディ クトグロス(dictogloss)に焦点をあて,昨年度から今年度に行った「特別演習英語G・H」
(TOEIC® 演習)での実践による結果を検証し,その効果と可能性について探る。
2.ディクトグロスとは
ディクトグロス(dictogloss)は Wajnryb(1990)が提唱した英文再生の手法であり,
アウトプットを重視した第二言語学習法の一つである。村野井(2006)によれば,テキス トを読んだ後の読後活動(post-reading activity)として行うことも可能であり,全く初 めて聞く文章を聞き取り,内容を復元するリスニング重視型の活動として利用することも 可能であるとし,また学習者の統語処理および文法の意識化,中間言語と目標言語の認知 比較を促す点で,極めて有効なアウトプット活動である,と述べられている。
Wajnryb によるディクトグロスの基本的な手順は次のようになる。
A)短くて,内容のある文章が普通のスピードで(2回)読まれる B)読まれている間に,学習者は知っている語句のメモを取る
C)小グループで学習者は自分たちの断片的な知識を共有し,元の英文を再生する D)それぞれのグループが再生する英文は,文法的な正確性や結束性は求められるが,
原文の複製でなくてもよい(reconstruction)
E)学習者は再生した英文を分析・比較し,意見を交わしながら修正する
ディクトグロスの目的について,Wajnryb は言語産出における文法使用の機会を提供 する事に重点を置いているが,活動の流れとつながりの工夫次第では,次期学習指導要領 等が求める「主体的・対話的で深い学び」につながる統合的な言語活動の一つと考えるこ とができる。今年度第1期の「特別演習英語G」で実施したディクトグロスの実践につい て次で詳しく述べる。
3.授業における実践
昨年度の「特別演習英語G・H」(TOEIC® 演習)でディクトグロスを用いた指導を行っ てきたが,今年度の授業では,最初と最後の授業における事前・事後テストと毎回のディ クトグロス実施後に自己評価アンケート調査を行い,次の3点について調べることとした。
1. ディクトグロスを用いることで学生の TOEIC® Listening(Part 4)得点は上昇するか 2. ディクトグロスを用いることで,文法知識についての理解度や習熟度について分析
が可能か
3. ディクトグロスは学生の「主体的・対話的で深い学び」を導く方法として有効か 今年度第1期に「特別演習英語G」を履修した学生は 15 名である(4年生2名,3年 生8名,2年生3名,1年生2名)。また学科別に見ると英語英文学科 10 名,現代社会学 科2名,人間生活学科1名,児童学科2名である。
使 用 教 材 は,TOEIC® 演 習 用 テ キ ス ト『SUCCESSFUL KEYS TO THE TOEIC®
LISTENING AND READING TEST 3 GOAL 700 4th Edition』(桐原書店)を用い,そ の中で Listening Section Part 4 Talks をディクトグロスの教材として使用した。理由は Wajnryb による「短くて,内容のある文章」に近いと考えたからである(今期使用した 7ユニットにおける Part 4 の平均語数は 125 語)。再生する英文の語数は,文章中の 80 語程度(7ユニットの平均再生語数は 83.4 語)と設定した。また,教材に付属する実践 演習問題のうち,Part 4 に該当する問題(15 問)を4月当初の授業と7月最後の授業に 事前・事後テストとして実施した。
授業期間内に実施した7回のディクトグロスの指導手順は次の通りである。指導手順 については TOEIC® リスニング問題演習を実施した後に行う読後活動(post-reading activity)とし,Wajnryb による基本的な流れに若干変更を加えたものとなっている。
指導手順 ❖ 準備段階
1. TOEIC® リスニング問題として解答する
2. スクリプトを提示し,内容確認と音読練習(2回)
❖ ディクトグロス
3. リスニング&ノート・テイキング 「聞く&書く」
リスニング(3回:1回目・3回目はポーズなし,2回目は文単位でポーズを置く)
1回目はメモを取らず聞く,2・3回目にメモを取る 4. メモを元に5分間,個人で再生活動を行う 「書く」
5. メモと再生した英文について,ペアで2分間の情報共有を行い,できる限り正しい 英文を再構築する
❖ 自己評価・分析
6. スクリプトを再提示し,自分の書いた英文を自己添削し,自己評価アンケートに回答する ❖ フィードバック
7. 自己評価アンケート結果について次時の最初にフィードバックを行う
4.結果と考察
A)事前・事後テスト結果について
4月当初に実施した事前テスト,7月に実施した事後テストの両方を受験した学生 10 名の結果は表 1 のようになった(15 点満点)。
表 1 事前・事後テスト結果
事前テスト 事後テスト
平均点 7.1 8.1
最高点 9.0 11.0
最低点 4.0 2.0
また,事前テストと事後テストの得点の相関を求めたところ,図 1 のように r=.54 で正 の相関があることがわかった。ディクトグロスの活動だけでリスニング力が伸長したとは 考えにくいが,Part 4 に準拠した問題に関する限り,4か月間ディクトグロスを継続する ことで一定の成果があったと考えられる。
図1 事前・事後テストの得点相関
B)ディクトグロス活動後の自己評価アンケート結果について
先述のように 7 つのユニットでディクトグロスの活動を行い,毎回自己評価アンケート を実施した。7 回分のアンケート結果をまとめると次のようになった。
1-1.今回の英文について,メモはどの程度できましたか?
20 to 29 words 5 30 to 39 words 12 40 to 49 words 23 50 to 59 words 18 60 to 69 words 27 70 words or more 9 TOTAL 94
図2 1-1.今回の英文について,メモはどの程度できましたか?
聞き取った英文に対するメモの語数を見ると,70 〜 80%程度と 50 〜 60%程度が最も 多くなっている。この語数の違いが最終的な再生語数にも影響することが次の質問項目 2-1. により分かる。
2-1.今回の英文について,最終的にどの程度正確に再生できましたか?
20 to 29 words 4 30 to 39 words 15 40 to 49 words 18 50 to 59 words 23 60 to 69 words 19 70 words or more 15 TOTAL 94
図3 2-1. 今回の英文について,最終的にどの程度正確に再生できましたか?
最終的な再生語数における 70 語以上,また 50 〜 59 語の人数が増加していることが分 かる。この時点で,メモの段階から最終的に再生できる語数との差は概ね 10 語程度では ないかと推測できる。
3.再生できた語数と,メモを取った語数の差はどのくらいですか?
Less than 10 words 58 10 to 19 words 30 20 to 29 words 3 30 to 39 words 1 40 words or more 2 TOTAL 94
図4-1 3.再生できた語数と,メモを取った語数の差はどのくらいですか?
メモから再生へと至る段階における語数の増加は 2-1. から推測した結果のとおりになっ ていることが分かる。また,図4–2のように,メモの語数と再生語数の相関を求めたと ころ,r=.67 で高い正の相関があることがわかった。また,後述する質問項目 5-2. および 8. に より,どの段階で何語程度の修正を行ったかについても分かった。
図4-2 メモの語数と再生語数の相関
次に,ディクトグロスと特定の文法事項の再生との関連について調査を行った。特にリ スニング段階では弱形で発音されることがほとんどの事項について調べることで,聞いた 英文つまりインプット(input)が,再生されるまでの段階で,例えば Gass(1997, 2008)
が説明する第二言語習得の認知プロセス「気づき(apperceived input / noticing)」,「理
解(comprehended input / comprehension)」,「内在化(intake)」,「統合(integration)」
を経て,再生文つまりアウトプット(output)へと繋がることを確認できるのではないか と考えた。
4.次の項目についてどの程度できましたか?
冠詞の適切な使用 10% 5 20% 15 40% 21 60% 30 80% 18 100% 2 TOTAL 91
図5 冠詞の適切な使用
リスニング活動において,そのほとんどが弱形で発音される機能語(function word)は,
メモの段階で書き取ることが難しい。80% 程度以上正確に使用できた学生は多くの項目 と比較しても少ない。また,質問項目 5-1. および 6. の回答から,他の項目と比較して再 生が難しい項目だったことが分かる。
名詞の単数・複数の適切な区別 10% 5
20% 9 40% 25 60% 27 80% 21 100% 6 TOTAL 93
図6 名詞の単数・複数の適切な区別
動詞の時制や3単現の(-s/-es)の適切な使用 10% 4
20% 7 40% 20 60% 30 80% 25 100% 7 TOTAL 93
図7 動詞の時制や3単現の(-s/-es)の適切な使用
これらの2項目に関しては,リスニング段階で正確に聞き取ることは難しいと思われる が,質問 5-1. の回答にあるように比較的判別できたことが分かる。ただし,質問 6. で見 るとあまりできなかった項目だったとも判断できる。これらの項目に関しては,インプッ トの段階における内容理解の程度と内容語(content word)の理解が影響していると考え られる。
能動態・受動態の適切な使用 10% 6
20% 11 40% 10 60% 40 80% 14 100% 11 TOTAL 92
図8 能動態・受動態の適切な使用
助動詞の適切な使用 10% 3 20% 11 40% 20 60% 36 80% 19 100% 3 TOTAL 92
図9 助動詞の適切な使用
これらの2項目に関しては,リスニング段階はもちろん,再生段階においても適切に使 用することが難しい項目だと思われる。ディクトグロス活動時にこれらの文法事項の習得 を意識的に行うことによって,ディクトグロスがフォーカス・オン・フォーム(focus on form),つまり「意味中心の言語理解・産出活動において,特定の言語形式(語彙・文法)
の習得を促すこと」(村野井,2006)による言語活動になり得ることを示唆している。
前置詞の適切な使用 10% 7 20% 10 40% 19 60% 41 80% 14 100% 3 TOTAL 94
図 10 前置詞の適切な使用
この項目については,冠詞の場合と同様に弱形で発音される機能語のため,メモの段階 で書き取ることは困難である。したがって,80% 程度以上正確に使用できた学生は少な
くなっている。また質問項目 5-1. および 6. の回答から,冠詞と同程度再生の難しい項目だっ たことが分かる。ただ,冠詞と比較して 60%程度適切な使用ができた学生が多くなって いるのは,前置詞が必要かどうかを判別し,さらにどの前置詞を使用するかについて,今 までの学習を通して内在化した知識への気づきが生まれ,統合を経てアウトプットに結び つけることができた結果だと考えられる。
準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の適切な使用 10% 7
20% 14 40% 21 60% 30 80% 17 100% 3 TOTAL 92
図 11 準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の適切な使用
学習者にとって,準動詞の適切な使用は難しい項目である。実際にこの調査でも 20%
程度以下の学生が最も多い(21 人)項目となっている。ただし,必要かどうかの判別や 用法についてある程度の理解はできており,60%程度以上で再生できた学生も多いのが特 徴である。ただし,質問項目 5-1. の回答ではよくできた項目としての選択人数が最低(3 人)
となっており,その適切な使用について自信が持てなかったのではないかと推測する。
接続詞・関係詞の適切な使用 10% 5
20% 6
40% 24
60% 28
80% 21
100% 7 TOTAL 91
図 12 接続詞・関係詞の適切な使用
この項目については,できたと回答した学生が予想以上に多かった。使用すべき場所や 適切な語句について,認知プロセスを経てアウトプットへと繋がり易い項目だったではな いかと推測する。そのことは質問項目 5-1. および 6. の回答からも判断することができる。
5-1.質問 4. のうち,よくできた項目はどれですか(2つまで選択可)
冠詞の適切な使用 10 名詞の単数・複数の適切な区別 23 動詞の時制や3単現の(-s/-es)の適切な使用 30 能動態・受動態の適切な使用 13 助動詞の適切な使用 7 前置詞の適切な使用 15 準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の適切な使用 3 接続詞・関係詞の適切な使用 17 TOTAL 118
図 13 5-1.質問 4. のうち,よくできた項目はどれですか(2つまで選択可)
5-2. 質問 5-1. で,よくできた理由として最も当てはまるのは次のうちどれですか
メモの段階でできた 48
再生する段階で気づいた 23
パートナーとの情報共有の段階で気づいた 23
TOTAL 94
図 14 5-2.質問 5-1. で,よくできた理由として最も当てはまるのは次のうちどれですか
それぞれの文法事項について,どの段階で気づいて再生できたかという質問項目だが,
メモの段階と再生段階・情報共有の段階を加えたものがほぼ1:1の比率になっている。
また再生段階において「自分」で気づくのと「ペア活動」での気づきの比率も1:1となっ ている。このことから学生はメモから再生する段階で,「主体的」に自分で考えた内容を 再生するとともに,パートナーとの情報共有において「対話的」に考えを相対化し,最終
的な再生段階で,気づきから新たな考えを形成する「深い学び」を通して表現していたの ではないかと考える。
6.質問 4. のうち,あまりできなかった項目はどれですか(2つまで選択可)
冠詞の適切な使用 23 名詞の単数・複数の適切な区別 21 動詞の時制や3単現の(-s/-es)の適切な使用 21 能動態・受動態の適切な使用 13 助動詞の適切な使用 7 前置詞の適切な使用 18 準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の適切な使用 12 接続詞・関係詞の適切な使用 6 TOTAL 121
図 15 6.質問 4. のうち,あまりできなかった項目はどれですか(2つまで選択可)
7.ペア活動において,貢献できた項目は次のうちどれですか(2つまで選択可)
冠詞の適切な使用 6 名詞の単数・複数の適切な区別 18 動詞の時制や3単現の(-s/-es)の適切な使用 18 能動態・受動態の適切な使用 10 助動詞の適切な使用 5 前置詞の適切な使用 13 準動詞(不定詞・分詞・動名詞)の適切な使用 7 接続詞・関係詞の適切な使用 17 TOTAL 94
図 16 7.ペア活動において,貢献できた項目は次のうちどれですか(2つまで選択可)
ペア活動における相互の学び合いに関して,質問項目 5-1. の回答との比較でそれぞれの 上位3項目と下位3項目が同じであることから,基本的には学生自身が自信を持てる項目 について貢献していることが分かる。これについては,ペア活動に割り当てた時間が2分 間ということが関係している可能性もある。
8.ペア活動においてどの程度再生語数が増加しましたか 0 words 5
1 to 4 words 54 5 to 9 words 31 10 words or more 4 TOTAL 94
図 17 8.ペア活動においてどの程度再生語数が増加しましたか
最終的な再生語数は 3. で述べたディクトグロスの指導手順 4. と 5. を経てアウトプット できた語数となっている。自己評価アンケート結果 4-B)質問項目 1-1.-3. での分析のように,
メモできた語数と最終的な再生語数との差は平均値で 10 語であるが,そのうち約半数が ペア活動での気づきによって再生されたものだということを示している。和泉(2016)に
よれば,ディクトグロスのようなタスク活動を行う際,正確な言葉の使い方について話し 合う行為を形式交渉(negotiation of form)と呼び,また自分の発した言葉について客観 的に振り返って分析する際の語りをメタトーク(metatalk)と呼ぶ。メタトークは他者と の交流の中で活性化され,より正確な言葉の使用を促すとされる。この結果からもディク トグロスは「主体的・対話的で深い学び」につながる活動であることが示されている。
C)自己評価アンケート自由記述より
Unit 1 〜 7 で行った自己評価アンケートでは,学生がディクトグロスに関する成果と改 善点について毎回振り返りを行った。Unit 1 や 2 の時と 6 や 7 の時ではその記述にも変化 が見られた。
◦ 全くついていけなかった。関係詞は分かった。(Unit 1)
◦ メモしているうちに,会話は進んでいくからなかなか聞き取るのが難しく,忙しかっ た。もっと書くのを早くしたい。(Unit 1)
◦ 3単元の s や,単数複数の区別が弱いなと思った。文脈などから判断していけると いい。(Unit 1)
◦ 今回はあまり聞き取れなかったのと,書けない単語が多くて前回に比べてもあまり 出来が良くなかった。1回目で単語を理解し,2回目で文章にするようにしたら良 いかなと思った。(Unit 2)
◦ 前回よりもよくできました!(Unit 3)
◦ もっと大事なところのメモをとる(Unit 3)
◦ メモの取り方の順番に気をつける(Unit 3)
◦ メモの取り方を変えたらあがった(Unit 5)
◦ 今までで1番出来ました。(Unit 6)
◦ 最初に比べてメモの段階で書き取れる語数が増えた。(Unit 7)
◦ 聞き取れる単語数が増えていった!(Unit 7)
◦ メモを取り方が最初よりは上手くなった気がします!(Unit 7)
◦ 今まで聞き逃していたことをじっくり考えることができた(Unit 7)
これらの記述からは,学生がディクトグロスの活動を通して,言語習得の観点ではイン プット(聞く)からアウトプット(書く・再生)へと至る過程において,「気づき」や「理 解」,また「内在化」や「統合」という認知プロセスを授業内の限定された時間内で体験し,
促進されていることを示している。また,この学習のプロセスそのものが「主体的・対話 的で深い学び」につながっていることも示唆している。
5.まとめ
本実践では,「特別演習英語G」を履修した 15 名の学生に対して7回のディクトグロス 活動を実施し,その後の自己評価アンケート結果から,次の3点について検証を行った。
1. ディクトグロスを用いることで学生の TOEIC® Listening(Part 4)得点は上昇するか 2. ディクトグロスを用いることで,文法知識についての理解度や習熟度について分析が可能か 3. ディクトグロスは学生が「主体的・対話的で深い学び」をする方法となるか
1. については,4.-A)で述べたように事前・事後テストの両方を受験した学生数が 10 名と限られた人数ではあったが,平均点の上昇(1.0 点)と事前・事後テストの得点相関 から判断すると,形式が同じリスニング問題において,得点を上昇させる学習方法になり 得ると考えられる。
2. については,ディクトグロス活動だけで明確な習熟度や理解度の測定は難しいが,自 己評価アンケート結果から,インプットからアウトプットに至るプロセスにおいて,気 づきやすい文法事項とそうでないものがあることが分かった。さらに,ディクトグロ スはフォーカス・オン・フォームによるタスク活動であり,その活動を通して Larsen- Freeman(2003)が提唱した Grammaring,つまり Form(形式),Meaning(意味),Use(使 用)を同時に促進する学習法となっており,第二言語習得における認知プロセスからも文 法習得に関して有効な学習方法の一つだと考えられる。
3. については,自己評価アンケート結果 4-B)質問項目 5-2. と 8. の結果,また 4-C)自 由記述からも,ディクトグロスは第二言語習得の認知プロセスにおける文法習得の側面だ けでなく,外国語学習における技能統合型言語活動の一つとして,主体的・対話的で深い 学びの実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)につなが る活動であることが示された。
ディクトグロスは授業内で扱う教材を利用しながら,言語習得の観点だけでなく,授業 を活性化させる点においても有効な言語活動と言える。実際に中学校や高等学校における 外国語(英語)学習に導入されたり,日本語教育においても研究開発が行われたりと,活 用が広がってきている。今後は,特別演習英語での継続的な実践や自己評価アンケートの データ蓄積を行い,さらに有効な実践方法の開発や言語習得面でのフィードバック等につ いて研究開発を継続したい。
参考文献
Gass, S.(2018). Input, Interaction, and the Second Language Learner (2nd ed.). New York, NY: Routledge.
Gass, S. & Selinker, L.(2008). Second Language Acquisition (3rd ed.). New York, NY:
Routledge.
Larsen-Freeman, D.(2003). Teaching language: From Grammar to Grammaring. Boston, MA: Heinle, Cengage Learning.
Wajnryb, R(1990). Grammar Dictation. Oxford, UK: Oxford University Press.
和泉伸一(2016). 『フォーカス・オン・フォームと CLIL の英語授業』アルク
岡山県立倉敷南高等学校(2009)『平成 20 年度 スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・
ハイスクール 研究開発実施報告書 〜 Dictogloss による4技能を統合した指導方 法〜 研究成果の共有と普及のために(資料編)』
中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校および特別支援学校の学習指導要領 等の改善および必要な方策等について(答申)」平成 28 年 12 月 21 日 .
廣森友人(2015). 『英語学習のメカニズム 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』
大修館書店
村野井仁(2006). 『第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法』大修館書店 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 外国語編・英語編」平成 30
年 7 月
付録 (ディクトグロスに使用した英文)
使用教材『SUCCESSFUL KEYS TO THE TOEIC® LISTENING AND READING TEST 3 [4th Edition]』(桐原書店)
Listening Section (Part 4)スクリプト (ディクトグロス使用部分はArial)
◦ Unit 1
Thank you for tuning in to TTX Radio’s daily forecast, the most accurate weather information in Tokyo. My name’s Harry Arnett and I am sitting in for the vacationing Howard Green. Our top story tonight is that June has arrived and so has the annual rainy season. This year’s early summer weather is expected to be typical and we can expect rain almost every morning. The afternoons will often be partly cloudy and dry, but the evenings should bring rain again. You’d be wise to carry an umbrella with you and save the afternoons for your outdoor activities. This year’s wet season should be very typical, unlike last year’s, and should last until the end of July when we’ll be able to see bright blue skies again. (80 words)
◦ Unit 2
The site of the next Winter Olympic Games was announced Friday by the International Olympic Committee. Because of the high quality of all the cities that applied, it was a very difficult decision according to the committee. The first two votes ended in ties, but the third time was successful with a vote of 24 to 21. The committee decided that Barre Loche, Argentina will host the next Winter Olympics. Although Barre Loche is little known outside South America, it has excellent facilities for the games, said the IOC president. Committee members who voted for Barre Loche said that it is about time a developing country is represented in the Olympics. (95 words)
◦ Unit 3
You have reached the law offices of Parker and Simon, a legal group established in 1985.
Thank you very much for your phone call. Our offices will be closed from Saturday to Monday to observe the national holiday. We will reopen for our regular hours on Tuesday.
Regular hours of operation are from 8:00 a.m. to 5:00 p.m. If you have a legal emergency outside our office hours, you may call either partner. Mr. Parker can be reached at 628- 8947. Mr. Simon may be contacted at 628-4587. If we are unable to answer at that time,
please leave a message and we will return your call shortly. Since our clients are important to us, we will do almost anything to help you. (84 words)
◦ Unit 4
The southeast Asia region is famous for its natural beauty and delicious food. Vietnam is one such location in the area. However, the weather in the north can be quite different from the south and can be rather unpredictable. The northern Vietnam area generally has the two seasons of winter and summer. Winters generally last from November to April and are usually cool and rather wet. February and March are especially famous for crachin, or "rain dust" that falls in the region. Travel is recommended during the warmer and drier season between May and October. If you do decide to travel during the rainy season, an umbrella will come in handy. Otherwise, whenever you visit this beautiful location, be prepared for changeable weather by bringing a light sweater wherever you go.
(79 words)
◦ Unit 5
Good afternoon everyone. It’s hard to believe, but it’s already time for our annual shareholders meeting. Thank you very much for joining us today. I sincerely hope that you will benefit from this meeting and by being a shareholder of our corporation. First of all, I am proud to announce a record profit for the past fiscal year. The business has enjoyed an average profit of 3%, but the past year has been especially good for us. The reasons for such a change in fortune are rather simple, yet satisfying. Mainly, our operating costs were down 5% while our sales increased 12%. Because of these two favorable occurrences, our total profit margin was 23%, a gain of 14% over the year before. Now that I have given you the good big news, I would like to present the details of this report. (84 words)
◦ Unit 6
Hello. You have reached the voice mail of Ricardo Silva, the senior account manager for ELI Enterprises. We’re the fastest growing company in the southland. I’m very sorry that I’m not at my desk right now to answer the phone. However, your call is vitally important to me, so please leave a message and I’ll contact you as soon as possible. If you’re calling about making an appointment, please phone my secretary at 745-6234. If your matter is urgent, you may call my colleague, Ms. West at 745-3325. You’ll have nothing to worry about with her. (79 words)
◦ Unit 7
And now we turn to the business news. A rather unusual recall notice has been issued by the Universal Company. Some Universal washing machine models made between February 1st and August 10th are being recalled because they are a fire hazard. It seems
that certain parts may overheat under heavy use and pose a danger. There have been five cases of fire being caused by such machines nationwide. The machines will be repaired or replaced by Universal at no cost to the customer. This includes shipping and installation of the new unit, as well as proper disposal of the defective unit and payment of any recycling fees. Models affected by the recall are: XY217, XP217, and XM208.
The company stated that no other Universal machines are subject to the recall at the moment, but please stay informed. Please call 658-5471 for any other information you desire. (83 words)