4回目(5月10日)ノート
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http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ shimizu/LectLA2017.html
(google検索:「清水達郎」+「RIMS」+「線形代数」)から ダウンロードできます.ただし講義の内容と一致するとは限 りません.
3-1. 線形空間(ベクトル空間)
まず,演算は写像の一種であることを注意しておく.例えば整数の 演算「足し算」は,
+ :Z×Z→Z,(a, b)7→a+b であらわさせる写像である.
今日の講義を通してKをQ(有理数),R(実数),C(複素数)のい ずれかとする.
定義3.1(線形空間). V を集合とする.V 上に演算+ :V ×V →V
(加法)と演算K×V →V(スカラー倍)が定義され以下の条件を満 たすとき,V をK上の線形空間またはK上のベクトル空間という.
(条件)任意のa, b, c∈V, α, β∈Kに対し,
(1) a+b=b+a,
(2) a+ (b+c) = (a+b) +c, (3) ∃0∈V s.t. ∀a∈V,a+0=a, (4) ∀a∈V,∃b∈V s.t. a+b=0, (5) 1a=a,
(6) α(a+b) =αa+αb, (7) (α+β)a=αa+αb, (8) α(βa) = (αβ)a.
が成り立つ.
(3)の0は零元とよばれる.(4)のbをaの加法逆減,あるいは単 に逆減と呼ぶ.(3)の「s.t.」は「such that」の省略.「A s.t. B」で
「Bを満たすA」という意味.
条件(3)は「ある0というV の元があり,どんなV(3)の元aに 対してもa+0=aが成り立つ」という意味である.0がaと無関係 に存在することがポイント.一方(4)は「どんなV の元aに対して
も(aに依存する)V の元bが存在し,a+b=0が成り立つ」とい う意味.ここでのbはaを変えれば変わってもよい(これを「bはa の選択に依存する」または「bはaに依存する」という).
例. (1) R2 は R 上 の 線 形 空 間 .加 法 は ( a
b )
+ ( a′
b′ )
= ( a+a′
b+b′ )
.スカラー倍はα· ( a
b )
= ( αa
αb )
.
(2) CはR上の線形空間.スカラー倍はR×C∋(a, α)7→aα∈C で与えられる.
(3) RはQ上の線形空間でもあるしR上の線形空間でもある.し かしC上の線形空間にはなり得ない.(理由を考えてみよ)
これらの例のように,線形空間はたくさんあるが,それらの満た す本質的な性質のみを抜き出したのが定義3.1の(1)-(8)の条件であ る.したがって線形空間の本質的な性質はこれらの条件のみから導 ける.例えば上の例に登場するどの線形空間も0はただ一つしか存 在しない.これを各例で逐一示すこともできるが,次の命題のよう に一般的性質として示しておくと汎用性がある.
命題3.2. 線形空間の零元はただ一つである.
Proof. 0,0′を任意の零元とする.
0(3)= 0+0′
(1)= 0′+0
(3)= 0′.
よって0=0′.
同様に次が成り立つ.
命題 3.3. V を線形空間,a∈ V を任意の元(線形空間の元はしば しばベクトルと呼ばれる)に対し,aの逆元 bはただ1つ存在し,
b= (−1)aが成立する.
Proof. *1まず一意性を示す.b.b′をaの逆元とする.
b(3)= b+0
(4)= b+ (a+b′)
(2)= (b+a) +b′
(1)= (a+b) +b′
(3)= 0+b′
(1)= b′+0
(3)= b′.
よってb = b′. 次にb = (−1)aを示す.a+ (−1)a (5),(7)= (1 + (−1))a= 0a. 0aの逆元をb0とすると,
0a(4)= 0a+ (0a+b0)
(2)= (0a+ 0a) +b0
(7)= 0a+b0 (3)= 0.
よってa+ (−1)a=0であり,定義から(−1)aはaの逆元.
aの逆元を単に−aと書く.
線形空間の重要な例として数ベクトル空間がある.
定義3.4. 集合
Kn :=
a1
a2
... an
a1. . . , an ∈K
に加法演算,スカラー倍を次の通り与えたものを数ベクトル空間と いう.
a1
a2
... an
+
a′1 a′2 ... a′n
=
a1+a′1 a2+a′2
... an+a′n
,
α
a1 a2
... an
=
αa1 αa2
... αan
.
*1当然だがこのような証明を 暗記 する必要はまったくない.自分で手を動か して納得すればそれでよい.
以降,紙面の節約のため以下の記号を用いる(転置記号と呼ばれ る)ことがある.
t(a1, . . . , an) = (a1, . . . , an)T :=
a1
a2
... an
.
定義 3.5. K上の線形空間V の部分集合W が加法演算とスカラー 倍によってそれ自身線形空間となるとき,W をV の線形部分空間と いい,W ⊂V と書く.
与えられた集合が実際に線形部分集合であるかどうかを判定する のに,線形空間の定義をすべてチェックするのは面倒である.そこ で,例えば次の命題を使うとよい.
命題3.6. 空でない部分集合W ⊂V が線形部分空間であることと加 法とスカラー倍が閉じていることは同値.
ここで,演算「加法」が「閉じている」とは,任意のx, y∈W に 対してx+y ∈W であることをいう.スカラー倍が「閉じている」
も同様.
略証. W が線形部分空間ならば演算が閉じているのは明らか.逆に 演算が閉じていれば,その演算は定義1の条件(1)-(8)を満たすこと が,V が線形空間であることから従う.
例. (1) W = { (
a1
a2
) 5a1+ 3a2= 0 }
⊂R2はR上の線形 空間R2の線形部分空間である.
(2) W′ = { (
a1
a2
) 5a1+ 3a2= 2 }
⊂R2はR2の線形部分 空間ではない.
(3) Q⊂CはQ線形空間としてのCの線形部分空間である.
(4) Q⊂CはC線形空間としてのCの線形部分空間ではない.
(5) 任意の線形空間V に対し,{0}およびV 自身はV の線形部 分空間である.
3-2. 線形空間の基底
W をK上の線形空間とする.v1, . . . , vn ∈ W に対し,適当な 元a1, . . . an ∈ K を用いてa1v1+. . .+anvn ∈ V と書かれる元 をv1, . . . , vn の線形結合という.線形結合全体を⟨v1, . . . , vn⟩K と かく:
⟨v1, . . . , vn⟩K:={
∑n i=1
aivi∈V |ai∈K, i= 1, . . . n}. 命題3.7. 任意の元v1, . . . , vn ∈V に対し,⟨v1, . . . , vn⟩K⊂V はV の線形部分空間である.
集合X ⊂V に対し,X の有限個の元の線形結合をすべて集めた ものを⟨X⟩Kと書く:
⟨X⟩K={
∑n i=1
aivi∈V | ∀i≥0, vi∈X, ai∈K}.
X ={v1, . . . , vn} ⊂V のとき,⟨X⟩K =⟨v1, . . . , vn⟩K であること に注意する.
命題3.8. 任意の空でない部分集合X⊂V に対し,⟨X⟩KはV の線 形部分空間である.
証明の方針. 加法,スカラー倍について閉じていることを確認すれば よい.
なお,⟨X⟩Kのことを「Xが張る線形空間」「Xの線形包」と呼ぶ ことがある.また,⟨X⟩K を⟨X⟩と略記することも多い.
命題3.9. 空でない部分集合X⊂V に対し,以下が成り立つ.
(1) ⟨⟨X⟩K⟩K=⟨X⟩K.
(2) ⟨X⟩K はX を含む最小のV の線形部分空間である.
線形空間V の部分集合X1, X2に対し,
X1+X2:={x1+x2∈V |x1∈X1, x2∈X2}
と定める.
命題3.10. W1, W2が線形空間V の線形部分空間であるとき,W1+ W2もV の線形部分空間である.(すなわち⟨W1+W2⟩=W1+W2 が成り立つ.)
証明の方針. 加法,スカラー倍について閉じていることを確認すれば よい.
定義 3.11. v1, . . . , vn ∈ V が(K上)線形独立であるとは,任意の a1, . . . , an ∈Kに対し,a1v1+· · ·+anvn= 0⇒a1=· · ·=an = 0 が成り立つときをいう.線形独立でないとき線形従属であるという.
例. (1) v∈V が線形独立であることとv̸= 0は同値である.
(2) (1,0)T,(0,2)T ∈R2は線形独立.
(3) (1,0)T,(0,1)T,(1,1)T ∈R2は線形従属.(証明は?)
(4) RをQ上の線形空間と考えると,1,√
2∈Rは線形独立.
⟨X⟩K=V となるXをV の生成系という.
定 義 3.12. V を K 上 の 線 形 空 間 と す る .v1, . . . , vn ∈ V が
(K上の)基底であるとは,以下の条件を満たすことをいう:
(1) v1, . . . , vnは線形独立であり,
(2) {v1, . . . , vn}はV の生成系である. 例. (1) 1, iはCのR上の基底.
(2) (1,0)T,(1,1)T はR2の基底.
(3) (1,0)T,(0,1)T はR2の基底.
定理 3.13. v1, . . . , vn およびu1, . . . , umを共にV の基底とする.
このときn=mである.(すなわち,基底の個数は基底の取り方に よらない.)
定 義 3.14. 線 形 空 間 V の 基 底 の 数 が 有 限 個 の と き ,そ の 数 を V の次元という.有限個の基底をとれない線形空間を無限次元線 形空間という.
例. 数ベクトル空間Knの基底
e1:=
1 0 ... 0
, e2:=
0 1 ... 0
, . . . , en:=
0 0 ... 1
をKnの標準基底という.
定理3.13の証明は難しくないが,記号が煩雑で見通しが悪いので,
ここでは次の特別な場合を示しておく.このアイデアを用いて定理 が証明できるので,一度は書き下してみること.(あるいは適当な教 科書を参照).線形代数に限らず,数学の主張はかなり抽象化されて いるので,具体的な場合、それもできるだけ簡単な状況で手を動かし てみるのはたいていの場合有効かつ本質的なアプローチになります.
主 張. V が 基 底 e1, e2 を も つ 線 形 空 間 で あ る と き ,任 意 の 3 元 v1, v2, v3∈V は線形従属である.
証明のアイデア. もしv1, v2が線形従属ならv1, v2, v3も線形従属な ので,v1, v2が線形独立と仮定する.e1, e2が基底なので,ある定数 a11, a21, a12, a22∈Kがあって
v1=a11e1+a21e2, v2=a12e1+a22e2
が成り立つ.証明のアイデアは,これらをe1, e2を変数にもつ連立方 程式として解きe1, e2がv1, v2の線形結合であらわせることを示す.
これによりv1, v2が基底であることがわかるのでv3はv1, v2の線形 結合であらわすことができる.したがってv1, v2, v3は線形従属.
詳細. も し v1, v2 が 線 形 従 属 な ら v1, v2, v3 も 線 形 従 属 な の で , v1, v2 が 線 形 独 立 と 仮 定 す る .e1, e2 が 基 底 な の で ,あ る 定 数 a11, a21, a12, a22∈Kがあって
v1=a11e1+a21e2 (あ)
v2=a12e1+a22e2 (い)
が成り立つ.a11=a12= 0ならばv1, v2は線形従属なので,どちらか は0でない.必要なら添え字を入れ替えてa11̸= 0と仮定しても一般 性は失われない.*2このとき
e1= (a12/a11)e2−(1/a11)v1. これを(い)に代入し
(v2−(a12/a11)v1) = (a22−(a12a21/a11))e2
を得る.もしa22−(a12a21/a11) = 0ならv1, v2は線形従属なので,a22− (a12a21/a11)̸= 0.よってe2 = (a22−(a12a21/a11))−1(v2−(a12/a11)v1).
これは
e2∈ ⟨v1, v2⟩ を意味する.これと再び(あ),a11̸= 0より,
e1∈ ⟨v1, v2, e2⟩=⟨v1, v2⟩. よって
v3∈ ⟨e1, e2⟩ ⊂ ⟨v1, v2⟩(=V).
となりv1, v2, v3が線形従属であることが示された.
確認問題
(1) 集合C0(R) := {f : R→ R | f は連続}に加法およびスカ ラー倍を以下の通り定める:(f+g)(x) =f(x)+g(x),∀x∈R, (af)(x) =af(x),∀a∈R, x∈R. このとき,
(あ) C0(R)はR上の線形空間であることを確かめよ.
(い) k ∈ RについてCk(R) :={f ∈C0(R) | f(k) = 0}は C0(R)の線形部分空間であることを示せ.
(う) k, l∈Rについて⟨Ck(R) +Cl(R)⟩Rを決定せよ.
(2) R上の線形空間R3の部分集合
X ={(x1, x2, x3)T |x21=x2, x3=x1} についてX の線形包⟨X⟩Rの次元を求めよ.
(3) RはQ上無限次元線形空間であることを示せ(線形空間であ ることは認めてよい).
(4) V を有限次元線形空間,W をV の線形部分空間とする.W の次元はV の次元を超えないことを示せ.
*2一般性は失われない:文脈によるが,ここではその仮定が 対等な 添え字の 入れ替え程度で常に満たされることを指す.実際a11, a21のどちらかは0でない のだから,0でないほうの上付き添え字を1と入れ替えればよい(もちろんそ れに伴ってv1, v2の添え字も入れ替わる).添え字が対等でない状況(たとえば v2∈V \ ⟨v1⟩Kと指定がある状況での添え字1と添え字2)でa11̸= 0とする と一般性が失われてしまう.