博士(理学)木崎健治 学位論文題名
Age of the formation and the metamorphic process of the Poroshiri Ophiolite ,Hokkaido ,Japan
(北海道、幌尻オフィオライトの形成年代と変成過程)
学位論文内容の要旨
本研究はニつの内容、(1 ) SHRIMP zircon U‑Pb 法によるポロシリ・オフィオライト の 形 成 年 代 、 (2) ポ ロ シ リ ・ オ フ ィ オ ラ イ ト の 変 成 作 用 、 で 構 成 さ れ る 。
( 1 )形成年代
ポロシリ・オフィオライトは北海道中軸部、日高山脈に沿って分布する幅1 〜 4km の 岩体である。ほぼ完全な海洋地殻層序を有しており、化学組成はN‑MORB の特徴を もつ。この岩体の西側には白亜紀の付加体であるイドンナップ帯が分布する。ポロシ リ・オフィオライトの年代、特に形成年代は、この岩体が塩基性岩〜超塩基性岩から な ることや、変成作用を被っていることなどにより、明らかにされていなかった。
ポ口シリ・オフィオライト中には分化した岩体である石英角閃岩が分布する。この 岩石中にはアクセサリー鉱物として多くのジルコンが含まれる。このジルコンを用い て SHRIMP U‑Pb 法によ る年 代測 定を行 なっ た。 測定 結果は 96.7 土 2.6Ma を示す。こ の岩石は角閃岩相の変成作用を被っており、その変成温度は約620 ℃と見積もられる。
しかしこの温度はジルコンU‑Pb 系の閉鎖温度(720 ℃)より低く、測定結果t ま変成作用 時の影響を被っていないものと考えられ、得られた年代値はオフィオライトの形成年 代を示すものと推定される。
オフィオライトの形成年代が得られたことは、西側の付加体であるイドンナップ帯 との年代対比を可能にした。約lOOMa という年代はイドンナップ帯中のチャート・ブ 口ックの放散虫化石年代と調和的である。ポ口シリ・オフィオライトは白亜紀中期に イ ドンナップ付加体を成長させた海洋地殻の一断片であることが明らかになった。
(2) 変成作用
ポ口シリ・オフィオライトは主として緑色片岩相〜角閃岩相の変成作用を被ってお り、西側より、A 帯(緑色片岩相)、B 帯(漸移相)、C 帯(角閃岩相)に分帯される。
この変成分帯はポロシリ・オフィオライトのほぱ全域に適用されるが、B 帯の鉱物組 み合わせには、地域による違いが見られる。新冠川流域では、Act の消滅が、Ab の消 滅 よりも低温側でおこるため、 Ab 十 Hb という緑レン石角閃岩相に特徴的な鉱物組み 合わせが出現する。一方、春別川流域では Act と Ab の消滅がほぼ同時におこり、上記 の鉱物組み合わせは出現しない。このことは前者の方が後者よりもやや高い圧力条件 を示しているものと推定される。
塩基性岩の変成温度を定量化する手段(地質温度計)は、泥質岩を対象としたもの
と比較すると、非常に数少なぃ。本研究では角閃石のTi 量により、変成温度を定量的
に見積もることを試みた。角閃石のTi 量は多くの研究におぃても、温度に敏感に増減
す る こ と が 知 ら れ て い る 。 同時 に全 岩化 学組 成や 酸素分 圧な どに も影 響さ れや すい こ と も 知 ら れ て い る 。 全 岩 化 学組 成や 酸素 分圧 など によるTi量 の挙 動を 解析 した 結果 、 変 成 度 一 定 の も と で の 角 閃 石 のTi量 の 変化 は 角 閃 石 のXfeと 正の 相関 を示 すこ とが わ か っ た 。 こ の 性 質 を 利 用 し 、 あ るXfeにTi量 を 規 格 化 す れ ば 、 規 格 化 さ れ たTi量の 変 化 は ほ ば 温 度 条 件 の 変 化 を示 すも のと 考え られ る。実 験で 合成 され た温 度の わか っ て い る 角 閃 石 の 組 成 を 同 様 の方 法で 規格 化し 、規 格化し たTi量と 実験 温度 との 相関 性 よ り 、 角 閃 石 の Ti量 を 定 量 的 な 温 度 の 指 標 と し て 用 い る こ と が で き る 。 上 記 の 方 法 に よ り 変 成 温 度を 見積 もっ た結 果、 ポ口シ リ・ オフ ィオ ライ トは ニつ の タ イ プ の 温 度 構 造 を 示 す こ とが 明ら かに なっ た。 一っは 春別 川、 新冠 川流 域に 見ら れ る もの で、 西縁 部で 東に向 かっ て急 激に630℃付 近まで 温度上昇し、中央部〜東部でfま 緩 や か な 温 度 上 昇 が 見 ら れ る。 他の タイ プは 額平 川流域 で見 られ 、西 縁部 では 同様 に 急 激な 温度 上昇 が見 られ、 最高 温度 は720℃ 付近 まで達 する 。そ の東 側で は逆 に東 に向 か っ て 温 度 は 下 降 す る 。 こ の温 度構 造の 違い はニ つの熱 源の 組み 合わ せに よっ て説 明 さ れる 。一 っは ポロ シリ・ オフ ィオ ライ トの 東側 に位 置する日高変成帯からの熱拡散、
も う ー っ は 、 オ フ ィ オ ラ イ ト内 部の より 深部 層か らの熱 拡散 であ る。 額平 川流 域で は オ フ ィ オ ラ イ ト 内 部 の 衝 上 断層 によ り、 他の 地域 よりも 深部 層で ある 変成 集積 岩が 中 央 部に 分布 する 。額 平川流 域で 見ら れる 中央 部で 最高 温度 を示 す温 度構 造fま 、深 部層 か らの 熱拡 散が より 効率的 に働 いて いる もの と考 えら れる 。
ポ 口 シ リ ・ オ フ ィ オ ラ イ トの 西縁 部に は、 日高 西縁衝 上断 層に 沿っ て細 粒な 変塩 基 性 片 岩(Greenschist)が 分 布 する 。こ の岩 石中 には 高いTi量 (最 大lwt%) をも つア ク チ ノ 閃 石 が 見 ら れ る 。 こ の アク チノ 閃石 独残 晶状 角閃石 のコ ア部 にみ られ 、淡 い褐 色 を 帯 び る 。 高 いTi量 は 低 変 成度 側お よび 変形 作用 の程度 の低 い部 分で 顕著 に認 めら れ る 。 一 般 に 高 いTi量 を 持 つ 角閃 石は 高変 成作 用も しくは 火成 作用 によ って 形成 され 、 Alに 富 む 普 通 角 閃 石 の 組 成 を示 す。 高いTi量 を示 すアク チノ 閃石 の報 告は 少な いも の の 、 短 時 間 の 変 成 作 用 の 過 程で 生成 した 例が あり 、ポロ シリ ・オ フィ オラ イト の場 合 も 同 様 の 過 程 が 推 定 さ れ る 。ポ 口シ リ・ オフ ィオ ライト 西縁 部に 見ら れる 急な 温度 勾 配 は変 成作 用の 時間 が短か った こと を示 して いる 。
また 、西 縁部 にお ける連 続的 な変 成度 の上 昇fま角閃 石お よび 斜長 石に みら れる 不混 和 領 域 の 特 徴 を 示 す こ と が でき る。 アク チノ 閃石 ー普通 角閃 石の 不混 和は ソル バス 、 ペ リ ス テ ラ イ ト は 相 転 移 ル ープ を示 唆す る。 また 、いず れも 中圧 夕イ プの 特徴 を示 し て いる 。
本 研 究 に よ ル ポ ロ シ リ ・ オフ ィオ ライ トの 形成 年代が 明ら かに なっ た。 また 、角 閃 石 のTi量 を 用 い た 定 量 的 な 温度 見積 法が ほぼ 確立 し、ポ ロシ リ・ オフ ィオ ライ トの 温 度 構 造 が 明 ら か に な っ た 。 西縁 部の 高い 地温 勾配 を含め て、 温度 構造 の成 因に つい て ー つの モデ ルを 設定 するこ とが でき た。
略号
Ab: Albite(曹長石)、Act: Actinolite(アクチノ閃石)、Hbl: Hornblende(普通角閃石)
学 位 論文 審 査 の 要旨
主査 教授 渡辺暉夫 副査 教授 藤野清志 副査 助教授 在田一則 副査 助教授 新井田清信
副査 教授 宮下純夫(新潟大学大学院ロ然科学研究科)
学位論文題名
Age of the formation and the metamorphic process of the Poroshiri Ophiolite , Hokkaido , Japan (北海道、幌尻オフィオライトの形成年代と変成過程)
近年,オフアオライトは海洋地殻のその場観察ができ,海洋地殻の進化を考える重要な 研究対象として世界各地で精力的な研究が進められている.中でも,典型的なオフィオ ライト層序をもった岩体が最適であるが世界でもそのような例は多くはなく,日本では 幌尻岳周辺い分布するオフィオライトなど数例があるに過ぎない.著者はこのような恵 まれた,しかし地理的に調査困難な岩体を研究対象して,従来の成果をさらに深める重 要な貢献を行なった,
その成果は,1)SHRIMPを用いたジルコンのU‑Pb年代測定によって,幌尻オフィオ ライトの形成年代が約1億年前であることを明らかにしたこと,2)従来,東に向かっ て変成温度が上昇すると考えられていた岩体の中に中央部が最高温度を示す地域があ ることをあきらかにしたこと,3)変成温度の見積りを角閃石中のTiの含有量とMgfFe 比の関数として表わすことに成功したこと,4)オフィオライトの蒙った変成圧力条件 は地域によって差があり,中圧と低圧のタイプを変成鉱物の共生関係の解析から識別し たこと,5)岩体西縁の急激な変成温度の上昇メカニズムを明らかにしたことぃあわせ て斜長石,角閃石の不混和領域の存在を幌尻オフィオライトでも確立したこと,などで ある.
また,角閃石のTiを用いた温度計は岩体の中央部と東部で有効であるが,岩体西縁部 の角閃石の核部組成(特にTi含有量)は変化に富み,温度計が有効ではない,この点 にも考察を加え,東側に分布する片状の卓越する岩石では角閃石組成が均質化すること をしめし,変形運動とともに角閃石組成の改変が行なわれることを明らかにした.そし て,岩体西部の高n角閃石(アクチノ閃石)は短時間に高温に達する地熱地帯でのみ 生成されることを指摘した.このような鏡下での角閃石の産状観察を加味することによ
って,幌尻オフィオライトではTi角閃石(アクチノ閃石角閃石)が安定相ではないこ とを明らかにした.
以上の研究から幌尻オフィオライトの上昇過程をこれまで以上に詳細に記述した.
これを要するに、著者は、幌尻オフアオライトについての形成年代と変成過程に関す る新知見を得たものであり、海洋地殻の進化にかかわる地球科学に貢献するところ大な るものがある。
よって著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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