博 士 ( 医 学 ) 荘 拓 也
学 位 論 文 題 名
毛細血管拡張性運動失調関連遺伝子ATDC による 細胞増殖・アポトーシスの解析
学位論文内容の要旨
【背景と目的】毛細血管拡張性運動失調症(AT: Ataxia telangiectagia)は協調運動不能、毛 細 血管拡 張、感染 症など を引き起 こす遺伝性の免疫不全疾患であり、ATM(AT mutated)が そ の原因 遺伝子である。ATは常染色体劣性遺伝性疾患で臨床的には進行性の小脳運動失調 を起こすのみでなく、毛細血管拡張、精神遅滞、免疫不全、早老症状、発癌率の増加など幅 広 い症状 を呈する。実際、AT患者由来の細胞は放射線高感受性や染色体不安定性を示すこ と が知ら れている 。さら に、AT患者 由来の 細胞を使 用した 細胞遺伝学的実験により、AT の 異 常 に よる 表 現 型を 相 補 する遺伝 子とし てATDC遺伝子 が同定 されてい る。ATDC遺 伝 子 は 染 色 体llq23に 存 在し 、588アミ ノ酸を コードし ている 。ATDCタンパ ク質は 複数の B‑ボックスドメインとコイルドコイルドメインを有し、tripartite motif (TRINDタンパク質 の ひとっ としても 報告さ れている 。TR,IMタンパク質群の多くは、RINGドメインを有して お り、ユ ビキチン リガー ゼE3活性を 示すこ とが推測 される が、ATDCの構造的特徴として はRINGド メ イ ンを 欠 損 して いる 。した がって、ATDCは酵素 機能欠損 型とし て生理的 な ド ミナン トネガテ ィブ的 な機能し ている 可能性が ある。今 回ATDCの結合タンパク質を網 羅 的 に 同 定し 、ATDC分 子の 機能 を解析 した。酵 母ツーハ イブリ ッ卜法に てATDC結合 タ ンパク質としてヒストンアセチル化酵素であるTat‑interactive protein‑60 kDa (Tip60)を 同 定した 。Tip60はhistone acetyltransferase (HAT)活性をもち、転写、細胞周期チ壬ツ クポイン卜の制御、アポ卜ーシス、DNA修復制御などさまざまな細胞機能に関与している。
特 にTip60はp53のDNA結 合ド メ イ ン内 の120番 目 リ ジン (K120) をア セ チ ル化 す るこ と が 分 か って お り 、こ の 翻 訳後 修 飾 によ っ てp63の 標的 遺 伝 子 であ るBAXやPUMAが活 性化されアポトーシスが誘導されることが、最近明らかにされている。今回、これらの結果 を 踏ま え、ATDCがTip60の機 能にどの ような 影響を与 えてい るかを生 化学的 及び細胞 生 物学的手法により解析した。
【 材料と 方法】酵 母ツー ハイブリ ッ卜法 を用いてATDCと結合 するタンパク質を網羅的に 検 索した 。同定さ れたタ ンパク質 であるTip60とATDCとの哺乳類細胞内での結合、局在、
安 定性に っいて検 討した 。ATDCによるTip60のp63.K120アセチル化の影響を検討した。
さらに、アポ卜ーシスヘの影響を調べるためにEACSにてBub.G1の分布を解析した。また、
レ 卜ロウ イルスベ クター を用いてATDC過剰発 現細胞を 作製し 、ATDCによる細胞増殖能、
フオーカス形成能及ぴコロニー形成能べの影響を検討した。
【 結果 】酵母ツ ーハイ ブリッ卜 法を用い てATDCの新 規結合 タンパク 質としてTip60を 同 定 した。ATDCとTip60の結合はinvivoで確認 できた。Tip60は 通常核に発現しているが、
ATDCによ りTip60の局 在 が 核か ら 細 胞質 へ 変 化す る こ とが 判明した 。さら に、ATDCを 過 剰発現 させるこ とによ り内在性Tip60の分解が促進されることが分かった。その分解は プロテアソーム阻害剤によって抑制されることから、Tip60の分解がプロテアソーム依存性 に 行 わ れ てい る こ とを 示 唆 する 結 果 であ っ た 。m60はp58の120番目 のりジ ンをアセ チ ル 化する ことが知 られて おり、. このK120のアセチル化はp53依存性アボトーシスに重要 な 役割 を果たし 、PUMAやBAXを誘導 するこ とが報告 されて いる。Tip60依存 性p63.K120
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ア セ チ ル 化 に お け るATDCの 関 与 を 調 べ る た め にFLAG‑ATDC恒 常 発 現HCT116細 胞 を 作 製 し 、UVを照 射 し た。 す る とMock HCT116細 胞と 比 較 してDNAダ メ ー ジ後 の 内 在性 p53の誘導 には明 らかな影 響はな かったが 、p53‑K120のアセチル化は明らかに減少してい た 。 そ こ でMock HCT116細 胞 およ びFI丿AG‑ATDC恒常 発 現HCT116細 胞 にUVを 照射 し 、 FACSに てsub‑Gl分 画 を 解析 し た 。 この 結果よ り、UV照 射24時間後 にはそ れぞれsub‑Gl は50.8%と25.9% となって おり、ATDCはアポト ーシス を抑制し ている ことが判明した。
細 胞増殖能 に関す る検討で は、ATDCは 細胞増殖 能に対 して促進 的に働 いた。さらに腫瘍 増殖に関する影響を検討するために、癌遺伝子である活 陸型c‑Srcを共発現させた細胞を用 い てフオー カス形 成アッセ イおよ ぴコロニ ー形成ア ッセイ を行った 。その結果、ATDCは 活性型c‑Srcの足場非依存性増殖能に対して促進的に作用した。
【 考察】胃 癌にお けるATDCの発 現は、 組織学的 グレー ド、腫瘍 の大き さ、腫瘍の浸潤、
リンパ節転移に相関しており、高発現の症例ほど悪性度が高く、浸潤傾向が強く、リンパ節 転 移も多い とされ ている。 しかし 、最近ま で発癌に おけるATDCの機能 的役割は証明され ていなかった。最近の報告としてATDCは膵癌においてp`catelmi依存 ばシグナル伝達の重 要 な 調 節因 子で あるこ とが証明 された。ATDCはWntip‑cateninシグナ ル伝達 経路にお け るGSK‑3pの抑制 制御分子 であるDvl‑2を介 してp‑cateninを安定 化する ことで発癌におけ る 機能的役 割を示 していることが報告されている。觚丶DCの新規結合タンパク質として同 定した′l'ip60は癌抑制遺伝子としての機能をもつことが知られており、今回の結果からは ATDCが Cip60と結合し 、共局 在し、分 解するこ とでTip60の癌抑 制的な機能を阻害して い る こ とが 考 え られ た 。ATDCはRINGドメイ ンを欠い ており 、ユビキ チンリ ガーゼと し て の 活 性を も た ない 。 し たが っ て 、ATDCは他のTRIMタンパ ク質群や ユビキ チンリガ ー ゼ とダイマ ーを形 成して′rip60の分解に関与している可能性があると思われる。Tip60は p53のDNA結 合 ド メイ ン の120番 目の り ジ ンを ア セ チ ル化 す る 。こ の120番 目 のり ジ ン の アセチル 化はp53依存性 アポ卜 ーシスに 重要なタンパク質修飾であることが知られてい る 。 今 回の 結果 で、ATDCは ′rip60に よるp53‑K120の アセチ ル化を抑 制して おり、UVに よ って誘導 される アポトー シスを 抑制する ことが判 明した 。さらにATDCを過剰発現させ ることによって、細胞増殖能、フオーカス形成能及びコロニー形成能を有意に亢進させるこ と が判明し た。今 回、ATDC単独 発現細 胞におい ても陰 性対象と 比較し てコロニーの形成 能亢進を認めている。活性型c‑Srcと共発現させることでさらに形成能が亢進していたこと よ り 、ATDCは活 性 型c‑Srcに よ るMAPキ ナーゼ経 路の活 性化の増 強させる 、もし くはヒ ストンのアセチル化などの別経路により腫瘍形成能を亢進させていることが示唆された。生 化 学 的 には 、ATDCはTip60に よ るp53‑K120の アセ チ ル 化を 抑 制 する ことで 癌遺伝子 的 に機能する可能性が考えられた。
【 結 論 】ATDCの 新 規結 合 タ ンパ ク 質 とし てTip60を 同定 し た 。ATDCとTip60は 細胞 質 で 共 局 在し 、ATDCの 過剰発 現ではTip60のプ ロテアソ ーム依 存性の分 解が促 進された 。 ATDCはTip60に よ るp53の120番 リ ジ ン の ア セ チル 化 を 抑制 し 、UVに よ って 誘 導 され るp53依存 性アポ 卜ーシス を抑制 した。細 胞増殖アッセイ、フオーカス形成能アッセイ及 ぴ コ ロ ニー 形 成 能ア ッ セ イに お い てもATDCは癌 遺伝子的 に機能 すること が判明 した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
毛 細血 管拡 張性 運動 失調 関連 遺伝 子 ATDC による 細 胞 増 殖 ・ ア ポ ト ー シ ス の 解 析
毛細血管拡張性運動失調症(AT: Ataxia telangiectagia)は協調運動不能、毛細血管拡張、
感染症 などを引 き起こ す遺伝性 の免疫不全疾患であり、ATM(AT mutated)がその原因遺伝 子であ る。AT患者 由来の 細胞を使 用した 細胞遺伝 学的実験により、ATの異常による表現 型を相 補する遺 伝子と して毛細 血管関連 運動失 調関連遺 伝子ATDCが同定されている。本 研究 に よ り 、ATDCはTip60に よるp53の120番 目 の りジ ンのアセ チル化 を抑制す ること でUVに よ って 誘 導 され るア ポトーシ スを抑 制するこ と、ま たATDCの発現 は細胞 増殖能 およ ぴ 腫 瘍 成形 能 を 亢進 させるこ とによ り癌遺伝 子とし て機能す ることが 判明し た。
まず、 酵母ツー ハイブ リット法 を用い てATDCの新規 結合タ ンパク質 としてTip60を同 定した 。ATDCとTip60の結合 はin vivoで確認できた。Tip60は通常核に発現しているが、
ATDCに よりTip60の 局在 が 核 から 細 胞 質へ 変 化 する こと が判明し た。さ らに、ATDCを 過剰発 現させる ことに より内在 性Tip60の分解が促進されることがわかった。その分解は プロテアソーム阻害剤によって抑制されることから、Tip60の分解がプロテアソーム依存性 に行わ れている ことを 示唆する 結果であ った。Tip60はp53の120番目の りジン をアセチ ル化す ることが 知られ ており、 このK120の アセチル 化はp53依存性 アポトー シスに 重要 な役 割 を 果 たし 、PUMAやBAXを誘導 すること が報告さ れてい る。Tip60依存性p53‑K120 ア セ チ ル 化 に お け るATDCの 関 与 を 調 べ る た め にFLAG‑ATDC恒 常 発 現HCT116細 胞 を 作製 し 、UVを 照 射 した 。 す るとMock HCT116細 胞 と 比 較し てDNAダ メ ージ 後 の内 在性 p53の 誘導には 明らか な影響は なかったが、p53‑K120のアセチル化は明らかに減少してい た 。 そ こ でMock HCT116細 胞 お よ ぴFLAG‑ATDC恒 常 発 現HCT116細 胞 にUVを 照 射 し、
FACSに てsub‑Gl分 画を 解析 した。 この結果 より、UV照射24時間 後には それぞれsub‑Gl は50.8%と25.9% となっ ており、ATDCはアボトーシスを抑制していることが判明した。
細胞増 殖能に関 する検 討では、ATDCは細胞 増殖能に 対して促進的に働いた。さらに腫瘍 増殖に関する影響を検討するために、癌遺伝子である活性型c‑Srcを共発現させた細胞を用 いてフ オーカス 形成ア ッセイ茄 よびコロ ニー形 成アッセ イを行った。その結果、ATDCは 活性型c‑Srcの足場非依存性増殖能に対して促進的に作用した。
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博
次
寛
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香
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副
副査の今村雅寛教授から今回のコロニー形成アッセイで腫瘍形成能をみているが、これは 癌化した細 胞をみていることになっているのかとの質問があった。また、UVを照射したと き にTip 60はDNAタメ ージ によ るDNA修復 のた めの 時間 稼ぎ をし てい るということであ っ たが 、抗 癌剤 においての実験は行っているかとの質問があ った。さらに、ATDCの発現 は 唾液 腺細 胞で あるACC3細胞で高発現しているとの報告であ ったが、その他の細胞で発 現 をみ てい るか との質問があった。次いで副査の畠山鎮次教 授から、今回はUVや抗癌剤 に よ るDNAダ メ ー ジ が 起 き た 時 のTip60やp53の変 化を みた 実験 であ るが 、DSAが起 こ っ たと きにATDCがどのようなことに関与するかについての質 問があった。また、今回は ノックダウンでは形態的な変化しか得られていないが、ノックダウンすることでさらにどの よう実験をして、どのような実験結果が得られることが考えられるかという質問があった。
さらに、今回の実験では腫瘍細胞株でしか解析していないが、人体にできた癌での考察に関 しての質問 があった。次いで主査の浅香正博教授からノックダウンは例えば80%発現を低 下させても 残りの20%で機能していることもよく見うけられるが、今回のノックダウンの 実 験で は何 %抑 制されていたかという質問があった。また、ATDCのノックアウトマウス はすでに作製されているかとの質問があった。さらに、肝癌との関連および今後の臨床応用 は期待されるかとの質問があった。いずれの質問に対しても、申請者は実験で得られた結果 や過去の論 文等を引用し、おおむね適切に回答した。
この 論文 は、ATDCはp53依存 性ア ポト ーシスを抑制すると ともに、細胞増殖能および 腫瘍形成能を亢進し癌遺伝子として働くことを示している。今後はこの研究をもとに臨床的 な応用が期 待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併 せ 申請 者が 博士 (医 学 )の 学位 を取 得す るの に十 分な 資格 を有 する ものと判定した。
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