12月27日講義参考資料
注意:
• このノートはホームページ
http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ shimizu/LectLB2017.html
(google検索:「清水達郎」+「RIMS」+「線形代数」)から
ダウンロードできます.ただし講義の内容と一致するとは限 りません.
• 左に太線を引いてあるところは必ずしも理解する必要はあり ません.
4-2. 対角化と三角化(つづき)
三角化
定理4.12. 任意の正方行列A∈Mn(C)に対し,ユニタリー行列U があり,
U−1AU は上三角行列となる.
定理4.12の証明. 行列のサイズに関する数学的帰納法で示す.n= 1では明らか.一般のnを考える.Aの固有多項式複素係数多項式 なので,解を持つ.したがって固有値は必ず存在する.A∈Mn(C) の固有値λと固有ベクトルxをひとつとる:
Ax=λx.
ただしxは正規化して∥x∥= 1としておく.xを延長してCnの正 規直交基底
x, x2, x3, . . . , xn
をとり,ユニタリー行列Uを,
U := (x, x2, . . . , xn) と定める.このとき,
U−1AU =U∗AU
=
xT x2T
... xnT
A(x, x2, . . . , xn)
=
xTA xTA · · · xTA x2TA x2TA · · · x2TA
... ... . .. ... xnTA xnTA · · · xnTA
(x, x2, . . . , xn)
=
xTAx xTAx2 · · · xTAxn
x2TAx x2TAx2 · · · x2TAxn
... ... . .. ... xnTAx xnTAx2 · · · xnTAxn
=
λxTx xTAx2 · · · xTAxn
λx2Tx x2TAx2 · · · x2TAxn
... ... . .. ... λxnTx xnTAx2 · · · xnTAxn
=
λ(x, x) xTAx2 · · · xTAxn λ(x2, x) x2TAx2 · · · x2TAxn
... ... . .. ... λ(xn, x) xnTAx2 · · · xnTAxn
=
λ xTAx2 · · · xTAxn
0 x2TAx2 · · · x2TAxn
... ... . .. ... 0 xnTAx2 · · · xnTAxn
n−1行n−1列正方行列A0を最後の行列の右下部分とする:
A0:=
x2TAx2 · · · x2TAxn ... . .. ... xnTAx2 · · · xnTAxn
∈Mn−1(C)
帰納法の仮定から,あるユニタリー行列U0があって B:=U0−1A0U0
は上三角行列となる.
U1:=
( 1 0 0 U
)
∈Mn(C)
とおくと,
(U U1)∗A(U U1) =U1∗(U∗AU)U1
=U1∗
λ xTAx2 · · · xTAxn
0 x2TAx2 · · · x2TAxn
... ... . .. ... 0 xnTAx2 · · · xnTAxn
U1
=
( λ ∗ 0 B
) .
よってAはユニタリー行列U U1によって上三角化される.
この証明は実際に上三角化するアルゴリズムを与えている:
例. A=
0 1 0
1 0 0
2 0 −1
を上三角化せよ.
命題 4.13. 実正方行列A ∈Mn(R)の固有値がすべて実数ならば,
直交行列によって上三角化できる.
Proof. Rnの正規直交基底x1, . . . , xnに対してP = (x1, . . . , xn)は 直交行列であることと,定理4.12の証明において,固有値が実数あ れば帰納法が実数の範囲で進行することからわかる.
次の命題が言っているのは,固有値は相似で不変な情報である,と いうことである.
命題 4.14. A∈Mn(C)とB ∈Mn(C)が相似*1なら,Aの固有多 項式pA(x)とB の固有多項式pB(x)は一致する.特に固有値は一 致する.
Proof. 正 則 行 列 P に よ っ て B = P−1AP と 書 け る .pB(x) = pP−1AP(x) = det(xIn −P−1AP) = det(P−1(xIn − A)P) = detP−1det(xIn−A) detP = detP−1detP(pA(x)) =pA(x).
4-3. 正規行列
定義 4.15. 正方行列A∈Mn(C)がA∗A=AA∗を満たすとき,A を正規行列という.
定理4.16. 正規行列はユニタリー行列によって対角化可能である.
Proof. 定理4.12により,Aはユニタリー行列によって三角化でき
る.すなわち,あるユニタリー行列UがあってU∗AUは上三角行列 になる.B= (bij) :=U∗AU とおく.bij = 0 ifi > j である.
BB∗= (U∗AU)(U∗AU)∗=U∗AU U∗A∗U =U∗AA∗U, B∗B= (U∗AU)∗(U∗AU) =U∗A∗U U∗AU =U∗A∗AU であり,Aは正規行列であるので,
BB∗=B∗B.
BB∗の(1,1)成分は
b11b11+· · ·+b1nb1n=|b11|2+· · ·+|b1n|2 であり,B∗Bのii成分は
b11b11+· · ·+bn1bn1=|b11|2 である.これらが等しいのだから,
b12=b13=· · ·=b1n = 0.
*1A, Bが相似であるとは,ある正則行列P ∈Mn(C)があってP−1AP =B を満たすことを言うのだった.このときA=P BP−1であるから,AとBの 役割を入れ替えて定義しても同値である.
BB∗の(2,2)成分は
b21b21+· · ·+b2nb2n=|b22|2+· · ·+|b2n|2 であり,B∗Bのii成分は
b12b12+· · ·+bn2bn2=|b12|2+|b22|2=|b22|2 である.これらが等しいのだから,
b23=b24=· · ·=b2n = 0.
以下同様に(3,3)成分,(4,4)成分,· · · と順次確かめてば,すべて のi < jについてbij= 0がわかる.
この定理は逆も正しい:
定理 4.17. A∈Mn(C)がユニタリー行列によって対角化可能なら ば正規行列である.
Proof. 対角行列は正規行列であることを用いればよい.
ここまでをまとめると,
Aが正規行列 ⇔ ユニタリー行列によって対角化可能 補題4.18. 正方行列A∈Mn(C)について以下は同値である.
(1) Aはユニタリー行列によって対角化できる.
(2) Aの固有ベクトルからなるCnの正規直交基底が存在する.
証明のアイデア.
(1)⇒(2)U∗AU が対角行列,U = (b1,· · ·, bn)のとき,b1, . . . , bn
はAの固有ベクトルからなる正規直交基底である.(前回示した定理 4.10も参照)
(2)⇒(1)B= (bij)ijを任意の対角行列とする.各biiは固有値であ り,biiに属する固有ベクトルとしてeiが取れる.したがって標準基 底はBの固有ベクトルからなるCnの正規直交基底である.ユニタ リー行列は内積を保つ.すなわち,正規直交基底を正規直交基底に 変換する.
以上をまとめると,
Aが正規行列 ⇔ ユニタリー行列によって対角化可能
⇔ 固有ベクトルからなる正規直交基底が取れる
Aが対角化可能 ⇔ 固有ベクトルからなる基底が取れる 例. 次の行列がユニタリー行列によって対角化可能か判定し,対角化 可能なら対角化せよ.
(1) (
0 1
−1 0
)
(2) (
1 1 0 2
)
定義 4.19. 正方行列A= (aij)i,j ∈Mn(K)(KはRでもCでもよ い)が対称行列であるとは,
AT =A
を満たすときを言う.aij =aji(∀i, j)と言ってもよい.
定 義 4.20. 正 方 行 列 A = (aij)i,j ∈ Mn(K) (K = R,C) が 歪対称行列または交代行列であるとは,
AT =−A
を満たすときを言う.aij =−aji(∀i, j)と言ってもよい.
交代行列の対角成分はすべて0である.
定義 4.21. 正方行列A= (aij)i,j ∈Mn(C)がエルミート行列であ るとは,
A∗=A
を満たすときを言う.aij =aji(∀i, j)と言ってもよい.
エルミート行列の対角成分はすべて実数である.
定義 4.22. 正方行列A= (aij)i,j ∈Mn(C)が歪エルミート行列で あるとは,
A∗=−A
を満たすときを言う.aij =−aji(∀i, j)と言ってもよい.
歪エルミート行列の対角成分はすべて純虚数である.
実対称行列,エルミート行列,そして歪エルミート行列は正規行列 である(各自チェックせよ).よって対角化できる.対角化しても固 有値は変わらないので,次がわかる:
補題4.23. (1) 実対称行列の固有値はすべて実数である.
(2) エルミート行列の固有値はすべて実数である.
(3) 歪エルミート行列の固有値はすべて純虚数である.
証明のアイデア. (1) Aは実行列であり対称行列なのでA∗=AT = A = A.よって A∗A = AA∗ であり,A は正規行列.したがっ てユニタリー行列 P があって B := P∗AP は対角行列となる.
B∗= (P∗AP)∗ =P∗A∗P =P∗AP =BなのでBの対角成分は実 数である.
命題 4.24. A ∈ Mn(R)が実対称行列であるなら,ある直交行列 P ∈Mn(R)があってPTAPは対角行列になる.
Proof. A の固有値はすべて実数なので命題 4.13により,ある直
交 行 列 P が あ っ て B = PTAP は 上 三 角 行 列 に な る .BT = (PTAP)T =PTATP =PTAP =BよりBは対角行列.
ここまでの応用としてひとつ補題を示しておく.AとBが相似で あるとき,任意のkに対してAkとBkは相似である.
補題4.25. A∈Mn(C)に対し,ある正数kがあってAk=Oであ るならば,Aの固有値は0のみである.(このように,何乗かして零 行列になる正方行列を冪零行列という.)
Proof. B =
λ1 ∗
. ..
0 λn
をAと相似な上三角行列とする.
よってA の固有値は λ1, . . . , λn である(重複があるかもしれな
い).Ak = OはBk =
λk1 ∗ . .. 0 λk3
と相似であるが,零行
列O と相似な行列はO のみなので,λk1 = · · · =λkn = 0. よって λ1=· · ·=λn= 0.