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(東女医大誌 第40巻 第4号頁273〜276昭和45年4月)
Candida Albicansによる脳膜炎の1症例
東京女子医科大学三神内科教室(主任 教授
講師
三神美和教授)
三神美和・教授小山千代
ミ カミ ミ ワ コ ヤマ チ ヨ竹内富美子・米谷美津子
タケ ウチ フ ミ コ ヨネ タニ ミ ツ コ東京女子医科大学第二病理学教室 教授 梶 田 昭
カジ タ アキラ
(受付 昭和45年2月7日)
緒 言
化学療法の長足の進歩に伴ない,多数の疾患は その病像に著しい変貌を来たし,そのうちのある ものは過去の疾患になりつつある現状である.し かし,その反面,薬剤耐性,菌交代現象など化学 療法使用により惹起される問題も次第に増加する ようになって来たが,なかでも真菌症の増加が近 年,注目されている1).
真菌症は呼吸器系疾患として多くみられるが,
これによる髄膜炎は稀であり,ことに,Candida albicansによる髄膜炎は更に稀である.
私達はCandida albicansにより惹起された興 味ある1症例を経験したので,ここに報告する.
症 例
患者:K.Y・,31才,男子,職業:昭和36,7年頃よ り同43年2月までメッキ工場に勤務.
主訴=頭痛,項部疹痛,眩量,腰痛.
家族歴:特記すべきものはない.
既往歴:2才頃より口中に白苔がつき,時々よくなる が風邪などをひくとひどくなった.
現病歴:7,8年前より頭重があった.昭和42年暮頃 より感冒に罹患,近医で治療をうけ ていたが微熱がとれ ず,頭痛,腰痛がひどかった.特に夜間強く,時にはそ
のため睡眠がとれなかった.某病院にて脊椎のレントゲ
ン検査などをうけたが原因が分らず,運動をしたら治る と言われてそのまま医師にかからず放置していた.昭和 43年4月頃より頭重感,頭痛がひどくなり,7月頃に は,さらに複視,眩量,腰痛が加わり,それらの症状が ひどくなったので,10ヵ所ぐらい医院,または病院を転
々と替えた.同年9月2日より2週間,某病院に精密検 査のため入院し,椎間板ヘルニヤ,頚椎骨軟骨症の疑い で4日VC 1回プレドニン25㎎硬膜外注入,コルセット着 用,キヨーリンAP23.09,ノイロビタン3錠,セル シン15㎎を内服した.その病院の検査所見では,軽度の 貧血と血沈促進が認められた,胸部レ線像,胃透視など は特別な異常所見を認めなかったという.また再発性の アフタ性口内炎があるため,これによる二次的炎症の微 熱が持続しているように思われ,9月10日よりシグママ イシン1.09,プレド三ン3.Omg?を併用していたとい う.同月9月17日,当科に紹介され,入院した.最近は 食欲不振で何にも食べない様子であり,2,3日前より 両手の町頭が著明となったと述べている.
現量:体格,栄養状態ともに中等度,脈拍整,
緊張正常,96ノ分,呼吸状態正常,眼験・限球結 膜に異常所見なく,三光反射正常.頚部リンパ節 腫脹は認められないが,第3,4頚椎部に叩打 痛を認めた.口内は咽頭,扁桃,舌,口唇内側 の粘膜まで厚い白苔を認めた.肺肝境界は第6肋 Miwa MIKAMI, M.D., Chiyo KOYAMA, M.D., Fumiko TAKEUCHI, M.D., Mitsuko YONETANI,
iM.D. (iMikami Clinic, Department of lnternal Medicine), Alrira KAJITA, M.D. (Ilnd Department of Pathology,
Tokyo Women s Medical College) : A case of Candida Albicans meningitis,
一273一
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表1 検 査 所 見 血液所見
血色素 赤血球数 白血球数 白血球像
12.7g/dl
502 × 104
15100 好中球 88%
リンパ球5%
単 球 7%,
血清 総タンパク アルブミン グロブリン
血沈 1。
20
46mm 83m 髄液所見
髄液圧 80mmH、O Queckenstedt陽性 Xanthochromie 十 Nonne−Apelt {H−
Pandy 榊
細胞数 。/、
Froin徴候 十
.Pli,/G
尿素N
Na
Cl
K GOT GPT LDH
アルカリ・ホスファ ターゼ 6 1!
7.29紐 540/e al 4!i
ct 2 13 1!
B 11 11 r 18i!
1.2 12mg/d1 139mEq/L
5,4 !!
104 !1
8K単位
8 !1 105単位
総コレステロール 尿特記すべきものはない
胸部レ線所見 〃
心電図 /!
血圧 138/80皿皿Hg
CRP
ASL−O
CCF
RA−T口内苔培養
at−Streptokokken (十F) 1
ルゴール反応 ワ氏反応
168皿9組1
強陽性 陰性 陰性 陰性 陰性 陰性
80%
Candida (十)
Corynebacterium
EM帯
眼科 両側うつ血乳頭十 脳血管造影
特記すべぎものはない
骨,胸部は心,肺ともに異常所見は認められず,
腹部では肝脾をふれず,特に異常所見は認められ なかった.膝蓋腱,アヒレス腱,尺骨などの反射 は両側ともに充進を示し,ケルニッヒ症候,ラセ ギュー症候,足回搦ともに両側陽性,指一三,
指一指,膝一品試験はやや不良,項部強直(+),
角膜・結膜反射および腹壁反射は正常であった.
左手指外傷(プレス工場での事故)後遺症および 四肢にやや萎縮を認めた.
検査所見:検査所見は表1のごとくであり,血 液所見では白血球増多,好中球増加があり,血沈 は1時間値46,2時間値83rrmと促進を示した.血 清ではCRPが強陽性の外は特に異常所見は認め られず,血圧138/80㎜㎏,尿に異常所見はほと んど認められなかった.腰椎穿刺では髄液圧80 mmH20, Queckenstedt両側陽性, Xanthochro・
mie(十),Nonne・Apelt惜, Pandy帯,細胞数0/,,
Froin徴候(十)であった.髄液は少量しか採取 できなかったので,その他の検査はできなかっ た.眼底検査では両側にうつ血乳頭を認めた.脳 血管造影所見では異常を認めなかった.口内苔
の培養の結果ではα一Streptokokken(粁)80%,
Candida albicans (十), Corynebacterium (十)
であった.胸部レ線所見および心電図所見には特 記すべき異常所見は認めなかった.
入院経過=
入院後,項部疹痛のため,首を曲げることがで きず,首を真直ぐにしたまま歩き,何かしょうと すると手の話頭が著明となった.9月18日よりは 項部疹痛が次第にひどくなり,19日には左半身の 知覚鈍麻を認めた.また,眩量がひどく,時には 耳も聞えなくなったりした.歩行は失調性歩行で あり,20日にはほとんど食事を摂取することがで きないため,輸液などの点滴を開始した。22日に は悪心,嘔吐があり,リンデpン4 ngシグママ イシンなどを追加したが軽快せず,その後,右の 共同偏心が出現し,また,舌がうまく廻らず言葉 がもつれるようになったが,意識はあった.しか しJ25日には嗜眠状態となり,左顔面神経麻痺,
両側眼球品評,右半身の知覚障害があり(触覚鈍 麻,痛覚・温覚・冷覚・位置覚の脱失),舌は右に 偏位し,次第に全身状態が悪化し,ついに同月29
日死亡した.
脳の剖検所見
真菌山嵐脳膜炎(Candida albicansによる)
1) 脳底部クモ膜下腔におけるビマン性膿苔付 着(写真1)と,膿性滲出物による脊髄軟膜腔の
写真1
一 274 一
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糠
鱗、鑑』丁
韓墾
階寮「償 蕗、.
写真2
閉塞.
2)
3)
簾
嬢
写真3
橋における脱髄.
第4脳室への化膿性炎の波及と側脳室,第 3脳室の拡張.
肉眼的には結核性脳膜炎と診断されたが,その 後下記の組織学的所見により,Candida albicans
(写真2)による真菌性軟脳膜炎と診断された.
組織学的所見=脳膜組織にビマン性に形成され た化膿性肉芽を鏡検すると,単核球の増殖に加え て,フィブリン,好中球性の滲出が強く,いたる 所に巨細胞の形成(写真3)を認める.滲出物は 壊死に陥る傾向が強い.巨細胞はラングハソス型 に酷似するものもあるが,多くはむしろ異物型の 形態を示す.テール・ネルセソ染色を施したが,
好酸菌を証明することはできず,PAS染色およ びグロコット染色によって真菌体と思われる桿状 構造が証明され,かつ,蛍光抗体法によってCa−
ndida albicansを同定した.
(蛍光抗体法は東大医科研,青山助教授の御好意によ
る.)
(遺族の希望により,脳のみの剖検に止まり,他の身 体部分は剖検不可能であったことは遺憾である.)
総括および考按
真菌に関しては,1835年にBassi2)が蚕にみら れるある疾患が真菌によるものであると述べてお
り,次いで人間における白癬および鴛口瘡の病原 体は真菌であることが認められた.19世紀後半 にSabouraud培地などが発表されて以来,これ に対する研究は活発となり,Candida albicans,
Cryptococcus, Coccidioides, Blastomycesなど相 次いで報告されるようになった.
わが国においては,今世紀始めより皮膚科領域 にその検索が進められ,分類,その他の報告がな されている.抗生物質などが盛に使用され始め た第二次大戦後では,内科領域の真菌症が注目さ れはじめ,1950年,美甘ら3)が肺カンジダ症を報 告しているが,カンジダによる真菌症は,呼吸器 系が最も多く,ついで汎発型,消化器型となって
いる.
しかし,これによる脳膜炎は稀であり,1933年 Smithら4)がCandida meningitisの症例を報告
したのが最初である.その後,約26〜7例報告さ れたのみ5)で,Candidaによる脳膜炎は非常にま れである.Miale6)の報告した症例では,30才の 男子で約8年前に,最初口内炎に罹患し,それが 次第に悪化したため,2年後,同部位の生検を行 ない,その結果,組織学的所見により結核である
と報告されたが,結核菌は証明されなかった.
ついで右眼,口唇,鼻,喉頭部などにおいて種々 な症状を訴え続けていたが,これらもすべて結核 によるものであると診断された.また,ひどい頭 痛を主訴として入院し,1ヵ月後死亡した際の臨 床診断も結核性脳炎および髄膜炎であった.しか し,剖検所見により上記の症状はすべてCandida albicansによるものと判明し,臨床学的方面お よび病理学的方面に非常に興味ある問題を惹起し
た.
私達の症例では頭部のみの剖検所見であるため 脳膜炎のみか,汎発性であったのか不明である 一av5一
,66
が,臨床症状,経過などにより,口腔内のCan−
dida albicansが初感染源となり,その後,脳膜炎 を惹起したものと思われ,口内炎を繰り返えして いた点,長期の罹病期間,肉眼的病理所見など多
くの点において類似しているものと思われる.
岩田ら7)の研究によると,Candida albicansの 死菌または諸種菌体成分によリウサギを免疫し,
生菌を1回静注することにより,一定の潜伏;期の 後に自発眼振,運動失調,難聴などの症状を惹起 させており,中枢神経系に比較的強い親和性を有 しているものと思われる.
なお,福島8)は真菌による髄膜炎について述 べ,この髄膜炎の症状は軽微であることが多い が,これに伴なう精神症状はよく注目してみると 頻度も高く,著明なものがあると思われ,慢性経 過をとることのある真菌症においては,特に精神 症状に注目すべきであると述べている。また,
Fineら9)は4年間も生存した本症例を報告してい る.Eschwegelo)も指摘しているごとく、本症の 診断は特に困難であるが,これは多くの医師が Cand三週中による髄膜炎の症状をよく知らないた めであると述べ,本症の症状の軽微なことを強調 している.私達の症例でも,7〜8年前より頭重 が持続しており,入院約9ヵ月前より頭痛などが
ひどくなっているので,この頃より本症の発病が 疑われる.なお抗生物質,副腎皮質ホルモンなど を使用しているが,これらは本症を悪化させた因 子の一つであると考えられる.
真菌症増加の今日,私達の症例が諸家の今後の 参考になれぽ幸である.
結 語
頭痛,項部疹痛,眩量,腰痛を主訴とした31才 の男子の症例で,頭部の剖検により,Candida albicansによる脳膜炎と判明した1例を経験し,
文献的検索を加え,報告した.
文 献
1)池本秀雄・他:Modern Media 15(3)146 (1969)
2)池本秀雄・他:Modern Media 15(3)146 (1969)より引用
3)堂野前維摩郷・他編:現代内科学大系,呼吸器 疾患,1旺a東京 中山書店(1961)67頁 4) ParriUo, O.T. et al.: JAMA 182(2) 189 (1962)より引用
5) DeVita, V.T., et al.: Arch lntern Med 117 527 (1966)
6) maale, J.B.: Arch Path 35 427 (1943)
7)岩田和夫:日細菌誌23(8)555(了968)
8)福島考吉:日臨27(9)2321(1969)
9) Fine, J.M. et al.: Neurology 5 438 (1955)
10) Eschwege, J.: AMA Archiv Neurol Psy−
chiat 79 250 (1958)
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