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博士(理学)杉本 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(理学)杉本 学位論文題名

        X‑ray crystal structure analysis of D‑dopachrome tautomerase, a homologue  of macrophage migration inhibitory factor

     ( マ ク ロフ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子相同 蛋白 質 D ―ドーパクローム異性化酵素のX 線結晶構造解析)

学位論文内容の要旨

  高等生物の生体を構成する細胞の増殖・分化・機能発現は周りのほかの細胞により厳密に制御さ れている。こうした細胞同士のコミュニケーションは細胞同士の接触により細胞表面分子を介して 直接的に行なわれるものと可溶性分子を介して間接的に行なわれるものがある。後者において細胞 間シ グナ ル伝 達を おこ な う蛋 白質 因子 は総 称し てサ イト カイ ンと 呼ば れて いる 。Macrophage Migration Inhibitory Factor (MIF)は高等生物の炎症作用や免疫応答においてシグナル伝達に関与す るサイトカインのひとつである。MIFは血中のT細胞やマクロファージから分泌されるほか,脳,

腎臓,肝臓,角膜,上皮など様々な組織に普遍的に存在しているが,血中への毒物(lipopolysuccaride) 投与 で刺激を与 えると脳下垂体からも分泌される。TNFIL‑1.IL‑6やIL‑8などの他のサイトカイ ンは免疫抑制作用をもっホルモンであるグルココルチコイドによって産生が抑制されるのに対して、

MIFはグルコ コルチコイドに拮抗して産生されることからも免疫システムの調節因子としての役割 を担っていることがわかる。さらにMIFは多機能夕ンバク質であることが知られており、ケト‐エ ノール異性化活性,glutathione S‑transferase活性やoxidereductase活性を持っているとの報告があ る。しかし,受容体は発見されておらず ,MIFの酵素活性と生理学的な機能とがどのような関係に ある のか は明 らか にさ れ てい ない。D‑dopachrome tautomerase (DDT)はMIFと約30%のアミノ酸 相同性があり,類似したケト‐エノール 異性化活性をもつ。DDT発現 はMIFとは異なり肝臓などの 一部の組織に限られている。生体内での 機能や異性化活性の役割も明らかになっていないが、MIF と同じように炎症作用や免疫応答、細胞分化,増殖因子などへの関与の可能性にも関心が注がれて いる 。D‑dopachrome tautomeraseとMIFの2つの蛋白質の生理学的な機能および異性化活性との 関係を明らかにしていくためには,構造 学的なアプローチが不可欠である。そこで本研究ではX線 結 晶 構 造 解 析 に よ っ て humanお よ びrat由 来 の DDTの 立 体 構 造 決 定 を 行 っ た 。 第1章human DDTの結晶構造解析

  human DDTの構造解析は分子置換法によって行なった。以 前に構造決定を行なったhuman MIF とはアミノ酸配列の相同性が33%と低い ものの、これをサーチモデルとして回転および並進関数 を計算し初期位相を得た。構造の精密化はPhoton Factoryのシンクロトロン放射光を利用して測定 した1.54Aの 高分解能X線回折データを用 いた。これにより高精度の立体構造決定を行なうことが でき た。 結晶 中の 非対 称 単位 には3個 のmonomerが含まれ、 結晶学的な3回対称によって 機能的 な3量 体が 形成 され てい る( 図1) 。3量体 内に はpシ ート が3つ 存在するが、それぞれのpシー

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トは3つの単量体の,ヨストランドにより構成されている。

3つの,?シートの周りに計6本のロヘ1Jックスが取り囲む 形で3量体 構造を形 成して いる。全体的なトポロジーや3 量 体形 成 の 様式 はhuman MIFに良く 似てい るが,dヘリ ックス の位置 ,ループ 部分やC末端 領域の構 造が両 者で は 大き く 異 なる 。DTTのN末 端のPro残 基 は 正に 荷 電 し たcavityの 底に位置 する。MIFと同 様にこ こで異性 化反 応が行われると考えられる。MIFではここに芳香族側鎖の クラス ターが 存在する が,DDTでは極 性を持 った残基に 置換さ れてい る。両者 の触媒基であるProlのすぐ近くに 保 存性 の 高 いLys32とSer63が存 在して いる。こ れらの 蛋白質活性部位周辺の残基の立体配置の情報は異性化活性 の 阻 害 剤 の 開 発 に も 貢 献 す る と 考 え ら れ る 。

第2章rat DDTの 結晶構造 :tetrapod型12量 体

  rat DDTで はorthorhombicおよ びmonoclinicの2種類の結晶系における構造解析を行なった。

それぞれ 分解能2.3A、2.2Aの構造決定に成功した。いずれの結晶系でも非対称単位あたり4つの 3量 体 が 存在 し、そ れらは テトラポ ッド型 の12量体構 造を形 成してい る(図2)。 すなわち23 対称(cubic)を持 ってい る。しか もそれ ぞれの3量体内 には3量体に よる3回軸に 加えてそ れに 垂直な疑 似の2回軸が ある32対称も含まれている。このように蛋白質の構造に高い対称性が存在 すること はとて も興味深 い。3量体間の相互作用にはC末端の残基番号115‑117の領域が重要であ

る。C末 端領 域 はhumanとratの 間 で は保存 るた め 、この ような 相互作用 はあり得 ない と考 え ら れる 。 さ らに3量 体間 の 相互 作用 には 、 異性化 反応の 基質認識 に重要で ある と考えられるL,ys32の側鎖も関与しており、

12量 体 構 造 が 異 性 化 反 応 に も 十分 影 響 を 及ぼすことが推測できる。

  ゲ ル ろ過の実 験から は通常の 溶液中 の条 件 下 で はrDDTが3量 体 と し て 存 在 し て い るよ う で ある 。 し かし2種 類の 結 晶系 のい ず れ か ら も12量 体 と ぃ う 結 果 が得 ら れ た こと は 、単に 結晶中 のパッキ ングの影 響に よる も ののみ とは考 えにくく 、高濃度 では 12量 体 構 造 が 安 定 な 状 態 で あ ると ぃ う こ とが 考 え られ る 。 ただ し3量体 間 の相 互作 用は お もに側 鎖によ る相互作 用が中心 であ り、 主 鎖間の 水素結 合によっ て形成さ れる 3量 体 の 場合 と 比 ぺる と そ れほ ど 強い 接触 では な い。一 般的に サイトカ インは受 容体

と結合することにより多量体を形成、あるいは多量体を形成して受容体と結合するケースが多い。

そして受容体の多量体形成がシグナル伝達に必要であると同時にその経路を決定している。したが ってDDTにお いても この12量体 構造が 重要な意 味を含ん でいる 可能性が 考えら れる。これまで にサ イトカイ ンとそ の受容体 が2:2の結合をする例が数多く報告されている。TNFとその受容体 は3:3の結合を するこ とがX線構造解 析でも 明らかに されて いる。12と ぃう数 字はこれまでに 報告 された例 はない 。現在は まだDDTおよびMIFの受 容体は明らかになっておらず、ほかの実験

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的な証拠はない状況であるが、今後の機能解析の進展により12量体構造と分子機能の関係が明ら かにになるであろう。

第3章多波長異常分散データの有効性と 限界

  セレン原 子の異常分散効果を利用したタンパク質の構造解析は1980年代後半ころのシンク口ト ロン放射光 と遺伝子工学の発展に伴ってHendricksonらにより開発されタンパク質結晶学に新たな 可能性を示 した。数年ほど前からセレン原子を利用したMAD法による解析の成功例が飛躍的に増 大しており,今では非常に有カな手段として半ば汎用的に構造解析に利用されている。この章では 第1章で述べたhDDTのセレン置換体結晶 の多波長異常分散データをもとにセレン原子による位相 決 定カ を検 証し 、そ の 有効 性と 限界 を確 認し た。 さら その 応用や問題点についても 述べる。

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学位論文審査の要旨

主査  教授  田中  勲 副査  教授  西村紳一郎 副査  助教授  渡邉信久

副査  助教授  西平  順(北海道大学大学院医学研究科)

     学位論文題名

    X‑ray crystal structure analysis of D‑dopachrome tautomerase ,ahomologue of macrophage mlgrationinhibitoryfaCtor

    ( マ ク ロ フ ァ ー ジ 遊 走 阻 止 因 子 相 同 蛋 白 質 D― ド ーパ ク ロ ーム 異 性化 酵 素 のX線結 晶構造解析 )

  高等 生物の生 体を構成 する細胞 の増殖・分 化・機能 発現は周 りのほかの細胞 によ り厳密に 制御され ている。 こうした細 胞同士の コミュニ ケーションは細胞 同士 の接触に より細胞 表面分子 を介して直 接的に行 なわれる ものと可溶性分子 を介 して間接 的に行な われるも のがある。 後者にお いて細胞 間シグナル伝達を お こ な う 蛋 白 質 因 子 は 総 称 し て サ イ卜 カ イ ンと 呼 ばれ て い る。Macrophage Migration Inhibitory Factor (MIF)は高等生物の炎症作用や免疫応答において シグ ナル伝達 に関与す るサイ卜 カインのひ とつであ る。MIFは血 中のT細胞やマ ク□ ファージ から分泌 されるほ か,脳,腎 臓,肝臓 ,角膜, 上皮など様々な組 織に 普遍的に 存在して いるが, 血中への毒 物(lipopolysuccaride)投与で刺激 を与 えると脳下垂体からも分泌される。TNF,IL−1,ILー6やILー8などの他のサ イ卜 カインは 免疫抑制 作用をも っホルモン であるグ ルココル チコイドによって 産生 が抑制さ れるのに 対して、MIFはグルココルチコイドに拮抗して産生される こと からも免 疫システ ムの調節 因子として の役割を 担ってい ることがわかる。

さら にMIFは多機 能夕ンパ ク質であ ることが知られており、ケト一工ノール異性 化 活 性,glutathione S‑transferase活性 やoxidereductase活性を 持ってい る との 報告があ る。しか し,受容 体は発見されておらず,MIFの酵素活性と生理学 的 な 機 能 と が ど の よ う な 関 係 に あ る の か は 明 ら か に さ れ て い な い 。D− dopachrome tautomerase (DDT)はMIFと 約30%のアミ ノ酸相同 性があり,類似し たケ トーエノ ール異性 化活性を もつ。DDT発現 はMIFとは異 なり肝臓 などの一部

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の組織に限られている。生体内での機能や異性化活性の役割も明らかになって いないが、MIF と同じように炎症作用や免疫応答、細胞分化,増殖因子などへの 関与の可能性にも関心が注がれている。D −dopachrome tautomerase と MIF の2 つの蛋白質の生理学的な機能および異性化活性との関係を明らかにしていくた めには,構造学的なアプ□ーチが不可欠である。そこで本研究ではX 線結晶構 造 解 析 に よ っ て human お よ び rat 由 来 の DDT の 立 体構 造 決定 を 行っ た 。

  human DDT の構造解析は分子置換法によって行なった。以前に構造決定を行 なったhuman MIF とはアミノ酸配列の相同性が 33 %と低いものの、これをサ ーチモデルとして回転および並進関数を計算し初期位相を得た。構造の精密化 はPhoton Factory のシンク口ト□ン放射光を利用して測定した1 .54A の高分 解能 X 線回折データを用いた。これにより高精度の立体構造決定を行なうこと ができた。結晶中の非対称単位には 3 個の monomer が含まれ、結晶学的な3 回 対称によって機能的な 3 量体が形成されている。全体的なトポ口ジーや3 量体 形成の様式はhuman MIF に良く似ているが, a ヘリックスの位置,ループ部分 やC 末端領域の構造が両者では大きく異なる。DTT のN 末端のPro 残基は正に荷 電したcavity の底に位置する。 MIF と同様にここで異性化反応が行われると考 えられる。 MIF ではここに芳香族側鎖のクラスターが存在するが,DDT では極性 を持った残基に置換されている。両者の触媒基であるProl のすく゛近くに保存性 の高いLys32 とSer63 が存在している。これらの蛋白質活性部位周辺の残基の 立 体配置の情 報は異性化 活性の阻害剤の開発にも貢献すると考えられる。

  rat DDT では or thorhombic および monoclinic の2 種類の結晶系における構 造解析を行ない,それぞれ分解能 2 . 3A 、2 .2A の構造決定に成功した。いずれ の結晶系でも非対称単位あたり 4 つの 3 量体が存在し、それらはテトラポッド 型の 12 量 体構造を形 成し,23 対称 (cubic) を持っ ている。このように蛋白 質の構造に高い対称性が存在することはとても興味深い。3 量体間の相互作用 には C 末端の残基番号 115 −117 の領域が重要である。さらに3 量体間の相互作 用には、異性化反応の基質認識に重要であると考えられるLys32 の側鎖も関与 しており、12 量体構造が異性化反応にも十分影響を及ぼすことが推測できる。

ゲルろ過の実験からは通常の溶液中の条件下ではrDDT が3 量体として存在して いるようである。しかし 2 種類の結晶系のいずれからも 12 量体という結果が 得られたことは、高濃度では12 量体構造が安定な状態であるということが考 えられる。一般的にサイトカインは受容体と結合することにより多量体を形成、

あるいは多量体を形成して受容体と結合するケースが多い。そして受容体の多

量体形成がシグナル伝達に必要であると同時にその経路を決定している。した

がってDDT においてもこの12 量体構造が重要な意味を含んでいる可能性が考

えられる。

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     本研究は炎症作用や免疫応答においてシグナル伝達に関与するサイト カインであるMIF および DDT の役割に関するこれまでの広範囲な研究に対して 極めて重要な構造的基盤を与えるものである.本研究が生物科学に及ぼす貢献 には多大なものがあると考えられ,よって審査員一同は申請者が博士(理学)

の学位を得る十分の資格があるものと認めた,

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