博 士 ( 農 学 ) 金 容 夷
学位論文題名
Soil − atmosphere exchange of greenhouse gases in forest ecosystems under var10uSenVlronmentalChangeS I
(環境変動に伴う森林土壌からの温室効果ガス放出の解明)
学位論文内容の要旨
森 林 土 壌 に は 二 酸 化 炭 素(C02)と 亜 酸 化 窒 素(N20)の 発 生源 、メ タン(CH4)の吸 収 源 とし ての 働き があ り、 こ れら 温室効果ガス(GHG)の動態 解明が環境変化を低減するた めの森林管理 の技術開発ために必要である。大気C02濃度は2011年現在393ppmに達した。
CH4は質量ベースでC02の約23倍の放射強制力(正の値は温暖化)を持ち、毎年平均1%ず つ 増加 している。大気中のN20濃度は年0.25%の増加率で、他のGHGに比ベ低いが、一度 生 成さ れると大気中に約120年 間残存するという。地球規模のGHGに注目すると、土壌中 の炭素蓄積量 (1,500 CGt)は、植物現存量の約3倍、大気中の約2倍あり、陸上生態系の蓄 積量の3/4を占める。また、CH4とN20放出 のうち、CH4は約40%、N20は約50%が土壌来由 であり土壌はGHG動態に大きな役割を持つ 。
本研 究で 対象 とし たGHGは、 次の過程によって発生・消 費されるという。土壌からの C02放出は土壌中の動物、植物、微生物代 謝の最終産物であり、それらの活性によって異 なる。CH4は土壌中のメタン酸化バクテリ ア(好気性)によるCH4酸化によって土壌へ吸収 され、その機 能は森林土壌で活発である。また、N20は土壌中の窒素酸化と脱窒化で発生 する中間生産 物であり、これらニっがN20の総発生量の約2/3を占める。森林に対する各種 の環境変化や 撹乱は植物の光合成産物の転流や水分生理などに影響し、結果としてGHGの 動態に影響を 与える。GHGフラックスは土 壌の理化学性や土壌微生物の活動を介して複合 的な作用を受 ける。従って、各種環境変化による森林生態系内のGHGの発生プ口セスと動 態を理解し、 これらの制御にっなげることが重要である。
大気 中のC02濃 度上 昇は 、植 物‐ 土壌 ‐微 生物 の系 を 介してGHGの動態に影響を及ぽ す と考 えられる。このため高濃度C02環境が森林土壌におけるCH4の吸収に与える影響を 調 べる ため に、 開放 系大 気C02増加(FACE)シ ステ ムを 利 用し て調 査を 行っ た。 北海 道 大 学 札 幌 研 究 林 の 試 験 地 にFACE区 (高C02: 大気+130 ppmv)と 対照 区( 大気C02: 設 定 時380 ppmv)を3っ ずつ 設 置し 、各処理区に2種類の土壌 夕イプ(褐色森林土・火山灰 土 壌) を設 けた 。CH4フラ ック スは2008年と2009年に 各 処理区の定点で生育期間に4回 ずつ閉鎖系チ ェンバー法を用いてガスをサンプリングし、ガスク口マトグラフ(島津、京 都 )で 分析 した 。測 定期 間 中、 土壌へのCH4吸収量は対照 区に比べてFACE区で約半分に 減少したが、 土壌夕イプの間には有意的な差はなかった。対照区ではCH4は全測定地点で 土 壌に 吸収 され てい たが 、FACE区で はCH4の 発生 が観 察 され た。 土壌 水分 はFACE区 で 有 意的 に高 かっ たが 、さ ら に土 壌水 分とCH4吸収 量の 間 に負 の相 関関 係が 見ら れた 。 経済活動に 伴う窒素酸化物濃度の増加、酪農や堆厩肥からのアンモニア揮散などによっ
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て、大気から陸域への窒素沈着量は増加している。この増加によって、森林域では窒素は 不足しがちであるとされていたが、森林植物の要求量を超えた過剰な状態に一部では変化 している。また、沈着物中には硝酸とアンモニウムが含まれるが、これらの窒素の動態に 注目 が集ま っている 。さらに 、窒素 沈着が地 域の環境に及ばす変化は、CH4やN20の土壌
−大気間の循環に影響を与えると予想される。
最近、日本を含む東北アジア地域で窒素沈着の越境汚染などの問題が顕在化してきた。
そ こ で窒 素 沈 着が森 林土壌 におけるCH4やN20の動 態に与 える影響 を調べる ために 、造 林樹 種とし て期待の 高いグイマツ雑種Fiの若齢植林地に対照区と窒素付加区を4個所ずっ 設定した。試験地は札幌研究林の実験苗畑(褐色森林土壌)で、対照区には窒素処理を行 わず、窒素付加区には50 kgNha‑l yr‑l相当の窒素を酸性雨を模して硝酸アンモニウム溶液 で 処 理し 、 窒 素付 加 は 各成 長 期 間 に4回 に 分けて行 った。 土壌から のGHGは2008年6月 から2009年11月ま で各プ口 ットの 計4ケ 所で無 降雪期に10回ずっ 測定した 。また、各プ ロットのサンプリング場所の近傍におしゝて土壌をサンプリングし分析した。CH4とN20濃 度は閉鎖系チェンバー法を用いてサンプリングし、ガスクロマトグラフで分析した。窒素 付加の前、すべての土壌要因は2つの処理区間での差がなかったが、.窒素付加の直後にア ンモニア態窒素と硝酸態窒素の濃度が窒素付加区で増加した。無機態窒素の増加とともに、
窒 素 付加 区 で 土壌へ のCH4吸収量の 減少と 土壌から のN20発生量の 増加が観 測され た。
CH4吸収量 はアンモ ニア態窒 素の濃 度と負の 相関関係が見られたが、一方、N20発生量と 硝酸態窒素の濃度の問には正の相関関係が確認された。
近頃、世界中で山火事が頻発し、気温上昇や小雨などの環境変化に伴い、その規模も大 きくなっている。山火事は土壌の理化性・生物的特性に影響を与えるが、それは主に火事 の強度に依存する。森林生態系内の養分元素の量と組成は火事によって発生する気化など のプロセスの複合的な影響を受けて変化する。山火事後の環境の変化は最終的に土壌から のGHGの 発 生に 影響 を与え る。そこ で山火 事が森林 土壌へ のGHGの 動態に与 える影 響を 調 べ る た め に 、2007年7月 中旬 に 北 海道 大 学 天塩 研 究 林 で火 入 れ 実験 を 実 施し た 。 シラカンパの優占する天塩研究林の無名沢試験地内に、合計4林分の試験地を設定した。
各 試 験 地 に は 対 照 区 (CON)、 炭 が あ る プ ロ ッ ト(BURN)、 炭 を 除 去 し た プ ロ ッ ト (BURN‑CHA)を 各1っ ず っ 設 置 し た 。 こ れ ら は 各20m四 方を 対 象 にし て 周 辺効 果 を 除 くた め調査 対象地は5m四方と した。土 壌からのC02、CH4及びN20. 発生量を火入れ処理 前の2007年7月上旬か ら測定 し2008年11月ま で閉鎖 系チェン パー法 を用いて、生育期間 中、毎月測定した。また、山火事の前後の土壌変化を比較するために各試験地においてラ ンダ ムに選 んだ3か所で土 壌をサ ンプリン グして 炭素・窒素量などを測定した。C02濃度 は赤 外線C02分析器 (富士電 子シス テック、 東京) にて測定 し、CH4とN20濃度はガスク ロマトグラフで分析した。
土壌 からのC02発生 量は地温と同調した明瞭な季節変化を示し、初夏の樹木成長の開始 初期 から増 加して8月にピークに達し、秋に減少する傾向をみせた。全試験地において、
平 均C02発 生 量 はCONに 比 べ てBURNとBURN‑CHAで は 少 な か っ た 。 調 査 期 間 中 に CH4は 全 試 験地 に お いて 土 壌 に 吸収 さ れ てお り 、 その 平 均 吸収 量 はCONに 比べてBURN とBURN−CHAで やや高 い傾向が 見られ た。全試 験地にお いてN20は炭除 去処理 の直後、
BURN‑CHAで の 発 生 量 が 増 加 し た 。 処 理 区 間 の 場 合 、BURN‑CHAで のN20発 生 量は8月 にピ ークに 達したが 、炭の存 在するBURNではピ ークが無 かった。 なお、 土壌からのN20 フ ラ ッ ク ス と 土 壌 温 度 や 硝 酸 態 窒 素 の 問 に 有 意 的 な 相 関 関 係 が 観 察 さ れ た 。 以上 、C02は土壌の 温度と 水分量に 影響され 、CH4は大気の 高C02環境が進行すると森 林土 壌は吸 収源とし て期待が出来なくなること、山火事後の炭の存在は、Nz0をはじめ各 種GHGの動態に影響を及ぽすことを解明した。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 小池孝良 副査 教授 波多野隆介 副査 教授 平野高司 副査 准教授 澁谷正人
副査 助教 高木健太郎(北方生物圏フイールド 科学センター)
学 位論文題名
Soil ― atmosphere exchange of greenhouse gases in forest ecosystems under var10uSenVlronmentalChangeS (環境変動に伴う森林土壌からの温室効果ガス放出の解明)
本論文は5章からなり、図21、表14、引用文献数223編を含む総ぺージ数132の英文論文で あり、別に6編の参考論文が添えられている。
森 林 土 壌 は ニ 酸 化 炭 素(C02)と 亜 酸 化 窒 素(N20)の 発 生 源 、 メ タン(CH4)の 吸収 源 と され る。 これ ら温 室効 果ガ ス(GHG)の動態解明 は、地球環境変化を低減するための森 林管理技術開発に必要である 。土壌からのC02放出は土壌 中の動物、植物、微生物代謝の 最終産物であり、それらの活 性によって異なる。CH4は土 壌中の好気性のメタン酸化バク テ リア によ るCH4酸化 により土壌へ吸収され、森林土壌で活発である。N20は土壌中の窒 素酸化と脱窒化で発生する中 間生産物であり、これらがN20の総発生量の約2/3を占める。
森林に対する各種の環境変 化や撹乱は光合成産物の転流や水分生理などに影響し、GHG の動態に影響を与える。GHGフラックスは土壌の理化学性 や土壌微生物の活動によって複 合的影響を受ける。従って、 各種環境変化による森林生態系内のGHGの発生プロセスと動 態を理解し、これらの制御を 目指す。
高濃 度C02環境が森 林土壌におけるCH4吸収に与 える影響を調べるために、開放系大気 C02増 加(FACE)施 設 に て 調 査 を 行 っ た。 北海 道大 学札 幌研 究林 の 各3つのFACE区( 高 C02: 大 気+130 ppmv)と 対 照 区 ( 大 気C02:設 定時380 ppmv)、 各 処理 区に2種 類の 土 壌タイプ(褐色森林土・火山 灰土壌)を設けた。CH4フラ ックスは各処理区で生育期間に 閉鎖系チェンバー法を用いて サンプリングし、ガスクロマトグラフで分析した。土壌への CH4吸 収量 は対 照区 に比 べてFACE区 で約半分に減 少したが、土壌タイプ間に有意差はな か った 。対 照区 ではCH4は全 測 定地 点で 土壌 に吸 収さ れて いた が、FACE区で はCH4発生
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が観 察さ れた 。土 壌水 分はFACE区で 有意 に高 く、 土 壌水分とCH4吸収量の問に負の相関 があった。
最近、東北アジア地域で窒素沈着の越境汚染が顕在 化してきた。そこでグイマツ雑種F1 の若 齢植 林地 に対 照区 と窒 素付 加区 を4個 所ず つ設 定し 、C02とN20の動態を調査した。
札幌実験苗畑では対照区には窒素付加を行わず、窒素 付加区では50 kgNha・1yrlを硝酸ア ンモ ニウ ム溶 液で 処理 し、 各成 長期 間に4回に 分け て窒 素を 付加 した 。土 壌か ら のGHG は各 プロ ット の計4ケ 所 で無 降雪 期に10回 ずつ 測定 した 。また、サンプリング場所近傍 にて土壌を得て分析した。 窒素付加の前、土壌要因は2つの処理区間での差はなく、窒素 付加後にアンモニア態窒素と硝酸態窒素の濃度が増加 した。無機態窒素の増加とともに、
窒素 付加 区で 土壌 へのCH4吸 収量 の減 少と 土壌 から のN20発生量増加が観測された 。CH4 吸収量はアンモニア態窒素 の濃度と負の相関があったが、一方、N20発生量と硝酸態窒素 の濃度の問には正の相関があった。
近頃、世界中で山火事カ§頻発し気温上昇や小雨などに伴い、その規模も大きくなってい る。 そこ で山 火事 が森 林土 壌で のGHG動態 に与 える 影響 を調 べる ため に、2007年7月中 旬に北海道大学天塩研究林 で火入れ実験を実施した。シラカンバ優占林に合計4林分の試 験 地 を 設 定 し た 。 各 試 験 地 に は 対 照 区(CON)、 炭 有 ル プ ロ ッ ト(BURN)、 炭 除 去プ ロ ッ ト(BURN‑CHA)を 各1っ ず つ 設 置 し た 。 土 壌 か ら のC02、CH4及 びN20発 生 量 を 火 入 れ処 理前 の2007年7月 上 旬か ら測 定し 、翌 年11月ま で閉 鎖系チェンバー法を用いて、生 育期間は毎月調査した。ま た、各試験地の3か所で土壌 をサンプリングして炭素・窒素量 等を 測定 した 。C02濃 度 は赤 外線C02分析 器( 富士 電 子システック)にて測定し、CH4と N20濃度はガスクロマトグ ラフで分析した。
土 壌か らのC02発生 量 は地 温と同調した季節変化を示し、初夏から増加して8月にピー ク に 達 し 秋 に 減 少 し た 。 全 試 験 地 の 平 均C02発 生 量 はCONに 比 べBURNとBURN‑CHA では少なかった。調査期間 中にCH4は全試験地において 土壌に吸収されており、その平均 吸 収 量 はCONに 比 べBURNとBURN−CHAで や や 高 い 傾 向 で あ っ た 。 全 試 験 地 に お い て N20は 炭 除 去 処 理 の 直 後、BURN‑CHAでの 発生 量 が増 加し た。 処理 区間 の場 合、BURNー CHAで のN20発 生 量 は8月に ピー クに 達し たが 、 炭の 有るBURNでは ピー クが 無か った 。 なお 、土 壌か らのN20フ ラッ クス と土 壌温 度や 硝酸 態窒 素の間に有意な相関があった。
以 上、C02は土 壌の 温 度と 水分 量に 影響 され 、CH4は大気の高C02環境が進行すると森 林土壌は吸収源として期待が出来なくなること、 山火事後の炭の存在は、N20をはじめ各 種GHGの 動 態 に 影 響 を 及ぼ すこ とを 解明 した 。 よっ て審 査委 員ー 同は 、金 容爽 が博 士
(農学)の学位を受けるに充分な資格を有するものと 認めた。
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